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[27655] 【習作 IS 憑依】 へいお待ち!五反田食堂です!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 15:08
はじめまして、釜の鍋といいます。

沢山の作品に後押しされ、初投稿しました。

どうかよろしくお願いします。


設定としては以下の通りです。


1、一夏の友人である。五反田弾の憑依モノです。

2、性格改変が嫌と思われる方はご注意ください。

3、メインヒロインはすべて一夏の嫁です。お相手はサブキャラになるかと思われます。

4、原作沿いですが、多少オリジナル路線になります。

5、基本的にコメディー、時々シリアスです。

6、最強モノではありません。一夏達と共に成長して強くなっていく方向です。

以上。


誤字脱字等の指摘は大歓迎です。



興味の惹かれた方は、どうかお付き合いくださいませ。
よろしくお願いします。


5/8 第二話の「織村」を「織斑」に修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。

5/9 第二話の台詞の後に、」を付け加え修正しました。ご指摘ありがとうございます。

5/9 皆様に更新と勘違いさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。今後このようなことがないよう気を引き締めます。本当にすみませんでした。

5/11 所々修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。

5/13 文章を修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。

5/15 文章の修正と、間違いを修正しました。ご指摘ありがとうございます。

5/18 文章修正をいたしました。ご指摘ありがとうございます。

5/22 文章を修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。

5/30 恥ずかしすぎる間違いを修正しました。ご指摘ありがとうございます。

6/5  文章を修正しました。ご指摘ありがとうございます。

6/12 文章を所々修正しました。ご指摘ありがとうございます。

6/19 文章と違和感のある部分を修正しました。ご指摘ありがとうございます。

6/27 文章を修正しました。ご指摘ありがとうございます。

7/3  文章を修正しました。ご指摘ありがとうございます。

8/1  歌詞はヤバいとご指摘され内容変更しました。ご指摘ありがとうございます。

8/19  文章修正、間違い修正をしました。ご指摘ありがとうございます。

10/30 全話見直し修正、および改正を行いました。見やすくなったら幸いです。



[27655] プロローグ
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 15:10
                  


眼が覚めたら赤ん坊になっていました♪

はい、みなさんこんちは初めまして、母親と思しき人の腕の中から失礼いたします。私の名前は五反田 弾というらしいです。

あれ?おかしいな?俺の記憶の中では確か、自分は今年から大学に通うことになっている十八歳の学生だと記憶しているんだが?

いいぃヤッフー!!受かった!!俺受かったよ俺!!来年から花の大学生だ、バラ色のキャンパスライフが待ってるぜ―!と、知人がドン引きするぐらい狂喜乱舞していた昨日の俺は何処へ?

酒を浴びるようにして飲み(おいコラ未成年)、そのまま倒れるようにマイベット(アニメヒロインの画像付きシーツ装備)の中で熟睡したまでが昨夜の記憶(記憶力良し)。

うん。思い返してみても、今現在の状況に繋がる要素は無いな。むしろ寝相悪くてベットから落っこちて悶絶して朝を迎える事の方がより現実的な筈。

間違っても自分を愛おしそうに覗き込み、優しい頬笑みを向ける母親っぽい人に抱かれるモーニングベイビーな朝を迎える事なんか皆無の筈。しかし美人ですね、最高です。


「ふふふ。だーん♪」


そう言って俺の頬をプニプニ触る美人な母親っぽい女性(面倒だから母親でいいかもう)。

おおう、何をするんですかお母さん。いいぞもっとやれ。


「・・・だぅー(貴女のお名前は何ですか、マダーム。)」
「あらあら? なーに? 弾?」
「んぶぅー(お美しいですね。結婚してください。)」
「うふふ、そうねー。とってもいい天気ねー。」
「あーうー(貴女の前では太陽の輝きすら霞みますマダーム。)」
「・・・・・はぁ、かわいい♪ 私の坊や♪」


むむ、流石は貞淑な若妻、俺の口説き文句を軽く流すとは・・・・出来る女性は違いますね。(通じてないことに気付いていません)

しかし、これはまいった。
こいつはもしかすると憑依転生というものではないか? 今流行りの。いや、死んだ記憶もないし唯の憑依かね?

・・・・いや待て!? まさかアルコール飲み過ぎて、寝てる間に中毒死したのではないか俺って!? なんてことだ!! ちくしょう・・!! まだまだやりたいことは一杯あったのに! 昨夜缶ビールを三本も(一本250ml)呑むんじゃなかった! 俺の馬鹿! せっかく大学にも受かったのに(近くにある三流大学)、あんなに勉強したのも台無しじゃないか!(一夜漬け)

うううぅ!! ちくしょう!!


「ぶ・・・ぶぅぅええええええええん!!!(俺の人生バットエ―――ンド!?)」
「あら? どうしたの弾?」
「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!(花のキャンパスライフ―――――!!)」
「あらら?・・・・うーん、お漏らしじゃないわね?」
「ほぎゃぁぁぁぁ!!(彼女いない歴五年―――――!! あ、中学の時彼女いました。)」
「あ、お腹すいたのね? 弾ったら食いしん坊さんねぇー?」
「ぶええええぇぇぇん!!(とにかく俺の一生返してくれ―!!)」
「はいはい、ちょっと待ってね?・・・・(ポロリ)はいお乳ですよー?」
「あぶ!?(あぶ!?)」
「うふふ、一杯飲んで大きくなってね? 弾♪」
「あむあむ(もちろんですお母様。これから立派な息子として生きていきます【キリッ!】)」


ふ・・・・俺の前世なんざもうどうでもいいやぁ。目の前の母性の塊にくらべりゃ些細な問題さ!(二束三文で他人に譲れる人生です)

これから俺は五反田 弾として生きていきますお母様っ!!

目の前の母親に向かって(母性の塊を惜しげもなく俺に授乳する聖母様)に向かって、俺は決意するのだった。


しかし・・・・はて?
五反田 弾・・・・・何処かで聞いたような名前だな?



こうして、俺のインフィニットなもう一つの人生が授乳と共に幕を開けた。



後書き

始まってしまいました。どうか広い心でお付き合いくださいませ。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。



[27655] 第一話   妹一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 11:49
妹が生まれました。


ちわーっす。どうも1才になったスーパーベイビー五反田 弾です。さっそくですが妹が出来ました。

俺の横でスヤスヤ眠っているお猿さ・・・もとい初妹な赤ちゃん。そんな妹の横でふてぶてしく座っている俺は、じーっとその顔を覗き込みます。


・・・・・・男の子じゃね?


うーむ? どう見たって女の子にゃ見えんのだよねー。猿っぽいし? つか猿やん。家のお母様は何処かで拾って来たのではなかろうか?

時折、んぶんぶと寝言らしき謎の声を発する妹的な存在に、もうちょっち近付いてみる。


・・・・・・猿じゃね? いや猿じゃね?



「・・・・・・・・・・(猿やーん、おーい猿?)」
「・・・・・(スヤスヤ)」


むぅ、俺の念話(厨二病)にも気付きもしないとは・・・やるな妹よ!!(意味不明)

とりあえずなんか寒そうやからタオル掛けてやるぞほれ?

無造作に蹴りどかしているタオルを掴み、起こさないよう優しくかけてやる。


ファサ・・・・・ゲシ。(掛けたタオルを蹴りどかす妹)


・・・・・・・・・・・・・・・・


ファサリ・・・・・・・ゲシ。(も一度掛けるけど、普通に蹴りどかす妹)


・・・・・・ほほう、そうきますか。


寝蹴りの良い子や。将来は立派な蹴りを放つ女傑になるだろう。兄として鼻が高いね、将来自慢できるかね?


【ほらほらみんな見てくれ! 今テレビに映っている選手は俺の妹なんだぜ! いけ! そこだ! うおおお見事な空中回し蹴り! 勝った―――――!】


・・・・・・うむ中々いい未来じゃね? 頑張れ妹よ、兄は応援する。


「・・・・・・・(じー)」


おう? いつの間にやら起きたのか。妹が兄である俺をガン見していた。

泣きもしないとは好感度アップだぜ妹よ。ただいま妹魂度200パーセント。臨界なんざとうに超えたわ!

ふっしかしこの俺にメンチ切りとは。妹よ、お前にメ○チビームは一カ月早い。見よ!!これが兄の本場メン○ビームだ!!


「・・・・・・・・・(ギュピ―――――ン!!)」
「・・・・・・(じー)」
「・・・・・・・・・・・(バチバチバチ!)」
「・・・・・・(じー)」
「・・・・・・・・・・・・(〇才児に負けた兄の図)」


恐ろしい奴だ・・・まさか負けてしまうとは。さすが俺の妹だ、兄は嬉しい。


「・・・・・・・うー・・・・」


モゾモゾと動き出す妹。
おう? どうした妹よ? 兄に分るよう喋ってみろほれ。


「あー・・・・・」


なるほど、おしめね。兄に任せろ。


「うー・・・・・」
「かーしゃーん! らんがおみょらししたー!」


・・・・・・・ぱたぱた・・・・・・


「あら本当に? どれどれー?」



俺の声を聞いた母さんは、奥の方からやって来てひょいと妹を抱き上げる。

奥の方からは爺ちゃんの「おーう! 弾! 良く知らせたじゃねーか! 流石兄貴になった男は違ぇなぁ!」という声と「へー、しっかりした子だな」「あれで1才? 凄いなぁ」という声が聞こえた。

それに続く爺ちゃんの「だろう!? そうだろう!? 家の孫は凄ぇだろう! なんてったて俺の孫だからな!!」という爺馬鹿節にちょっと照れる。

その声に母さんも苦笑して見せ「ちょっとお店をお願いねお父さん。」と、爺ちゃんに声を掛けて蘭のおしめを確認しはじめた。


五反田食堂。本日も大好評営業中です。


あ、紹介がまだでしたね。
俺の妹の名前は五反田 蘭です。覚えてね?(今更)


「あ、本当だわ。すぐにおしめを替えようねー蘭?」
「・・・・・ぶー・・・。」
「・・・・きもちわりゅいってー」
「はいはい、すぐに替えてあげますからねー。弾もありがとうねー。蘭を見ててくれたのね。さすがお兄ちゃんね。偉いわねー。」
「うーあー・・・・」
「・・・いいっちぇこちょよー。きにしゅるなーらんー。」
「・・・・・・・・(会話できてるのかしらこの子達?)」
「キャッキャッ!」
「・・・てりぇりゅじゃねーかーちくしょうめー。」
「・・・・・弾? 蘭はなんていったのかしら?」
「ありがちょーおにぃりゃってー。」
「・・・・・・・・・・・・・・そう、なの?」
「ぶぇぇぇ・・・・!!」
「はやくおしめかえちぇりゃってしゃー、かーしゃん。おしめとっちぇくりゅねー?」
「・・・・・・うん、そうねー。お願いねー弾。(凄いわね家の子達って。)」


何処か衝撃的なものを見たような母さんに、ちょっと首をかしげながら。俺はよろよろと立ちあがり。おぼつかない足取りで部屋の隅に置いてあるオムツへと足を進める。

くぅ・・・!! まだ立って歩いて三歩だというのにもうHPがレッドゾーンだ!! ええい!燃費の悪い身体だ!!


プルプル・・・ボテっ!!(転んだ)


「あ! 弾っ!? 大丈夫!? 無理しないでいいのよ、母さんが――――・・」


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ―――――――ッ(床を転がる弾)


パシッ!(オムツをGETする弾)


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ―――――ッ(転がり舞い戻る弾)


ヒョイ(オムツを母に差し出す弾)


「はい、かーしゃん。」
「・・・・・・・・・タダじゃ起きない子なのね弾って。」
「おちょこはたおれちぇも、ただじゃおきるものじゃねーっちぇ。じーちゃんが。」
「・・・・・・とりあえず、ありがとう弾。(お父さん・・・後で覚えてなさいよ)」
「キャッキャッ!」
「・・・おだちぇにはにょらないじぇーらんー。あちょでいっしょにねんねしちぇやるじぇー。」
「ぶー」
「・・・しょんないやにゃかおしぇんでもいいだりょー、きじゅちゅくじぇー」
「・・・・・・・・・はーい、おしめ替えようねー? 蘭?(家の子達って一体・・?)」


母さんが何処か驚愕してるっぽい雰囲気を出しているがなんだろう?
おもらしの度合いが凄いのだろうか?下品ですね、申し訳ありませんでした。

とりあえず、我が妹の蘭がおしめを替えてもらっている光景を、視界の隅に写しながら俺は、ふーと一息つく。


しかし五反田 蘭ね。

この名前もどっかで聞いたことはあるんだが・・・・何処だっけ?

記憶力は良い方なんだがね?ままならんもんですね記憶力。もっと気合い入れろや俺の脳! ・・・・え? ちょっと無理? この頃徹夜続きでって・・・すいません激務の中空気読めない事言って。

むぅ・・・・手詰まりだ。弾・・・蘭・・・・団欒・・・?良い事じゃん団欒。(意味不明)


「ふー・・・・・・・ままにゃらんことだじぇー、じんしぇいっちぇもんはよー。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」


すくっと音も無く立ちあがった母さん。うん? どうしたのだろうか? あ、おしめ替えが終わったらしく妹な生き物の蘭が気持ちよさそうに笑ってる。

ローリング弾(転がって移動する俺の技)で蘭に近付いて、蘭の様子を見守ることにする俺。

母さんも爺ちゃんも、五反田食堂で大忙しだから、蘭の面倒は俺が見ていなきゃならんのだよ。うん流石だ俺。兄の鏡だ俺。


「らんー、ねりゅこはしょだちゅぜー? だかりゃねりゅんだじぇー。」
「あーあー・・んまー?」
「こみょりうちゃ?おれはへちゃだじょー?」
「うーうーうー。」
「わかっちゃじぇい。ねーんねーん♪こりょーりーよー♪」
「・・・・・・・・すぴー・・・」
「おおう・・・・しゅげーな、おれのうちゃって。」


今日も五反田家は平和です。


奥の方から


「お父さん! お父さんが変なことばっかり教えるからっ! 弾が変なことを真似ちゃうんでしょ!」「はぁ!? ま・・待て!? 俺は別にってうおおおお!? 馬鹿よせ! 中華鍋を振り回すなこらっ!!」「なんてことしてくれたのよーっ!?」「俺は知らねぇぇぇって言ってんだろうがぁぁぁっ!! ぎゃぁぁぁぁ!?」


なんて声がするけど。妹の安眠のため戸を締めた俺には聞こえない。



今日も五反田食堂は平穏無事に、大好評営業中。平和です。




後書き

五反田食堂のメニュー。どんなものがあるんでしょうか?業火野菜炒めは食べてみたいですね。



[27655] 第二話   友達二丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 12:47
あれから月日は流れて早いもので。


ちわっす! 中学生になりました五反田 弾です。

え? 幼稚園とか小学生時代はどこいった? 聞きたいの俺の幼き時代なんて? 別に普通だったよ。

幼稚園では、野郎を束ねる紳士になったり、

インフェ二なんちゃらんが世に出たとかで、騒いでいる世をぼへっと流したり、

小学校の入学式で校長のヅラ疑惑を証明したりとか、

女子達の使い走りに奮闘したとか、

蘭を泣かせた上級生の男子三人をトラウマ植え付ける程殴って泣きじゃくらせたとか、

遠足の日に教室で一人真面目に勉強してたとか、

蘭の蹴りを受けて空を飛んでは同級生達に「ああ、なんだ弾か」って普通に日常として受け取られていたりとか、

なんか超有名人が突然引退して世を騒がせたのを、ラーメン啜りながら聞いたとか、

運動会の日に五反田食堂出張屋台を持ってきて爺ちゃんと一緒に腕を振る舞ったとか、

バレンタインデーで、他の女子を凌ぐチョコを作って、義理チョコすらもらえない野郎共に『哀』を込めて渡したりとか、

卒業式で泣いてない男子達全員に催涙スプレーかけて無理矢理泣かしたりとか、

中学進学と同時に、蘭にフラグ立てやがりましたイケメン少年に決闘挑んで熱い友情を結んだ後、保護者呼ばれて二人して地獄見たりと、まぁ一般的な子供の成長録ですよ。


ダイジェストでお送りしました俺の半生。俺も早いモノで中学生です。


さて、今現在俺は一体なにをしているのかというと・・・・



「へいお待ち! 業火野菜炒め一丁! カツ丼一丁! 上がり!!」
「はーい! 今もっていくわー!」
「おい弾!! こっちも上がりだ!! 盛りつけろ!」
「あいよー!!」
「お爺ちゃん! 日替わり五反田定食一つに業火野菜炒め二つお願い!」
「よしきた! 毎度あり―!!」
「蘭!お会計お願いできるかしらー!?」
「はーい!」
「ついでに三番テーブルにこいつも頼むわ蘭!」
「ちょっ! もうお兄! 人使い荒くない!?」
「爺ちゃん! 五反田定食の鯖の味噌煮は俺がやっから、業火野菜炒めに集中してくれー!」
「ああん!? 出来んのか弾!?」
「この前味見してもらって合格もらっただろうが!? 忘れたのかよ爺ちゃん!」
「けっ! 粗末なもんだしやがったらタダじゃおかねぇからな!?」

ただいま夏休みの真っ最中。五反田食堂、昼食時のピークタイムのお時間で絶賛奔走中です。

厨房では爺ちゃんの剛腕が休む暇なく振るわれ、俺も盛りつけに簡単な一品の調理と大忙し。母さんと蘭は二枚看板として接客に行ったり来たり。

ああ、折角のロングサマーバケーションだというのになんでこんなことに、食堂の息子の悲しい運命です。本当なら今頃かわいい彼女と一緒にキャッキャウフフな一日を過ごしている筈なんだけどな。

良い汗ながしてるじゃない俺!見習いは辛いぜ!! でも負けない! 野郎だからさ!!


「俺の夏休み返せ―――!! ってな勢いで揚げ上がった唐揚げができたぜ!! 五反田弾特製唐揚げ! お子様に大人気ですよ奥さんっ!! 今晩の一品にどうですか!?」
「妙なこと叫ぶんじゃないわよ馬鹿兄っ!!」
「うふふ、でも本当に人気なのよね。弾の作った唐揚げって。」
「ふんっ! あんなもんまだまだだ! 調子に乗ってねぇでもっと腕を磨け腕!!」
「あら? でもお父さん、お酒飲む時よく弾に作らせてるじゃない?」
「あ・・・ありゃツマミには向いてるって意味だ!! 食堂に並べるにゃまだまだで――!」
「って爺ちゃん!? 炒めすぎ! 火! 火!!」
「どわぁぁ!? ええい畜生が!! 弾! なんでもっと早く教えねぇっ!?」
「俺のせいかよっ!?」
「注文入ったよー! カボチャの煮漬け定食一つ!!」
「「毎度あり―――――っ!!」」




今日も五反田食堂は平穏無事に絶賛営業中。一度おいでよ五反田食堂。



*   *   *



さて、昼食時のピークも過ぎ。客足も落ち着いて、店内には数名のお客さんのみとなって一段落ついた五反田食堂。

ぶはー・・・と、椅子に座って水を飲み干す俺。

やー疲れました。見よ!腕が小気味にプルプル震えてるぜ!! そんな俺を見て、爺ちゃんがフンと鼻を鳴らした。


「ったくだらしねぇ。これくらいで音を上げるとはまだまだヒヨッ子だな。」
「うおーい、爺ちゃん? 俺まだ子供よ? ヒヨッ子に決まってんでしょーに。」
「憎まれ口だきゃあ一人前だな」
「爺ちゃんこそ、何処にいんだよ筋骨隆々の八十才過ぎの爺さんなんて。ギネスもびっくりだぜ。人間?」
「やかましい!」


ビュン!! スカ――ン!!

飛んできたお玉を、中華鍋でガード。これぞ五反田家秘伝!中華鍋バリアー!! 生みの親は我が母です!


「ちっ! いらん技術だけは磨きやがって。」
「磨かせたのは誰のせいだってーの・・・・・てか振動で微妙にダメージが・・」


一見仲が悪そうな俺達だけど、これは俺と爺ちゃんのコミュニケーションの一つなのだ。

お互いに遠慮がないから、気持ちもぶつけ合える。色々考えるより正面からぶつかる方が俺達には効果的なんだよねー。まぁ、お陰で生傷絶えないけど。

そんな俺に近付く影が一つ。

そこにいたのは我が妹であり、五反田家最強の蹴り技を放つ女傑、五反田 蘭の姿が。


ズンっ!!


「俺の足の小指にクリーンヒットーォォォォッ!?」
「今失礼なこと考えたでしょ? お兄?」
「なに女傑って嫌なのか? 最高じゃん女傑。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ふぬぉぉ!? グリグリはヤバい! 捻じるように痛いっす蘭さ―――ん!?」


うぉぉ・・・なんて暴力的に育ってしまったんだ。兄は悲しい。

昔はお兄、お兄と、俺の後ろを中華鍋を振りまして涙目になりながら追いかけてくる可愛い子だったのになぁ。

なんでこんな風になっちゃんたんだろうね? 中華鍋どうした。


「なんでだろうな? そこんとこどうよ蘭?」
「いきなり何!? いつもいつも唐突に主語の抜けた質問しないでよっ!!」
「なんで分かんないの!? 以心伝心五反田食堂名物兄妹『弾&蘭』は何処行った!? 再放送も決定したんだぞ! ちょっとマネージャー! どうなってんの!?」
「ああああもうっ! また馬鹿なことを叫ぶな―――っ!!」
「ごふぁっ!?」


蘭の蹴りが俺の腹部に突き刺さる。

ぐふっ・・・さすがだ蘭、衝撃の全てを内部に留める高等技術を使うとは。惜しい、K-1の世界に赴けば、さぞ有能な選手になっていただろうに。何故諦めたんだ蘭、兄は悲しい。(最初から目指していません)

そんな俺にやれやれといった溜息を吐く爺ちゃんに、いつものように微笑ましく笑う母さんの姿。そして不機嫌そうに俺を見下ろす蘭・・・・ん? 今日はスカイブルーか?

うむ・・いつも通りの日常と書いてパンツだね。平穏サイコー。


と思っていたら。ガラッと食堂の入口が開き、男女二人組が入って来た。


「おーい、弾。約束の―――って!? どうしたんだ弾!? 床に這いつくばって!?」
「相変わらず謎の行動とる奴ねーアンタって。」


食堂にやって来たのは、中学校に進学してから知り合った二人の友人の姿。
何でか知らんが妙に馬が合ってよくつるんでいる奴らです。

片方の男は、お前は一体どこのギャルゲーの主人公だと思わんばかりのイケメンで、史上最強のフラグゲッターにして、難攻不落の鉄壁鈍感要塞の異名を持つ男『織斑 一夏』。


もう片方の女は、五反田食堂に突如として現れた最強のライバル中華店の娘にして、ツインテールの映えるチャイナっ娘。微乳の暴走特急、恋に生きる健気な少女『凰鈴音』。愛称は鈴。


「おう!一夏に微乳じゃねーか!」


バキゴシャドゴベキャゴッゴッガツンガツンドゴシャッ!!!(ゲージ3消費)


「あ? 今なんつった? おいコラ。」


血だらけになり倒れ伏す俺の襟を絞めあげて、ハイライトの消えた瞳を向ける鈴。そうでした。禁句だったねすみません。


「弾ーっ!? 待て落ち着け鈴!」
「こんなもんじゃねーぞ! こんなもんじゃねーぞ!! コラ!?」
「落ち着けって!! 口調がヤンキーになってるぞ鈴!?」
「あ、あの! 一夏さん! こんにちはっ!」
「ああ、蘭! こんにちは・・・って違う! 蘭も鈴を止めるの手伝ってくれ!」
「だ、大丈夫ですよ! お兄は復活は早いし不死身ですからっ!!」
「そうだぞ、心配するな一夏。」
「うおおおっ!? いつの間にか俺の横に移動してるっ!?」
「ふー、死ぬかと思ったぜ。(フキフキ)」
「そして慣れた手つきで、血を手拭いで拭き取ってる!?」
「どうすりゃ殺せんのよアンタはっ!!?」
「美女が全裸で愛の言葉を囁いてくれれば、心置きなく死ねるぞ?」
「「そりゃお前(アンタ)の願望だろ(でしょ)うが!?」」
「うるせーぞガキ共!!」
「爺ちゃんが一番うるせーと思う人ー。はーい。」
「「「喧嘩を普通に売るなっ!!」」」


なんだ騒がしい奴らだな、いかんぞ。ここは食堂。憩いの場。



*   *   *



とりあえず二人を近くのテーブルに案内してやる。蘭も昼飯はまだだからついでに座らせて、俺はメニューを片手に注文をとる。


「へい! 注文は?」
「あんたって本当に自分勝手というか、マイペースというか・・・!」
「まぁ弾だしなぁ・・・あ、俺は『弾特製スぺシック炒飯』な。」
「何よそれ? そんなものあったけ?」
「裏メニューです。」
「お兄また妙なもの作って・・・お爺ちゃんに怒られるよ?」
「安心しろ、親しい奴にしか作らん特別親愛メニューだ。蘭も食うか? 一夏とお揃いだぞ。」
「これが結構いけるんだよなぁ。蘭は食べたことないのか?」
「た、食べてみよっかな!? き、気になるますしっ!」
「あたしも! あたしもそれっ!!」
「それ? ・・・・・どれ? 何を言ってるのかねこのチャイナっ娘は?」
「分ってて言ってんじゃないわよ! 馬鹿弾っ!!」
「はいよー『弾特製オフラ―ンス牛丼』三人前ね。毎度。」
「「「違うっ!」」」
「ところで馬鹿弾と爆弾て似てるよな?」
「「知らないわよっ!!」」
「・・・・・・・・・・・・・(確かに)」


五反田食堂、特別親愛メニュー。本日も好評です。



*   *   *



「それで?一体今日は何の用だね?二人そろって、デート?」


『弾特製スぺシック炒飯』を、おいしそうに頬張る三人の幼子達に向かって、俺はカウンターから素朴な疑問を投げかける。たんとお食べ。

デートの単語に、敏感に反応する二人の乙女を無視して(というか普通に気付いてない)一夏が口を開く。

この子はホンマ困った子やねー。


「違うって、この前の約束の続きを話しに来たんだ。忘れたのかよ? 俺と弾と鈴、それから蘭も誘って近くの祭りに行こうって話したじゃねーか。」
「おおう、すっかり覚えてるぜ。」
「面倒臭い答え方するなよ・・・・」


はぁぁ、と溜息を吐く一夏。隣では何か不機嫌そうな鈴と、ほっとした溜息を吐くマイシスターの姿。

溜息吐きたいのはお前の鈍感さじゃね? と思う俺は正しい筈。

そういや祭りにみんなで行こうぜってな話をしていたな。

もう一人『御手洗 数馬』というジェントルメンも誘う手筈だったんだが、あいにく夏休みの間は親戚の家に行ってしまっているらしく断念。

無論、心優しい俺はしっかりと内容を親切丁寧に電話で伝えてやり


『てめぇ弾この野郎ぉぉぉ!!帰ったら覚えとけ畜生!!うわぁぁぁん!!』


という、心温まる返事を貰った。はっはっは、照れるぜ。


「俺も蘭も準備OK! 浴衣も準備してるぜ!!」
「へー、浴衣か。いいなそれ。蘭も着るのか?」
「は、はい! あの、い、一夏さんは浴衣って好きなんですか?」
「ん? ああ好きだな。日本人に浴衣、祭りといえば浴衣ってもんだしな。」
「そ、そうなんですか。」
「良かったなぁ、蘭。新調したかいがあったな。」
「う、うっさい馬鹿兄!!」
「・・・・・・・・・・ふんっ!!」
「横で不貞腐れているチャイナっ娘にも耳より情報! 実は鈴にも浴衣は用意してある! やったね!! 流石だ俺!」
「はぁぁっ!?」
「実は鈴の親御さんに『祭りで浴衣を着ていない女の子は浮きますぜ』と、お話ししたところ、鈴の為に浴衣を用意する事を承諾してくれたのさ! ちなみに浴衣の寸法は母さんが聞いて、色合いは鈴のお母様に一任。鈴専用浴衣の準備も整ったということさ!!」
「ちょっ! 聞いてないわよ私っ!!?」
「言ってねーもん。驚いたね!!」
「へー、良かったな鈴。」
「ぬぐっ・・・ううぅ・・・ま、まぁいいわ。と、とりあえずありがと・・。」
「着付けは私がするから、お祭りの前に家にいらっしゃいな。ね? 鈴ちゃん。」
「は・・・・はい! ありがとうございます。蓮さん。」
「なら待ち合わせはここでいいんじゃないのか?弾?」
「お前馬鹿じゃない?」
「な!? なんでだよ!?」


分ってない、こいつは本当に分ってない。お兄さんはがっかりだよ!!


「こういう時は、野郎は黙って先に祭りに行って、女の子がやって来るのを待つのがマナーだぞ坊主!! ああ、一体どんな浴衣かなぁと野郎はいつもと違う雰囲気になる女の子の浴衣姿に思いを馳せ! 女の子は野郎が待っている場所に行きつくまでに、似合ってるかな? 変じゃないかな? 喜んでくれるかな? という期待と不安に後押しされながら祭りへ赴く! その上で初めて女の子の浴衣姿を見て最高の褒め言葉を送る。それが日本紳士の務めだ。分ったか坊主!? 時代に乗り遅れるな! 野郎はいつでも紳士を目指せ!! 女性は尊く、そして繊細なんだぞ!! このフラグ野郎!! 刺されちまえっ! バーカ!!」
「長い説明だな!? 結局祭りに行くなら同じじゃねぇかよ!! それと最後は完璧に俺に対する悪口じゃねぇか!?」
「一夏、認めたくないようだけど弾が正しいわ。座りなさい。」
「お兄、たまには良い事言うね。・・・・いつもしっかりしてくれれば私だって・・ぶつぶつ・・・・。」
「うふふ、流石私の息子ね。良い事言うわ。」
「おう、何か知らんが蘭が言うなら蘭が正しい。良く言ったぞ弾。」
「・・・あれ? なにこの疎外感。間違ってるの俺? 俺なのか? 俺に対する暴言へのフォローはなし?」
「存在が間違っていると、近所から声高々に言われている俺よりはマシだ。落ち込むな一夏! 明日があるさ!!」
「弾・・・・・・苦労してるんだな。」


おおぅ、何故みんなして俺を憐れむような視線で見るんだ? そんなに見るなよ!興奮するぞ?

しかし、一夏の朴念仁ぶりには俺もびっくりだぜ。ワザとやってんのかね?

まぁ、身近に『千冬さん』という超美人な無敵に素敵お姉様がいるとなると、そん所そこらのちょっとかわいい女の子じゃ、一夏は落せんな。少なくとも鈴や蘭くらいのレベルじゃないと厳しいだろう。

一夏のシスコンぶりも大概だが、この弟にしてあの姉ありってな具合で、千冬さんのブラコンぶりもとどまる事天井知らずやし。

しかし、千冬さん最近見ないな? 一夏の話じゃ連絡もあんまりないらしい、たまに一夏に顔を見せに帰って来てはいるようだけど・・・・まぁいいか、家庭の事情だろ。

あーあ、千冬さんも彼氏でもつくりゃ一夏も姉離れ出来るかもしれないのに難儀だ、なんだかんだ言っても、絶対千冬さんの好みのタイプは『一夏みたいな男』だろうね!

・・・・・・こんな傍迷惑なフラグ乱立野郎二人もいらん、滅びるぞ地球。

はー、一夏の花婿姿を拝めるのはいつになることやら。


「・・・・なんだ弾? 人の顔見て溜息吐くなよ。」
「いやぁ、ただお前ってシスコンだなって思っただけだ、気にすんな。」
「おいコラ!? 気にするわ!!」
「気にするって・・・・おいおいダメだぞ一夏? 俺とお前には性別という世間の壁が・・」
「何の話しだよっ!? 気にするの意味が違う!! 誰がシスコンだ誰がっ!?」
「え? 俺だけど? 俺シスコンだよ? 蘭愛してるよ? 結婚してくれ。」
「ぶふぉっ!? いきなり気色悪い事言わないでよ馬鹿兄っ! ひぃぃ! 鳥肌立った!」
「そんなに喜ぶなよ。だが俺達には兄妹という壁がある。悪いがお前の気持ちには答えられない。諦めてくれ蘭。お前にはきっと良い人が現れるさ。」
「なんで私がお兄に告白したような話になってんのよおぉぉぉっ!?」
「というわけで、一夏。蘭を貰ってやってくれ。俺が義兄さんになるってことで我慢してくれないか? お前の俺への想いは嬉しいが、これが一番ベストな未来だ。」
「えええぇぇぇぇっ!? ばばばば馬鹿兄ぃっ!? なななななにゃに言ってんのよー!?」
「だから違うって言ってんだよぉぉぉ!? なんで俺がお前に恋してるような話しになってんだコラァ!? 別に好きじゃねぇよお前なんか!!」
「・・・・・・・・・・・ひっで、・・・・親友だと・・・思ってたのに・・・・。」
「・・いや待て。マジで傷ついた顔するな。俺も友達だと思ってる。すまん。言い過ぎた謝る。」
「まぁそんなことはどうでもいい。で? 蘭は嫁に貰ってくれんの?」
「・・・・うわ、こいつマジムカつく・・・!!」
「ちょっと弾! 何自分の妹売り込んでんのよっ!? そんなの認めないわよっ!」
「え!? まさか鈴お前・・・・蘭のことを・・!? ダメだダメだ! 女同士なんて!! 家の蘭をその道に引きずり込まないでくれ!!」
「ちっがぁぁぁぁぁうっ!」
「喧しいぞガキ共っ! 騒ぐんなら外に出ろっ!!」
「全く、しょうがない奴らだな。三人とも静かにしろ。ここは食堂。憩いの場だぞ?」
「「「お前のせいだ―――――――――――っ!」」」



その後、きれいに一夏と二人揃って爺ちゃんの拳骨をもらった俺達でした。

ちなみに鈴と蘭は対象外。鈴は女の子やから大目に見てもらって、爺ちゃん蘭に甘いからな。損な役回りだぜ野郎ってのはよぅ。

とりあえず、四人で祭りに行くことになったとだけ記しておこう。


五反田食堂、俺達四人集まれば毎日騒ぎが起こります。寄ってみようよ五反田食堂。


しかし・・・『織斑 一夏』ね。

なんかものすごい面倒に巻き込もうとする要注意人物って感じがするんだが・・・まさか俺にまで妙なフラグ立てやがったかこいつ・・・・あらイヤン。

なーんか予感めいたモノを感じる今日この頃です。





後書き

弾の性格がものすごい破天荒になってしまいました。この先どうなるのか自分でも展開が分りません。でも頑張って書きつづけたいと思います。さて、弾は原作知識はあるようですけど・・・・・どうやら記憶から引っ張り出すことは出来ないようです。次回、あの天災が来襲です。



[27655] 第三話   天災一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 12:48
ちわーっす。毎度お馴染みの五反田 弾です。

途中、ライバル店のチャイナっ娘である鈴が、事情により故郷の中国に帰る別れイベントが発生し、ちょっと周りが静かになりました。

見送りの時は盛大に泣いてあげました『捨てないで―!!』って。鈴に殺されかけぜ。最近リカバーが追いついていない気がする。

そういや最後に一夏と何か話してたけど、そこは空気読んで離れたから何話したのかは分らん。一夏の様子を見るに告ったわけじゃなさそうだが・・・・ま、いいか。

蘭の奴もなんだかんだ言って最後は泣いちゃったしなぁ。

泣く所を一夏に見せたくないのか、俺の服に顔を埋めて涙を拭いていましたよ。こらこら、兄をハンカチ代わりに使うな。

こういう時は一夏に縋り、か弱さをアピールするべきでしょうに、チャンスを生かせん妹ですな。不憫な。






それから特に目立った事件も無く、平穏無事に日常が過ぎていったなぁ。






『嘘吐かない! この馬鹿兄!! 私の通う女子校に来て、校門を強行突破したくせにっ!! あの後、シスター達に呼び出されて散々だったんだからぁぁぁっ! というかいつの間に学校に配達メニューを配ってたのよ!? おかげで毎日毎日新メニューないのか聞かれてるんだからぁぁぁぁ!! あげくになんかお兄にまで興味もったこ・・・と、とにかく何て事してくれたのよお兄の馬鹿ぁぁぁぁぁ!』


『おいこら嘘吐くな!? 俺の写真を勝手に売り捌いてたくせに!! というか、風呂上がりの時の写真なんていつ撮ったんだテメェ!? 回収するの大変だったんだぞコラァッ!? しかも何でお前が千冬姉の携帯番号知ってんだ!? ちょっと表に出ろや!? 事と次第によっちゃ容赦しねぇぇぇぞぉぉぉぉっ!?』


『最近、なんだかお父さんが弾の作った料理の残り物を口にして、妙に寂しそうにしていたのよね。この前なんてお酒飲みながら『・・・上手くなりやがって畜生め』って笑いながら泣いていたのよ。・・・・弾? あんまり早く上達しないでね? お父さん、弾に料理を教えている時が一番楽しそうなの。ゆっくり上がってらっしゃい。』


『・・・・・・・・弾、父を忘れないでくれ。』



うん? 何か外野が煩いな?おいおい、落ち着けよ。クールに行こうぜみんな。

さて、気を取り直してと・・・時は流れて今現在。俺は今何をしているかというと―――・・



――――五反田 弾、ただいま自転車に跨り出前の配達中!!!



五反田食堂の頼れる配達の相棒、『四代目五反田号』のペダルを漕ぎながら、街を爆走中ですッ!!(ちなみに歴代達の息の根を止めたのは全部俺です。)

最近特に評判の、五反田食堂です!!


――――――期間限定・・・出前、始めました・・・・(エコー)――――――


の、看板が映える五反田食堂!! 早い!! 美味い!! 安い!! が自慢です!!

さぁ今日も、腹を空かせるお客さんの元へ! 貧乏学生の救世主となるべく風になりますっ!!


出前の予約は午前十時から午後一時まで承っております御贔屓に!! それ以外のお時間はどうぞ足を運んでみてくださいなっ!!



五反田 弾。五反田食堂二代目を夢見て絶賛配達中。いつか貰うぜ『業火野菜炒め免許皆伝』!! 今日も良い汗掻いてます。



*   *   *



さて、出前も無事終了した俺こと弾です。

後は、食堂で俺を待つ店主爺ちゃん、二枚看板の母と妹の元へ帰るだけなんだが・・・・・


ここで問題発生。


目の前に、なんか地面からウサミミが生えている場面に遭遇。

横に【優しく引っこ抜いてね❤】の張り紙がしてある凝り具合・・・匠の技だ。


フム・・・・? 何かのアートかなにかか? ちなみに俺は美的センスはないから良く分からんです。昔、蘭をモデルに粘土細工したら・・・・・・おおおおおおおおおお!? 何故だ!? 記憶にロックが掛かってる!? ええい鍵は何処だ俺の脳! ・・・・・え破棄した? 開けない方がいい? 協議会で議した? ・・・なんだよ畜生、最近俺だけのけものにして、右脳も左脳もひでぇや・・・・。

まぁ、なにはともかく。俺はどうするべきかね?


1、引っこ抜く。

2、踏む。

3、無視する。

4、電話を掛ける。

5、愛を囁く。


さてどうしようか? 答えは・・・・・まぁ最初から一つしかないな。この状況で選ぶならこれしかないだろう。


ピッ・・・・・・・プルルルル――――――ガチャ!


『はい! お電話ありがとうございます! 五反田食堂です!』
「今夜はうさ鍋だっ!!」


ドガチャンッ――――――!!


ツー・・・・・・・ツー・・・・・・


「―――――しまった!? 姿焼の方が好みだったか!? ええい年頃の妹の好みが分らん! 最近カロリー気にしてたしヘルシーなモノをチョイスした方が良いのか!?」
「【ズボッ!】結局私を食べる事前提なのっ!? というか遅いっ! 引っこ抜けよ―! 先に進めないだろー!!」
「え・・・・頂いても・・・?(じゅるり)」
「あわわわわわ・・・てて貞操ピンチ!? いっくんの話し以上に変だよコレ!?」
「『いっくん』? え? あなた一郎の知り合いですか? なーんだ、そうか! どうも、いつも一郎には大変お世話に――――」
「誰だよっ!? いっくんはいっくんだよ! なんで分かんないの!?」
「謝れコラ。いくら女性でも言っていい事と悪い事がある。全世界のいっくんに謝れ。」
「いきなり切れだしたよっ!?」
「『いっくん』といえば一郎に決まってんだろう。常識だ。」
「いっくんといえば『織斑 一夏』じゃないの!? というか誰だよ一郎っ!? はっ!? こ、この私が突っ込みにまわってる!? そんな馬鹿なっ!」
「ああ・・・・いたなぁそんな奴も。ふふ、もうそんなに経つのか・・・・・」
「何で過去形!? いっくんをどうした! 私の興味対象に何かしたら・・・!?」
「昨日・・・赤点取ったからなぁ。あいつ千冬さんにばれて生きてられるかな・・?」
「・・・・・・・・・・・・わぁ・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・いい奴だった・・・・・。」


横に居るウサミミ女性と一緒に空を見上げ、俺達はしばらく黙祷した。


ところで、誰だこのウサミミさん?




*   *   *




とりあえず、近くの公園のベンチに腰を下ろす俺とウサミミ。ジュース片手にお喋りタイム。

傍から見たどんな感じに見えるかね? 片や不思議の国のアリスさん、片やバンダナ、エプロン姿の食堂ルック。

うん、微妙な関係には見えるね。


「やぁやぁ! 聞いた話し以上に変な奴だね君は! 名前は覚える気なかったから良く覚えていないんだよこれがまた。まぁ別にいいよね名前ぐらい」
「うん、まぁ困らんな? ところでゴンゾーさん聞いても良いですか?」
「やっぱり自己紹介って大切だね! ちーちゃんにも怒られたし! 別に妙な名前で呼ばれたのがイラッときた訳じゃないよホントだよ?」
「・・・・・自信作だったんだが・・・」
「勝手に人の名前を決めるなんて何調子乗ってるのかな君は?」
「で? 貴女のソウルネームは?」
「どうしよう!? 本名聞くきないよコレ!?」
「ちなみに俺は本名、ソウルネーム共に五反田 弾という。愛のこもった我が名前! これ以上の名は蘭以外無いと思う今日この頃です。」
「私は篠ノ之 束さ! 参ったか!!」
「ふっ、・・・・・・・勝った・・・!!」
「勝敗の判定基準が分らないね?」
「俺の胸三寸。」
「ムカつくね! というか私の名前聞いて驚かないの? テレビ見なよ。」
「大食い早食い対決? ふざけんな畜生。料理人が魂込めて作ってんだ! 味わって食え!」
「・・・・・・どうしよっかな? 流石に此処まで変だとは想定外。うんうん、流石ちーちゃんといっくんが興味もっただけはあるね。」
「ん? 千冬さんのお知り合い? ・・・・千冬さん・・・・友達選ぼうよ・・・」
「その言葉そっくりそのまま君に返すよっ!? というかなんでちーちゃんのことは普通に分るんだよ!?」
「女性を間違える訳なかろう!・・・後・・・友達ですんません・・。」
「律儀に受け止めたよっ!! あはははははは!! うんうん! おもしろいね!! 準興味対象に認定してあげよう!」
「副賞つきます!? どんな物ですか!?」
「まさかのオマケ狙いだね。うふふ私なんてどう?」
「ちょっと、そこの茂み行こうか・・・・?」
「嘘ウソうそっ!! やめて離せそんな真剣な顔でよるな手を掴むなうわぁぁぁぁぁぁんほうきちゃぁぁぁぁぁぁぁん!?」


もう少しで警察呼ばれる所でした♪

昼間の公園って人が多いよね。冗談で済まない女尊男卑社会! 紳士な俺は昔からそうだから特に気にしない世の中です! 野郎共! 黙って女性を受け止めよ!!


ところで、本当に誰このウサミミさん? 束さん?

特に一夏からも千冬さんからも聞いたことのないレディだ。しかし俺のことは知っていると。ふむ、まぁいいか。

その後、逃げるように(本気で逃げた)走り去り、何処にあったのか人参型のロケットに乗って夢の国へ飛び立った束さん。

不思議の国で為すべき事を為しに行ったようですね。・・・頑張れ!! ちなみに空から紙切れが降って来て、掴んで覗き込んでみると、



『覚えてろー!!バイバイキーン!』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・デキる。



最大の強敵の出現に俺は戦慄を隠せなかった。



その後すぐ食堂に帰った俺を待っていたのは、爺ちゃんと蘭のコンビネーションアタック『五反田クロスブレイク』だった。爺ちゃんの剛腕と、蘭の美脚に挟み撃ちにされる天国と地獄を味わえる一品です。



何はともあれ、五反田食堂。本日も絶賛好評営業中。








【???SIDE】


「ふんふん! なるほどね、変な奴だけど面白い。私に耳かき一杯分でも興味を持たせたことに驚きだよ! 五反田 弾くん。ダっくんと命名しようねイエ―。アヒルみたいだけどなかなかどうして良いあだ名だね。」



そこは真っ暗な場所、誰にも探せない私の世界



君は辿りつけるかな。



「ふんふん、おもしろい、良いね実に。久しぶりに気分が良いよ。」



――――君もそう思わない?



視線の先、淡い光を放つ私のコドモ。



―――――468体目の、作り上げる気はなかった私のコドモ。




「さてさて、どうしようかな? 楽しいね。君はどんな舞台に仕上げてくれるかな? 笑わす道化? 姫を助ける騎士? はたまた悪い魔法使いかな?」




一目見て分かったよ。君は私に少し似ているよ。




この世界を、どこかブラウン管の外側から眺めている様な君の姿が眼に浮かぶ。




傍観者でいられるかな?




器と中身がチグハグな君という存在。





楽しいな、愉しいな、たのしいな。






この日、





一人の天災が、楽しい玩具見つけたように嗤っていた。






後書き

束さん登場です。さて目を付けられた弾は一体どうするのでしょうか?五反田食堂二代目の道は険しさを増すようです。さて次回、ついに弾がISと接触。続けてどうぞ。



[27655] 第四話   試験日一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 12:44
「ちわっす。貴女の隣人、五反田 弾です。」
「おい、いきなりなんだよ弾?」
「挨拶だぞ? 初対面の人や、親しい人に会った時に行う礼儀の一つでな―――?」
「誰も説明頼んでねぇよ! なんで頭上見上げていきなり挨拶したのか聞いてんだよ!」
「は? なんでそんなことお前に説明する必要があるの?」
「・・・・・・なんでだ。こいつに素っ気なくされるとすごい傷つく・・・!?」


ウサミミ束さんが夢の国へ旅立ってからまた少し月日が流れた。

ちなみ一夏に確認したところ、いきなり電話があって『ちーちゃんの言ってた変人って誰さ? いっくんがよく知ってるって聞いたんだけどなんじゃらほい?』と聞かれ、俺のことだと普通に気付いたらしい。変人じゃない! 紳士だ! 失礼な。


ただいま俺こと五反田 弾は、五反田食堂にて早朝の仕込みを行っております!

目の前には、我が友一夏がカツ丼を頬張る萌え時空が発生中。女の子の黄色い歓声が聞こえてきそうな今日この頃です。


ちなみに現在、まだ五反田食堂は開店していない。

それなのに何故、一夏が朝食を家でとってんねんて話だが。何を隠そう今日は一夏の『藍越学園』の受験日当日なのである。

心優しい俺は、一夏の家に襲撃をかけ、まだ眠いと愚図る一夏を蹴り飛ばし覚醒させ我が食堂で『これを食べれば受かるかもカツ丼』を食わせてやっているのだ。

ああ、なんて美しい友情か・・・・・・あ、ちなみに350円な?毎度。


「うぷっ・・! 朝からこってりした飯食わせた挙句に金取りやがって・・!! なんか俺に恨みでもあんのかよ・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「おいコラ待て。思い詰めた表情で包丁を眺めるな怖ぇよ!?」
「・・・・・最近研いでねぇな。後で研ぐかな? ん? どうした一夏?」
「・・・・・もうヤダこいつ・・・!!」
「あれはお前用じゃねぇよ?」
「安心できない台詞ありがとうよチクショウっ!!」
「いや~」
「褒めてねぇよ!! ああくそ俺一人じゃ突っ込み追いつかねぇ!!鈴がいた頃が懐かしいぜっ・・・・!!」
「ところでゆっくりしていて大丈夫か?電車に間に合うか?」
「え?・・・ああ、大丈夫だろ今から出ても十分間に合――――・・」
「あれ三十分遅れてるんだが。」
「早く言えよぉぉぉぉぉぉ――――――――っ!?」
「うっそーん! ははは騙されてやんのうぼろげぇあっ!?」


一夏の唸る拳が俺にクリーンヒット!! 弾は150のダメージを受けた!

さすがは千冬さんの弟だ・・・良い拳もってるじゃねぇかっ・・・・・・!!

とりあえず立ち上がり、肩で息している一夏に向き直る。俺のリスポーン能力を甘く見るなよ後悔するよ?


「心臓に悪いわ馬鹿野郎!!」
「リラックスさせようかと思った友心だ。まぁ大目に見ろ。」
「いらんわそんな気遣い!!」
「それと、餞別としてこれを持って行け一夏。試験で役に立つこと間違いなしだ。」
「ん? ・・・・なんだこの紙?暗記シートか何か?」
「カンニングペーパー。」
「昨年のカンニング事件を俺に再現させたいのかお前はっ!?」
「大丈夫、前回は失敗し――――――・・・・いやなんでもない。」
「お前まさか黒幕っ!?」
「おい、そろそろヤバいぞ。電車の時間。」
「だぁぁぁぁ!? 色々言いたいことあるのに狙ったようなタイムアップに腹が立つ!!」
「頑張ってこい、一夏!」
「そこだけ見りゃ良い友人だと誤解するけど、色々台無しだからなっ!?」
「落ちて、滑って、転ぶなよっ!!」
「禁句を連発すんなこらぁっ! 行って来るよ!」



食堂の扉を乱暴に開け放ち、一夏は駅へと走り出しっていった。
うむ、素晴らしき友情の一コマだな。



走り去る友人の背中を見送り、俺は食堂の暖簾を上げる。



五反田食堂、本日も平穏無事に開店です。



*   *   *



―――さて、時間はちょっと過ぎて。

いつものように、爺ちゃんと一緒に厨房にて奮闘を繰り広げている俺。

ん? お前は受験どうしたって?

ああ、俺はもう終わったよ自分の志望校の試験は。俺は家から最も近い、市立の高校に通うからな。就職難なご時世だが、俺は五反田食堂二代目を目指しているのさ!!

学校が近けりゃそれだけ早く食堂に帰れるからねぇ、修行中の身としては願ったりかなったりですよ。

あ、もちろん落ちないよう勉強したぜぃ! 高校にも行けん奴に、家は継がせられんて爺ちゃんに脅されたからな・・・・・・マジで必死こいて勉強したぜ・・・。

入試の為学校も休校中、そんな時は食堂で腕磨くにもってこいだね!!


「一夏さん、大丈夫かな・・・・?」
「駄目じゃね?」
「なんでさも当然のように酷い事言うのよ!? 馬鹿兄!」


客足も落ち着いたころ、蘭がカウンターで一夏のことを案じていた。

いや、おそらくアイツ絶対何かやらかしそうな気がするんだよね? それも高い確率で。何故だろうね? なんかそんな気がする。・・・はて?


「ま、もし駄目だったら盛大に祝ってやるさ。」
「祝うなっ! お兄は心配じゃないの!? 薄情者!」
「落ちた瞬間、あいつの未来は強制的に蘭の婿になるからなー。くく、こき使ってやるぜ!」
「・・・・え?・・・・・な・・・何それ・・・・?」
「今ちょっと『落ちても良いかな?』って思ったな?」
「そそそそそそそそんな訳ないじゃないっ!! ばばば馬鹿じゃないの!?」

ピッ

「あ? もしもしー? 今、蘭がなー?」
「きゃあああああっ!? 何やってんのお兄ぃぃぃっ!?」
「あ・・・こら兄の携帯・・・ゴハッ!?」


蘭の蹴りが俺の顎を跳ね上げ。俺の手から滑り落ちた携帯電話を、素早く取り上げ耳にあてる蘭。

――――ふ、相変わらず良い蹴り持ってるじゃねぇか・・・・・・!!

しかしな蘭?


「あ! いいいい一夏さん!? 別に何でもありませんからねっ!? 試験頑張って――・・!!」
『・・・・は? 俺一夏じゃないよ? もしかして蘭ちゃん? 俺は数馬だけど?』

そいつ御手洗 数馬くんだよ?

「間違えました。すみません。それでは。」


ピッ


ゆっくりと蘭が俺に振り返る。

その顔は、羞恥と怒りで真っ赤になっていて、涙目になってプルプル震えていた。
ふおおおおぉぉぉ!?


「兄を萌え殺す気か蘭!?」
「お・・・・お兄の馬ぁ鹿ぁぁぁ――――――――――――――――っ!!」
「うるせぇぞ弾!! お前また蘭に何かしたのか――――っ!?」


妹の怒声が響き渡った! 爺ちゃんが現れた!! 敵の攻撃。二人の合体攻撃!!


「え? あ、ちょい待って? さすがに『五反田クロスブレイク』はちょっとって!? ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」





五反田食堂に俺の絶叫が響き渡って、12時の時刻をお伝えしました♪



*   *   *



―――――ガシャガシャガシャ(ペダルを漕ぐよ何処までも)


「へいへーい! 退いた退いたー! あ、おばぁさん横断歩道一緒に渡りましょうね。・・あん? なんだじぃさんあっち行け。荷物? テメェで持て。急いでんだよこっちは! あ、おばあさん!? 危ないよ! てめこら止まれや下手くそドライバー!! おお!? 流石は美しいお姉様! 見た目同様美しい心お持ちですね! 自動車の運転も素敵です!」


只今、『六代目五反田号』(!?)に跨り、俺は配達のため街を絶賛疾走中!

途中お年寄り(女性限定)の気遣いも忘れない。しかし最近の運転野郎はマナーがなっちゃいねぇ! 先程の女性のように横断歩道で一時停止もできんのかカスがっ!!

そんな日本紳士達の心が薄れる世に憂いながら、今日も元気に出前の配達です!!

さて? お次は何処のお宅だったか――――・・・・?


【らら♪らん・らら・らんらんらん♪らん・らんらららーん♪】(蒼き衣を纏う少女の歌)


ん? 俺の携帯から妹のテーマソングが?

ちなみに俺のテーマソングは『ターミ・ネー○ー』にするか、有名な作曲家の『運命』にするか悩んでいる。難しい問題だ。


ピッ


「どうした蘭? オー○の襲撃か? 虫笛どうした?」
『まだ私の着信音変えてないわね馬鹿兄!? やめてって言ってるでしょうが!!』
「今配達中なんだ、すまんが巨○兵は準備できんぞ?」
『・・・・・・・・・・グスッ・・・!!』
「すまん悪かった!! マジ調子乗ってましたすんません!!」


携帯を地面に置き、その前で土下座をかます。

周囲がメチャメチャ変な視線を向けて来るが知った事か!! 兄妹の絆のピンチだ!!

悪かった!! 名前ネタは止めます!! 帰ったら蘭の好きな『弾特製ミルフィーユパフェ』も作ります!! なんなら一夏の最新生写真も付けます!!

だからマジで泣かんといて―――――――っ!?

五反田 弾。愛する妹の涙にゃ滅法弱い弱点露呈。頭を擦りつける地面の冷たさが身に沁みます。




*   *   *




「えーと? 蘭から聞いた住所ならここら辺なんだがな?」

『六代目五反田号』に乗りやって来たのは、多目的ホール。

人の出入りが激しい為、『六代目五反田号』は駐輪場にドッキングさせ、出前片手に店内をウロウロ彷徨う。

しかし無茶な注文だったな?

俺は蘭との会話を思い出しながら、ホール内を歩き続けた。


~回想~


『注文したお客さんが、どうしても外せない用事で出かけちゃったらしいの。だからお客さんの向かった場所に届けてくれないかって電話があって。』
「だからって。よりによって四駅先の多目的ホールの一室だぁ? 無茶すぎるだろう?」
『ならキャンセルしますかって聞いたんだけど、どーしても食べたいって言ってるらしくてさー。・・・・・断る?』
「野郎? 世界にときめく淑女達?」
『・・・・・・・聞いてどうするの?』
「判断する。」
『・・・・・・・・おん―――。』
「っしゃああああぁぁ!! 六代目!! もう一仕事だっ!!」
『・・・・・・・・じゃあ住所教えるね・・・・はぁぁ・・・』


~回想終了~


ふむ、全く日本紳士の特性を上手く掴んだ話だ。

五反田食堂の出前を心待ちにしている女性がいるとなれば、俺が動かん筈がないだろう!

さてさて? お腹を空かせたレディの待つ部屋は何処かね?

しかし分かりにくい構造してんなこのホール。構成したの絶対野郎だ、ふざけんなコラ!

心の内でブチブチ文句を呟きながら進むこと数分。


「お? 此処だな『第二IS学園試験会場』。つーことは第一もあんのか。広いホールだから当然か?」


蘭に教えてもらった住所を殴り書きした手元の紙と、一室の横に張り付けてある名前を確認する。うむ間違いない。


「さて、気合いを入れなおしてー・・・・」


バンッ!!


「ちわーっす!! 毎度五反田食堂です!! お頼みの出前を御届けに参上しましたー!!」


元気よく腹の底から声を出す!! 食堂は第一印象が大事です!!


・・・・・っておろ?


しーん・・・・・・・・・・・・・



「・・・・真っ暗じゃねーか。誰もいない? 場所が違うのか?」


もう一度部屋を出て確認。

・・・・・間違いなくここだよな?


「まだ来てないとかか?・・・いやでも・・・・ふむ?」


部屋を見回してみても真っ暗。

明りが点いてないというよりも、ついさっきまでこの部屋を使用したっていう様子が感じられない。

そんな妙な違和感を感じ、俺は内心頭をひねった。

なんだろうか、このなんともいえない空気。あれだ、なんか釈然としない。

・・・・・・・なーんか、嵌められたような気がする。まぁ誰がってな話になるが、俺を嵌めてメリットがある奴なんているかね?


きな臭い。頭で警報が鳴っている気がする。


「・・・・・・・入りますよー?」


とりあえず中に入って電気を探す。

こう真っ暗じゃ待つこともできんしな、えーと電気電気と・・・・


ボゥ――――・・・・・


暗闇の先で、淡い緑色の光が浮かんだ。


「・・・・・おう? なんだ? 怪談にゃ時期が悪いぞ?」


光を目指して進む。



そこに浮かんでいたのは・・・・・・



「・・・・おいおい、こんなもん放置してお出かけって・・・マジかよ。」



世界にその名を轟かす、全世界の女性達の矛。

歴史を刻んだ数々の兵器を『鉄屑』へと変えた、稀代の産物。



【インフィニット・ストラトス】通称【IS】が、悠然と鎮座していた。


その神々しくも、何処か不気味な空気を漂わせる目の前のISを前に、俺は思わず口を開く。


「・・・・・まさかとは思うけど、お前が俺を呼んだとか? もしかして出前頼んだのお前だったり? 笑えねーな・・・・。さてどうするか?」


目の前のISはただ鎮座している。
まるで何かを待っているように―――――・・・。




己が主を待っているかのように。



「いやいやまさかなー。だってISだぜ? 野郎呼ぶ訳ねーわな! 女の子にしか使えないって話だし!! それに、俺にそんな何処ぞの主人公のような展開ある訳ないわっ!!」


だははははー! と笑い飛ばす。いや、なにシリアス気取ってんだか俺は!!

ISがあろうが無かろうが、俺の出前にゃ関係なし! さっさと用事を済ませて食堂に戻るとするかね。


「とりあえずどうすっかなー? 第一試験場に行って聞いてみるか。もしかしたらそっちに行ってるかも知れねーし。」


やること決めてさっさと出るか。そう思って踵を返そうとして――――ふと止まる。


「・・・・・と、そうだった。ISに出会えたら言いたい事あったんだ」


良い機会だし言っとくか。


目の前のISに向き直り、出前をちょっと横にどかす。
さて、俺は少し顔を引き締める。


「ま、とりあえずは。お前を通して全てのISへ向けて―――――・・・」


――― 俺は心内を、そのままに言葉に乗せた。




「――――――――ありがとう。生まれてくれて。」




心からの感謝を。


「お前達のお陰で、女の人達はより強くなれた。」


過去を紐解くと、そこにあるのは女性には辛く悲しく厳しい現実。


時代の為に、望まない運命に全うした女性もいた。


悲しい生涯に身を閉じた女性もいた。


女だからという理由で、評価されない人もいた。


なんでそんな酷い事出来るんだ?


理解出来ているのか? 子供を宿し産んでくれるのは女なんだぞ?


忘れてないか? 時代を繋いでくれているのは女なんだぞ?


女は本当は強い、力じゃない。心は男なんか比べられないくらい強い。


そんな彼女達を力で抑えつけた俺達男には、いつか報いが来る。


「――――そして、お前達が現れた。」


最初聞いた時は驚いたぜ? 話し流してた俺が恥ずかしい。


女性にしか扱えない最強の矛であり楯。


男達に贖罪の時代の到来を突き付けた、全ての女性の救世主。


「――――――――ありがとう。」


もう一度感謝を。


願わくば、どうかこれからも、この先もずっと―――――・・・・・


「――――――その翼で、世界中の女の人を護ってくれないか?」


意識した訳じゃない。


ただ自然と俺の指先が目の前の、ISに伸び―――――――・・触れた。








【操縦者の接触を確認―――――起動開始。】







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


途端に目の前に光が走る。


「・・・・おいおいおいおいおい? マジかよ!?」


流れてくる情報、基本動作・操縦方法・性能・特性・現在の装備――――・・・


吸いつくように絡みつく思考。


この時を、この瞬間を待っていたかのように産声を上げる、目の前のIS。



「・・・・・動く・・・・のかよ!?」



【フォーマット・フィッティング開始】



・・・・・ああ成程ね。理解したぜ、こんちくしょう。

絡みついてくる思考のの中で、俺はこのISの中に眠る意思を、僅かに・・・だが確かに感じ取ることができた。


「・・・・・・・マジで俺を呼んだのはお前って訳か?」


俺の問いかけに応えるように、目の前のISは一層輝きを増していく。

ああそうかい。



「―――――――どうすっかね? ああクソ・・・! とりあえず!!」





















―――――――― 出前だっ!! 協力しろこの野郎!!



*   *   *



「ちわーっす!! 毎度五反田食堂です!! へいお待ち!!」
「あー、どうもどうもありが―――――・・・・・・あ?」
「お頼みの『業火野菜炒め』です! いやすんません遅くなって!!」
「・・・あ・・・いや・・・・」
「その分安くしときますんで!えーと・・・」
「・・・・・・あの・・・・」
「はい? なんすか?」
「・・・・・・それ・・・あ・・・IS・・?」
「ですね。」
「・・・・・・・あ・・あれ?・・君って男じゃ・・・・?」
「はい、野郎っすよ?」
「・・・・・・・・・・な・・なんで・・・・動・・・・!!?」

『そこのIS!! 止まりなさい!!』

「ちぃ!? もう追いついて気やがった!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「すんません! 先急いでますんで!! ツケときますから今日はこの辺で!!」

『私的でのISの運用は―――――って!? ええぇぇ!? 男ぉ!?』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「すんません!! 大目に見てください!! まだ三つ出前が残ってんですよ!!」


『はぁ!?』


「―――――よし行くぞ!! 【七代目五反田号】!! 次は二丁目の鈴木さんだ!」
【目的地を表示します】
「おお!? 流石ハイテク!! 最短距離で頼む!!」
【了解。最短コースを提示】
「よっしゃ行くぜ!!」


キュボッ――――――ドヒュー――――――・・・・・・・・・!!!!(風になる)



『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(呆然と見送る)』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(思考停止中)」




『「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」』




この日、世界初ISの起動が出来る男子が二人見つかり。


世界初、ISで出前を行う男子が現れ、世界中を混乱と驚愕の渦に巻き込んだ。


ちなみに世界最強の称号を持つ女性は、含んでいたコーヒーを盛大に吹き出し、隣に居た巨乳眼鏡の後輩にぶちまけ。


とある天災は、盛大にズッコケ、すぐに爆笑し呼吸困難に陥いり。


もう一人のISを起動させた少年は「誰も予想なんてできねぇよ・・あいつの行動は」と、悟った様な眼差しで虚空を見上げていたそうな。



五反田食堂に『ISでの出前承ってます。』って付けるべきかね?

・・・・なにげにありだな。うむ。

とりあえず、爺ちゃんや母さん、なにより蘭になんて言おうか?
悩み多き今日この頃です。




後書き

弾にとって、IS起動は即座に『出前の運用手段』として導き出されたようです。さて、次回、ついに一巻の物語軸が開始です。
・・・・本当にこの先の展開が自分でも分かりません。



[27655] 第五話   入学一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 13:06
ちわっす、撲滅寸前の日本紳士こと五反田 弾です。

みなさま世界中で阿鼻叫喚なニュースが飛び交う昨今、いかがお過ごしでしょうか?

俺こと弾は、【七代目五反田号】との出会いにより、色々周りで起きました。

あの後、普通に食堂に戻った俺ですが、ISを見た瞬間に母さんが、


『こらっ弾! 元の場所に戻してらっしゃい! 家には置きませんからね!?』


と、出会いがしらに『七代目五反田号』返却するよう窘められました。

そんな! ご無体なお母様!?

もちろん俺は必死に説得した。今度はちゃんと面倒みるから! と、でも母さんは譲らない。『その言葉は聞きあきました』の一点張り! ええい! なんて頑固な!!

横では、妹の蘭が

『ああ・・・やっぱりお母さん、お兄のお母さんだ・・・』

と、なにかすごく絶望した顔をして泣いてたけどってどうした!? さっきまで『弾特製ミルフィーユパフェ』を頬張り、一夏の生写真を見てご機嫌だったというのに!?

誰だ蘭を泣かした奴は!? ぶん殴ってやる! と息巻くと、普通に爺ちゃんに殴られた。顔はやめろよ!! 爺ちゃんみたいに潰れてねぇんだから!!

・・・・・・・・もう一発殴られました。

その後は、やれ六代目はどうしたとか、やれ見てくれ弱火! 中火! 強火も思いのままだぜとか、やれ掃除機が今欲しいの母さんはとか、やれほらほら食材もこんなにきれいに微塵切りとか、やれまな板切るな馬鹿野郎とか、わんわんぎゃんぎゃんと家族会議勃発。

途中誰か『・・・・・・・・ただいま』とか聞こえたが誰も気にしない。やかましい!! 今大事な家族会議中だ!! と全員で怒鳴り散らした。全く! 空気読めん親父だ!!

