チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[30293] 【習作】僕は友達が欲しい(僕は友達が少ない 逆行系オリ主)
Name: Dの壁◆77e0910d ID:59998bda
Date: 2011/10/27 22:05







  ▽0




 聖クロニカ学園高等部卒業。
 友との別れを惜しむものたち、友の新たな門出を祝うものたちが卒業式後も賑わいがなかなかなくならない桜舞う春の日の光景を背にして俺は一人歩き出す。


 その後の俺の人生はずっと灰色のままだった。

 友もなく、勉強もスポーツも何をやっても上手くいかなかった。

 卒業後、就職したは良いものの安い給料で毎日遅くまでサービス残業をこなす人生。

 親しい友人はできず、出会いもなければ恋人もできず、結婚もできず一人寂しく年老いて人知れず生涯を終える――

 



 そんなフレーズを思い出す。
 リア充であるということを自覚しないままに学園生活を謳歌していた仇敵たちの部屋を覗き見たときにあいつらがやっていたゲームのバッドエンディングと同じだ。
 仇敵、と呼ぶべきではないな。
 あいつらと争ったことはないし、関わったこともほとんどない。
 奴らの名は『隣人部』。


 『と』にかく臨機応変に隣人
  と『も』善き関係を築くべく
  から『だ』と心を健全に鍛え
  たびだ『ち』のその日まで、
  共に想い『募』らせ励まし合い
  皆の信望を『集』める人間になろう!


 その活動理念は『キリスト教の精神に則り、同じ学校に通う仲間の善き隣人となり友誼を深めるべく、誠心誠意、臨機応変に切磋琢磨する』というミッションスクールである聖クロニカ学園内にある部活として合っているのかいないのか微妙な感じのものだ。
 俺が奴らと関わったのはニ度。

 一度目は2年時にへたくそな絵と共に隣人部の部員募集の張り紙を見た日。
 隣人部の活動場所である『礼拝堂談話室4』へ向かった俺を出迎えたのは、中性的な美貌の持ち主で常に不機嫌そうなオーラを纏ってクラスで浮いていた孤高の少女だった。
 彼女の名は――三日月 夜空。
 中高とたまたま同じ学校に通っていることもあり、俺は奴のことを知っていたが奴は俺が同じクラスであるということすら気付いていなかった。
 隣人部の扉を叩いた俺を出迎えた奴は一言「レイプ魔は去れ。通報するぞ」というわけの分からんことをいって扉を閉めやがった。
 身に覚えのない暴言に呆然としたものの、入部希望であることを必死に訴えたが閉ざされた扉が開くことはなかった。
 その数分後、談話室4の扉を叩き続けていた俺をハンパな不良が頭髪を染めそこなったようなプリン色の男が現れ、室内から三日月のあからさまな泣き真似の声を耳にしたことでプリン男は俺を睨みつけて立ち去るように言った。
 外見上は完璧な不良である彼は、同じクラスに転校してきていた羽瀬川 小鷹。
 三日月と同じく、俺が同じクラスであるということに気付いていなかった。
 羽瀬川がどういう人物かをまだ知らなかった俺は、その外見的威圧感に恐れをなしてその場を後にした。
 翌日登校した俺の机の上には、「パンツ番長参上!」という文句の紙が張られていた。
 そこに書かれた内容は、俺が男女問わずパンツを脱がして奪い去るという感じの不名誉な武勇伝が書かれていた。
 文章はワープロで作成されており、筆跡から犯人を突き止めることはできなかったが誰がやったかなどすぐにわかった。
 不幸だったのは、それが100%冤罪ではないということとその起因となる出来事を記憶しているクラスメイトが居たということ。
 その日から俺の隣席となる女子生徒は俺の席から20cm距離を取るようになり、隣人部での出来事を目撃していた者たちから俺が三日月に狼藉を働こうとした、不良の羽瀬川と喧嘩していたという噂が流れるようになった。
 
