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[30152] 【習作】【東方project】幻想郷の世界へ【2次創作】
Name: カルマ◆26b23d32 ID:192c5086
Date: 2011/10/24 20:17
設定
・この小説は東方projectの2次創作です。
・ある程度2次創作の設定を含んでます。
・どこかに独自の話を入れたいと思います。
・幻想郷に迷い込こまされた主人公はチート級の能力をもつ。
・幻想郷の住人の性格が変わっている可能性あり。
・オリジナルキャラあり。

注意
・すみません不定期です



追伸
「こうしたほうがいい!」や「ここ分かりにくいんだけど!」など、さまざまな感想と意見を絶賛募集中です!



[30152] プロローグ
Name: カルマ◆26b23d32 ID:192c5086
Date: 2011/10/22 20:39
幻想郷。
この世界は不条理・不安定な状態にあり、「幻想郷」にいる巫女によって「博麗大結界」という名のもとに成り立っている。元々この世界は外界と繋がっていたが、500年前のある出来事により、妖怪の賢者であり大妖怪の八雲紫は「幻と実体の境界」を張った。存在していたはずの「幻想郷」は、長い年月を置いたことにより人々の記憶から消え去った。
現在の「幻想郷」は外界から近しい所にあり、閉鎖空間に存在している。人間と妖怪が共存しているが、人間は妖怪に食され、妖怪は人間に退治される。または幻想郷の″異変″解決など、それらによってこの世界の歪みと均衡は保たれている。
だが、これまでにないほどの″異変″が「幻想郷」を襲っていた。



[30152] 第一話 幻想郷の世界へ
Name: カルマ◆26b23d32 ID:2fa115c9
Date: 2011/10/24 17:31
鳥の囀りと朝日で脳が少しずつ覚醒に近づいてくる。今日もまた変わらない日々がやってきた。起きるのが億劫であるが、学校があるため起きるしかない。なかなか動こうとしない体に鞭打ちする。

「――眩しっ、…朝か」

昨日夜遅くまでレポートを書いていたせいか、寝起きは最悪。だが、提出する物が完成したから少しばかりは気持ちが晴れるはずだ。一人生活をしているが、早く起きる癖のせいで6時前には必ず目が覚めてしまう。そう、今日も変わらず6時前の起床というわけだが…。

「ぐぅぅ…、学際の実行委員になんかならなければよかったなぁ」

背伸びしながら、実行委員になった自分を恨む。
明日学際があるため、実行委員になっている者は朝早くに集合を掛けられている。自分もその一人であるが、気がかりなことが一つだけある。自分が通っている学校が最近になって、「時空の歪み」というのか?兎に角そのような事が起きている。自分自身何度も見ている、感じることもあるので、今後何かが起こるのではないかと心配している。

「何かあれば、臨機応変に…な」

朝ご飯を食べ、風呂に入る。集合まで時間があるが、何もすることがないので学校に行く用意をする。
アパートの鍵を閉める。が、自分は2階に住んでいるので、音を立てないように階段を下りる。朝が早いという理由もあるが…。そのままの足取りで学校に向かった。

朝から鳥が元気に飛び回る。梅雨明けの空はとても清々しいほど晴れている。どうやら今日は平和な日を送れそうだ。
学校に到着し、集合場所に向かう自分に向けて元気な声をかけてくる女性がいた。

「なんだ?今日は早いな!」
「先生はいつも早いですね…」

彼女の名前は「斎藤 岬」。自分の担任であり、今時珍しい体育系教師だ。凛とした顔立ち、髪型はポニーテールで、いつもと変わらない青のジャージ姿で集合場所に立っていた。男子生徒はもちろん、女子生徒にも人気があり、元気で明るく何時もニコニコしている。時々忘れっぽいときもあるが、皆の憧れ先生だ。

「この年になると目が覚める時間が急激に早くなってねぇ。もっと寝ていたいんだが5時に目が覚めてしまうんだよ…」
「この年って、まだ――むぐっ!」
「まだ…なんだって?」

自分が何を言うのか分かったせいなのだろう。女性とは思えないほどの力で、先生は素早く自分の背後へと回り口と体を押さえつけた。
先生…目が笑ってないです。あと、とても柔らかいものが背中に…。それと、こんなところ誰かに見られでもしたら――。

「またですか…」
「おはようございまーす!今日も仲がいいね~」
「くぅ~!毎回毎回羨ましいぞお前!!」

どうやら丁度良く集合場所に居合わせた3人がやってきた。慌てて先生の絞めから逃れようとするがビクともしない。そのまま会話をする先生と今の状況を軽くスルーし、先生と会話を始める3人。