でもその後すぐに食堂の扉が勢いよく開いて、なんか黒服の連中が突入してきた。

でも今は家族会議中。爺ちゃんの剛腕一薙ぎで店の外へ吹っ飛んだ。

もう閉店時間だというのに何を考えているのか、マナーのなっていない客は客じゃねぇ! 五反田食堂十カ条の一つだ覚えとけ野郎共!!



そしてさらにヒートアップする家族会議の中現れたのは。



俺の親友、『織斑 一夏』の無敵に素敵なお姉様。『織斑 千冬』さんだった。


スーツ姿でビシッと決めた姿に心奪われかけるも、『へいらっしゃい!!』と返事を返す俺、女性の為なら二十四時間営業も辞さないこの俺です!

・・・あ、爺ちゃん何その溜息?

そんな千冬さんが、俺の姿を捉えた瞬間―――――・・・・。









身の毛もよだつ、狂った様な笑みを浮かべ突進してきた。








思いっきりぶん殴られた上に、襟を掴み片手で俺を空中へ持ちあげる!!

そして、両手で首を絞めあげ左右にガックンガックン揺すり――――――・・・・・


『貴様は私に何度薬局に向かわせれば気が済むんだ!!? あ゛ぁっ!? 店員に顔覚えられた挙句! 当然のように胃薬を差し出された私の気持ちが、お前に分かるかぁぁぁっ!? ポイントも貯まって栄養ドリンクがついてきたぞこの馬鹿者がああああぁぁぁぁぁぁ!!』



血走った眼で睨みつけられ、怒鳴り散らされました。

お・・・落ち着いてくれ千冬さん。蘭が怖がって震えてるからマジやめて・・・・。

その後、千冬さんを追って来たらしい、眼鏡巨乳の美人さんがやってきて千冬さんを羽交い絞めにして泣き叫んで止めようと奮戦。


『先輩ぃぃ!! ブレイク!! ブレイクゥッ!! おおおお落ち着いてくだしゃいいい!!』
『離せ――――っ!! こいつだけはもう勘弁ならん!! 一夏の教育にも私の胃袋にとっても害悪にしかならんこいつだけは――――――――っ!!』
『へい! とりあえずお二人とも落ち着いて! 『弾特製胃に優しい卵粥』でも作りますから! そんなに興奮しないで!』
『――――――――― 我嗚呼ああああああアアアアア゛ア゛―――――ッ!!(店内の窓全てにヒビ)』
『ひぃぃぃっ!? 先輩人語を喋ってくださいぃぃぃぃぃ!!』


・・・・まぁ、そんなすったもんだの挙句。なんとか千冬さんを宥めすかすことに成功。

途中、一夏も加わり合同家族会議へ進展する。


あ、こらこらそこの姉弟? 隅の方で


『一夏・・・何が不満だ? 私の何が気に食わない? 言ってみろ? 優先的に直す努力をしよう。』
『ち・・千冬姉!? どうしたんだよ!?めっちゃ震えてるぞ!?』
『いくら私に不満があるからといってもな・・・? ・・・一夏っ・・・・・・・これはないだろう・・・!?あんな奴と友達になるなんて、お前・・・・・・それはないだろう・・・・・!? なぁ・・・・!? いくらなんでも・・・・・お前っ・・・・・・・・! ・・これは・・・・・・・・駄目だろぉぉぉ・・・っ!?』
『千冬姉っ!? しっかりしてくれよ千冬姉っ!? 大丈夫! 俺が付いてる! 俺が傍にいるから!! 俺千冬姉のこと大好きだからっ!! な!?』


ってな感じで、弟の肩掴んで訴えてないでこっち来なさい。

そう言うと、千冬さんに修羅の様な形相で睨みつけられました・・・疲れてんのかな? 毎日大変そうだもんな千冬さんも。

・・・・え? 何だ一夏? は? その言葉を絶対千冬さんに言うな? なんで? 労ってるだけ・・・分かった分かった、血の涙流して肩掴むな。分かったよ。



まぁ、その後はようやく一夏に癒された千冬さんが正常に起動。



一夏と俺、二つの例外である俺達の、今後の事についての話し合いが始まった―――――・・・・・。




*   *   *




そして日が少し経ち――――――・・・・・


俺は荷物の入ったバックを肩にかけ、爺ちゃんと母さん、そして蘭と共に五反田食堂の入り口前に立っていた。

ま、早い話が、IS学園に強制入学って話だ。今日はその見送り。


「んじゃ、行ってくるぜ! 爺ちゃん、俺が帰るまで店潰すなよ?」
「ああん!? 馬鹿な事言ってんじゃねぇ!! そんことあるわきゃねぇだろう!」
「本当かよ・・・? ま、休日とかにゃちょくちょく帰るから。それまで出前も一時休業ってことで頼むぜ。」
「けっ! 帰って来ない方がせーせーするわっ!!」
「もう、お父さんたら無理しちゃって・・・、弾がようやく『業火野菜炒め』の味を受け継いでくれことにあんなに喜んでたくせに♪」
「なぁっ!? ば、馬鹿言え!! 喜んじゃいねぇよ!! 遅すぎて呆れてたんだ俺は!」
「はいはい♪」


そう、俺はようやく五反田食堂鉄板メニュー『業火野菜炒め』の免許皆伝を得ることが出来たのだ!!

ま、といっても爺ちゃんみたいに、二つ同時に調理する荒業はまだまだ精進が必要だけどな?

・・・・・ったく遠すぎんだよ爺ちゃんの背中はよ。


「いいか弾? あっちで修行を怠けてみろ? 一発で分かるからな!? そんときゃ容赦しねぇぞ!」
「分ってるって! ま、俺も良い機会だと思ってるからなー。くくく! 俺の腕がどれだけIS学園のエンジェル達に通用するか試してやるぜっ!!」
「・・・・・・その前に、お兄が避けられそう。」
「失礼な! 紳士である俺が避けられる筈は無いぞ!!」
「・・・・・・は~・・・全くもう! IS学園には料理修業の一環で行くわけじゃないでしょうお兄!? 自分の立場理解してる!?」
「次期五反田食堂二代目!! そして紳士!!」
「違うでしょ!? 一夏さんと同じ、世界でたった二人のISを起動させられる男子でしょ!? そんなんで大丈夫なの!? ISの訓練は厳しいって話したでしょ!?」
「あー・・・ISな。『七代目五反田号』の為にも頑張らんとなー」
「そうそう!なんだ分ってるじゃない!もうお兄ったら―――・・・・」
「どの位で免許とれんだろうな?」
「――――――んなのある訳ないでしょうが馬鹿兄!?」
「さすがに不味かったよな~、俺無免許運転だったんだし。ん!? 待てよ!? 免許ということは筆記試験もあるのか!? うわぁ、『七代目五反田号』で出前配達するには、まだまだ道は険しいぜ。」
「自動車学校とIS学園を混ぜ込むな――――――っ!! ISで出前なんて政府が許すか―――――っ!!」
「おいおい良いか蘭? 時代は変わるんだぜ?五反田食堂だって、変わっていかなきゃ!」
「けっ! いっちょ前な事言いやがって!」
「飯が美味くてIS出前速達便も可能な五反田食堂!! 明るい食堂の未来の為!二代目は努力を惜しまないぜ!!」
「ああああ・・・・駄目だ・・・! 本気の眼だ・・・・・!!」
「ついでに嫁も探してくるか。」
「本当に何しに行く気なのよぉ!? この馬鹿兄――――――――っ!?」
「もちろん! 『五反田食堂IS学園店』を開店する事も視野に入れてるぜ!!」
「「おお!」」
「『おお!』じゃな―――いっ!! お爺ちゃんもお母さんも関心しないでよ――っ!!」




妹の絶叫が蒼い空に響く中、とりあえず『五反田食堂』二代目筆頭候補 五反田 弾。
本家離れて、いざIS学園へ武者修行!待ってろよレディ達!!




ちょっと静かになるけれど、




五反田食堂は絶賛好評開店中。みんなでいこうぜ五反田食堂。




*   *   *




そして今現在。


場所はIS学園へ移り、只今俺は、クラスの一番後ろの席に座っています!!

ああ、何と素晴らしき空間!! 周りは一夏以外は全て女の子!! 夢のようです!!

そして教卓には、あの巨乳眼鏡の女神さま。

やばい! 此処は天国か!?

そんな中、一夏はガチガチに緊張しているようでブルブルと、小気味に震えていた。

チワワかお前は? うむ萌える。

そんな一夏に向かうのは、女子達の容赦ない視線。やはりフラグ乱立王の名は伊達じゃないということか。

ちなみに俺にも多少視線を感じるが、すぐに視線は一夏へ向く。そりゃそうだ。

俺は『まぁまぁかな?』止まりの準イケメン。一夏は『はぁ・・・・はぁ・・・堪んない・・・!!』レベルのイケメンだ、どっち見るかなんて比べるまでもない。羨ましいぜチクショウ!!

でもな? 一つだけ妙な視線を感じるのだよ。

俺はすぐ隣の席へ顔を向ける。そこに移るは一人の女子生徒。

ぶかぶかな制服が素敵な、どこかのほほ~んとした子だ。

ふむ、少し話して見るか?


「・・・・出前のひとだ~・・・・お~」
「YES! 出前のひとです。」
「おー、こんにちは~」
「ちわっす! どうも五反田 弾です。」
「えへへ~、私は布仏 本音っていうんだよ、よろしくねー」
「可愛い名前だな。萌えます。」
「えへへ~、ありがとー」
「お近づきの印に、これを食えばいいじゃない。」
「なになにー・・・・おー!チョコレートだー。」
「ハイ口あけて」
「あ~♪」
「・・・もごもぐ。うむ流石俺、美味いじゃないか」
「あー!? ひどいー! ひどいよだんだん~!」
「だんだん?」
「そー、だんだん~・・・チョコレートちょうだいよー」
「SHR中に間食なんて駄目だろう? 何を言ってんだ全く。」
「さっきだんだん食べたじゃないのー! ずるいー! ずーるーいー!」
「そうだな大人ってずるいよな・・・・分かる。凄い分かる。」
「話しきいてない~・・・・ううぅ・・・・・お菓子―・・・・・」


あらやだ、可愛いじゃないこの娘!

しょぼーんとした姿が俺の心をダイレクト!! うむ萌える。


「そんな貴女に朗報です! 二択問題、次の内正解はどれ?」
「なに~・・・?」
「正解すれば、『弾特製スペシャルムースパフェ』を御馳走!」
「する~! する~!」
「そうか、では答えてもらおう!! 正解はどっち!?」


1、一夏(攻め)×弾(受け)

2、弾(攻め)×一夏(受け)



「――――――シンキングタイム一分! レディGO!」
「え~!? どっちかなのー!?」
「・・・あ・・・あのちょっと? 何騒いでるの・・・? 先生に見つかるよ?」
「あ~、いい所に~! 一緒に考えて~!」
「え?一体何・・・・・ぶふぉ!? ななな!? えー!? 何!? 何これ!?」
「さぁ!残り四十秒!」
「どっちだと思う~?」
「え!? そ、そうね・・・1・・・あ・・・でも!?」
「私は1! 絶対1よ!」
「ちょっと待って! 2の方がおいしいじゃない!?」
「何言ってんのよ!! 断然1よ!!」
「あれ~? 答える人が増えてるー。」
「ちょちょちょっと!? みなさん何をしてるんですかー!? 今はSHR中で、自己紹介の時間ですよー!?」
「・・・おい弾? お前また何かやってんのか?」
「ただのクイズだ! さぁ!残り十秒!」
「ごごご五反田君!? 一体何をしているんですかー!? あうう! どうしよう! 織斑先生から、目を離すと危険って忠告されてたのにー!!」
「はぁ全く。おい弾、SHR中に一体何を・・・・・・って何だこれ?」
「俺とお前の関係を指している。正解はどっちだと思う?」
「意味分かんねぇ・・・・。」
「まぁ深く考えずに気楽に答えな少年!」
「「「「「・・・・・・・・ゴクッ・・・・・・・・」」」」」
「攻め受けってなんだよ。まぁ、どっちかって言うなら俺は攻撃がいいな。」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!!」」」」」
「――――なんだ!? いきなりなんだよ!?」
「・・・・一夏・・・・優しくしてくれよ・・・・?」
「何だ急に!? やめろ気色悪い!?」
「ねー? だんだん~・・・・パフェは~・・・・?」
「うーむ、答えられなかったしなー?」
「・・・・・・・・・・う~(しょぼーん)」
「ゴフッ・・・・(鼻血)!なにこの萌え動物・・・!?」
「いきなり鼻血吹くなよ!?」
「吐くのはいいのか?」
「なお悪いわっ!?」
「どっちだよ!? 我がままだな!!」
「もう黙ってろよお前!?」
「それはそうと、しょうがない。今回は特別に作ってやるぜ!! 感謝しろよ!!」
「わーい!やった~!」






「―――――――――そうか、では私からも褒美をやろう。」






時が止まった。


全員が押し黙り、先程の騒動が嘘のように静まり返る。


「・・・・・山田君? すまなかったな。害虫のようなとんでもない奴がいるクラスの挨拶をおしつけて・・・・・?」
「いいいいいいいいいいいいえぇぇぇ!? ととととととんでもにゃいでしゅ!?」


コツ・・・・・コツ・・・・・と、近付いてくる足音。

・・・・おおおぉぉぉ!? 何だこのプレッシャーは・・・・!?

全員がガタガタ震え、中には半泣きになっている娘もいる! 大丈夫か!?


「――――――全員、席に戻れ。」


シュバッ!っと、全員が残像を残し席に着戻る。

すげぇ!? 忍者か君達は!?


「くくく・・・・・今日も絶好調じゃないか・・・・? ごたんだぁあ?」


俺の席の前に立ち、千冬さんが俺を見下ろす。

わお、眼が殺人者のそれになっている・・・・・!?

これはまずいな・・・・此処は俺の冴えわたる機転で和まそう! それしか手は無い!!


「―――――織斑先生。」
「・・・・・・・なんだ・・・?」
「今日もお美しいですね!」
「・・・・・・・で・・・・?」
「・・・・・最近お疲れ気味で?」
「・・・・・・・・・ああ・・・私の目の前の奴のせいでな・・・?」
「そうですか~。そりゃ大変ですな。あっはっはっは~♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ビキッ!)」
「そういやお腹の調子どうですか? なんかこの前つらそうでしてから心配だったんですが。」
「・・・・・・おかげさまで・・・・まぁた・・・・胃薬が切れてなぁぁ・・・・・?」


一夏が千冬さんの後ろで、必死に俺に合図を送っているのが見える。

うん?どうした顔が真っ青だぞ?


『そ・れ・い・じょ・う・は・や・め・て・く・れ・!』


落ち着け一夏分ってる。このままじゃ駄目だってことくらい。

だが俺を甘く見るなよ!?

これぞ起死回生の一手だぁっ!!


「おおう! それなら丁度良かった!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・?」


ゴソゴソと鞄をあさり、それを取り出す!

くらえぃっ! これぞ秘密兵器!!






「実は俺、胃薬を用意してきたんですっ!! 新商品みたいですが要ります?」









―――――五反田 弾。IS学園の初の授業は、天井から吊るされて受けました。




後書き

弾がIS学園に入学しました。でもその分千冬さんの胃の調子がカオス状態に。・・・・不憫すぎます。今回はあまり話しは進んでいませんね。さて次回、弾のIS『七代目五反田号』の待機状態が判明します。



[27655] 第六話   金髪一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 13:22
「―――――ちわっす! いつも貴女に真心を。五反田 弾です。」
「おー。戻って気たか弾。今日は長かったな?」
「だんだんが生き返ったー。わ~いパフェ~♪」
「ふー・・・あぶねぇ、あんまりにも深くまで落されたから戻って来るのに苦労したぜ。・・・さすがは千冬さんだな。」
「むしろ、あれで死なないお前が怖いわ・・・・」


千冬さんに、地獄の底深くまで落された俺。いやほんと苦労した。


一夏と布仏に手伝ってもらい蓑虫状態を抜け出す。


首をコキコキ鳴らして、時計を確認。・・・・ふむ?


「今って二限目の休み時間で間違いないか? だいぶ復活に時間くったもんだ。なんで誰も起こしてくれないんだ?」
「織斑せんせーが『下手に触るなよ?刺激すると動き出す、放置しとけ』ってー。」
「成程。それなら仕方ないな。」
「納得するのかよ・・・・・お前本当にどうしたら死ぬんだ?」
「蘭が花嫁衣装を着て、俺の前で三つ指ついて『お兄・・・今までお世話になりました』と言ったら、馬骨野郎道連れにして死ぬ。」
「能面のような無表情で言うな!? 近い近い! 怖えええぇぇぇ!!」
「そんで俺だけ戻って来る。」
「死んでねぇじゃねぇか!?」
「いやー、しかし本当に苦労したぜ戻って来るのに。」
「なんで普通に戻って来れんだよ。意味分かんねぇホントに・・・」
「いや、あっち行ってもな? なんか妙に偉そうな風体で、手にしゃくを持った髭面野郎が、いつも俺見るたびに『く・・・来るなぁぁ―――!! お前はまだ来るな―!! 近づくなぁ! もう嫌だ! 嫌だ―――!! はうっ!? 胃が・・・!?』とか叫んでな、門前払いされるんだよ。失礼じゃね? あの髭。」
「お前あっちで何やらかしたんだよっ!? 最高責任者怯えまくってんじゃねぇかよっ!?」
「まぁ、その後はいつも通りに。歴代の『五反田号』を乗り継いで帰って来るんだが、いやー今回は特に深くてなー」
「・・・・・歴代達あっちにいるのかよ。」
「失敬な。六代目は健在だ。多目的ホールに今でも置き忘れたままだ。」
「取りに戻れよっ!?」
「行きは電車で、帰りは自転車って・・・おいおい一体何キロあると思ってんだよ?」
「実際その距離走ったお前が言うな!!」
「さっきから何興奮してるんだ一夏。いくら周りが女子ばっかりとはいえもう少し落ち着けよ。」
「お前のせいだろうが!?」
「俺のせい・・・・・?・・・待て、一夏。そんなお前・・・・こんな場所で・・・駄目だぞ・・・?」
「顔赤らめて妙なことほざくなぁぁぁぁぁぁっ!?」
「・・・・・・おりむ~たいへんだね~・・・・」


大声出してはしたない奴だな。ほら見ろ、女の子たちが怯えまくってんじゃねぇか。

・・・・・いや何人かは俺の発言も元をとろうとガン見してる。うむ、素晴らしき腐女子ソウル。頑張れ。

しかし、授業を二時間も逃すとはこれは痛いな・・・・・・ISに関して全く知識がないからなー・・・免許に響きそうだ。


お、そうだ授業といえば。


「ところで話しは変わるが一夏? ひとついいか?」
「は――――っは―――っ!! 今度は何だよっ!?」
「あの、入学前に貰う参考書って持ってるか? ちょいとミスって無くしちまってよ。できたら貸してほしいんだが・・・駄目か?」
「え参考書? ・・・あー・・・いや・・・持ってたことは持ってたんだが・・」
「おりむ~、参考書を古い電話帳と間違えて捨てちゃったんだよー? さっき、それで織斑せんせーに怒られてた~。」
「はぁ捨てた? ・・・・・・馬鹿かお前?」
「・・・・・お前に馬鹿といわれる程ムカつくことはねぇなぁ・・・・・!?」
「マジ使えねー。」
「よーし、表でろや弾。久しぶりに拳で語ろうぜ?」
「だんだんはどうして無くしたの~?」
「そうだ! 俺に何か言える立場じゃねぇぞ弾!」
「あー・・・・俺のか。俺のは――――」
「「俺のは(~)?」」
「食われた。」
「ヤギでも飼ってんのかお前は!?」
「いや、本当にうまそうに食うから止めるタイミングを外して・・・・ははは」
「だんだんの家ってぼくじょー?」
「『五反田食堂』って近所で評判の飯屋さ。暇なら足を運んでくれ。サービスするぜ!」
「わ~! いくー!」
「ま、宣伝は置いといて・・・・いや本当に美味そうに食ってたな――――」
「おい、マジで食ったのか?」
「―――――― 一郎の奴。」
「・・・・・・・・・・・・・・おい、それヤギだよな?」
「一枚一枚千切って、そりゃもう美味そうに―――。」
「おい、そいつヤギだよな!?」
「お代はいらないって言ったんだが、律儀に支払いを―――」
「人か!? 人なのか!? 一郎って誰だよ!? お前以上の変人がいるのか!?」
「バカ言うな!? 俺が認める数少ない紳士だぞ!? 謝れこの野郎!?」
「化け物って言うんだよそれは―――――!!」 

おのれ何と失礼なこと言うんだこいつは!?

一郎ほど日本紳士の心を理解している奴はいないというのに! いくら親友でも許せん!

一夏とお互い胸倉を掴み合い言い合いを始める。

『変人!!』『鈍感野郎!!』『変態!!』『フラグ乱立馬鹿!!』『今世紀最大汚点!!』『顔だけ野郎!!』『この害悪!!』『無自覚女垂らし!!』『シスコン!!』『それは認める』『千冬姉に迷惑かけるな!!』『蘭に期待させる行動とるな!!』『意味分かんねぇ事言うな!』『蘭可愛い!超可愛い!』『千冬姉の方が美人だ!』『蘭の方がピチピチだ!』『千冬姉方が格好いい!!』

―――と、ギャンギャン言い合う!おのれ!譲らんぞ!?

家の姉、妹が一番対決がヒートアップしていく中、女子達はあきれたように『どこか別の場所でやれ』みたいな視線を向けて来る。

俺達に挟まれた本音ちゃんが『あうあうあああああ~!?』とオロオロする姿に密かに萌えつつ一夏と論戦を繰り広げていると――――・・・・





「――――ちょっと、よろしくて?」




――――――金髪少女が空気を読まずに話し掛けてきた。

ピタッと、一夏と同時に停止し少女の方へ顔を向ける。

腕を組んで、やや釣り目の青い瞳をした美少女だ。ロールがかった髪と上流階級であると、口にせずとも理解できる雰囲気を放っている。


おう? 凄い美人だが誰だこの子?

うーむ、声かけてきたのはいいんだが・・・・いかにも「女尊男卑」社会で育った感じがひしひしする。

ふむ。俺は別段構わんのだが・・・・・一夏がどう出るか分からん。

世界全ての女性の味方である俺だが、あんまり『力』を振りかざす女性を見たくはない。愚かな男と同じ道をたどる事だけはして欲しくないからねー。

強く、気高く、美しく空を舞ってほしい――――。

それが俺の願いです。

まぁとりあえずは――――――――。


「「――――――――――後にしてくれ!!」」



一夏とユニゾンしました♪




【一夏SIDE】


「な――――・・・なんですってぇ!?」

弾の馬鹿と口喧嘩し、自分でも何言ってるか分らない俺は勢いに任せ答え。
その言葉がお気に召さなかった金髪の女の子は、顔を怒りで赤く染めた。


「この私が声をかけて差し上げたというのになんですの!? その態度は!?」
「今取り込み中なんだよ! 見て分かんないのか!?」
「その通りだお嬢さん!! アポ取ったのか!? ちなみにどこぞの伝説のレスラーの使う『アポ~』じゃないぞ!? アポイントメントのアポですっ!」


おいこらアポってなんだ。またこいつは意味不明な事を!? いま必要ないだろそんな説明はっ!


「なんですの貴方達!? これだから下々の男というものは――――!!?」


・・・・・あー、なんか一人で喚き始めたぞ。

憤慨する目の前の女子を見つつ、面倒なことになる予感を感じた俺は弾の襟を掴んでいる手の力を抜き、弾と視線を合わせる。

すると、あいつも俺の襟から手を離し俺に視線を返してきた。


―――― 一時休戦しないか?


―――― あいよー。


中学時代から培ってきたやり取りに、内心苦笑し、俺は弾と共に目の前の事をまず片付ける事にした。


・・・・・まったく、ふざけた言動さえなけりゃいい奴なんだけどなぁ。


「・・・・・あー? で、何にか用件か?」
「まぁ!? なんですのその言葉は!?私を散々蔑にしておいて謝罪の一つもございませんの!?」
「サーセン。」
「なんですのそれはっ!?」
「え? 謝ったんだが? もしかして通じてない? 日本では凄く流通している謝罪の言葉なんだが?」


・・・・・・なんでこいつは、毎度毎度ナチュラルに大ボラ吹けるんだ?


「そ・・・そう、なんですの?」
「いや、嘘だからな? こいつの事は流してくれ。」
「なっ!? 嘘を吐くなんてどういうことですの!? 最低ですわ!!」
「ホント最低だなお前。」
「お前に言ってんだよ!? アホか!!」
「へい! ところでお嬢さん! 貴女はお名前は?」
「おいこら!? 無視すんな!?」


こいつは本当に人のことお構いなしだな!?

・・・・・ああ、マジで千冬姉のストレスが心配だ。マッサージでもケアが追いつかないとか、どんだけだよ!?


「私を知らないっ!? セシリア・オルコットを!? イギリスの代表候補生にして入試首席のこの私を!?」
「乳歯がどうした? 俺は全部永久歯だ。」
「乳歯ではありませんわ! 入試です!!」
「おい弾、とぼけたこというなよ・・・・初心者にお前の扱いは酷なんだぞ・・?」
「・・・・ごめん、実は一本だけ差し歯です。」
「「どうでもいい(です)わ!?」」
「あ、ところで一ついいかな? 麗しいお嬢さん?」
「ふん! 今頃取り繕っても無駄ですわ! ま、でも私はやさ「代表候補生とはなんぞや?」まだ私が喋っている途中でしてよっ!?」
「あ、それは俺も気になる。代表候補生って何?」


がたたっ!!

と、俺達のやり取りを聞き耳していたクラスの女子数名がズッコケた。

パァンッ!!

ついでに弾が、何処からか取り出したクラッカーを鳴らした。


「なんでクラッカー鳴らしてんだお前っ!? というかどっから出した!?」
「いや、ズッコケたレディ達にナイスリアクションって意味で景気づけに。」
「お前はホントに、どうでもいい事に全力投球するなっ!?」
「紳士だもん。」
「もう喋るな。お前もう喋るな!」
「そんなに俺が他の女の子と会話するのが嫌なのか?・・・全く独占欲が強いんだから。」
「だぁぁぁぁっ!! 誰かこいつ何とかしてくれ!!」
「だんだん~? 静かにしよーよー。」
「・・・・・・・・・【ズビシ!】」(サムズアップ)
「・・・・・・・・・・・・こいつ・・・・・・!?」


ム・カ・つ・くぅぅぅぅっ!?

お・・・落ち着け俺。冷静になれ、今この場でこいつに対処できるのは俺だけだ。そうだ、突っ込むから図に乗るんだ!

こいつはもう無視しよう。うん我ながらいい考えだ。


「あ・・・・ああ・・・・!? 貴方達本気でおっしゃっていますの!?」
「え? ああ、知らん。」
「(書き書き・・・)【こいつホント使えねー】」←カンぺ。
「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら?常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら」
「(書き書き・・・)【こいつマジ使えねー】」
「・・・・・・で、代表候補って?」
「国家代表IS操縦者の、候補生として選出されるエリートの事ですわ。・・・・あなた単語から想像したら分るでしょう?」
「(書き書き・・・)【あったまワルーイ♪】」
「・・・・・・・・・・・・・そう言われればそうだ・・・。」
「そう! エリートなのですわ!」
「(書き書き・・・)【ザワ・・・・ザワ・・・!】」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ほっ・・本来なら私のような選ばれた人間とは、クラスを同じくするだけでも奇跡・・・幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「(書き書き・・・)【ピロリン♪一夏はまた一つ利口になりました。】」
「そそそそうか・・・! そそそれは、ら、ラッキーだ・・・・っ!!」
「ば・・ばば馬鹿にしていますの・・・!?」
「(書き書き・・・)【ばーか】」
「――――――・・・・っ!!―――――!!(ギリッ!!)」
「・・・あ、あの? む・・・無理は身体に悪いと思いますわ私・・・?」
「――――――っだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! お前は黙ってても鬱陶しいな!?」
「(書き書き・・・)【喋っていい?】」
「むしろ喋っていた方が幾分かましだお前は!?」
「だろ?」
「お前・・・・っ!?」
「というか貴方何ですのさっきから!? 邪魔でしてよ!?」
「邪魔してるからなー? 喧嘩いくない。」
「「あれで止めてるつもりだったのか(でしたの)!?」」


こいつだけはマジで意味分からん!?

あああもう、くそぅ!! こいつに対抗できる奴なんて束さんくらいじゃないか!?


「まぁ、とにかく仲良くしようぜ! 俺達はISの操縦に関しちゃド素人だからなー。野郎でIS動かせたってだけだし。ならこのセシリーちゃんに色々教えてもらえりゃ恩の字じゃね?」
「そりゃ・・・まぁそうだけどよ。」
「ふん! 男がISを動かせるからどんなものかと思ってみれば・・・拍子抜けですわ。というか馴れ馴れしくセシリーって呼ばないで頂けるかしら!? なんですのその呼び方は!?」
「え? 可愛いじゃん? 駄目?」
「駄目ですわ!!」
「・・・・・・俺達に何かを期待されてもな?」
「ふん! まぁでも? 私は優秀ですから、貴方達のような人間にも優しくしてあげますわよ。泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ?なんせわた――――・・」
「あ! 馬鹿そんなこと言ったら!?」
「はい?」
「――――――教えてぐだじゃい・・・っ!!(ボロボロ)」
「ひぃぃぃっ!? 近い! 近いですっ!? というか本気で泣いて―――って怖い!! 怖いですわぁぁぁっ!?」
「あー・・・・・言わんこっちゃない・・・」
「だんだんー、泣かないでー? はーいチ―ン。」
「ズビズバボッボ!! ――――ふー! すっきりしたぜ。(ケロッ)」
「にゃ―――!? 汚いー!?」
「何なんですのこの方は―――!?」


弾に下手なことは言えないぞ。全部実行に移す奴だからな?


「信じられませんわ!! こんな方と一緒のクラスだなんて!? 私にこのような苦行を一年も耐えろとおっしゃいますの!? この私に! 入試試験で唯一教官を倒したエリート中のエリートであるこの私に!?」
「・・・俺は中学以来からの付き合いなんだがな・・・いまだに慣れねぇよ。」
「ふむ? 入試で教官を倒したねー・・・。あり? 確か一夏、お前も倒したんじゃなかったっけ?」
「・・・・・・・・・・は?」
「ん?ああ、俺も倒したぞ。・・・・・いやあれは倒したって言えるのか?」
「わ・・・わたくしだけと聞きましたが?」
「「女子ではってオチじゃないのか?」」
「おー! 息ぴったりー。おりむーとだんだんは仲良いねー?」
「・・・・ただ最近。俺、一夏からの想いが少し重くてな・・・・」
「黙れこの野郎。」
「・・・・・・・・・」
「カンぺ持ちだすな!?」
「あなた! あなたも教官を倒したっていうの!?」
「へ?・・・ああ、うん、まぁ。たぶん。」
「たぶん!? たぶんってどういう意味かしら!?」
「どう説明したらいいのか・・・・うーん?」
「実際に見てみりゃいいじゃない♪」
「は? 何言ってんだ弾? 一体どうやって?」
「ふむ、では俺が一肌脱ごう!!」
「「は?」」


そう言って弾は自分の服に手を掛けて――――・・・って、ちょっと待て!? お前文字通り脱ぐ気か!?

周りの女子達もギョッとした様子で見て――――ってなんで誰も反らさない!?

ちょ! おま――――!?

制止しようとする俺を無視して、弾がバッと制服を取り去り――――


その下から、『五反田食堂』で働く弾の前掛け姿が現れた。


「――――っお前下に着込んでたのかよ!?」
「当然だ。料理人たる者。いつ何どきでも調理ができる状態でなくてはならん。常識だ。」
「・・・ああそうかよ。でも、今その姿になる必要性が全く分らんのだが?」
「おいおい一夏。良く見ろよ! いつもと違うだろ?」
「は? 別段いつも通りの――――・・・・・ん?」


いつも見慣れていると姿だと思っていた俺だけど。よく見ると、前掛けが明らかに変わっている。

碧と黒をで統一され。真中にやたら達筆に【七代目五反田号見参!!】と書いて―――――・・・・・って!?


「な『七代目五反田号』だってぇぇぇぇ!? これってお前のISなのか!?」
「その通り!! これが俺の相棒『七代目五反田号』の待機状態! 紳士の前掛けだ!」
「・・・・いや紳士いらんだろ?」
「ちなみにこの前掛けだが。俺の心情に応じて真中の文字が変わる!! 目で楽しませるという粋な作り!さすが俺の相棒、分ってる!!」
「なんじゃそりゃ・・・・てホントに変わった!! 【妹魂】・・・お前何考えてんだ?」
「蘭のこと。あいつ泣いてないかなー? 俺が居なくて・・・。」
「むしろほっとしてそうだ・・・・・。」
「な・・・・なぁ!? あ・・・貴方それは!? まさか専用機ですの!?」
「いや出前機。」
「で・・・出前・・・機ぃ・・・?」
「まぁ、それはともかくと。―――『七代目五反田号』。レシピ展開。オーダー【一夏、入試試験】一丁!」


弾が、客の注文を投げかける感じで声を上げると、前掛けの文字が【毎度あり!】と瞬時に変わる・・・・。

・・・・・む、何気におもしろいなこれ。

そのまま数秒経って、また文字が変わる。


【へいお待ち!】
「よっしゃ!『七代目五反田号』展開!」


パッと現れたのは、店でよく見掛けるメニュー表。

そこに映っていたのは――――・・・・


「―――これって俺の入試試験の時の映像か? いつ撮ったんだお前?」
「ん? ああ、あん時俺は見学してたろ? その時ちょっと『七代目五反田号』の機能調べてたら『記録』ってのがあって試しにやってみた。」
「・・・・・千冬姉が知ったら、また怒りそうなことを・・・・・」
「まぁまぁ、ちなみに後、四つの機能がある。」
「・・・・・・・・・どんな?」
「焼く、切る、叩く、貯蔵。」
「その前掛け状態で出来んのかよ!?」
「いや俺もびっくりだ。ちなみに『七代目五反田号』には『弾特製特別親愛メニュー』やら『五反田食堂秘伝調味料』など、俺の持つ技術と知識が全部詰め込んである。まさに俺の分身だな。」
「ほー? そりゃすげぇ。」
「だろ? ・・・て、ほらほら始まるぞ。飴いる子―?」
「はーい!」
「ほいよ。」
「えへへ~、うまうま♪」


・・・・何してんだお前。紙芝居かよ。

展開されている画面に、俺達だけじゃなくクラスの女子達も目を向けている。・・・・あ、箒の奴もチラ見してる。堂々と見ればいいのに



突っ込む山田先生。 かわす俺。 壁にめり込み動かなくなる山田先生。




「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」



なんともいえない空気が蔓延した。


「・・・・・理解したか?」
「・・・・・ええ、まぁ。確かに微妙ですわ。」
「・・・・・わー、ほんとに微妙だ~。」
「でもそこが萌えるな。うむ」


うんうん頷く馬鹿は無視する。

おいどうするんだこの空気、こういう時こそ何とかしろお前は。


キ―ン・コ―ン・カ―ン・コ―ン♪


お、三限目開始のチャイムだ。助かったぜ!

ぞろぞろと全員が自分の席へ戻っていく。弾の奴も、一瞬で制服姿へ早変わりし席に着いた。お前は何処の手品師だ・・・。



ガラガラ―――・・・


「全員席に付いているな?では授業を始める。」


千冬姉が入って来て、その後にやって来た山田先生。その山田先生に、皆からの生温かい視線が集中する。無理も無い。

当の本人も、その視線に「?」と困惑顔。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「へいお待ち!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チッ!!」


弾の復活した姿を見た千冬姉が、盛大に舌打ちしたのを皮切りに、授業が開始される。


ちなみに、千冬姉がなにげに胃に手を当てた所を、俺はしっかりと目撃した。

・・・・・千冬姉、頑張れ!俺もフォローするから!








後書き

セシリアさん登場です。そして『七代目五反田号』の待機状態は前掛けとなりました。さて次回、セシリア宣戦布告に部屋割りです。弾の同居人は誰にしましょうか・・・・・?悩みどころです。



[27655] 第七話   激突一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 13:41
ちわっす。
『弾!?しっかりしろ弾!』『一夏俺はもう駄目だ・・・これからはお前が蘭を守ってくれ・・!』『馬鹿野郎!あれほど千冬姉の手作りには気を付けろと言ったのに!』『後は頼んだぜ・・・三代目・・・ガクッ・・』『弾!?だああああああんん!?』
という夢を見た、五反田 弾です。


千冬さんに盛大に舌打ちされて始まった三限目。

ふむ、俺もようやくまともに受ける事が出来るようだ。さぁ!ドンと来るがいい!


「――――それではこの時間は実戦で使用する各種装備について説明する。」
「包丁まな板鍋お玉!!」
「お前達よく見ておけ、今実際に使ってやるからな?」
「織斑先生っ!? 落ち着いてください!!」


む?違ったか。ISとは難しい。

教卓の前で、流れるような動きでの銃口を俺に向ける千冬さん。間違えただけで死刑コースとは、IS学園・・・・なんと恐ろしい場所だ。

山田先生が必死に千冬さんを止める姿に、ちょっと萌える♪


「大丈夫だ山田君。私はいたって冷静だ。いたって冷静に事を運ぶ。 何も心配はいらない。」
「運んじゃ駄目ですぅ!? 一応生徒! 生徒なんですから!?」
「生徒? はははははおもしろい冗談だ。私の視線の先には害虫しかいないぞ? ほら山田君、離さないか。駆除できないだろう?」
「・・・・?(害虫を探して後ろを向く弾)せんせー? 虫なんていないっすけど?」
「いるさ、世にも珍しい口を利く害虫がなぁぁぁあ!?」
「落ち着いて! 落ち着いてくれ千冬姉!? あんなんでも一応友達! 友達だから!?」


バシンッ!(出席簿アタック)


「織斑先生だ。」
「・・・・・・すみません織斑先生。(理不尽だ・・・弾の野郎・・覚えてろよ!)」
「災難だな一夏の奴。」
「だんだんって怖いもの知らずだねー?」

怖いもの知らず? 何を言っているんだ本音ちゃんは? 俺にだって怖いモノはあるぞ。 本気で切れた母さんとか。・・・・マジで怖い。


「んんっ!・・・話がそれたな。では気を取り直し、使用する各種装備の特性を――――っとそうだった。その前に再来週行われるクラス対抗戦にでる。クラス代表を決めないといけないな。」


気を取り直して授業開始と思いきや、ふと思い出したように千冬さんがそう口にした。

―――はて? クラス代表? なんじゃそら?


「クラス代表とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席・・・・簡単にいえばクラス長だな。ちなみに、クラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで。」


ふむ、成程ね。そうと聞けば話は簡単だ。


「――――ならばうちのクラスからは、俺が出よう!!」
「「「「「まさかの衝撃発言!?」」」」」
「・・・・・・・・・・・・・・・胃が・・!」
「織斑先生!? しっかりしてください!?」
「おいおいおい!? お前本気かっ!? 弾!?」
「俺は嘘など言わん!!」
「お前さっきの休み時間に堂々と嘘吐いたよなっ!?」
「・・・そうか、既にそんな逸話があるのか。俺も有名になったもんだ。」
「ほんの十分しか経っとらんわ!?」
「小さい事に気にするようじゃまだまだだな一夏!!」
「お前が大雑把過ぎんだ! それよりクラス代表になるの本気かよ!?」
「言ってみたかっただけだ。 もういいや。」
「撤回が早すぎるわっ!? やっぱり嘘じゃねぇか!?」
「だろ?」
「てめっ・・・!?」
「という訳で、 一夏が良いと思う人手を上げて―? HAI!」
「ちょっと待て!? なんで俺なんだ!?」
「俺やりたくない。でも女子に押し付けるのは死んでも出来ない。なんだ一夏がいるじゃない。という訳だ。 アンダスタン?」
「勝手に決めるな!? お前がやれよ!? 有言実行は十八番だろうが!?」
「俺の十八番は『津軽海峡冬景色』だぞ?」
「何気に渋いなお前!? 歌じゃねぇよ!! クラス代表を一度やるって言ったんだ! やれよ!!」
「日本語って難しいな? お前が言ってる意味がサッパリ分からん。」
「しばき倒すぞテメェ!?」
「――――わたしも織斑君が良いと思います!」
「私も!」
「というか五反田君以外ならだれでもいいです!」
「「「「「織斑君!! 頑張って! というか五反田君の暴走止めて!?」」」」」
「ちょ――――っ!!?」
「大人気じゃん一夏!!お前一日で何人にフラグ立てたんだ!? 記録更新した!?」
「知るか! というか、お前もう問題児扱いだぞ!? 何か言い返さないのか!?」
「野郎ならぶち殺す!!でも、女の子やし。特に? むしろもっと罵って欲しい位だ!」
「ほんと女子に甘いなお前!? 日本男児の大和魂どこいった!?」
「そんなもん、一郎の腹の中だ。」
「またそいつか!? なんでも食うなそいつ!?」
「酸味が強くて食えたもんじゃないらしいぞ?」
「味あんのかよ!?」
「おいおい、そんなに興奮するな。いくら大好きな千冬さんの授業だからって張り切り過ぎだぞ? ふふ、全く困った奴だ。」
「喧しいわ!?」
「さすが俺の『妹魂』に匹敵する『姉魂』を持つ男よ・・・俺も負けてられん! 見ろ! 昨日三十分で作った『お手製蘭人形』だ!! 可愛いだろ?」
「何作ってんだお前は――――ッ!?」
「・・・・寂しくてつい(スリスリ)。」
「「「「「キモっ!?」」」」」
「・・・・・織斑、席につけ。邪魔だ。他にいないか? 自薦他薦は問わん。いないなら無役票当選だぞ? むしろとっとと決めろ――――・・・!(胃がキリキリ)」
「へ・・・?って!?ちょっちょっと待った! 俺はそんなのやらないぞ!?」
「全くわがままだな! 小学生か!?」
「お前は黙ってろ!? なら俺は弾を――――・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・織斑? 五反田を・何・だ・っ・て?」
「――――なんでもありませんっ!(泣)」
「ぷっ♪」
「笑うな畜生っ!!」


さすが千冬さん。一夏を一睨みで黙らせた。教育が良く行き届いている。うむ素晴らしき姉弟愛だな。

ふむ。このまま行けば一夏がクラス代表になるのは避けられないな。クラスの看板背負って、行け一夏! 骨は拾って一郎に食わせるから!!

―――― が、その時、セシリーちゃんが音を立てて立ちあがった。

うむ、やはり反対してきたね。さっきからギリギリ机から妙な音立ててたし。
すげぇ・・机に指で削られた痕があるよ。

英国淑女とフラグ野郎。第二ラウンド――――――ファイト!


「待ってください! 納得がいきませんわ!」
「ロールがドリルじゃないことが?」
「そうなんですの、折角のお嬢さまキャラなのに―――って違いますわよ!?」
「流石は英国淑女! ノリ突っ込みをマスターしているとは!?」
「お前絶好調だな・・・・?」
「紳士だもん。」
「貴方は黙っていてくださいまし!!」
「一夏、カンぺくれ。」
「持ってる訳ねぇだろ!? 持っててもやらんわ!」
「とにかく! このような選出は認められませんわ! だいたい男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?」
「ふむ? 俺以上に恥さらしな野郎がいるとは思えんが・・・?」
「お前自覚あっての行動だったのかよ!?」
「――――・・山田君・・・ちょっと職員室に行って来てくれるか・・・?」
「はっはい! いつものですね!?」
(((((織斑先生が、胃を押さえて教卓に突っ伏した!?)))))
「実力から行けば私がクラス代表になるのは必然、それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!」
「一夏お前猿だって。『ウキッ』っていってみ?バナナやるから。」
「殴る蹴るの暴行加えるぞこの野郎。」
「私はこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスする気は毛頭ございませんわ!」
「サーカスに猿って居たっけか?」
「いるっちゃいるが・・・日本猿は見たことねぇな俺。」
「いるのかね?」
「さぁなぁ。(弾に鍛えられている為、沸点が何気に高い一夏)」
「い―――・・いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれは私ですわ!」
「ふむ? じゃあなんで立候補しなかったんじゃろな?【ズバッ!】」
「あれだ、推薦してほしかったんじゃねぇか?【グサッ!】」
「「「「「・・・ああー。」」」」」
「だ・・だだ大体! ぶっ文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体! わっ私には耐えがたい苦痛で―――――!」
「イギリスってそんな大層な国だっけか?」
「ふむ? 俺は英国淑女と英国料理以外は大して興味ないからどうでもいいな?」
「あれ? イギリスって世界一まず――・・」
「一夏、俺の前で他国の料理を貶して見ろ? 『あの事』を千冬さんにバラす。」
「イギリスの紅茶って美味いよな!? 英国サイコー!!」
「―――――ッ!! 決闘ですわあああああああぁぁぁぁ!!!!」
「「なんでさッ!?」」
「なんですのなんですの!? さっきから私の話しを受け流すなんてどういうことですの!? 一人喋っている私が馬鹿みたいじゃありませんのっ!?」
「「寂しかったのか? そりゃ悪かった。」」
「なんでこんな時だけ息ぴったりなんですか!?」
「愛かな?」
「気色悪い事言うな!?」
「とにかく決闘ですわ!! お二人揃って私の召使い――――いえ!! 奴隷にしてやりますわ!!」
「そして俺達を絡ませる気か!? なんという腐女子ソウル!?」
「お前ちょっと黙っとけ!?」
「イギリス代表である私の実力を! とくと見せて差し上げますわ!!」
「ふむ? 女子から決闘を申し込まれるとは、俺は日本紳士だから、真剣勝負を求めるレディには全力を持って応えるぞ?」
「え? 本気でいくのか? 女性至上主義のお前が?」
「だからこそだ。俺は絶対に女性を下に見ない。負けようが勝とうが全力で行く。それが礼儀だ。ハンデ手加減なんざ野郎が女性にふっかっけた侮蔑以外のなにものでもないと俺は思う。」
「・・・・・そういう考えも確かにありだな。」
「という訳だ! セシリーちゃん。俺達二人揃って、全力で応えるぜ!!」
「ふん! 二対一なら勝てるとでも思っていらっしゃるのかしら? 浅はかな男の考えは見苦しいですわね?」
「いんや? 代表候補ってことはセシリーちゃんは相当な腕前なんだろ? 素人同然の俺達が挑むなら、確かに浅はかだけど数で勝負だ。 それにセシリーちゃんは俺達二人に宣戦布告したんだ。二人揃ってじゃなきゃ意味ないじゃん。」
「――――え、ええ。そ、そうですわね。」
「・・・・俺はちょいと乗り気じゃないが・・・まぁ、今回は弾に乗るぜ。」
「悪いな一夏。(キラキラ)」←見つめる
「今に始まったことじゃねぇだろ? 気にすんな。(キラキラ)」←見つめ返す
「「「「「「「「・・・・・・・・・・・ゴクッ。」」」」」」」」
「―――チャンスだぞ! 今シャッターチャンスだぞ皆!?」

ピロリロカシャカシャピョロリンパシャパシャ(携帯カメラ同時押し音)

「って何やってんだ!?」
「大事にしろよ!?」
「「「「「「「ありがとう五反田君!」」」」」」」」
「みんな弾に毒されてないかっ!?」
「『話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、五反田、オルコットの三名は用意しておくように。そしてこれ以上騒ぐな胃に響く――・・・!!』と、織斑先生がおっしゃっていますっ! 先輩っ!? しっかりしてください先輩っ!?」
「「「「「「「先生ぃぃぃぃっ!!!?」」」」」」」


教卓の上で千冬さんが脂汗をビッシリ掻いていた。
大丈夫かね?



*   *   *




そして時間は放課後。

俺の目の前では机の上でぐったりした一夏の保護欲誘う萌え姿。こいつは誘ってんのかしらん?

「うう・・・・・」
「生まれる? 認知はするぞ?」
「意味分からん事言うな!?」
「へいどうした少年!? 元気ないな! 幸せ逃げるぜ!?」
「ISのことだよ・・・・なんでこんなにややこしいんだ。」
「安心しろ。 俺もさっぱり分からん。」
「慰めにもならんわ・・・・」
「ふぅ、仕方ない。慰めてほしいならそう言えよ?」
「別にんなこと言ってねえ・・・」
「全く、一体何回『愛してる』って言ってほしいんだ?」
「頼んでねぇよ!? やめろ気色悪い!?」
「元気出た?」
「別の意味でな!?」
「別の・・・・・?・・・・だから一夏? ・・・・まだ人がいるじゃないか・・・。」
「頼むからもう黙れやお前!?」

ふむ、意気消沈したり、いきなり喚いたり忙しい奴だな。
日本紳士ならもう少し慎みを持たなきゃあかんよ?

一夏、日本紳士への道はまだまだ前途多難です。


「・・・・果てしなくどうでもいいこと押しつけられた気がする。」
「大丈夫、俺が付いてる♪」
「むしろしばらく何処か行けよ・・・。」


ガラガラ―――、

一夏とそんなやり取りをしていた所に、教室のドアが開く音が耳に入り、一夏と共にドアへと視線を向ける。

するとそこには、メガネ巨乳の狙ってるとしか思えない天然女神。我が一組の誇る副担任。山田 真耶先生の姿があった。

教室を見回していたマヤたんだったが、視界に俺達を捉えると安心したようににっこりと笑顔を向けてきた。うむ萌えます。


「ああ、織斑君に五反田君。まだ教室に居たんですね? 良かったです。」
「へいマヤたん!」
「その呼び方止めてくだいっ!?」
「マヤマヤン!」
「それも止めてください!」
「―――――――――――真耶。(真剣な瞳で愛情込めて)」
「はうっ!? あうあうあうあうあう・・・!?(真っ赤)」
「何やってんだお前・・・」
「からかってる。」
「うん、相変わらず最低だな。」
「ま、冗談は横に置いて後で拾い上げるとして。」
「回収はするのかよ!?」
「マヤたん? 何か用かね?」
「へ!? あああの! おおおりむりゃくんちょごちゃんだくんにょ・・!!」
「やりすぎたか?」
「この馬鹿・・・・先生! しっかり気を持って!」
「はう! す・・すいませぇん。」
「全くしょうがないな。」
「お前のせいだからな!? 少しは悪びれろ!」
「ええぇと、お二人の寮の部屋が決まりました。はい、お二人ともこれが部屋の番号とキーです。無くさないでくださいね?」
「そうか、ついに俺達の愛の巣が・・・・・」
「きめぇよ!?」
「でもなんで? 確か一週間は掛かるって言ってなかったすか? 一夏はしばらく自宅から通って、俺は寝袋に包まって食堂の休憩室にお世話んなるはずですよ?」


ちなみに食堂のマダム達には了解を得ている。さすがは懐深いマダム達。
ちょいと時間ある時は色々教えてもらおうかね。まずは皿洗いと皮むきでお役に立とう。

五反田 弾。 人様の聖地(食堂)には最大の敬意を持って臨みます。いつか一緒に厨房に立てる日を楽しみにしていますよマダム達。


「そうなんですけど。事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。・・・・お二人は、そのあたりのことって政府から聞いてます?」
「あの黒服野郎共? なんかうっさいし『五反田食堂』の営業の邪魔だから、爺ちゃんと二人でゴミ捨て場に転がしてきた。」
「厳さんって何気に最強種の一人だよな・・・・・。」
「妖怪の間違いじゃね?」
「酷いなお前。」
「ま、まぁそう言う訳で。政府の特命もあって、とにかく寮に入れるのを最優先したみたいです。一カ月もあればお二人の個室も準備できるますから。しばらくは、それぞれ相部屋で我慢してください。」
「――――うん? 部屋の番号が一夏と違う? 一夏とは別々なんすか? というか俺達それぞれの個室も準備なんて、エライ豪華じゃね?」
「てっきり弾と一緒かと思ってたんですけど? 問題ないんですかそれ?」
「え?え、ええぇまぁ・・・・い、色々ありまして・・・(言えない、先輩が『絶対にあの害虫と一夏は引き離せ!! 女子? 知るか!! 今は女の方が強いんだろうが!? 自分の身は自分で守れ! 問題起こせばそれを口実に私が直々にとどめを刺してやる!』って激高したなんて言えない・・・・教室の位置も先輩が決めたし・・・・・!!)」
「ふ・・・・所詮叶わぬ運命か。残酷なもんだぜ。」
「俺は少しほっとした。こいつの相手は体力使うからなー。」
「・・・・い・・・・・一夏・・・・?・・・・お前・・・一体何ラウンド俺に求める気だったんだ・・・・・・!? この獣!?」
「うん。やばい。超嬉しい。個室最高だな。」
「あ、あのー?」
「あ、すみません。それで部屋は分りましたけど、荷物は一回家に帰らないとじゅんびできないですし、今日はもう帰っていいですか?」
「あ、いえ、荷物なら―――。」
「私が手配しておいてやった。ありがたく思え」


ダダンダンダダン♪! ダダンダンダダン♪!(未来からやって来る鋼の戦士の歌)


「何処からか俺のテーマソングが!?」
「マジで鳴ったな!? 何処からだ!?」
「あ、『七代目五反田号』だったみたいだ。」
「タイミング良いなおい!?」
「・・・・・くく・・・・IS揃って言い度胸だなぁ・・・?(ビキビキ!)」
「せせ先輩っ!? 興奮するとまた・・・!!」
「・・・分かっている。織斑、生活必需品だけだが用意してやった。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう。」
「ど、どうもありがとうございます。」
「あれ? 一夏? お前の部屋の引き出しの二重底にある『アレ』は必要ないのか?」
「ハハハハハ! ナニヲ言ッテイルンダイ弾クン!? ヨク分カラナイナ!?」
「・・・・・・・・・・・・一夏?」
「何でしょうか!? 織斑先生!?」
「今は姉として話しをしている。ちょっと話を聞かせてもらおうか?」
「へいマヤたん! 他になんかない? 連絡事項とか。」
「弾!? 待て! 煽っておいて逃げんな!?」
「ひぇ!?え、えーと。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂でとってください。」
「部屋で調理とかは出来ます?」
「あ、はい。システムキッチンがありますから。」
「スゲェな。」
「―――――で? 『アレ』とは何だ? 答えろ一夏。」
「ままま待った! ちょっと待った! 如何わしいモノじゃないって!?」
「各部屋にはシャワーがありまけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間がちがいますけど・・・・その、織斑君と五反田君は今のところ使えません。」
「そりゃそうですね。大問題になります。下手すりゃ警察でカツ丼モノだ。」
「はい。ご理解いただけて助かります。」
「いえいえ。紳士ですから。」
「ふふふ、そうですか。」
「――――――――――私に隠し事とは言い度胸だな?」
「あだだだだだだだ!? 頭が!? 頭がミシミシと痛い!!」
「ちなみに『アレ』とは、現役時代の千冬さんの載った初回限定幻の写真集です。すでに手に入らない超激レア物。一夏の宝です。」
「「「「「「何だって――――――――――!?」」」」」」
「だあああああん!? バラすなっつったろうがあああああ!?」
「織斑君!? 一週間ぐらい貸してくれない!?」
「コピーさせて!?」
「言い値で買うわ!? にっ二万円までならなんとか!!」

「――――――――さて、山田君。そろそろ会議の時間だ。行くとしよう。」

「ええぇ!? ちょっと待ってください!? 私も見たいで――――!!」
「では一夏。気を付けて帰れ。」
「ちょ!? この状況でどう気をつけろって言うんだ!?」
「知らん。自分で何とかしろ・・・・・・五反田?」
「へい?」
「・・・・・・問題を起こせば・・・・ワカッテイルナ?」
「へーい!」


そもまま、マヤたんの襟を掴んで退場する千冬さんを見送る俺達。

うむ、さすがだ。最強の『弟魂』を持つ千冬さんが少し上機嫌になったようだ。これで少しは胃も良くなってくれると嬉しいが。(おい元凶)


「だああああああんっ!? てめぇ覚えてろぉぉぉぉぉっ!!」


うん? 一夏が女子の集団に追いかけられながら去って行ったな。さすがフラグ乱立王だ。

もう追っかけがいるのか。あいつ将来、一夫多妻とか平然と作りそうだ。

そんな親友に『グッドラック!』といい笑顔でサムズアップした俺は、一夏の姿が見えなくなると同時に、自分にあてがわれた寮の部屋へと足を向けたのだった。




*   *   *




「―――――おおうっ! 結構いい所だ。」


あてがわれた部屋にやって来た俺は、室内を見渡し感嘆の声を上げた。

大きめのベット二つに、十分すぎる程の広さを持つ室内スペース。ちょっと奥に行けばシステムキッチンも見える。やったね♪


「――― そんじゃ! はじめますか!」


制服を脱いで、俺の戦闘衣装(五反田食堂仕事用黒シャツに『七代目五反田号』)にチェンジした俺は、キッチンへ向かう。

今日から一カ月という短い間ではあるが、一緒に生活する女子に、よろしくって意味も兼ねて美味い物を御馳走しようじゃないか。

『七代目五反田号』に【貯蔵】してある。あんまり数はないが食材の一覧を目の前に展開し、献立を考える。

ふむ? 何が良いかね?


―――と、その時。


ガチャッと部屋のドアが開く音が聞こえてきため思考を中断する。

おう? もう来ちゃったか。しょうがないから何が好きか聞くか。

一覧を消し、出迎えようとした時――――――。


「おー!ふかふかベットだー。わーい♪」


うん? こののほほんボイスはもしや?


キッチンから顔を出して眼を向けると。

そこに居たのは、クラスで一番に知り合った萌え少女。ブカブカな制服が素敵です。


「んー・・・? あー♪ だんだんだ~。」


ベットからほにゃりとした笑顔で、布仏 本音ちゃんが笑いかけてきた。



――――― ふむ? まぁとりあえず。



「―――お帰りなさい♪ 和食にします? 洋食にします? それとも ちゅ・う・か?♪」
「ちゅうか~♪」




五反田 弾。 今日の夕食は中華です。






後書き


無駄に長くなってしましました・・・・。色々考えた結果、もうシンプルにのほほんさんにしました。この話が一番書きづらかったです。・・・・・ちなみに最初は食堂のおばちゃんと同居させようか真剣に悩みました。そうすると別のロマンスに発展しそうなんでボツにしましたが。さて次回、ようやく侍少女が登場です。一体どうなる事やら・・・・・。



[27655] 第八話   日常一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 13:59
ちわっす。最近妹分の不足がちな五反田 弾です。

今、俺の眼の前では、萌えの塊、布仏 本音ちゃんが、美味しそうに『弾特製ムースパフェ』を頬張っているところです。


しかし謎だ。

食事中の時もだが(献立はチンジャオロース)。
なぜブカブカな裾の上から、あんなに巧みな箸使いと、今なお、裾を汚さずに食べるスプーン技術を扱えるのであろうか?

青い猫型ロボットもびっくりじゃなかろうか?


「うまうま~♪」


むぅ、なんという癒し動物。どことなく母さんを思わせる天然振りだ。ちなみに今は、もう結構遅い時間だ。もう寝る準備をしなくては。


なーんか、ちょっと前ぐらいに廊下が騒がしかったが。たぶん一夏が何かやらかしたんだろう。(確信)


『織斑 一夏あるところに女難あり!』
『五反田 弾あるところに騒乱あり!』


中学時代に名を馳せた。俺達のキャッチフレーズは今も健在です。

さーって。寝る支度するかねー。



*   *   *



それからまた少し時間は過ぎて、ベットの上に寝そべった本音ちゃん。

パソコンを弄って、なにやらお楽しみ中の様です。しかしそのパジャマ姿は狙っているのか?

最高ですね。思わず拝んでしまった。ありがたやありがたや。


「へい。本音ちゃん? もう寝る時間だぜ?」
「ん~、もーちょっとー」
「明日も学校、寝る子は育つ。もう寝なさい。起きれなくても知りませんよ?(主夫)」
「ん~、あー、この壁紙いいなー」
「おう? スル―されちゃったよ?」
「ほぞんほぞん~」
「俺は自分で作った団子の試食して寝るからね~?」
「えー!? ずるい! だんだんずるいー!?」
「はははは、好きなだけパソコンしてたら良いじゃない?」
「わたしの分は~?」
「ないよ?」
「そんな~! お団子~!」
「パソコン、お団子。二兎追う者は一兎も得ず、どっちがいいかね?」
「うー!・・・あーうう~!?」
「おやすみー」
「寝る~!もう寝るからー!お団子~!?」
「はい口あけて。」
「あ~。」
「ほいさ。(団子投入)」
「む~♪ うまー♪」

しゃかしゃか・・・・(二人して歯磨き)

「はいベットに入って?」
「はーい」
「おやすみ~。(パチンと電気を落す)」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・(ヴォン)」
「・・・・・・・・・・・布団かぶっても駄目。」
「・・・・・・・・・・・・・・・てひひ♪(パチ)」



五反田 弾。IS学園一日目、本日無事に終了です。

ちなみに、夢の中で『初代五反田号』を駆った俺は、途中一夏を轢いてしまったのは余談である。




*   *   *




「―――へい! 皮むき終了! 何処置きゃいいっすかマダム?」
「ああ、そこに置いといてくれ。いや助かるね~、こんな朝早くから手伝ってくれるとは思わなかったよ。」
「いえいえ、お役に立てたようでなによりです。――――お、そろそろ戻って準備かね?」
「そうかい、ありがとうね坊や。」
「それじゃこれで! また後で朝食をいただきに参りますが! 美味しい朝食楽しみにしてます!」
「はははは、待ってるよ!」


まだ日も上がっていない早朝。

目を覚ました俺は、朝食の仕込みをする食堂のマダム達の元へ赴き、下働きを手伝ってきた所です。

学園中の淑女たちの食事を用意するのだ。そりゃもう大変だったさ。いやー、『五反田食堂』とはまた違った忙しさだ。

でも、俺はあくまでIS学園の生徒。手伝いくらいしか出来ない上、時間制限付き。むむ、もっと技術力と瞬発力を磨かんといかんな。

寮に戻る途中、朝練に精を出す淑女にミネラルウォーターを差し入れ、まだボケーっとした淑女に大声出して挨拶し『びっくりするじゃない!』と、可愛く怒る姿を愛でたりしながら、部屋へと戻る俺。

うむ、今日も良い天気だ。

そんな俺が自分の部屋に戻ってきて、目にしたものはというと――――。


「・・・・・・・すぴ~・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・むにゅむにゅ・・・・」
「・・・・この子はホントにしょうがないね~」


幸せそうに眠る本音ちゃんの姿でした。その可愛らしい様子に少々苦笑しながら、時間を確認。

ふむ、そろそろ起こさなくては朝食の時間がガリガリと削られてれてしまうな?
まったく、手の掛かる子だね?(兄属性発動中)

蘭は逆に手のかからないスーパー優等生だから、こういった子は新鮮だ。


「――――へい! 朝だぜ本音ちゃん! 起床の時刻だ!」
「・・・・・・ううぅ~・・・・」


モゾモゾ布団にくるまり丸くなる萌え動物が現れた。


どうする?


1、起こす

2、見捨てる 

3、引っぺがす 

4、添い寝する。


4が凄く魅力的だが、ここは素直に1かね?


「ほれほれ~! 起きれ―? だから早く寝なさいって言ったじゃないの。」
「・・・・うう・・・後・・・五分・・・・。」
「でたよ朝の定番台詞。」
「・・・・・・ぐぅ。」
「起きろ―? 朝食摂らなきゃきっついぞ―?」
「うううぅぅ・・・・・・持ってきてー・・・・・・」
「さらっとわがまま発言だよ! 俺びっくり。」
「・・・・・・うううぅぅ・・・・・・」
「ほらほらほら!! 起きろ起きろー!!」
「・・・・うーるーさーいぃぃ・・・・」
「おう! 怒られた。 ふむ? そんなに布団から出たくないのかね?」
「・・・・・・・・・うん・・・・(モゾモゾ)」
「ふーむ? 仕方ないな。」







―――― 持ってくか・・・・。




*   *   *




所変わって食堂。

ガヤガヤと朝の妖精たちが、おのおの食事をとっております今日この頃。とりあえず、まずは場所の確保だな。

食堂内に足を踏み入れた俺は、周囲を軽く見回しながら歩き出す。

歩くたびに『え? 何?』『ちょっと、アレ何?』『・・・・あー、なんだ五反田君か』『朝からまた飛ばしてるねー』という声と視線が帰って来るが、ま、気にしない。


「なぁ・・・」
「・・・・・・・・・」
「なぁって、いつまで怒ってんだよ?」
「・・・・怒ってなどいない。」
「顔が不機嫌そうじゃん。」
「生まれつきだ。」


うん? この声は一夏か?


声の聞こえた方向に目を向けると、そこには黒髪ポニーテールの少女と、一緒に並んで食事をとる親友の姿。


お! ラッキー。丁度良く隣空いてんじゃん。というか、さすがは一夏。周囲の視線を独占しまくりだな。


「よう一夏! 隣空いてるか?」
「ん? おお弾か!? 空いてるからすわ―――――・・・は!?」
「・・・・・?・・・・・なっ!?」


フレンドリーに話し掛け、一夏がどこか助かったっといわんばかりの笑顔を浮かべ俺に振り向き、驚愕。

となりの黒髪ポニーちゃんも、一夏の声にいぶかしむ様な視線を向け、こちらも同様に振り向いて硬直。


おう? リアクションが一緒とは仲良いなお前ら?


「ん? なんだ?」
「なんだ―――? じゃない!? お前何してんだよ!?」
「何が?」
「それだよそれ! お前が肩に担いでる布団だよ! 何やってんだ!?」
「・・・・・おりむ~・・・たーすーけーてぇぇ・・・」
「この声は・・・・のほほんさん!?」
「のほほん?・・・・おお成程。 一夏お前天才だな?」
「なんで布団に包まったのほほんさんを担いでるんだよ!?」
「同じ部屋だからに決まってんだろ。」
「答えになってねぇよ!?」
「いや、布団から出たくないって言うもんだから。布団ごと持ってきた。」
「何でそうなる!?」
「抱っこの方が良かったか?」
「そういうことじゃねぇ!」
「お・・落ち着け織斑。とりあえずその子を降ろしてからにしろ。」
「あ、ああそうだな。おい弾、いい加減におろ――――」
「そぉい!」
「にゃ―――――!?」
「「投げた―――!?」」


空中に放り出される、のほほんちゃん。

―― ババっ! (外れる布団。)

―― シュバッ! (加速する俺。)

『あわ~~~~~っ』 (落ちるのほほんちゃん。)

ボふっ。 (抱きとめる俺。)


「眼覚めた? のほほんちゃん?」
「うーあー・・・・目が回る~。」
「寝過ぎのせいだな。」
「「お前のせいだ!!」」


突っ込みの息ぴったりだなお前ら? 夫婦か?

