資本関係のない「ゼロ連結会社」を抱える東京電力。福島第1原発事故を受け、東電の経営状況を調査するために設置された政府の第三者委員会「経営・財務調査委員会」(委員長・下河辺和彦弁護士)でも東電ファミリー間の取引の在り方が焦点となった。しかし、「総括原価方式」のブラックボックスに隠れた取引構造の実態は解明しきれていない。
「グループ間の『なれ合い取引』でコストアップしているケースはないか」「関係会社の東電向け取引と東電以外との取引について精査して比較すべきだ」。今年6月から10月まで計10回開催された同委員会では、取引構造の解明を求めるこうした声が相次いだ。
委員会の調査はJR東海の葛西敬之会長やDOWAホールディングスの吉川広和相談役ら5人の委員が主導した。委員の下には財務データを分析する分析チームが設置され、ダイエーやカネボウの再建に携わった民間人ら企業再生のノウハウを持つ精鋭が結集。オフィスビルの一室で、「床から机の上まで積み上がった」ほどの膨大な財務資料を読み込んで分析にあたった。
電気料金は燃料費や人件費、設備修繕費などの原価に一定の利益を上乗せして算定する「総括原価方式」で決まる。利益が約束されるだけに、原価はぎりぎりまで削減することが求められる。委員会の調査では、原価の中に電気事業連合会など各種団体への会費やオール電化の広告費、福利厚生費などが含まれていた実態が判明した。
また関連会社との取引では、競争入札価格と比べて1割程度割高になっていた。委員会が今月初旬にまとめた報告書では、こうした取引について「東電向けの取引は利益率が高い」などと指摘した。
ただ、委員会も一枚岩ではなく、「総括原価に踏み込む必要はない」などの慎重論を提起する委員もいた。また、「ゼロ連結会社」との取引実態についても限られた時間では調査しきれず、「ブラックボックスの扉に手をつけた程度。全容解明にはほど遠い」(経済産業省幹部)。同委員会の幹部は「分析チームは今も調査を継続している。必ず東電一家の実態を国民の前に明らかにしたい」と話している。【三沢耕平、永井大介、立山清也、野原大輔】
事業にかかわるすべての費用を「総括原価」として計算し、そこに一定の利益を上乗せして消費者が払う料金を決める方式。電気、ガス、鉄道など公益性があり、長期的に安定した設備投資が必要な事業の料金を決める際に使われる。電気料金の場合、発電・送電・電力販売にかかる費用と利益を利用者は負担している。
毎日新聞 2011年10月30日 9時20分(最終更新 10月30日 14時07分)