「おお、おはよう!やっときたか」
「まだ皆集まっていないようですが、作業始めますか?」
「そうねー、放課後まで残りたくないしパッパとやっちゃいましょ」
「だな。そうすっか!」

先生を見ながら、作業を開始するかどうかを提案した彼女。身なりがしっかりとしていて、肩にかかるくらいの黒髪姿。名前を「里中 稟」という。自分のクラスの委員長を務めている。
居残るのが嫌なのか、作業を始めようとしている彼女。腰まである金髪姿に耳ピアス。傍(はた)から見たら不良学生見えそうだが、実は人の面倒見が良く、優しい心の持ち主だ。名前を「神埼 巴」という。
周りの空気を読んだのかその案に賛同した彼。短髪でサイズの大きいズボンを穿いている。成績優秀で人望があり、名前を「真田 幸久」という。
早めに作業をしていると、続々と他のクラスの実行委員が集まってきた。学校が始まる時間まであと少しという所で岬先生から号令がかかった。

「はーい!後は放課後にしましょう。ホームルームが始まるから皆教室に向かってー!」

返事を返す生徒達。ただ、巴だけ浮かない顔をしていた。だいたい予想はつくが…。

「はぁ、結局放課後に回されるのねぇ」
「仕方がないさ、放課後はさっさと作業を終わらせよう。さっホームルームが始まる。教室に向かおう」
「そうね。行きましょう…ほらボサッとしてないでいくわよ」

がっかりした様子の巴に、軽く慰めを言う幸久。ゆっくりと校舎に向かっていく二人に着いて行きながら自分についてくるよう促す稟。教室に着きホームルームをする。いつもと変わらない平凡な授業を受け、昼休みになった。

「やっと飯の時間だ。飯食おうぜ飯」
「そうね。食べよっか!」
「だな。…稟は食べないのか?」
「ちょっと生徒会に用があるから先に食べてて結構よ」

弁当箱を持参しながら教室を後にする稟。生徒会に実行委員、それにクラス委員長ときたもんだ。いつ倒れるか心配しているが、そのような素振りも見られない。家でしっかり体を休ませているのだろう。

昼休みが終わり午後の授業が始まった。
生徒会の仕事が忙しいせいなのか稟はまだ戻ってきていない。生徒会の仕事が長引くのは珍しい事ではないため、そう深く考えないでいた。
だが、午後の授業が終わっても稟は姿を現さなかった。幸久は巴と自分に心配そうな声で話しかけてきた。

「なぁ、稟の奴ちょっと遅すぎやしないか?」
「そうよね。いつもなら最後の授業が始まる前には教室に戻ってくるものね」

心配なのは自分もそうだ。
稟が教室を出て行くとき、必ず書類やプリントを持って生徒会室へ向かう。だが、稟が持っていったのは弁当だけで、紙類は何一つ持っていってない。
正直言って、放課後までかからないはず…。

「ちょっと心配だな…」
「どうする?俺らで稟の様子を見に行くか?」
「いや、自分が行こう。学際の準備がまだ残っているだろ」
心配している自分を見た幸久は、巴を含めて稟がいる所へ行くかどうか質問してきた。
しかし、学際の準備もある。自分のクラスの実行委員全員が席をはずすとなると、後々厄介になりそうだ。
それに、隣には早く帰りたそうにしている奴もいるからな。ここは自分だけが稟を呼びに行った方が、効率がよさそうだ。
そのことを幸久に伝えると、幸久は納得したそぶりを見せた。すると、巴を連れて学際の準備場に向かっていった。
自分は生徒会室に向かうため、幸久達とは逆の方向へと足を運んだ。

「え~っと、生徒会室は…ここみたいだな」

生徒会室の場所はなぜか校舎1階の隅っこ辺りに位置する。自分たちの教室は3階に面しているため、生徒会室に向かうだけでも軽く体力を使う。ちなみに下駄箱は生徒会室の間逆にある。
ドアを開け中に入るも、誰もいない。あるのは、話し合いの机であろう物と、本棚に入っている少数の小説と資料物だけ。後は静けさといったところだ。ここに稟がいないという事は、すれ違いになった可能性が高いだろう。
そんな思考を張り巡らしているその時、自分が所有している携帯電話が鳴きだした。

「…ん?幸久か…」

電話に出るボタンを押して、幸久との会話を始める。

『おう!どうやらすれ違いになったようだな』
「…てことは、稟がそこにいるのか?」
『ああ、そういうことだ。だから――も早――――にこい―――ぁな――』
「んあ?なんだって?最後の方聞こえっ――!!」