腕の中ののほほんちゃんをお姫様だっこで席へとエスコート。椅子を引いて座らせる。

うむ流石俺、紳士の鏡。ちなみに布団はきれいに畳んで食堂の隅へ。


「つ・・・疲れる! 朝からなんでこんな疲れなきゃないけないんだ・・!」
「なんだ一夏? お前も夜更かしか? 早く寝なきゃ疲れなんてとれるはずないだろう?」
「お前のせいだろうが・・・」
「部屋が別なのに? お前それは理不尽すぎるぞ?」
「今の一連の出来事で疲れたんだよっ!」
「へい、のほほんちゃん? 朝食は何が良い? 取って来るぜ?」
「わーい♪ ありがとーだんだん~。」
「聞けよ!?」
「忙しい。」
「てめっ・・!」
「な・・・なんなんだこの男は? ・・・一夏の知り合いか?」
「おう、中学から世話をしてやってます。」
「・・・突っ込まないからな。」
「期待してねぇよ?」
「・・・殴りてぇ・・・!」
「とっころでお嬢さん? 貴女のお名前は?」
「・・・・・・・・・篠ノ之 箒だ。」
「あー・・・弾に紹介するのは初めてだったよな。前に話したろ? 俺のファースト幼馴染の箒だ。一緒のクラスだぞ?」
「ああ、成程。ところで箒ちゃんて、お前の初恋の相手だったりする?」
「―――――なっなななななあああああぁぁ!?(真っ赤)」
「はぁ? 何馬鹿なこと言ってんだよ? ただの幼馴染だよ。」
「へい箒ちゃん? よく切れるナイフいる? 今ならフォークもセット。」
「―――頂こう。一夏そこに直れ。」
「ちょ―――――っ!? 待て!? 俺何も変なこと言ってないだろう!?」
「「黙れこの鈍感男」」
「なんで二人ともそんなに息ぴったりなんだ!?」
「だんだん~? 朝ごはんは~?」
「おっとぉ? ごめんごめん。 今とってくるぜ! 箒ちゃん後は任せた。」
「うむ。」
「ちょ!? 任せるな! 待て落ち着け――――!?」


数分後。

のほほんちゃんの朝食と、自分の分を両手に戻って来た俺は、頭から煙出して机に突っ伏す一夏と、不機嫌そうに黙々食事をとる箒ちゃんを目撃することになった。

そして、そんな倒れ伏す一夏をつんつん突く、のほほんちゃんと一緒に朝食を開始する。


しかし本当にこいつは鈍感だね~。

あんまり鈍感が過ぎると、恋する乙女の敵とみなしぶち殺すよ?(本気)


「うぐぐ・・・酷い目に会った。」
「ザマぁっ!」
「弾!? お前なぁっ!?」
「のほほんちゃん? 朝食の量は大丈夫か? もちっと少ない方が良かった?」
「えへへ~、大丈夫。丁度いいよ~♪」
「そりゃなにより。・・・おい一夏? 食事中に煩いぞ?」
「お前な・・・・・」
「ほれほれ飯を食って体力つけろよ? 俺達にゃ一週間後にセシリ―ちゃんとの決闘が待っているんだ。食って勉強。 精進あるのみだぞ?」
「こいつは・・・・・ホントに我が道を行く奴だな・・・・。」
「わっ、だんだんもおりむーも朝から一杯食べるんだー?」
「野郎だからな?」
「弾は知らないけど、俺は夜少なめに取るタイプだから、朝たくさん採らなきゃ色々きついんだよ。」
「千冬さんの真似しただけろう?」
「う、うるせぇな。いいだろう別に!」
「ちなみに、俺は飯作ってくれた人に感謝の意味も込めて朝昼夕とたくさん取るタイプだ。自分の作ったもんを、美味しくたくさん食べてくれる姿ってのは、料理人にとって最高の報酬だからな。」
「だんだんそんなに食べて、その体系なの~?」
「おう、その分体を動かしてるから問題なし! 結構ハードな生活送ってます。」
「自慢する事じゃないだろう・・・、ってか女子って朝それだけで足りるのか?」
「デリカシーのない奴は紳士の敵だぜ? 一夏?」
「うお!? 待て待て! 箸を突きたてようとするな!?」
「大丈夫だよ~、お菓子よく食べるし―」
「何? それはいかん。 間食の取り過ぎは体に悪いんだぞ? これからはお菓子は制限するか?」
「ええええぇぇぇ!? やだー! だんだんそれだけは許して~!?」
「まずは新作スウィーツの試食を大幅カットかね?」
「そ、そんなぁぁ~!?」
「・・・・・・・仲良いな二人とも。」


そりゃそうだ。同居人なんだ、仲が良いに越したことは無いだろう。

涙目ののほほんちゃんに萌えつつ、食事をと取る。流石はマダム。メッチャ美味いです!


「・・・・織斑、私は先に行くぞ。」
「ん?ああ、また後でな。」
「・・・・・・・・・ふむ?」


さっさと食事を終えてしまった箒ちゃん。

なんか妙に素っ気ないがどうしたのかね? 一夏昨日なんかやらかした?


「箒ちゃん。なんか妙に不機嫌だな?」
「ん? ああ・・・・まぁ、ちょっと昨日な」
「なんだやっぱり一夏が原因か。というか箒ちゃんと一緒なのか部屋?」
「ああ、まぁ幼馴染だし。ちょっと助かったな。」
「ほー・・・・で?どっちが悪いんだ?」
「あ、あれは事故で―――」
「野郎ってなんでいつも、自分が悪いのに事故の一言で片付けようとするのかね?」
「ぐ!?・・・はぁ・・・まぁ俺が悪いのは本当だしなぁ・・・」
「反省しな一夏。」
「・・・・・おう。」
「ところで話しは変わるが大丈夫だったか?」
「は? 何が?」
「夢の中の話だが、お前を『初代五反田号』で轢いちまったんだが?」
「・・・おい待て?本当にお前だったのかよ!? おかげで夜中飛び起きたわっ!?」
「すまんすまん。悪か――――ぎゃあああああ!?(ミシミシと音が響く)」
「おわぁ!?いきなりなんだ!?」
「お・・おぉ・・ぉぉ・・・・・『七代目五反田号』がジェラッたようだ・・・・。」
「・・・・・・・おまえのISって一体・・・?」
「うまうま♪」



その後は、一年の寮長である千冬さんの厳しい声が食堂に響き渡り、みんな慌てて朝食を摂り、教室へと向かった。

ちなみに足の遅いのほほんちゃんを、俺がおんぶして向かったのだが、

ここで痛恨のミス。

のほほんちゃん・・・・・パジャマのままでしたっ!


あわててのほほんちゃんを部屋に送り届けて、着替え終わったのほほんちゃんをまた背負って激走したが。間に合うはずなく大遅刻。


『入学早々遅刻とは言い度胸だな?』(胃薬片手に魔人覚醒)


俺とのほほんちゃんは揃って出席簿アタックを受け。
何故か俺だけ校庭を5週も走らされる羽目になった。


ふー・・・全く疲れたぜ。 


ちなみに校庭の隅に、自転車が置いてあるのを発見。
途中からそれに乗って校庭を走っていたら。千冬さんが飛んできて思いっきり殴られた。

・・・・・ダメだったのか? 足で走れって言ってなかったしOKかと思ってたんだが? ちなみに自転車は途中で大破し使い物にならなくなった。

・・・ふむ。やはりそん所そこらの自転車は使えん。やはり五反田号でなくてはな。


更に5周追加され、結局走り終わる頃には午前の授業が終了していた。


――――あれ? 俺って陸上選手志望だっけ?



*   *   *



疲労困憊で教室に戻ってきた俺。

周囲から『お疲れ―』っと苦笑交じりの女子達から激励をもらう。


おう?サンキュー淑女たち。


『・・・心しましたわ―――練機――・・』


そこにふと、小さな会話が耳に入り、その方向に視線を向ける。

ん?あそこで話しているのは一夏とセシリーちゃんか?

なんだなんだ?仲良さそう――――・・あー、セシリーちゃんが一夏の机をバンバン叩いてる。仲がいい訳じゃないのか。


「よう?お二人さん?」
「――――うっ!? あ・・あなたは!?」
「どうも五反田 弾です。クラスメイトと聞こえのいい他人です。」
「地味に嫌だなそれ・・・しかし災難だったな弾?」
「まー、のほほんちゃんが走らずに済んだだけでも幸運だ。」
「えへへ~ありがとー」
「おう?のほほんちゃん、ただいま。」
「おかえり~」
「・・・・な・・・何なんですの?あの空気?妙にぽわぽわしてる気が・・」
「なんか二人とも随分打ち解けたな?箒との関係改善の為にも話を聞かせてくれ。」
「餌付けた」
「うん、聞いた俺が馬鹿だった。予想できる答えだった。」
「だんだんのご飯はおいしんだよ~♪」
「まぁ、こいつ料理に関してはエライ真面目だからな。その誠実さを日常にも向けりゃいいのに。」
「なんで?俺真面目じゃん凄く。」


「「「「「「「「え?」」」」」」」」


「・・・・・・・」
「だんだん~、元気出して~?」


さすがの俺も、淑女たち全員から『何言ってんのこいつ?』みたいな意味を含んだ声は応えた。そんな声揃えなくてもええやんか。

教室の隅で膝を抱え『の』の字を書く。

そんな俺の頭を撫でてくれるのほほんちゃん、・・・・君だけだ俺の天使は。(好感度UP)


のほほんちゃんに癒しをもらい、再び一夏達のもとへ。


「そんで? 二人して何の話してたのかね?」
「あー、なんでも俺にもISを用意してくれるらしいぞ?」
「マジで? すげぇな。『専用機』か?」
「は? お前知ってるのか?」
「これでも一応、勉強はしてんだぞ俺?」
「昨日はわたしが教えてあげたんだよ~」
「嘘っ!? マジかよ~俺も誰かに教えて貰いたいな・・・」
「・・・・そういえばあなた、既に『専用機』を持っていましたわよね?」
「『七代目五反田号』の事か?」
「・・・な・・なんですのその品性の欠片も無いネーミングは・・・?」
「立派な俺の相棒の名だぞ? 一回だけ出前した時は大助かりだったぜ。」
「あ、貴方でしたのね!? 人類の英知の結晶をそんな事に使ったという男は!?」
「なんか変か?」
「まー、普通はそうかもな。でもいいんじゃないか? 使う奴の自由だろ?」
「よくありませんわっ!? いいですか!? ISというのは――――!」
「ところで一夏? 飯食ったか?」
「ん? いやこれからだ。」
「ならちょうどいい、一緒に食堂行こうぜ。のほほんちゃんも一緒に来る?」
「行く~♪」
「箒ちゃんも誘えよ。もう怒ってないかもしれんし。」
「そう・・・だな。うん、そうするか。」
「そうしろ、――――それとセシリーちゃん?よかったら一緒に・・・おう?」
「あ・・・・ああ・・・・あ・・!」
「「「あ?」」」


「あなた達なんて嫌いですわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」(一夏に散々馬鹿にされた(と思っている)揚句、三人に無視された事が引き金になった。)


そう叫んでセシリ―ちゃんが、怒号の勢いで教室から出て行ってしまった。


「おい一夏? お前セシリ―ちゃんに何かしたのか?」
「い・・いやー・・どうだろうな? 俺の態度に妙に腹立ててたのは確かだけど?」
「・・・・ふむ、よく分からんレディだ。」
「お腹すいたんじゃないのかな~?」
「食堂とは反対方向っぽいけど?」
「まぁ、いいか。ほれ。箒ちゃん誘って来い!」
「分かった分かった。―――おーい、箒―――――!」


ま、とりあえず。これから四人で昼飯だ。

ちなみに、なぜか過剰反応した箒ちゃんが一夏を投げ飛ばし、俺の方向に飛んできたので、足を用意してやったら、一夏の背中にクリーンヒット。

一夏がしばし、体をえび反りにし悶絶するという一幕があったのはこれまた余談である。




後書き


箒さん登場―――って極端に出番が少ない。次回はもっと出ると思いますのでご勘弁の程を。さて次回、特訓開始です。



[27655] 第九話   友情一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 14:09
―――― え、何? は? っこんないきなり!? あ、あのこんにちは。
いつも家のお兄がご迷惑を御掛け・・・え? 終わり? ちょ・・はや――


「ふむ、突然の事態には不慣れだったか蘭の奴。」
「ん? どうした弾? いきなりなんだよ?」
「いや、別に。いつもと同じだぞ?」
「そうか? ならいいんだが。」


昼食を摂りに、俺と一夏、箒ちゃんとのほほんちゃんの四人組。

今は四人が向かい合うように、テーブルでそれぞれ食事を摂っているところだ。俺の隣はのほほんちゃん。一夏の隣に箒ちゃんという構図です。

おー、箒ちゃん。むすっとしているが頬が僅かに赤く染まっている。うむ、なんというツンデレ。いやリンデレ?どっちだろ。

ちなみに一夏と箒ちゃん、のほほんちゃんは日替わり定食。俺だけ蕎麦を食っている。さすがだ、いい味出している。

ズルズルズル。


「―――という訳で、ISの事教えてくれないか? このままじゃ来週の勝負で、俺だけなにも出来ずに負けそうなんだ。頼むよ箒」

そして現在。

一夏はというと、俺にさえ遅れをとっているという事実が後押ししているせいか、只今熱心に箒ちゃんへ教えを乞うている真っ最中です。

いやはや将来の力関係が眼に見える様だな。

ジュルジュル。


「・・・・あれは明らかに相手を怒らせたお前らが悪い。後先考えない行動をするからだ馬鹿め。」


ズズー。ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ・・・・あー、出汁うめー。


「い、いやそれはその・・・そこを何とか頼むっ!」


ゾー・・・・チュルルルルルルルルルルル。最後の一口まで残さずに。


「「・・・・・・・・・・・・・・・」」


ベコッ! ベコッ! ギュポン。


「―――今、人が鳴らしちゃいけない音しなかったか!?」
「――というか何ださっきから貴様!? 静かに食えんのか!」
「げふー。ん、終わったか?」
「だんだん食べるの早いねー。」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。」」


気が付いてみれば、俺だけが蕎麦を平らげ、他の三人はまだ半分も食っていない。
うむ、味わって食うことはいいことだ。ゆっくり食え。

腹も膨れた事だし、とりあえず会話に加わるとしようかね。


「ふむ? 箒ちゃんは、一夏に教えることが身の毛がよだつ程嫌な訳か。すごいな一夏、視界に入ると強い刺激に思わず体を背けんがばりの嫌われようだな?」
「・・・・お前は友人の心を抉る事に躊躇いなしか?」
「い・いや。流石にそこまで嫌っている訳では。」
「言われてみれば。こいつなんかキモいもんね?」
「「そんなこと誰も言っとらんわ!」」


やはり息ぴったりじゃないかこいつら。さすがの幼馴染というべきかねー。ブランクあっても錆びる程脆い絆じゃないって事ね。ごちそーさん。


「それ以外の理由なんて俺には思いつかないが・・・。一夏お前分かる? 嫌われてる理由。」
「俺に聞く事じゃないよなそれは!?」

ふむ?それじゃあ・・・

「のほほんちゃんは?」
「あむあむ♪」
「なるほど、ウザいってさ?」
「その言葉、のし付けて返すわ!?」
「箒ちゃんに向かってなんて事言うんだ貴様は!!」
「私じゃないだろう!?」

ギャイギャイ騒いでいる中、それとなーく、一夏と箒ちゃんを観察。

ふむ? どうやら昨日のことが尾を引いている感じじゃねーな?

それじゃ単に、箒ちゃんが気恥ずかしがっている――――ってこともないな。

見た感じ、一夏がどうこうじゃなくISに関して思うとこあるような気がする。単にISとあまり関わり合いたくないのかね? ここの生徒にしては珍しい子だ。

さて? どうしたもんか。

俺としては、一夏が箒ちゃんの教えを受けることは大いに賛成だ。

一週間じゃ基本中の基本しか学べんだろうが、雀の涙程度でも戦力アップに繋がるなら拒否する理由は無い。むしろ喜ばしい。

唯でさえ代表候補なんて存在と一戦交えるんだ。やるだけの事はやっておきたいもんだ。

でもあんまり乗り気じゃない箒ちゃんに無理強いするのも、紳士的にどうよ?

気が付けば、二人して立ちあがって俺を見つめて(睨んで)いる一夏と箒ちゃん。
のほほんさんは相変わらず食事に夢中。 うむ癒される。

ま、考えてもしょうがない。 聞くのが手っ取り早いか。そう思って、口を開を開こうとした時。


「ねぇ。君って噂の子でしょう?」
「「「ん?」」」


突然声を掛けられて、俺と一夏と箒ちゃんは一斉に声のした方向へ顔を向ける。


グリン! ゴキンッ―――(弾の首が曲ってはいけない方向に)


―――――こ゜?


「代表こ――――ってひぃぃぃぃぃ!?」
「ぎゃあああああああああああああああああああ!? いでででっで!? 勢いありすぎたあああああっ!?」
「お前は何処のホラー映画の悪魔だぁぁぁっ!?」
「というか何故死なんのだ!? ひぃ!? 寄るなッ! ここここっちに来るな!?」
「たーしけてー。」
「存外余裕あるなお前!? というか立つな! 動くなキモいわっ!?」
「おわー!? だだだ、だんだんが凄い事にー!?」
「あれ? 戻らんな? ふん!」
「「「戻せるの(かよ)!?」」」

―――ゴキュ。

ふー、戻った。(ケロリ)

コキコキと首を鳴らし首の状態を確認。 うん問題なし。 


「―――で? 噂って?」
「何ごとも無かったように話を進めるな! お前大丈夫かよ!?」
「あー。心配ない心配ない。蘭の蹴りに比べりゃ大したことないぞ?」
「こいつはもう妖怪の類ではないのか・・・?」
「だんだんはきっと、だんだんっていう生き物なんだと思うなー。」


失敬な。ただ人よりちょっと復活が早くて不死身なだけだ。(既にその時点で普通ではない。)

ほら見ろ。根も葉もない事言うから、目の前の淑女が顔面蒼白にして俺を見ているじゃないか。

全く。純粋無垢なレディになんて事を。信じたらどーする。


「はーい。真人間の代名詞。五反田 弾さんですよ?」
「さらっととんでもないホラ吹きやがった。」
「お前が真人間なら。世界中の人間すべてが賢人だ。」
「馬鹿はいいけど嘘は駄目って誰かが言ってたよな?」
「うむ。その通りだ。嘘はいかん。」


ええい!さっきから喧しい奴め!(一夏にたいしてのみ)

まぁ、それはともかく。とりあえず話を進めよう。


「で? 噂って何ですかね? 一夏がトイレ探して学外まで激走したってのは俺が広めた噂ですよ?」
「おいこら!? お前何してんだ!?」
「女子ってすごいね。 もう噂が広まったんだなぁ」
「何しみじみとしてんだ!? やっぱりお前とはガチで拳で語り合う必要があるな!」
「望むところだ! ならば俺は先にチョキを出す!」
「おー、心理戦だー♪」


ギャイギャイ


「・・・・・あのー?」
「しばらく待っていただけますか? 今黙らせますので。」



スラッ―――――――――【木刀抜刀】



*   *   *



「――――お待たせしました。それで? 何のご用でしょう?」


頭からダクダクと血が流れるが、あいにく手拭いを持っていないから放置で。
まぁそんな俺を無視して、箒ちゃんがサクサク話を進めていく。
でもなぜ俺だけ? 一夏は無罪ですか? 贔屓はいけないと思うぞ。

しかし流石箒ちゃん。
まさか一撃で俺の意識を刈り取るなんてね。将来さぞ立派な剣豪になるだろう。

―――あ、復活は2秒で済んだ。やはり長時間俺を地獄の底に落せるのは千冬さんくらいじゃないと厳しいみたいだねー。

あ、のほほんちゃんがタオルで血を拭ってくれた。 もうなんて良い子なんや。


まぁ、その後の話は簡潔に言うと次の通りだ。


『あなた金髪の子と勝負するってマジ?』
『そうですね。』
『この素人が! 調子にのるな!』
『そうですね』
『仕方ない。私が教えてあげるわ。二人っきりで』
『そうで――クぺッ!?』
『こいつは拙者の弟子。すっこんどれ』
『青二才が身の程をわきまえろ』
『お姉ちゃんに言いつけてやる。』
『調子乗ってすんません。帰ります。』


という感じだな。
まぁ、間違ってはいないから大丈夫だろう。


しかし『篠ノ之 箒』って、何処かで聞いたかと思ったら。
あのウサミミ束さんの妹だったのか。


―――ふむ。


姉が実は副賞の景品だったという。衝撃の事実を知ったらどうなるのかね?


ま、それはさておき。
箒ちゃんが一夏の実力を測るため、放課後に一夏を剣道場に呼び出す次第となりその場は解散になった。ちなみに俺とのほほんさんも一緒に行くことになったぜ。(箒ちゃんに心底嫌そうな顔されたが)


ふぅ疲れた。

お? 丁度いい所に布団が。 休み時間もまだあるし寝かせてもらうか。おやすみー。
(食堂で堂々と布団を被り寝る男)


「だんだん~!? それ私の布団だよ~! かーえーしーてー!」
「クンカクンカ。ふむ素晴らしい。甘く、それでいてどこか清潔な―――」
「―――――っにゃああああああ!? かか嗅いじゃ駄目ぇぇ―――!?(真っ赤)」






【一夏SIDE 】


「どういうことだ?」
「いや、どういうことって言われても・・・・」


放課後になって、いざ剣道場にきた俺は。
只今幼馴染に、上から冷たい眼で見下ろされている状況下に居る。

まぁ、手合わせ開始10分で俺の一本負け。我ながら不甲斐ない。


「どうしてここまで弱くなっている!?」
「いやどうしてって言われても・・・・・・?」
「あの男か!? あの男と一緒に居たせいで鈍ってしまったのだろう!? ええい許せん! 今すぐ叩き斬って―――!?」
「待て待て。落ち着け箒。そうじゃないから話し聞け。」


今にも斬りかかりそうな勢いで、弾の元に突貫しようとする箒を後ろから羽交い絞めにして止めてやる。猪かお前は?

ちなみに弾はというと――――。


「のほほんちゃん機嫌直してくれないかね?」
「・・・・・・・・」
「さすがにやり過ぎた。ゴメン。」
「・・・・・・・・」
「お詫びに何か作るから。すごいの作るから。」
「・・・・・・・・」
「あ、今ちょっとピクッてした。」
「・・・・・・・・(プイッ)」
「かーわーいーいー♪」
「・・・・も・・・・・・」
「ん?」
「も―――――っ!も――――――っ!!(ぺしぺし!)」
「いたた。痛いって。わはははははははは。」


剣道場の端っこで、真っ赤な顔をしたのほほんさんに叩かれ笑っていた。


・・・・・うん何か邪魔しちゃ悪そうだ。(!?)


しかし弾の奴。のほほんさんを怒らせるなんて何したんだ? ダボダボな袖でぺしぺしと弾を叩いているが、弾にとってはそれが楽しくてしょうがないようだ。

なんというか平和だな。あれだ、じゃれて来る猫を可愛がる飼い主のような――。


「いいいい一夏!? いいいいいい加減に離せ!」
「うん? 離したら弾に突貫するだろうが」
「い・・・いや、今はさすがに―――――・・・なぁ?」
「それもそうか。」


箒から腕を離して解放してやる。

なんかちょっと残念そうな顔が見えたが――――お前そんなに弾を仕留めたかったのか?やめてくれよ? あれでも一応友達なんだから。


ま、とりあえず説明。受験勉強していたこと。帰宅部に所属の3年間皆勤賞だったこと――――・・・弾に振り回されたこともちょっとだけ白状する。


まぁ案の定。


「―――――なおす。」
「はい?」
「鍛え直す! IS以前の問題だ! これから毎日、放課後3時間、私が稽古を付けてやる!」
「え。それはちょっと長いような―――ていうかISのことをだな。」
「だから、それ以前の問題だと言っている!」

うわー、怒りまくってる。こりゃ何言っても駄目そうだ。

「情けない。ISを使うならまだしも。男が女に剣道で負けるなど・・・・悔しくは無いのか一夏!」
「そりゃ、まぁ・・・格好悪いとは思うけど。」
「格好? 格好を気にすることの出来る立ち場か! それともなん「よ! お二人さん。終わったか?」―――貴様っ!」


激高している箒の言葉を遮るように弾が近付いてきた。
はー。正直助かったぜ。サンキュー弾。


「いやーしかし箒ちゃん強いね。流石全国大会優勝者、一夏もかたなしだな?」
「うるせぇ。・・・それよりお前。のほほんさん怒らせるなんて何したんだ?」
「若さゆえの衝動が暴走ってとこかね?」
「なんだそれ?」


いつものようにヘラヘラした顔で近付いてくる弾に、俺も言葉を掛ける。

・・・・おい箒? そんなに睨むな。こういった軽い感じの人間が好きじゃないお前にとって、弾はまさにその通りの性格だか仕方ないかもしれないが。いつにもまして眼が鋭いぞ。


「・・・・何故私が全国大会の優勝者だと知っている?」
「うん? ああ、一夏が新聞見て妙に懐かしそうな、それでいて楽しそうな、だらしない笑顔してたもんだから気になってね。教えて貰ったんだ。」
「色々余計だ。」
「はっはっは。間違っちゃいないだろう?」
「・・・まぁいいか。ま、そういうことだ。」
「・・・・・・・・・ふん。」


お、箒が引き下がった。流石に自分の優勝を褒めてくれる相手に噛みつくことはしないか。若干嬉しそうだし。

はー、しかし参ったな。
こうまで簡単に負けると逆に清々しいな。でもまぁ・・・悔しい気持ちもあるにはあるんだが・・・・

『織斑くんってさあ』『結構弱い?』『IS本当に動かせるのかなー』

ぐ・・・・・やっぱり男が女に負けるなんて情けないことこの上ないよな。



『―――――――千冬様の弟なのに』


―――――――ギリ・・・


いつか言われると思ったが・・・流石にきついな。

そりゃそうだ。あんなに凄い千冬姉の弟である俺が、こんな体たらくじゃそう言われてもしょうがない。

比べられることなんて慣れてる。大丈夫だ、寝て目が覚めれば忘れているさ、



けど―――俺だって・・・・・




「よっしゃあああ! 第二ラウンドだ一夏ぁっ!」
「――――――っ!! いきなりなんだよ弾!? うるせぇぞ!?」


いきなり馬鹿みたいに大声出した弾が、剣道場の隅に走り。
一本の竹刀を片手に戻って来る。

おい。お前は今度何をしでかすつもりだ?


「第二ラウンドだ! 次の相手は俺だ! さぁ、かかって来るがいい!」
「は? お前何言ってんだ? というか剣道やったことあんのか?」
「ノリと勢いでカバー。」
「――――貴様っ!? 剣道を馬鹿にしているのか!?」
「いやん。箒ちゃんてば怒ったら可愛い顔が台無しだぜ? ほらほら一夏の前だよ。笑って笑って♪」
「なななっ何を言う! べべべ別に私は一夏が居ようと居まいと・・・・!!」

こいつはまた。なにを言ってるんだ?
付き合ってられるか。


「嫌だよ。箒と一戦交えて疲れてんだ。帰って寝る。」
「くくくく、だからこそだ! 今のお前なら簡単にぼこれる! この好機を逃す俺ではないわ!」
「「お前はどこまで腐ってるんだ!?」」


なんて卑怯な奴!? ふざけんな俺はやらないからな!?
流石の箒も、弾の外道極まりない言葉に激高している。自業自得だアホ!

箒の罵声を受けてなお、ヘラヘラしている弾を尻目に。

俺は剣道場の更衣室に向かおうと足を進め――――




「大丈夫だって、万全の状態じゃない一夏を倒しても誰も気にしないって。それに理由効くじゃん?『疲れてたから本気を出せなくて負けましたって』ってな? ま、万全の状態でも俺が勝つけど。あいつ弱いし。」




――――――止めた。




―――――――あ? 今なんっつった?


「―――――弾? お前今何て言った?」


空気が軋む。
俺の纏う空気が変わったことを敏感に察知した箒が、慌てて止めに入ろうとするが知った事か。

今の発言だけは許せない。

弾とは中学時代から、ずっと競い合ってきた。

負ける事もあれば、勝つこともある。でもそれはお互いに認め合った上での結果だ。

次は負けねぇ。今回は俺の勝ち。どうだ超えてやったぜ。畜生抜きやがった。

認め合ったからこそ、笑いながらそう交わし合う関係。

けど今こいつは。 あきらかに俺を下に見やがった。

許せない・・・ 友達だからこそ許せない!

俺の顔を見ても、弾はへらへら笑ったままだ。
ムカつく・・・! 何笑ってんだよてめぇ!


「ん? なんだよ一夏? そんなに怖い顔すんなよ?」
「・・・・・誰が弱いって?」
「お・ま・え♪」
「――――――てめぇっ!?」
「だってそうだろー? これ以上負けんのが嫌だから俺との第二ラウンド避ける訳だし―?」
「上等だ。 受けて立ってやる! 後悔すんなよ!」
「疲れきっているお前に勝ち目などないわ! ふはははははははははは!!」


そうやって馬鹿みたいに笑っていられるのも今の内だぞ弾!!
吠え面かかしてやる!







「――――では、両者構え。」


箒に立ち会って貰い、互いに睨みあう俺と弾。(弾の奴だけはニヤニヤしていたが)

後悔させてやる。覚悟しろよ弾。


「くくく! 一夏よ。俺の『本気』を見せてやるぜぇ!」
「あーそうかよ。なら俺はその上をいってやる!!」


男二人が真剣勝負ということで、さっきよりもさらにギャラリーが増えた。
・・・・・・おい。部活の格好した奴もいるぞ? いいのか?


おっといかん。勝負に集中しなきゃな。

竹刀を正眼に構え弾を見据える。
弾といえば、竹刀を肩に担ぎヘラヘラと笑っている。


「―――五反田! 何をしているっ構えろ!」
「構えてるよん? はじめちゃってくれ。」
「そんなふざけた構えがあるかっ!?」
「今ここにある事が全てさっ!!」
「き・・・ききき貴様っ!? 一夏! 遠慮はいらん! 叩きのめしてやれ!」


おいおい良いのかそれは? 立ち会い人が片方に付くなんてありか?

だが、まぁいいか。
弾の構え・・・かどうかは知らないが。見た感じ全くの素人。
いくら鍛錬を怠っていたからといって。剣道を全くしたことも無い奴に負けるかと聞かれれば、それは否。油断さえなければ負ける事は無い筈。

あきらかに俺が有利な戦いだ。
疲れもあるが、それを差し引いても負ける道理は―――――


――――待てよ?


そう言えばこいつ『本気』をみせてやるとか言ったな?

よく考えろ。惑わされるな俺。

相手は【あの】弾だぞ? 考えろ。あいつの行動パターンを、思考を。



――――――――あ、そういやあの祭りの日の時こいつ・・・。



~回想~


あれは鈴が、まだ引っ越す前の頃の話。

浴衣の着付けで時間が掛かる鈴と蘭を置いて、一足先に祭りの行われる神社で、弾と共に二人が到着するのを待っていた時の事だ。

あきらかに時間がかかり過ぎている事に疑問を覚えた俺達は、祭りの入口まで様子を見に戻った。

その時目にしたのは、中年のおっさんに絡まれている鈴と蘭だった。

どうも酷く酔っているおっさんに、ほとほと困り果てている様子の二人、鈴が怒鳴っても聞かずに逆に切れ出すおっさん。

まぁその時に弾が動いた。理由は簡単。蘭がちょっとだけ涙目だったから。

弾はというと


『あのクソに俺の『本気』を見せてやる。』


そう凶悪な表情を浮かべ、おっさんに近付いた弾は―――――。


『はーいおっさん?』
『―――― ああん!? 誰だて―――!』
『プレゼントフォーユー!』

ブシュ―――――!(痴漢撃退スプレー)

『―――っぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!? 目がぁ!? 目がぁぁぁあ!? 痛い! いでででで痒い!? ぐわあああああ!?』

『ダ―――――――――イッ!!』

メキョッ!!(ドロップキック)

『ぶふぉおあっ!?』
『フンッ!!』

ガッ! ミシミシミシィ!(倒れ込んだ相手を持ち上げバックブリーカー)

『あんぎゃああああああああ!?』

バンバンバンッ!!(弾の体を激しくタップ。顔中が痛くて痒いのにおさえる事も出来ない地獄)


『ああん? 聞こえんなぁあ?』
『――――――――ッ!――――――っ!?』(もはや声も出ない)
『ひゃははははははははっ!! ケタケタケタケタケタ!!』(悪顔)


後に語られる。『祭りの夜の悲劇』の【序幕】だった。


~回想 終了~





―――お、思い出したあああああああっ!?


そうだ! コイツの『本気』は。

『あらゆる手段を駆使して、勝つ。過程なんざ知るか。勝てばそれが正解よ』がモットーの卑怯上等外道戦法だった―――――――!?

ということはだ!


「――――――――始め!」


箒の開始の合図と共に、走りだす俺と弾。

そして――――― 思った通り!!


「死にくされやあああああぁっ!!」
「やっぱり目潰し用催涙スプレー隠し持ってやがったな!?」


吹きかけられる直前で体を捻り、弾のスプレーを持つ腕を掻い潜り、互いに距離をとる。


「「「「「「「うわ! 卑怯っ!?」」」」」」」」
「ふざけんな! 正々堂々勝負しろ!」
「俺は剣道で勝負するなんて言ってないぞ?」
「ご・・・・五反田ぁぁぁぁぁ!? 貴様それでも男かぁ!? 恥を知れ!」
「耳に心と書いて『恥』ですね。知ってます。」
「一夏ああああああああぁぁあぁっ!! 叩き殺せぇ!! 今すぐこの馬鹿を叩き斬れええええええええっ!!」


うわぁ・・・・箒がいまだかつてない怒髪天を迎えた。


「ダ――――――イ!」

妙な叫びと共に、弾が突っ込んできたが―――――甘いっ!


体を低くし弾に向かって、こちらも走りだす。

そしてすれ違いざまに――――――――――― 一閃!


痛快な打撃音が響き――――――・・・


「ごばああああああああああああああっ!?」



弾の馬鹿が盛大に吹っ飛んで、剣道場の壁に激突。

そのままズルズルをずり落ち、逆さまの状態で停止した。


「――――― 一本! それまで! 勝者 織斑 一夏!」


わあああああああああああああああああああああああ!


剣道場に拍手喝采が起こる。

お・・・・恐ろしい奴。すれ違いざまに俺の急所を狙ってきやがったよ弾の奴。

だが、まぁ。今回は俺の勝ちだぜ弾。これに懲りて言葉には色々気をつけろよな?


『凄いね! 見た今の!』『悪は滅びたわ。』『織斑君カッコイイー!』


・・・・・・ち、ちょっと照れるな。


「ぐふぅ・・・・・さ・・・さすがだ一夏。だがこれで終わりと思うなよ・・・!?」
「相変わらずの不死身ぶりだなお前?」
「くくく・・・俺が倒れても・・・新たに第二、第三の俺が現れ・・・必ず貴様を・・・!」


何処の悪役だお前は・・・・・というかやめろ。第二、第三なんてお前が複数いたら世界が崩壊するわ。

その後は、まぁ興奮冷め止まぬって感じだったが。しばらくしてみんなそれぞれ戻っていき。ようやくお開きとなった。

あー・・・疲れた。






【本音 SIDE】


「うへ~疲れた~・・・・・」

おりむーとの対決からしばらく経って、だんだんが剣道場から出てきた。

勝負に【負けた】だんだんは、一人で剣道場の清掃をさせられることとなって、今の今まで時間をとられていた所でした。

たいへんだねー。だんだんは。


「だんだんー。お疲れさま~」
「へ? おお、のほほんちゃんじゃないか! もしかして待っていてくれたの!?」
「そうだよー?」
「・・・・・やばいっす。マジこの子良い子っす。天国の親父見ているかい・・?」

だんだんが空を見上げてブツブツつぶやくけど、気にしない気にしない。
だんだんはこういう人なんだから。


帰る部屋も一緒なんだし。一緒にかえろー。


夕陽を背にして二人して歩く。


「いちち・・・くそー一夏の奴。何気に尾を引くダメージの与え方は。千冬さんそっくりだぜ。」
「大丈夫―?」
「もう駄目。死にそう。のほほんちゃんの布団がないと俺死ぬかも。」
「そ、それはもういいよ~」


うう・・・不覚~。いまだに顔が赤くなるのが分かる。
そんな私を見て、ニヨニヨ笑うだんだんは、いじわるだと思う。

破天荒で、とんでもない事を引き出すびっくり箱で、ご飯がおいしくて、女の子には甘いけど時々いじわるな、だんだん。


―――そして、とっても友達思いの優しいだんだん。


「そういえば。今日のおりむーとの対決は~。」
「おおう、のほほんちゃん。敗者の俺に追い打ち掛けるとは・・・・悪かったって。もう布団の話はしないからさ。」


違うよ。だんだん、知って欲しいの。私が知っている事を。







「―――――だんだんの【勝ち】だね~。」







「・・・・・・・・・・・・・はい?」


おお~、だんだんのきょとんとした顔はレアだ。
なんでだろ~、とっても嬉しい。


「だって、だんだんは、おりむーに『負ける』ことが。だんだんにとっての【勝ち】だったんだよねー?」
「・・・・・・・・・ほほー、おもしろいね。何を根拠にしているのか聞いても?」


いつも道理の、にへらとした笑顔だけど。ちょっとだけ目が驚きに揺れているのが分るよ。


「だんだんはー。おりむーが『織斑先生の弟』とか『ISを動かせる男子』っていう見方しかしない女の子達の言葉が、許せなかったんじゃないかなー。」
「俺が? ははははは、何をおっしゃるかと思えば。 野郎がどんな評価受けようが知った事じゃねぇすよ?」

ヘラヘラ笑うだんだん。
へへへ~、そうじゃないよねだんだん。


「男の子がじゃなくて、『友達』であるおりむーだからこそじゃないのかなー。」


「・・・・・・・・・・・・・。」


「だからみんなに、純粋なおりむーを知って欲しかったんだよね。だからだんだんは、わざとおりむーを怒らせて、勝負に持ち込んだんだよね~。」

自分が咬ませ役になってでも。

だんだんは、おりむーがみんなの言葉に傷ついている姿を見たくなかったから。

とっさに仕組んだんだよね。 あの張りぼてだらけの舞台劇を。


「だんだん言ってたよ。 『俺の『本気』を見せてやる』って。 その言葉におりむーは、何か閃いた顔になった所を、ちゃんと見てたんだ~♪」
「眠そうな目だというのに、そりゃ大変だったね?」
「そうでもないよ~。」


だんだんの顔に浮かんでいるのは苦笑。
その表情もはじめてみたよ~。


「だんだんの『本気』が、どういった行動なのかを、おりむーは知っていたんじゃないのかな。だからこそ、だんだんがおりむーに『本気』を見せるって言った事の意味を考えたらピンときたのー。」
「ふむ、してその答えはいかに?」


そんなの決まってるよー


「今から『お前の知ってる本気の行動をとるから、ちゃんと俺をぶっ飛ばせ』かなー?」

「――――――」

「もちろん、手加減なんかしたらおりむーにもばれちゃうから、全力で『本気』の行動をとったんだよね? だからこれは勝負だったことには変わりはないよー? 『勝ち負けが正反対』になってるね~。えへへへ」


だからね? だんだん。


「だから、だんだんの『負け』は【勝ち】ってこと~。証拠におりむーの見方が『そこそこ腕の立つ男の子』になったみたいだし~♪ 皆に聞いてみたから間違いないよー♪」


「―――――・・・・・・ふむ。なるほどねー・・・」


私の答えに、考え込むように腕を組んだ、だんだん。
空を見上げて、しばらくぼーっとしていた。


しばらくそのままだったけど、次はガシガシと頭を掻いて――――・・・


ゆっくりと視線を私に向け



「――――――――――― やっぱり・・・女ってすげぇなー・・・・。」



今まで見たことも無いような表情で、そう言った。


・・・・・・・・お~・・・・。


「―――しっかし、のほほんちゃんて意外にするどいのな? 俺びっくりだ。」
「てひひ。 私は実はすごいんだよー!」
「しばらく見ない間に、こんなに立派になって・・・・・! うぅっ!」
「まだそんなに経ってないよ~?」


あはは、いつものだんだんに戻っちゃったー。
でも、だんだんの評価は下がっちゃったのに、そこは気にしないのかな?


「そんじゃまぁ、のほほんちゃん?」
「なにー?」



だんだんの方へ目を向け―――――


そこで私は一つの幻を見る。


いつもの様な、何気ないしぐさで。


小さな舞台を閉めるように。


王子様やお姫さまが笑う舞台の隅で、花びらを撒き周囲を鮮やかに彩る彼を。






「―――俺の、ちっぽけな【勝ち】を祝って。 一緒にディナーでもいかがですか?」





仮面を被る、心優しい道化師が、そう口にする姿を。





「よろこんで~♪」


もちろん、私は断ることなくその手を掴んだのでした。



【箒SIDE】


つい先ほどまで、二人の男女がいた場所を見つめる。
それは、私だけでなく。私の隣に居る一夏も例に漏れずに佇んでいた。


二人はというと、

『食堂まで競争、負けた人の奢りな!』『ええ~!?』『アディオース!』『あー!待ってぇー!?』『ふははははは、甘い! 甘いわー!』

と、叫びながら帰ってしまった。


あの男はまた【勝って】、あの妙にのんびりとした娘に、食事を奢るのだろうか。


私の隣に居る一夏は、何も言わない。
ただ、なにも言わずに、友人の走り去っていった方向を見つめていた。


「―――――――――箒。」


短く。だが力強く私を呼ぶ声に、心臓が小さく音を立てる。


「・・・・なんだ?」
「―――これから一週間。遠慮はいらない。徹底的に俺を鍛え直してくれないか?」


振り向いた瞳は、今までの輝きを凌駕する程強く、そして決意に満ち溢れていた。

何を言うのかと思えば・・・


「当然だろう。徹底的に叩き直してやる。」


―――――もう【負ける】訳にはいかないんだろう?


そう呟くと、一夏は一つ頷き笑う。


「――-ああ、あいつに【負けた】まんまってのは真っ平御免だからな。」


そう言って、私達は小さく笑い合った。


――――― 五反田 弾。


全く、本当に妙な奴だ。








そして、それから一週間。特訓に次ぐ特訓が繰り返され。
一夏はもちろん。五反田もついでに鍛えてやった。
奴を、一夏と二人して追いかけ回す日々も、考えてみたらこの日から始まったといえるな。





そして―――――――― 決闘の日はやって来る。






後書き


―――――長い。の一言。時間が掛かり過ぎだと思いちょっと反省です。さて次回、ようやくVSセシリア戦です。ここまで持ってくるのに、こんなに時間掛かったのは、わたしだけでしょうか・・・? 



[27655] 第十話   決闘 【前編】 へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 14:17
「ちわっす! やってきました決闘日。ゲストの五反田 弾です。」
「お前な・・・」
「おい、勝手にゲストになるな主賓の片割れ。」



ついにやって来た、セシリ―ちゃんとの決闘の日。
只今俺と一夏は、第三アリーナ・Aピットにて、来る戦いに備え準備中。

俺と一夏の隣には、箒ちゃんが一人付いてくれている。
のほほんちゃんは、なんでもアリーナの客席で応援するとのことで、ここにはいません。

ああ・・・癒しが・・・・癒しが足りない!

まぁ、箒ちゃんもダイレクトに美人だからいいんだが、こう、優しさが・・・ねぇ?


「・・・お前失礼なこと考えてないか?」
「師匠・・・・貴女との修行の日々。この弾、生涯忘れません・・!」
「誰が師匠だ。全くお前は・・・・」
「まぁ、箒には色々世話になったし、あながち間違いでもないんだよなぁ。」
「シャワー浴びてる姿は眼福モノだったしな? うん世話になったな。」

ビシィッ!
おう、俺の発言に空気が凍った。
箒ちゃんは顔が引きつり、一夏はモアイ像のような顔をしている。


顔芸のバリエーションが増えたなぁ。


「・・・・・な、なにっ今なんと言った!? のっ覗いたのか貴様ら!?」
「してない! してないぞそんなこと!」
「このお兄ちゃんがどうしてもって言うから。僕は止めたんだホントだよ。」
「俺を主犯に仕立て上げる気か!?」
「僕良く分かんない。」
「そのムカつく子供声を止めろ!」
「こっこの変態共め! 許さん、成敗してくれる! そこに直れ!」
「まっ待て箒。出鱈目だ、そんなことしてないぞ!」
「黙れ! 聞く耳もたん!」
「聞けよっ!? 俺は別に興味ないって!?」
「・・・・・・・・・・お前って、マジで馬鹿じゃない?」
「は? なんだよ弾。何を言って――――どわぁ!?」
「――興味ないっ・・!? 興味ないとはどういう事だ!?」
「なんで怒るんだ!?」


・・・・・・・・・鈍感要塞はいまだ健在のようだ。

竹刀片手に、一夏に黒いオーラを向ける箒ちゃんを横目に、俺は今日までの事を振り返ってみた。
おー? 一夏の奴凄いな。真剣白刃取りとは腕をあげたな。感心感心。


あれから今日までの一週間。
俺達の修行は、簡潔に言うとこうだ。

放課後は、師匠と一夏に追いかけ回されるデットヒートを繰り広げ(捕まれば即剣道場へ強制連行)。

少しは仲が良くなった師匠に、名前で呼んでもらえるようお願いして、渋々OKもらったり。

『七代目五反田号』で基本動作の復習を行い。勝手に訓練場使った事がばれ、千冬さんに追い回されたり。

二人して部屋に集まり、あーでもねーこーでもねーと参考書開くも、ちんぷんかんぷんで揃ってダウンし、のほほんちゃんと箒ちゃんに縋ったり。

夜食作ると、のほほんちゃんや箒ちゃんが、いつの間にかテーブルに付いていたり。

人生ゲームで白熱のバトルを繰り広げ、怪我人が出たりと激動の一週間だった。

うん? 修行と呼べるかこれ?
まぁ、俺は自分なりに作戦もいくつか立てたし、一夏も何故か気合い入れて剣の稽古に打ち込んでいたし、悪かないとは思うがね?


―――――で、だ。別にそれはいい、それは良いんだが。

問題は・・・・・


「なんで決闘直前なのに、一夏の『専用機』が届いてないのかねぇ?」
「おい・・・お前人を散々な目に遭わせといて何言ってるんだよ一人で・・」


ん?一夏が戻って来たか。
おーおー、箒ちゃんもまた随分不機嫌そうで。


「なんだ生きてたんか。この覗き魔。」
「死にかけたわドアホっ!? 人を犯罪者扱いすんな!」
「まぁ、そんのことより。なんで未だに一夏の『専用機』が来ないのかね?」
「話をすり替えやがった・・・。」


ぶつくさ言う一夏は放置。ふむ、まぁ届いてないモンは考えてもしょうがないか。

それじゃ俺は一足先に自分の準備でも始めますかね?

少し一夏達から距離をとり、待機状態の相棒に目を向け言葉を発する。


「――――『七代目五反田号』展開。」


まぁ。いつものようにIS装着の言葉を口にした俺だったのだが―――







【ライダー風、宇宙刑事風どちらで?】







相棒に表示された文を見て、硬直した。




―――――なん・・・・・だと・・・!?


「いっ一夏ああああああっ!? 緊急事態だ! 俺に力を貸してくれええええ!!」
「ど、どうした弾!? 何があった!? ISのトラブルか!?」
「な!? 待っていろ! 今先生をよ――――!」
「ライダーと宇宙刑事ならどっちを選ぶ!?」
「「――――――――――― は?」」
「だから! どっちか聞いてんの! やはり変身ポーズの決まるライダーか!? それとも瞬間装着の宇宙刑事か!?」
「・・・・・・・何を言ってるんだお前は?」
「あー・・・いやまぁ、なんとなく分るが。それは重要なのか?」
「ここはやはり腰に巻いてることだし、変身ポーズの決まるライダーで・・・いや待て!? 宇宙刑事なら『もう一度スローで見てみよう』とかナレーションが入ってリプレイが流れるんじゃないか!? 駄目だ! どっちも捨てがたい・・・・・!」
「・・・・聞いてないようだな。」
「もう好きにしろよ・・・・・・・・はぁ。」


おのれ『七代目五反田号』!
この究極の二択の一方しか選ばせないというのか!?
ええい、どうする。どうしたらいい。俺はどうしたら良いんだ――――!?


「若さって何だ!?」
「来ないな、IS。」
「うむ。」


苦悩する俺の背後で、二人のそんな呟きが聞こえた。




*   *   *



――――数分後。

しばらく苦悩した末、今回は宇宙刑事をとった俺。
やはりリプレイが流れやがった、恐るべし『七代目五反田号』・・・・。
何気に一夏も「すっげ!」とか言って目を夏輝かせていた。野郎だもんね。


とりあえず、ISの装着を無事完了した俺は、腕を回したり、ハイパーセンサーやら各駆動系のチェック、エネルギーの確認等をして戦闘の準備を始めていた。

ふむ。 特に異常なしだな。

カラーリングは碧に統一され、他のISに比べるとかなり武骨な外見をしている『七代目五反田号』。 見た目は強そうだから結構気に入っている。


そのまま黙々と準備を続ける俺の周りには、幼馴染コンビが並び、しげしげと俺の行動を観察していた。 


「ふむ? 二人してなんばしよっとね?」
「いや、いつ見てもなんかゴツイなぁと思ってさ。」
「うむ。 貫禄のある姿だ。 操縦者は別として。」

失敬な。
何処に出しても恥ずかしくない紳士な俺にむかって何てことを。

他愛もない会話を続けつつ、一夏の『専用機』の到着を待ち続ける

ちなみに視界の端には【待機状態のISを確認。ISネーム『ブルーティアーズ』。操縦者 セシリア・オルコット】と、表示されている。

もう待っているのかセシリーちゃん。 むぅ、レディを待たせるとは紳士としてあるまじき行い。

こうなったら、俺が出向いて担いで持ってくるか?

半分本気でそう思った時――――――――――。


「お、織斑くん織斑くん織斑くん!」


男の夢の詰まった塊を揺らして、マヤたんが駆けこんできた。
おお、眼福眼福。

何? 『記録』した?

相棒・・・! お前って奴ぁっ・・・! まぁそれはともかく。


「俺の一夏を馴れ馴れしく呼ぶとは言い度胸だマヤたん。」
「え? ええええぇぇ!?」
「山田先生、コイツは無視してください。それよりも落ち着いてください。はい深呼吸。」
「箒ちゃん! ここで『一夏は私のだ!』って言わなきゃ駄目じゃないか!?」
「あっアホか!? そそそんなこと言えるかっ!」
「す~~~は~~~す~~~~は~~~」
「はいそこで止めて。」
「うっ。」
「じゃあ、ちょっと上着脱いでみようか?」
「ぼほぉっ!? げほげほっ!」
「普通にセクハラ発言をするな馬鹿者!」


パァン! ガンッ!

ピット内に、軽快な音が鳴り響く。

おう、千冬さん登場ですか。
IS装備中の俺まで叩くとは、律儀な人やね? 全然痛くない。

隣で一夏が「お前だけずるいぞ・・」と呟いているが、知らんがな。


「ち・・千冬姉。」


パァン!


「織斑先生と呼べ。学習しろ。さもなくば死ね。」
「ようし、介錯は俺が受け持とう。だれかフライパン持ってきてー。熱せられた表面で、顔を往復連打するから。」
「介錯ではなく拷問だそれは!」
「くくく、楽に死なすかよ・・・・・(暗笑み)」
「ここここ怖いです! 五反田くんがすごく怖いです!?」
「・・・・・話が進まん、山田君。」
「へ? あっはい! えーと、来ました、織斑くんの専用ISが届きましたよ!」


おーついに来たか。さて? 一体どんなISかね。






【一夏 SIDE】


――――― そこには『白』がいた。

白、真っ白、飾りの気のない無の色。 眩しい程の純白を纏ったISが、その装甲を解放して操縦者を待っていた。
弾のISを『剛』とするなら、こちらは『勇』といえるだろうか。洗礼された姿の奥に、強い力を宿しているように見える。

「これが・・・・」
「はい! 織斑くんの専用IS『白式』です!」
「おー・・・すげぇな。真っ白で綺麗じゃないか―――いでで、やめい。お前が一番だから圧迫してくんな。おちおち、他のISを誉めることもできんのか・・。」
「・・・・何をしているんだお前は」


周囲の雑音を無視して、千冬姉が近付いてきた。


「体を動かせ。すぐに装着しろ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。出来なければ負けるだけだ。分ったな?」

「――――――・・ふむ。」

せかされるまま、千冬姉の言葉に従い、ISに体をあづけていく俺。
その間も、体が馴染むようにISと繋がっていく。

集音率が高まったせいか、千冬姉の言葉を聞いた弾の、何かを考え込むように呟いた声も鮮明に聞こえる。

【戦闘待機状態のISを二機感知。右方向ISネーム『r【削除】七代目五反田号』。操縦者『五反田 弾』。戦闘タイプ中距離・近接戦闘型。特殊装備有り。前方上空。ISネーム『ブルー・ティアーズ』操縦者『セシリア・オルコット』―――――】

「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。一夏、気分は悪くないか?」
「聞こえってかー?一夏。」


いつもと同じような声。だけど、その二つの微妙なブレに気付く。

――――二人とも心配してくれているのか。


「大丈夫、千冬姉。いける。」
「そうか。」
「弾の方こそ大丈夫か?」
「俺はいつも通りよ。 毎日絶好調! でも最近妹分が・・・・!」
「そんなことまで聞いとらんだろうが。馬鹿者め」


いつも通りの台詞の奥に見える、あいつの緊張を解そうとしてくれる気遣い。
ホント。良い相棒に出会えて幸せもんだな俺は。

箒の方に意識を向けてみる。何か言いたそうな、けれど言葉に迷っているようなそんな表情。

弾が、そんな箒に気付いたようだけど、手を軽く振って止める。

一瞬キョトンとした弾だが、次にはヘラっとした顔で笑い、俺に頷く。


「箒。」
「な、なんだ?」
「行ってくる。」
「あ・・・・ああ。勝ってこい。」
「帰ったら、のほほんちゃん含めた四人で祝勝パーティー開こうぜぃ! 俺の腕が唸るぜ!」
「・・・ふっ、気の早い奴だ。」
「ははは。ま、それくらいの意気がなくちゃな。―――行くぞ。弾。」
「あいよー。」


弾と並び立って、ピットゲートを進む。不思議な事に緊張はさほどないな。

弾の奴も鼻歌を歌いながらゲートを進む。まぁ、いつも通りだな。


「――――と、そうだ一夏。一ついいか?」


不意に、弾の奴がこっちに振り向き声を掛けてきた。

なんだ? トイレか?


「どうかしたのか? 弾。」
「おう、ちょっと話があってな?」
「何だよ?」
「な~に。大した話じゃないんだがな?」


そう言って、ヘラりと笑いながら。話を続ける


「――――― ちょとした作戦を思いついてな。乗らないか?」
「作戦?」
「おう、セシリ―ちゃんとこのまま戦りあっても、俺らの勝率は一割にも満たないんだぜ? 単純計算しても」
「・・・・・マジかよ?」
「相手はイギリスの代表候補だ。当然だろう? 何人退けているか聞きたいか?」
「いや・・・聞かないでおく」


ぐぐ・・知りたくない情報を。

こういう時は嘘でもいいから、勝率半分くらいとか言ってほしいもんだぞ。気合と根性でどうにか――――・・弾にそれを求めるのは無駄か。


「だが―――」


そう言葉を区切った弾が。先程までの表情とは一変し、戦いに赴く男のそれへと変わる。


「―――― 勝率を引き上げることくらいは出来る。後は俺達次第な策だが・・・どうする?」
「―――― 乗った!」
「――― そうこなくちゃな!」


中学の時と同じように、俺達はニヤリと笑い合う。

悪いなセシリア・オルコット。

こうなった俺達は―――――― 強いぞ。





【セシリアSIDE】


「あら、 逃げずに来ましたのね。」

ゲートから出たきた、二体のISが私の前に現れた。

このわたくしを恐れずにやって来た、その心意気は認めても良いですわ。

いえ、勇気と無謀を履き違えた、勘違いしている男二人に憐れみすら感じますわね。

「待たせたなハニー!」
「誰がハニーですか!? 待ってもいませんわ貴方達なんて!」
「戦闘待機状態って待ってる事にならんのかね?」
「なるんじゃないか? よく知らんが。」
「やっぱり待っててくれたんだねハニー! 照れんなよ!」
「だから止めなさいと言っているでしょう!?」


碧の、他のISに比べやけに装甲の厚そうな機体から、不愉快なあの男の声に、つい反射的に応えてしまいました。

全く腹立たしい! このわたくしを、あそこまで散々馬鹿にした挙句、今なお馬鹿にし続ける男は貴方達が初めてでしてよ!

ふん。まぁでも、それも今日までですわ。一体貴方達が、誰に挑み、また無知であったか思い知らせてあげますわ。

でも、最後の慈悲として一応降参も受け入れて差し上げましょう。


「最後のチャンスをあげますわ。」
「マジで!? 撮影はどのくらい近づいて良いんですか!?」
「・・・・は? 何を言ってますの?」
「おい弾? 意味分からんぞ。」
「馬鹿野郎! 見ろ! あのISを纏ったセシリーちゃんのきわどい格好を! この姿をこんなに近くで撮影できるなんて確かに最後のチャンスだぞ!?」


―――――――― は!?

カッと、顔中熱が集まるのが分ります。

そして、勢いよく自分の肌が露出している部分を、大急ぎで押さえてしまいました。


「どっどど何処を見ていますのぉぉ――――!?」
「くい込みとか! チラチラ見える生肌とか最高ですね!」
「いやあああああああ!? 変態!! 痴漢がいますわああああ!?」
「お前は何処のエロ親父だ!?」
「そんなこと言って、一夏も好きなくせに♪」
「巻き込むな!」


目の前で、白と碧のISが、お互いギャンギャン言い合っている隙に、わたくしは自分の格好を、大至急チェックしました。 

く、くい込みってなんですの!? そんな所ありませんわよね!?

うううう! こ、このような辱めを受けるなんて・・・!?

やはり男なんて獣ですわ! IS装備の女性をそんな目で見るなんて、これですから極東の猿は嫌なんです!


もう良いですわ。

慈悲を掛けて差し上げましょうと考えた。私が間違っていたようです。

身に程を弁えない、愚かな猿には調教こそが必要ですわね!?


「―――――― 覚悟なさい。」


手に持った【スターライトmkⅢ】を二機のISに向け、エネルギーを装填する。
自分のISからの警告があったのか、二機がこちらに目を向ける。


「―――って! 狙われてんじゃねぇかよ!?」
「おう。せっかちだなセシリーちゃん?」
「ふざけてる場合か! 来るぞ!」
「――――――――――――― 武装展開っ!」


「―――――― お別れですわ!」


狙いを定め、トリガーを引く。

同時にキュイン! と鋭い音が響き、二機に向かって閃光が走る。

―――まずは挨拶ですわ。 存分に受け取りなさい!

そのまま、二機を貫く閃光――――のはずだったのですが。



「――――五反田食堂秘伝!【中華鍋バリアー】!」


キュワン!


「――――― なっ!?」


甲高い、聞き覚えのない音が響くと同時に、私の放った砲撃が、碧のISの手前で霧散してしまった。

――― そんなっ!? 一体何が起きたといいますの!

理解できないまま、碧のISを纏う男に視線を向ける。

視線に映る碧のISは。先程までは持っていなかった、身の丈を超える程の円盤状の巨大な楯を持ち、白いISを守るように自ら前に出ていた。


「ふいー、危ねぇ。なんとかなったか。」
「お・・おい弾!? お前今何したんだ!」
「ん? ああ、ちょいとコイツを使ってな、なんとか防げたな。」
「――― それは一体なんだ? さっきまで持ってなかったよな?」


ごく自然に、そう返した男の言葉に驚愕する。

そんな馬鹿な! わたくしの初弾を防いだというのですか!? 素人同然の男が!?


「そんなに驚く事じゃないぜ。そういう武装なんだからな。『七代目五反田号』についているこの武器はな?」


カンカンと、男が手に持つ巨大な楯を指で弾く。

あの楯は一体? ビーム兵器を無効化する特殊なシールドなのかしら・・・?


「これぞ! 『七代目五反田号』の主力武器。【業火鉄板鍋】だ! この鍋に耐えられないモノは無い!」
「鍋ぇ? 楯じゃないのかよ? なんだそれ?」
「鍋だ! 誰が何と言おうとこれは鍋です! 俺が決めた今!」
「やっぱりお前が勝手に命名したのかよ・・・・」


ま、また妙なネーミングの物が出てきましたわね。まぁ、でも調べればすぐに正式な情報が――――――。


【敵ISの武装確認。武装名称【業火鉄板鍋】。砲撃の威力を弱め、霧散させる能力有り】


・・・・・・・・・・・・

・・・・こ・・・これは突っ込んだら負けなのでしょうか?


「まぁ、それはそれとして・・・・、随分過激な挨拶じゃないかセシリーちゃん。」


男が私に話しかけてきた。

くぅ、まさか防がれるとは。けれど、いくらその楯が優れていようと、私の【ブルー・ティアーズ】にいつまで耐える事が出来るのかしら?


「ふん、わたくしの初弾を防いだことがそんなに嬉しいのかしら?」
「超嬉しい! やったぜ! 防がれてやんの! だはははははははははははは!!」
「―――――――ッ!(わなわな)」
「嘘だよ?」
「大笑いした後に、そんなこと言われて誰が信じるというのですか!?」
「一夏・・・お前は信じてくれるよな?」
「素で爆笑したよなお前。今。」
「――――――― ちっ、バレたか。」
「やっぱり馬鹿にしたんじゃありませんのっ!!」


く、屈辱ですわ! こんな風にコケにされるなんて! 許しません! 絶対に許しません!

良いですわ、全力を持って排除してあげますわ!


「【ブルー・ティアーズ】!!」


四つの『ブルー・ティアーズ』を展開し、砲身を二機のISに向ける。


「「――― げ!?」」


展開された私の『ブルー・ティアーズ』を見て、二人の男が驚愕の言葉を口にし、盛大に顔を顰めた。


ふふっ! もう遅いですわ! わたくしをコケにした報い。存分に受けるといいですわ!


「おいおい冗談だろ! ビットなんて反則だ! セシリーちゃんてもしかして、『種』持ってたりする!? ストライクなフリーダム好きですか!?」
「訳分かんない事言うなよ!? 何とか防げないか!?」
「そう言うお前こそ何か持ってないのかよ!」
「俺のは――――・・あ、【近接ブレード】が一つだけ。」
「帰れ役立たず!」
「なんだと! お前こそ楯以外の装備ないのかよ!?」
「料理人が武器持ってる訳あるか! 今はこの【業火鉄板鍋】だけだ!」
「お前なんか攻撃手段持ってねぇじゃねぇか!? お前こそ帰れ!」
「なんだと!?」
「なんだよ!?」
「「――――――――――っ!!」」


お互いの顔を突きつけて、睨みあう男二人・・・・

―――呆れてものも言えませんわね。協力するどころか、お互いの欠点を罵り合ってこの状況で仲間割れ。

なんというか、先程までむきになっていた自分が、馬鹿みたいです。

ふぅ、とんだ茶番ですわね。

所詮、男なんて無知で馬鹿な人種ということを再確認しただけの結果となりましたわ。


「―――さあ、終わりにしましょう。」


もう、終幕まで後わずか、せいぜい踊って下さいな。


「――――踊りなさい! わたくしと【ブルー・ティアーズ】の奏でる円舞曲で!」


四つの【ブルー・ティアーズ】が、わたくしの命令に従い、愚かな二人の男へと向かっていった。





【千冬SIDE】

「あわわわわ!? どうしましょう! どうしましょう~!? 織斑くんと五反田くんが喧嘩しちゃってます~!」


二人の罵り合いを見ていた山田君が、オロオロと慌てふためく姿を視界の端に収めながら、私は、二人の姿をモニター越しに見つめ続ける。

ふと。篠ノ之が、真剣な表情で画面を食い入るように見つめている姿を見つけ、近づく。


「どうした篠ノ之? そんなに二人が心配か?」
「―――――っ! あ、いえ、別に。」
「・・・ふん。しかしこの状況で【喧嘩】とは、のん気なものだな。」


そう言って、モニターに視線を戻す。

モニターの中では、一夏が【必死】に『ブルー・ティアーズ』の攻撃を避け続け、五反田は、我武者羅に楯で【護り】に徹している。


・・・・・ふん。全くとんだ【茶番】だ。


「さて、篠ノ之? お前はこの状況どう見る?」
「・・・・・・二人は勝ちます。」
「ほう?」


確信めいた声に、少々目を見張る。こうまで断言するとはな。

そのまま、篠ノ之はモニターに視線を戻し、真剣な眼で二人に無言のエールを送り続ける。

その口に、僅かな微笑みを宿して。


「――――― ふふっ・・・」


いつの間にか、私も小さく笑いをこぼしてしまった。まったく、本当にとんでもない【茶番】だ。

モニターに映る。金髪の少女に目を向ける。


「早く気付かないと、大変な目に遭うぞセシリア・オルコット。」


お前の言う円舞曲は、まだ始まってもいない。

気付いたころには、道化師によって作り上げられた舞台が始まってしまうぞ?


騎士と道化師の奏でる【協奏曲】が。











後書き

更新が遅くなり申し訳ありません。ちょっと忙しくなってきましたのでSSを書く時間が極端に減ってしまいました・・・気力は衰えてませんので、どうかお付き合いください。さて次回、弾と一夏が暴れます。



[27655] 第十一話  決闘 【後編】 コースは以上へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 14:32
【箒 SIDE】


・・・む? 挨拶? なんだそれは?