 友達は居なくとも空気のようにクラスメイトたちの中に溶け込んでいた俺は、ただのクラスメイトから変質者へとジョブチェンジすることになった。
 それでもめげずに誤解を解いて仲間に入れてもらおうと隣人部の扉を叩いた俺を出迎えたのは、聖クロニカ学園の中で知らない者のいない金髪碧眼で巨乳の容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能という架空のキャラクターのような完璧超人として知られるこの学園理事長の娘だった。
 彼女の名は――柏崎 星奈。
 常識を超越した極度のナルシシストであり、絵に描いたような高飛車な女王様気質でクラスの男子からは神の如き崇拝をされているが、その反動で同性からは避けられている。
 始めは柏崎が隣人部にいることに驚いたが、 扉を開いて挨拶と入部希望の旨を伝えようとしたところで部長である三日月が現れ、絶対零度の眼光で俺を睨みつけ、罵詈雑言を並べた挙句、俺を無視して柏崎と喧嘩を始めたかと思うと口負けした柏崎が扉口に立っていた俺を突き飛ばして泣きながら談話室から走り去った。
 不幸なことに泣きながら走り去る柏崎とそれを見送る俺の姿を目撃した羽瀬川とその他数名の通行人たちが疑わしげに俺を見ていた。
 大勢の視線にさらされるのになれて居ない俺は恐れをなして誤解も解かないままに走り去った。
 背後から羽瀬川がドスの聞いた声で呼び止めてきたが俺は立ち止まることなく逃げた。
 翌日登校すると三日月に続き、柏崎にまでいかがわしい行為をして泣かせただの不良の羽瀬川と敵対関係になっただのという噂が広まっていた。
 その日から女子生徒は口を聞いてくれないどころか、視線さえ合わせようとせず、男子生徒からはハブられるようになった。
 

 それまで空気のように生きてきた俺の学校生活は終わりを告げた。
 それでも諦めずに何度か隣人部の扉を叩こうとしたが、三日月を筆頭に羽瀬川や柏崎、後から隣人部に入部した一年生の楠 幸村という性別不詳のメイドとその筋では超が付く天才少女の志熊 理科、形式上隣人部の顧問である銀髪幼女シスターの高山マリア、中等部で羽瀬川の妹である金髪邪気眼の羽瀬川 小鳩という各学年でもトップクラスの美少女たちが集まり、唯一の男子部員が学園でも名の知れた不良である羽瀬川というある意味敷居の高い部となってしまっていたため、外から様子を窺うということしかできなかった。
 その後も隣人部に関わり過ぎない程度に奴らの活動内容を観察していたが、プールや海、お祭や合宿などという友達がいないと楽しめないような活動を行っていた。
 傍目に見ればとんでもないリア充としか言いようのない学園生活を送る隣人部。
 羨ましげに、恨めしげに隣人部の活動を遠くから盗み見る俺は、どこまでも虚しい自分の姿に気付いたときにはもう遅かった。
 それからの俺は、誰とも友達になれず、学校での口数も減っていき、始業時間ギリギリに登校し、放課後になれば誰とも言葉を交わさずに帰宅するという日々が続くことになる。




 その後の俺の人生はずっと灰色のままだった。

 友もなく、勉強もスポーツも何をやっても上手くいかなかった。

 卒業後、就職したは良いものの安い給料で毎日遅くまでサービス残業をこなす人生。

 親しい友人はできず、出会いもなければ恋人もできず、結婚もできず一人寂しく年老いて人知れず生涯を終えた――

 



 
 何の実りもない人生。
 友達が少ない――と、友達が居ないとの差は天地ほども違いがある。
 たった1人の友達が、100人の知り合いに勝ることだってあるはずだ。
 1人でいい。たった1人でいいから100人分大切にできる友達が欲しかった。


「もしも人生をやり直せるなら――」


 そんな独白を呟きつつ、俺の人生は終わった。











  ▼1




 自分の意識が消えたのを自覚したような気がした瞬間、俺は聖クロニカ学園の入学式に出席していた。

「……ありえない」

 壇上に立つ生徒会長の日高日向の挨拶や新入生代表の挨拶も覚えがあった。
 自分が座っている席は新入生の列だ。

「ありえない……なんてことは、ありえない……だったか?」

 突然の奇跡に呆然となる俺は、恙無く進行する入学式の中、自分が犯した失敗が走馬灯のようにはっきりと思い出せた。
 忘れたくても忘れられない絶望の学園生活。
 それを今、俺はやり直すチャンスを得ている。

「は、はは……笑えねぇ」

 おとなしい校風に相応しい静かな入学式で俺の自嘲の声は思った以上に響いていた。



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.00377297401428