ゾクッ…。
幸久との会話の途中で悪寒が全身へと広がった。
(――なんだ!?)
徐々に体から熱が引いていき、汗が滲み出る…。
(――何が起きた!?)
体はもちろん、指すら動かす事が出来ない。
(――くっ!!)
自分が生きてきた中でこれほどまでの″恐怖″を感じた事があっただろうか。
蛇に見込まれた蛙という言葉はこんな時に使われるのだろうか。
電話の向こうで幸久が何か言っている。だがもう聞き取る事が出来ないほどのノイズが発生していた。

「くっ…あ…」

必死に声を出そうとする。なんとか声を出せるが、言葉にするとなると難しい。

「(――っ!こんな時になぜ…)」

何らかの条件が揃ったのだろうか。自分の周りで時空の歪みが多数発生した。今までの歪みとは違う……不思議と確信を持って言える…。
これは…″完成″された歪みだ。

「フフフ…動けないのかしら」

背後から、すべてを包み込むような透き通った声が聞こえた。女の声だ。
なぜだろう。初めて聞くはずの声に、不思議と懐かしさを感じている自分がいる。すると、先ほどまで恐れをなしてピクリとも動かなかった体が動くようになった。どうやら女が殺気を抑えてくれたおかげのようだ。

「″完成″している区域に一人でいるのは危険よ」
「あ…あなたは…いったい…」

言葉の最後に軽く微笑む女。
口も動くようになった。女への質問をしようとしたが、一言目に出てきたのはそんな言葉だった。こればっかりは誰しも同じ問いをするだろう。
相手の正体を訪ねると同時に、動くようなった体を徐々にその女の方へと向ける。

「…こんにちは、″御巫 柊(みかなぎ しゅう)″…」

少し目を細めながら名前を言う女。
なぜこの人が自分の名前を知っているのか?そんなのは分かるはずがない。

女の姿は人間の少女よりも少し上あたり、金髪のロングで、毛先をいくつかの束にしてリボンが結んである。紫色にフリルが付いたドレスを着て、頭には白のZUN帽。リボンで飾られた白い傘を差してそこに…″空間の切れ目″に座っていた。

「私は、八雲紫」
「八雲……紫…」
「ここ最近…私の住んでいる世界で″異変″が多発していてね。簡単な話、いろんなところで助っ人を探しているの。だけど、なかなか見つからなくてね…」

紫とかいう女は、淡々と話を始めた。
この状況を整理しきれていないため、紫の言っている事を聞きとる事が出来なかった。

「え…あの…」
「――そうしたら、丁度貴方を″探せた″の…」

いきなり何を言いだしているんだ。それに自分を″探せた″?この人は何を…。
戸惑っている相手に対して、容赦なく次々と言葉を繋げていく紫。話の大筋は理解したが、大雑把すぎて完璧な理解を得られなかった。

ガタッ
突然、背後のドアから音がした。引き戸になっているため、鍵がかかっていなければ簡単に開く構造になっている。だが、少し様子がおかしい。

「ん?あれ?鍵、掛かってんぞ」
「誰もいないのかな?でもここから下駄箱って一本道よね?すれ違い…はないと思うんだけど…」
「だとしたら、内側からカギを掛けられたってことになるわね…私、鍵閉めてないもの…」

人の声が聞こえる。恐らく、幸久・巴・稟、この3人の声だろう。電話が繋がらなくなり、あれから戻って来ない自分を心配して様子を見に来たのだろうか。

「おーい、柊いるか?」

自分がいるかどうか確認する幸久。巴と稟も確認するかのように自分の名前を呼ぶ。しかし、自分は…。

「あら?返事を返してあげないのかしら?」

ドアの方向に目を向けていたが、紫が質問してきたため自分は目線を再び紫へ戻す。持っていた扇子を口元にもっていき、微笑みながら自分を見る紫。
ふと、自分は思った。

「(やはりそういうことか…)」

若干の沈黙の後、先ほどまでの紫の目とは違って、すべてを見透かしたような目になる。紫が悟ったような口調で自分に問う。

「へぇ~…状況分析はそこら辺にいる人間よりも格が違うわね」
「あくまで、あくまで推測だ…」

時空はありとあらゆるものに精通することができ、殆どを″可能″にしてくれる。この教室に入った時に現れた″完成″された時空の歪み。
今この教室は、確立された存在から切り離されているのだ。言わば、世界から切り離された存在ということになる。こちら側から声を聞く事が出来ても、幸久達にはこちらの声は一切届かない。
正直わからないことが多すぎて、自分でも何を言っているのか分からない感じだ。