「セシリアさんの二人に対する『危機感』の低下ですか?」
「おそらく、五反田の最初の狙いはそれだろう。」


モニターを見つめつつ、織斑先生がそう口にする。
画面の中では、一夏がビットの攻撃を巧みにかわしている。

・・・・・馬鹿、素早い行動の割に、顔が【必死】とはおかしいだろうに。
まぁ、一夏に高い演技を求めるのは酷だろうが、それにしてももっと・・・

弾、あいつはあいつで攻撃を楯で上手く受けている。

かわすと見せかけて、かわせなかったという態度で攻撃を楯で吸収。受けた射線上の先には一夏の姿。

・・・・・言うだけあって、上手い。一夏が捌ききれないかもしれない攻撃を見極めて【護り】に徹している。

凸凹コンビだとは思っていたが、お互いに役割は果たしていた。


「元々、セシリアは二人対し警戒心も危機感もさほど感じていなかっただろう。だからこそ、二人は【喧嘩】して見せた。自分達の低い警戒心を、さらに地に落とす為にな。」
「え? どうしてです?」
「セシリアに最初からある程度の本気を出させないためだろう。 セシリアは女尊男卑の傾向が高い。 元々男を下に見ていた所、対戦相手の男二人が自分との力の差で動揺して、さらには互いを罵っての喧嘩を始めたとしたらどう思う? 少なからずもこう思った筈だ『本気で戦うことすら馬鹿馬鹿しい』とな。」

―――― さすが織斑先生だ。

二人の狙いを一瞬で見破った。この策は冷静な人程見破られやすい。逆にいえば頭に血が上った人程嵌りやすい。


「それじゃあ、織斑くん達のさっきの【喧嘩】は・・・」
「セシリアに本気を出させない為の策の一つだろう。 それにセシリアは短期戦を望むタイプではない。 場を盛り上げるだけ盛り上げて、自分の力を周囲に誇示する長期戦を望むタイプだ。 最初から本気で来ないとしても保険はかけておきたかったのだろう。そして、本気でないビット攻撃はIS起動が二回目である織斑にとって、練習相手に申し分ない。」
「練習・・・・・・あ!」


山田先生が、今気付きましたとばかりに声を上げて、モニターを覗き込む。

一夏の動きは、すでに最初のようなもたつきはほとんどなく。いくらか余裕も出て来ている。

・・・だから、表情と動きが矛盾しているだろうに。全く。


「少々荒療治だが。織斑の短い時間でのIS機動の向上も狙いの一つだ。攻撃より回避に専念させるのも、下手に攻撃してダメージを受けることは無論。一次移行もすんでいない初期設定状態時に無駄なエネルギーを消費させない為だろう。後は、一次移行まで悟られないよう挑発し続け冷静さを奪ってやればいい。途中違和感に気付き攻撃のレベルを上げても、それは織斑の成長の糧にしかならんし。なによりセシリア自身のエネルギーと弾薬の消費にしかならん。・・・・まぁ、セシリアのエネルギー浪費も狙いの内だろう。」
「ほ、ほあ~!? ご、五反田くんて策士ですね~!?」
「悪知恵が働くと言うんだああいうのは。・・・・それに五反田自身も隠し玉を持っているかもしれんな。織斑の一次移行が作戦の全容とは思えん。作戦内容の一つだろう。」


策士か・・・・。

一夏はどちらかというと、考えるよりも先に体が動く性質だ。それに対し弾はある程度、観察と調査を行い行動する性質。

・・・なるほど、お互いの長所と短所を補っているという訳か。二人が妙にウマが合うのも少なからず納得できるな。

そう思いモニターの戦闘に視線を戻す。


『無駄無駄無駄無駄ぁ!』
『さっきから煩いぞ弾! 集中できないだろうが! 静かにしろ!』
『【しょうがないな】』
『腹話術!? いらん技術身につけやがった!?』
『ちょこまかと鬱陶しいですわね! 観念なさいな!』
『そうだ! いいかげんに観念して『IS/VS』を貸せよ一夏!』
『いきなりなんだよ!? というかその前に、貸したままのゲーム返せよ! もう半年も貸したままなんだぞ!』
『そんなもんとっくに金に換えたわ。』
『その発言待てえええええっ!? 何してくれやがるんだボケナス!?』
『うるせぇよ!』
『なんでお前が切れるんだよ!?』
『しょうがないだろ! う○棒食いたかったんだから!』
『どんだけ購入したんだお前!? 俺のゲームは○ま棒の誘惑に負けたのかよ!?』
『一個だぞ? 何言ってんの?』
『十円の為に売るんじゃねぇ!? 残りはどうした!?』
『お前に返そうと思った行き先で、お使いの買い物の商品を、道端に落して駄目にしちゃってグスグス泣いてた女の子に近付いて。商品確認して『ちょっと待ってな』って一言告げて、手持ちなかったから仕方なくゲーム売った後に近くのスーパーで同じ商品買ってきて、女の子の所に戻って『よかったら、お兄ちゃんのと交換してくれないかい?』っていう一コマの中で消えた。すまん一夏、いくらなんでもその為にお前のゲームを売るなんてどうかしていた。遠慮はいらん、盛大に罵ってくれ。』
『できるかああああああ!? 何の感動を届けてるんだお前は!?』
『出来もしないなら始めからするな!? そんなんだからお前は一夏って影で呼ばれるんだ!』
『本名だよ!? 別に困らねぇよ!!』
『あ・・あの? 私忘れてません事? そ、それとお二人ともまず落ちついて・・』
『外野は黙ってろ! 取り込み中だ!』
『レディに向かってなんだその態度は!? でもセシリーちゃんも、ちょっと空気読もうな?』
『す、すみませ―――――って!? 何で私があやまらないといけないんですのおおおおおおおおっ!?』
『悪いことしたら謝らないとな?』
『あ―――――もう! 貴方という男はホントに! ホントにホントに―――!?』
『らーいーおーんだ!♪(古)』
『『お前(貴方)はもう喋るなあああああああああっ!!』』
 


・・・・・・・ あいつは本当に考えて喋っているのだろうか?



「・・・・・・あ、あの。あれも冷静さを奪う為・・な、なんですよね?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・あ、水・・・入れますね・・・。」



静かに胃薬の蓋を開ける織斑先生の背中が、やけに小さかった




と、とりあえず頑張れ! 一夏! 弾!






【弾 SIDE】


「は――――っ! は―――――っ! さ、三十八分っ! も、持った方ですわねっ! ほ、誉めて差し上げまっえほえほっ! は―――・・!」
「・・・・なぁ、弾・・・」
「言うな。それが紳士だ。」
「・・・・・・・・・・・・おう。」


むしろ誉めてあげたいのは俺らの方なんだがね?
いやー、さすがセシリーちゃん。すごいわ体力。野郎二人相手に
うむ、マジすごい。
一対二の状況の中で、ここまで体力が続くとは感嘆の息しかでない。


「それよりも一夏? どうだ?」
「あともう少しだとおもうんだが・・・。」


ふむ、まだ一次移行は成らずか。時間稼ぎもそろそろ限界なんだがな?
セシリーちゃんに視線を戻す。

ありゃー、不味い。

なんか警戒の色が、表情ににじみ出てる。さすがに戦闘の途中で違和感に気付いたか。そりゃそうかもね? 俺達一切攻撃しなかったし。


「――― 貴方達! 一体何が狙い何ですの!? こんな時間稼ぎなどして! 私のエネルギーの枯渇が狙いなのでしたら無駄ですわ! そんな幼稚なミスを犯す私ではなくってよ!」
「ん? 気が付いてたのセシリーちゃん? どのあたりから?」
「ふん! そんなものすぐに気が付いてましたわ! あえて幼稚な策に乗ってあげた私に感謝してほしい位ですわね。」
「でもなんか途中激昂しなかったか? お前。」
「・・・・・そこは黙ってようぜ相棒。紳士なら」
「あ、あれは貴方達のせいではありませんか! わ、私を無視して!」
「「寂しかったのか? そりゃ悪かった。」」
「その台詞は二回目ですわっ!? なんでまた息ぴったりなんですの!?」
「愛かな?」
「「それも二度目!?」」


ほほー、時間稼ぎと感づいても攻撃してきたのか・・・・成程ね。俺達の策にあえて乗ってくれたのか。

その上で俺達を超えて勝利する自信があると。

恰好良いねぇ。 強い淑女さんだ。 眩しい位に気高い心。最高だっ!!

でも、今回その余裕はちょっとばかし悪手だぞ? セシリーちゃん。


「まぁまぁ、別に俺達に大層な狙いなんて―――――・・」
「――――――っ!? 弾!」
「・・・来たな? 手札がようやく揃ったぜ。」


俺が会話を続けようとした時。

一夏が、待ちに待ったという表情で声を上げ。―――次の瞬間。

『白式』が、強烈な眩い光を放つ。

―――――――キィィィィィン

静かな高周波音を立てながら、『白式』の姿が劇的に変化していく。光に粒子を放ち、一夏という宿主のために、己を形成していく。

装甲からまだ僅かな光の粒子を生みながら、一夏の【白式】がこの場に誕生した。


ようこそ、歓迎するぜ! 『白式』!


「ま・・・まさか一次移行!? あ、あなた今まで初期設定だけの機体で戦っていたんですの!? この為の時間稼ぎでしたのね!?」
「そ。ついでに起動に不慣れな一夏のレベルアップも兼ねたね? 練習相手ありがとうなセシリーちゃん。」
「おかげで十分練習になったぜ。俺からも感謝する。」


俺と一夏の感謝の言葉に、セシリーちゃんの眼元が引き攣った。
うむ、その顔も美人だ。どんな表情も似合うね♪

一夏は、体の調子を確かめるように腕を回し得たりしている。
手の中の【近接ブレード】も形を変え、神々しさを発している。

――――― すげぇな。 『七代目五反田号』が、あの刀に特A級警戒信号を発している。そこまで凄いのかアレは?


「――――― それも狙いだったという訳ですのね・・!? 私とした事が・・・! ッ! では最初の【喧嘩】も!?」
「セシリーちゃんの手を抜かせる為の作戦の一つ。練習を始めるなら最初はEASYモードの方がいいだろう?」
「少しづつ射撃の正確さとスピードが上がって来てたけど。なんとかなったぜ?」


いやいや、それはお前の順応能力の高さがおかしいんだよ。
なんだよ、一発二発は覚悟してたのに避けきるって・・・・・・・

さすが、千冬さんの弟という肩書は伊達じゃないってことか。元々一夏の身体能力の高さは身をもって知ってる。今は体が心に追いついてないだけだ。

いつか、こいつは誰もが放っておけない人間になるだろうな。

調子に乗るから絶対言わないがね?


「あとはセシリーちゃんのエネルギーを無駄遣いさせようと目論んだんだけど・・・」
「そんなミスは犯しませんわっ!?」
「でも、いつもよりも消費は大きいんじゃない? 一対多向きでも、当らなければ消費はでかい筈だ。その辺どう?」
「――――――――――・・・くっ!」


俺の言葉に、セシリーちゃんがビットを全面に展開。
自分を護るように、俺達に構える。

どうやら【敵】として認められたようだぜ相棒。光栄だな。

一夏も一夏で、真剣な表情で相手を睨みつけている。

手に持った刀も、一層光を放ちその存在を周囲にしめいている。一夏が動かないのは、おそらく合図をまってるからだろうな。


ここからが本当の勝負だ。作戦もいよいよ大詰め。そろそろ決着つけようか? 

―――――――― 【奥の手】も準備はOK。いつでもいける。


「―――― ここからが本当の勝負。さっきとは違って、一次移行した一夏の『白式』の段違いの機動力。そして防御から、攻撃へと戦法を変える俺の『七代目五反田号』。凌げるもんなら凌いでみなってね。」
「―――― 攻撃!? 武器がその楯以外にあるのですか!?」
「一夏の言葉に勘違いしたね? 俺は攻撃手段ないなんて一言もいってないぜ? ナイス一夏。やるじゃん。」
「・・・い、いや。俺も持ってないと思ってた。」
「「・・・・・・・・・・・・」」
「や、やめろ! 二人してそんな目で見んなよ!?」


・・・・まぁいいか。

想定よりもエネルギー消費の多い自身のIS。

さっきとは性能と戦法をガラリと変えて来る敵のIS。

それも二人同時に相手をする。

しかも片方は所持武装の詳細が鍋(え?)以外一切不明。


かなり厳しいハンデをぶつけてやった思うが・・・・・どうなるか。相手は代表候補生・・・・なにか温存している可能性もあるし油断できないな。


これを凌がれたら、もう打つ手なし。最初から出し惜しみはなしで全力で行くぜっ!!


「一夏。」
「なんだ?」
「セシリーちゃんだけに集中しろ。背中は任せてくれ。」
「その方が分りやすくて良いぜ。了解だ。頼んだぜ。」


俺に背中を預ける事に一瞬の躊躇いもなしか。・・・・カッコイイじゃない!

なら、その信頼にこたえるために全力を尽くさせてもらう。


「そんじゃ行くぜ? ―――――――――― レディー・・・・」





「「――――――GO!!」」





――――――― ドンッ!!

空気が弾ける音が鳴り響き、同時に動き出す俺と一夏。

一夏がセシリアちゃんへ真っ直ぐに向かっていくのを、ハイパーセンサー越しに見ながら、俺は真っすぐに、アリーナの地面を目指す!


「―――――っ!? 速いっ!? 【ブルー・ティアーズ】!! 撃ち落としなさい!」


一夏の機動力に、セシリーちゃんが驚きの声を上げるが、すぐにビットで対応する。しかし、撃ちだされたレーザーを、素早い機動でかわす一夏。


――――― さすが! さっきまでとは比べる事すら馬鹿馬鹿しい程の機動だ!


そんな一夏から意識を外し、地面に激突するような勢いでさらに加速。
右腕の装甲に、バチバチと閃光が走り。輝きが増していく。


―――――――― これが【奥の手】!!



「――――― いっけええええええええええええええええええ!!!!」




『七代目五反田号』の右腕装甲が、アリーナの地面に叩きつけられると同時に。

岩を砕くような轟音を響かせ、俺を中心とした。エメラルドの電磁波のフィールドがアリーナ全域に一気に広がる。


「「―――――― っ!!?」」


突如現れた電磁波のフィールドに、一夏もセシリーちゃんも驚愕する。

――― うげっ! ごっそりエネルギーを持ってかれた!? 

表示されたエネルギー残量を確認しても、残りわずかしかない。 
やっぱり使いどころが難しい代物だぜ・・・!


「――― な!? なんですのこれは!?」
「弾っ!? お前何をしたんだ!?」


ふ! よくぞ聞いてくれたな相棒! これぞ【奥の手】!


「これぞ! フィールド発生兵器【食の寝台・まな板領域】! 『七代目五反田』の特殊武装だ!」
「なんだそりゃ!?」
「また妙なネーミング武装ですの!?」


驚くのは名前じゃないぞ!
この【食の寝台・まな板領域】の力をとくと見せてやるぜ!!


「『七代目五反田号』。【敵IS所持武装選択】!【武装指定・ブルー・ティアーズ・レーザー射撃型】! 発動しろ!」


俺の発言と共に、フィールドの電磁波が輝きを増し―――――


「―――――― なっ!? 【ブルー・ティアーズ】が!?」


エメラルドの電磁波が一斉にそれ伸び、セシリアちゃんのビットに喰らいつく。
そのまま一気に引き寄せ、電磁波のフィールドの地面へと縫い付けた。

よっしゃあ!! 


「私の【ブルー・ティアーズ】が!? ま、まさかそのフィールドは!?」
「その通り! この【食の寝台・まな板領域】は、敵のIS武装を封じる効力を持ってんのさ! 俺が指定した武器は例外なくこの電磁フィールドへご招待だ!」
「―――― す、すげぇぞ弾!!」
「って言っても、エネルギー消費が激しい上に形成時間が短くてな。使いどころが難しいんだが・・・・・・」


そう言いつつ。
俺は【業火鉄板鍋】を構えて、命じる。


「【業火鉄板鍋】! 【貯蔵】解放! 武装展開だ!」


俺の命令に、【業火鉄板鍋】が、その内部に【貯蔵】していた武装を、俺の前に展開する。
解放された武装は、『七代目五反田号』が引き寄せ装着。

これで、『七代目五反田号』も準備完了だ!


「―――――!? 楯の中に隠し持っていましたの!? そんな!?」
「行くぜぇ! 【五反田包丁・初代・二代】! 【食の寝台・まな板領域】が消える前に、ビットを料理する!!」


両脇に装備してある二振りの刃を引き抜く。
そしてそのまま一気に、地面に縫い付けられているビットへ加速。

まな板の上なら俺の独壇場だあああああっ!!


「――――― させませんわっ!!?」
「こっちの台詞だぁ!」
「――――――― くっ!!?」


俺に向かって、セシリーちゃんが銃口を向けるが、一夏が素早くセシリーちゃんに肉薄。刃を一閃するが、紙一重でかわされる。
けど、どうやら一夏は、それが狙いだったようだ。


「―― 弾! こっちは任せろ! やれぇっ!!」
「ナイス一夏! 後で奢っちゃる!」


相棒のフォローを受け、ビットの二つに接近。
そのまま、【五反田包丁・初代・二代】を素早く振るい【切る】!!

――――― あらよっとぉ!

一閃、二閃と光が走り、ビットが切り刻まれた。


「微塵切り! かつら剥き! どっちも完ぺきに決まったな! お次は!」


自分の位置から、かなり距離のあるビット二つへ意識を向ける。
突っ込んでも【食の寝台・まな板領域】が消える方が先だな・・・・・ならば!


両腕に装着された砲身を残りのビットへそれぞれ照準を合わせる。


エネルギー馬鹿食いしたからな・・・威力は弱火で【焼く】としますか!!


「焼き加減は弱火だが十分だろ! 【特性コンロ・炎の料理人魂】! 発射ぁ!」



小さな発射音と共に、二つの小さな火球がビットへ放たれ――――― 命中!!
黒こげになり、小爆発を起こし消滅した。

それと同時に【食の寝台・まな板領域】も消滅。

くそ、やっぱり効果時間が少なすぎる。 できればもう一つぐらいセシリーちゃんの武装を破壊しときたかったんだがな。


「――――― ッ!? よくも私の【ブルー・ティアーズ】を!?」
「余所見は禁物だぜっ!!」
「―――――― ちょこまかと鬱陶しいですわ! 喰らいなさい!」


セシリーちゃんが一夏に向かって攻撃――――・・って!? あれは【ブルー・ティアーズ】じゃないのか!? まだ持ってたのか!? それも二機かよ!
でもそれならなんで【食の寝台・まな板領域】が反応を示さなかったんだ?


「―――― っ!? 射撃型じゃない! 弾道型か!?」


一夏の声にハッとする。
弾道・・・しまった。
指定したのは射撃型のみだった! 弾道型を備えている【ブルー・ティアーズ】は対象外という訳ね。
くそ、融通聞かないなコンチクショウ!!


ああもう!


「【業火鉄板鍋】!【剛鉄球お玉】! 行くぞぉ!」


【業火鉄板鍋】を地面に寝かせ、背中の【剛鉄球お玉】を大きく振り上げる。
こっからじゃ救援は無理だ。
なら――――――コイツで! どうだ!


「【剛鉄球お玉】!その【叩く】威力は未知数だ! 行くぜ! 某寝ぼすけ兄貴を起こす為に編み出された妹の想いのこもった究極秘儀! 死者の―――――――っ!!」


お兄ちゃん朝ですよっとぉぉ!!


「―――― 目覚めええええええええぇぇぇぇっ!!!!」



【剛鉄球お玉】を思いっきり【業火鉄板鍋】に叩きつけた瞬間。



ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォンン―――――ッ!!



―――― 大気を揺るがすが如く、火山が大噴火するかのような物凄い轟音がアリーナ中に響き渡った!!



「「「「「「「――――― 耳があああああああああああっ!?」」」」」」」


うおお!? 凄い威力だ。
観客の淑女たちにもダメージが行くとは、すまん!


けれど、とてつもない衝撃波は観客席のシールドが護ってくれたようだ。さすがIS学園!

だが――― ミサイルはどうかな!?

上空に視線を向けると、二つの弾道型【ブルー・ティアーズ】に大きな亀裂が入るのをハイパーセンサー越しに確認することができた。

そしてそのまま発生した衝撃波にやられ、二つの弾道型が途中で大爆発を起こし消滅。

黒煙で一夏の姿は確認できないが、まぁ無事だろう。・・・・上手くいったか。


『IS【七代目五反田号】。残量エネルギー0を確認。戦闘不能、リタイア。』


あー、しまった。最後のでエネルギー使いきっちまったか。

すまん、一夏。後は頼んだ。


「~~~~~~~~~~!? そ、そんな無茶苦茶ですわぁ!?」


耳を押さえ、セシリーちゃんが叫ぶが・・・・

―――おいおいセシリーちゃん? それは、大きすぎる隙だぜ!


黒煙の中を突っ切るように、白い弾丸が猛スピードでセシリーちゃんに接近。

その存在に気付いたようだが、反応が間に合わず硬直する『ブルー・ティアーズ』

刀を振り上げ―――――


「――――― 俺達のっ・・・!!」


一気に振り下ろすっ!!


「勝ちだあああああああああああああっ!!」


白が青を切り裂いた瞬間。ブザーが鳴り響く。






『試合終了。 勝者――――― 織斑 一夏。五反田 弾 ペア』






「「―――― よっしゃあああああああああああっ!!」」


空と大地で、俺達の雄たけびが木霊した。


ギリギリの勝ちだったがまぁいいか――――― ん?

何気なく空を見上げ―――― そこには重力落下していく『ブルー・ティアーズ』の姿が鮮明に・・・・っておい!?


「―――― 一夏ああああ!? セシリーちゃんキャッチしろおおおお!?」
「――――― は? ・・・・はああああっ!?」


俺の言葉にセシリーちゃんに視線を向けた一夏だったが。その先には重力落下するセシリーちゃんの姿があり、それを見て思わず素っ頓狂な声で叫ぶ。

おいおい待て!? エネルギー切れにしても空中落下するなんて聞いてないぞ!?
ISって安全性は超高い筈だぜ!?


「セシリーちゃん!? どうしたんだ!?」
「わっ分かりません!? せ、制御が効かないんですの!?」
「「なんでさっ!?」」
「――― も、もしかしてさっきの衝撃波のせいでどこか破損を・・!?」
「なんだってぇえ!? 俺のせいっすか!? やべぇ!? 一夏ぁ! 頼む!」
「――――― 任せろっ!!」


お、恐るべし『死者の目覚め』・・! こ、この技はよほどの事がない限り使用は制限しよう!

俺も『七代目五反田号』を動かそうとするが、機体が重くてどうにもならねぇ!!
くそ! 紳士としてあるまじき失態だ!

視線の先には、地面に向かって落下していくセシリーちゃんの姿・・・!! やべぇっ!!


「―――――――――――ッ!?」
「一夏あああああああぁぁぁぁぁ―――――――――っ!!」
「間に会えええええええええぇぇぇぇぇぇぇ―――――っ!!」


地面に激突する瞬間。

白の閃光が瞬き、間一髪でセシリーちゃんを横からかっ攫う。


おっしゃぁ!! ナイスだ一夏っ! 後で【弾特製フルコース】を作ってやるからな! セシリーちゃんにもお詫びを兼ねたスウィーツも作ります!


「・・・・ナイスキャッチだ一夏! でかしたぜ!」
「あ、危なかった・・・! 大丈夫だったか?」
「―――― え? は・・はい。」
「そっか。そいつは良かった。(眩しい笑顔)」
「・・・・・・・・・・あ・・・・・・はい・・・・(キュン)」


・・・・・あ、一夏セシリーちゃんにフラグ立てやがった。

見境ないなあいつは本当。見ろよ。セシリーちゃんの険がとれた、あの乙女な表情。

あー、箒ちゃんの激怒する顔が目に浮かぶぜー・・・・。楽しいね!(他人の不幸は蜜の味)

あ~~~・・それにしても最後の最後でどっと疲れたぜ。

大きく息をついて、俺はアリーナの地面に大の字になって寝っ転がる。今は唯、ゆっくりと体を休めたい。


こうして、俺達の勝利とセシリーちゃんのフラグが立った事で。決闘は終了した。




【本音SIDE】


アリーナに寝そべるだんだんの姿を見つ続ける。

お~勝ったよー! おめでとうだんだん~!

今まで見たことない、『男の子』なだんだんは、なんかカッコ良かったな~


・・・・あれ? なんだか顔が熱いな~・・・・。


「あはははははは! 何あのネーミング!? あっははははは! ちょっと待ってお腹痛いぃ~~~~♪ あはははは!!」


席で笑い転げる楯無お嬢様。
あはは~。確かにそうだけど、それでこそだんだんって感じだね~。


「あー♪ おかしい。噂の男の子達は想像以上に面白い子達みたいだね。」


パンと、扇子が広げられ。書かれていた文字は『痛快』。
おー、結構好評価だ~。

もう一度だんだんに視線を向ける。
おりむーに手を貸され起き上がっているところで、へらへら笑っている。
うんいつものだんだんだー。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


・・・・あれ? さっきからお姉ちゃんが妙に静かだなー・・・?

お姉ちゃんを見ると。視線はじっとアリーナに向けられている。
・・・・あれ?


「お姉ちゃん~? どうしたのー?」


私の声にハッとするお姉ちゃん。 一瞬慌てたようだけどすぐにいつもの表情に戻る。


「な・・なんでもないわ。 初戦で勝利なんて凄いわね。二人とも。」
「・・・・そうだね~。」


なんだろう・・・・なんだか嫌な予感がする・・・・・・
よく分かんないけど・・・なんだか変な感じがする~~~~? なんでぇぇぇ~!?

そしてまた、お姉ちゃんの視線はアリーナに戻る。

その視線の先にいるのは――――― 誰~!?

なんでこんなに気になるの~~~~~~~~~!?



「――――――― これはっ!?♪(ギュピ―――ン!)」



そんな私達を、楯無お嬢様がキラキラした表情で見ていたことを。
その時のお姉ちゃんも、私も気付かなかったのでした。







後書き

まさかの生徒会メンバー登場です。さて一体どうなることでしょう。ちなみに弾にハーレム願望はありません。紳士ですから。さて次回、IS授業及び祝勝パーティなどの日常編です。――――― そしてもうすぐあの娘が帰ってきます。



[27655] 第十二話  帰還一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 14:34
ちわっす。 みんなの頼れるお兄さん。 五反田 弾です。


決闘翌日。
クラス内は決闘の話題で大賑わいです。

そりゃそうか。代表候補生に素人二人が勝ってしまったんだからな。
しかも男。話題性十分すぎる。

このまま、一夏がクラス代表に決定するかと思いきや。
ここで、思っても見ない事態が発生。
この劇的な勝利のお蔭で、ちょと妙な話になってしまった。

目線の先では、マヤたんが楽しそうに声を発していて、隣の千冬さんは・・・・なんか眉間に皺を寄せて不服そうにしている。


「それでは、一年一組のクラス代表は、織斑 一夏くんに決定です。そしてさらに、副代表に、五反田 弾くんに頑張ってもらいます。男の子二人なんて頼りになりますねっ。」


わあああ!
パチパチと、淑女たちが大いに盛り上がっていた。

一夏の奴は、「まぁ、俺だけってのは割に合わないからな」と言って頷き。
箒ちゃんは、「・・・・・正直不安だな・・・」と渋面。
セシリーちゃんは、「負けた手前文句が言えません・・・なんて羨ましいポジションを・・!」と、ものすごく悔しそう。


・・・・・・・俺が副代表?


何という事だ。どうしてこうなった?
ふむ? とにかく理由を知らねば話が進まんなー。

そう思い、俺は勢いよく右足を上に突き上げた。


「へいマヤたん。SO★MO★SAN!?」
「その呼び方止めたくださいっ!? 足じゃなく手を上げてください!? それから普通に質問がありますっていってくださいぃっ!?」

体が柔らかいことは良い事だ。
まぁ、それはともかく。俺にはどうしても納得できんのだよ。マヤたん。

「小さな頃に、軟体動物目指した俺の努力はこの際置いておくとして。」
「お前って、本当に無意味な事に全力投球するよな・・・・・」
「なんで俺が副代表? 普通は風紀委員じゃないんですか? おかしくない?」
「「「「えっ!? どの口が言ったの今!?」」」」
「風紀に真向対立している貴様が言うことかっ!? この学園設立以来の問題児がっ!!」
「これでも未熟児だったんだぞ? 俺頑張ったんだ! 生きることに!」
「少しホロっとする発言ですわっ!?」
「頑張って努力したら、気が付いたらこんなだよ?」
「今のお前は努力した上での結果だったのかよ!? 努力の方向性を最初で間違えたか!?」
「『変○仮面』、あの衝撃のバイブルに、幼稚園の時に出会った事が全ての始まりだったな。」
「「「「「子供時代に取り返しのつかない出会い!? しかも目指したの!?」」」」」
「まぁ、一分で『はっ、ねぇわ。』って投げたけど。」
「嫌な子供だな!? というかその時点でもうお前の基本が出来てるじゃねぇか!?」
「今だ完全には至らんが・・」
「まだ不完全なのか!? これ以上の高みあるのか!?」
「マヤたん。どうして俺みたいな奴が生まれたの?」
「そんなこと質問されてませんよっ!? それと自分に自信持ってください!?」
「よし、分かった! 俺は自信を持って副代表の権力を有効活用させて貰うぜ!! ふはははは! 今日からこのクラスの秩序は俺のものだ!! マヤたんのお墨付きも貰ったしなぁ?」
「ええええええええええええっ!? 私のせいですかっ!?」
「「「「「承諾したけど、ものすごく陰湿だ!?」」」」」
「貴方の好きにはさせませんわっ!? 副代表になったからには相応の責任と覚悟を持っていただきますわ!」
「思い通りになると思わぬことだ弾っ! この私の眼の黒いうちは好き勝手はさせん!」
「クラス代表は俺だから、あんまり無茶なことはさせないからな?」
「まずは、感謝を込めて。みんな学園中を綺麗に清掃だ! 終わったら『弾特製ミックスサンド』+『くらぁ!? 紅茶。』を出すから、みんな頑張ろうなっ!?』
「「「純粋かつ善意に溢れた行動(ですわ)!?」」」
「明日から。」
「「「お前(貴方)やる気ないだろ(でしょう)!?」」」
「俺の都合も考えてくれよっ!?」
「「「「「「「「知るかああああああ――――――――――っ!!」」」」」」」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(空が青いな。四月も後少しか)。」
「先輩が空を見上げて遠い眼を!? 先輩っ! しっかりしてください!?」


とまぁ。
このように色々盛り上がり。一夏の補佐として俺が副代表に就くことになった。
ちゃんとした理由をのほほんちゃんに尋ねたところ。

『戦っている姿が、意外に頼りになりそうだったし。少し格好良かったかも? あ・・耳が・・・!?』

という意見が少数あったからだそうな。
ふむ? まぁ、淑女たちのお望みとあらば。喜んで引き受けるぞ?





*   *   *





そしてさらに数日が経ち。現在。
俺は今、クラスのみんなと共に、千冬さんの授業を受けています。

おー、グラウンドも桜が彩られて綺麗なもんですたい。
やっぱり淑女の為に、見た目の美しさにも力を入れとるんだな~。


まぁ、そんなものよりも・・・・・
俺は周りの淑女たちへと視線を走らせる。
ISスーツに身を包んでの授業だから、当然みなさん悩ましい姿であります。

いやしかし、眼福もんですな!?
見てよ、周りの女の子達の格好。たまりませんな!


「ぬふふふふふ・・・・・・・・」
「「「「「「「「・・・・・・・・・うわぁ・・・・・・」」」」」」」」
「・・・・・・・・むー・・・・」


淑女たちの引いた目に悶えていた俺だが。
なぜか頬を膨らませているのほほんちゃんに、かわいく睨まれたので、目の保養を断念する。

なんだか最近、のほほんちゃんの様子が変です。
この間まで抱きついてきたりとスキンシップ旺盛だったのに、少し減ってしまった。

ふむ? 遅い羞恥心の芽生えかね? 少し寂しいが、気にしといてあげよう。


いや、でも意外な事に。のほほんちゃんてスタイルいいのね・・・・最高ですね!


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・う~・・。」


ごうふっ!? な・・・なんだあの萌え生物は!? 頬を桃色に染める姿が俺の心をわし掴んで離しませんっ!?
そ、そげな風に体をモジモジさせたらあかんでお嬢はんっ!? 胸が!? 割と大きめのバストに括れた腰がっ!? ヒップが太腿がああああっ!?(何気にしっかり見てる)


い・・・いかん! このままでは萌え死んでしまう! 回避! 回避―っ!?


そのまま。かなり抵抗の強い俺の視線を強引に前方にずらす。


目線の先には、マヤたんに千冬さん。
二人ともジャージなんだね・・・・・・ちっ! 空気読んでくださいよ!


「・・・・・・・・むーっ!」


・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。
あれ? 迫力は皆無なのに、なんか従ってしまうぞ? 恐るべしのほほんちゃん!


「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。」


む、いかん。
授業に集中せねば、千冬さんのきりっとした声に思考をカット。授業に集中する。


「織斑、五反田、オルコット。試しに飛んで見せろ。」


おー、話し半分聞き流してたから。何の事か分からないかと思ったがセーフだ。
これぐらいなら理解できる。
千冬さんが、俺達三人を呼び、跳ぶように指示をしたんだな。
ほほー、跳べか。なるほどなるほど。


・・・・・・・・なんですと!?


「なにをしている。三人とも早く前に出ろ。」
「え? あ、はい!」
「分かりましたわ。」
「俺、今は金持ってませんよ!?」
「では、それぞれISを展開し――――――――・・・・ 誰が、カツアゲなんぞするかこの害悪野郎がああああああっ!?」


メキャッ!(出席簿アタック角バージョン)


残像を残し、俺に一撃を加える千冬さん。
ぐはぁ!? さ・・・・さすが千冬さんだ。
的確に俺の脳天を捉えている・・・・!?

胃を押さえ顔を顰める千冬さんを、マヤたんが宥める光景を目にしながら、呼ばれた俺達は前に出る。

・・・・あんなにジャラジャラ胃薬飲みこんで平気なのかな?

とりあえず頭に突き刺さったままの、出席簿は誰か取ってくれないかね?
悩み多き今日この頃です。





それから少しして、千冬さんを前に横に整列し直す俺達。

しかし千冬さん。出席簿引き抜くにも、俺の顔面を踏みつけながら抜くことないでしょうに・・・・・スカートじゃないじゃないか!?

それにしても、一夏も俺もISスーツを纏っているが・・・・このへそ出しルックはどうにかならんものかね? 一夏以外需要はないだろう。お婿に行けなくなったらどうするんだ。

おお、セシリーちゃんは今日もきわどい格好だね。ありがたやありがたや。


「お前は千冬姉を、何だと思ってるんだよ・・・。」
「いやーすまんね? ISで飛ぶってことよりも、そっちの方がリアリティがあり過ぎてな。」
「何で今、私を拝みましたの!?」


パァンッ!!
ベキョッ!!(ブシャァ!)
パァンッ!!


「織斑先生と呼べと言っている。それから五反田、黙っていろ。オルコットも私語は慎め。」
「・・・・すみませんでした。織斑先生・・・。」
「誰か手拭い持ってない? 血が止まらなくて前が見えんのです。(ダバダバ)」
(((((でも平気なんだ!?)))))
「・・・・・なぜ私までぇ・・・!?」
「さっさとISを起動させろ、馬鹿共。」


千冬さんの言葉に慌てて集中する一夏とセシリーちゃん。

瞬間、セシリーちゃんの周囲が青白く閃光を発し、ISを展開。
『ブルー・ティアーズ』が、セシリーちゃんの体にそう着されていく。
ほー、『ブルー・ティアーズ』の待機状態は、あのイヤリングだったのか。女の子らしくオシャレでいいな。

さすがはセシリーちゃん、ISの展開も慣れたモノですな。


「・・・・・・・っ。」
「一夏。お前はライダー風で頼む。」
「出来るか!? 集中の邪魔するなよ!」
「じゃあ美少女戦士風でいいよ?」
「出来ねぇっつってんだろ! ああもう! ・・・・・!」


一夏が、右腕の真っ白なガントレットを握り再び集中。
膝かっくんしようかと思ったが、千冬さんが修羅の如く睨んできたので断念。

刹那、一夏を中心に白い光が発光。
次には『白式』を纏った、一夏の姿が現れた。
・・・・・なんだこの、無駄に主人公補正の高い姿は。白なんて普通に主人公カラーじゃねぇか。お前一体どこの主人公だ!(IS)

いやー、それにしても『専用機』が二機並ぶと、中々壮観です。
やっぱり、訓練機の『打鉄』もいいけど、個性高い『専用機』は違うわ。
あー、でも『打鉄』を装備する淑女達の姿も、アレはアレでそそるモノが・・・・!


ベキャア!(ブシュウウゥゥ!)


「(くるっ) 誰か呼んだ?」(既に慣れた)
「五反田さん!? 血が! 頭から噴水のように血が出てますわ!?」
「一夏。輸血パック持ってない?」
「ここで輸血する気か? それと血は臓器扱いだから個人で所有できないんじゃないか?」
「ほほー。そうなんか?」
「とりあえず拭けば、いつものように止まんだろ?」
「だな。(ごしごし)」
「そういう問題ですの!?」
「「「「「織斑くん、手慣れてる!?」」」」」
「こいつの不死身振りには突っ込まん事にしたんだ・・・俺。」


遠い眼をする一夏の姿を、視界の隅に置いて。
とりあえず、俺に一撃加えた人に向直る。

まぁ、千冬さんですよね。ありがとうございます。


「へい、なんでしょうか? 織斑先生。」
「なんだじゃない。お前もさっさとISを展開させんか馬鹿者。」
「先輩!? それだけで頭を割るのはどうかと思うんですけど!?」
「え? そう?」
「そうか?」
「加害者と被害者の意見が一致してます!? 私がおかしい流れになってます!?」


はははは、おろおろとしていて微笑ましいね。マヤたんは。

ふむ? しかしISの展開か・・・・・・
今はちょっとなー。

片足上げて、織斑先生に声を掛ける。


「織斑先生。発言良いですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ものすごく嫌そうな顔しないでください! 先輩! それと五反田くん、足じゃなくて手を上げてください!」
「犬って前足なのに、『お手』っていうのはおかしいと思います。」
「何の話をしているんですか!?」
「『主人を足で踏むとは言い度胸だ駄犬がぁ!?』と、世の飼い主は怒っていい。」
「お手をさせておいて理不尽すぎます!?」
「マジックハンドの使えよと常々思います。」
「犬に求める事じゃありません!?」
「それで、ISの展開のことなんですけど。今ちょっち無理なんすよ。」
「何か問題でもあるのか、五反田?」
「あれー!? なんで普通の会話に戻っちゃうんですか!? お二人ともー!?」

(・・・・・・山田君を挟めば、割とストレス感じないな【キュピン】)
(先輩がものすごく、ニヤリとしてるぅぅ!? 絶対碌でもない事です!? 主に私にとって!?)


なんて弄りやすいんだマヤたん。
おー、千冬さんも。「我が意を得たり」って顔で悪い笑みをうかべてる。
どこぞの、デス○ート所有者も顔負けですね。


「へい、オヤビン。【ベキャア!】実は今、『七代目五反田号』が手元にないんです。(ブシュウ!)」
「・・・・・何? ISの修理、メンテナンス等の話は聞いていないが?」
「普通に会話しないでください!? 血が! とんでもない量が!?」
「預けてきました。」
「・・・・・・・誰にだ? 学園の関係者だろうな?」


先程までとは打って変わった。千冬さんの真剣なまなざし。
おお・・・凄い気迫だ。

いや、別に大した所じゃないんですがね?






「いえ、だいぶ汚れたんで。クリーニングに出してきました。」
「――――――― 今すぐ取ってこいドアホオオオオオォォォッ!!?」






とりあえず、ISの基本飛行や武装基本的な展開行動は、一夏とセシリーちゃんが行い、無事終了。一夏の奴がグラウンドに巨大クレーター開けたのは余談だがね。

俺は、学園のすぐ近くにあるクリーニング屋のおばあちゃんに頭を下げて『七代目五反田号』を返してもらった。

ちなみに『七代目五反田号』。
クリーニングしてもらえなかったことに対して、【残念】と文字を表示。

すまんなー。部屋の洗濯機で我慢してくれ。






【??? SIDE】


「ふぅん、ここがそうなんだ」


国を離れて、ようやくIS学園へとたどり着いたあたしは、学園を見上げてそう呟いた。

中々いい所じゃない。ま、あたしが通ってあげるんだからこの位は当然よね。

「えーと、受付って何処にあるんだっけ?・・・・・本校舎一階総合事務受付・・・って、それ何処にあんのよ」

手元の紙をイライラしながら見る。
場所の名前じゃなくて、その場所の地図くらいつけときなさいよ。適当にも程があるじゃない。あたしを誰だと思ってんのよ、あーもう!

上着のポケットに、再び紙をねじ込んで歩き出す。
自分で探せばいいんでしょう、自分で探せばぁ。あー面倒くさいわね。

とりあえず、歩いていれば誰かしら人に会うだろうと思って、そのまま歩き続ける。待ってるだけなんてあたしの性に合わないしね。
きょろきょろと、周囲を見回しながら進むけど、行けども行けども人の影は見えない。
・・・時間が時間だし、しょうがないか。

(あーもう、面倒くさいなー。空飛んで探そうかな・・・)


一瞬、それは名案! って思ったけど。
学園の規約事項を思い出して止める。
それと同時に、情けない表情であたしに懇願してくる政府高官の姿を思い出し気分が少し晴れた。
自分の倍以上もある年齢の筈の大人が、ヘこへこ頭を下げる姿は見ていて気分が良い。
昔から『年を取っているだけで偉そうにしている大人』や『男っていうだけで偉そうにする子供』が嫌いなあたしにとって、今の世の中は非常に居心地が良かった。
そんなことしでしか誇れない小さな輩は、今頃肩身の狭い思いをしているに違いないと思うと笑えて来る。

けれど、二人の男の姿が脳裏に鮮明に映し出され、知らずにあたしは、先程とは全く違う笑みを浮かべてしまった。

―――― でも、アイツ等は違ったなぁ。

真っ直ぐな意志の強い瞳を持つ少年と、いつも気楽そうな笑みを浮かべる少年。
その二人の男だけは別。絶対言わないけど、あたしが信頼している男はあいつら以外には存在しない。
そしてその二人の存在が。あたしが日本に来た理由の一端を担っていたりするのよね。

―――― 元気かな二人とも・・・というか考えるまでもないか。間違いなく元気よねー

あの台風みたいな奴がいる限り、毎日が騒動づくしだろうし。
昔の大騒ぎを思い出し、笑ったり、イラッとしたりと百面相しながら歩き続ける。


その時、ふと誰かの話し声が聞こえてきた。
ラッキー。ちょうどいいや、場所聞こうっと。

そう思って、声のする方向に耳を傾け―――――、


「――― おい弾!? お前また俺の写真を無断で売りやがったな!?」
「え、俺が? いつ何処で何時何分何秒? もうちょっとその辺明確にしてくれんかね?」
「小学生か!!」
「何故、俺が『小学○年生四月号』を買った事を知っている!?」
「小学生だ!?」
「だって今月の付録超かっこいいんだぜ!?」
「またおまけ狙いか!? お前本当に付録好きだよな!?」
「失敬な! 連載中の【打鉄~その魂の行方~】だって毎月読んどるわ!?」
「何だそれ!?」
「町工場の老夫婦が、『打鉄』のパーツの制作するに至るまでの、苦悩と挫折、そして絶望を描いたアクション漫画だ。」
「驚くほど救いのないダークストーリーじゃねぇか!? 小学生が読んで問題にならないのかよ!? そしてアクション要素が全く見られんわ!?」
「今月はお婆さんが、七十才年下のつとむ君と駆け落ちしてな・・・続きが気になって夜も寝られねぇ!?」
「普通に誘拐じゃねぇのかそれ!?」


ゴガン!

会話を聞いたあたしは、思わず壁に頭を打ち付けてしまった。

~~~~~~~いったあああ!? 

ものすごく聞き覚えのある、二つの声。
そしてその会話内容のアホらしさに頭痛が走る。物理的にも精神的にも!

か、変わってない・・・・!
いや、あたしの知っている。昔の二人のままだということは嬉しいのよ?
嬉しいけど、ちょっとは成長しなさいよアンタら!? 特に弾!

あんまりにも早過ぎて、ある意味衝撃的な再会に、あたしはこめかみを押さえ立ちあがる。

と、とりあえず、声を掛けよう。
そう思い、あたしは足を動かす。

突きあたりから顔をのぞきこませると、思った通り。
言い合いを続ける二人の姿。

一年前よりも、背が少し高くなった二人の姿にちょっと驚く。
へ、へぇ~? い、一夏ってば、また少し格好良くなったじゃない・・?
弾は・・・あはは、あんまり変わらないけどちょっと逞しくなった?

懐かしい二人の姿に、あたしの心が少しずつ穏やかになっていく。

あたしって気付くかな? まぁ一年しか経ってないし大丈夫よね? 気付かなかったら、それだけあたしが美人になったてことだし?

そう思って、意気込んで声を掛け―――――――。


「―――― ここに居たかああああああああ!?」


般若の形相をした、黒髪ポニーテールの少女の怒声に遮られた。

・・・・・は!? 何アレ!? ものすごい殺気放ってるけど!?

その鬼は、二人に近づき、いきなり弾を絞めあげた。


「だああああああん!? 貴様またくだらんことしてくれたなあぁっ!?」
「ん? どうしたの箒ちゃん?」
「しらばっくれるな!?」
「お・・おいおい、どうしたんだよ箒!? 何があった!?」
「あったも何も・・・! これを見ろ!?」


そう言って少女が出したのは、一振りの木刀。
何の変哲もない、ただの木刀かと思いきや―――――― あ。
木刀に、達筆な文字が書かれていた。



【京都にて。1000円。】



・・・・・・・修学旅行のお土産っ!?


「これのおかげで、顔をだした剣道場で大恥かいたわぁ!? こんなくだらん真似するのはこの学園でお前以外いるかああああっ!?」
「出来心だったんです!」
「自白はやっ!?」
「箒ちゃんの周りに笑顔が溢れれば良いかなと思って。」
「理由が何気に善意だった!?」
「指さして笑われたわぁ!? 部長には「私も買ったよ?」などと慰められたんだぞ! どうしてくれるんだあああ!?」
「よっ! 箒ちゃんナイスボケ! 明日から剣道場の人気者(笑い者)だね!?♪」
「貴様ああああああああああああああああああああああああッ!!?」
「待て箒!? 木刀で滅多刺しはやめろ!? 後始末が大変だ!?」
「骨は灰にして、サンオイルと混ぜ込んだ後に、美女の体に余すことなく塗り込んでくれ!」
「「お前は黙ってろ!?」」


そう言って、ギャンギャンと盛り上がる三人。



目の前で繰り広げられる光景に、胸がチクリとする。

なによ。楽しそうにしちゃってさ・・・・・。

誰よ、あの女の子。妙に親しそうにじゃない。




―――――  そこはあたしの場所でしょう?




さっきまでの嬉しさや穏やかさは消え、湧き上がるのは冷たい感情に、小さくない嫉妬だった。




*   *   *




その後、すぐに総合事務受付は見つかった。
手続きはすぐに終わったけど、あたしの心は酷く荒れていた。


思い出させてやる。あの馬鹿二人に。
教えてやる。周囲にあの場所は誰のものなのかを。


その感情のまま、あたしは目の前の受付の女性に質問する。


「織斑 一夏。それと五反田 弾って何組ですか?」
「・・・・ああ・・・織斑くんと・・・・あの子のこと・・・・。」
「・・・・・・・・え? な、なんでそんな顔してるんですか?」
「・・・・もしかして・・・貴女二人の知り合い?」


あ・・・あれ? 何か妙な雰囲気に・・・・・・?
どこかレイプ目なその女性の迫力に、若干引きながら答える。


「は・・・はい、中学の頃一緒によく遊んだ仲です。」
「・・・・・・・・・一緒に?」
「は・・・・はい。」
「・・・・・毎日?」
「まぁ、大体は。一年前にあたしが引っ越したんですけど、二年くらい一緒に遊んだりしました。ちょっと疲れるけど、そんなに苦じゃなかったし――――・・」
「――――・・苦・・・じゃ・・・ないッ!?」
「――――― は? どうし―――――――!?」


ぐわっしぃ!! 

と、擬音が轟きそうな勢いで肩を掴まれるあたし。

――― はい!? なっ何!? 一体何事!?

驚いて、目の前の受付女性を見ると。
目を血走らせて、今にも泣き出しそうな顔であたしをガン見してる!?
しかも、肩に掛かる力は、絶対逃さんとばかりに握られてる!?


「――――――― こそ・・・・・・!」
「はい!? 何!? 何なのコレ!?」


あれ!? さっきまでのあたしのシリアスムードは何処へ!?
そう思った私の耳に届いたのは―――――――――――――――。





「―――― ようこそッ・・・!!! IS学園へっ!! 学園は貴女を歓迎しますっ――――・・・・!!!!」





万感の思いのこもった言葉だった。



と、とりあえず・・・・・・・・・


弾!? アンタ何したのよおおおおおおおおおおおおおおっ!?


二人の傍に相応しいのは誰か、あの馬鹿二人に思い出させてやると息込んでいたあたしは。

とりあえず学園から熱烈歓迎されている事に驚愕してしまった。




後書き

すみません。パーティまで書ききれませんでした。ものすごい量になってしまうので次回に持ち越しです。帰って来た、対弾用抵抗戦力の友人トリオのラストカード。これからどうなることやら。さて次回、持ち越してパーティ編に、ついに弾と会長が接触します。



[27655] 第十三話  妹魂一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 14:36
ちわーっす。一組の影の支配者 五反田 弾です。


さて、前置きは置いといて・・・・・・・・・・・・・


「―――― 織斑くんクラス代表決定、同じく五反田くんの副代表任命おめでと~~~~!」
「「「「「おめでと~~~~~~~~!!!!!!」」」」」
「クラッカーあるよー? 持ってない人~?」
「だんだんこっち~。」
「ほいさ。(ドサドサ)」
「お前どっからそんなに出したんだ!?」


パァン! パンパァン!! ドッパ―――――ン(五発同時)!!!!! ダ――ン! ん? 呼んだ? 呼んでないよー。


時刻は夕食後の自由時間です。
只今、『織斑 一夏 クラス代表就任・五反田 弾 クラス副代表就任パーティ』が開かれています。

クラッカーが打ち出され、紙テープが宙を舞い。
『七代目五反田号』が、場を盛り上げる快調な音楽を流す。
さすが相棒、粋な心意気。

場所は、一年の食堂。話しの分かるマダム達の懐の広さには完敗っすよ。一組の淑女達全員で、一夏と俺のことを祝福してくれています。

なんて優しく慈愛に充ち溢れた心を持っているんだ! やっぱり女性は最高だ!

そんな淑女達が各々飲み物を片手に、やいのやいのと盛り上がっている桃源郷を視界に写しながら。


五反田 弾! 只今特別に簡易厨房をお借りして、調理中です!!
さすがは最先端のIS学園。移動式の簡易キッチンがあるとは恐れ入るね。

いやー! 最近自分の部屋以外で修行ができなかったし、決闘だのあって忙しかったじゃん。
思いっきり腕を振るう機会がなんかないかねーと探していた所、パーティなんて聞いた日には俺が黙っているはずないだろう!?

次々と『特別親愛メニュー』を作り上げては持っていきます! じゃんじゃん作るぜ! カロリーは控えめだ! 安心してくれ淑女達!
『七代目五反田号』も、食材を切ったり、叩いたりと大活躍さ!


【簡易キッチン風情が、片腹痛いわっ!!】


・・・・お前、そんなに簡易キッチンに対抗意識持たんでもよくね?


「へいお待ち! 『弾特製唐揚げ』『弾特製スペシャルミックスサンド』『弾特製シーフード?スパゲティ』『弾特製でもないサラダ』出来上がったぜ! カロリー控えめ! 一口サイズだから気軽に食ってくれい!」


わああああああああっ!!

歓声が上がり、机に置いた瞬間に料理に群がる淑女達の姿を愛でながら、簡易キッチンへ。
さぁ、今度は何を作ろうかね。


「よぉ、弾。生き生きしてんな?」
「全く。主賓の一人が、パーティーそっちのけで調理とはな。」
「くっ・・!? ま・・まさか料理でも敗北を味わうなんて・・・!?」
「やっほ~だんだんー♪」


そんな俺に近づいてくる、四人。
おーおー、一夏の野郎。女の子に囲まれて羨ましいね? 俺だって女の子とキャッキャウフフな時間を過ごしたいわ!

でも、今はそれより目の前の淑女達の笑顔が大事! 紳士だからさ!


「どんどん食えよ! まだまだ作るからなー?」
「お前は食わないのか? 作るばっかでいいのかよ?」
「なーに。俺も適当に摘まんでるぜ? 『七代目五反田号』も手伝ってくれるしな?」
「おー、偉いね。ごたんだご~♪」
【歴代とは違うのだよ。歴代とは(チラチラ)】
「文字表示なのに、小技も覚えたのかお前。」
「・・・・・つくづくおかしいISだな。一体どういう目的の為に用意されたのだ?」
「出前。」
「お料理~♪」
「だから、ISをそのような事に使ってはいけないと言っているでしょう!? 五反田さん! 布仏さんも毒されてはいけませんわ!?」
「だって、それ以外よく知らんからねー? 出前先で出会って以来。学園に一時の間、調査のために預けたけど、なんも知らされとらんし?」
「ミステリアスだねー。」
「つまり良く分からないISってことか? お前そっくりじゃないかよ。」
「確かに俺自身、よく自分でも分からん事が多々あるしなぁ(しみじみ)」
「多々あるのか!? 自分をもっと理解せんか! 特にお前の場合は!」
「メンドイ。」
「ご自分の事でしょうっ!? 全く、今日の授業の時だってそうですわ! ISをクリーニングに出すなんて前代未聞なことをやってのけて!?」 
「だって、汚れが付いてたんだぞ? 淑女の前では綺麗にしていたいじゃないか。紳士としては。」
「ISには修復機能が備わっています! 汚れなんて自動的に消去するに決まっているでしょう!?」
「マジで!? 『七代目五反田号』、どういうことだ?」




【   あ。  】




「今思い出したのか? ははは、このうっかり屋さんめ♪」
「ちょっと待とうか?」
「ちょっと待て。」
「少し待ちましょうか。」
「・・・・・・・・・これは予想外だー。」
「何がだ?」


「「「なんでIS自身が忘れてるんだ(のだ)ああああ(ですのおおおお)っ!!!!?」」」


一夏と箒ちゃんとセシリーちゃんの絶叫が響き渡る。
こらこら、そんなに大声出すなよ。ほら見ろ、他の淑女達が何事かと驚いてるじゃねぇか。

あ、のほほんちゃん。耳を押さえて「あう~~~」と唸ってる。
可愛いね~。相変わらず。

まぁ、それはそれとして。


「そりゃ誰だって忘れる事くらいあるだろ? そんなに責めんなよ。可哀そうだろ?」
「ごたんだごー。うっかりさんだねー?」
【説明書をください。】
「ISがISの説明書を読むのかっ!? おかしいだろうが!?」
「変だ! 持ち主同様ISも変だああああっ!?」
「ふ・・ふふ・・ふ、もう嫌ですわ・・。この方に出会ってから私の世界が次々と崩壊していきますわああああああっ!?」
「ま、とりあえずこれ食って落ち着けよ。ほら。」
「あむ♪ うまうま。」
「「「お前(貴方)達が、落ち着き過ぎなんだよ(です)!?」」」


はー、全く騒がしいね。

パーティーだからってはしゃぎたい気持ちは分からんでもないが。あんまり騒ぐと周りに迷惑になるだろうに?
マナーは守らんといかんぞ? 一般常識だ。
のほほんちゃんを見習え。こんな癒しを放って可愛いじゃないか。

しかし、修復機能か。
まったく俺の相棒は案外うっかりしてるな。もう少しでクリーニング代が無駄になる所だったぜ。


何はともあれ。
五反田 弾。只今絶賛調理中。どんどん食えよ幼子達。



【本音SIDE】

「はいは~い、新聞部でーす。学園の超新星、織斑 一夏くんと、胃袋の死兆星、五反田 弾くんの二人に特別インタビューをしに来ました~!」
「ほほー。ギャラは?」
「意地汚ねぇぞ!? それと凄い渾名が付いてるなお前!?」


だんだん達と一緒に盛り上がっている中。
新聞部の副部長さんが、クラスのみんなの間をぬって近づいてきて、だんだん達にボイスレコーダーを向けて話しかけてきた。

わー。薫子先輩だ~。
楯無お嬢様と、仲良しさんなんだよねー♪


「あ、私は二年の黛 薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺。」
「ども。薫子さんですか、花の薫りの『薫』に、無垢な子供の『子』。素敵な名前ですな。」
「そう? ありがとう。」
「ここでKYな奴は。『画数が多くて、大変そうだな』なんて思うんだろうけど、そんな屑はうちにはいないですからね。なぁ一夏?」
「え・・あ、あぁ! そ、そうだな! ははは!」
「「・・・・・一夏(さん)・・・・・」」
「マジそんな奴死ねって感じだよな。ゴミ屑同然だよな。なぁ一夏?」
「・・・・お前分かってて言ってるだろう!?」
「は? 何がだ? ゴミ野郎。」
「張っ倒すぞ!? 仕方ねぇだろうが! 思いついちまったもんは!?」
「あはははは、噂通り面白い子達みたいだね? それじゃインタビュー始めさせてもらうね!」


和気あいあいとしながら会話が進んでいくのを見ながら。
私は、無意識にぷくっと頬をふくらましていた。

むー、だんだんが薫子先輩を誉めてる。
女の子には、優しいのは知ってるけど・・・・・・
・・・・・・私だって、かわいいって言われたもん~~!

むーっと、だんだんを睨むと。
だんだんが気付いて、「フグの真似? 負けんぞ!?」と、対抗して頬を膨らみ返してきた。

・・・ちーがーうーのー! も――っ!

プイッとそっぽ向く。
その後すぐ「・・・・勝った!」って聞こえた声に、また、むーっとなる。

だんだんの馬鹿ぁー! 

・・・・・・・・・・・何で私、だんだんにムッとしてるんだろー・・・・・?

疑問を浮かべて「? ? ?」となっている私を置いてけぼりにして、だんだん達のインタビューが始まる。

あ~。 待って~~~! 私も聞きたい~~。


「ではでは、まずは織斑くん! クラス代表になった感想を、どうぞ!」
「えーっと・・・・まぁ、なんというか、頑張ります。」
「えー、もっといいコメントちょうだいよー。俺に触るとヤケドするぜ、とか!」
「自分、不器用ですから。」
「うわ、前時代的!・・・じゃあまぁ、適当にねつ造しておくとして。次は五反田くん! 感想をどうぞ!」
「オツキミ山でピッピとしか遭遇しません。」
「「「「「凄っ!?」」」」」
「いや凄いけど!? クラス副代表になった感想はないの!?」
「俺に近付くと感染するぜ!!」
「何に!?」
「ランダムだから何とも言えんな。」
「ランダムなの!? 流石はIS学園の問題児!! コメントも一味違うわね!?」
「一夏は塩、俺は味噌だ。」
「味あったんだ!?」
「あ、CMいいすっか? 近所で評判『五反田食堂』。一度来てみてくれよな。」
「売り込み!? この場では意味なくないかな!?」
「じゃ、セシリーちゃん後よろしく。」
「他の人に投げたよ!?」
「この流れで私にどうコメントしろと!? 無理ですわああああ!?」


わー、だんだん節が絶好調だ~♪

だんだんのコメントから、テンヤワンヤの大騒ぎになっているインタビュー。
薫子先輩も、だんだんのコメントに表情がころころ変わっていて、おもしろいー。
あんな先輩は珍しいね~♪

ワイワイと賑やかに騒ぎながら、さらにインタビューは進んでいく。


「クラス代表戦は盛り上がったね! 五反田くんの心温まるエピソードに、女の子達の好感度アップだね。」

・・・・・・・むー・・・・

「所々嘘だが。」
「「「「「自分で評価を下げる発言!?」」」」」
「お前やっぱり嘘か!? 何処から嘘だよ!?」
「う○棒食いたかったって所と、グスグスじゃなくワンワン。スーパーじゃなくて、デパートだ。」
「嘘をつく箇所の必要性が分らんぞ!?」
「そして自腹だ。あ、一夏ゲームサンキューな。面白かったぜ(返却)」
「責め立てる所のない美談になりましたわ!?」
「責めた俺一人が嫌な奴じゃねぇかよ!?」
「大丈夫。俺はお前がそんな奴だってこと知ってるからさ!(爽やかな笑顔)」
「喧しい! 最初から嘘吐くのも悪いわ!?」
「そして実は、もう一人登場人物がいる。長くなるから割愛した。聞く?」
「あ、あのー? またの機会でお願いできる? 写真撮りたいんだけどなー?」
「よし、一夏脱げ。」
「脱ぐかドアホ!?」
「俺だけ脱がせる気かお前!?」
「「「「「脱ぐ気だったんだ!?」」」」」


その後は、
服に手を掛け出した、だんだんをおりむー達が必死で止めて。
色々と大騒ぎしながらみんなで写真を撮った。

・・・だんだんが、手招きして私を隣にしてくれたのは、ちょっと嬉しかったなー。
へへへー、後で焼き増し貰おー。


「それじゃ撮るよー。35×51÷24は~?」
「え? えっと・・・2?」
「ぶー、7「今計算中なんすから答え言わんでください!」そんなに真剣になること言った私!?」
「「「「「紙に書いてる!?(カシャ)―――ああ!?」」」」」


みんな、写真が上がった時どんな顔しているのかなー・・・・?




*   *   *




パーティーが終わったのは、十時過ぎになってからでした。

後始末を終えた後は、みんな解散してそれぞれの部屋に戻って行っちゃったー、

私も、今はだんだんと一緒に部屋に戻っている最中なんだよー。
といっても、歩くの遅い私をだんだんがおんぶしてくれているけど・・・・・

うー・・・前までは、気にしなかったけど・・・・・なんだか気恥ずかしいよー////


「今日は楽しかったなー、存分に腕前を披露できたし淑女達のウケも良し。いうことなしですな。」
「んー・・・よかったねー・・・・」
「おろ? のほほんちゃんお眠かい?」
「むー! そんなにお子様じゃないもーん!」
「お腹一杯で、眠くなるなんておこひゃまいぎゃいにゃいって、こりゃー? ほっへをのはうなー。」
「えへへー、おしおきー。」
「【だが俺には効かん!】」
「おー、腹話術―♪」
「【今日は結構な量食べてたけど大丈夫なの。のほほんちゃん?】」
「むふー、ちょっと食べ過ぎたかもー。でも大丈夫だよー。」
「【嬉しいねー。美味そうに沢山食べてくれる女の子程、見ていて嬉しいモノは無い。好きだわーそういう子。】」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うー。(照)」
「ん? ほっぺ攻撃が終わって―――ってぬおおお!? おでこを背中に押し付けグリグリだとぉぉ!? なんだその萌え攻撃はああああ!?」
「・・・・・・・・・(グリグリ)」
「いかん!? このままでは萌え死する!! 駆けろ青春! 消えされ煩悩! 俺は紳士だああああああああ!」


そう言って、私を背負ったまま走りだすだんだん。
背中の私を、振り落とさないよう手に力を込めるだんだんの小さな気遣いに、また顔が熱くなった。

うー・・・・だんだんが・・・・だんだんが悪いんだよー・・・

そのまま廊下を激走するだんだん。
「なんだこれはなんだこれは―――――!?どこのイベントフラグだ――!?やべぇ!ギャラリー登録あるのかこれ!?永久保存しときたいワンシーンだぞこれはああ!?」って、叫びながら走っている。

そして、突きあたりの廊下を曲った瞬間。


「―――――― !? この巨大なプレッシャーは何だ!?」


ギャリギャリと音をたてながら急停止して、走るのを止めてしまった。
・・・・・んー・・・どうしたのー?

まだちょっと照れくさいけど、だんだんおの背中から表情を窺う。

・・・だんだんが、とっても戦慄した表情で前方を見据えている顔が見えた。


「ど、どうしたの~? だんだん~?」
「・・・・とんでもないプレッシャーを感じる・・! のほほんちゃん。悪いけどおろしても良いかな?」
「んー、アイアイさー。」


私の承諾を受け取った後、私が降りやすいようにしゃがんでくれた、だんだんの背中からゆっくりと降りる。

・・・・こういう小さな気配りが、だんだんの魅力なんだよねー・・・・

立ち上がり、前方を見据えるだんだん。
一体どうしたんだろー?


「・・・・何というプレッシャーだ! 一体何者だ・・・!?」
「ぷれっしゃー?」
「ああ、こんなに強大な気配は・・・・一夏や千冬さんに出会って以来だ・・・!」
「? なんのこと~?」
「―――― そこにいるのは誰だ!?」


だんだんが叫んで、前方の薄暗い場所を指差す。

そして、カツカツと足音が鳴り響き―――――――



「――― こらこら。 廊下を走っちゃダ・メ・だ・ぞ★」



扇子を口元に当て、いたずらっぽい笑みを浮かべ姿を現したのは。

私とお姉ちゃんが、お仕えする家の現当主にして、IS学園生徒会長。


更識 楯無お嬢様でした。


わーい、楯無お嬢様だー♪ あれ? なんでお嬢様がここにいるんだろー?


「会長ー。こんばんはー♪」
「やっほー。本音ちゃん。んふふ、お邪魔だったかな?」
「え、えーと・・・なにがー?」
「んー? 別に何でもないわよー?」


うー・・・・・楯無お嬢様の視線が、面白がってる~・・


「のほほんちゃんの知り合い? それにしても『怪鳥』だって!? なんと強そうな二つ名なんだ!?」
「怪鳥じゃなくて、会長よ。 私はこの学園の生徒会長をしている更識 楯無っていうの。よろしくね。」
「なんだ生徒会長か・・・」
「あれ!? 露骨にがっかりされちゃった!?」
「学園の謎のキャラっぽい人って、大抵が生徒会長だったり生徒会関係だし・・・・ま、いいけどさぁ・・・」
「うぐ・・・! な、なんだか妙な説得力が・・・!?」
「のほほんちゃん。どういったお知り合い?」
「えーっとね。私の家が代々お仕えしている家のお嬢様でー。この学園の生徒会長さんなんだよー。実は私は生徒会で書記をしているのだー。」
「何だって!? のほほんちゃんが実はメイドさん!? その上生徒会書記!? ここにきて衝撃事実だ!?」
「あー! 何よー! 本音ちゃんだけリアクションが大きくてずるいじゃない!」
「ちなみに、IS学園の生徒会長っていうのはね~、学園で最強ってことなんだよー。」
「本音ちゃんナイス! どう? これで少しは驚いたでしょ。」
「そんなことはどうでもいい! のほほんちゃんてメイド服着るの!?」
「そんなこと・・・!? 私の存在は、本音ちゃんのメイド服に劣るというの!? 確かにかわいいけど!」
「写真は!?」
「手元に五枚! 一枚二千円!」
「買ったぁ!」
「売ったわ!」
「買っちゃ駄目えええええええー!?」


廊下の隅に移動して、
『税込?』『もちろん』『他には?』『こっちは和風バージョン』『いくら?』『同じく二千円』『一夏トレードで、【五反田食堂アルバイトバージョン】』『嘘!? 激レアじゃない!?』
っていう会話を繰り広げる二人。

やーめーてー!!




*   *   *




「良い買い物だった。」
「儲けたわ♪」
「・・・・・・・・むーっ!」


ホクホク顔の二人をむーっと睨んでも。
二人は、「「かわいいなー」」って笑うだけで、全然反省してないー! もー! お姉ちゃんに言いつけてやるー!


「そんじゃ改めまして。初めまして、五反田 弾です。」
「うん♪ 噂は聞いてるわよ、五反田 弾くん。」
「弾でいいすっよ?」
「そう? なら、私も名前で呼んでくれて構わないわ。堅苦しいのは無しで行きましょう。」
「了解っす。しかし楯無さん・・・・・まさか、あれ程のプレッシャーを放てるとは恐れ入りました。マジで戦慄したっす。」
「プレッシャー? 何のこと?」
「んー? さっきからだんだんが言ってるんだよー。」
「・・・・・・ふむ? しかし妙だ。今でもプレッシャーは感じるが・・・・・楯無さん。ちょっといいですか?」
「やん。スリーサイズはヒ・ミ・ツ♪」
【測定終了】
「流石だ相棒。」
「こらこら? 勝手に測っちゃ駄目でしょう? もう仕方ないわね★」
「それで、楯無さん。ご兄弟っていますか?」
「え?・・・・あー・・うん。まぁ・・・いる・・・わよ?」
「かんちゃんっていう妹さんがいるよー。私が専属でお仕えしてるんだー。」
「―――― 妹!? 俺と同じく妹魂を持っているのか!! ならばなおのこと解せん! この妙な気は一体何だ!?」
「あ、あの? 弾くん? な、なにを言っているのかお姉さん分からないな~?」


あ、楯無お嬢様が、触れてほしくない話題になって少し怯んだー。
んー、でも楯無お嬢様とかんちゃんは、すれ違ってるだけだと思うんだけどなー。


「―――― 『七代目五反田号』! 妹魂スカウターだ!! 楯無さんの妹魂力を調べろ!」
【スキャン開始】
「妹魂スカウター? な、なにそれ?」
「妹魂力を計測する代物です。これで相手の妹魂力が分かります。」
「へ、へぇ~・・・・・?」
「ごたんだご~って、本当に不思議だね~?」
【スキャン終了】
「よし! 楯無さんの妹魂は、どのくらいだ!?」
「・・・・・(ゴクッ)」

【妹魂力 180000】

「じ・・・・18万だとおおおおおおおおおおお!? そ、そんな馬鹿なあっ!?」
「え? 高いの? それって高いのよね?」
「おー。楯無お嬢様すごいー。18万ってきっとすごいよー。」
「そ、そうよね? ふ・・ふふふふ。 どうかしら、この私の妹魂力は?」


「馬鹿な・・・・!? 低すぎる!?」


「・・・・・ちょっとおおおおおおおおおお!? どういうことなのそれはっ!?」
「18万なんざ、俺が幼稚園の時の数値じゃないか! 意味分からん!」
「よ・・幼稚園児並み・・・・・!?」


カランと、お嬢様の手から扇子が滑り落ちた。
・・・・・やっぱり、お嬢様にかんちゃん関係の話は鬼門だねー。


「この数値であれほどのプレッシャーを放つとは説明がつかない・・・!! 一体どういう事だ!? 俺は標準で5千万を軽く超えているというのに!?」
「何よそれ!? ご、5千万!? 勝負にすらならないじゃない!?」
「原因が分らない・・・妹魂スカウターの故障か?」
「故障・・・そ、そうよ! うん、私もそう思うわ! きっとそうよ!」
【失敬な。原因は分かっています】
「なんだって? どういうことだ?」
「何が原因だっていうの。納得の行く説明をしてくれないかな?」


【おそらく、想いが一方通行で妹さんに届いていない事が原因かと】


「・・・・あ(ポン)。嫌われてるのか。」
「―――― かはぁっ!?」


だんだんの言葉に、楯無お嬢様がその場に崩れ落ちた。

だんだん~!? もっとおぶらーとに包んで~!?

胸を掴んで『痛い・・・!? 心が痛いよう・・・!』と呻く、楯無お嬢様に近づいてその背を撫でる。


「成程、想いが届いていなければ真のシスコンとは言えん。プレッシャーのわりに数値が低いのはそのせいか・・・・。」
「うぐぅっ!?(グサ)」
【敵、体勢を崩しました】
「そっか・・・妹さんと不仲なのか。これは辛いよなぁ・・・俺だったら耐えられんな!」
「あぐぅ!?(ドシュ)」
【続けてどうぞ】
「きっと、妹さんのことほっといて『私TSUEEEEEEE!!』とか『私SUGEEEEEEE!!』とか言ってたんだろうなぁ。なんたって最強だしね?」
「ごほっ!?(ザクッ)・・・ち、違うのよう・・! わ、わたしは別に蔑になんてするつもりは・・・これっぽちも・・・!!」
「だんだんー! もう楯無お嬢様のHPはゼロだよー! もうやめてあげてー!」
「甘い! 妹魂を持つ者が出会った時、そこにあるのは殺るか殺られるかだ!! この時ばかりは紳士も淑女もないんだ!!」
「そうなのー!?」
「ふ、ではトドメと逝こうか。」


そう言って、だんだんがポケットから携帯電話を取り出した。
・・・・何をするんだろー?

楯無お嬢様も、困惑の表情。


「―――― 今から俺は、妹に電話を掛ける。」
「・・・・な・・・んで・・・すって・・・・!?」
「他の兄妹のごく普通で、かつ和気あいあいとした姿に、果たして耐えられるかな・・・?」
「――――― な、何て奴なの!? こ、この外道!? 鬼ぃ!?」


楯無お嬢様が、今まで見た事のない戦慄の表情を浮かべてる―――!?
え、えーと、私はどうしたらいいのー!?

そんな私達を無視して、だんだんが携帯のボタンを押し耳に当てる。


「『七代目五反田号』、聞こえるように、俺の会話を周り流してくれ。」
【了解】
「さぁ、覚悟はいいかな? 生徒会長殿?」
「う・・・ぐ・・・・・!」

ピッ。

「―――あ、もしもし? 蘭か―――・・・?」




【―――――お掛けになった電話番号は現在使われておりません。】




・・・・・・・・えー。

「・・・・・・(ピッ)妙だな。」
「実は私の事を、とやかく言う程仲良くないでしょう!? ねぇ!?」
「あれー? おかしいなー? かからないなー?(カチカチカチカチカチ)」
「不味いわ・・・ダークサイドに落ちかけているわね・・。」
「だんだんしっかりしてー。」
「きっと伝えるのを忘れちゃっているだけよ。 元気出して!」
「そ、そうだよな・・・うん、そうだよな。は、ははは。」
「きっとそうだよー。」
「うんうん。私なんて掛けても『・・・・今、忙しいから』って・・いわ・・・言われ・・(半泣き)」
「大丈夫だ! きっと本当に手が離せなかっただけさ! 時間が合わなかっただけだ楯無さん!」
「かんちゃんは、ああ見えて忙しいからー」
「そ、そうよね! きっとそうよね!」
「もちろんさ! きっと『・・・今日は、掛かってこないのかな・・・?』って思っているに違いないさ! 自信を持つんだ!」
「――――― ダーリン!!」
「ハニー!!」


ガッシィ!! と、手を握り合って見つめ合う二人。
意気投合したようで何よりだけど・・・・・・・・・・

むー・・・・・・二人とも近いー!


「楯無さん。お互い、上手くいくよう頑張ろう!」
「ええ、もちろんよ。お互い協力していきましょう。」
「俺も、妹さんとの仲が上手くいくよう、協力を惜しみません!」
「あ、ありがとうダーリン!」
「当然さハニー!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・むー・・・」
【二代目。送信者不明のメールです。】
「ん? メール? 表示してくれ。」
【了解】

ピッ。


【お兄へ。 携帯を新しく買い替えたから。新しいメルアド登録しといてね。電話番号もつけとくけど、調子に乗って掛けまくってきちゃ駄目だからね。それから、たまに家に連絡しろ。この馬鹿兄。】



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おー・・・・・」
「・・・・・・・・・・うん。まぁ、協力するからさ。」
「優しくしないでよおおおおおおおおおおっ!! う、羨ましくなんてないんだからあああああっ!!」


そう言って楯無お嬢様が、床に落ちたままの扇子をだんだんに向かって投擲。

サクッと、だんだんの額に突き刺さるも。だんだんは顔色を変えず気遣うような瞳を崩さない。
だんだんは、妹さんとすごく仲良しさんなんだねー。

そのまま楯無お嬢様はダダダダーっと、何処かへ駆けだしていってしまいました。
・・・・・・大丈夫だよー。かんちゃんは、楯無お嬢様のこと大好きだよー。

扇子を抜こうともせず、それを見送るだんだんと、私。
なんだか、変な空気になっちゃったー・・・・・・どうしようー?


「ふむ? 面白い人だな。」
「だんだんも十分面白いとおもうよー?」
「そうかね? ま、明日また会うことになるし。話しはまた明日ってことか。」
「んー? 会う約束なんていつしたのー?」
「うん? この扇子が招待状だろ?」


そう言って。額の扇子を指差すだんだん。
しょうたいじょー・・・・・おー、なるほどー。


「『この扇子を私の所まで返しに来てね♪』っていうメッセージだと思うんだけどね。どうだろうね?」
「んー。きっとそうだと思うよー?」
「やれやれ、分かりにくいことしてくれる人やねー。」
「返しに行くのー?」
「まぁね。朝にでも尋ねてみるかなー? のほほんちゃん。何処に楯無さんがいるか知ってる?」
「朝は、たぶん生徒会室だとおもうよー? 案内するー?」
「おう。それは願ってもない! そんじゃ、朝も早いしとっとと部屋に戻って寝るとしようか。」
「おー!」


そう会話を交わして、だんだんと一緒に部屋に戻る私。
むー、それにしても生徒会室に、だんだんを連れていくことになるなんて思いもしなかったよー。

・・・・あれ、何か忘れているようなー・・・


「のほほんちゃーん? 置いてくよー?」
「あ~、待って~~~~。」


先に行くだんだんの後を、パタパタと追いかける。
だんだん、とりあえず額の扇子は抜いたほうがよくないかなー?


こうして、今日の出来事は終了しましたー。



生徒会室。

そこにいるのは楯無お嬢様だけじゃないって事を忘れて。





【??? SIDE】


「うぅぅ~! く、悔しい~。悔しい妬ましい~・・・!」
「はぁ・・・一体どうされたのですか? お嬢様。」


朝も早くから、生徒会室にて仕事に専念する。
そんな私の横で、生徒会長であり。私がお仕えする家のお嬢様である。楯無お嬢様が机にかじりついて悔しがっていた。

今日あってから、ずっとこんな調子なので少々困惑を隠せない。

それでも、机の上の書類を次々と片付けていくのは流石としか言えませんね。


「お嬢様はやめてよー?」
「失礼しました。いつもの癖で。それで一体どうされたのですか? 会長?」
「・・・・・うぐぐ! ムキ―――――ッ!」
「・・・・・ふぅ。」


理由を尋ねてもこんな調子。一体どうしたらいいのかしら?
こんなお嬢様の様子は珍しいから、何をしたら良いのか見当もつかないわ。


とりあえず、気を紛らわすために紅茶でも淹れようかしら・・・・・。


そう思って立ちあがり、紅茶を淹れる準備を始める。

そんな私の行動を見たお嬢様が、『あっ』と小さな声を上げた。

・・・? 何か要望でしょうか。
振り向く私の視界に映るのは、どこか楽しげなお嬢様の笑顔。


「虚ちゃーん。紅茶を入れるなら四つお願いねー♪」
「・・・四つですか?」
「そ♪ 私でしょ、虚ちゃんでしょ、そして本音ちゃん。」
「本音の分もですか? まだ来ていませんが?」
「もうそろそろ来る頃だと思うからね。」
「それでは三つではないでしょうか?」
「ノンノン♪ もう一人とってもビックなお客様が見えるのよ。」
「お客様・・・・・・ですか?」
「そ♪・・・・・んふふふふ。」


そう言って、意味ありげに微笑むお嬢様。
・・・・・あの顔は、大抵がいたずらを企んでいる時のそれなので、内心溜息を吐く。

一体、今度は何をしでかす気なのでしょうか・・・・・。

考えても答えは出ないので、言われた通り紅茶の準備を始める。
もちろん四人分で。
・・・・・一体お客様とは何方でしょうか・・・?


そう思った矢先――――。


ダダダダダダダダダダダ!!!!!!!


「・・・・足音?」
「―――― あら♪ 来たわね。思っていたよりも早いわね。」
「・・・は?」


意味ありげに笑うお嬢様の言葉に、私が疑問の声を上げた瞬間。


バタ―――――ン!!


豪快な音をたて、生徒会室のドアが開け放たれた。

そして――――――・・・


「――― 待たせたなハニー!! 扇子を返しに只今参上! 五反田 弾です!! ついでに、のほほんちゃんもお届けだ!! 流石俺! サービス満点!!」
「あう~~~~~~・・・まだ・・・眠い~~~・・・・・・・」


――――――― え?


突如、扉の開け現れたのは、私に強烈な印象を与えた人。

私に、今まで抱いた事のない感情を植え付けた男の人。

な・・・・・・なんで、この人が此処に!?


突然の事に感情が追いつかず、ボワっ!っと顔に熱がかかるのが自分でも分かる。
お、お客さまって―――― まさか!?


「来てくれたのねダーリン! 嬉しいわ♪!」
「当然さハニー! それで妹さんとはどんな感じ?」
「・・・・昨日の今日でどうにかなる訳ないでしょう? お姉さん今傷心中なのよー?」
「俺なんか、昨晩は実家に電話してさー。もう参っちゃった♪ 蘭の奴、何だかんだ言いながら、電話を切るのを先のばしにしてさー(でれでれ)」
「――――― っ憎しみで人が殺せたら・・・・!?」
「はいよ、扇子。ご招待どうも。」
「あら? んふふ。意味に気付いてくれて嬉しいわ。歓迎するわ弾くん♪――ってちょっと待って!? 私の扇子がジュリアナトーキョーっぽくなってるんだけど!?」
「サービスだ!!」
「そ、そんなぁ・・お気に入りだったのにぃ!?」
「ほらー、忘れるからそんなことになるんだぞ?」
「ど、どうしようかな!? お、お姉さん。い、今本気でキレそうになっちゃよ・・!?」


会話を交わす、会長と彼―― 五反田 弾くん。
その横で、妹の本音が『うー・・・・眠い・・・・』と席に着き、机に突っ伏す。

と、とりあえず深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


だ、大丈夫。いつものように冷静に構えていれば問題ない筈よ。
そう思うものの、自分の身だしなみや、髪のセット具合が気になりだして落ち着かなくなってしまう。

か、髪は撥ねてないかしら・・・? こ、紅茶はこれでいいかしら?
小さな事にも気になりだして、埒が明かなくなってしまう。

彼が来るって知っていれば、もっと色々準備していたのに―――――!?

お嬢様のあの笑みは、この事だったんですね・・・・・
後でお話がありますからね・・・・・!?


そんな思いを込めて、お嬢様に視線を向けた時―――――・・・


「・・・・・・おろ?」
「―――――――――っ!?」

彼と視線が重なった。

心臓がバクバクと落ち着かない。
何か言おうとするものの、頭が真っ白になって何を話せばいいのか分らなくなっていまいました。

あ、あう・・・あ・・・・・!?

そんな私をマジマジと見ていた五反田さんはというと――――・・・


「―――――――― あ。」
「どうしたの弾くん? あ、紹介がまだだったわね。この眼鏡の似合う子は―――・・」


彼の視線の先に、私がいる事に気が付いたお嬢様が、楽しそうに紹介を始めようとした時―――――




「―――― 貴女はいつぞやの眼鏡美人さん!! お久しぶりですね!! お元気そうでなによりっす!!」




あの日と同じ、温かな笑顔を私に向けてそう言ってくれた。




「――――――― え? え!? どういうこと!? 二人とも知り合いなの!? こ、これは思わぬ展開だわ・・・!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぐぅ。」
「本音ちゃーん! 寝ている場合じゃないわよー!? とんでもない衝撃展開よー!」


お嬢様と本音の会話も頭を通り抜ける。

覚えていてくれた。

嬉しい。

先程まで混乱していた頭と心が、次第に落ち着きを取り戻していき。穏やかな気持ちになっていく。

話したい事は、山のようにあるけれど――――― まずは・・・・。


私は、五反田さんの瞳を見返して小さく笑みを作って言葉を発した。



「――――― お久しぶりです。また会えましたね。」





後書き

・・・・・長いですね。生徒会メンバーは大好きなので、どうしても色々かきたくなってしまいこのようなことに。そして実は姉の方と先に出会っていた弾。いったいこの先どうなっていくのか。やっとラヴコメっぽくなってきました。さて次回、チャイナっ娘が本格的に参入です。・・・・・・・・・日曜出勤だけは勘弁してほしいです本当。





[27655] 第十四話  チャイナ一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 14:39
ちわっす。 野郎魂狩りまくる。五反田 弾です。


早朝に、生徒会室を訪ねてみたら、あらびっくり。
愛しのハニーの他にもう一人、眼鏡の似合う清楚なお姉様系美小女と遭遇した。

しかも、この淑女様。実は以前一度であっているというおまけ付き。

なんじゃろねー? 俺にどこぞの主人公張りの、運命っぽい出会いを演出させてどうしたいのかねー。一夏のフラグ体質がうつったか? 


そしていつの日か、世界中の野郎がフラグ乱立野郎に・・・・・普通に世界崩壊じゃねぇか!? やはりあいつは消しとく方がいいか・・・・・?


親友をどうやって闇に葬るか計画する俺。
そんな殺伐とした俺を置き去りにして、生徒会室は朝の優雅なティータイムに入っていた。


「それじゃ改めて、IS学園生徒会室へようこそ。歓迎するわ五反田 弾くん♪」


扇子をパンっと開き。にっこりとほほ笑む楯無さん。
広げられた扇子には、『歓迎』の文字。おおう、匠技だね。

【文字表示は、自分の専売特許だ!!】

そして相棒よ。少しは寛容さも見せてはどうだ。お兄さんは心配です。

相棒の将来を心配する俺。
そのとき、俺のテーブルの前に薫りの香ばしい紅茶の入ったカップが置かれた。
ほほー、良い薫りだ。
横に目を向けると、そこに映るのは眼鏡美人のお姉さん『布仏 虚』さんの姿。

まさか、のほほんちゃんの実のお姉さんだったとは驚愕だったぜ。いやはや世間ってのは案外狭いもんだねー?


「どうぞ五反田くん。・・・ごめんなさい、来ると分っていれば色々と歓迎の準備をしたのだけれど・・・急な話だったから・・・」
「いえいえ、大丈夫っすよ。おいしい紅茶と、ついでにケーキでもあれば十分ですから俺は。」
「あ・・・そういえばケーキの買い置きが・・・少し待っていてください。」

そういって、奥の方へと消える虚さん。
ケーキあるんだ。言ってみるもんだね!!

「・・・・流石ダーリン。遠慮を知らない豪胆さね。逆に清々しい位。」
「「ケーキっ!ケーキっ!♪(バンバン)」」
「はいはーい。そこのお二人さん、テーブル叩いてユニゾンしないの。」


のほほんちゃんとユニゾンする俺。
ん? ハニー。今俺の事遠慮を知らないと言ったか? 聞き捨てならんぞ!!


「何を言うんだハニー! 俺程遠慮を知っている紳士はそうはいないぞ!?」
「えー? ほんとに~?」
「当然だ! 具体的に言えば、バスに乗り込んだ荷物多めのジジィに、席を譲る事を遠慮する位に、俺は遠慮している!」
「そこは譲ろうよ!? 道徳的に!」
「ちなみにお婆さんの場合。席を譲った後、荷物を首から下げ、背中にお婆さんを背負い家までエスコート。縁側でお茶をすすりながら話し相手を務めるフルコースをもれなくプレゼントだ!!」
「お~。 だんだん優しいね~♪」
「話し前半聞いてなければ美談なんだけどね~・・・」
「さらに、遠足のバスの中でカラオケの番が回って来た時『あ、俺パス』と、他の人に出番を譲るほど遠慮がきいているぞ!!」
「歌いたくないだけでしょうが。」
「俺が歌うと、何故かみんな倒れるんだ。危険すぎる・・・・!」
「歌声はジャイ○ン級!?」
「幸せな顔で。相変わらずスゲーな俺の歌って。」
「それってまさか『うたう』って技じゃないかな!?」
「運転手まで寝ちまうかもしれんし。」
「・・・・・確かに危険ね。ダーリン、ナイス判断だったのね。」

カチャカチャ・・・・・。

「・・・・なんの話しをしているのですか?」
「だんだんバスの中で、お婆さんに席を譲った後に、いえまで送っていったんだって~♪」
「あら、そうなの。・・・ふふ、やっぱり優しいのね?(優しい眼差し)」
「そうですかね?(ポリポリ頭を掻く)」
「良い所だけを見せつつ好感度アップ!? そして、さも当然の事をして『誉められている理由がいまいち分っていない』と、暗に相手に思わせるその仕草!! ダーリン・・・恐ろしい子っ!?」


ははは、朝からIS学園生徒会長は元気だな。流石だ会長。凄いな会長。
そしてケキーを切り分けて持ってきた虚さん。
おお、美味そうです。のほほんちゃんなんか目がキラキラ光っています。あ、これこれ涎は拭きなさい。(主夫)

その後、四人それぞれにケーキと紅茶がいきわたり、ようやく全員が席に着く。

しかし、早朝からケーキとは・・・・それでいいのかIS学園生徒会。(注文したくせに随分な態度)


「だんだん~♪ ここのケーキはね~、ちょおちょおちょおちょお~おいしいんだよ~。」
「ほほう? 俺の特製ケーキは?」
「おいしいよ~。」
「なぬっ!? まさかの辛口評価!? ぬぅぅ・・・まだまだ本場のパティシエには敵わんか・・・・!!」
「・・・特製・・・?」
「あ、俺実家が食堂やってて、そこの二代目を目指し日々修行中なんです。だから色々作って腕磨いてんですよ。」
「へ~~~~! それじゃあ、本音ちゃんいつも弾くんの手料理を食べさせてもらってるんだ?」
「ばんごはんだけ~。だんだんのご飯はちょおちょお~おいしいのー♪」
「パティシエ半端ねぇな!? 俺にまた一人強敵(とも)が!?」
「・・・・・・・・・。」
「なんでしたら弁当でも作りますぜ? 五反田食堂お弁当サービス! おお、イケそうな試みだ。」
「あ! それじゃあお願いしちゃおっかな~♪」
「オフコース! 虚さんもどうっすか?」
「え!? あ、そっそうですね。お、お願いしちゃおうかしら・・・(////)」
「・・・・・・・・・む~~~・・・だんだんわたしもー!」
「おおう、開始数秒で予約三件入ったぜ。流石俺だな。」
【よっ! 五反田食堂二代目!】
「おいおい、そんなに煽てても何も出ないぜ?」
【五反田食堂希望の星!】
「わはははははははははははははははは!!」
【・・・・『世界IS特集』という駄本のことだが・・・釈明は・・・?】
「相棒、話し合おう。お前はごげええええええええええっ!!?(メキメキッ!!)」
「「「ダーリン(五反田くん)(だんだん~)!?」」」



それから数分後、
ようやく相棒の許しを終えた俺は、痛む腹部をさすりながら再び席に着いた。

ええい、全く嫉妬深い奴め。

生徒会三人娘様に、心配そうな眼を向けられるが大丈夫だ。ちょっと内臓を捻られただけだ、いつものことさ♪


「だ、大丈夫? 五反田くん。」


気遣う眼を向ける虚さん。
へいもちろんです。
・・・お? そういや初めて会った時もこんな会話したな。


「大丈夫っすよ。虚さんにそう心配されるのは二回目っすね?」
「―――え? あ。そう言えばそうだったわね。ふふっ。」


そういって、慎ましやかな微笑みを浮かべる虚さん。
おお、まさに年上のお姉さん特有の穏やかな笑みだな。いいもんです。


「そう言えば、二人は初対面じゃなかったのよね? ねーねー! どんな出会い方したのか教えてちょうだい♪」
「・・・・・・・むー・・・お姉ちゃんずるいー・・・。」
「俺と虚さんの出会いかぁ・・・・・・実はカクカクシカジカというわけだハニー。」
「へ~、そんなことがあったのね~?」
「・・・・会長。今ので分るんですか?」
「もっちろん♪ 私とダーリンの仲だも~ん★」
「ハニー!! 病院へ行こう!! それは幻聴だ!!」
「まさかの裏切り!?」
【落ち着けブラザー。】
「これが落ち着いてられるかブラザー!? くっ! 迂闊だった、『私YABEEEEEEE!!』なんて言ってるアイタタタな予兆があったというのに俺って奴ぁ・・・・!!」
【冷静になれブラザー。二代目を目指す男とあろう者が情けない。】
「だがハニーが!?」
【心配いらない。騒ぐ程のことじゃない。】
「何? どう言う事だ相棒? それと一々文字読むのが面倒臭いな!? 喋れよいい加減に。」
【前掛けが喋る訳ないだろう。】
「「「・・・・・・・・・」」」
「ぬぅぅ・・・!! 盲点だった・・・・! それで? なぜ大丈夫と言い切れるんだ相棒?」
【あれはただの厨二病だ。】
「厨二病・・・・な、なんだそうか。お、驚かさないでくれハニー。心臓に悪い。」
「ダーリンと七ちゃん!? 色々と酷い!? 私の事が嫌いなの!?」
「何を言うんだハニー!? 俺はいつも君の事を、野に咲く花のように想っているというのに!?」
「・・・・あの。五反田くん? それって割とどうでもいいってことではないかしら・・・。」
「酷い! 私はダーリンの事を、ジャージについてるチャックと同じくらい必要としているというのに!?」
「・・・・・ハニー!? そんなにも俺の事必要としてくれていたなんて・・・!?」
「だんだんは、ジャージにチャック必要派なんだねー。」
「ハニー!!」
「ダーリン!!」


ガシィッ!!

手を握り合い、至近距離で見つめ合う俺とハニー。
きっと、今の俺達の周りには満開の花が咲き乱れている事だろう。


「・・・・・ハニー・・・(真剣な眼差し)」
「ダーリン・・・(潤んだ瞳)」
「・・・・・むー!」
「オホンッ! 会長。少しおふざけが過ぎますよ?」
「や~~~~ん♪ ダーリン。二人の視線が怖ーい♪(抱きつき)」
「おっとぉ? ははは、ハニーは甘えん坊んだな! 可愛い奴め!」
「む~~~~~~~~~っ!! あむあむあむあむあむあむあむあむっ!!」
「HEYのほほんちゃん!? それは俺の分のケーキだYO!?」
「本音。駄目でしょう? 一つ余りがあるからこっちを食べなさい。」
「いや~~~~~~!? それは私の分ってあ――――!? そ、そんな一口で・・!?」
「むぅぅ~~~~~!(もぎゅもぎゅ)」


仲良し姉妹のコンビネーションアタックが炸裂。
なんてこったい。せっかく現れた強敵の腕前を知るチャンスを奪われてしまった!

ハニーも、がっくりと首を垂れ。机に突っ伏している。
気持ちは分る。
見た目でも超美味そうだもんな、あのケーキ。

しょうがない。今日は虚さん印の紅茶だけで良しとしよう。

とりあえずヒートアップした場を一時冷ましてから、再び会話へ移る。


「うう・・・酷い。私のケーキがぁ・・・・」
「自業自得です。会長。」
「はいはい、私が悪かったでーす。それで? 虚ちゃんとダーリンは、どういった出会いだったのかしら?」
「あ。それは―――――」
「待つんだ虚さん! 説明すると長くなる! どのくらいかといえば一話分に匹敵する位に!」
「い、一話分・・・ですか?」
「この話はいずれ、『番外編』で語る事にしよう。楽しみにしていてくれ!」
「え~~~~~!? つまんなーい。」
「我慢してくれハニー。ちなみに番外編は、俺の戦友『六代目五反田号』が大活躍するぜ!」
【相棒。多目的ホールへ行こう。そろそろ迎えに行ってあげないと】
「む? そうか。それじゃ今度の休日、食堂に帰る前に迎えに行くとするかね?」
【アア、ソレガイイ。オムカエニ行コウ。カカカカカカカカ・・・・・・】
「・・・・そんなに先代が嫌いかお前は。」
「ねぇねぇ! ダーリン? 少しだけ話してくれなーい?」
「と言ってもなー。ほれ、そろそろ教室に行かんとSHRに遅れるしなぁ。」
「わ、ほんとだ~~~。」
「少々、話が長すぎたようですね。」
「・・・・・仕方ない予告だけしとくか。相棒!」
【・・・・・・・ちょっとだけよ?】


~番外編予告!!~

『HEY! 大丈夫かねレディ&ガール?』
『・・・・・・・・・(呆然)』
『あ、あの? あそこから悲鳴が聞こえるんですが・・・?』

【ヴォオオオオオオオ!!】
【ギャオオオオオオオ!!】
【グオオオオオオオオ!!】
『『ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!?』』

『ああ、大丈夫。ちょっとカプセル○獣使っただけだから。三匹とも張り切ってんな~。』
『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)』』

~終了~


「―――――――― 以上だ!! さて行こうかのほほんちゃん!!」
「待って!? ダーリンって何者!?」
「背中に乗ってくれ!」
「アイアイさ~~~~~♪(ガバ)」
「――――!? こ、こら本音! 貴女何をしているの!?」
「それじゃあ、俺達はこれで!! 紅茶美味しかったです虚さん! ハニーもまたな!?(ガラガラと窓を開ける)」
「ダーリン!? なんで窓から出ようとするの!? それと予告の三匹って何なの!?」
「―――――――――― ジェア!!」
「飛んだあああああああああああああ!?」
『『ああああああ~~~~~~~~~~~~!?』』
「落ちたあああああああああああああ!?」
「本音!? 五反田くん!?」


――――――――――――――― 展開ッ!
カッ!!(IS起動)


『やはり宇宙刑事風を選んで正解だったな!! 起動が一瞬だぜ! 行くぞのほほんちゃん。しっかり掴っててくれよな?(お姫様だっこ)』
『・・・・・あう~(/////)』
【リプレイは?】
『今夜にでもじっくり見よう! 行こうぜ相棒!』
【了解。のほほん嬢の安全を最優先で加速します】
『流石相棒だ!! IS紳士の鏡!! 行くぜ!!』


バシュ――――――――――――――――――――ッ!!(風になる)


そのまま、俺はのほほんちゃんを抱きかかえて教室へと直行する。
そして流石相棒。振動を殆どのほほんちゃんに伝えない気配りを忘れない。
素晴らしい!



―――ふむ。

しかしハニーは、何故俺を呼んだのだろうか。

なーんか、面倒臭い事に巻き込まれそうだったら。色々うやむやにしたが・・・・
きっと気付いてんだろうな~。


ま、後はなるようになれだ。
思考をカットし。生徒会室を後にして、教室を目指す俺とのほほんちゃん。




五反田弾。今日も一日張り切ります!!(自重しろ)





【楯無 SIDE】


「・・・・・・・・・・・流石ダーリン。侮れないわね。」


窓の外を眺め、小さくなっていく碧のISを見送り。
私は、ゆっくりと椅子に腰を降ろした。

五反田 弾。
成程、とても面白い子だわ。


「はぁ・・・学園内のISの無断使用は厳禁なのですが・・・・。」
「んふふふ♪ でもやっぱりダーリンは凄いわぁ。私に会話の主導権を奪わせないなんて、中々出来る事じゃないんだけどな~?」
「・・・・・会長? 一体何故五反田くんをお呼びしたのですか?」


怪訝そうな虚ちゃんの顔に、私はにっこりと微笑む。
そんなの決まってるじゃなーい♪


「んふ♪ チャンスがあんまりない誰かさんの為に決まってるじゃないの♪」
「・・・・・コホン。」


小さく咳払いし、虚ちゃんが席について。書類をまとめていく。
その頬は、照れによって若干桃色をしている。

うふふ、まさか本音ちゃんと虚ちゃんの、二人の心を動かす人が現れるなんてね~。

背もたれにギシっと、体を預け虚空を見上げる。


虚ちゃん。本音ちゃん。


更識家に、代々仕えてきた布仏家。
幼馴染である私は、二人の事を良く知っている。二人とも優秀な私の部下であり、大切な友達。

人を見極める眼は特に優秀であると私は確信を持っている。


――――――――― そんな二人を瞬く間に魅了した男。


「・・・・・・・・・・・欲しいなぁ。」


自然と、そう口から洩れていた。


「・・・・・・・・・・お嬢様?」


そんな私を、虚ちゃんが怪訝そうに見ている。

あは。大丈夫大丈夫♪
二人が想いを寄せている男の子だもんねぇ。手荒な事はしないわよ。絶対に♪


――――けどね。


思い起こすのは昨晩の事。

私の気配に気付いたあの察知能力。

本音ちゃんを、護るように自ら前に出て、己を楯にした行動。

おちゃらけた言動で、本音ちゃんに不安を与えないようにした心配り。

私に一瞬向けた、鋭い眼光。

そして極めつけは今日も魅せてくれた、会話の主導権を私に取らせないあの巧みさ。


「――――――――――――― うん♪ 欲しいなぁ。」


にっこりと笑う私に、虚ちゃんがふぅと溜息を吐く。
そして、ちょっぴり呆れたように呟いた。


「それは『生徒会』にという意味でしょうか? それとも『更識家』にという意味でしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・んふふ♪」


今日は、一日良い日になりそうね。


私はもう一度、彼の出ていった窓から青い空を眺めた。





【一夏 SIDE】

「――――――――――― その情報、古いよ。」


クラスの皆で、クラス代表戦の話で盛り上がっている途中。
会話を遮るように、懐かしい声が響いた。

ん? この声ってまさか。


「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に優勝なんてできないから。」


腕を組み、片膝を立ててドアにもたれていたのは―――――


「鈴・・・・・? お前、鈴か?」
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ。」
「何格好つけてるんだ? すげえに合わないぞ?」
「んなっ・・・・!? なんて事言うのよアンタは!」


そのまま、ズンズンとこっちに歩み寄って来る鈴。
おいおい待て待て、落ち着けって。

俺の近くまでやったきた鈴が、不機嫌な顔で俺を指差した。


「ちょっと!! 一年ぶりに再会した幼馴染に対してその態度は何よっ!?」
「わ、悪い悪い。でも普通に喋らないお前も悪いと思うぞ。」
「い、良いでしょう別に!? こういうのは雰囲気が大事なのよ雰囲気が!」
「そんなもんか?」
「乗りの悪い奴ね~・・・! 弾も何か言って―――― ってあれ?」


そう言って、キョロキョロと周囲を見渡し。
怪訝そうな表情を浮かべる鈴。

あー、そういや弾の奴朝食の時もいなかったな。
たしか、のほほんさんもいなかったような。


「――――― 弾の姿がないけど、どういうこと? 同じクラスって聞いたんだけど?」
「あー・・・、今日は姿を見てないんだ俺も。」
「なんだ、またサボりなの?」
「どうだかな。良く分かんないな。」
「「「「「否定しないんだ・・・・・・・・!?」」」」」


いやいや・・・あいつたまに意味不明な事言ってどこか行っちまうからなぁ。

この前は『ちょっとラピ○タまで、行って来る』とか言って、三日間ぐらい姿消して。
なんかしらんが青い石持って帰って来たし。

・・・・・・怖いから、滅びの言葉は言わないようにしているが・・・


「お、おい一夏。この女は一体誰だ? 知り合いか?」
「わ、私も是非知りたいですわ!! 妙に親しそうですけど、一体どんなご関係ですの!?」


箒とセシリアが、俺に詰め寄って来た。
ああー・・・そういや箒は知らないんだった。当然か、入れ違いだったし。
鈴も、二人見て『なにこいつ等』って眼でみているし。
紹介ぐらいしておくか。


「ああ、そうだな。紹介しとくぜ。こいつは俺と弾がよく――――・・・」



カラカラカラ―――――・・・(窓が開く音)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。(全員窓を見る)

ガッ!!(窓の淵を掴む手)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。(数人ビビる)

ニョロリ。(弾登場)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。(やっぱりお前かって顔する)


「ん。呼んだか?」
「「「「「普通に出てきなさいっ!!」」」」」
「お前どっから入って来てんだよっ!?」
「・・・・・・・・何処って・・・」
「『コイツ何言ってんだ?』みたいな顔で、さも当然そうに窓を指差すなっ!?」
「へい、のほほんちゃん! 到着だぜ!」
「わ~い♪」
「のほほんさんも順応してないで止めてくれっ!」


弾の背中から飛び降りるのほほんさん。
隋分と弾と仲良くなったみたいだけど、できればストッパーになって欲しかったぜ・・!!

そのまま。俺達の方に近づいてくる二人。


「何故普通に扉から入って来んのだお前は・・・・。」
「いやー、途中まで『七代目五反田号』で来たんだけど。教員の人が飛んできて厳重注意受けちまってなー。しょうがないから、のほほんちゃん背負って登って来た。」
「階段を使うって選択肢は浮かばなかったんですのっ!?」
「窓から出たんだ。なら窓から入ってこないと、つり合いとれないだろ?」
「お前何処行ってたんだよ!? 窓から出るってどんな状況だそれは!?」
「ちょっと朝から優雅なティータイムをしてきただけだが?」
「「「状況が分らない!?」」」
「あんたって、本当に変わってないのね~・・・・・。」
「ん?」


そう言って鈴に視線を向ける弾。
あ。待てよ・・・・・
そういえばいつも、弾が鈴にあった時は必ず―――――!?


「―――― おお!? 誰かと思えば巨乳(笑)じゃないがはああああああっ!!?」
「――――(笑)ってなんじゃゴラあああああっ!!?」
「「「「「シャイニングウィザ――――――――ドッ!!?」」」」」


鈴の見事なシャイニングウィザードが、顎に決まり仰け反る弾。
さらに、俊敏な動きで背後に回り込んでチョークスリーパーを決める鈴。

――― 流石だ。腕は衰えていない!!


「アンタはどうしていつもあたしの逆鱗に触れることしか言わないのかしら~~~!?(天使の笑顔で締める)」
「―――――――ッ!!(パンパンと激しくタップ)」
「うふふふ♪な~に~? 聞こえな~い。」
「・・・・・・・(パンパンパパン♪パパパパン♪)」
「リズムに乗せてんじゃないわよ!? この馬鹿弾!!」
「駄目だ! すぐ順応しやがったぞ!?」
「一夏! 掃除用具入れを開けて!!」
「え!? お、おう! ―――【ダダダ・・・ガチャ】―――― 開けたぞ!!」
「――――― フン!!」
「げはあああああっ!?」


ドッコ―――――ン!!

チョークを解いて、弾の背中を蹴りつける鈴。

吹っ飛んだ弾は、掃除用具入れに一直線に向かってホールイン。

ツカツカと歩み寄った鈴は、掃除用具入れのドアを乱暴に閉め、ガムテープを入念に張り付け弾を封印した。
パンパンと手を払い『フンっ!』と鼻息を吐く鈴。

一部始終を見ていた。一組の全員の顔が驚愕に染まった!!


「馬鹿な!? な、なんという見事な手際の良さだ!? あの弾を封じた!?」
「い、一体誰ですの!? 何者なんですのあの方は!?」
「さ、さすがだ鈴! やっぱ凄いなお前!?」
「は?・・・な、何!? なんでみんなしてあたしを凝視してんの!? 怖いんだけど!?」


そりゃそうだ! 弾を手際よく葬る奴なんて、千冬姉を除いたら片手で数える程度しか存在しないんだぞ!?

ああ―――・・・鈴! 帰って来てくれて嬉しいぜ!!


「―――― 鈴。お帰り。」
「ちょちょちょ!? な、なんでそんな優しい顔でって・・・・・あ、あう・・(真っ赤)」
「い、一夏!? 誰なんだその凄乃皇の化身は!?」
「誰ですの!? 誰なんですのこのアルティメットウェポンは!?」
「―――――ちょっと!? アンタらあたしを何だと思ってんのよ!?」
「こいつは俺や弾と一緒に良くつるんでいた奴で。俺の幼馴染の鈴だ。弾を止められる数少ないストッパーの一人なんだぜ?」
「「「「「IS学園に!! 待望の人材キタ――――――――――ッ!!!!!」」」」」
「怖いってば!? なんで会う度、皆同じ反応なのよおおおおお!?」
「それは―――」
「あ、ちょっと待って一夏。」
「は?」


言葉を紡ごうとした時。
鈴が俺の言葉を遮って、近くの机に置いてあった教科書の一冊を手に取った。

教科書? 一体何に――――?

そう思った瞬間。
教室の天井が、カパッと開き―――― ・・・・・・


「―――それは俺が説明し――!! 【バァン!】ぶべらばっ!?」


そこから何故か現れた弾が顔を出した瞬間。
鈴の手から放たれた教科書が、弾の顔面にクリーンヒット!!

そのままドべシャッ! と地面に落ちる馬鹿。

全員が静まる中、鈴がまた一つ鼻を鳴らし―――――・・・


「アンタは寝てなさい。この馬鹿弾。」


弾を見下ろし、そう静かに告げた―――――。


―――― わああああああああああああああああああああああああっ!!

クラス中が歓声に包まれた。


「ひいいいいいいい!? 何!? 何事よっ!?」
「・・・・・鈴! 本当に・・・・お帰り・・・・・!!」
「い、一夏!? な、なによ!? そ、そんなに泣く程喜ばなくたって・・・!(真っ赤)」
「だ・・・駄目だ・・・勝てる気がせん・・・!?」
「な・・・なんて方ですの・・・!? 本当に人間ですの!?」
「そしてアンタらはあたしを何だと思ってんのよ!?」
「いででで・・・酷いじゃねぇか鈴? 一年ぶりだってのに手荒すぎね?」
「・・・・あんたはあんたで、相変わらずの不死身ぶりね。」


起き上がった弾が、顔をさすりながらやって来た。
流石に、鈴でもこいつを地獄の底まで落す事は無理なようだが、あの突っ込みの手際の良さは驚嘆の一言しか出ない。

本当に、良く帰って来てくれた! 歓迎するぜ鈴!


「なんだよー。夢と希望を壊さないようにした俺の配慮の言葉じゃん?」
「あたしの胸成長は、そんなに脆い夢だとそう言いたい訳ねあんたはぁ!?」
「じゃあチッパイ! 相変わらずぼおあッ!?」
「ぶっ殺す!!」


マウントポジションで、弾を血祭りに上げる鈴を横目に。俺は窓のから青い空を見上げた。

ああ――― これで少しは千冬姉の胃も――――って、ん?

ここで気付いたが、そう言えば千冬姉は一体どうしたんだろう?
もうとっくにSHRは始まっている時間だというのに、一向に姿が見えない。

変に思って、教室の扉に眼を向けると――――。

そこには、無表情で立っている愛する姉の姿が―――ってうおおおおおいっ!!?


「ぜ、全員! 席に着けえええええ!? ち・・・じゃない! 織斑先生がもう来てるぞおおおおお!?」
「「「「「え・・・? ええええええええええええええええええっ!?」」」」」


驚いたクラス全員が、扉に目を向け硬直。
そして、大慌てで自分の席に戻る。

そんな、クラスを尻目に。コツコツと千冬姉が、弾を血祭りに上げている鈴へ近づいていった。


「ま、まずい!? 鈴! 後ろ! 後ろ見ろ!?」
「はぁ!? 何よ! いまこの馬鹿を血祭りに上げるのに忙し――― ってひいいいいいいいいいいいいいっ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


振り向いた瞬間。
自分を無表情に見下ろす千冬姉の顔を見た鈴が、真っ青になって飛び起きた。

ちなみに弾は、血を流しながらピクピクと痙攣している。
・・・おお!? まさか弾の奴リカバーが追いついてないのか!? す、凄すぎるぞ鈴!?

そんな弾を一瞥した千冬姉は、次に真っ青になってブルブル震える鈴に視線を移した。
相変わらずの無表情で超怖いぞ!? 千冬姉!?


「ち、千冬さん・・・・・!? お・・・おひ・・・お久しぶりです・・・!!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「―――――― !!(ガクガクブルブル)」


そんな鈴を見下ろしていた千冬姉は――――、





「――――――――――― よく帰って来たな。凰鈴音。」





ポン。っと鈴の肩を優しく掴み、今まで見せた事もないよな、優しい笑顔を鈴に向けてそう言った――――って、えええええええええええええ!?

全員が驚愕に顔を歪め、千冬姉を凝視した。
というか鈴本人も、とんでもない物みたように驚愕している!!


「もうSHRは始まっているぞ。早く自分の教室に戻れ。・・・・ああ、そうだ。なんならここで受けて行くといい。二組には私が話しを付けておいてやろう。」
「へ!? いいいいいいえ結構です!? 戻ります!! 戻りますから今すぐに!?」


そう言って、脱兎のごとく走り去る鈴。
うん気持ちは分る。今の千冬姉は別の意味で怖い。

そのまま、ドアまで走り、くるっと振り向く鈴。


「また後で来るからね! 逃げないでよ、一夏! ついでに弾も!」
「おうまたな~。」
「「「「復活早っ!?」」」」」
「いや、いつもより少し遅いな。流石鈴だな。三途の河のほとりまで俺を導くとはねぇ~」
「いいからお前も席につけよ弾。」
「あいよー」
「ならばなおの事このクラスで受けていけ。凰鈴音。」
「いいいいいいいえ! けけけけっこうですううううう!!」


二組へ向かって猛ダッシュする鈴を、名残惜しそうな眼で見送る千冬姉・・・・
ヤバい、あんな千冬姉見たことねぇ!?

そのまま、教卓の前にやって来た千冬姉。

教卓から窓の外を見やり――――――――――――――――・・・




「―――― ああ、今日は良い天気だな。」



そう呟いたのだった。

穏やかな顔でそう口にした千冬姉を見て。クラスの何人かが『先生・・・・!!』と、呟き。ぶわっと涙を流し口元を押さえていた。

・・・・・不憫すぎる。

・・・・・・・・うん。良かった。本当に良かったなぁ千冬姉・・・・


「ふむ? 千冬さん。どうかしたのかね?」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・こいつ・・・!」」」」」
「・・・・・・・・・・・・ところで、五反田。貴様また朝から問題を起こしたようだな?」
「へ? ああ、IS使った事ですかね? いやーすんません。緊急事態だったんで。」


そして、さっきとは打って変わって、不機嫌そうに弾を睨む千冬姉。
うわぁ、さっきよりもこっちの方が千冬姉らしいと思ってしまうのは俺だけか?

そんな俺の思考をよそに、会話は続いていく。


「学内でのISの無断使用は規約により禁止されている。もう一度頭に叩き込んでおけ馬鹿者が。」
「だから緊急事態だったんですって、のほほんちゃんと一緒に生徒会室の窓から飛び降りちゃったんですよ。」
「おい待て!? 落ちたんじゃないのかよ!? 飛び降りたのか弾!?」
「俺ならともかく、のほほんちゃんがいた事すっかり忘れててなぁ? てへっ♪」
「・・・・・まぁ、お前はともかく。他の者では多々じゃすむまい。」
「これは人命救助なのでしょうか? いえ、でもご自分から飛び降りている事ですし・・・相変わらず面倒を起こす方ですわね・・・・・・。」
「すまんなー。のほほんちゃん。」
「んーんー。気にしてないよ~♪・・・・・役得もあったし~・・・えへ~♪」
「・・・・・すでに弾の不死身さに慣れたなみんな・・・・・」


そんな風に思っていた時。

カラーンっ・・・・と。何かが落ちる音が響いた。

ん? なんだ? 

音の発生源をたどると、そこには出席簿を取り落し。

信じられない物をみるような眼で、弾を凝視している千冬姉の姿があった。

・・・・・・な、なんだ? どうしたんだ千冬姉?


「・・・・・・・・・・・・・・生徒・・・会・・・室・・・・・・?」
「へい。生徒会室です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何の用事だ・・・・・?」
「ああ、特に大した理由じゃないですけど。ここのIS学園の生徒会長さんに招待されたんす。」
「「「「「・・・・・・・・・・・え?」」」」」
「お前それで朝食の時いなかったのか。」
「おう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


しばらく、呆然としていた千冬姉だったが――――・・


ダッと。いきなり教室を飛び出し、弾丸のごときスピードで俺達の視界から消えさり―――――――――――――――・・・・・



『―――――――― 今すぐ凰鈴音を一組に寄こせえええええええええええええええっ!!』



学園中を揺るがす怒声が響きわたった・・・・・・・。


「ち・・・・千冬姉・・・・?」