「ふんふん、良い分析ね。だけど…半分だけ正解といったところかしらね」
「半分…?」
「そう、半分」

すると、紫は目を閉じ簡単な説明と紫自身がした事を教えてくれた。
時空とは時間と空間を同時に扱って起こる現象。
時間の場合、進める・遅らせる・飛ばす・戻すなど、他にもさまざまな事ができる。
空間の場合、大きくする・小さくする・数を増やす・湾曲させる、そして切り離すことができる。
応用すれば大抵のことは可能になるらしい。

「…時空については何となくわかりました。では、紫さんのした事とは一体何なのですか?」

紫が話す内容は簡単そうで難しい内容だった。表面的な部分だけは理解した自分は、少し紫に歩み寄り、紫がした事の理由を問う。
少し間を置いてから紫がその問いに答えた。

「さっきも話したけど、私の住んでいる世界が大変なことになっているの。その為に助っ人を探していた、そこであなたを見つけたのよ」
「じゃぁ、自分と接触するために時空を?」
「…私の能力は、あらゆる″境界″を操る程度の能力。時空ではないし、世界に害を及ぼす能力ではないわ」

能力の事は後で聞く事にするとして、紫の話が本当の事となると、今起こっている不可解な現象はどう説明をつけるのか。
――まさか!

「察しが良くて助かるわ。今あなたが考えている事で間違いはないわ」

振り向きながら微笑む紫。つまりはこういうことだ。
紫の住んでいる世界で起きている数多くの″異変″。その膨大すぎる″異変″という名の情報が、こちらの世界に漏れ、″異変″干渉という形で現れていたのだ。

「となると、″異変″を解決すれば、このような事はもう起こらなくなるということですか?」
「そうね。現時点ではそういう考えが妥当な線ね」
「その″異変″を解消するためにそちらの世界では――」
「はーい、質問や疑問を聞くのはこれまでにしましょう」

そちらの世界では――どのような対策をしているのですか?質問をしようとしたが、紫に途中で話を閉ざされていしまった。

「私の住んでいる世界。この世界からは干渉できないよう結界を張り、この世界から切り離した存在の世界。名を″幻想郷″というわ」

少し歩きながら紫が言った″幻想郷″。
…気づけば沈黙が続いている生徒会室内。すると自分は紫に突然名前を呼ばれた、話の内容を整理していた思考はたった今、紫に向けられた。

「これからよろしくお願いね。柊…」

――パチン。

「へっ――!」

紫が満面の笑みで指を鳴らした瞬間、自分の足元にあったはずの床が無くなり、代わりに隙間ができていた。何の抵抗もなく吸い込まれるように隙間に落ちる。

「そっちに行ったらまず博麗神社を訪ねなさい。話はそれからよ」
「へっ…へぇえっ!?…えええぇぇーー!!?」

この後行くところなのだろうか。紫が、穴から落ちていく自分を見ながら場所らしき名前を言う。
徐々にスピードを増して落ちて行く。紫が開いた隙間が距離を開くごとに小さくなっていく。

――その日、自分は幻想郷に落とされた――








おまけ

「…あっ、落とす場所指定するの忘れてたわ…。まぁ…あの子なら大丈夫でしょう。…多分」

紫は、少しやってしまったという後悔からか、苦虫を噛み潰したような表情をしていた…。



[30152] 第二話 ここはどこ・・・?
Name: カルマ◆26b23d32 ID:1c172942
Date: 2011/10/28 22:46



――幻想郷――

多くの異変が起こっている状況が続き、誰もが気を許さない態勢に入る状態にあった――。

今、自分はというと――あれからまだ落ちています。
真っ暗な世界から光ある世界へと早変わりし、それに気付いた自分は、落ちる方向を黙視した。

「――(うわぁ…死ぬかも)」

地上からの距離は約50メートル。人間が落ちたら死んでしまう距離よりも離れた距離、つまりそれ以上の高さから落ちていた。
ちなみに、人間は30メートルの高さから落ちたらまず助からない。しかし、地面がコンクリートや砂利だったらの話だ。
確認する限り、目の前で控えているのは大きな池…いや、湖のといったところだろう。
この高さから垂直落下すれば助かる確率は格段と上がる。最悪、足を折る可能性があるがそんな事は知った事ではない。今は助かることだけを考える。

「紫さん、初めて会ったばかりでしたが…今貴女に怒りを感じている自分がいますよ」

この場にはいない紫に対して静かに怒りを表しておく。
なんてことを言っている間に、徐々に近づいてくる水面。残り30メートルというところで完全に覚悟を決め、胸のあたりで腕をクロスし衝撃に備える