「おおう・・・・千冬さん。久しぶりの暴走モードか。」
「な、なんだ? なにがどうなって織斑先生は、あの状態に・・・?」
「・・・まぁ、おそらく。五反田さんのせいでしょうけど。」
「え? 今の会話で怒らせるようなことあった? ISの無断使用は注意されたけど、他に理由なんてもんなくね?」
「ん~~~・・・私はなんとなーく分るよ~?」
「「「「「え?」」」」」


のほほんさんは、理由が分るようだけど・・・・・一体何が原因だ?
とりあえず・・・・・・この場はどうしたもんか。担任である千冬姉がいないんじゃどうしようもない。
副担任の山田先生も姿が見えないしなぁ・・・・・


『織斑先生!? 一体何事ですか!? 今はSHR中ですよ!?』
『今すぐ凰鈴音を一組に引き渡してもらう。何、私は顔見知りだ。故郷を離れ心細い思いをしているだろうし、一組には彼女の友人がいる。鈴にとってもその方がいいだろう。さぁ渡せ!』
『何を言ってるんですか!? くじ引きの時恨みっこなしって、教員全員で誓い合ったじゃないですか!? そんなの認められませんよ!?』
『喧しい!! 大体、生徒をくじ引きで振り分けるなど失礼な事だと思わんのか!?』
『だってそうしなきゃ実力勝負で織斑先生の一人勝ちになっちゃうじゃないですか!?』
『せせせせせ先輩ぃぃ!? なななな何事ですかあああ!?』
『山田君か・・・・緊急事態だ! 山田君も凰鈴音を一組に再編入させるよう説得してくれ!!』
『えええ~~~~!? でもくじ引きの時恨みっこなしって・・・・・』
『山田君。落ち着いて聞くんだ・・・・・五反田が、更識と接触した。』
『・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・あはは・・・・・・そんな・・・』
『もはや四の五の言ってられん状況だ!! だいたい一組はとんでもない爆弾を抱えてるんだぞ!? 戦力はこっちに全部回すのが筋というものだろう!?』
『何を言っているんですかあああああああああああ!!? こっちにだって余波が来てるんですよ余波がぁ!? わ、私が! 私がどんな目にあったのか知りもしないで好き勝手言うなあああああああああああああ!!?』



・・・・・・・・・・・・・・・。


「・・・・・おい。お前他のクラスにまで迷惑かけてんのか?」
「ん? そんなことした覚えないが?」
「無自覚か・・・・・・・・・・・・・性質が悪いのも程がある・・・・。」
「・・・・大変なのは、どのクラスも共通ということですわね。」
「だんだんはハリケーンだからねぇ~」




とりあえず。本日のSHRは潰れる事になったことを明記しておく。

しかし鈴。大人気だなお前。







後書き


・・・・・・遅くなりました。誰か休日をプレゼントしてくださいぃぃ・・・・・。まぁ愚痴は置いときまして、今回も長いです。やっぱり生徒会メンバーが絡むと書きたい事ありすぎて収拾がつきません。まだ朝の一幕ですよ? さて次回。鈴を交えた日常編? です。会長も動き出したようでどうなることやら。・・・・・・あ、ちなみに番外編はちゃんと書いてあります。載せるのはもう少し先かと・・・他にも色々ありますが・・・まぁそれもいずれということで。








[27655] 第十五話  暗雲?一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 15:51
ちわっす! いつも心に花束を。五反田弾です!


微乳の暴走特急チャイナっ娘である。鈴との一年ぶりの再会を果たした一夏と俺。

いやー、まさか鈴がIS学園に入学してくるとは思いもしなかったぜ。
これで、数馬や花梨ちゃん達三人娘が揃えば、中学時代の主力メンバー勢ぞろいの夢の共演が再現できたんだが・・・・・まぁ、そこまではさすがに無理かね?

あの後、マヤたんに付き添われ戻って来た千冬さん(胃をおさえながら)だが、その機嫌は最悪。
授業中何処か上の空の、箒ちゃんとセシリーちゃんに毎度おなじみ出席簿アタックが振るわれていたが、威力がケタ違いだったしね?

パァン! じゃないよ。
バアァンッ!! だよ? 二人とも大丈夫かね~。

そして、千冬さん暴走のSHRと、緊張感五割増しの授業から時間は過ぎて、現在お昼休みです。

授業が終了し、千冬さんとマヤたんが教室から出て行った瞬間――――・・・


「――――― 貴様らのせいだああああ!!」
「――――― 貴方達のせいですわああああ!!」
「地球温暖化は俺達だけのせいじゃない。」
「二人が言ってんのはそこじゃねえよっ!?」


開口一番、若干涙目の箒ちゃんとセシリーちゃんが、まだ痛むらしい頭をおさえ一夏と俺を怒鳴りつけてきました。

いやー、そう言われても。千冬さんの授業でボケっとするのが悪いと思うぞ? 大方、鈴という一夏に近しい女の子の出現に色々考えこんじゃったんだろうけどねー。

ちなみに俺は真面目に授業を受け、ノートにしっかりと記入。分らない所はしっかりと手を上げて質問するという優等生ぶりだったがね。(クラス一同ドン引き)

マヤたんには『・・・なんでいつも、そんな風にしていてくれないんですか~~~~!?』って、泣かれ。
千冬さんには『・・・・お前何を企んでいる? 今度は何をする気だ吐けぇ!?』と、激昂される隠しイベントも見れたし、中々有意義な授業タイムだったと言えよう。


「納得いかん!! 何故貴様は叩かれなかったのだ!?」
「真面目に授業受けてる生徒を叩く理由なんてなくね?」
「だんだん。まじめにノートとってたもんねー。」
「そこがおかしいんです!! いつもなら意味不明な事おっしゃっているのに、何故今日に限ってあんなに真面目だったんですの!?」
「そんな気分だったからさ!!」
「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!?(ビキィ!)」」
「お・・・落ち着け二人とも、千冬姉もこいつ叩くに叩けなくて舌打ちした所見ただろ?」
「「それもあって、さらに機嫌が悪かったのではないか(ないですか)っ!!?」」
「・・・・・否定はしない。」
「まぁまぁ、お二人さん! 積もる話は食堂に行ってからにしようぜ!」
「お? それには賛成だな。とりあえず食堂に行こうぜ。話は食べながらでもいいだろ?」
「・・・・むぅ・・。」
「・・・仕方ありませんわね。」
「のほほんちゃんも来るかね?」
「んー。きょうは用事があるから無理かも~。」
「おう? そりゃ残念だ。なんの用事か知らんが頑張ってな~? 手伝える事なら遠慮なく頼ってくれよ?」
「ほいほ~い、ありがとー♪ じゃあねぇー。」


ぽてぽてと、やたら遅い足取りで教室の扉に向かうのほほんちゃん。
ようやく到達したと思ったら。出て行く前に、もう一度こちらを振り返りヘロヘロ~っと手を振る姿に衝撃が走る!
馬鹿な・・・!? 一体彼女は、どこまで萌えのポイントをおさえているんだ・・・・・!?

そんな色々駄目っぽい俺の思考はおいといて・・・・ふむ、用事か。
もしかしたら生徒会関係の仕事かもしれんな。頑張れ敏腕生徒会書記のほほんさん!


のほほんちゃんを見送り。
俺と一夏、箒ちゃんにセシリーちゃんの四人で食堂へと移動する。
他にも数名俺達の後をぞろぞろとついてくる為、ちょっとした行進になっている。
流石は一夏。望む望まず選ばず、女の子が寄って来るな。

食堂についた俺達は、それぞれ券売機で思い思いの食券を購入する。
ちなみに俺は今日も蕎麦だ。
いや、これが美味いのよ本当。安いし、量もあるし。流石マダム達だね!

一夏はいつものごとく日替わりランチ。
箒ちゃんはキツネうどんで、セシリーちゃんは洋食ランチをそれぞれ購入。

あらま、全員いつも通りですな。
変わり映えのない日常ですね。良い事だ。
四人で食券をマダム達に渡す為に、列に並ぶ。

――― と、その時。


「待ってたわよ一夏! それに弾っ!」


俺達の前に、デデンッ! と色々と小柄な影が立ちふさがった。
両手に持つ盆の上にある、ラーメンが素敵です。
さすがはチャイナっ娘。キャラに合わせた昼食チョイスも素晴らしい。

まぁ、当然。微乳の暴走特急の鈴さんですね。

ほほう。待っていたとな?
あっけにとられる一夏達よりも先に、俺は口を開く。


「サインが欲しいのか? しょうがない奴め。」
「出待ちじゃないわよっ!!」
「色紙がないから、ブロマイドで良いか?」
「何でそんなモン持ち歩いてんだよお前・・・・・。」
「話聞きなさいよ!? いらないわよそんな物!」
「一夏ブロマイド【うたた寝バージョン】。レア物なのに?」
「そんなの知らないぞ俺は!? いつ撮った!? いつ作った!?」
「『七代目五反田号』が一晩でやってくれた。」
【加工に妥協は無い。】
「何やってんだよ!? このアホ主従コンビ!!?」
「・・・・・・・全くしょうがない奴ね~。(ゴソゴソ)」
「待て! 何事もないように受け取り、懐に収めるな! ず、ずるいぞ!? 交換だ! 交換を要求するぞ!」
「そうですわ! 私まだそれは持ってませんのよ!? お寄こしなさい!」
「はぁ? 早いモン勝ちよ、早いモン勝ち!」
「他にもあるのか!? というか、箒にセシリア! なんで持ってんだよ二人とも!?」
「ところで君達、通行の邪魔だから早く移動しなさい。後ろの淑女達が食拳出せないだろう。全く食堂で騒ぐなんて・・・慎みを持たなあかんよ。慎みを。」
「「「「事の発端はお前(貴方)(アンタ)だろ(でしょう)があああっ!!!?」」」」


騒がしい友人達に溜息を吐きつつ、俺は食券をマダムに渡し蕎麦が来るのを待つ。
その後に続いて一夏達も食券を渡し、列に並び直す。

ふむ、やはり鈴がいると騒がしくなるな。無論良い意味でだ。
さすがは元気が取り柄の特急娘だ。素晴らしいね。

そのまま、一夏と俺に追従するように鈴も着いてきた。
おいおい。ラーメンがのびるぞ? 先に食ってりゃいいのに。
そんな鈴に、一夏が口を開く。


「のびるぞ。」
「わ、分ってるわよ! だいたいアンタ達待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」
「一夏が途中『やっぱ草だよな、草』とか言って、道草を食い始めてな? 止めるのに時間が掛かった。いい加減にしろよお前。」
「食ってねぇよっ!? 捏造するにも限度があるだろうが!!」
「雑草は以外にイケるのは知ってるが、いくらなんでもお前・・・」
「なんで雑草の味知ってんだよ!? 食ったのか!?」
「はぁ? 馬鹿じゃないお前? 食うわけねぇだろ。常識考えろよなー。」
「俺もうマジギレていいよなっ!!? いいよなぁ!?」
「落ち着きなさいよ一夏。今黙らせるから我慢して。」
「ははははは、ラーメンを持っている状態で何がで【ズッドン!!】・・・・足の甲にも急所があるって知ってたか一夏ッ・・・・・・・!!!?(脂汗かきながら半泣き)」
「・・・・・お前大人しくしてた方が良いぞ。」
「はぁ~~~~~~・・・ホンッと変わってないんだから。」
「そう言う鈴こそ、ちょうど一年振りだけど変わりはなさそうだな。元気してたか?」
「・・・・・・・。」
「? 鈴?」
「・・・・ふむ、一夏よ。お前ホント女心に鈍感だよな。少し綺麗になったなとか、ちょと大人っぽくなったなとか、気の利いた言葉くらいないのかお前?」

「「「「「「・・・・・・・・・・(うんうん。)」」」」」」← 食堂の淑女達が頷く

「んな事言われても。鈴は鈴だろ? 変わりがなくて元気なのは良い事じゃねぇかよ。」
「か―――――!! 駄目だこりゃ! 鈴もちょっと期待してただろうに残念だったな?」
「は、はぁ!? ば、馬鹿言わないでよ!? そんなのちっとも期待してないわよ!?」
「まぁ、たしかに胸はチッパイのままだし、バストも控えめなままだし、オパーイも成長の兆しが見当たらんし一夏の言葉もあながち間違いではあっつ!? 熱ッ!? ラーメンの汁とばすのは駄目だろう!? スープを無駄にするのは許しませんよ!?」
「アンタ今三回連続で胸のこと言ったわね!? ほんとにぶっ殺されたいのかしらっ!!? これでもちゃんと成長してんのよ!! 馬鹿にすんな!」
「・・・・もちょっとその辺の話し詳しく。【キリッ】」
【記録準備完了。いつでもどうぞ】
「こっこの助平!? 話す訳ないでしょうがっ!!?」
「「「「「あの、早く進んでほしいんだけど・・・?」」」」」
「わっ悪い! おい二人とも、飯持って早く席にいこうぜ!」
「席はあちらが空いているぞ一夏。」
「早く参りましょう。昼食時間が終わってしまいますわ。」

「おーい、早くこっち来いよ。そこいると邪魔だぞ四人ともー?(既に着席)」

「「「「早ッ!!? お前(貴方)(アンタ)いつのまにそこまで移動したんだ(ですの)(のよ)!?」」」」


蕎麦をGETした俺は、早々に席につき一夏達を待つ。
全く、迅速な行動がとれんと駄目だぞみんな。
一夏達も、それぞれ昼食を受け取り俺がキープしているテーブルへとやって来て席についた。
これでようやく昼食をとることができる。

しかし。蕎麦に、うどんに、ラーメンとは。
天下三麺の計が成った瞬間ですね。ある意味凄いことじゃなかろうか?(意味はなし)

俺が蕎麦を啜り、一夏が味噌汁を啜り、箒ちゃんがうどんを啜り、セシリーちゃんがスープを啜り、鈴がラーメンを啜る。
啜ってばっかじゃねぇかという周囲の心の声が聞こえる。

ズズズズズズズズー・・・・・・

「「「「「ふぅ」」」」」

五人揃って一息つく。傍から見たらかなり珍妙な光景でしょうね。


「しかし、本当に久しぶりだな鈴。いつ日本に帰って来たんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばっかしないでよ。アンタ達こそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見た時びっくりしたじゃない。」
「この雑誌のスリーサイズは捏造だろ? この妙な決めポーズはなんぞや? 趣味は読書ってこれはネタか? 超うけるねぶわはははははははははははっ(バンバンッ!!)!!?」←テーブル叩いて爆笑
「あ、あんた何であたしの出てる雑誌をもってんのよおおおおおおお!? か、かか返せ! 見てんじゃないわよ!?」
「ほれほれ見てみ一夏。ありえない表情の鈴さんがの【パァン!!】ってべるぐばうっ!!? ビンタはあんまりじゃね!? 精神的にもきついんだぜ!?」
「アンタが悪いんでしょうが!? 返しなさいよ馬鹿弾!!」
「ははは、ほんとに変わらねぇよな。俺達三人のこのやり取りも。」
「・・・・・んんっ! 一夏。先程の教室の騒動でも聞いのだが。 改めて説明してもらえないだろうか? この凄乃皇とは幼馴染ときいたが・・・どういう事だ?」
「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの最終兵器と付き合ってらっしゃいますの!?」
「だからアンタ達はあたしを何だと思ってんのよ!?」
「チッパイ。」


ガッ!(弾の口をこじ開ける)

ドバドバ(まだ熱々の蕎麦を喉に流し込む)

バッタンバッタン!!(弾が全身を暴れさせ悶える)

ギュ(鼻を塞ぐ)

ビクンビクンッ(弾が痙攣し動かなくなる)


「―――― で? なんの話だっけ?」
「「「本当に凄すぎるぞ(ますわ)!? 鈴(お前)(貴女)!?」
「ま、まぁ、弾なら。食べ物無駄にすることは信念に反するだろうと思ったけど。まさか一滴残さず飲み干すとは私も思わなかったわよ。こいつ一年前よりパワーアップしてんじゃないの?」
「そこまで計算してるのか・・・やっぱ鈴は、弾対策に必要不可欠な存在だな!」
「凄いよな。」
「そして相変わらず復活早いなお前は!?」
「三途の川の船の船頭がな? 俺見た瞬間凄いスピードで向こう岸まで船漕いで逃げちまってさ。」
「お前本当に何やったんだよ!?」
「まぁ、いいじゃん。ほれ一夏、レディを待たせるな。説明説明。」
「簡単にすましていい問題じゃない気もするけど・・・まぁいいか。(諦め交じり)」
「「「あの世って一体・・・・」」」
「えーっと、改めて紹介するな。こいつは鈴。俺と弾が中学の時に一緒に良く遊んでた奴で、俺とは小学五年の時からの幼馴染だ。」
「中学二年の終わりに国に帰っちまってさ。ま、一年振りの感動の再会って訳ですな。」


そう説明する一夏と、補足する俺。
ちらっと鈴の様子を伺えば、「フン。」と、鼻息一つ吐き。箒ちゃんやセシリーちゃんをジロジロ観察している。

・・・・・・ふむ?
そんなに二人をガン見して何をしたいのかね? 喧嘩はあかんよ?


「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ? 小学校からの幼馴染で、俺が通ってた剣道道場の娘。」
「・・・・ふぅん。そうなんだ。」


バチィッ!! 
箒ちゃんと鈴の視線が交差した時、火花が散った!

おおう!? スイカップVSチッパイの頂上決戦開幕か!?
どちらも需要はある上、どちらも捨てがたい!! この勝負、どっちが勝利するのか全く分からんぞ!!?
だが、二人は互いににっこり笑顔(作り)で言葉を交わすだけにとどまった。


「初めまして。これからよろしくね」
「ああ。こちらこそ」
「ドロー!! 初戦は引き分けか。長い戦いになりそうですな解説の一夏さん。」
「何言ってんだお前は。」
「ンンンッ! 私の存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」
「――― おおっと!? ここでセシリーちゃんが乱入だ!」
「お前楽しそうだな・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・は? 誰?」
「だがどうやらアウトオブ眼中だったようです。これは痛い! まるっきり不審者見る目です!」
「なっ!? わ、私はイギリスの代表候補生。セシリア・オルコットでしてよ! まさかご存じないの!?」
「うん。あたし他の国とか興味ないし。」
「これは手厳しい鈴の一言。どう思います解説の一夏さん?」
「俺に振るな俺に。」
「い、い、言っとおきますけど、私あなたのような方に負けませんわ!」
「「それって負けフラグじゃ・・・」」
「~~~~~さっきから何なんですの!? また声まで揃えて!? 少しはフォローしてくださいませんの!?」
「・・・・・はぁ。全くこいつらときたら。」
「アンタ達って、本当に妙な所で馬が合うわね。・・・ま、でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」
「最近厨二病が流行ってるなぁ。予防接種を学園に申請するべきか・・・・?」
「違うわよ!? 本当に強いのよあたしは!!」
「そうだねー。すごいねー。」
「ぶっ殺すわよアンタ!?」
「ま、まぁまぁ落ち着けよ鈴。」


ズズズズー・・・・・・

俺と一夏が茶を啜り、箒ちゃんがうどんの汁を啜り、セシリーちゃんが紅茶を啜り、鈴がラーメンの汁を啜る。

「「「「「ふぅ」」」」」

傍から見たら、きっと色々微妙な光景なんだろうなと常々思う。


「そいえば、アンタ達クラス代表になったんだって?」
「それは俺で、弾は副代表だ。」
「『こんな事もあろうかと思って準備しておきました』ってな感じで主人助ける老紳士的なポジションです。」
「あっそ。」
「「軽く流した(ましたわ)!?」」
「そうなんす。」
「「こっちも軽く受け止めた(ましたわ)!?」」
「ふーん・・・・・」


小さく頷くと、鈴は一夏に視線を投げかけた。
その視線はどこか照れが入っている感じがする。

お? 鈴がアタック開始しはじめたな。


「あ、あのさぁ。ISの操縦みてあげてもいいけど?」
「え? 鈴が?」
「おおう、良かったじぇねぇか一夏。」
「なんなら、弾も特別にみてあげるけど?」


そのまま、俺にも視線をよこしそう言ってくれるチャイナッ娘さん。
おおう、何とも嬉しい事を言ってくれるね!

ふむ、やはり一年前の鈴のままだなー。小さな優しさが素敵です。


「「おお! そりゃ助か――――!!」」

ダンッ!!

「呼ぶなら口で呼んでくれ。何か用かね箒ちゃんセシリーちゃん?」
「「違う(いますわ)っ!!」」


そのままキッと鈴を睨みつける二人。
鈴も鈴で、そんな二人をじろりと鬱陶しそうな目で睨む。

・・・・ふむ?


「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは私だ!」
「貴女二組でしょう!? 敵の施しは受けませんわ!」
「・・・あたしは二人に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ。」
「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれたのだ。」
「あながち間違いじゃないよなぁ。一夏必死だったし。」
「あれはしょうがないだろうが・・・・」
「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ。貴女こそ、後からでてきて何を図々しい事を――――」
「図々しいねぇー・・・? あたしの方が付き合い長いんだけど?」
「そ、それを言うなら私の方が早いぞ! それに一夏は何度も家で食事している間柄だ。付き合いはそれなりに深い。」
「・・・・・・あっそ。家での食事でならあたしもそうだけど?」


ねぇ、と鈴が俺達二人に視線を投げかける。
『そういやそうだな。』と、答える一夏の言葉を受け流し俺は鈴を見る。
周囲の淑女達がざわついているが、そこも今だけは聞き流す。

・・・・・・俺は気にしてねぇよ?

そういう思いを込めて鈴を見るが、鈴は俺の視線に気付くと僅かに顔を顰める。
・・・不味いな。どうしたもんかねー?


「いっ一夏! どう言う事だ!? 聞いてないぞ私は!」
「私もですわ! 一夏さん、納得のいく説明を要求します!」
「説明もなにも・・・幼馴染でよく鈴の実家の中華料理屋に行ってた関係だよ。」
「これが美味くてさー。我が五反田食堂に戦慄が走った瞬間だったぜ!」
「別にばらさなくてもいいのに・・・・馬鹿一夏」
「やーい馬鹿!」
「二人して馬鹿って言うなよ!?」
「な、何? 店なのか?」
「あら、そうでしたの。お店なら別に不自然なことは何一つありませんわね。」
「親父さん、元気にしてるか? まぁあの人こそ病気には無縁だよな」
「まさにそうだな。」
「そこで頷くなよ。それ以上に色々無縁なくせに。」
「俺にだって出会いくらいあるわいっ!! 馬鹿にすんなこのフラグ野郎!! 泣くぞしまいには!?」
「それはどっちの意味だ!? 病気とのか!? 人とのか!?」


そんな風に騒ぐ一夏と俺に反し。
鈴の表情に影が落ちる。


「あ・・・・。うん、元気――――だと思う。」


・・・・・・・ふむ?
鈴の違和感に、俺だけでなく一夏も気付いたようでお互い顔を見合わせた。

そのまま一夏が声を掛けようとするが、それよりも早く鈴がパッと表情を変えて言葉をまくしたてた。


「そっそれよりさ、今日の放課後って時間ある? あるよね。久しぶりだしどこか行こうよ。ほら駅前のファミレスとかさ。」
「あー・・・あそこは・・・・・・・」
「去年潰れたぞ。俺のせいで」
「「「ちょっと待て(ちなさい)!? どういうこと(ですの)だ!?」」」
「まぁ、あそこは接客も微妙だったし当然と言えば当然かもな。・・・まぁ一番の理由は、そこで飯食ってた弾が女子に対して礼節取らない男店長にブチギレてなんかやったらしい。・・・・怖いからきいてないけど。」
「アンタここ以外でもそんなことやってたの!?」
「ここ以外って、何もしとらんがなIS学園じゃ。」


「「「「「「「「「「嘘吐くな―――――――――――――――――――ッ!!!!!?(教師含み)」」」」」」」」」」


おおう? どうした皆。
此処は食堂。憩いの場だぞ? 静かにしなさい。


「色々聞いてんのよ!? アンタが此処で起こした騒動とかね!」
「お、俺も気になってたんだ。こいつ何したんだよ鈴?」
「まぁ軽い所から言えば・・・学校中の職員室の時計を一時間戻したとか。」
「「「何やってんだ(ますの)!? お前(貴方)は――――――っ!?」
「いや、職員室通りかかったら『誰か時間を戻して~~~』ていう淑女の叫びを聞いてな? 頑張った。」
「「「それは比喩表現だ(です)!!」」」
「おかげで授業に遅れるわ、大事な会議に無断欠席だわ、他国の高官との会合もすっぽかしそうになるわ大変だったそうよ?」

『うう・・・!』『どれだけ資料集めに苦労したと・・・!?』『懲戒免職寸前だったんですよ私!?』


「そ、それで軽い方なのか!? もうそれだけで腹一杯なんだが俺!? むしろ聞くのが怖い!?」
「それで、その後のことなんだけど。危うくすっぽかしそうになった高官に、謝罪を込めたもてなしをする事に決まったらしいんだけど・・・・」
「こいつか? またこいつが何かやったのではないか!?」
「高官・・・・・? お、もしかしてあれことか?」
「心当たりあるのか!? 何したんだよお前!?」
「いや、俺は特に何もしてないんだが・・・・実は――――――――――。」


~回想~

『こちらになります。どうぞお入りください。』
『ははは、ありがとう。そんなに気にしなくてもよろしかったのに。IS学園は激務で忙しいことは承知の上です。お構いなく。(ナイスミドル)』
『い、いえ今回の事は・・・イレギュラーと申しますか・・・・』
『それでは失礼して・・・・・おや?』
『? どうかまさいましたか――――って、ひぃ!?』
『ん? 何か用っすか?』←通りかかった弾
『な、何でもありません! ええ何もありませんとも!? ははは早く教室にもどりなさい!!』
『君は・・・・・・・・』
『どうも! 日本を支える日本紳士! 五反田 弾です!』
『紳士・・・・?』
『ええっと! こ、この男子生徒は。日本で確認されたISを起動できる男子の一人の―――――っ!』
『・・・その言動・・・・日本・・・・そして紳士・・・・も、もしや貴方は『DANSHAKU』ではありませんか!?』
『―――――― はいッ!!?『DANSHAKU』!?』
『・・・・・ッ!? まさかアンタ【世界紳士連合】の一員か!? しまった!! 迂闊だった!!』
『なんですかそれ!? 何なんですかそれは!?』
『おお! やはり『DANSHAKU』なのですね!? お会いできて光栄です! ずっと貴方を探していたんです!』
『やめてくれ! その名は捨てたんだ!!』
『何なのこの超展開!? あ、あの!? と、とりあえず中へ・・・!?』
『戻ってください『DANSHAKU』! 貴方が抜けて以来我が【世界紳士連合】は・・・!?』
『それは出来ない! 分ってくれ!』
『あのちょっと!?』
『紳士の誉れと謳われた貴方が! 何故脱会など!?』
『・・・・・・・・・・・分かってくれ・・・! 受験だったんだ!!』
『何ですって・・・・・・!?』
『そこ驚く所なんですか!? いやあああ何これ意味分かんない!?』
『もう話す事はない。アンタみたいな紳士がいるなら連合も大丈夫さ! じゃあな!!』←バッと窓から飛び降りる。
『ま、待ってください『DANSHAKU』!? まだ話が―――――!!?』
『お、落ち着いてください! と、とりあえず中へ!』
『離せ! 離してくれ! ようやく彼に会えたんだ!! 『DANSHAKU』!!『DANSHAKU』―――――――――――――――――――っ!!』
『もういやああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

~回想終了~


「―――ってなことがあってな?」
「「「「「お前(貴方)(アンタ)一体何者なんだよ(ですの)(なのよ)!!?」
「今はただの弾さ・・・・・(遠い瞳)」
「いや意味分かんねえ!? 【世界紳士連合】ってなんだよ!? 」
「世界の裏から、淑女達を見守り、時に救いの手を差し伸べる秘密組織だ。入会にはまさに血を吐くような試練が待っている。一夏、今のお前じゃ無理だ。もっと力を付けるんだ。」
「入りたくねぇよ!?」
「ま、まぁそれも気になるけど・・・本当の騒動はこの後なのよ。」
「「「まだ序章!?」」」
「その後、その高官をはじめとした沢山の電話やメールがIS学園に来たらしいのよね・・・国籍問わず。」
「「「はぁぁぁ!?」」」
「全員一概に『DANSHAKU』と話をさせてくれとか、彼をIS学園に留まらせておいてくれとか、昼夜をとわず引っ切り無しに連絡が来て。一般人なら軽くあしらえばいいけど・・・中には耳を疑うような地位の役職の人もいるらしくて・・・・・・総合事務受付は火の車で、教師陣も対応に奔走したそうなのよ・・・・・本当に何やってんのアンタ?」

『嫌・・・もう嫌ああああ!』『帰して! アパートに帰してよおお・・・!!』『出たくない・・・! 電話怖いっ!!』『うふふふ・・・殺せっ! いっそひと思いに殺せっ!』

「ん? 騒がしいな。」
「「「「お前(貴方)(アンタ)のせいでだろうが(しょうが)!? この世界レベルの問題児!?」」」」


騒がしくなった食堂に、内心妙に想いながら茶を啜る。

あー・・・・落ち着く。
とりあえず俺の話はおいといて話を戻そうぜみんな。


「そんな訳で、あのファミレスは今はない。というか飯食うなら『五反田食堂』をご利用してくれると俺超嬉しいんだが?」
「話すり替えやがった・・・はぁ。ま、そういうことだ鈴」
「そ、そう。でも『五反田食堂』はここからじゃ遠いし・・・・なら学食でいいでしょ? 二人とも積もる話もあるでしょう?」


そんな風に会話を続けはじめたが。
ここで箒ちゃんと、セシリーちゃんが火を噴いた。

おう。やっぱり噛みついてきたね。


「あいにくだが、一夏と私はISの特訓をするのだ。放課後は埋まっている。」
「そうですわ、クラス対抗戦に向けて特訓が必要ですもの。特に私は専用気持ちですから? ええ、一夏さんの訓練には欠かせない存在なんです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


そんな二人の言葉をきいて。



―――――――鈴の二人を見る瞳が、汚物を見るようなそれに変わった。



口をギリリと食いしばり、敵を食い殺さんばかりに睨みつける。

そんな鈴の急激な変化に、一夏も驚愕するが―――――――――――・・・

しょうがないね全く。


「―――― アンタらさっきから聞いてれ「おお、モテモテだな一夏! まぁ、俺はこれからちょっと野暮用でよ。二人のレディにしごかれて来いよ!」――― 弾っ!?」
「は? あ、ああそうだな・・・?」


アイコンタクトで、一夏に頷くよう指示を送る。
そのまま鈴に向き直り、鈴の瞳を見つめ返す。その瞳は『何でよ!?』と、非難と困惑の色が濃い。

はー・・・全く手の掛かる友人達だこと。


「そう言う訳だからさ。鈴も一夏の訓練が終わってから尋ねてみろよ。そん時は俺も時間が空くと思うしさ。どうよ?」
「・・・・・・・っなんでアンタはいつもそ「頼む。」・・・!! 分かったわよ!!」


乱暴に席を立ち、テーブルから離れていく鈴。
突然のことに一夏はもちろん。箒ちゃんもセシリーちゃんも困惑している。

そしてもう一度こちらを振り返り、一夏と俺に声を張り上げた。


「特訓終わったら時間空けときなさいよ二人とも! いいわね!?」
「お、おお。分かった。」
「あいよー。また後でなー?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フン!」


そのままヅカヅカと食堂を出ていく鈴。そんな鈴を見送った俺は茶を一口飲みこむ。

隣の一夏は、何が何やらって感じだが・・・・・まぁ、こいつだしな。

しかし一夏。おまえはある意味流石だな。
鈴の奴ちっとも変っちゃいないな。うん、そこを見ぬけただけで賞賛ものだ。


鈴は変わっちゃいない。





鈴は・・・・・・・一年前から止まったままのようだ。





「どうすっかねー・・・・・・?」
「・・・・弾。あのさ・・・・・・」
「ん?」
「いや・・・・・鈴の奴。何か変じゃないか・・・?」


どうやら一夏も、なんとなくだが鈴の今の状態の【危険性】にきづいたようだ。

・・・・・おおう。流石親友、それでこそだな。
ま、細かい事はいいから。お前は大事な所さえ見逃さなきゃいいんだよ。

細かい事は俺に任せな。


「ま、今のお前に出来んのは。なるべく鈴を気に掛けといてやる事だな。」
「え? あ、ああ分かった。」
「さてさて・・・本当に野暮用が出来ちまったぜ。」


いまだ困惑中の箒ちゃんとセシリーちゃんに、小さな苦笑を返す。
別に悪くないよ二人ともさ?


恋は盲目っていうから、そのまま突っ走る姿は美しいもんですぜ? ちょっと気を配れるようになれば問題はないから大丈夫だって。


さてと、まずは情報がいるな。
やれやれ、手の掛かる友人持つと大変だね~♪


また一口茶を飲み。頭を整理していく


「・・・・・・・・・・・・・どうすっかね~~~~~~?」


俺のそんな気の抜けた呟きが。
わいわいと賑やかな食堂の中に溶けて消えた。





後書き

どうも、久しぶりの休日に今の今まで爆睡して一日無駄にしてしまった私です。・・・気が付いたら外が暗いんです(泣)。あわてて更新しました。さて、今回ちょっとシリアス臭わせる雰囲気ですが・・・どうなるでしょうね? さて次回。弾が色々動きます。・・・・自分で書いててなんですが・・・弾よ。お前は何処へ向かっているんだ(汗)。



[27655] 第十六話  迷子一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 14:43
【一夏 SIDE】


・・・・あー・・・・・
あ? ・・・ああ、どうも・・・・織斑 一夏です。
こ、こんな挨拶だけど今は許してくれ・・・・か、体が悲鳴をあげて辛いんだ・・・!


時間は過ぎて放課後。
俺はいつものようにIS操縦の特訓を終えて、ピット内で倒れ伏している所だ。


し、しかし今日はいつにも増して厳しかった。
いや、箒に徹底的に鍛えなおしてくれって頼んだのが俺だが、それにセシリアも加わるなんて聞いてないぞ俺は。
あんなの特訓じゃない。唯のイジメじゃねぇか!
畜生。二体一なんて卑怯だぞ。二人して俺をフルボッコしやがって・・・・・!!(クラス代表決定戦を棚に上げる)


あー・・・・弾がいりゃもう少しマシだったのによー。
なんだよ野暮用って、そういうのは早く言えってんだあの野郎・・・・!


此処にはいない相方に、心の中でブチブチ文句を言いながら。俺はゆっくりと立ちあがる。


日はとっくに落ちた夜のアリーナ。
箒は先に部屋に帰り、俺だけピットに残っている状況だ。
流石に動けんと箒に言って、先に帰ってもらったのだが『・・・全く、軟弱者め。』と溜息吐かれたのはお約束。

・・・・心優しい幼馴染のお言葉は身に染みるぜ畜生・・・!! 見てろよ、次は必ず・・・必ず・・・・・勝てると・・・いいなぁ・・・・・・。(二人にフルボッコの結末しか想像できなかった。)

はぁ、と一つ溜息を吐いて。
俺はゆっくりと、シャワールームへと重い足を引き摺るように動かした。

とにかく今は思いっきり頭からシャワーを被りたい。落ち込んだ気分と一緒にさっさと洗い流しちまおう。
うん、それがいい。この後、弾と鈴。二人との約束もあるし。
部屋に戻る頃には、箒もシャワー浴び終わって着替えもすましている事だろうしな。

そう思った矢先―――――・・・・


バシュッ。


「一夏っ!」


スライドドアが音をたて開くと同時に、俺のセカンド幼馴染がピット内に入って来た。
おお。来るの早いな鈴。

食堂では、急に不機嫌になり何処かに行ってしまったが。どうやら機嫌はなおったみたいだな。良かった良かった。

そんな俺に、鈴が近づき手に持っていたタオルと、スポーツドリンクを差し出してきた。


「おつかれ。はいこれ、タオルにスポーツドリンク。感謝しなさいよ?」
「おお、サンキュー鈴!」


これですよ。これが本当の幼馴染の対応というモノですよみなさん。
どこかのファースト幼馴染にも見習わせたいもんだ。・・・・後が怖いから口が裂けても言えないが・・・。

鈴の手からタオルを受け取り、顔を拭き。
続いて、スポーツドリンクを受け取り飲み込む。おお、温めとはこれまたありがたい。

そういや、中学時代の時もこうやって俺と弾に差し入れ持ってきてくれてたよなー。
少し懐かしくなって口元がゆるんでしまった。


「・・・何をニヤニヤしてんのよ? 気味の悪い奴ねー」
「ぐ・・・! 気味悪いって・・・失礼な奴だな。昔を思い出してただけだよ。」
「昔って?」
「中学の時さ、俺と弾が何かと張り合って勝負した時とかに、汗だくになってる俺達によくこうやって差し入れ持ってきてくれたよなーってさ。」
「ああ、そういえばそうだったわねー。だってしょうがないじゃない? 汗臭い男が二人、
グラウンドで大の字になって寝てんのよ? さっさとどかさないと迷惑だと思って。」
「うわ、お前それはひでーぞ?」
「あはは、事実じゃん!」


楽しそうに笑うと、鈴はすぐ横の椅子に腰を落し俺を見上げてきた。
その表情に、不覚にも少しドキッとなる。

・・・・・・・・こいつ、こんなに可愛かったけ?

弾じゃないけど、今の鈴は・・・その、なんというか一年前よりも綺麗で、そして確かに女っぽくなったと思う。

あー・・・弾が今だけはいなくて助かったかもな、ぜってーからかわれる所だった。

そんな俺の心情を知りもしない鈴は、キョロキョロと周囲を見回しながら、俺にたずねてきた。


「そういえば弾の奴は? まだ来てないの?」
「ああ、まだ来てないぞ。野暮用ってのが長引いてるんじゃないか?」
「・・・・・・・野暮用ねぇ・・・・・?」


野暮用という言葉に、鈴は急に顔を顰めて不機嫌な表情を作った。

・・・・どうしたんだ?
弾がまだ出来てない事が不満なのか?

疑問を受かべる俺に、鈴が言葉をもらした。


「一夏さ・・・・・何で言い返さなかったのよ? あの馬鹿女二人にさ。」
「ん? 何の事だ?」
「何の事って・・・昼休みの時のことに決まってんでしょ?」
「昼休み・・・・・・って、何か言い返さなきゃならない事ってあったか? あったとしたら、鈴が急に怒って食堂出て行った位だし。」
「・・・・は?」
「なんで急に怒ったんだよお前? それと馬鹿女二人って・・・もしかして箒とセシリアのことか? お前それはちょっと酷くないか?」
「――――― アンタそれ本気で言ってんの!?」
「へ? お、おう。」


俺の返事に、鈴がダンッ!! と音をたて立ちあがった。
先程までとは違って、その表情は憤怒に染まっていて、俺を見る瞳は驚愕に彩られていた。

な、なんだ急に? どうしたんだ?
そんな俺に向かって、鈴がピット内に響く程の怒声を上げた。


「信じらんない!! 何で一夏が気付いてないの!? あんた親友でしょうがっ!!? 真っ先に! 誰よりも先に!! あの馬鹿女達に言い返すのが当然じゃないの!!」
「お、おい。 一体何の事だよ?」
「弾の事よっ!! 何で分かんないのっ!? 鈍い鈍いとは思ってたけど、まさかここまでとは思わなかった!! あんた最低よ!! よくそれで友達面してられるわねっ!!」
「はぁ!? 何だよ急に!! 弾がどうしたってんだよ!?」
「あの馬鹿女達にハブられてたじゃないっ!! あいつら揃いもそろって一夏一夏一夏っ!! 弾が隣にいるって言うのにまるで眼中にないみたいな態度で!! 何を言っているのかも理解しようともしないで!! 自分の事ばっかり!! 弾が何も言わない事を良い事にあいつら――――・・・・!!!」
「弾がハブられてた? 何言ってんだよ鈴?」
「・・・・はぁ!? あんたここまで言ってもまだ分かんないの!? 一体どういう頭の構造してんのよ!? あんたこそ何言ってんのか理解してるの!?」
「いや何言ってんだって、それは俺の台詞だ。弾がハブられてたって言うけど、そんなことある訳ないだろうが。」
「・・・・・・・はぁ?」
「というか、それが理由で怒ったのかお前? 何で弾がハブかれてるって考えつくんだ? 」
「・・・・・はい?」
「お前こそ何言ってんだよ?」


鈴がポカンとした表情で俺を見る。
いや、それは俺がしたい事なんだが・・・・

弾がハブられてたっていうけど、そんなことある訳ないだろうが。


俺と鈴の間に妙な沈黙が落ちる。


それから数秒して、鈴が一度深呼吸する。
うん。心を鎮めるのに深呼吸は効果的だぞ?

そして、米神を指で押さえながら眉間に皺をよせて考え始める。
なにやらちょっとした混乱が起こっているようだ。

さらに数秒して、鈴が口を開いた。


「・・・・え~~~・・ちょっと待って? なんか一夏とあたしで色々噛み合ってないようだから。少し整理して冷静に分析しようか?」
「おう。別に構わないぞ。」


とりあえず二人で向き合って、近くの椅子に座る。
何故かお互い、椅子の上で正座するという傍から見たら珍妙な事この上ない体勢で。

よし、では存分に語るか鈴くん。


「えーっと・・・まず先に、あの女達が言っていた台詞は覚えてる?」
「ん? ああ『一夏と訓練するのは私だ』とかなんとか言ってたやつか?」
「そう! それ! 他には?」
「えーっと・・・・すまん、良く覚えてない。」
「こう言ったのよ。『一夏と私は特訓するのだ。放課後は埋まっている』『一夏の訓練には私は欠かせない存在なんですの』って。」
「おお、お前良く覚えてるな!」
「そんなことどうでもいいでしょ。それで? この言葉聞いてどう思う?」
「んー・・・・・。言われて見りゃ変だな。」
「でしょ! そう思うでしょ!? あいつ等揃いも揃って弾を―――!!」
「なんか俺一人の為だけの訓練って聞こえるよなそれじゃ。実際は俺と弾の二人なんだし。」
「・・・・・は?」
「うん、言われてりゃ変だな。何もあんなに俺と特訓って強調する必要なかったんじゃねぇかな。 弾も一緒なんだし、言われて見りゃ変な事言ってるな? 箒にセシリアも。」
「ちょ・・・ちょと待ちなさい? なんでそこで弾が出てくるの?」
「へ? 何が?」
「だって! 今の話の中で、弾の事なんて一言も触れてないじゃない!?」
「何言ってんだ? 弾が一緒なのは当たり前だろ。」
「はい!? どういうこ・・・・あ! わ、分かった! 弾とは、あの二人よりも先に約束してたとか!? 先約があるのも知らずに、勝手にあの二人が食い込んで来て、盛り上がってただけってこと!?」
「いや、特にそんな約束してねぇな。」
「・・・・・はああああ!? じゃあなんでよ!?」
「なんでって、そりゃそうだろ。俺が特訓するなら弾が一緒なのは当然だろ?」
「え?」


さっきから鈴は何言ってんだ?
俺のことを、不思議なものでも見るような表情の鈴に、ちょっと呆れる。
UMAか俺は。

俺が特訓するのに、なんで弾が出てこないんだよ?
そっちの方が摩訶不思議だ。








「弾はいつだって俺の隣にいるんだぜ? 俺が何かするにしても、弾が一緒だってのは別に言わなくても分かんだろう? 前からそうだったじゃねぇか。」
「―――――――――――――――――・・・。」







何やってても、すぐ隣で歩んでくれる。

何をするにも、すぐに手を差し伸べ支えてくれる。

いつだって横を向けば、あの気の抜けた笑顔でそこにいる。

いつだって俺と隣り合わせで立って、肩を並べていてくれる。




そんな親友が、なんで話の中に含まれてないなんて思えるんだ? 意味分かんねぇぞ。


「というか、弾がハブかれるなんて考えもしなかったぞ。なんだそりゃ? そっちの方が意味不明だ。」
「・・・・そ、それじゃあ。こういうこと? 一夏の中では、弾が一緒に特訓するっていうのは最初から確定だったていうこと? 約束もしてないのに?」
「ん? まぁそうだな。というか俺だけ地獄の訓練受けて、あいつだけ逃げるなんてそうは問屋が卸すかってんだ! ・・・だっていうのに、何だよ野暮用って、おかげで酷い目にあったぜ特訓で・・・二体一とか反則だろ~・・・・・」


そんな愚痴をこぼす俺の言葉を聞いているのか聞いていないのか分からないが。
鈴が小さく顔を伏せた。

どうかしたのか?


「・・・・弾が隣にいることが、一夏の中ではそれが至極当然の事だから。あの馬鹿女達が何言おうが、弾がハブかれてるなんて考えつきもしなかったってこと・・・? だから私が怒った理由が一夏には分からなくて、そして弾も一夏がそう思ってくれているって分かっていたから、本当に気にしてなかった・・・?」


ん? なんだ鈴の奴、 何か呟いてるな。
聞きとろうにも、声が小さくて聞きとりにくい。

おい、まさか俺の悪口じゃないよな?
今は体力的にも色々きついから、そういのは勘弁してほしいんだが。


「・・・・そっか・・・・一緒にいるのが当然って思えるくらい、お互い必要としてるんだ・・・・・こいつら・・・・・。」
「おい、なんだよさっきからぶつぶつと。変な奴だな?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「おーい? 鈴? 聞こえてるかー?」


急に大人しくなって、顔を伏せる鈴。
なんだ・・・? 笑ったり、怒ったり、困惑したりと忙しい奴だな。

何か様子が変だから、俺は椅子から立ち上がり鈴の傍へと歩み寄る。

ちょっと失礼かもしんないけど、仕方ないよな。
そのまま腰を屈め、伏せている鈴の表情を覗き込んで見た。

そこにあったのは・・・・


「・・・・・・・・・・・・ずるい。」
「は? 何が?」
「・・・・・・なんか、そういうのずるい。」
「何言ってんだお前? っていうかお前、何拗ねてんだよ?」
「・・・何よ。二人だけで分かり合っちゃってさ・・・・男って、何かずるい!」
「いや、ずるいって言われてもなぁ?」


唇を尖らして、俺の視線をプイッと避け、拗ねた顔をした鈴の表情だった。
なんだよ、今日はホントに意味分かんない奴だな。

とりあえず、鈴の言っていた言葉を少し頭の中で思い浮かべる。

えーっと、つまりこいつは。
何でか知らんが、弾が仲間外れにされてるって思って、それで二人にくってかかったてことか?

・・・・んー? やっぱり何か変だ。
なんというか、鈴らしくない返し方だ。

仮にそんな事があったとしても。
前まで鈴なら、『ちょっとー、弾。あんたハブられてるわよ~?』って弾に振って、弾の奴が『いいよいいよ・・・どうせ俺なんて・・・!!』ってな感じで冗談交じりに返して、周囲の人が慌てて謝って、全員を交えた話に発展させていく。
そんな光景が、俺には鮮明に思い起こせる。

場の空気を悪くするのを嫌う、弾の性格を知っている鈴なら、そうするのが自然と思えるんだけどな?


もしかして、弾が言っていた『鈴の事を、気に掛けといてやれ』ってのは、この妙な違和感を含めてってことか?


・・・あいつ、本当に鋭いな。特に親しい奴に関しては。
全く、言われなくてもそうするっての。


今はいない相方に、内心苦笑し。
俺は鈴に視線を戻す。・・・・・まだ拗ねてんのかよ。


まぁでも、弾の為に怒ってくれたってのは、友達としては嬉しいもんだ。
しかし、あの鈴がな~?


昔を思い出し、ニヤニヤしてしまった俺に、鈴が気が付いて怪訝そうな視線を向けてきた。


「・・・何ニヤニヤしてんのよ・・・何かムカつく!」
「いや、だってなー? あの鈴が、弾のことでここまで怒るまでに変わるなんて思いもしなかったからさ。」
「はぁ? 何がよ。」
「だって、お前一番最初の頃はさ。弾の事嫌ってたろ? それが今じゃここまで仲が良くなるなんて最初は思えなかったからよ。」
「あ・・・・あれはしょうがないじゃない!」
「いや、まぁそうだけどよ。」


そう、鈴の奴は最初。弾の事を嫌っていたんだ。
理由は単純。俺と弾が中学時代にファーストコンタクトをした翌日の事だ。


~ 回想 ~


『おはよー』
『あ、一夏おは・・・・って!? いっ一夏!? どうしたのよその怪我!?』
『あ・・・ああこれか。ちょっと隣のクラスの奴と昨日やらかして。あ、ちなみに頭のコブは千冬姉のだからな?』
『そんな事聞いてないわよ!? なんで喧嘩なんかになったのよ!?』
『いや、何か知らんが突然『死に腐れこの外道が――――!! 喰らえシスコン釘バット―――!!』って、背後から襲われて。』
『な、何よそれ!? 大丈夫だったの!?』
『ああ、回し蹴りで返した。伊達に千冬姉に鍛えられてないぜ? その後、何か知らんが『蘭いの―――ち!!』とか叫んだ奴と乱戦になってこの様だ。いや、あいつ以外に強くてよ。』
『誰!? そいつ名前は!?』
『名前は確か・・・五反田とか言ってたな。いやでもその後の事の方が地獄だったんだ。学校に連絡がいったみたいで、千冬姉呼ばれて散々怒られてさ~・・・。あいつも、たぶんお姉さんだと思う人に空き教室に連れ込まれて『ま、待ってくんろ! ネギは! ネギは嫌ああああ!!!?』って絶叫が聞こえたから相当な目にあったんじゃねぇかな?』
『隣のクラスの五反田ね!?』

ダダダダダダダダダダダ!!

『え? あ、おい鈴!?』

――――― ガラッ!!

『―――― このクラスにいる五反田ってどいつよ!? 今すぐ出しなさい!!』
『こいつですっ!!』
『え?』
『あんたね!? よくも一夏を・・・!! この最低野郎――――!!』

バキィ!!(顔面蹴り)

『ごはああああっ!? ち、ちがっ!? 俺ちがっ・・・!?』
『この! このっ!! このおおお!!』

バキ! ドカ! ゴス!

『おおう。見事な蹴りだ。すごいな~』
『――― お、おい!? 鈴!? お前何してんだよ!?』
『止めないで一夏!! こんな最低な奴、蹴られて当然よ!!』
『あ、お前昨日の。織斑だっけ? はよー。』
『お、お前!? 五反田・・・!?』
『・・・・・・・・・・・・・・・・へ?(ピタ)』
『昨日ぶり。お互い大変だったな昨日は。』
『あ・・・ああ、そうだな。って、なんで鈴がお前じゃなくて他の奴攻撃してんだ!?』
『・・・・・・ご・・・・ふ・・・(ガクッ)』
『御手洗――――っ!? しっかりしろ!! くっ!! 誰がこんな酷い事を・・・・!?(駆けより抱き起し、悔し涙を流す小技披露)』
『『『『『お前だ―――――――――――――――――――――――っ!!』』』』』
『はぁ!? こいつが五反田!? そ、それじゃあこの倒れてるのは!?』
『御手洗 数馬というジェントルマンだ! なんてひどい事を!!』
『わ、わああああああ!! ごめんなさい! ごめんなさいいいいい!!』
『良いってことよ。』
『何でお前が答えるんだ!? というか何があったんだよ!?』
『身代りにした♪(爽やか笑顔でサムズアップ)』
『『この外道おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?』』


~ 回想終了 ~


・・・・・・何故だろう。目頭が熱くなってきた。
今度、数馬に電話しようかな・・・

鈴も昔を思い出していたのか、何ともいえない微妙な顔になり、視線を泳がしていた。
うん、気持ちは分かる。弾は最初からあんな感じだったからな・・・最初は苦労の連続だったよな。


「ま、まぁ何にせよ。最初の頃とは変わったよな。鈴も。」
「それを言うならあんたもでしょ? なんだかんだ言いながら、すぐゲーセン一緒に行ったりするまで仲良くなってたじゃない。」
「ん? ああ、まぁなんだか変に馬があってな。気付いたらそうなってた。でも、その中にいつのまにかお前も入ってたじゃないかよ。」
「う・・・ま、まぁ。弾もそんなに悪い奴じゃなかったしね。極度のシスコンなだけで。一夏と同じで。」
「なっ!? お、俺は違うぞ!」
「はぁ? 何言ってんのよ。いつも千冬さん、千冬さん言ってたくせに。あんた達ある意味似た者同士だから馬が合ってんじゃないの? シスコンなのも大概にしときなさいよ。」
「ち、ちげぇよ!! 人聞きが悪い事言うなよ!」
「そうだそうだ!」
「はぁ? いい加減認めなさいよ。このシスコン♪」
「だから違うって!!」
「俺はマザコンぶりも大概じゃないぞ!?」
「「そんな事カミングアウトせんでいい!!」」
「当り前だ!! あんな美人で優しくてちょっと天然入ってる母親持ってみろ! 誰だってマザコンになるわ! 俺の母魂舐めるなよ!? 妹魂に匹敵するぞ!!」
「た、確かに蓮さんは美人だけど・・・・って、いつの間にか弾が混じってる!?」
「でも姿見えない!? おい弾! お前何処にいるんだよ!」
「上見てみ?」
「「上?」」


いつの間にか、俺達の会話に入り込んでいた弾の存在に驚愕する俺と鈴。
でも、姿が見えず困惑する俺達は、弾の言葉に沿って頭上を見上げる。

そこには――――――――――――・・・・・

何処から持ってきたのか、吸盤を手と足にとりつけ。
天井に張りついて、俺達を見下ろす弾の姿が―――――――って怖っ!!?

不覚にもビビって、尻もちをつく俺。
鈴も『ひいいいいい!?』って、顔を青くし同様に尻もちをついていた。

なんでお前は毎度毎度、妙な登場をするんだ!?


「よう。おっ待たせー♪ 良い子にしてたかマイフレンド共!!」
「お待たせじゃねぇ!? なんで天井に張りついてんだお前は!? 気色悪い上に怖いわ!!」
「だから昔、軟体動物目指したっていったじゃないかよ。話聞いてたか?」
「あれマジ話だったのか!!」
「というか、いつから居たのよ!? 入って来る気配なかったじゃない!?」
「え? 鈴が入った時俺も入った。その後ずっと頭上で待機してた。」
「「ずっと上で見てたの(か)!? めっちゃ怖いわ!!?」」
「いや~」
「褒めてない!! リッ○ーかあんたは!?」
「話してみたら、これが意外と良い奴だったぞ。」
「話した事あんのかよ!?」
「おう、『これ、うんめぇよ~? 喰ってみれ、ほれ。』って言ってくれてなぁ」
「なんか妙になまってないか!? というか何を分けてもらったんだお前!? 死肉じゃないだろうな!?」
「え? 大根。」
「「なんでだよ!?」」
「いや、肉ばっかで栄養バランスが偏ってるの気にしててさ。今じゃもっぱら野菜中心らしい。自分で栽培するまでになってる。『今じゃ、ベジタリアンですわな。はははは』って笑ってたな。」
「「内容は良い事だけど、色々台無しだ!!?」」
「ところで、そろそろ脚立持ってきてくれないか? ・・・降りられなくなった・・・!!(半泣き)」」
「「木に登った子猫かお前(あんた)は!!? なら最初からするなっ!!」」


頭上でプルプル震えだした馬鹿に、俺と鈴の怒声がピット内に木霊した。

本当に何やってんだお前は・・・・・・・・・・。




*   *   *




「いや~助かった。持つべきものは脚立だな。」
「おい、礼ぐらい言えよお前。」
「報酬はいつも通り、スペイン銀行の口座でいいか・・・・?(劇画風)」
「口座持ってねぇよ!!」
「はぁ~~~~~~~・・・・全くあんたらは本当に成長してないわね。」
「・・・・一夏の奴の、成長した部分・・・・・興味ないか・・・・?(コソコソ)」
「――――――っ!!? ばばばば馬鹿じゃないの!! なな何を言ってんの!?」
「え? 何の話だ?」
「・・・・・・・これは風呂場での一品でな・・・・・?」
「そそそっそんなのきょきょ興味にゃいわよ!?(真っ赤になりながらも、視線は弾の手元へ)」
「おい、二人して何コソコソしてんだよ?」
「ほいこれ、一夏ブロマイド【風呂掃除バージョン】、風呂掃除の腕前はそりゃもう達人の極みへとぼるぐらっしゅ!!!」
「こんの馬鹿弾――――――っ!!!(羞恥と怒りと、そして少しの落胆の混じったローリングソバット)」
「なんでいきなり喧嘩してんだお前ら!?」


脚立を用意してやって、天井から降りた弾を交え。
俺達は談笑を始めていた。

うん。やっぱ俺達三人集まると、なんかしっくりくるよな。

中学時代メンバーには、他に数馬や人里さん。中入江さんに灯下さんっていう友人もいるけど。
俺と弾と鈴の三人は、その中でも特に一緒に行動する事が多かったからなぁ。うん懐かしい。


それからまたしばらくして。


とりあえず、一気にシャワーを浴び終えた俺。

その間、弾と鈴が離れた場所で談笑していて、着替え持済ませた俺は、そのまま二人に合流して現在に至っている。ちなみに今だピット内だ。

まぁ、他に行く所なんて食堂くらいしかないし。
それに食堂に行くのを、何故か鈴が渋ったからな。

『ひ、久しぶりなんだし。私達三人水入らずでいいじゃない?』『え!? ミネラルウォーターいらないのか!?』『そっちの水じゃないわよ!!』って会話が繰り広げられた末の事だ。

やっぱり違和感を感じる。

弾に視線を向けても、弾も『ま、今は鈴の希望に沿ってやれボーイ』ってなアイコンタクトを返すだけだった。・・・まぁそれは別に構わないけど。


・・・・なんか、鈴が他の奴ら避けてる気がするんだよな・・・・・。


思い起こすのは、鈴が箒やセシリアを見るあの眼だ。
最初から、あの二人に対して小さな敵意みたいなのを持ってた風に見える。そして最後は明確な敵意をぶつけていた。理由は聞いたけど・・・それだけじゃない気がする。

でも、鈴がそんな行動をとる理由が分らない。
たぶんだけど、弾の奴は大体察しが付いているんだと思うが・・・・それを俺に言わないのは、まだ確信を持っていないからだろう。

そういう大事な話は、弾は必ず情報を集め、自分で確信を持った上で俺に打ち明けてくれるからな、昔から。
だから俺からは絶対に弾に聞かない。

俺達が二人で問題を解決する具体策を一緒に練るのは、弾からの相談という合図が出てからだ。下手に俺が動くと、弾の邪魔になるからな。その辺の事は暗黙の了解って奴だ。

・・・でも、まぁ何をしていたのか気になるのは人の性って奴だ。


「・・・そういや弾。野暮用って一体何だったんだ?」
「―――! だから一夏! それは・・・!!」
「へい! 鈴さん! ストップだ! 野暮用があったのは本当だぜ?」
「・・・・本当に?」
「おう。でも俺の為に怒ってくれたのは嬉しいぜ! サンキュー鈴! 俺涙が止まらない・・・・!(ダバダバダバ)」
「べ・・・別にそんなんじゃ・・・!!(照れ)」
「まぁそれはいいから。とりあえず涙止めろ弾。」
「おう(キュッ!)」
「今、蛇口を捻る音しなかったか!?」
【背景彩る効果音は任せてください】
「やっぱりお前か!? 『七代目五反田号』!? いらん小技はせんでいい!!」
「な、何この前掛け? 気になってたんだけど、まさか弾のISの待機状態なの?」
「おうよ! 俺の相棒『七代目五反田号』だ!!」
「七代目? あんた三代目どうしたの? あんなに大切にしてたじゃない?」
「待て鈴!! その話はきげえええええええええええええ!!?(メキメキ!!)」
【鈴嬢。 その話もう少し詳しく・・・・。】
「い、いいけど・・・あんた本当にIS?」
【勿論です。二代目の為に怒ってくれた事。AI(心)より感謝します。鈴嬢。二代目は誠に素晴らしいご友人を持ったようです。】 
「・・・・あはは、なんか照れるな。鈴で構わないわよ?『七代目五反田号』。」
【承知しました。鈴・・・・さて二代目。キリキリ話せやおんどりゃあ・・・・!?】
「ごあああああああああああ!? (ボキボキ!!)」
「「とりあえずちょっと待ってみようか!? 『七代目五反田号』!?」」


・・・・ある意味では、『七代目五反田号』も弾のストッパーだよな。
持ち主同様、悪乗りするのは勘弁してほしい所だが。

とりあえず、主人を痛めつける『七代目五反田号』を宥め。
俺達は談笑へと戻った。

・・・・本当に変なISだ。『七代目五反田号』


「ふー・・・助かった。サンキュー二人とも」
「まぁ、いいけどよ。それで? 今まで何をしてたんだよ弾?」
「ん? 人に会ってた。ちょっと調べ物を頼んでた人から、内容が揃ったから来てほしいって連絡あってな。お前が特訓してる時にな?」
「調べ物?」
「まぁ、ちょっとな。・・・・淑女には少々過激な物を・・・・。」
「あ、あんた何調べてんの!? この助平!!」
「俺程オープンな助平そうはいないぞ!!」
「威張ってんじゃないわよ!?」

鈴の言葉をそれとなくかわす弾。
・・・・成程ね。鈴のことで何か動いてたのか。ま、弾らしいな。相変わらず行動が早いな。

「で? その調べ物は役に立ったのか?」
「一夏も、さりげなく助平だよな。気になるなんて♪」
「・・・・一夏っ・・・! あんた・・・・!!」
「ち、違うぞ!? そうじゃなくてだな・・・!! だあああ! 結局野暮用は終わったのかって事だよ!」
「ふむ、実はそれほど成果がなかった・・・・というか、罠だった。」
「「罠っ!!?」」
「ああ・・・・・まさか、あんな事になるなんてな・・・・(劇画風)」
【激しい攻防だった。】
「一体何があったんだよ!? 罠!? 物騒すぎるぞ!?」
「ちょ、ちょっと弾!? あんた危ない事したんじゃないでしょうね!?」
「いや、まさか俺もあんな事態になるとは思わなくてなぁ――――――――――――・・・」



~ 回想2 ~

『よ! 待たせたな。』
『いえいえ、待っていませんよ。』
『そうかい。しかし悪かったな~・・・脱会した身なのに図々しい事頼んでさ。』
『いえいえ、そんなお気になさらず。』
『そう言ってもらえると助かる。』
『ええ本当に・・・・こちらも手間が省けたというモノですらねぇ・・・・?』
『・・・・・・・何だと?』
『クククククク・・・・・・・・(パチン!)』

ザザザザザザザザザザザザザザザッ!!(周囲に現れる黒い影)

『――――――――っ!? これは一体どういう事だ!?』
【周囲に敵影あり。二代目、申し訳ありません。ハイパーセンサーの索敵を怠っていました。】
『ふふふ、まさか貴方の様な子供が、かの有名な『DANSHAKU』だったとは・・・まぁ、今となってはどうでもいい事ですが・・・。』
『・・・・・お前!? 『セバスチャン』じゃないな!? 誰だ!?』
『(びりびり)・・・お初にお目にかかります『DANSHAKU』、私は『ドーベル』と呼ばれております。まぁ、覚えても貰わなくても結構です。ここで貴方には消えてもらいますからねぇ・・・?』
『・・・『セバスチャン』はどうした!?』
『ああ、彼ですか? 惜しい所で『いっくん』の邪魔が入り取り逃がしてしまいましたが・・・まぁいいでしょう。おかげで貴方と言う大物を仕留める事ができるのですから。』
『・・・・一郎か・・・・・お前達【世界紳士連合】じゃないのか!?』
『いえいえ、勿論【世界紳士連合】ですよ。といっても貴方達のいた頃とは大きく変わっていますがね? ようやく貴方と、『いっくん』という障害が消え。動き易くなったというのに・・・・今、再び貴方と言う存在が現れるというのは私共としては困るんですよねぇ。』
『・・・・どうやら、俺と一郎が抜けた後【世界紳士連合】に何かあったようだな。お前らの目的は?』
『選りすぐりの淑女のみを支える。それが我らの目的・・・・素行の悪く、品性の欠片もない女などに、救いの手を差し伸べようなど一体何の大義がありましょう? 淑女として相応しき女性のみ残し、他など見限ってしまえばいい。その先に我らが望む真の『紳士と淑女の世界』が待っているのですから。』 
『クズだな。それは紳士じゃない、凝り固まった野郎そのものの考えだ。どんな女性であれ救いの手を差し伸べる。それこそが紳士だ!!』
『ふん・・・昔堅気な考えだ。しょせんガキか。まぁいい、どうせ貴様はここで消えるのだから。』
『舐めるなよ? 俺が【世界で二人、ISを使える男】の一人だと忘れてないか? 『七代目五反田号』!!』
【展開。いつでも行けます。】
『もちろん忘れてません。・・・・お前達。』

『『『『『『『『『『装着完了』』』』』』』』』』

『―――― これは!?』
【正体不明の敵影を多数補足! ロックされています!】
『ISだけがパワードスーツだと思われては困りますねぇ? ISには遥か遠く及びませんが【世界紳士連合】は、独自のパワードスーツの研究を重ねてきました。ISを扱う淑女を支えようという理念の名の元に。世界はこれだから愚かなのです。何故ISだけの研究のみを追求するのか・・・・全く嘆かわしい事です。』
『まさか・・・実用化まで漕ぎつけたのか!?』
『そんなまさか、まだまだ試作段階です。今回は特別です。貴方を仕留める為ここまでしたのですから、これで心置きなく逝けますね?『DANSHAKU』?』
『・・・・・・・・』
『ISには性能で大幅に劣ります・・・・が、IS一体に対し数十体で掛かればどうでしょう? 装着している同志達は訓練を積んだ精鋭です。まだISを使いこなせない貴方で対処できますか?』
『・・・・・・・・』
『ふふふふふ。もはや言葉もありませんか? 『DANSHAKU』とは名ばかり・・・所詮ガキですねぇ・・・・? はははははは・・・・・!!』

『・・・・・御託はそれだけか?』

『・・・・・何?』
『お前ら・・・俺が『DANSHAKU』と呼ばれている所以を忘れたか? 『DANSHAKU』は【男爵】であり、そして同志達が『弾爵』と親しみ込め俺を呼ぶからだ。』
『・・・・それが何か? 唯の呼び名でしょう?』


『違うな【世界紳士連合】で、呼び名が付くこと・・・・それは同志達が認め。紳士に恥じない存在であるということだ。【ギュピ――――――ン!!!!!】』


『―――――――――っ!!? ば、馬鹿な!? こ、この凄まじいプレッシャーは!?』

『『『『『『『『『『――― ひぃ!?』』』』』』』』』』

『お前達に、本当の紳士の力というものを魅せてやる。全員まとめて掛かってこい・・・『七代目五反田号』!! 展開!!』

カッ!!!

『ひ、怯むな!! 相手は子供で、しかも一人だ!! かかれっ!!』
『『『『『『『『『う、うおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』』』』』』』』


ドガアアアアアアアア――――――――――――――ンッ!!!!!!


~ 回想2終了 ~


【続く】
「次回もお楽しみに。」
「「一体何やってたんだあああああああああああああああああああ!!?」」


駄目だ!! こいつ一体何やってたんだ過去に!? 意味分からん!!

【世界紳士連合】!?
IS以外のパワードスーツ!?
そして『弾爵』ってなんじゃそらあああ!?

お前此処じゃない何処かで、なんか主人公やってないか!?


「しかし・・・・俺の抜けた後に【世界紳士連合】に一体何が・・・?(窓から空を見て、シリアス顔)」
「いやいや待て!? その前にお前体は!? 無事なのか!? 襲われたんだろう!?」
「そ、そうよ!! 数十体に襲われたんでしょ!?」
「あ、瞬殺したから。」
「「敵弱っ!? あの前振りの割にザコだった!!?」」
【最後は見物です。相手のパワードスーツを、一枚一枚目の前で引き裂いてやりました。『や、やめてくれえええ!? それを造るのにどれだけの予算をか【ビリリッ!!】うわあああああああああああ!?』と、叫んでいました♪(ゾクゾク)】
「「鬼だ!? そして真性のSだ!!?」」
「まぁ、そんな割とどうでもいい事はほっといて。あんまり収穫はなしでな? ま、別の手で調べ直すさ。」
「いや、割と重要っぽいぞ・・・・?」
「あんた・・・本当になんなのよ一体・・・・?」
「紳士!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・はああぁぁ・・・・・・」」


と、とりあえず。まぁ、大事にならなくて良かったってことで良いか・・・。
真剣に考えると、色々疲れるからな・・・こいつの場合は特に。

しかしまぁ・・・収穫なしか。それはちょっと俺も残念だ。
鈴に関する事だろうし。
しょうがないか、俺は俺で鈴を気に掛けておくかな。

そう思って、ふと時間を確認。

・・・・・結構遅い時間だし、そろそろお開きかな?

弾に視線を向けると、弾も小さく頷く。


「―――― さて、そろそろ部屋に戻ろうぜ? 随分遅くなっちまったしな。」
「え?・・・・あ、本当だ。流石に不味いわね。」
「夜更かしは、紳士の肌に悪いんだよな~。」
「はぁ・・・またこの馬鹿は変な事を・・・・」
「気にしたら負けだぞ? 鈴。」
「今、気にしたから俺の勝ちだな!!」
「・・・・・・・・・・・。」
「あ、痛っ!! 無言で拗ね蹴りは・・・!! 痛っ!! ちょ、待てぎゃあああああ!!?」
「ははは、何やってんだよ。行くぞ二人とも」


騒ぐ二人に呼び掛け、ピットを後にする俺達。

しかし、結構時間を掛けたな・・・・・。なんだかんだ言いつつも、やっぱ楽しいよな。三人で馬鹿騒ぎするのは。

そのまま、三人で並びながら廊下を歩く。
その間も、ワイワイギャンギャンと騒がしい俺達だけど。
やっぱり居心地は良かった。うん、楽しい。


そして――――― それは起こってしまった。

それは、廊下で別れ道にたどり着いた時の事だった。


「おっと? そんじゃ俺はこっちだからよ。また明日なマイフレンド共!!」
「ん? そうか。それじゃあな弾。また明日。」
「・・・・・・え?」
「おう、一夏よ。お前鈴を部屋に連れ込んだりするなよ? この狼野郎! 無理矢理事を運ぼうとした時は・・・ターミネートモードに移行する・・・(眼が赤く点滅)」
「するかアホ!! というかお前本当に人間だろうな!? 俺の部屋には箒だっているんだぞ!!」
「・・・・・・は?」
「いなかったら連れ込む気だったのか!? 辞世の句は済んだかこの外道っ!?」
「違うってんだよ!! 話聞け!」
「俺という者がありながら!!」
「気色悪いこと言うなっ!!」
「・・・・・・・・・・・ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? 一体どういう事よ!? あんた達一緒の部屋じゃないの!?」
「「・・・・・・ん?」」


お互い胸倉掴むまでに接近した時、鈴の声が響き渡った。

俺と弾が一緒の部屋・・・・・って、あー。そうか普通に考えりゃそうだよな。
とりあえず、弾とは一時休戦して鈴に向き直る。

俺と弾の視線の先には、あり得ないって表情の鈴がいた。
なんか、物凄く驚いてるな。
まぁ、気持ちは分からんでもないが・・・・俺も理由は良く知らんからなぁ。


「お、おう。部屋は別だぞ。俺と弾は。」
「はぁ!? 何でよ!? 男二人なんだし一緒にするのが普通じゃないの!?」
「まぁそうなんだけど・・・・俺も理由は知らないんだ。色々あったとしか聞いてなくて。」
「・・・・・あー・・・・・あれだ、早く淑女達だらけって状態に慣れるようにって意味じゃないかね? ほら、やっぱ野郎二人って環境は色々きついしな。」
「お・・・そう言う考えもあるか。実際どうなんだかは不明だけどな。」
「そ、それじゃあ!? 二人とも女子と一緒に寝食共にしてるって事!!?」
「ん? そうだけど。まぁ、俺の場合は箒だから助かってるな。幼馴染だし、これが他の娘だったりしたら緊張して大変だったろうしなぁ~」
「・・・・・あー・・・・・俺はのほほんちゃんって言う萌え生物だったおかげで、毎日癒されてるぜ!!?」
「・・・・箒って・・・・あの昼間の・・・?」
「ん? そうだけ「おい待て一夏。それ以上は言うな。」・・・・・ど?」
「・・・・・・・・・・・・・・あいつが・・・一夏と同じ・・・・部屋・・・!?」
「・・・・・やべ、不味った。」
「へ? 何か言ったか弾?」



―――――――― その瞬間だった。俺達のいる廊下に、何かを叩き付けるようなとんでもない音が響いた。


その音の大きさに驚いた俺は、音の下方向に咄嗟に視線を向けた。

発生源は鈴の足元。思いっきり廊下に足を振り落としたらしい。

お、おい? 廊下でそんな音立てたら・・・・っていや平気か? 部屋は防音だって聞いたし。
――――って、そんなこと考えてる場合じゃない!!

鈴の様子が変だ。
うつむいて表情は見えないが・・・・体中を怒りに震わせている。