しかし突然――。

「ムギャッ!」

落下途中に何かが足元にヒットした。何かのおかげで、自分の落下速度が少しだけ軽減された。それに関しては感謝だが、状況が変わらない以上、気は抜けない。
反射神経並みのスピードで足元に顔を向ける。

――黒い羽根を背中に生やした少女が、自分の足元でくるくると目を回していた。

――ドバシャ―ン!!
少女が足元に衝突したせいで体勢を崩した。垂直で落ちるつもりが、その垂直から90°も傾いてしまった。
そう、水面と並行という形で落ちてしまったのだ。痛いなんてレベルではない。
水面に激突した衝撃で意識が飛びそうになる。しかし、隣で浮かんでいる少女を助けるまで気絶するわけにはいかない。

「…陸地まで40メートルといったところか」

体の節々から悲鳴が上がる。骨がいくらか持っていかれたようだ。激痛に耐え、少女の腹の辺りに腕を回し陸地まで泳ぐ。
黒い羽根を生やしたこの少女、いったい何者なのだろうか。
頭には兜巾があり、その兜巾から白くもふもふしている物がぶら下がっている。胸ポケットには手帳らしき物が入っており、服は白と紅葉混じりのワイシャツ姿に黒のスカートだ。
肩に届くかどうかの黒髪をしているが、少し疑問がある。

「気のせいかな…耳尖ってない?」

人間であれば耳は丸みを帯びているが、この少女の場合は不自然なことに尖っている。
考えを張り巡らせていると、陸地まであと一息のところまで来ていた。体の軋みは鳴り止まないが、陸地まで辿り着けば休むことができる。

「はぁ、はぁ…、くっ…着いた…痛っ痛い…」

骨を折ったものの、それから何事もなく陸地に到着することができた。この喜びを大声にしたいが、今は声を出すだけで体に激痛が走る。
あっ…やばい、今やってしまったら確実に落ちる…。
横にいる少女を見る。…まぁいいか少女も陸地に上げた事だし、してもいいよね。
自分は勢いよく――。

「ぶわくしょーーい!!」

壮大にくしゃみをしてしまった…。体の至るところから「パキ」「ポキ」「ペキ」と音楽のように奏でる。まるで天使が奏でているようなメロディだった。
風邪でも引いたかな…。そんなアホな事を思いながら、自分は…自らの意識を手放した。


――湖の近くにある紅い洋館の門の前で一人佇んでいた…。
湖の方で水が弾け飛ぶ音がした。しかし、ここを動くわけにもいかない…私はここの門番なのだから。
だが、気になってしょうがない。この洋館を護るという義務を背負っているおかげで、好奇心に抑止力がかかる。
が、しかし――。

「いいや!行っちゃえー!すぐ戻ってくればいい話よね!」

無邪気な笑顔をしながら、重要な仕事である門番を放棄する。そうして一心不乱に湖に向かっていく。

だが、その行動を見逃さなかった一人のメイドが、紅い洋館の窓で門番の取った行動を食い入るように見ていた。

「まぁ、あの子ったら…」

――覚悟できているのかしらぁ…。
鬼のような形相をしたメイドがただそこで軽く「フフフ」笑っていた。周りにいる小さなメイドたちは、そのメイドの姿を見ながら顔を真っ青にし、涙目になりながら一ヶ所に固まって震えていた。


誰かに見られていたなんてことは露知らず、門から離れた門番は湖へたどり着いた。
しかし、湖には何もなかった。良く目を凝らし周辺を確認する。

「はて?何もない…ん?あれは~…」

何かを見つけた門番は、そこにあるものに向かって足を進めた。進むにつれてそれが何なのか明確になる。

「…ひゃっ!水死体!?…いや、違うみたいね」

ビクンと体が跳ねる門番、しかし、考えている事が違うと分かると、徐々に落ち着きを取り戻していった。
泉の近くにあったのは人だった。ずぶ濡れで倒れている人だった。一人は少年で一方は少女。しかし、門番は少女に見覚えがあるようだ。

「あれ?何でこんなとこに″烏天狗″がいるの?…男の子の方は人間みたいだけど」

とりあえず二人を抱えて戻ることにした門番はその場を後にし、この事を知らせに紅い洋館内へと姿を消していった。
建物内に入った直後、目の前には殺気を撒き散らしているメイドが立っていた。一瞬怯んだ門番だったが、目の前にいるメイドに必死に事情を伝えると、なんとか事なきを得た。

「はぁ、そういう事なら仕方がないわね…。持ち場に戻っていいわ…」
「はい!分かりました!持ち場に戻らせて頂きます!」

呆れてため息をするメイド。それに引き換え門番は、元気に建物から出て行き、いつもの持ち場である門の警備に就いた。
一人その場に残されたメイドは、数人の小さなメイドを呼んで、気絶している二人を客人用の寝室へと運ばせた。

「御苦労さま。持ち場に戻っていいわよ。後は私がやっておくから…」

…寝室に運び終えたため、小さなメイドたちに持ち場に戻るよう指示をするメイド。
別々の個室へと運ばせたため、最初にどちらを診た方がいいのかを迷ったが、考えるまでもなく少年の方が最優先だった。
少年の服を脱がせ、状態を確認するメイド。

「骨折が十数か所、肋骨が5本持っていかれているわね。後は広範囲にわたる打撲に…ここまで来ると手に負えないわね。いったい何をしたらここまでの大怪我をするのかしら…」

目の前で横たわっている少年の状態を見て、頭を悩ますメイド。さすがに手に負えないという事が分かったのか、メイドはある所へと向かうため、部屋を後にしていった。


「――参ったな。ここどこだ?」

見覚えのない天井にだだっ広い部屋、そこで自分はベッドの上に横になっている。
実は目を覚ましており、いつ目を開けようか迷っていたのだ。いつ目が覚めたかというと、メイドの怒鳴り声と門番の必死の弁解の声で、すでに意識は覚醒していた。
ベッドに横たわっている時に、メイドが自分の服を脱がしたことには少し驚きを覚えた。それよりも、体を見ただけで怪我の具合が分かるという事の方に驚きを感じた。

「いったい何者なのだろうな……ん?」

自分の体に違和感があった。指先で、折れたと思われる箇所を触れてみる。

「痛みがない…何?自分は死ぬのか」

少し青褪めながら冗談染みたことを口走ってみる。
体がマヒしている可能性を考慮してみたが、その考えはすぐに除外された。体にはしっかりと感覚があり、息をしても声を出しても体に痛みが走る事はなかった。
こんな事を聞いた事がある。人体が破壊的なダメージを受けると、徐々に痛みを失い…死ぬ。
自分は今そんな状態なのだろうか?

カチャリ…
思考回路をフルスロットル状態にしていた時、ドアノブを捻る音が聞こえた。先ほど出て行ったメイドが戻ってきたのだろうか。
会話が聞こえてくる。誰かを連れてきたのだろうか…。

「こちらになります」
「この子が…」

ドアを開けたままにするメイド、その後もう一人が部屋に入ってきた。医者なのかどうかはわからない。ただ分かる事は、少女の声という事だけ。
何分、目を閉じているため状況把握が難しい。
自分の横に二人一緒に近づいてくる。

「で?どういう状態なのかしら?」

メイドに自分の状態について質問する少女。隣にいたメイドはその質問に答え、付け足しで一つ何かを言った。

「…それと、恐らく″外来人″かと」
「貴女もそう思うのね…ここ幻想郷では珍しい事でもないもの。それにしても、今の時期になんて…不憫な子ね」

冷静な口調で話すメイドに対して、溜息交じりに喋る少女。
紫が言っていたことに関連性がありそうな会話をしている二人。ここはやはり幻想郷のようだ。
それに、メイドが言った″外来人″とはそのままの意味として受け取ってよいのだろうか?
メイドではないもう一方の少女は、自分の状態確認のために体に触れてくる。少し冷たい手が触れる。
するとその手から光の粒子が出てきた。
その光は暖かく、とても心地よいものだった。手から出ていた光は、傷などを治すものみたいらしい。

「…………おかしいわね…」
「どうかなさいました?」
「この子、どこも悪いとこないわよ」

治療していた少女は、隣にいるメイドに疑問を投げかける。その言葉にさらに疑問を抱くメイド。二人とも顔を見合わせ、メイドは首を傾けていた。
そんなはずではないと言わんばかりに、自分の体に触れてくるメイド。
触れ終わった後、メイドは「確かに…骨を折っていらしたのですが…」といい、さらに疑問が深まるばかりだった。
自分だってそうだ。大怪我をしていたのに、それがなかった事になるのは腑に落ちない。

「そういえば、″烏天狗″の方はどうなったのかしら?」
「あれからまだ…。ですが、あと少しすれば目が覚めるかと」
「そう…私は戻るわ。いつ目を覚ますか分からないし、咲夜も仕事に戻った方がいいわ。メイド長っていう肩書もある事だし」
「畏まりました。何かございましたらお呼び下さい、パチュリー様」