はっきり言って、こんな鈴は初めて見た。

な、何だ? どうしたんだよ鈴!?

隣の弾も、いつもと違って表情を引き締めてる。こいつがこんな表情する時は・・・・とんでもない緊急事態ってことじゃねぇか!!?


「・・・・・あいつが・・・・!? あの・・・・弾を蔑にした・・・・あの女が・・・!?・・・一夏と・・・・一緒に居る・・・・!? ・・・一夏の隣に・・・・いるですって・・・・!?」
「・・・お、おい? 鈴・・・?」
「待て、一夏。下手に口を開くな。お前じゃ刺激しかねん。・・・それに・・・今の鈴に何言っても聞こえてねぇよ。」
「ど、どういうことだよ?」
「不味った。俺とした事が・・・久しぶりに三人で盛り上がったから気を抜いちまった・・・完全に俺のミスだ。」
「だ、だからどう言う事だよ!?」
「お前は悪くない。よく鈴を気にしてたしパーフェクト。俺のせいだスマン一夏。」


弾のミス・・・?
何言ってんだ? それこそ変だ、こいつはいつだって人の事を考えてる。きっと、俺が余計な事を言ったに違いない。
・・・・くそ!! 何やってんだ俺は!

何を言ったのかも分からない自分に腹がたつ。でも今はそんなことより――――!!


「・・・・・ったら・・・・いいわけね・・・・・」


鈴が低く唸るように呟き。
俺と弾は、揃って鈴に視線を戻した。


「・・・・・鈴?」
「・・・・・幼馴染なら・・・・・いいわけよね・・・・・・・・・・・!!?」


そう呟いた鈴は、ギッと顔を上げる。


その表情は―――― 憤怒と憎悪・・・・そして・・・・・・・怯え?


なんだ? なんで鈴はこんな顔をしてるんだ?
この一年の間に、一体何があったんだよ鈴?


「・・・渡すもんか・・・・・!! ・・・・絶対渡すもんか・・・・・!! ・・・あんな女に・・・! 私に残った最後の居場所を・・・・・絶対渡すもんか・・・・・・・・!!!」


「―――――――― っそういうことかよ!!」
「・・・・・・弾?」
「おい鈴! ちょっと待――――・・・!!」


弾が鈴を呼んだ瞬間。

鈴はその声も聞こえてないのか、俺と弾をおいて走り去ってしまっていた。









嫌な沈黙が落ちる。
弾も苦い表情を隠せないまま、鈴の走り去っていった方向を見ていた。

・・・・・鈴、一体どうしちまったんだよ。

そんな風に考える自分にまた苛立つ、なんで分かってやれないんだ俺は・・・!
弾は気付いてるって言うのに・・・・・!!


「・・・・悪い。一夏、最悪の展開になっちまうかもしれん。」
「お、お前のせいじゃねぇだろ!? 俺がどうせ余計な事言ったんだろ!?」
「遅かれ早かれ、鈴には話しとくべきだったんだ。そうすりゃ今みたいにあそこまで激昂はしなかった筈だ。突然の事に鈴の感情が堪え切れなかったんだ。先延ばしにした俺のせいだ。お前は悪くねぇよ。」
「―――――――っ・・・!」


まただ。

なんでお前は、全部抱え込んじまうんだよ・・・・・!
辛いだろ? 痛いだろ? 悲しいんだろ?

だったら半分俺に渡せよ。
俺はお前の相方だろ? 俺にも頼ってくれよ。 俺にも支えさせてくれよっ・・・・・・・!!

そんな俺の表情に、弾はヘラリと笑顔を返す。
いつも通りの気の抜けた顔を。

とぼけた表情という【仮面】を。


「何て顔してんだよ? イケメンが台無しだぜ一夏?」
「・・・・・・・。」
「―――― ま、何にせよだ。」


そう言って、弾は鈴の走り去った廊下の先を見据え―――――



「――――― 鈴は、絶対助けるぞ。力を貸してくれ、一夏。」
「――――― 当り前だ。捨て駒だろうが何だろうが好きに使え、弾。」



沈黙の降りた廊下に、俺達二人の声が力強く鳴り響いた―――――――。














それは暗く深い森の中。

何も見えず、ただ手元の小さなランプを頼りに、迷子は進む。

頼れるのは自分だけ。頼れるのはこのランプだけ。

今にも消えてしまいそうな小さな光。

それだけが、迷子が縋る唯一の希望。

深い深い森の中。

暗い暗い森の中。

出口も分からず、迷子は進む。

でも迷子は知らない。

そんな深く暗い森に、足を踏み入れる者がいる事を。


――――― 白い騎士と碧の道化が、自分を探しに森に踏み込んだその事を。


迷子はまだ、その事を知らない。



後書き

更新しました。どうも釜の鍋です。―――― なんでしょうかこのシリアスは!? うわぁ鈴が大変な事になってます。でも、二人と過ごした日々が楽しかった分だけ、彼女に落ちる影は深いんじゃないかと・・・。で、なんか裏で弾が主人公してますね(笑)。さて次回。一夏との約束に、弾のフォローにクラス対抗戦前の一騒動です。次回はちょっとだけ鈴もケアします。はっきり言ってダーク過ぎますから(汗)。



[27655] 第十七話  約束一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 14:50
【ピッ】・・・よう。なんだ弾か、どうしたんだ急に? は? 挨拶? なんだそれ? 鈴が出来る状態じゃないからって・・・え、鈴帰って来たのか? そりゃ良いニュースじゃねぇかよ・・・は? もう時間がって、おいちょ待――――――――【ブツッ】・・・・・・


『――― 役に立たんなあいつは!? 連続出演だってのに!』
『弾、何してんだ? それよりどうすればいい?』
『まぁ、まずは鈴を冷静に戻すことが先決だな。あのまま一夏の部屋に向かったら色々不味いしなぁ。』
『俺の部屋に向かったのか鈴の奴。』
『いや、まずは最低限の荷物を取りに自分の部屋まで戻ってるはずだ。その間に上手い手を考えんと。』
『上手い手か・・・・こういうのは苦手なんだよな・・・』
『一応策はあるんだがな?』
『マジか!?』
『上手くいきゃ、鈴を正常な状態に戻せるかもしれん。上手くいけばの話だが・・・』
『やらないよりマシだ! 教えてくれ! 何をすりゃいい!?』
『―― が、問題がある。人手が足りない。最低でも二人は欲しい所だ。』
『人手!? って言っても協力してくれそうな人なんて何処にも―――』

『・・・あ~♪ だんだんにおりむ~♪ や~ほ~。』
『え? あ、本当だ。こんな所で何してるの?』

『『―――――――― ナイスタイミング!!』』

『ほえー?』
『え、何?』
『頼む! ちょっと協力してくれないか!? 弾、これでいけるよな!』
『流石は一夏、女運が良いのか悪いのか分からんなー。時間がないから手短に話すぜ? まず―――・・・』



【鈴 SIDE】


バタンッ!!


部屋に戻って数分。
自分の部屋から、ボストンバック一つを持ち部屋を出る。
突然入ってきたと思ったら、会話もせずにバックに荷物を詰めて、再び出て行ったあたしにルームメイトはどう思っただろう・・・正直悪い事したと思う。


けど、今のあたしに他の事を気にする余裕なんてなかった。
部屋を出た勢いのまま、あたしは廊下を進む。


一夏が他の女子と寝食を共にしている。


その事実だけで、あたしの機嫌を悪くするには十分な理由だといえる。

けど、それだけならここまであたしの心を荒立てはしなかったかもしれない。
『部屋代わって』と、同居している女子にそう言ってやればいい。
その後は、まぁいざこざはあるだろうけど・・・それだけで済む話だと言える。


けど、一夏と同居しているのが、あの馬鹿女の一人だというなら・・・・話は別だった。


あたしの大切な物を蔑にした女が。

あたしの居場所だった席に平然と居座っているあの女が。

あたしの大切な二つの宝物を、一つはいらないと放り投げ、一つを掻っ攫おうとするあの女が。


一夏と、何食わぬ顔で過ごしているですって?



――――――――― ふざけんじゃないわよ。



ドンッ!!

身の内から抑えきれなくなった激情に身を任せ、あたしは壁を殴りつけた。

手がジンジンと痛むけど、それすらも今はあたしを抑える鎮静剤にもなりはしない。


「―――――― ざっけんじゃないわよっ!!!」


ギリギリと、そのまま壁に拳を捻じり込む。
また痛みが走るけれど、これでも足りない。解消にもならない。


一夏が二人を怒っていない理由は分かった。
それだけ二人は強い絆で結ばれていたことにちょっと嫉妬するけど、喜びの方が格段に上だった。

弾が本当に気にしてない事も知った。
騒動起こす、とんでもない奴なのは相変わらずだけど。昔と変わらない、さりげないフォローや心配りにくすぐったくも嬉しかった。


一夏が怒らないのも、弾が気にしてないのも十分理解している。


―――――――――――― でも。


「――――――――― あたしは、あんた達ほど寛容になれないのよ・・・!!」


あいつらは、あたしの居場所を汚そうとした。
あたしの大切な場所を壊して、自分達の都合のいい場所に塗り替えようとしている。

渡すもんか。
絶対渡すもんか。
あの馬鹿女二人にだけは、どんな手を使ってでも渡したりするもんか・・・・!!


やっと戻ってこれたのよ・・・・・?


居心地が良い一夏の隣に、暖かい弾の背中に・・・・戻ってこれたのよ。


やっと・・・・・・・・・やっと・・・・・・・・・・やっと・・・・・・・っ!!


一年前失った二つの居場所。
その一つが、あたしに追いついて来てくれたのよ。追いかけて来てくれたのよ・・・・!!


もう手放すもんか。
絶対離したりするもんか、渡したりするもんか。
その為だったら、何だってやってやる。
どんな事してでも死守してやる。


今のあたしにはそれだけの力があるんだから。
一年前の無力なあたしじゃないんだ・・・・・・・・・!!


壁から拳を離し、再び足を進める。
目指す場所は一夏の部屋、そしてあたしの怨敵のいる一室。


話し合いで済めばいいけどねぇ・・・?
もし、一度でもグズるようなら・・・・・・容赦はしない、力尽くで追い出すだけだ。
どうせなら後者である事が望ましいなぁ・・・。
まぁ、どうせそうなるでしょうけど。





その時のあたしは、知らず知らずのうちに―――――――――――――――― 嗤っていた。




*   *   *




「【1025】・・・・・一夏の部屋はここね。」


事前に調べていた一夏の部屋の番号。
それを確認したあたしは、ゆっくりとドアノブに手を掛ける。

もしかしたら、一夏が既に戻って来ているかもしれない。
でも構わない。あの女は絶対に叩きだす。それは決定事項だ。

さっき、あんな別れ方したから弾もいるかもしれないわね・・・調子狂わせられないよう用心しないと、絶対目的は達成する。

叩きだす。あの女を。

教えてやる。その場所に相応しいのは、あんたじゃないってことを。

数度息を繰り返し、ドアノブを掴む手に力を込める。
―――――――― 覚悟しなさいよ・・・・馬鹿女っ・・・・・!!

ガチャリと捻る。鍵は開いてる・・・・・・。

バンッ!!

その勢いのままドアを開け放ち中に入る――――――― そしてあたしが部屋で眼にしたのは―――――――――――・・・・・・・・・








「・・・お・・・お姉様・・・(////)」
「うふふ・・・・可愛い子・・・・・。」








ベットで情熱的に見つめ合う二人の女子生徒の姿だった。(片方同級生、片方上級生、共に服は乱れてる。二人の世界に入っている為鈴に気付いていない。)





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





スタスタスタスタスタ。(引き返す鈴)


・・・・・カ・・・・チャ・・・(そっと扉を開ける鈴)


・・・・・・パタ・・・ン(なるべく音を立てずそっと閉める鈴)


・・・・・・・・・・・・・・(扉に手をつき、項垂れる鈴。耳が僅かに赤い)


・・・・・・・・・・・・・・(ゆっくりと部屋番号を確認する鈴【1025】)


・・・・・・・・・・・・・・(ふと扉の横に、先程までなかった張り紙を見つける鈴)


・・・・・・・・・・・・・・(ゆっくりと読み上げる鈴)



『残念。ハズレだね!! ドンマイ次があるさ!!』




・・・・・・・・・・・・ふっ・・・・



バリィッ!!

張り紙を破り取り、地面に叩きつける!!

そのままドカドカと踏みつけ、あたしは荒い呼吸を繰り返し――――――――――・・・


「――――っだあああああああああああ――――――んっ!?」


廊下中にあたしの怒声が響き渡る!!

あ、あああああの馬鹿!! やりやがったわねええええ!!?

どういうこと!? 部屋番号は合ってるのに、なんで中にいるのが一夏と馬鹿女じゃなく、あんな―――・・・その・・・げ、激烈に仲の良い先輩後輩なわけっ!?

意味が分らず羞恥と怒りと困惑に、あたしの頭の中は混乱状態に陥る。

なんで!? どうしてよ!? 
部屋が代わった? でもそんな話聞いてないし・・・・・。


「・・・・・・・・・ん!?」


その時、廊下の先からあたしに向かって緑色の紙飛行機が飛んでくる事に気が付いた。
あっちへ行ったり、こっちへ行ったりと不安定。でも何故か地面に落ちないという怪しさ満点の。

・・・・・こ、この妙にイラッとする飛ばし方は・・・・!

ズンズンとこっちから近付き、バシッと紙飛行機を乱暴に掴み取る。
表面には、『や~ん。捕まっちゃったぁ~ん♪』という女の子文字。

・・・あ・・・・あいつぶっ殺そうかしら・・・・・・!?
とりあえず破りたくなる衝動を必死に堪えて、私は紙飛行機を解き中を確認する。


『説明期待した?』


バリッ!! ドカドカグリグリ!! ガッ!!

おおおおお落ち着くのよあたしいいいいい・・・・・・!? ここここれはああああああの馬鹿の策略よおおおおおおおおっ!?

ヒッヒッフー! と、何故かラマーズ方法で落ち着こうとするあたし。

ま、まずいわよあたし! の、呑まれそうになってるから! 大丈夫、落ち着くのよあたし! お、落ち着いて深呼吸するの、落ち着くのよ・・・・!!(傍から見たら、既にテンパってる)

けど、そんなあたしに追い打ちを掛けるように、キュロロロロローっと登場したラジコンが、足元で停止する。・・・・封筒を張りつけたラジコンが。

封筒を剥がし、ラジコンは思いっきり蹴りあげ壁に激突させスクラップにしてやる。
ほ、他になにも仕掛けは無いわね?

念入りに封筒をチェックし、恐る恐る開くあたし。

どうやら何もなさそうね・・・・・・安全を確認した上で、あたしは中の手紙を開いて読み上げる。


『ふははははは。どうだ、これぞ! 紳士技が一つ! 【ロシアン・ザ・ドア】!! 別名!『寮内の部屋番号を、ランダムに適当に張り替えちゃいましたてふぇっ♡』だ!! さぁ、お前は目的の部屋へとたどり着けるかな!? あ、ちなみにISでの探索は、千冬さん召喚したけりゃ使ってもよかよ? 絆と運と労力が試されるこの試練! チッパイの挑戦がい【バリィッ】』←途中で破いた。


「――――――――― よし殺そう。」←良い笑顔


うふふふ、もう弾ったら♪
―――― そんなにあたしに殺されたけりゃ、望み通り殺ってやるわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?


『お、おい。鈴がものすごい事になってるぞ!? 何書いたんだお前!?』
『ん? 特に何も?』
『わ~・・・凄く怒ってるよー?』
『はぁ、まさか。部屋番号を張り替える悪戯に手を貸す事になるなんて・・・・』


――――――― ・・・!? 今、話し声が!?

バッと、振り返ると。
そこには、つきあたりから顔をだし、こちらを窺う馬鹿と一夏、それから今朝弾におんぶされていた女子に、見覚えのない女子生徒の姿があった。

私と視線が絡み合う四人。
一夏は、あたしの表情を見て『・・・あ、やべぇ・・・・!』と蒼白になり。

獣っぽいナイトキャップを被るのほほんとした女子は、だぼだぼの裾を振り、ほにゃっとした笑顔を向ける。

もう一人の女子生徒は顔の前で手を振り『ちがっ・・・!? 私こんな事になるなんて知らな・・・!!』と、涙目で必死に弁解。

そして、事の主犯は・・・・・・・・・・・・・・


「―――――― ジャンボ! ナイス般若顔! うわすご「そこ動くなああああっ!!」おおう!? ダッシュ!」← のほほんさん背負い走りだす。
「「来たあああああああああああああああああっ!!!?」」← 必死で逃げる。
「お~~~~~~~~♪」← 弾に揺られつつ楽しそう。
「待ちなさいよコラアアアアアアアアアアッ!!!?」


つきあたりから消えた四人に向かってダッシュするあたし。その時、バタン! と、音が聞こえる。

すぐに通路に出て、前方を確認するけどそこに四人の姿はなかった。

くぅっ!? 何処かの部屋に逃げ込みやがったわね!? 見回しても、どの部屋に逃げ込んだのかは分からない。

あ、あの馬鹿。くだらない割に厄介なことしてくれちゃって・・・・!!

部屋番号も無茶苦茶で、判別がつかない【1037】の次に【1107】なんて、本当にランダムに張り替えられていた。

とりあえず、手近なドアをから確認していくしかないわね!

すぐ横のドアに手を掛け、強引に開いていく。

ガチャ!!

「え? な、何?」
「あれ? 貴女確か・・「ごめん間違えました」・・・・へ?」

バタン! 次っ!

ガチャ!!

「最近胸が大きくなってきてさー?」
「そうなの? 実はあたしも、困るよねー肩こるし「削ぎ取ってやりましょうか?」ひぃぃぃ!? 何っ!? 誰っ!?」
「般若!? 誰この娘!? 眼が怖いんだけど!?」

バッタアアアアアアンッ!! ・・・・・・・次ぃいいいい・・・・・!!

ガチャ!!

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(体重計を睨む女子生徒)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(真剣に体脂肪率測定機を見つめる女子生徒)」

・・・・パタン。 次。

ガチャ!!

「・・・・・あら? あ、貴女は・・・・!?」
「・・・・チッ、金髪の方か・・・・ハズレね。」
「ハズレって何ですの!? しかも舌打ちっ!?」

バタァンッ!! 今は用はないのよ次ぃっ!!

ガチャ!!

「――――――――― こっちのベタお願い!! 急いで!」
「ここ背景描いてないよ!?」
「トーン貼り終わったよーっ!!」
「ああもうっ!! またズレた! 修正液どこ!?」
「インクがもうないんだけどー!?」
「締め切りまで時間がないわ! 今日も徹夜よ! これだけは落すわけにはいかないのよ!! 気合い入れなさい!!」
「「「「お――――――っ!!!!!」」」」

・・・・・・バタン。・・・・・・忙しそう。でも描かれていた登場人物が凄く気になる・・・・あれって・・・・・いや、うん次。次行かなきゃ(ちょっと赤面)

ガチャ!!

「・・・・・ガ・・・ガハァ・・・・!?」
「ゴホ! ゲハッ! ば・・・馬鹿な・・・これだけの人数を・・・・お・・・おのれ・・・・『DANSHAKU』めぇ・・・・「そいつ何処行った!?」ごあああああっ!!?」
「言いなさいよホラぁ!?」←ガスガス蹴る。
「げぼぉ!? ごはっ!? ・・あ、あちらのベランダからぁ・・・・と、隣の部屋に・・・」
「チッ!」
「げふぉっ!!・・・・・ぐふ・・・・(気絶)」←乱暴に放り出される。

バタン!! 隣の部屋っ!!

ガチャ!!

『準備中』←看板。

バタァン!! 次ぃ!!

ガチャ!!

「さっさぁ、始めるザマすよ!!(ヤケクソ)」
「いっいくでガンす!(赤面)」
「んが~♪(袖をパタパタ楽しそう)」
「(ピッピッピ)・・・・あ、もしもし病院ですか? 急患二名大至急お願いします。ええ、きっと脳に致命傷が。」
「「何で二人!?」」
「一夏、お前ザマすって・・・はは・・・ねぇわ。(痛々しい笑顔)」
「お前がさせたんだろうがっ!!」
「それから、かなりん。女の子がガンすなんて言っちゃいけません。」
「五反田くんが言わせたんじゃないのっ!!」
「のほほんちゃんは可愛いから許すっ!!(サムズアップ!)」
「んが~~~~~♪(パタパタ)」
「・・・・・・・・・・・・・・テイクアウトしていいかな?(鼻血ぼたぼた)」
「「いや、部屋ここだろ(でしょ)」」
「ようし! 許可も出たからさっそ「死ねえええええええええっ!!」【ゴギャァ!!】くどばあああああああああああああああああああああっ!?」


開けた瞬間、くだらないやり取りをかわす馬鹿に、狙いを定め飛び蹴りを放つあたし。
見事に弾の顔面に右足がめり込み、弾を部屋の壁まで蹴り飛ばした。

壁に激突し、ズルズルと崩れ落ちる馬鹿を尻目に、残り三人に眼を向ける。

「はぁっ!・・・はぁっ!・・・・う、うふふふ。おっ面白い事してくれたわねぇ? あんた達ぃぃぃ!?」
「い、いやこれは! これには深い訳があるんだ鈴!!」
「あ、あたしどっちかと言うと巻き込まれなんです! 本当!」
「だんだん大丈夫~(つんつん突く。)」


あたしの眼力に、ビビる二人に、弾を指で突く女子生徒。
・・・・・な、なに? なんか凄くマイペースな性格してんのね。

それはともかく訳? 何よ訳って。


「訳? 聞いてあげるから話しなさいよ、ほら。蹴るけど。」
「蹴るのかよ!? い、いや訳は―――」
「俺が説明しよう!!」
「チッ・・・・生きてた。」


また、いつのまにか復活した弾が一夏の横に並び立ち、腕を組んでいた。
いつもの如くヘラヘラした顔で。

こいつは本当に・・・・・!
まぁいいわ。理由とやらを聞いてやろうじゃないの。

説明を眼で促すと、弾がヘラリとした顔を向けてきた。


「おおう。説明ね。・・・・まぁたいした理由ははっきり言って・・・・ないなっ!!」
「はーい。じゃあ一夏、弾。ちょっとそこ座んなさい。蹴り抜くから。」
「いや待て! おっおい弾!?」
「へいへい。分かった分かった。・・・・おーい鈴さんや?」
「何よ?」


腕を組んで、あたしを見下ろす弾。
そして顔をぐぐーっと寄せて、あたしの顔を覗き込む・・・・って近い!

思わず身を引くあたしに弾は・・・・・・・

ヘラっとした、いつもの気の抜けた笑顔を向けて口を開いた。


「―――――――― ふむ。少しは冷静になったかねー? 少しは頭の血は抜けたか?」
「―――― え?」
「さっきと比べて気分はどうだってこと。あんな情緒不安定な姿見たら心配すんだろう? なぁ弾。」
「ま、そういうこと。ふむ、いつもの鈴だな。作戦成功ですな。」
「せいこ~♪」
「え? 悪戯じゃなかったの?」
「手伝ってくれてサンキュー! のほほんちゃん! かなりん!」
「俺からもありがとうな。」


そう言って、笑顔を振りまく二人を。
あたしは呆然として見つめた。

・・・・・頭の血は抜けたって・・・・え?

少し胸に手をあててみる。

・・・・数分前とは違って。だいぶ感情の波は治まっているみたい。怒りに身を任せていたというのに、体中から熱が抜けたような感覚を覚える。

・・・・・まさか。

慌てて、眼の前の二人に顔を向ける。
そんなあたしに、一夏と弾は、悪戯が成功した子供の様な笑顔を向けてきた。


「あ・・・あんた達まさか・・・!? ワザとあたしを怒らせて・・・・!?」
「少しは発散になったか? 鈴?」
「まぁ、矛先が俺らってのは。内容聞いた時は、若干ビビったけどな。」
「このチキンが。」
「お前な・・・・・。」
「ま、それはそうと・・・・どうよ。気分は? まだ興奮は冷めてなかったりする?」
「う・・・・・・・むぅ・・・・・。」


そう言われて、口をつぐんでしまう。

あの馬鹿女が許せない気持ちは変わらない。
でも・・・・感情に身を任せて、行動したことは流石に不味かったかも・・・・。
さっきとは違って、冷静に物事を考えられてる事に驚く。

そうか。あたし感情が暴走して、自分をコントロール出来たなかったんだ。
うわ・・・・恰好悪い。

あたしの冷静さを取り戻す為に、一夏と弾は。あたしの怒りの矛先を自分達に向かせて、感情を発散させたってこと?


・・・・・・・・・・・・・・う・・・・ううううううううう・・・・・!!


あたしの為に動いてくれた事が、嬉しいやら、照れくさいやら、申し訳ないやらで。

あたしは赤くなった顔を隠すように伏いてしまった。

そんなあたしの頭に、ポンポンと誰かの手が添えられ撫でられる。この撫で方は―――――――――――・・・弾だ。


「突然の事で、感情が爆発しちまったんだろ? あんま気に病むなって。伝え損ねた俺も悪いんだからよー。・・・・本当に悪い。ごめんな鈴。ちゃんと話しときゃ良かった。」
「・・・・べ・・・別に弾のせいじゃ・・・・・」
「えーと・・・俺もとにかくすまん! なんか余計な事言ったみたいでさ。本当悪かったよ。」
「ははは、理由気付かずに謝られてもなー?」
「ぐっ・・・・か、返す言葉もない・・・・・!!」
「・・・・・ぷ・・・・あははは。」
「お・・・・んだよ笑うなよ。ははは。」
「ぶわはははははははははははははははははははは!!(バンバンと机叩いて爆笑)」
「お前笑い過ぎじゃねぇか!?」
「あははははっ!」


あたしが笑い出すと同時に、それを見た一夏と弾も顔を見合わせ。つられるように笑顔になる。

・・・・・・ああ、やっぱり居心地がいいなぁ。
あたしの醜い部分も、全部受け止めてくれる。否定せず、包み込んでくれる。

・・・・・本当に、戻って来れて良かった。
だからこそ思う。もう絶対手放したりなんかしない。絶対に。

と、あたしがそう思った時。
弾が口を開いた。


「そんじゃ、一夏の部屋に行きますか? なぁ鈴?」
「え?」
「なんだ? 俺の部屋に用事があったんじゃないのかよ。」
「いっいやそれは・・・・・弾?」
「ま、俺ら二人が一緒に行くし。箒ちゃんに言いたい事あんだろ? なら遠慮せず吐き出しちまえよ。でも実力行使だけはご法度だからな? OK?」
「・・・・・ん。分かった。」
「そう言う訳で、おーい。のほほんちゃんにかなりーん? 俺達一夏の部屋に行くけど。二人はどうする?」
「私は部屋でお菓子たべて待ってる~♪」
「あたしは部屋に戻るわ。・・・・流石に疲れたし。」
「そっか。手伝いサンキュー二人共! ほんじゃね~?」
「行ってらっしゃーい♪」


バタン。

二人の女子生徒を部屋に残したまま。
あたし達は一夏の部屋まで、足を進める。


「・・・あの妙にのんびりした娘。お菓子食べながら待ってるって言ってたけど・・・もしかして。」
「ああ、のほほんさんは弾と同室なんだよ。」
「・・・・・・・ふーん。」
「おおう? なんだ鈴? のほほんちゃんにまでヤキモチかね?」
「・・・・そんなんじゃないわよ。」
「良い娘だぞー。可愛いしなー?」


そう言って、歩き出す弾の背中を見る。
・・・・見た感じ、悪い奴には見えなかったし。弾がそう言うなら良い娘なんだろうけど。

それでも、弾にそう言ってもらえてるあの娘が、ちょっぴり羨ましく思って・・・イライラしてしまう。


・・・・・・・はぁ・・・・・・あたしって嫌な奴。


そんなあたしの気持ちなんてお構いなしに、あたし達は一夏の部屋に向かったのだった。




【弾 SIDE】


鈴のヤンデレモード回避に成功して数分。
いやー・・・上手くいって良かった。鈴の短気さに感謝だね!

そして所変わって、今現在一夏の部屋です。
まぁそれは良いんだけど・・・・・・ただいま絶賛修羅場発生中です。

いやー、ヤンデレ回避は成ったものの。
元々我の強い箒ちゃんと鈴じゃ、話こじれるのも仕方ないが・・・・・

二人に挟まれてる一夏も大変だ。
俺は傍観するがね。


「いいから部屋代わって。今すぐ」
「ふざけるな! 何故私がそんな事せねばならない!!」
「いやーだって、あたしの方が一夏も遠慮はいらないし? 弾だって気兼ねなく部屋に訪ねて来られるし。そっちの方が良いと思うんだけど?」
「・・・むぐ・・・・! そ・・・それは・・・。」
「・・・・ん? 箒?」
「何があるかな♪ 何があるかな♪(ガチャ)」
「まぁそう言う訳だから、はい決定。」
「なっ!? ふざけるな!! それとこれとは話が別だ!! これに関しては私と一夏の問題だ!」
「ふむ? コーラがないな? なんで伊○衛門しかないんだ?」
「あたしは幼馴染だし部外者じゃないわよ?」
「そんなの理由になるものか!!」
「お、落ち着けよ二人共。」
「にんじん・じゃがいも・タマ~ねぎ~♪(ひょいひょい)」
「「「そしてお前(あんた)は、人様の冷蔵庫を物色するな!?」」」
「むしろ食材投入して潤してるんだが?」
「「勝手に入れるな!!」」
「けち!!」
「「大人しくしてろお前は!!」」


とりあえずは、俺の出る幕はないと判断した為。
一夏と箒ちゃんの私生活を覗く為、冷蔵庫チェックに勤しんでみたが・・・・・。

なんて悲しい冷蔵庫事情。食材がそんなに入ってない。
見事にスポーツ飲料関係にお茶ばっか。ええい、この体育系どもが!!

いや、それにしても。
箒ちゃんも鈴も、お互い一歩も譲らんね~。いつまで経っても話は平行線。
こりゃ先は長いな。


「とにかく出てけ! 自分の部屋に戻れ!」
「一夏もそう思うでしょ? ・・・そ、それにほら。約束の予行にもなるし?」
「ん? 約束?」
「む、無視するな! ええい! こうなったら力ずく――――・・・」
「ふんふふん♪(書き書き)」
「ってコラああああああああっ!? 貴様私の竹刀になにを書いてる!?」
「え何って【大好き♪ワンサマーラヴ】。おおう、我ながら見事な達筆ぶり。」
「書くなああああああああああああああああああ!?」
「ワンサマー? 夏が好きなのか?」
「あんた・・・・・(残念な瞳)」
「返せええええええええ!! ―――って消えない! 油性ではないかあっ!?」
「作品は残しておきた【バシィイン!!】、今の普通の人には危険だから気を付けてね♪」
「・・・・ぐっ! おのれこの怪人め・・・!」
「本当に不死身ねあんた。何者よ本当・・・・」
「もう弾だからってことで片付けていいんじゃないか? こいつの事は?」


なんか三人共、反応が慣れてきたね。うん良い事だ。

ふむ、ちょっと脳が揺れたがまぁ気にする程のものじゃないな。

それにしても約束か。
俺も知らないとなると、二人が小学校の頃の話だろうね。

おおう、やるじゃないか鈴。二人だけの約束イベントとはポイント高いぞ!
あの一夏と約束か~。

・・・・・・・一夏と・・・・・・?

・・・・・・・うん? なんか嫌な予感が?

ものすごく、なんか嫌な予感がするのだが? はて?

そこはかとなく、嫌な予感がビンビンするものの。俺はとりあえず一夏と鈴の会話を見守ることにした。


「まぁそれはそれとして・・・・約束っていうのは。」
「う・・・うん。覚えてるよね?」


顔を伏せて、チラチラと上目遣いで一夏を見る鈴。
ふむ・・・・この態度から見るに・・・・物凄く恋愛レベルの高い約束だろうことは分かるが。

・・・・・恋愛・・・・・約束・・・・・・一夏・・・・・・・鈍感・・・・・

・・・・・・・不味い。

何が不味いって―――― 色々と不味いぞこの流れはっ!?


一夏の恋愛に関する鈍さは戦艦ヤマト級だ!!

それが恋愛関係の約束ならば覚えていても、別の意味に捉えている可能性が大だああああ!?

焦る俺、でも時は既に遅しだった。


「えーっと、あれか? 鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――」
「そ、そうっ。それ!」
「――――――――― おごってくれるってやつか?」


――――――― その瞬間。ピシリと音を立て、時が確かに止まった。

・・・・・・・・ なんだその約束は。

毎日酢豚を奢るって・・・・・・・アホかこいつはあああああああああああああ!!?

話の前半ちゃんと聞けぇ!? 料理の腕が上がって、毎日酢豚をって所で何故気付かん!?

まるっきり『毎日味噌汁を~』のアレンジバージョン! 鈴なりの遠まわしな告白じゃないかよおおおおおおおおおおおおおっ!?

いや、約束したってこと覚えてる所だけは誉めてやるべきか? こいつの場合。


「――――――――― はい?」
「だから、鈴が料理出来るようになったら、俺に飯を御馳走してくれるって約束だろ?」
「・・・・・・・・・・・」
「いやしかし、俺は自分の記憶力に感心―――――・・・」

パァン!!

・・・・・・・・うわっちゃー

思わず顔を覆って、天井を仰いでしまう。
やっちまったよ・・・・・・あーもー。

俺の目線の先では、鈴にビンタされ呆然とする一夏。

そして、その様子を驚いて見守る箒ちゃんに。

体を小刻みに震わせ、顔を伏せている鈴。

でも口元はギュッと引き結ばれて、何かに耐えるように見てとれた。

・・・・・・・はあああ。本当に手の掛かる親友達だこと。まだまだ、フォローが必要だねぇ今日という日は。

立ちあがって、一夏と鈴の傍に近づく。


「あ、あの、だな、鈴・・・」
「ほい。一夏ストップ。」
「だ、弾?」
「全くお前は・・・・・・はぁ、とりあえず。」


鈴に近づき、その体をひょいと担ぎあげた。
鈴がビクッとしたが、今は無視。


「チャイナっ娘確保――――ってな? おお、なんだ随分軽いな鈴? 飯ちゃんと食ってるか?」
「―――――――――・・・・っ」
「お、おい弾。」
「ああ、それと一夏。明日凍らせた豆腐用意してくるからな? 頭ぶつける覚悟しとけよ貴様ぁ!?」
「なっなんでだよ!?」
「喧しいアホ! お前のオメデタイ頭で考えろ! 今日はもんもんと夜を過ごすがいいわ!!」


口ではそう言いつつ。
アイコンタクトで、『今は退け。鈴は任せろ』と伝える。

それに気が付いた一夏は。また自分が、何かやったと思い少し落ち込んだ様子になるが・・・・今は鈴のフォローの方が先決。


「ほんじゃ、俺達はこれで。あばよ~!」
「あ・・・」
「・・・・ん? 箒ちゃん。どったの?」
「い、いや・・・・なんでもない。」
「そうかね。ほんじゃね~!」
「お、おい弾!?」


床にあった鈴のバックを回収し。

そのまま一夏達の部屋を後にする俺と鈴。ふむ、箒ちゃんの最後の仕草が妙に気なるが・・・まぁ今はいいか。

背後でバタンという音を聞きつつ、俺は鈴を担いだまま廊下を歩く。

担がれているというのに、鈴は先程から無言。

体はさっきか小刻みに震えているから、何か我慢してるのは明白・・・・・はぁ。

さて、どうするか。とりあえず、この状態の鈴を部屋に返すのはまず除外。

なら残っているのは―――――――――――――――――・・・。


「さーて。ほんじゃ俺とのほほんちゃんの愛の巣まで行こうかね? 久しぶりに俺の飯食わしてやるぜ~鈴。」
「―――――――――・・・」
「弾特製メニューもバリエーション増えてなぁ? お前も知らないメニューも色々あるぜー?」
「・・・・・・・・・・・っ」
「ま、とにかくだ。」


そう言って、俺は鈴の体を担ぎ直し。
鈴に向かって口を開いた。


「気が済むまで愚痴くらい聞いてやるからさ? 我慢すんなよ鈴。吐きだせ嫌な気持ちは。」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


ビクッと一度大きく震えた鈴。そのまま、俺の服をギュウッと掴み・・・・

――― ようやく、堪えてるモノを吐きだした。


「~~~~っだ・・・ん゛ぅぅぅ・・・・っ!!」
「はいは~い。日本紳士の弾さんですよ?」
「いっ・・・い゛ぢが・・・お・・おぼえ゛でながっ・・・・!!」
「なーに言ってんの? 覚えてたろ? 意味は間違ってたけどなぁ? 全く鈍感にも程があるよな~。」
「う゛う゛~~~~っ!! い゛っい゛ぢがのばがぁぁ~~~~!!」
「おー馬鹿だな~。あいつは馬鹿だ。大馬鹿だ。」
「―――ッ!! う゛ん゛~~~!」
「おーし! 鈴よ! お前の好きなもん作ってやるぞ!! やけ食いだ! 食って食って・・・・ふむ体重が心配だな?」
「だん゛ぅぅぅっ!!!」
「わはははは。冗談だよ、何が食いたい鈴?」
「だ・・・だん゛どぐぜい゛ズベジッグぢゃーばん・・・・・」
「おお、あれか。おーし任せろ! 善は急げ! 飛ばすぜー!!」


そのまま一気に自室へと走りだす俺。
さーて、今夜は腕によりを掛けて作ってやらなきゃね~?





鈴の内にある、こいつを縛る厄介な闇。
それを取り除いてやるには、ちまちましたやり方じゃ駄目だ。


取り除くなら、一気に吹き飛ばさなきゃ意味がない。


でも、今は手札が足りない。全く足りない。
情報も不足してる。

でも・・・・・・なんとかしてやらなきゃなー。




そんな俺の心情はとにかく。
俺は、鈴を担いで廊下をひたすら走ったのだった。




後書き

更新遅れて申し訳ないです。今回、できればクラス対抗戦前くらいまで書こうとしましたが・・・・駄目だ、どうあっても長々となってしまいます。ああ・・・早く、シャル書きたい、ラウたん書きたいぃぃぃ・・・。さて次回、のほほんさんパワー炸裂に、何気に鈴編で影薄いポニー&パッキンが頑張ります。そして生徒会も・・・・。・・・・鈴じゃないですが、ちょっとプライベートで問題発生してしまい。更新が少し遅れるかもしれませんが、どうかご容赦ください。



[27655] 第十八話  始動一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:6a99fb4e
Date: 2011/10/30 14:56
【本音 SIDE】

こんにちはー。おはようからおやすみまで暮らし見つめる、布仏 本音です~。

だんだん達が、おりむーの部屋に行ってる間。部屋でお菓子を食べて待っていたんですが。
ここで思わぬハプニングが発生しました。

だんだんがついさっき帰って来たんだけど。
大きなお土産も一緒に持ち帰って来ちゃったんだー。

んー?
担いでるのって、今朝教室にやって来た転校生さんだねー? たしか、だんだんの中学校の頃からのお友達さんだよねー。名前はたしか、凰鈴音ちゃん? にへー、それじゃあ、りんりんだね~♪

さっきも、その娘と鬼ごっこしたから覚えてるよ~。楽しかったねー。


・・・・あれ?
なんで泣いてるのかな? あ、あれー? どうしたの? 何で泣いてるのー? だんだんが泣かしちゃったの? むー、駄目だぞーだんだ・・・・え、違うのー?


・・・・・・・・んー。
とりあえず、お菓子食べなよ。美味しいよー? ・・・え? だんだんお夜食作るの? えー! いいな、いいな~! わたしも食べるー。

色々、込み入った事情があるようだけど。お腹一杯になればすぐ元気になるよー。


・・・・ところでだんだん。


・・・・・いい加減に、りんりんを降ろしなさいー! むー、なんだか面白くないぞー。


だんだんがキッチンに向かった後。
私は、まだグスグスしているりんりんに近寄り、事情を聞くことにしました。

さぁ~、この本音さまーに話してみなさい。
にへ~♪ 一度言ってみたかったんだこの台詞ー。あ、ポッキー好き? ポテチもあるよ? オレンジジュースもー♪


だから泣きやんでー。いいこいいこ~(なでなで)。


だんだんがお夜食を作っている間。私は泣き虫さんを慰めようと頑張りますよー。

ん? 私の名前? 私は布仏 本音っていうんだよ。よろしくねーりんりん~♪・・・ありゃ? 怒られたー。えー、可愛いよりんりんってー。








それから少し時間が過ぎて。


「・・・・・・・・むー。それはおりむーが悪いよー!(ハムハム)」
「・・・一夏の馬鹿、一夏のボケ、一夏の鈍感、一夏の誑し、一夏の・・・(ハムハム)」
「おおう。なんだこの萌え時空は・・・・!? ハムハム喰ってる姿が俺の心臓をわし掴んで離さねぇ!! 相棒!」
【既に記録済み。抜かりは無い(キリッ)】
「流石だ。もはや言葉なんて不要だな俺達には・・・・」
【会話は大切です相棒!?】←ちょっと必死
「文通があるじゃないか!? 手紙の力舐めるなよ!!?」
「・・・・・・・何、くだらないやり取りしてんのよぅ。(スン)」
「りんりん~。あーん♪」
「・・・だから、りんりんって呼ばな・・・ハム。」
「えへー♪ 美味しい~?」
「・・・・・・・・・・うん。(もぐもぐ)」
「俺、もうゴールしても構わない・・・・!!(鼻血ドバドバ)」
【メールです、二代目『頼むから来ないでください・・・・!!』とのことです。】
「三途の川の近場をキャンプ場にしから今度はそうだな・・・・・ペンションでも建てるか!」
【しつこいメールですね『極楽からの苦情も来てるんです!! 地獄の方が良いって魂が増えて困ってるんです!! 勘弁してくださいいやホントお願いします後生ですからあああ!!』。流石二代目。】
「ふっ。当然だ!」
【またメ・・・・・『三代目さんがビキニ姿で勧誘活動してるんですが!? ってか何で人になってんの!? 魂だけだからって、歴代さん達は何でもありか!?』・・・・・おい、三代目って雌か? 雌なのか? ん?】
「は・・・はは・・・はははは・・・こ、困った娘だな~? 三代めえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!?(ボキボキベキャ!! コチョコチョ。)ぶわははははははははははははは!? 誰だあああああ!? 相棒にいらん事吹きこんだのはああああ!?」
「何やってんのよ。」
「二人(?)共仲良しさんだね~。」 


だんだんが夜食を持ってきて。
私とりんりんは、それをレンゲですくって黙々と食べながらお話ターイム。

『だんだん特製すぺしっくちゃーはん』だっけ?
まだ食べた事なかったけど、これは美味しいよー。極楽極楽、うまうま♪

むー、それにしても。
話を聞いてみるに、おりむーは乙女心を猛勉強した方がいいと思いまーす。

女の子の約束を、間違えて覚えるなんて絶対に許せる事じゃありませんー!
よーし、りんりん。やけ食いだー。私も手伝うぞー!


それから私は、りんりんと一緒に。ちゃーはんを綺麗に完食するまで、黙々と食べ続けた。
その間、だんだんの絶叫が止まなかったのはお約束~。






「んに~♪ お腹ぽんぽんだねー。」
「う・・・・少し食べ過ぎたかも。はぁぁ・・・・それもこれも・・・全部一夏のせいよ!!」
「そうだそうだー!」


ちゃーはんを全部たいらげ。お腹一杯になった私とりんりん。
んー。お腹一杯になったおかげかな? りんりんに少し元気が戻ったみたい。よかったよかったー。


そんな私達に、ごたんだごーのお仕置きから解放されただんだんが、ゆっくりと近づいてきた。
あ、お帰りー。

だんだん手には、いつの間に用意したのか。
コップに注がれた烏龍茶が二つお盆の上にのかっていて。流れるような動きで私とりんりんの前に置いてくれる。

わ~。


「だんだん、ありがとー♪」
「紳士だからな!! 当然だ! へい鈴さん。どうだった? 『弾特製スぺシック炒飯』の味は? 一年前よりもさぞ美味かろう。」
「ん、まぁね。」
「・・・軽くね? ねぇ軽くね? まぁ俺は別に気にしないがな!!・・・・・・・・・・・・・・ねぇ軽くね!?(半泣き)」
「気にしてんじゃないの!!」
「べ、別にそんなんじゃないんだからね!?」
「だんだんツンデレ~。」
【気持ち悪っ】←瞬間削除
「今あんた相棒に罵倒されたわよ?」
「ふんっ! 当然だな。」
「何で胸を張って誇らしげなのよ!?」


りんりんの突っ込みに、だんだんはヘラヘラっと笑い。
りんりんの頭を、数回くしゃくしゃ撫でた後。自分のベットに歩みより、その上に腰を降ろした。

んー、なんだか。りんりんのお兄さんみたいだね~。だんだんはー。
りんりんも、だんだんに撫でられた頭を「う~~~~」と恥ずかしそうに、おさえてるしねー。


「いやはや、それにしても。まさか鈴が一夏とあんな約束をしていたとは。隅におけんな~? このこの~♪」
「このこの~♪」
「ふ、二人してからかってんじゃないわよ!! い、いいでしょうが別に!!」
「俺はてっきり、空港で俺と蘭が離れた時に何か約束でもしたのかと思ったんだがね?」
「あ・・・あれは! ・・・その・・・・」
「まぁ大方、最後に告白しようとしたけど結局言えずにズルズルと時間引きのばして終わっちまったーってオチだろうけど。」
「・・・・・・・・・りんりん・・・・。(ちょっと残念な瞳)」
「うっうっさい!! 予想つくなら察しなさいよ!! それとそんな眼で見ないでよっ!」
「まぁそれはそれとして、本命の約束内容は一夏のアホが間違えて覚えてるとはな~・・・・あいつ本当に馬鹿だな。」
「むー! 女の子との約束は、何をおいても優先される事なんだぞー。おりむーはお馬鹿だー!」
「全くよ!! あいつってホントにアホなんだから! 鈍いにも程があるわよ!! あたしが一体どんな気持ちで言ったっか・・・! 言ったか・・・・」


威勢よくりんりんが、おりーむーに文句を言っていたけど。
急に、暗い顔になってしょんぼりしちゃった。りんりんのツインテールも、しょぼーんとたれ下がっちゃってるよ~・・・

元気出してー、りんりん~・・・・。

顔を伏せたりんりんが、ぽそっと声を発した。


「・・・・・一夏にとって・・・あたしとの約束なんて、どうでもいい事だったの・・・・かな・・・・。」


・・・・・・・・・・・・りんりん。
うー・・・・そんな悲しい顔しちゃやだよー・・・・・


「そんなこ「んなことねーだろ? 何言ってんのかね、このチャイナっ娘は?」・・・だんだん。」
「弾・・・・?」


りんりんの言葉に、私は否定しようと声を出そうとして、だんだんに遮られた。
隣をみれば、いつもと同じヘラヘラとした気の抜けた笑顔のだんだんが居て。何故だかとっても安心できる。

・・・・ん~♪ なんだか、ほっとするなー。だんだんのこの笑顔は~。


「ちょっと違う視点から考えてみようや鈴。確かに約束の内容を間違えて覚えてた一夏が全面的に悪いがね~。鈴と約束をした事を覚えていた点だけは、俺はあいつを評価するね。」
「・・・どういうこと?」
「む~?」
「確かに内容は間違えてた。けど、重要なのは『一夏が、間違えて覚えてしまった約束を、今でも覚えていた』ことだ。」
「はい?」


だんだんの言葉に、りんりんは怪訝そうな顔をするけど。
私は、だんだんのその台詞にピンときたよー。あー、なるほどねー?

でも、私は空気の読める子なのです。お口にチャックします。むぐむぐ。


「思い出してみ? 一夏の奴『鈴の料理の腕前が上がったら、酢豚を毎日奢ってくれる』てのが、あいつが鈴と交わした内容だと本気で思ってたろ?」
「・・・うん。」
「まぁ、変換された内容のアホらしさに頭痛はするがね~? けどよー鈴。」
「何?」
「普通さ? 『~を奢ってくれる』なんて、そんな日常生活でよくありそうな内容をパッと思い出せると思うか? それも小学校の頃の話で、何年も経ってるってのに? 『誰かが飯を奢ってくれるって約束をした』じゃなくてだぜ? まぁ、『毎日』って所は、ちょいと特殊だけどなー。」
「―――――――――・・!! あ・・・・。」
「他の『誰か』じゃない。『鈴が』だ。つまり、あいつは『鈴が毎日酢豚を奢ってくれる』って覚えたヘンテコな約束を、ずっと覚えてたって事になるな~。・・・・ってことはだ鈴。」


だんだんは、りんりんの眼をしっかりと見て言葉を続ける。
りんりんも、さっきとは違って少しづつだけど、瞳に輝きが戻っていく。


「一夏にとってお前との約束は、間違えて覚えてヘンテコな意味になってしまっていても。今でもすぐに思い出せるくらい、大事な思い出の一つになっているってことじゃね? 少なくとも俺はそう思う。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「紳士としては0点だ。うむ、淑女との約束を間違えて覚えるなど言語道断。許せるもんじゃない!」
「・・・・・・うん。」
「けど・・・・・・友人としては、まぁ情状酌量の余地あり・・・・てとこが妥当かねー?」
「・・・・・・・・・・・・友達・・・かぁ。」
「そう、友達としては、な? ま、何を言いたいかって言うとだな? 鈴さんや。」
「・・・・・・ん。」


だんだんの言葉を噛みしめるように頷くりんりん。
そんな、りんりんの様子を何処か優しげな眼でみるだんだんは、言い聞かせるように言葉を放つ。




「一夏の心の中。それもけっこう深い場所にお前はちゃんと存在してるよ。自信を持て鈴。 俺が太鼓判押して断言してやるぜ。」



そう、だんだんはニヤーっと笑い。りんりんに笑い掛けた。
りんりんは、そんなだんだんの顔を穴があほど見つめて・・・・・・。

不意に顔を伏せて、ゴシゴシと眼元を拭い。
そして、ちょっと赤くなった眼をだんだんに向けて、声を発した。


「そっ・・・そんなの、あんたに言われなくても分かってるわよ!! と、当然じゃない!!」


ちょっぴり照れ臭そうなりんりんの姿に、だんだんはヘラヘラっとした顔で笑い。どこか満足そうに頷いている。

・・・・んー♪ よかったー。りんりんが、、また元気になったよー♪
だんだんグッジョブー!


「えへへー、 りんりんが元気になった~。元気りんりんだねー?」
「む! 聞き捨てならんぞ、のほほんちゃん! そこは勇気だろう!?」 
「バッ・・・! だから止めてよその呼び名!」
「えー? なんでー。」
「何でだよりんりん?」
「止めろつってんでしょ!? 昔それで散々からかわれたんだから!」
【チャ~ン、チャ~ン♪ チャチャチャチャチャ~ン♪】(愛と勇気だけが友達の、孤高のヒーローの歌)
「何をピンポイントでタレ流してんのよ七代目ええええええええええええっ!!?」
「鈴、大丈夫だ。俺と一夏もお前の友達さ! これで四人だ!」
「私も、もう友達だよー。だから五人ー。」
「勝手にあたしを寂しい人間にするなああああああっ!!」
【ああ胸が寂しかったんでしたね】
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おいコラ、このポンコツ今なんつった?」
「おおう、中々言うじゃないか相棒!! 俺も負けてられないと思う次第だがへい鈴さん何故足を振りかぶっているのでせうかちなみに相棒は俺の腰の下半身に巻かれているという事を想定した上で冷静に考えてくれると嬉しいなと愚考致しますが待って止めてお願いしますその蹴りの先には紳士のデリケートゾーンがあるんだあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
「りんりん体が柔らかいんだねー?」
「のほほんちゃん止めてええええええ!!? ピンチよ!? 紳士のデリケートゾーンがピンチですよ!? 数年後にオカマバーにビックママとして俺君臨しちゃうよ!? 待て落ち着「このポンコツ――――【ヒラリ】って避け・・・!? あ!?」 ああもうどうにでもなれー(逃避)」



・・・・・この日。IS学園に入学して初めて。私はだんだんの声にならない絶叫を聞いた。




その後、壁に手を突きトントン小気味に跳んで耐え忍ぶだんだんの背中を、りんりんと一緒に撫でてあげました。

りんりんも「ご、ごめん! ごめん弾!」と、だんだんに謝ってたねー。・・・だ、大丈夫~? だんだんー?

そんな私達に、脂汗をびっしり浮かべ、青白く苦い笑顔を浮かべてサムズアップするだんだんが、妙に輝いて見えたのは気のせいじゃないと思った・・・・・・・。









そして―――――――――――――・・・・









「・・・・・・・んにゅ・・・・・・?」


―――― 深夜。


どうしてか分からないけど、私はいつもなら絶対に眼を覚まさない時間に眼を覚ましてしまった。


「・・・・・・・ん・・・・う・・・・?」


うー・・・・・?
ぼけーっとする頭で、私は自分の隣に眼を向ける。

そこで小さな寝息をたて、ぐっすりと眠っていたのは・・・・・・


「・・・・・すぅ・・・・・・・・・・すぅ・・・・・・・・・・・・・」


ツインテールをおろして、寝間着姿で私の手を握って眠るりんりんの姿だった。

んー・・・・・・・・・・。
そぉいえばぁ~・・・・・確かりんりんに、今日は泊っていってよーってお願いしたんだったね~・・・・・。


あの後、流石に就寝しなきゃ不味い時間になっちゃって。
お開き~ってなった時に見えた。りんりんの寂しそうな顔がほうっておけなかったんだ~・・・・・。


えへー、お友達になった記念に~って言った時のりんりんの驚いた顔が、可愛かったな~・・・♪


だんだんはというと。


『よし! じゃあ鈴。俺のベット使え! 安心しろ! 俺はバスルームで寝るから心配無用!』
『何でバスルーム!? 止めなさい! 他にあるでしょうが!』
『ふむ? なら『河』の字になって一緒に寝るか? よし待ってろ人数集めてくる』
『なんで『河』の字!?』
『―――【ピ】あ、もしもし? 一夏、実は今よー』
『何でよりによって一夏呼ぶのよおおおおお!!? 気まず過ぎるでしょうがあああああっ!!?』
『わははははははははははははは!!!!!!!』


って、相変わらずのだんだん節を連発してたけどね・・・・・

・・・・でもきっと、おりむーに電話したのは。りんりんの怒鳴り声を聞かせて、元気になった事を暗に伝える為だと思う。

んー・・・・だんだんはやっぱり優しいな~・・・・・・・♪

その後は結局、私とりんりんが一緒のベットで寝る事で治まったけど・・・だんだんとしてはちょっと不本意そうな様子だったよー。
だんだんは紳士さんだからねー。私達が二人で一つベットで寝るのに、自分だけベットを一人で使うことに抵抗があったんだと思う。

そんなに気にしなくてもいいのになー・・・・・。

そこまで寝ぼけた頭で思った私は、何気なくだんだんが気になって隣のベットに視線を移した。
りんりんを起こさないように、ゆっくりと顔を動かし――――――――――――・・・・






――――――――― ベットの上で沢山のパネルを展開し、それらを真剣な瞳で眺め、操作するだんだんの姿を見た。





ベッドの上で胡座をかいて腕を組み、一つ一つのパネルの内容を確認。
時折口元が動いてるのが見えるのは、きっとごたんだごーと何か話しているんだと思う。
けれど、その度に眉を顰めているから・・・・きっと、だんだんが欲しい返答じゃなかったんだと思う。

それでも、だんだんは次々とパネルを操作し、確認し、必要な事項を保存し、そして再び眉を顰めては苛立ち気に頭を掻いて操作を続ける―――――――・・・。


そんなだんだんの様子を、私は気付かれないようにじっと眺める。


寝ぼけは何処かに消えてしまい。私は唯一心に、だんだんの横顔を眼に焼き付けることに没頭する。

さっきから心臓がドクンドクンと高鳴って仕方ない。
だんだんに気付かれちゃうかな・・・
胸を抑えるけど、一向に治まってくれない・・・・・どうしよう。


お願い治まって。
もうちょっとだけ、今のだんだんの姿を見ていさせて・・・・・・。


そんな私に気付く様子もなく、作業に集中するするだんだんにホッとしながらも。だんだんから眼が離せない。


ど・・・どうしよう・・・・・・・明日、絶対に寝坊しちゃうよ~・・・・・・・・(/////)


それから数分経っても、だんだんは作業に没頭し。私はだんだんに気付かれないように横顔を眺め続けた。

その中で変化した事と言えば・・・・だんだんの表情が険しさを増した事。
それはきっと、だんだんの望むモノが得られなかったから。


・・・・・・だんだんが困ってる。


何を調べてるの?
それは誰の為なの?
どうしてそんな苦しそうなの?

そんな顔しないで欲しい。

何が知りたいのかも、それが誰の為なのかも分からない。そしてそれは、私が知る必要もないことかも知れない。


だけど・・・・・


―――――― 私は、だんだんの力になりたい。
―――――― 困ってるだんだんの為に、私が出来る事をしてあげたい。 


そんな考えが、純粋に私の心に生まれた。


ねぇだんだん。


私が、だんだんの為にしてあげられる事って・・・・何かないかなぁー・・・・・?




結局。

だんだんの横顔を眺めていたけど、いつの間にか眠ってしまった私は寝坊してしまい。
だんだんにいつものように起こされ、寝ぼけて抱きついてしまったりんりんに怒られるという朝を迎えることになっちゃいました。


あ・・・あうあ~~~~・・・・・ねぶしょくだぁぁ・・・・・・・・。

う・・・・う~~~~・・・・


「もーっ! だんだんのせいなんだからーっ!(真っ赤)」
「なんでさっ!?」
「あんた何したのよ? ほら言いなさいよ、裁いてあげるから。」
「ふむ? まさか引き出しの中のエロ本の事かね? そのことを注意しようかどうか迷って寝付けなかったとか?」
【ああ、アレですか。】
「あんた何持ち込んでんのよ!? というか知ってんなら注意しなさいよ七代目!?」
「ちなみに厨房にもっと凄いのがあるぜ!?」
【ああ、それもでしたね。】
「オープン過ぎるわああああああっ!? そして何容認してんのよ!? このポンコツIS!! 処分よ! 全部処分!!」
「む~~~~~~っ!! しょっ処分だーっ!」
「昨日ゴミに出したが?」
「「潔い(~)!?」」


そんな朝の一幕を過ごしながらも。
私は何か自分に出来る事を探そうと決めたのでした。

私も頑張るよ~、だんだん♪




【セシリアSIDE】

【・・・以上、お天気でした。では次のニュースです。今から二日前、IS操縦者育成教育機関『IS学園』にて、『IS学園』の校門前に数十人の男性が下着姿で倒れていた事件についての新たな情報が入りました。】
【世も末ですね。】
【この事件は、IS操縦者育成教育機関『IS学園』の校門前に下着姿の男達が倒れていると地域住民から通報が入り発覚した事件で、『IS学園』に侵入を試みたのではないかと駆けつけた警官が判断し、現行犯逮捕しました。】
【日本の警察も中々やりますね。】
【調べによると、男達は全員一概に『我らは秩序ある真の【紳士と淑女の世界】の為に行動したのだ!』と、支離滅裂な言動を繰り返すばかりで捜査は難航しているとの事でしたが、この男達の中の一人が女性物の下着を握りしめていたことから、集団での下着の盗難を目論んだ線が濃厚となった模様です。】
【最悪ですね。】
【この事に対し、男は犯行を否定しており。『奴が握らせたに違いない! 調べてくれ! それはきっと新品だ!』と訴えているようです。】
【何言ってるんでしょうか?】
【この事件に対し、政府側は『IS学園』のセキュリティーシステムの不備を問題視し、強化及びセキュリティーの再メンテナンスを検討。各国を交えた会合での議題の一つとして取り上げる事を決定しました。】
【心配せずとも大丈夫でしょう。・・・・・・あそこには彼がいるのだから・・・・!!】
【では次のニュースです。日本の農家にツチノコが大量発生し、駆除に対する効果的な―――】
【『DANSHAKU』―――――――――――――ッ!!】
【―――― ふぅ。えぇとスタンガン何処だっけ・・・? え? 待ち合い室? 今すぐ取って来てくれる? ああ、それから青酸カ―――】

【――――――――― しばらくお待ちください。――――――――――】


食堂。
昼食時わいわいと人で溢れる中、私はテレビから流れるニュース耳を傾けながら優雅な食後のティータイムを過ごしている所です。

「・・・・・ふぅ。全く、最近は嫌なニュースばかりですわね。」

紅茶を一口飲みながら、私は溜息を一つ吐いた。

全く、この学園に侵入を試みるなんて・・・これだから男という生き物は。・・・・・・何か妙な名称が聞こえた気がしましたが気のせいでしょう。ええ、気のせいですわ絶対に。

朝のSHRでも、先生方から十分な注意をするよう念を押されましたが、まぁ気にする事でもありませんわ。

もし現れたとしても、返り討ちにして差し上げますもの。


でも・・・・今はそんな事はどうだっていいですわ。今、私が頭を悩ませる事と言えば・・・・・・・・・・・はぁ。

溜息をついて、私は紅茶の入ったカップをテーブルに置く。


「・・・・・・最近、一夏さん達と時間が合いませんわね・・・・・」


今から二日前。

そう、あの凰鈴音という中国の代表候補生が転入した来た翌日の事。

登校して、一夏さんの元に足を向けたら。

豆腐を頭にぶちまけて気絶している一夏さんの姿に絶叫し。

その一夏さんの手を取り、豆腐の水で机に『しんし』とダイイングメッセージを自らの手で書かせている五反田さんの姿に唖然とし。

そんなお二人の様子に『はんにんは、おまえだー♪』と楽しそうな布仏さんに脱力したあの日からでしたわね。

・・・・・何故かしら、急に空を眺めたくなりましたわ。

ま、まぁとにかくです。あの日から、妙にお二人共落ち着きがなくなってしまいました。

それというのも。
五反田さんが休み時間、昼食時間、そして放課後も姿を消してしまい、ここ数日会話らしい会話ができなくなってしまったからです。

そのせいか、いつも行動を共にしている一夏さんが、五反田さんの事を気にしているようでソワソワと落ち着かない上に、調子が出ないご様子なのです。

今日も食事を誘った所『・・・悪い、今はちょっと一人で考え事したくてさ』と断られてしまいました。

きっと五反田さんに何かご相談があるからなのでしょうけど・・・・その五反田さんがいないのですから仕方ありません。

本当なら私に相談してほしい所なのですが・・・・・はぁ。

また一つ溜息をつく。

・・・何を言っているのでしょうか私は。私など相談される程の大層な人間ではないというのに。


「・・・・・・はぁ・・・。」
「・・・・・・ふぅ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

「「・・・・・・・・・ん?」」


溜息をついた所。
私以外の溜息をつく存在に気が付き、そちらに目を向けてみました。

するとそこには、きつねうどんをテーブルの前に置き、こちらに同じタイミングで視線をむける篠ノ之さんの姿がありました。

お互い視線が絡み合い・・・・・・・・


「・・・・っはあああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~・・・・・・」
「・・・・・・・・何故私の顔を見て、今まで以上に深い溜息をつくのかご説明願いたいところですわ篠ノ之さん・・・・・!!?」
「・・・・・いや、特に意味は無いが・・・・なんとなくだ。」
「凰さんには舌打ちされた上ハズレ扱いされるわ、貴女には盛大に溜息つかれるわ最近私の扱いが酷くありません!?」
「・・・何を言っているんだお前は・・・?」


そんな私に、意味が分らないという表情を向ける篠ノ之さん。
くっ・・・!? 貴女は私と同じような扱いを受けていないからそんな事が言えるのですわっ!! 色々とキツイ上に結構傷つくんですのよ!?

そんな私の様子を見ていた篠ノ之さんでしたが、不意に顔を曇らせ私に言葉を投げかけてきました。


「それに・・・・私の溜息の理由など、お前だって知っているだろう。」
「・・・・・それは・・・・まぁ。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「「・・・・・・・はあああぁぁ~~~~~・・・・・・・・」」


二人同時に溜息をつく。
私たちの様子に、周りが妙に訝しげな視線を向けてくるのが分かります。
・・・・すみません。楽しい昼食時中だというのに。

それでも私と篠ノ之さんの表情は変わらず曇っている。
それというのも―――――――――――――・・・・




『―――あの馬鹿女達にハブられてたじゃないっ!! あいつら揃いもそろって一夏一夏一夏っ!! 弾が隣にいるって言うのにまるで眼中にないみたいな態度で!! 何を言っているのかも理解しようともしないで!! 自分の事ばっかり!! 弾が何も言わない事を良い事にあいつら――――・・・!!!』




―――――― あの日の凰さんの怒声が頭をよぎった・・・・・。

思い返し、二日経った今でも。
彼女の言葉は、私の心に突き刺さって来る。


あの日、一夏さんの特訓を終えた私は。

まだピット内にいるであろう一夏さんの為に飲み物とタオルを用意して意気揚々と向かったのでした。

そして偶然、部屋に戻る途中の篠ノ之さんと遭遇してしまい『唯の差し入れですわ!』『そんな物必要ない!』『私がしたいからしてるんですの!』『媚びるというのだそれは!』『なんとでも! 貴女はさっさと部屋にお戻りになればよろしいじゃありませんの!?』『わっ私も行くぞ!』『何故ですか!?』『わっ忘れ物をしたのだ! 取りに行くだけだ!』と、互いに口論しつつピットへ赴き――――・・・・


彼女の怒りを知り。

己の愚かさを知り。


――――― 私たちは、静かにその場を離れたのでした。


なんて酷い事をしてしまったのでしょうか。

無意識だったとしても、そんな意図はなかったと訴えても、そんなモノ言い訳にしかなりません。

彼女が食堂から去った後に見た。あの五反田さんのいつもの笑顔が眼に浮かぶ。

私達は、あの時彼の寛容さに、咄嗟の言葉に助けられたという事に今更ながら気付いたのです。

自分の愚かさが恥ずかしい。自分の無神経さに目眩がする程落ち込みました。

けれど・・・・・私が一番、自分自身で信じられない事は・・・・・・


なら何故、あの時彼は言い返さなかったのですか? 自分の事だというのに、他人のことばかり気遣って・・・言い返さない彼も悪いのですから自業自得では?


―――― ふと、そう考えてしまった事だ。

凄まじい自分の考えの醜さに、嫌悪感が湧きでた。

なんてことを考えているの!?

そう自分に言い聞かせても、心の片隅ではその考えを捨てられない自分がいる。

そして何故、こんなにも苛立っているのか。私には分からなかった。

何故? どうして? 自分に苛立ち、五反田さんのあの笑顔に苛立ち。
分からない。

彼に対する罪悪感、そして謝罪をしたいという気持は確かにあるというのに。
それにストップを掛ける私がいる。


私は一体どうしたというの・・・・・?


そんなこんなで・・・・私は結局ズルズルと考えこんでしまい。

二日経った今でも、五反田さんに謝れないでいる。

・・・・はぁ、それも言い訳ですわね。

本当に謝る気があるなら、五反田さんを探すべく行動すればいいだけなのですから・・・・それをしないということは・・・・私は彼に謝るのを心の何処かで拒絶しているから・・・・。

・・・・・はああぁぁ・・・・・・私って・・・・・・こんなにも心の狭い女でしたの?

そして同時に思う。あの五反田さんの表情を、あの気の抜けた笑顔を思い出して、何かが心に引っ掛かる事に。

そう、その引っ掛かりさえ取れれば・・・・・きっと私は彼に謝ることが出来る。

でも分からない・・・・・何が引っ掛かっているのか。

脳裏に浮かぶ、彼の行動。

自分よりも、周囲を気にしているあの態度。

そして・・・・・私を一番苛立たせる要因である・・・・あの気の抜けた表情。

男なのでしたらもっとシャンとしたらどうですの。

なぜそんなにヘラヘラとしているのですか。

どうして酷い事言われて笑っていられるのですか。

何故言い返さないのですか。

何故自分の事より、周りを気にするのですか?

それではまるで――――――――――――・・・・・







『―――― セシリア。』







「―――――――― ッ!?」 


ガタァン―――ッ!!


「―――― なっ!? なんだ突然!! どうしたのだ一体!?」
「・・・・・・・・・・・・ッ!!」
「お・・おい? ・・・・どうしたのだ? 顔色が悪いぞ・・・?」


椅子を倒して乱暴に立ち上がるという、本来なら決して淑女としてあるまじき行為であるにもかかわらず、私はその事に考えが及ばない程に動揺を隠せなかった。

耳元に心臓があるかのようにドクンドクンと鼓動が聞こえる。

篠ノ之さんが、気遣うような視線を向けるも、私は繋がった一つの答えに驚愕し・・・・・そして全ての感情が一つへ集約するのを感じた。


「・・・・あ・・・ない・・・」
「・・・む? 何だ? 今なんと言ったのだ?」


うわ言のように、小さく呟く。少しづつ、少しづつ私が今すべき事を口にする。


「・・・あ、会わないと・・・・。」
「会わないと・・・・・? 誰に?」
「会わなきゃ・・・・彼に、五反田さんに会わないと・・・・!!」
「弾に? しかし、私も先程まで探してはいたんだが・・・・何分行動に一貫性がなく、今も何処に居るのか――――」
「そんな事関係ありませんわっ!! 絶対に探し出します!!」
「ど、どうしたのだというのだ突然に!?」
「篠ノ之さん! 五反田さんを探すのを手伝ってくださいっ!!」
「今からか!? わ、私は今からこのキツネう――――――――――・・・!!」
「さぁ!! 行きますわよ!!」
「ま、待てええええ!? だから私は今から昼食だと言っておろうがっ!!?」
「昼食一つ抜いたくらいで死にはしませんわっ!! さぁ早くっ!!」
「死ぬぞ!? 次は織斑先生の実習なんだぞっ!? 食事を抜くなど自殺行為そのものではないかああああああああああっ!!?」
「絶対に見つけますわ!!」
「待て! せめて油揚げだけでも! いや汁の一口だけ・・・・ってだから待てえええええ!! ぐぬぬぬ! わ、私が引き摺られているだと!? い、一体その体の何処にこんな力があるのだ!? これが代表候補生の力だとでもいうのかあああああああ!?」


篠ノ之さんを引きづりながら、私は食堂を後にする。


繋がった答え。

私が、何故彼に苛立ち、同時に自分にも苛立っていたのか。

そして・・・・・・何故こんなにも、五反田さんに会って、話しをしたいのか。







―――――― お父様・・・・っ!!







彼は、五反田さんは・・・・・・・似ているのです。

あの笑顔も、行動も、全部とは言いませんが・・・・・けれど、似ているんです。


私が軽蔑した人に。
私が苛立った人に。
私が情けない男だと思った人に。


―――― けれど、大好きだった人に。


話したい、五反田さんと。
謝りたい、五反田さんに。
知りたい、五反田さんを。
そして理解したい。


貴方を通じて―――――――――――――お父様の事を。


もう知る事が叶わないと思っていた。





――――――――――――――― 本当のお父様の姿を。





私は、逸る気持ちをそのままに、廊下を進んだのでした。





【虚 SIDE】


「おねぇちゃあぁ~~~~~~~~~~ん!! へ、へるぷみー・・・・! えぐえぐ。」
「・・・・どうしたの本音?」

昼休み。
生徒会室で仕事をしつつ、その合間合間にサンドイッチを食べ昼食をとる私に、生徒会の招集以外に、こちらに寄り付かない本音が珍しくやって来た。

それもお弁当箱を持って、泣きながら。

・・・・・・はぁ・・・・今度は何?
少々呆れつつも、私は本音を椅子に座らせ事情を聞くことにしました。

それでもパカっとお弁当の蓋を開け、唐揚げ一つ摘まんで口に含むと。いつも通りほにゃっとした笑顔に戻る。
・・・・・・相変わらず単純ね。


「うまうま~♪ だんだん特製おべんとーはおいしいよー!」
「・・・・・・・・・・・(ピク)」
「あむあむ。」
「・・・・・んんっ! 本音? それは五反田くんが作ってくれたの?」
「ん~? そだよー。最近はいそがしーから・・・・一緒にご飯・・・・・食べ・・・・うええ~~・・・・・。」
「ど、どうして泣くのよ? ほらこれで拭きなさい。」
「えぐえぐ・・・ちーん・・・う~。」
「それで? どうしたの一体。」


少し鼻の赤くなった本音に、もう一度訪ねる。
すると本音が、また大きな瞳を潤ませ口を開いた。
・・・・・それから合間に挟んでお弁当食べるのはやめなさい行儀が悪いわよ。