状態を見ただけで分かる凄腕のメイドの方は″咲夜″で、自分を治そうとしてくれたのが″パチュリー″という名前らしい。
烏天狗の様子を聞いたパチュリーは、元いた場所へと向かっていった。その後ろ姿を見ながら一礼をする咲夜。咲夜もこの部屋を出て持ち場に戻っていった。
パチュリーの言っていた烏天狗とは、自分と衝突した女の子の事を言っているのだろう。後で謝らなければならないな…。

「さぁ、どうしようかな…」

この部屋に入り浸るのもいいのだが、ドアの外に出て探索するのもいいかもしれない。失礼極まりない事を考えながら体を起こす。
だが、好奇心というのはそう簡単に制御できるものではない。抑えきれない衝動はドアノブへと向けられた。

「ここは、いったいどこなんだ?」

ドアノブを捻り、部屋から出る。周りを見るが、見渡す限りの長い廊下と凄い数の部屋が確認できた。
確認ついでに、ここがどこなのか?ここは何階に位置するのか?を調べる。
ここは何処?――不明。何階?――窓から外を見ると、高さは二階に位置していた。
紅い絨毯の廊下を進んでいくと階段を見つけた。上にも行ける階段があったが、ここは下へ進むとしよう。

「紅い色が続くと…さすがに目が痛くなってくるな」

廊下や扉、他にもいろいろな所が紅い。
それにこの廊下の長さは異常、目を細めて先を見てしまうなんて廊下は、まず無い。
周囲を見ながら廊下を徘徊していると、他の扉とは違う黒っぽい扉を発見した。その扉からは、凄まじいほどの禍々しさを感じた。生唾を飲み込み、その扉に触れる。

「命が欲しいのならそこには入らないことね」
「ひゃっ!?」

右隣で突然声が聞こえたため、情けない声を上げ、その場に尻もちをついてしまった。

「…女の子みたいな声を上げるのね」

クスクスと軽く笑われる。恥ずかしい所を見せてしまったものだ。
声をした所へ顔を向けると、そこには10歳以下の容姿をした少女が立っていた。
首よりも少し下に位置する水色みがかかった銀髪。吸い込まれそうなほどの真紅の瞳。背中には蝙蝠みたいな大きい黒い翼が生えている。
頭には、白に濃いピンクを混ぜたようなナイトキャップを被っており、その周囲を赤いリボンで締め飾っていた。
服もナイトキャップと同じく白に濃いピンクで、腰は赤い紐、膝下辺りのスカートでは赤いリボンが締められていた。所々、気にならない程のフリルもあった。
それと、一つ訂正する所がある。
10歳以下の容姿をした少女と言ったが、良く見るとこれはやはり――

「――幼女…」
「なっ!」

口から心の声が漏れた。自分にびっくりした自分は、慌てて謝る。とにかく謝る。必死に謝る。
徐々に色白から赤面へと顔の色を…怒り色へ変える少女。どうやら自分の謝る声は、もはや届いていなかった。

「警告…してあげた…私に対して随分な…事を言ってくれるのね…」
「すみません!その、あのっ…とにかくすみません!」

自分は上下にものすごい勢いで土下座をする。
目が笑っていない状態で自分に途切れとぎれに話しかけてくる少女。
それだけならまだマシだ。
目の前の少女からは息が苦しくなるほどの威圧が襲いかかってきている。一瞬勘違いかと思ったが、違ったようだ。

だが、そのやり取りは長く続く事はなかった。

ドガーーン!

いきなり洋館が揺れる。爆発音にも似ているが、これは少し違った。
地下から徐々に伝わってくる振動…。

「くっ!フラン!!」

言葉に迷いがない。知り合いかなのだろうか…少女はいきなり自分に向かって蹴りを入れた。
咄嗟に腕でガードしたが、腕から鈍い音がした。さらには体が浮き上がり、ものすごいスピードで後ろに飛ばされる。
どんなに長い廊下でも必ず終着点はある。ほら、後ろに壁が見える…。
壁に激突するショックに備えて身を固める。

「―――がっ!」

壁に激突。肺に入っていた酸素は、衝撃で外へと逃げ去っていった。
口の中が苦い味で満たされ、息を吸おうとしても体が拒否する。
意識が飛びそうになったが、なんとか持ち堪える。

自分が壁に激突したと同時に、少女の横にあった黒い扉を突き破って、誰かが飛び出してきた。
扉が向かい側にある壁を破壊して、勢いよく外に吹っ飛んでいく。グニャリと変形している扉…、どうやら鉄製のようだった。
扉から目を離し、扉を破壊して出てきた張本人に目を向けた。
先ほどまで会話をしていた少女と同じ身長の少女が、そこにいた。

「フラン!!なぜ出てきたの!?」
「酷いよ…お姉さま。私に黙って新しいおもちゃで遊んで…」

2メートルくらい離れて対立する二人。自分からは、先ほど会話していた少女の背後が見えた。
誰がどう見てもあれは姉妹だ。話をしているみたいだが、距離があるため聞きとる事が出来ない。
扉を突き破って出てきた少女の視線が、自分へと向けられた。こちらに向かってくる事を察した自分は、力を振り絞り立ち上がろうとする。

「――っ!フラン!!」
「あはは!沢山遊ぼう!!」

水色銀髪少女の防衛を振り切り、とんでもないスピードでこちらに向かってくる少女。まるで″狂気″を纏った怪物だ。
こちらに近づくにつれて容姿を確認できた。
肩までかかる金混じりの黄色い髪をサンドテールし、先ほどの少女と同様の真紅の目に、ナイトキャップを被っている。
服は目の色と同じで真紅の、半袖とミニスカート。背中からは、枝に七色の結晶・宝石みたいなものを生やしていた。
長い廊下が嘘のように、少女はあっという間に自分の目の前に到達した。

「ねぇ!ねぇ!貴方は壊れない!?」

無邪気な笑顔で問いただしてくる少女。なんて物騒な事を口走っているのか…。
自分はこの状況下で恐怖を感じていなかった…さらには、少女の質問に答えなかった。
少女は相手の行動を見て少し顔を傾けた。
だが、相手のその行動を″肯定″と受け取った少女は、スカートについている小さなポケットから、カードを引き抜いた。

「さぁ!いっぱい遊びましょう!――禁忌!【フォーオブアカインド】!!」
「なっ!?」

「「「「アハハハハハ!簡単に壊れないでねぇ!!」」」」

思うが儘に行動をする少女。
少女のカードが光を帯びたと思った次の瞬間、少女が四人に増えた…。
マジックにしては存在が固定され過ぎている。すべて実体ではないのかという錯覚に陥りそうだ。
同じ顔をした四人の少女は、さらにカードを取り出した。
しかし、自分の視界を遮るように、メイドが姿を現した。

「おやめ下さい!妹様!!」

声を聞く限り、自分の体を見てくれた人で間違いはなさそうだ。
緑みの青色をしたメイド服で、腰には純白の前掛け、腰後ろには大きめのリボンで整えられている。
頭には、メイドが常に身につけている白色のカチューシャがついており、そのカチューシャ色に合う銀色の髪。もみあげ辺りから鎖骨にかけての三つ編みがされており、三つ編みの先端にはメイド服同様の色のリボンが付けられていた。

太ももから10センチ前後のナイフを取り出し少女の止めに入った。しかし、一瞬の出来事だった…。
少女の四人中二人がメイドを抑え、さらに三人目がメイドの腹へと拳を放つ。

「かはっ!!」
「アッハハハハハハ!!私の邪魔をするからこうなるのよ!」

少女の四人目が笑いながら、倒れたメイドの腹を蹴る。内臓をやられてしまったのだろうか、メイドは血を吐いた。
これが少女のすることか?苦しむメイドに容赦なく、何度も何度も蹴りを入れる少女。

「…やめろ」
「あはは、どうしたの咲夜?」

自分はやめるよう声を投げた。
何度もメイドの腹を蹴り続ける。止める様子は微塵も感じる事が出来ない。

「…やめ…ろ」
「お止…め……くだ、――ぐっ!」
「アッハハハハハ!!」

制止の言葉を言おうとしたメイドだったが、少女の蹴りによりその後の言葉を断たれてしまった。
さらに蹴りを入れる少女。メイドに目を向けると、徐々に顔から生気が失われ動かなくなっていくメイドがいた…。







――同時刻の反対側の紅い廊下――

水色銀髪少女が三人の元へ向かって飛んでいく。

「咲夜!!」

早く行かなければ手遅れに――。

「ぐっ!身体が!?」

体に異常を感じた水色銀髪少女は、着地する。突如、身体が動かなくなった…金縛りに似ている。
右手に違和感を覚えた水色銀髪少女は、違和感がある右手へと目を向けた。

「ハハ…どういうこと……」

その右腕は、何かから恐れているかのように――

――大きく震えていた。



[30152] 登場人物
Name: カルマ◆26b23d32 ID:1c172942
Date: 2011/10/28 22:52
※少しずつ書いていきます。お待ちくださいませ…。Now loading...


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