「う~・・・だんだんがねー? はぐ、何か調べ物をしててー。んぐ、はむはむ・・・忙しいから・・・あむあむ、いっ一緒にご飯食べることが減っちゃって~・・・んぐ。最近はりんりんと私にお弁当手渡した後にー、はむんぐ・・・何処かに行っちゃうの~・・・あむあむ、うまうま。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

―――― ゴチンツ!!(愛の鉄拳)

「―――― っうええ~~~~・・・!? い・・いったあああぁぁぁいぃぃぃっ!」
「食べるのは後にして、ちゃんと話しなさい。」
「ご・・・ごめんさいぃ~~・・・・」
「全く・・・。」
「う~~~・・・でも・・・なんだかいつもより威力があったようなー・・・・?」
「気のせいよ(サラリ)」


そんなことある訳ないでしょう? いつもと同じです。
全く人聞きが悪いこと言わないで欲しいわね・・・・・。
決して、羨ましいとかそんな事思っていません。

ええ、思っていませんとも。

本音が訝しげに私を見るけど・・・・あら? 何かしら? 何か言いたい事でもあるのかしら・・・・・(スッ)


「な、何も言ってないよぉー、言ってない~。」
「・・・コホン。それで? 五反田くんがお弁当を手渡してくれた後、何処かへ行ってしまって寂しい・・・・って話なの?」
「んー・・・それもあるけど~。」
「・・・・?」
「うー・・・・だんだんが、困ってるから・・・・私も何かしてあげられないかなーって・・・思ったの。」
「・・・・・・そう。」
「そうなのー。」


そう言って、しょんぼりする本音に、私は小さく苦笑する。
本当に・・・のんびり屋の上にお人よしなんだから。

それにしても、あの五反田くんが困っているという話を聞いて少なからず驚く。

五反田くんは、何事もそつなくこなす印象が強い。
そんな彼が困っている事態というのは・・・・・一体どんな事を調べているのかしら。


「困っている事・・・・本音? 五反田くんは何に困っているの?」
「んー。分からないー。」
「・・・・・・・・・・・はい?」
「それが分らないからー・・・私も何をしてあげればいいのか分からないの~!」
「な・・・なんなのそれは全く。はぁ・・・・」
「おねえちゃん~~~~~。へるぷみー。」
「それで私にどうしたらいのか聞きに来たって訳なの?」
「そー。」
「・・・・・・この娘は全く・・・・はぁ。」


鋭いのか、鈍いのか。
何に困っているのか、それが分らないと私にもどうしたらいいのか教えてあげられる訳がないでしょう。

再びしょんぼりとした本音に、私は内心呆れながらも。
とりあえず机の書類から意識を外し、本音に体ごと視線を向ける。


「まずは、五反田くんに話を聞くべきでしょう? 何に困っているのか、何を調べているのか。まずはそれが分らないと手の打ちようがないでしょう。」
「んー・・・でも、なんだか話題を反らされて気が付いたら、パフェ食べてましたー♪」
「誘導されてどうするのよ・・・・はぁ。」
「んー・・・でもそれって・・・だんだんが私に迷惑がかかるのを嫌がったからだと思う~・・・・むー、そんな事気にしなくてもいいのに~!」
「成程ね・・・。でも、それじゃいつまでも先に進めないわよ?」
「が・・・頑張ってるんだけど・・・うわーん! だんだんお菓子で誘導は反則だよ~~~~~~~~~。」
「お菓子でつられてどうするのよ貴女はっ!? 全くもう。」


頭を両手で押さえて『にゃあ~~~~~』っと叫ぶ本音に呆れつつ、私は溜息をつく。
この子は本当に・・・・。

それにしても、五反田くんは一体何を調べているのかしら・・・・?


――― そう思ったその時。


スパアァン!!(扉オープン)


「―――― 話は聞かせた貰ったわ!!」
「「会長(~)っ!?」」


パンッと扇子を広げ『盗み聞き』という文字と共に現れた楯無お嬢様。

・・・いえ、それはいいのですが。盗み聞きって・・・・。

そのまま生徒会室に入って来たお嬢様は。
私達に近づくと、そのまま流れるような手つきで本音のお弁当から唐揚げを一つ取り口に含む。

―――って、何をしてるんですか何を。


「~~~~~美味しい! 流石ダーリン! 料理の腕も大したものだわっ!」
「あー!ああ~~~!! 唐揚げっ! さ、最後の一個に取っておいたのに~~~!! うわああああん!」
「・・・・か、会長。本音が割と本気で泣いちゃったんですが・・・?」
「え? あ、あれ? そんなに?」
「うえええぇぇ~~~~~! だんだんが作ってくれたのに~~~~~っ! 私のなのに~~~~~~~~~~っ! うええええええええぇぇぇぇぇん!!」
「もしかして・・・・ダーリン分が足りてなくて、本音ちゃん結構まいっちゃってたの!? あ、あら~。これは不味い事しちゃったわね~・・・(汗)」
「な・・・なんですかそれは?」
「ダーリンと一緒に居ることで補充される素敵成分よ? ダーリンと親しければ親しいだけ、ダーリン分がないと精神的に弱くなってしまうの。」 
「・・・・そうですか。はぁ・・・」
「んふふ♪ 虚ちゃんの場合は、その成分が足りないから、仕事に没頭して寂しさを紛らわせてるのよね?」
「は・・はい? なっ何を言って「だぁって。この書類まだ処理する必要のない案件よ? 昼食時間に生徒会室に来てやる程の事じゃないと思うんだけどー♪」・・・・・そ、それは・・・」


会長の言葉に、少し赤くなる。

い・・・いえ、別に寂しいとかそんな訳ではなくてですね?

ほ・・・ほらあれです。は、早いうちに片付けていた方が急な事態に対応できるじゃないですか。

ですから別にそんな意図は決した私にはなく―――・・・・

そんな私の思考もお構いなしに、お嬢様がニコニコした笑顔で話を続ける。


「ま、それだけダーリンは周囲に与える影響力が半端じゃない存在ってことよ♪ 知れば知る程夢中になるよ。あの子は・・・ねっ♪」
「・・・・・コホンっ!」
「ひっく・・・うううう~・・・ぐしゅ・・・・ハム・・・・あむあむ・・・・。」
「ああ~~~・・・ごめんね本音ちゃん~。謝るから許してちょうだい。」
「・・・・む~~~~~~~~っ・・・・!!(お弁当ガード)」
「もう獲らないってば~。」


頬を膨らませ、お弁当を両手で固めながら楯無お嬢様を威嚇する本音。

そんな本音を微笑ましげに眺めるお嬢様。

そんな二人に視線を向けつつ、私は話を戻す。


「それで会長? 先程話を聞いたとおっしゃいましたが?」
「あ、そうそう。それなのよ。」
「・・・・む~?」
「もう、本音ちゃん! そんな面白・・・大事な話をどうして早く教えてくれなかったの!?」
「え~・・・・?」
「今副音声が・・・・?」
「気にしちゃ駄目よ♪ まぁそんな事はともかく!」


パンッ!! 

もう一度、お嬢様が扇子を開き『助太刀』の文字と共に、高らかに宣言する。


「これより! IS学園生徒会は、ダーリンに全面協力する事をここに宣言します!!」
「・・・・え~~~~~~~っ!?」
「か・・・会長!?」


突然の宣言に、私も本音も驚いの声を上げた。

ぜ・・・全面協力って・・・・!!

はっきり言うと、それはとんでもない事です。

知っての通り、IS学園生徒会の力は学園内では相当の力を持っています。そして、さらに言えば、生徒会長であられる楯無お嬢様は、更識家現当主でもあります。

IS学園生徒会が全面協力。

つまりそれは、更識家の力も使う事も視野に入れた上でのという意味になります。
い・・・いくらなんでもそれは・・・・!! 

事の大きさに私も本音も驚くけれど。そんな私達に、楯無お嬢様はウィンク一つしてニコリと笑う。


「んふふふ♪ そんなに驚く事じゃないわよ? ちゃんとこちらにもメリットはあるんだから♪」
「メリット・・・ですか?」
「そう。IS学園生徒会の力をダーリンに魅せるいい機会になるし・・・んふ♪ 私達と仲良くすると色々お得だって、教えられるじゃなーい。」
「え・・・えーと・・・?」
「会長・・・・・まさか本気で・・・・?」


私の呟きに、会長は――――・・・楯無お嬢様は、瞳の輝きを一層強くし微笑む。

獲物を狙う鷹の如く。

悠然と、堂々と野を行く王者の威風をたたえながら、会長席に腰をおろす楯無お嬢様。


「――― ねぇ二人共。覚えてる?」


にっこりと笑うお嬢様に、私も本音も呑まれて。
ただ、自分達の主の姿を瞳にうつし―――――――見惚れる。


そうでしたね。
お嬢様は・・・・・昔からそうでした。

本音がほにゃっとした笑顔を向け。
私が小さな苦笑を洩らした事を確認した楯無お嬢様は満足そうに頷き――――・・・・。







「私って、本当に欲しいモノを手に入れる為なら・・・・出し惜しみなんてしないの。最初から自分が出せる最高額を啓示するってこ・と♪」


そう、楽しげに言葉を漏らした。





後書き

お・・・・遅くなりました・・・・すみません。まさかここまで更新が遅れるとは・・・さらに言えばまだバタバタしてまして、SS書く時間が取れないという悪循環におちいっております。まぁそんことはさておき、いよいよ動き出した弾に生徒会メンバー。さらにポニー&パッキンも交えて、鈴救済に向け本格始動です。さらに言えばパッキンも救済なるかもです。さて次回、情報収集に奔走です。手札が揃うのはまだ先か・・・? あー・・・早くなんとか落ち着かせないと・・・・。番外編で繋ごうかと思いましたが・・・・一巻軸終了させてからじゃないと切りが悪いのでやめときました・・・・・。



[27655] 第十九話  光明一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2011/10/30 14:57
ちわっす。最近シリアス続きで糖分足りてない五反田 弾です。


いやもう本当にどうしたもんですかねー?
二日前の出来ごとを思い出してみたものの、鈴の暴走を鎮めた後、せっかくいい感じになるかと思いきや、一夏のアホの鈍感ぶりのお蔭で台無しです。

まぁ、その次の日に豆腐を一夏の頭にブチ付けてやったがね。(その後、気を失った一夏の口の中に、豆腐がもったいないから醤油と一緒に流し込んでやった。)
あの野郎。木綿であった事に感謝しろよ・・・!!

まぁ~鈴の方は俺もフォローいれたし、のほほんちゃんの癒しパワーのお蔭もあって何とかなったが・・・・根本的な解決にはなっとらんのもまた事実。

そしてさらに厄介な事態も発生したりするから、もう本当どうしろってのよ。

厄介な事って言うのは。
あれから二日経ったものの、一夏と鈴の間にどこかぎこちない空気が流れている事だ。

いきなり睨みつけてそっぽ向くとか、そんな分かりやすい事なら別に構わんのだが・・・鈴が一夏と視線が合っても、どこか気まずそうに視線を泳がせ、一夏の奴もそんな鈴の様子に何て声をかければいいのか分からないって態度が目立つ。

鈴は、俺の言葉を真摯に受け止めたから一夏の事を友人としては大目にみているものの、女としてはまだ許せずいる為、どう対応したらいいのか分からないって感じで。
一夏も一夏で、鈴を泣かせた上に、その理由も分からず・・・謝りたいものの、原因も分からず謝る事が出来ない為、行動出来ずに居るって感じだ。

ふむ、まぁ一夏にしてはいい傾向だ。
とりあえず謝ろうとは考えず、しっかりと原因を考えて、自分の非を明確にした上で謝ろうと考える姿勢は好ましい。うむ、やれば出来る子なんです。
しかし、恋愛面激鈍な一夏が、理由に気付いて本当の約束の意味に考えが至るのはとんでもない時間を有することは間違いなしだ。

うーむ・・・手を貸してやりたいが・・・これは一夏一人で気付かねばならん問題だから、俺は下手に助言できん、一夏の為にもならんしね。
それに俺も俺で忙しいからな~・・・頑張れ一夏。

まぁ、いきなり暴発する様な事態になる事はないから今は二人共様子を見ておくだけで十分だろうね。
しばらくお互い色々と考えておくんなせぇ。俺も俺で調べなきゃならん事が多くてねー。ある意味では二人の今の現状は俺にとって都合が良いといえる。

それでも、いつまでもこの空気のまま放置はしておくのは不味いから、俺も迅速な情報収集が必要とされる為、少々焦っている感はいなめない。
おいおい、頼むぜ二人共。あんまり急かさないでほしいんだがなー・・・。

ぬぅぅ・・・!! 後少しなんだが・・・・確信がもてんと行動に移せん。もし勘違いでいらん手札を使っちまったら大惨事にもなりかねんからな。慎重にいかんとねー?


さて、長い前置きはこのぐらいにして。
今現在、俺は何処で何してるのかというと――――――・・・・。



五反田 弾! 只今、IS学園のPCルームで情報収集に勤しんでおります!!



流石に『七代目五反田号』頼みの情報収集じゃ限界が見え始めた俺は、IS学園のPCからアクセスを掛け情報収集をする事にしたんだが・・・・・

むぬぅ・・・・!! やはりガードが固くて欲しい情報まで辿りつけんな。
流石はIS学園、簡単にはいかんか。 
『七代目五反田号』も、何かとアクセスを試みてくれているんだが・・・どうやら成果はないっぽい。

全く参ったねー・・・・?
とりあえず、椅子の上で胡座をかいて相棒と密談を繰り広げてみる。


「むぅ・・・やっぱりそう簡単にアクセスできんか。」
【あまり派手な侵入を試みると危険です。二代目。】
「流石淑女の花園IS学園。情報漏洩対策は万全だなー。」
【この二日で自分が集めたモノでは不足ですか?】
「いやー、確かにアレでもいいんだがな~? 俺としてはもっとガチッとした確信持てる情報が欲しいのよね。ほら、何か偏りが多いじゃんこれって。」
【そうですか。・・・・・・・・・折角集めたのに。】
「・・・・・・いやうん、感謝してるぞ?」
【・・・折角集めたのに。】
「大事なことだから二回言ったんだね。分かります。」
【・・・・・・頑張ったのになー。】
「どうしろってのよ!? 役に立たなかったとはお兄さん言ってませんよ!?」
【あ~あ。】
「何が望みよ!? このいやしん坊め! どうしたら機嫌直してくれんの!?」
【愛してるって777回言ってください。】
「口が攣るから7回にまけてくれ!」
【ヘイカモン】
「愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! どうだ!?」
【歴代達は?】
「・・・・言葉じゃ表現のしようがねぇよ・・・・(慈愛の瞳)」
【・・・・・・もういいもん・・・】
「しまった! よけいに拗ねちまった! 相棒機嫌直してくれよー。」


拗ねて黙ってしまった相棒を宥めつつ、俺はキーボードを操作する手は止めずに作業を続ける。

・・・・最近、相棒が見返りを要求してくるんですが。

何でこんな子になっちゃたのかしら? お兄さんは悲しい。
お悩み相談室にそろそろ電話掛ける時期だろうか? 昼食時当たりの時間帯に。


まぁ、それはおいおい考えるとして。
さてどうすっかね~・・・・・?
俺一人の情報収集もそろそろ限界が見え始めてきた。
ここは誰かの助けが必要となる場面だが・・・・・気が進まんのよね~・・・。
ええいクソ。情報収集に特化した紳士『セバスチャン』とコンタクトを取れさえしたらこんなことには・・・・!


「ふぬがああああ! ええいクソ! おのれ『ドーベル』! いらん時に余計なことしやがって! 空気読めってんだ! これだから最近のなんちゃって紳士は!?」
「・・・・・・・・(カタカタ)。」
「全く! 選抜試験はどうなってんだ? あんなのが簡単に入れるようなぬるい試験じゃない筈だぞ!」
「・・・・・・・・(カチカチ)。」
「一次選考から二次選考! そして最終選考! 三つの難関を越えてようやく手に出来る【世界紳士連合】の会員証は、あんな野郎思考の輩が持っていいもんじゃないというのに!!(バァン!!)」←勢いに任せて机を叩く。
「・・・っ!?(ビクッ)」
「嘆かわしい! 実に嘆かわしい! 全くマジありえねー。」
「・・・・・・・?(ブルブル)」←ちょっと怯える。
【相棒。気持ちは分るが落ち着け。興奮しすぎて周りが見えてないとは相棒らしくない。】
「む? 七代目、何の事だ?」
【右手をご覧ください。】
「ふむ? (さっと右手を眼の前に持ってきて眺める)・・・・手だな。」
【右向けつってんだ。】
「そう言えよ!」
【言ったじゃん!】
「・・・・あ・・・・あの・・・静かにしてほしい・・・」
「おおう? 何かしらん。この右鼓膜を震わせる保護欲そそる控えめボイスは? 」


聞こえてきた控えめボイスの方角に顔ごと視線を向ける。

その視線上の先にいたのは。
俺と同じくパソコンを使って、何やら難しそうな公式をパネル上に展開してキーボード
操作をしている控えめ雰囲気溢れる可愛らしい水色髪の眼鏡っ娘さんでした。


おおう。こんな可愛い子がすぐ右隣に居た事に気が付かなかったとは。

俺に向ける視線に若干眼が怯えを含んでいる所をみると・・・・どうやらさっき俺が机を叩いてたてた音で怖がらせてしまったようだ。

な、なんたる失態!? 紳士としてあるまじき行いだ!

慌てて椅子の上で姿勢を正し、DOGEZAを行う俺。
ぬぐおおお・・・・・五反田 弾! 一生の不覚なり・・・・!!


「すんません! 驚かせた上に、怖がらせてしまうとは本当に申し訳ない! お詫びに『弾特製悩んだ分だけ具があるのさオニギリ』を差し上げますから許してください! ちなみに中身はどれも安心安全味見済みのハズレ無しだから安心して喰ってくだせい。(ササッと弁当箱を差し出す)」
【美味いよ】
「え・・・?・・べ・・・別に・・・・いらない・・・。」
「そう言わずに! さぁ!」
【さぁ!】
「え・・・ええぇ・・・・・?」
「さぁ! さぁさぁ!」
【喰ってやってください。お願いします。じゃないと今晩あたり相棒泣きます。】
「・・・・い・・・一個だけ・・・。」


俺と『七代目五反田号』に勧められるまま、恐る恐る弁当箱に手を伸ばし『弾特製悩んだ分だけ具があるのさオニギリ』を一つ掴む眼鏡ちゃん。
そのままこちらをチラチラうかがいながら、おにぎりの頭部分をカプリと一口含み食べ始める。

ははは・・・具まで辿りつくまで少々時間を有する模様です♪(慈愛の瞳)

ああ・・・なんだろう。小動物を連想させる仕草がグッときます・・・・!!
何故だ! 俺の魂が雄たけびをあげている!? 一体何故だ!?

モソモソ食べる姿をしばし愛でていたが、ようやく具に辿りついたようで驚いたように僅かに眼を見開いた。
おおう? 何が当ったのかね。


「・・・・・卵・・・・」
「おおう、味付け卵が当たったか! これは何気に美味いのよねー。どうかね?」
「・・・・美味しい。」
「やったぜ相棒!」
【自分のお勧めは『ご飯で○よ』です。】
「捻りがない! つまらん!」
【相棒のお勧め『具がない? 愛が入ってるのさ!』の塩ニギリよりましだ!!】
「具なんか飾りです!! 偉い人にはそれが分らんのです!!」←自らコンセプトを否定。
「・・・え・・・ええぇ・・・?(汗)」


騒ぐ俺と相棒に、何処か戸惑った視線を向ける眼鏡ちゃん。
その表情も可愛らしいね。

しかし・・・・ふむ? なんか誰かと似ている気がするねー。

そのまま眼鏡ちゃんがオニギリを食べ終えるのを待ち、ようやく自己紹介へと行き着く俺と相棒。
ちなみに俺は椅子の上で正座しとります。特に意味は無いがね!(何故か得意げ)


「そんじゃ改めまして。どうも、五反田 弾です。こいつは俺の相棒【七代目五反田号】といいます。よろしくなー。」
【よろしくお願いします。】
「・・・・知ってる・・・・・・。」
「おおう? そいつは嬉しいね! でも何故かね?」
「・・・・・ISを扱える男子の一人だし・・・・名前くらいは・・・・・。」
「それもそうか。」
「・・・・・・それに・・・・・・」
「ふむ?」
「・・・・・本音に・・・・。」
「おおう? のほほんちゃんと知り合い?」
【相棒、もしや彼女は楯無嬢の・・・・・・・】
「・・・・・・っ・・・! ・・・・・・・・・・(フイッ)」←視線をディスプレイに戻し、操作に戻る。
「む? ・・・・・・おお! もしかして――――・・・!!?」
「・・・・・・・・・・・・(カタカタ)」
「君がかんちゃんかっ!!」
「――――――――(ゴンッ!!)―――っ!? っ!?」
「へい、どうしたかんちゃん!?」
【大丈夫ですか、かんちゃん!?】


いきなりキーボードに頭を打ち付けて、額を抑えて悶絶するかんちゃん。
一体何が彼女を駆り立て、こんなリアクションを求めたのだろうか?

いや、額をゴシゴシと撫でる姿も可愛いからこれはこれで良しだが・・・・あー、少し額が赤くなっとるねー。

しばらく撫でて痛みが引いたのか、ちょっと涙目のかんちゃんがこちらに振り向いた。
うむ、萌えます。
成程、先程から俺の魂を揺さぶっている正体が分ったぜ。
かんちゃんの妹属性が、最近妹分の足りてない俺の魂に揺さぶりを掛けていたのだな・・・!

くっ・・・流石ハニーの妹さんだ・・・妹度が半端ねぇぜ!!! まさか蘭以外にこれ程の妹度を持つ娘がいたとは・・・・・・!?

全く、こんなに可愛い妹に嫌われるなんて何してるんだハニーは。 あの未熟者が!!



【楯無 SIDE】

「――――――――――【ドシュウッ!!】 はぐうううぅぅッ!!?」
「―――っど、どうかしましたかお嬢様!?」
「大丈夫ー?」
「がっ・・・!? 胸・・・に・・・急に・・・・鈍い痛みがぁ・・・・・っ!?」
「「・・・・・・・はい?」」


【楯無 SIDE END】



【―――― 相棒、暫定シスコン? の苦悶の叫びをキャッチしました。】
「ふむ・・・? 愛の遠距離ムチが届く位は、妹魂力は回復したか。ハ二―も世話が焼けるね~、やれやれ。」
「・・・・あ・・・・あの・・・・。」
「へい呼んだかい! かんちゃん!」
【額は大丈夫ですか、かんちゃん。】


再び、鼓膜を擽る控えめボイスに即座に反応する俺と相棒。

どうかしたのかね?
何やら訴えるような視線を俺に向けているが・・・ふむ。


「よし、弁護士を呼んでくれ。」
【相棒、色々ブッ飛びすぎです。】
「そ・・・その呼び方止めて・・・・。」
「何がだいかんちゃん?」
「だ・・・だから・・・か・・・かんちゃんて呼ばないで・・・!」
「え・・・そんな、会って間もないのに呼び捨てで呼んで欲しいなんて・・・結構大胆なのね。」
「そ・・・そうじゃなくて・・・!?」
【名字で呼んで欲しいのでは?】
「味気ないが、それで良いならそうするがね?」
「・・・・・・・・それも・・・・ちょっと・・・・」
「ふむぅ。それじゃあ良い呼び名が必要だね~? かんちゃんの本名は『更識 簪』だから~・・・・・・・相棒何かないか?」
【―――― サテライト式 KANZASHI。】
「メチャメチャ強そうだなオイ!? 月は出ているか!?」
「だ・・・だから・・・っ!? は・・・話を聞いて・・・・!?」
「おう、勿論聞くともKANZASHIちゃん!」
【どうかしましたか? お望みならダブルも付けます。】
「・・・・・も・・・・もう・・・・かんちゃんでいい・・・・・・・(がっくり)」
「うむ。やっぱその方が可愛いもんな?」
【良い響きです。】


無事呼び名が決まったことに安心した俺は。
ふと、かんちゃんの目の前に展開されているパネルが気になり少しだけ覗き込んで見る。

―――― なんじゃこれ?

俺には理解不能な公式やら数字の羅列やらが並んでいて、はっきり言って何が何やらちんぷんかんぷんです。
しかし、かんちゃんが先程からこのディスプレイを眺めながら操作していた所をみると、どうやら彼女には理解出来ているようだ。


・・・・・もしかしてかんちゃんって、かなり凄い娘?


俺が若干呆気にとられているのに気が付いたかんちゃんは、少し顔を固くし、そのまま俺を無視して作業に戻った。

・・・・・うん?


【・・・・これは、ISを構築する制御システムの基礎組織の数式ですね。まさかその若さで手を加える技術をお持ちとは御見逸れしました。かんちゃんSUGEEEE!!?】
「おおう? それって凄いのかね?」
「・・・・・・・・・・・・(カチカチ)」
【凄いです。どの位かといえば、盆踊りから驚きの転身でサンバを踊りだすお婆さん並みに凄いです。】
「――――(ゴンッ!)」←再び頭を打ち付ける。
「・・・・かんちゃんスゲェ・・・・・っ!!!?」
「・・・・そ・・・そんな驚き方されても・・・嬉しくない・・・!」
「いやいや、相棒にここまで言わせたんだ。相棒はおいそれと他人を素直に賞賛したりせん捻くれ者やからねー? かんちゃんが凄い子だってのはそれだけで十分理解出来るぞ?」
【色々失敬ですね。】
「・・・・・・・・別に・・・・こんなの・・・・」


・・・・・ふむ?
何やら小さく呟いて再び作業に戻るかんちゃんに、俺は小さな違和感を覚える。
その横顔が、少し暗い事に気付いて、内心頭を捻る。

・・・・・何故か分からんが、思考がネガティブに入ってるのかね?

さっきの一連の流れで落ち込ませるような事あったっけか?
純粋に賞賛しただけなんだが・・・・・誉められるのが苦手・・・・って訳でもないよな?

ふーむ・・・・?


【相棒、一つ提案があります。】
「おおう? なんじゃらほい?」


少し考えこんでしまった俺に、『七代目五反田号』が提案を申し入れてきた。
一体何だろね。


【此処で出会えたのも何かの縁。ここは一つかんちゃんの力を借りてみてはどうでしょう?】
「・・・・・かんちゃんの?」
【はい。彼女の技術力は眼を見張るモノがあります。今の自分達に彼女の力は大変魅力的です。】
「・・・・・・いや・・・・でもなぁ~・・・?」
【相棒の気持ちも分かります。が、時間がないのもまた事実。このままでは目的を達成できません。】
「・・・・・・・・・会って間もないのに図々しすぎないか?」
【そんな事言っている時間がありますか? 相棒、決断を。】
「・・・・・・・・・・・・。」




【――― 相棒。意地を通す為に、あなたは鈴を見捨てる気ですか?】




・・・・・・・・・ずるい言い方するねぇ・・・・・・?



―――― 全く、本当に最高の相棒だよお前は。



やれやれ、しょうがない。
俺の意地なんざ、その辺の屑カゴに捨てて、目的という果実をもぎ取るとしようかね?

俺はかんちゃんに視線を戻す。
するとかんちゃんの方も、先程の俺達のやり取りをチラチラうかがっていたようで、俺が視線を向けると、慌てたようにディスプレイに視線を戻し手を動かす。

あっはっは。別に気にせんよ~?

ま、それはともかくと。


「へいかんちゃん! ちょいとお時間よろしいですかね?」
「・・・・・・今は・・・・・忙しい・・・・」
「そんな連れない事言わないでよ~。かんちゃんの力を借りたいんだ。」
【お願いします。】
「・・・・・・? ・・・私・・・・・?」
「そう! かんちゃんの!」
「・・・・・・・別に・・・・私じゃなくても・・・・・もっと他に・・・頼れる人・・・・いるでしょう・・・・。」
「ふむ? ・・・・・・・・・・え、誰?」
「誰って・・・・・・ね・・・・・・姉・・・・・・さん・・・・・・・・とか・・・・・」
「ふむ? 何故にハニー?」
「・・・・・・え・・・・・?」
「ああ、いや別にハニーじゃ不満だって訳じゃないよ? けど何故に今ここでハニーが出てくるのかね? 頼りになるのは分かるがね?」
「だ・・・だって・・・・私なんかに・・・頼るより・・・・・姉さんの方が・・・」
「私なんかって・・・・いやいや、十分凄いってかんちゃん。何言っとるのよ?」
「こんなの・・・・全然凄くない・・・・・姉さんに比べたら・・・・・私・・・・なんて・・・・。」


そう言って、顔を伏せるかんちゃん。

・・・・・・ふむ。

どういった経緯かあったのか詳しく知らんが、どうやらかんちゃんはハニーに対して強い劣等感を持っているようだ。

まぁ・・・・ハニーは只者じゃない感バリバリだからねー? 持っている存在感とカリスマも半端ないし。学園最強って言ってたしなぁ。

・・・・ふむ成程、完全無欠な姉を持った事に対する負い目か。
しかしいくらなんでも、自分を此処まで卑下にするのはちょっと変過ぎ・・・・・ん?

・・・・・・完全無欠・・・・・・?

・・・・おい・・・ハニーまさかとは思うが・・・・・まさかとは思うが・・・いや、ハニーなら上手くやりかねん。

俺は頭に浮かんだ一つの懸念を確かめる為に、かんちゃんに話掛けて見る。


「かんちゃん? 一つ質問があるんだがいいか?」
「・・・・・・・・・?」
「かんちゃんさ? ハニー・・・じゃない、お姉さんの楯無さんが何かで失敗したり、躓いたりしてる姿って見た事ある?」
「・・・・・・・・え?」
「ちょいと大事な事なんだ。教えてくれるかね?」
「・・・・・・・何・・・言ってるの・・・・?」
「ふむ?」
「・・・・・・姉さんが・・・・失敗なんか・・・する訳ない・・・・。」
「・・・・ほほう?」
「姉さんは・・・・・私なんか足元に及ばないくらい・・・・完璧な人なんだから・・・・そんな事・・・・ある訳・・・・・ない・・・・。」
「ふむ? つまりかんちゃんは、お姉さんが失敗を起こす姿を見た事がない。そう言う事でいいかね?」
「・・・・・・・・(コクン)」
「今まで一度も?」
「・・・・・・・・・う・・・うん・・・・・。」
【・・・・・相棒、これは】
「・・・・・おおう・・・・・・マジかよ・・・・。」


戸惑いがちに、俺の質問に答えるかんちゃん。
その顔は、何でこんな質問するのか理解できないって感情がありありと浮かんで見える。

・・・・・・おいおいハニー・・・・・とんでもない大失敗起こしちゃってんじゃないかよ!? こりゃ姉妹仲が拗れるのも仕方ない事態だぞ!?

なんてこったい! と、俺は内心頭を抱える。何をやってんのよハニー・・・・。
いや、気持ちは分かるぞ?
痛い位分かるとも、俺も妹を持つ身だ。ハニーの気持ちは物凄く理解できるが・・・上手くやりすぎだ。

いや、ハニーの事だから自分の失敗に気付いてるんだろうが・・・・。

だったら何でこんなになるまで放って――――っ・・・・・・ああ・・・成程・・・そういうことか・・・・引くに引けなくなっちゃったのか。

ええい! 全く最近次から次へと問題発生のオンパレードだな!? セールでもしてるのかね? 買った覚えないわ!


・・・・・しょうがないね~本当に。


内心苦笑し、俺はかんちゃんに視線を戻して口を開く。
問題山積みで目眩を起こしそうだが・・・・まずは、このすれ違いを起こしまくってる仲良し姉妹をなんとかしますか。


「かんちゃん。お兄さんからの提案、もといお願いがあるのだが?」
「・・・・・お願い・・・・?」
【相棒、同級生です。】
「んなことは今はどうでもいいのよ! へいかんちゃん!」
「・・・・・っ!?(ビクッ)」
「お姉さんが、完全無欠の存在だと思っているその考えを、今すぐポイしなさい。百害あって一利なしだそんなモン。」
「・・・・・え・・・!?」
「この世に天才とか、優秀な人とか、凄い人とかは確かに存在する。けど、完璧な人ってのは存在しないよ。今までも、そしてこれからも絶対に現れない。だから今すぐポイしちゃいなさい。お姉さんが完璧だなんて言葉遊びにもならない考えは。」
「・・・・・っ!? な・・・何・・・・で・・・!?」


俺のお願いに、表情を驚きと困惑に染め上げるかんちゃん。
まぁ、いきなりこんな事言われたんじゃ仕方ないかもしれんが・・・・かんちゃんのその考え方をどうにかせんと碌な事にならんからね。

かんちゃんにとっても、ハニーにとっても。その考え方はお互いに苦しみしか与えてくれないから。

だから、まずはそれを取り除かんといかん。


「かんちゃん。聞くけど・・・・完璧って何さ?」
「・・・・・え・・・・・・?」
「頭が良くて運動も出来て性格も明るくお茶目で、その上カリスマも半端なくて家が代々続く名家。かんちゃんの完璧ってこういう事?」
「・・・そ・・・・それ・・・は・・・・」
「うん違うよな? そりゃ唯の凄い人だ。完璧ってのはそんなもんで片付けられるもんじゃない。そもそも完璧ってのに明確な定義なんてないからね? 何やったって、どうしたって完璧なんてモノはありえないもんなんだよ。周囲がいくら完璧だと言っても、一人でもケチをつけられたらそこで終了しちまうからな?」
「・・・・・・・!?」
「完璧ってのは理解できない代物だ。想像することも明確な物を例える事もできない未知の領域。誰にも理解できない存在。」
「・・・・・・・・」
「そして、そんな理解の範疇を超えている存在に・・・・・人が行き着く感情は一つ。」
「・・・な・・・・何・・・・?」
「決まってる、恐怖だよ。」
「っ!?」


俺の言葉に、かんちゃんが衝撃を受けたように体を強張らせる。
その様子を見るに・・・・やっぱりそうか。

かんちゃんはハニーに・・・・・・完璧な存在だと思い込んでる姉に・・・・恐怖を抱いてるんだ。
けど、それだけじゃない。
完璧ってモノは・・・そう見られている存在にも牙を向ける碌でもないモノなんだよなぁ。

その事をかんちゃんが理解しないと・・・・姉妹の溝は広がるばかりだ。
その為にも、今ここで考え方を変えてやらなきゃならない。


「その様子だと。やっぱりかんちゃん怖がってたんだね? お姉さんの事をさ。」
「あ・・・・あ・・・・何・・・で・・・っ!?」
「そりゃ分かるさ。人は理解の範疇を超える存在を恐れる生き物だかんねー? それが何であれ至極当然の事だよ。それが肉親であっても例外じゃない。」
「・・・・・・・!!」
「でもな? かんちゃん。さっきから言ってる様に完璧な人ってのは存在しないんだぜ? お姉さんだってそうだ。凄い人だけど完璧な人じゃない。だから、怖がる必要ないんだぞ?」
「で・・・でも・・・・!」
「あー、それからもう一つ。かんちゃん勘違いしてるから言っとくぞ。」
「・・・・・・な・・・何?」
「かんちゃんさっき、お姉さんが失敗なんかする訳ないって言ったけど・・・そりゃ間違いだ。お姉さんは恐らく何度も失敗を経験してる筈だぜ?」
「な・・・・・・!? そんなこと・・・・!!」
「ない筈ない。というか失敗した事もない人間なんてこの世に居ねぇと思うよ? 何かしら失敗して、それを教訓に成長するのが人間だし。『失敗は成功の母』っていうじゃん。いや父か? 野郎はいいから母でいこう。」
「でも・・・!! 私はっ!」
「もし、かんちゃんが本当にお姉さんが何かに躓いたり失敗したりする姿を見た事がないって言うなら・・・・理由なんて簡単に説明つくぞ?」
「!?」


俺の言葉に、かんちゃんの瞳が大きく見開かれる。
・・・・そんなに驚く事じゃないと思うがね? 誰でも抱くごく普通な理由なんだから。

かんちゃんが、姉が失敗する姿を見た事がない理由は一つ。


「理由は単純。――― お姉さんが、大好きな妹に自分の格好悪い姿を見せたくなかったから、だよ。」
「――――――――・・・・・・っっ!?」
「俺も妹を持つ身だからね~? お姉さんの気持ちは分かるわ~。そりゃ、妹には自分の格好悪い姿なんて見せたくないわな・・・自慢の姉だと、こんなにも凄い姉を持っているんだと妹には思ってほしいよな。」
「・・・・・・・・・・・・そんな・・・こと・・・・」
「あり得るねー、お姉さんの事だ、良い所だけ格好良い所だけを見せて、それまでに至る努力も、失敗も全部隠してしまう。・・・・・その位の事なら、やってのけて見せると思わないかね? お姉さんならさ。」
「――――――――――・・・・・・。」
「けど、それこそが最大の失敗だった事に気が付いた時のお姉さんの絶望は・・・正直どれ程のものだったか。考えるだけでゾッとするね。」
「――――――っ・・・!? さ・・・・最大の・・・・失敗・・・・?」
「ああ、最大の失敗だ。そしてそれは、今でもお姉さんを苦しめて、かんちゃんをも縛り付けてる。」
「―――・・・そ・・・それは・・・・何・・・!? 何・・・なのっ!?」


かんちゃんが身を乗り出して、俺に訪ねてきた。
長年、自分と姉との間に存在する溝。

俺の放つ言葉は、その溝を埋める手掛かりの一端を見つけたようなものだ。是が非でも知りたい事だろうから当然の反応だろう。

・・・・なんだかんだ言いながらも、かんちゃんだって姉との関係を改善したかったんだな。麗しい姉妹愛だねー。

勿論、俺はそんな二人に手を差し伸べる。


「・・・・妹の前で、完全無欠な姉である自分を上手く演じ過ぎてしまった事だよ。」
「・・・・・・・え?」
「『完全無欠な存在、更識 楯無』。それを妹であるかんちゃんの前で上手く演じ過ぎてしまったから、お姉さんはかんちゃんの前で失敗する事ができなくなっちまったんだ。」
「・・・・・・な・・・何・・・・で?」
「怖いんだよ、お姉さんは。」
「・・・・・・・・・・・・・・?」
「―――― ずっとずっと、完璧な姉を演じて来てしまったからこそ。もし何かで失敗してしまい、その姿を見られて―――― 愛する妹に失望の眼を向けられてしまうかもしれない事が・・・・お姉さんは一番怖いんだよ。」
「―――――――――――――ッッ!!!?」
「失望されるのが怖くて、嫌われるのが怖くて。他の誰でもない、大好きな妹にそう思われてしまう事が。」
「・・・・・・・・・・・・・そ・・・んな・・・。」
「だからこそハニーは我武者羅に上を目指した。努力して努力して、ただ純粋に上を目指した。怖くて怖くて仕方なかったから、妹に失望されるのが、嫌われるのが、蔑まれる事が。けど、その結果は・・・・かんちゃんとお姉さんの間に大きな溝しか作らなかった。」


そこで言葉を区切り、俺はハニーを思った。
・・・・・この結果に行き着いた時の絶望は・・・・どれ程彼女を苦しめただろうか? どれだけ後悔の念に苛まれただろうか?

妹に失望されるのを恐れたからこそ、姉は上を求め努力し続けた。
妹との時間を犠牲にしてまで、唯ひたすら完璧を求めた。

けれど、そんな姉の姿に妹はいつしか劣等感を抱き・・・・やがてそれは恐怖に変わった。姉と自分は違うと、比べる事すらおこがましいという考えに至る程・・・自分が無能であると思い込んでしまった。

意図的ではなくとも姉は妹と距離をとり、そしていつしか妹も姉を避けるまでになった。
お互い嫌われる事を恐れた故のこの結果。


お互い心の底では大切に想っているというのに・・・・・皮肉な話だ。


―――――――― けどそんな悪夢。そろそろ終わらせようぜ? 


思考を区切り、俺は色々とショックを受けているかんちゃんに視線を戻す。
この問題を解決する為の最大の鍵。

それは・・・・かんちゃん自身。

かんちゃんならきっと大丈夫。きっと上手くいく。
かんちゃんは唯受け止めてあげれば良いんだ。

大好きなお姉ちゃんを、ただ純粋に受け止めてあげればいいだけ。
かんちゃんにはそれが出来る筈だ。

その為にも・・・かんちゃんの本心を引き出してやらなきゃな!

そのまま俺はヘラっと表情を崩して、かんちゃんに話掛けた。


「なぁ、かんちゃん?」
「・・・・・・・・・っ! な・・・何・・・?」
「もし、お姉さんがかんちゃんの眼の前で失敗を起こしてしまったら・・・かんちゃんどうする?」
「・・・・・・!」
「完全無欠が崩れたお姉さんに失望する? 笑う? 蔑む? 騙したなって罵倒する? 自分に惨めな思いをさせてきたお姉さんを憎む?」
「――――っな・・・!?」


突然の俺の言葉に、かんちゃんが驚愕の表情を向ける。

―――― 良い反応だ。

そのまま俺は続けて言葉を紡ぐ。


「そう思って良いんだよ、かんちゃんは? だって今まで騙してたんだからお姉さんは君を。罵ったって良いんだ。失望したって言ってやっても良いんだよ?」
「――――――――――――っ・・・!」


俺の言葉に、かんちゃんの瞳に一つの感情の波が浮かぶ。
視線をキッと強めて俺を睨みつけ、膝の上に置いてある小さな手がブルブルと震えているのが見てとれた。

―――― もう少しだ。

そんなかんちゃんの姿に、俺は気が付いてない様を装いながら、さらに言葉を続けた。
さぁ来い! かんちゃん!


「今まで散々比較されて嫌な思いしてきたでしょ? 言ってやればいい。スカッとするよ~? この大嘘つき、見栄ばっかり張って来た貴女みたいな姉を持って恥ずかしいって――――――――・・・」
「―――――――――――ッッ!!!!!!」




――――――――― パァンッッ!!!!



左頬に鋭い痛みが走り、その勢いのまま顔を仰け反らせる。
・・・・・おおう。流石想いの籠った一発だね、ジンジンと痛いわ。

頬を抑え、俺は顔を正面へと戻しかんちゃんに視線を向ける。
右手を振り切った体制のままの、かんちゃんの姿最初に映り――――

そして次に俺の瞳に映ったのは、瞳に怒りを宿したかんちゃん・・・いや。


姉の為に怒りを露わにした少女。更識 簪の姿があった。


「――――― 勝手な事・・・言わないでっ・・・!!」
「・・・・・・。」


さっきまでのオドオドした態度はなりを潜め、俺を睨みつけるかんちゃん。
俺と視線がぶつかり、若干の怯えが瞳に映っていたが・・・・それでもグッと踏み止まって真正面から俺と対峙する。

・・・・・やっぱり強い子だね。


「そんな事・・・思ったりしない・・・! 騙されたなんて・・・思う訳ない・・・!」
「・・・・・ふむ?」
「か・・・完璧じゃなくても・・・! ね・・・姉さんは・・・凄いんだから・・・! し・・・失敗したって・・・か・・・完璧じゃなくたって・・・そんな事どうだっていい・・・!!」
「・・・・・・・・」
「失敗する姿なんて・・・そ、そんなのまだ想像すら・・・出来ないけど・・・! でも・・・! 例え・・・失敗する姿を見たって・・・・し・・・失望なんか・・・したりしない・・・!!」
「・・・・・へぇ? それは何で?」


俺の気の抜けた質問の仕方に、再び瞳に怒りを宿しキッと睨みつけてくるかんちゃん。
そして、俺に挑むように、叩きつけてやるように言葉を放つ。


「――――――― お姉ちゃん・・・だから・・・!」
「・・・・・・。」
「わ・・・私の! たった一人の・・・! お姉ちゃん・・・・だから!」
「―――――。」






「――――― そんな事ぐらいで・・・!! お姉ちゃんを嫌いになったりなんか・・・しないっ!!」







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「だから・・・! か・・・勝手に・・・私の心内を・・・決めつけないで・・・・!」


そこまで言うと、ギュッと膝の上に置いてある両手を握りしめ顔を伏せるかんちゃん。
次に発せられる俺の言葉に不安なのか。体を小気味に震わせているが・・・・絶対に引かないという意思の強さは見てとれる。

控えめな気質のかんちゃんが、逃げもせずこの場に留まっている事がその証拠だ。

・・・・内にたまった想いようやく口にしてくれたねー。
なら、もう大丈夫。

あとは・・・ただそっと背中を押してやればいいだけだ。


「―――― そんじゃま、次はその想いをお姉さんに話してみなよ。かんちゃん。」
「―――――・・・え・・・・?」


俺の言葉に、さっきとは変わった呆けた声をだすかんちゃん。ゆっくりと顔を上げて、視線を俺に向ける。
そんなかんちゃんに、俺はヘラリと笑い返した。


「俺に向かって、あそこまで言ってみせたんだ。もう、想いを口にする事にそんなに抵抗感はでないでしょ?」
「・・・あ・・・・え・・・・?」
「俺は練習台。舞台の本番はお姉さんだからね~?」
「え・・・・?・・・・・え・・・・・え・・・!?」
【中々の小悪党ぶりです。二代目】
「俺としてはご免被りたい配役だがねー? 何が悲しくて淑女の悪口言わねばならんのよ?」
【時には、それも紳士の務めです。相棒。】
「それもそうか。」 
「あ・・・・あの・・・・? ど・・・・どういう・・・・事?」


一気にガラリと変わってしまった空気に、かんちゃんが戸惑った表情を浮かべる。
まぁ無理もないか。

とりあえず、俺はかんちゃんに向き直り、話を進める。


「かんちゃんに必要なのは、今言った気持そのままにお姉さんに伝える事だな。そうすりゃ後は順次上手くいくと思うぜ? かんちゃんとハニーには、きちんと話しあう時間が必要なだけだからな。」
「な・・・・・・・・・!?」
「リハーサルは終了ってな? 次はお姉さんに、さっきみたいに想いをぶつけてやんなさいな。きっと、お姉さんもかんちゃんのその言葉を・・・・誰よりも望んでいる筈だからね?」
「っ・・・・・・!・・・・・・・う・・・・・。」
「もし、一人じゃ不安なら俺が付き添っても良いし。のほほんちゃんに頼んで一緒にお姉さんに会いに行ったって構わない。大事なのはかんちゃんの言葉で、かんちゃんの口でお姉さんに伝える事だからさ。」


俺の言葉に、かんちゃんが驚いたように眼を見開いた。
そんなかんちゃんに、俺はまた微笑んで言葉を放つ。


「話をしてみようぜ。お姉さんきっと待ってるよ? 大好きな妹を。かんちゃんと笑って話が出来る―――― そんな些細な幸せな時間が訪れる事を。」
「――――――――――――・・・・・・・っ。」


言い聞かせるように、俺はかんちゃんに言葉を告げた。
今すぐって訳にはいかないかもしれない。

それだけ長年にわたって二人を縛っている溝は深く。そして暗い。
けれど、きっと俺の助言は何かしらのきっかけにはなる筈だ。

今まで恐怖に埋もれて、口に出来なかった姉への想い。知らなかった姉の苦しみ。
それを知ったかんちゃんなら・・・・きっと大丈夫だ。

願わくば、一分一秒でも早く、この姉妹の悪夢が覚める事を・・・・ただただ願う。



「・・・・・して・・・・?」
「おおう? 何か言ったかね、かんちゃん。」


ぽつりと、かんちゃんが小さく呟く。
余りにも小さい声なため聞き逃したしまった・・・・むぅ、不覚!

そんな俺の事などお構いなしに、かんちゃんは戸惑った視線を俺に向ける。


「・・・どうして・・・そうまで・・・・言ってくれるの・・・・?」
「・・・・ふむ?」
「だって・・・・・会って・・・・間も無いのに・・・・何で・・・・・そこまで・・・言ってくれるの・・・・?」
「・・・ああ成程ね、そう言う事か。んなもん決まってるぜ! 俺が紳士だからだ!」
「・・・・な・・・なに・・・それ・・・?」
「俺は紳士だからね~? 困っている淑女、悲しんでる淑女、苦しんでいる淑女には例外なく手を差し伸べるのさ。」
「・・・・・・そ・・・・それ・・・だけ・・・?」
「それ以外に理由はない!・・・・・って言いたい所だけどね。今回はちょいと理由があったりする。」
「・・・・・・・・?」
「友達の友達を助けたいって思うのは・・・別に変な事じゃないと思うがね?」
「・・・・・・・・・・・っ!」


びっくりしすぎたのか、眼を見開いて俺を凝視するかんちゃん。
ふむ? 別におかしな事は言っとらんと思うがね?

のほほんちゃんの大切な友達であるかんちゃん。
そして、ハニーの妹さんで。きっと虚さんにとっても大切な存在であるかんちゃん。

助けたいって思うのは至極当然だろうに。
それになにより、女の子には幸せになって欲しいのよ俺はね。

しばらく固まったままのかんちゃんだったが。
少しづつ表情が緩んで、ちょっぴり頬を桃色に染めて視線を落とし、ポソポソと言葉を発した。


「あ・・・・・あり・・・・がとう・・・・・。」
「おおう! 最高の報酬だぜ! やったぜ相棒!」
【記録しますか? 売れますよ、主にシスコンとかシスコンとか・・・あとシスコンとか。】
「より取り見取りだな・・・!?」
「・・・・・あ・・・あの・・・」
「おう? どうしたかんちゃん?」
「・・・・わ・・・わたし・・・・・お・・・お姉ちゃんと・・・・は・・・話して・・・みる・・・・・。」
「おおっ!? その意気だかんちゃん!! 応援するぞ! もし不安ならいつでも付き添ってあげるからなっ! いつでも呼んでくれよ?」
「・・・・う・・・・うん・・・・・。」


小さくうなずいて、そっと笑うかんちゃん。
―――ぐおおおおお!? 何だこの可愛さはっ!?
静まれ! 俺の魂ぃ!

流石はハニーの妹さんだ・・・・! これなら即シスコンになるのは仕方ないなぁ。

そんな俺のニヨニヨした表情に、かんちゃんは恥ずかしそうにしていたが・・・・
ふと、俺の顔を見てハッと顔を強張らせた。

・・・・・・ん? 何か憑いてるか? 守護霊なら俺が小学生の時にマジ泣きして、あの世に帰って行ったからいない筈だが。(大丈夫かこいつ・・・)

そんな俺の思考などお構いなしに、かんちゃんは一人オロオロし始める。
一体どうしたんだろね?


「あ・・・あ・・・あああの・・・! ほ・・・ほっぺた・・・・!」
「ホッペター・・・? 何その新種のポケ○ンみたいな名称の生き物は? どこよ? 何処に居るの?(キョロキョロ)」
【弱そうですね。】
「ち・・ちがくて・・・! あの・・・叩いちゃって・・・! ご・・・ごめん・・・!」
「あ・・・あーその事か、別に気にしてないよ? 叩かれて当然やからねー。あと五発ほどいっとくかね? ヘイカモン!!」
「・・・・・・っ!(ブンブン)」
「・・・・・・・・・・・・そう。(ガッカリ)」
【相棒、マゾいのは自重しましょう。】


そんな俺と相棒のやり取りも耳に入っていないのか、かんちゃんはオロオロとするばかりで落ち着かない。

その後も、色々と押し問答があったが・・・・かんちゃんは納得いかない様子。
本当に気にしなくても良いんだがねー?

かんちゃん的には、ちゃんとお詫びをしたいらしいけど・・・・・ふむ。
別段してもらいたい事なんて今は特に――――・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あ。


「―――っあるじゃないのよ俺の馬鹿ン!! 当初の目的忘れてましたよ!?」
【かんちゃんの力を借りる事が目的でたね。】
「・・・・・・?」


すっかり当初の目的を丸投げしていた事に気が付いた俺と相棒。
ええいしまった! 一つの問題が解決する目途が経って気を抜いちまった!!

まだ俺には片付けなきゃならん問題がゴロゴロしてるってのに!

その為にも―――!!

俺はかんちゃんに向き直り、その手を握りかんちゃんを見据える。
突然の行動に、かんちゃんは驚き・・・・・ボッと顔を赤らめる。

恥ずかしがり屋なのねー・・・・ってだから和んでる場合じゃないって俺!


「――――― へいかんちゃん!!」
「―――ひゃ・・・ひゃいっ・・・!?」
「少しでいい! かんちゃんの力を俺に貸してくれ!!」
【お願いします。かんちゃん。】
「・・・・・は・・・・・はい・・・・!」


俺と相棒の言葉に、かんちゃんは小さく―――でもしっかりと頷いてくれた。





*   *   *





カタカタ・・・・・・・

ピッ――― ヴォン・・・・・。


「・・・・・アクセス完了。」
「―――おおう・・・! 流石かんちゃん・・・・!!」
【素晴らしいの一言ですね】
「・・・・べ・・・別に・・・・た・・・ただ・・・教職員の先生の・・・・アクセス権限を・・・・利用させてもらった・・・だけ・・・だから・・・」
「いやいや十分だ! 俺が知りたいのは機密でも何でもないからね、ある程度の権限で見れるもんだからな・・・つってもそれすら侵入する事が出来なかったんだがなぁ・・・」
【強引に行けば可能ですが・・・間違いなく大問題になりますからね。】
「流石に俺が動けなくなるような事態は避けたいからな・・・本当に助かった。ありがとうかんちゃん。」
「・・・・・・・う・・・うん(照)」
「えーと・・・・・鈴の奴は・・・・あ。あったあった! かんちゃん、このツインテールのチャイナっ娘さんの資料を開いてくんない?」
「・・・・わ・・・分かった。」


カタカタ―――― ビュワン・・・!


「―――― っ!? これは・・・・!!」
「ど・・・・どうした・・・の・・・?」
【何といことでしょう・・・!!?】
「・・・・なんてこったい・・・・! 鈴の奴・・・・!?」
「・・・・?(びくびく)」
【まさか・・・・4センチもサバを読んでいたとは・・・!!】
「無茶しやがって・・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこ見てるの・・・・?」
「【ごめんなさい】」
「・・・・・・・・・もう・・・・。」
「さて、冗談はこの位にして・・・・・・・・っとぉ、これだ。かんちゃんお願い。」
「・・・・うん。」


ビュワン―――・・・


「――――――――――――っ!!?」
「・・・・・・・・・。」
【・・・・・相棒。】
「こ・・・・これって・・・・・」
「・・・・・・・成程ね・・・・・まさかここまでとは・・・・・」
「あ・・・あ・・の・・・これ・・・・って・・・!」
「相棒、文面を【記録】。やれるか?」
【勿論です。】
「・・・・・・・・だ・・・・弾・・・・あの・・・・。」
「ん。大丈夫だ。しかし・・・・これは参ったね~・・・・」
【――― 完了です。】
「さて、長いは無用だ。面倒臭い事になる前に、かんちゃんさっさと撤退だ!」
「・・・う・・・・うん!」


カタカタ・・・・


【・・・相棒。】
「・・・・分かってるよ。こりゃあ中々一筋縄じゃいかんなー。」
【ですね。】
「――――だが、情報に確信は得られた。これでようやく動けるぜ。」
【では?】
「ああ、情報は十分だ。色々と問題は多いし厄介なことこの上ないが―――・・・」
「・・・・・・・・・・?」







「――――― 集めなきゃならない必要な手札が何かも、ようやく判明したぜ。」







後書き


盆休み  仕事に追われた  盆休み (字余り)・・・・・・・あんまりですご先祖様。みなさんお久しぶりです! 未だに色々忙しい状況が続く釜の鍋です・・・・・・。流石に更新しなきゃ忘れ去られそうなんで勢いのまま執筆して更新しました。さて、ようやく情報が集まり、まさかのかんちゃん参入です。この姉妹には早く幸せになって欲しいです。さて次回、手札を集めに動き出す弾! そこに問題抱えた金髪登場、さらに生徒会がやって来てもう大忙しです。ワンサマー・・・ほとんど出番なしです。・・・・SS書いてる時が一番心休まります・・・・早く一巻軸終わらせたい。



[27655] 第二十話  幻影一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2011/10/30 14:58
【箒 SIDE】


・・・・以前の礼を失した振る舞い、心よりお詫び申し上げる・・・では、ゴホン。
篠ノ之 箒だ。どうかよろしく頼む。

私は今、イギリスの代表候補生でありクラスメイトである。セシリア・オルコットと一緒に弾の捜索を行っている最中で、校内を歩き回っている所だ。

・・・・・・はぁぁ・・・・

小さく溜め気を吐いて、私の目の前をズンズンと歩いて行くオルコットの背中を少しだけ睨む。

・・・・何故こんな事になったのだ・・・・。

別に私は、弾を探す事に関してはなにも異論はない。むしろ私も弾に謝罪をしたいと思っていたので、一人で探すよりは効率が良い為喜ばしい事だと思っている。

ただ・・・・・これで昼食をしっかり食べる事ができ、次の授業が織斑先生の実習じゃなければ言うことなしだったのだがなぁ・・・・・・・・


「篠ノ之さん! 何をゆっくりしていらっしゃいますの!? そんなことでは五反田さんを見つける前に昼休みが終わってしましますわ!」
「私の中ではもう昼休みは終わったも同然だ・・・・。」
「それにしても・・・全く五反田さんは何をしているんですの!? 目撃情報を入手しても、一つの場所に留まらないから探し出すのに一苦労ですわ!!」
「・・・・・・・・・・・・・そうだな。」←米神が若干引き攣る


一瞬、食べ物の恨みがどれ程恐ろしいモノか叩きこんでやりたい衝動に駆られたが・・・此処はぐっと我慢だ。

ようやく弾が、PCルームに入っていった所を見たという生徒の目撃情報を入手したのだ。
此処まで来て、また行方が分らなくなるという事態だけは何としても避けたい。昼食まで犠牲にしたのだ、こうなってはもう意地だ。何としても見つけ出す!

本当ならば廊下を走ってでも移動したいのだが・・・・
ついさっき職員室前で織斑先生に出会ってしまい・・・・こう言われたのだ



『・・・・貴様らまさか・・・あの害虫の起こす問題で手一杯な私に・・・・一々注意させる気じゃないだろうなぁ・・・・?』



はっきり言おう・・・――――― 殺されるかと思った・・・!!

生気を失った瞳で、何処ぞのホラー映画の人形のようにカクンと首をもたげた姿は、とんでもなく恐ろしかった・・・!

逃げ出した私達の背後から。

『誰か! 胃薬持ってきて! 申請して配備された奴よ!』『織斑くんの写真は!?』『ここに!』『山田先生は!?』『書類処理を終わらせて、燃え尽きてるわ!』『昼休み中は寝かせておいて! 目蓋を冷やしてあげてください! 他の雑務は手が空いてる人が処理を!』『私が対応します。他の先生方はお二人のケアを。』『さ、榊原先生っ! 助かりますっ!』『私なら構いませんから。それにしても・・・・ふふ、全く五反田くんには困ったものね。(優しい笑み)』『・・・・え゛・・・?』『・・・まさか・・・え? マジ?』『いやでも十歳以上も歳離れてるし流石にそれはないで『五反田くん、年上って好みかしら?』こいつ本気だ―――――――――――っ!?』

という、教職員の先生方の人情溢れる言動が聞こえて。不覚にもホロリとしてしまった・・・・一名言動が意味深な先生もいたが。

その一幕のせいで、廊下を走るなどという命知らずな事を行うことなどできず、今もオルコットと共々、早足での移動しか出来ずにいるのである。


「そ、それにしても、何故織斑先生はあのような極限状態になっていたのだ?」
「・・・・あれですわ。二日前の一年の生徒のほとんどが大遅刻したあの一件です。」
「・・・ああ、あの部屋番号がランダムに張り替えられて、部屋を出た生徒達が自分の部屋が分らなくなってしまい早朝から大混乱になったあれか・・・。」
「私は運良く自室で全ての準備を整え部屋をでましたから気が付きませんでしたが・・・あんなことするのはこの学園で五反田さんしかいませんわよ。」
「織斑先生は一年の寮長だから・・・後始末に追われたという事か?」
「ええおそらく。一連の経緯説明から対処案、生徒達への配慮、正しい部屋番号の割り振りに事後報告書の作成・・・・やる事はそれはもう山のようにあるでしょうし。」
「・・・・そういえば弾の奴。あの日は織斑先生に首根っこ掴まれて連れて行かれた後、ズタボロになって屋上から吊るされていたな? 昼休みには戻って来たが。」
「きっと織斑先生の指導(という名の死刑)を受けたんでしょうが・・・・・。まるっきり堪えていらっしゃらない様子がまた、織斑先生の神経を逆撫でしていますわよね。」


移動しながら今日までの事を思い返して、二人して溜息を吐く。
というかまだ終わっていなかったのか、あの騒動の後始末・・・・。

・・・・織斑先生・・・山田先生・・・他の教職員の先生方、心中お察しします。どうか挫けないでください・・・・!

織斑先生達への激励の祈りを込めつつ、早足で移動し続ける事数分。
ようやく『PCルーム』と表示されている教室のプレートが見えてきた。

後はあそこに弾が居ればいいんだが。

―――― バシュッ。

オルコットと共にPCルームの扉の前にたどり着き、ドアが開くと同時にPCルームへと入り込む。
そして、そのまま二人して室内をグルっと見回し弾の姿を探し始める。

室内にいる他の生徒の数は、幸いな事に数人程度のものだったので確認がしやすかったが・・・・・肝心な弾の姿はというと――――――・・・。


「―――――っいない!? くっ! 一足遅かったか・・・!」
「ああもうっ! あの方はどうして一つの場所に留まっていられませんの!?」 


弾の姿はPCルームには既に無く、数人の生徒がPCの前で各々作業をしている光景だけがそこにあっただけであった。

く・・・! また振り出しかっ!


「篠ノ之さん、もしかしたら室内に五反田さんの行方を知っている方がいるかも知れませんわ! 聞き込みをしましょう!」
「う、うむ。そうだな。場所は知らずともどの方角へ行ったかは見掛けた者が居るやもしれん。」


オルコットの提案に頷きつつも、私は少したじろいでしまった。

・・・これ程、弾を探すことに熱意を出すとは、オルコットはどうしたというのだろうか? 
この様子を見ると、ただ謝罪だけが目的とは思えない。

オルコットの様子が少々気になるものの、とりあえず私達は室内の生徒から聞き込みを行うことにした。

オルコットと二手に分かれ、それぞれ聞き込みを始める。


「―――― もし? 少しよろしいだろうか?」
「・・・・え・・・?」


私は手初めに、PCルームの端の席に座っている一人の女子生徒に話し掛けることにした。
この位置からなら教室内を良く見渡せる為、もしかしたらと思い最初に声を掛ける事に決めたのだ。

それに、眼の前の女子生徒はPCの作業を中断しているようで、手の中にある携帯電に視線を落していた為、比較的声を掛けやすかったのである。

・・・やけに上機嫌の様子だったとういのも理由としては強いかもしれんな。

口元に小さな笑みを浮かべ携帯画面に視線を落とす姿は、可憐の一文字しか浮かばない。
同姓であるにもかかわらず自然とそう思えてしまった。


「失礼。ここに五反田 弾という男子生徒がいたと聞いたのだが。見掛けなかっただろうか? 学園に二人だけの男で、赤髪の長髪に黒のバンダナを巻いている方なのだが・・・?」
「・・・え・・・・弾の・・・知り合い?」
「む? 弾を知っているのか? それでは話が早い、此処で見かけなかっただろうか? 用向きがある為ずっと探しているのだが。」
「え・・・っと・・・弾なら・・・さっきまで・・・私と話を・・・」
「それは本当かっ!? オルコット、こっちに来い! 弾とさっきまで話をしていたと言う生徒を見つけたぞ!」


これは運が良い! 聞き込み一人目で情報を持っている生徒に当たるとは。
もし行き先を聞き出せれば、今なら追いつく事が可能かもしれん!

私の声を聞いたオルコットが、会話をしていた生徒に慌てて頭を下げ礼をした後、早足でこちらに向かってきた。


「――― 本当ですの!? 五反田さんは今どちらにっ!?」
「――――――ッ!?(ビクゥッ)」
「おい、いくら何でも突然過ぎるだろう。少し落ち着け、怯えているではないか。」
「―――っす、すみません。私とした事が・・・いくらなんでも焦り過ぎでしたわね。申し訳ありません。」
「・・・あ・・・だ・・・だいじょうぶ・・・だから・・・。」


頭を下げるオルコットに、少々焦ったように言葉を返す女子生徒。どうやら人に頭を下げられる事に慣れていないようだ・・・・。

・・・・・純粋かつ、控えめな少女だ。一体弾とどういった経緯で知り合ったというのだろう? 
あの歩く自然災害のような奴との接点が全く見出せんのだが・・・(汗)


「それで・・・話を戻すが―――・・・と、失礼した。自己紹介がまだだったな? 私は一組の篠ノ之 箒だ。そしてこっちが」
「イギリスの代表候補生のセシリア・オルコットですわ。」
「あ・・・四組の・・・更識・・・簪です。」
「―― で、だ。先程まで弾と話をしていたと言っていたが?」
「う・・・うん。あの・・・相談に・・・・乗ってくれて・・・・」
「弾が? ・・・・・あいつは本当に所々で色々行動する奴だな。」
「それが今の様な、善意溢れるものだけであれば言うこと無しなのですが・・・・」
「まぁ、それはいい。それで、弾はその後何処に行ったか知っているだろうか?」
「えと・・・・考えをまとめたいって・・・・教室から出て行った・・・けど。」
「ど、何処に行ったかまでは分かりませんの? 方角も?」
「う・・・うん。・・・・『考えをまとめるなら、やはりあそこが最適だな!』って・・・言った後・・・・何処かに・・・・それ以上の事は・・・・その・・・・」
「あ、ああいや。更識が悪い訳ではない。気にしないでくれ。」
「そ、そうですわ! 気に悩まないでください。」


申し訳なさそうに小さくなる更識に、私達は慌てて言葉を加える。

・・・こういった大人しい気質の人間が、私達の周りにはいない為どう接していいか分からんな・・・。
下手な事言えば傷つけてしまうかもしれないし・・・難儀なものだ。

しかし、さてどうしたものか。
これで弾の捜索が振り出しに戻ってしまった。
・・・此処は大人しく教室に帰った方がいいだろうか?


「・・・仕方ない、諦めて教室に戻って次の休み時間を狙うとしよう。授業前には弾もクラスに帰って来るだろうしな。」
「・・・それを狙って何度も失敗をしているのは私たちなのですが・・・? 教室に戻って来るのも授業開始ギリギリですし、終わったかと思えば先生の授業終了の挨拶と共に『シュバッ』っと消えますのよ? こう・・・『シュバッ』っと。」
「忍者かあいつは・・・。はぁ・・・こんなことならあいつの携帯の番号を聞いておくのであった。」
「私もですわ・・・いつもすぐ近くに居らっしゃいましたから、聞くのを失念していましたわ・・・。」
「いつもすぐ近くに・・・・か。・・・考えてみれば、そう思われるというのは凄いことだと痛感する・・・・。」


はぁ・・・と二人で溜息をつく。
何だかんだんで、弾は私達の中でも重要な存在になりつつあるようだ。

と、そんな私達の会話を聞いて、更識がおずおずと声を掛けてきた。


「あ・・・あの・・・。」
「ん? どうかしたのか。 ああ、私達の事なら気にしなくても良い。手間を取らせてしまったな。」
「それは別に・・・・あの。」
「「?」」
「弾の・・・携帯の番号なら・・・・知ってる・・・。」
「なっ!? そ、それは本当ですの!?」
「う・・・うん・・・さっき、番号交換・・・して・・・。・・・友達・・・・増えた・・・♪」


そう言って、手元の携帯電話に視線を戻し、嬉しそうに小さく笑う笑う更識。
・・・・不覚にも可愛らしいと思ってしまった。

・・・・本当に弾との接点が分らない。
この先、弾に振り回されない事を静かに天に祈ることにして会話に戻ろう。


「それはありがたい。すまんが、弾に電話を掛けてもらえないだろうか?」
「私からもお願いしますわ!」
「う・・・うん。わかった・・・」


そう言って、更識は自分の携帯を操作し――――・・・ようとして、ピタっ止まった。

・・・どうかしたのか?
更識の様子に、オルコットと顔を見合わせて首をかしげる。

そんな私達に、更識が不安そうな顔を向けてきた。


「・・・だ、大丈夫・・・かな・・・?」
「ど、どうかしたのか?」
「突然電話して・・・だ、弾に・・・迷惑だって・・・お、思われない・・・?」
「い、いえ! それはないですわよ!? 絶対に!」
「で・・・でも、考え事をまとめたいって・・・言ってたし・・・じゃ、邪魔しちゃうんじゃ・・・!(捨てられた子犬のような瞳)」
「そ、それなら安心して良いと思うぞ!? うむ、弾は女子には観音菩薩の如く懐が広いのだ! な、なぁオルコット!?」
「え!? ええ、そうですわね! 紳士を自称してらっしゃいますから、女性に対しそのような事を思う筈がありませんわっ!」
「・・・ほ・・・本当・・・?」
「勿論だ!」
「私達が保証しますわ!」


私体の言葉に少し安心したのか、更識が小さく頷いて携帯の操作を始めた。
・・・なんだか年下を相手にしているようだ。

ピッっとボタンを押して弾に電話を掛け携帯を机に置く更識。

そして――――


『―――【プルr・・ピッ!】―― へいお待ちっ! 淑女にはいつでもどこでもワンコール対応! 五反田 弾です! もしもしー? かんちゃんどうかしたのかね? いきなり電話くれるなんて嬉しい限りだねー♪』


携帯から、いつもの陽気な声が響いた。
・・・・電話越しでも騒がしい奴だなお前は。
そんな私を置いて、更識が言葉を発する。


「う・・・うん。ちょっと・・・用事があって・・・あの・・・・いきなり電話して・・・迷惑じゃなかった・・・・?」
『いつ何時でもウェルカムだっ! 気にする必要ないぞ! ラスボス戦の魅せ場であっても『あ、待って電話。ちょっとタイムね。』って迷うことなく中断するさっ!』
「・・・そ・・・それは・・・流石に・・・・」
『それでどうかしたのかね? もしかして例の件? おおう! もしや今から!? 即断即決だねかんちゃん! 俺も付いて来てほしいってラブコール?』
「そ・・・それはまだ、心の準備が・・・・」
『ふむ? では何故に?』
「え・・・えと、弾に用があるのは私じゃなくて・・・・」


そう言って、こちらに視線を向ける更識に一つ頷き。
私とオルコットが口を開く。
―――――――― ようやく話ができるな。


「私達だ、弾。」
「五反田さん! ようやく話が出来ますわ!」
『おおう!? そのボイスは箒ちゃんにセシリーちゃん!? 何故にかんちゃんと一緒に居るのか分からんが、とりあえずどうしたのよ?』
「う・・・うむ実は、お前に言わなけらばならない事があってな。会って話せないだろうか?」
『電話じゃ言いにくい事かね? 構わんけど、一体何事?』
「五反田さん! 今どちらにいらっしゃいますの!?」
『地球にいますが?』
「大雑把過ぎるわっ!? というか、その言動だといない時があるのか!?」
『あっはっはっは。』
「笑って煙に巻きましたわ!?」
『ふむ、まぁ俺の居場所の詳細を事細かに説明するとだなー。五反田 弾。只今学園の校門―――』
「・・・校門? 校門の前か? 何故そんな所に―――?」
『―――― の上にいます。』
「「なんでそんな場所に居るのだ(ですの)っ!?」」
『いやー、やっぱり考えるポーズとるなら、門の上じゃないと駄目じゃね?』
「・・・・あ・・・・【考え○人】?」
「偉大な芸術家の作品を表現していますわ!?」
「何故そんな所にこだわりを見せるのだお前はっ!?」
『まぁまぁ、とりあえずそっちの戻っからさ? ちょいとそのまま待っておいてく『死ねぃっ! DANSHA【ボキャッ!】クボォォアッ!?』れるかね三人とも?』
「「会話の合間で何か倒したあああああっ!?」」
『ほんじゃね~? 今行くぜぃっ!【ピッ】』
「・・・・・・だ・・・・弾って・・・何やってるの・・・?」


私とオルコットの突っ込みに、更識が困惑の表情を浮かべてこちらに向き直る。
―――それは私が聞きたいっ! あいつは普段何をやっているのだ!?

と、とりあえずいったん落ち着くとしよう。
色々思う事はあるが、こちらに弾が戻って来ると言ったのだ。それで良しとしよう。


「え・・・えっと・・・これでいいの・・・?」
「あ、ああ。色々世話になったな。礼を言うぞ、更識」
「とりあえずは、五反田さんがこちらに来るようなので・・・後は待つだけですわね。・・・はぁ、此処まで辿りつくのに苦労しましたわ・・・」


そう言って、近くに席に腰を下ろすオルコットの言葉にわたしも頷く。
何故探すだけなのにここまで苦労する羽目になるのだ・・・・。

まったく、あいつは本当に意味不明な奴だな・・・・・。


――――っ!? ―――――――――――――・・・・! ―――――――ぁっ!


・・・・・・ん?


「・・・・・おい。何か聞こえないか?」
「え? 何がですの?」
「・・・・・・・・?」


二人に訪ねて見ても、たりとも困惑の表情を返すのみ。
・・・・空耳か?

今一度耳をすましてみる。


―――――て―――――・・・! ―――――ップ―――――て――――――・・!?


「・・・・・あら?」
「・・・・・・声・・・・?」
「・・・二人も気が付いたか。 やはり何か聞こえるな、廊下からか?」


何やら廊下から声が聞こえてくる。
それもだんだんこちらに近づいてきているようだ。
・・・・・・一体何だ?

顔を見合わせた私達は、そのままPCルームのドアまで揃って移動し、ドアを開ける。
そして廊下に顔を出して見ると・・・・そこには――――・・・


『あ~っはっはっはっは!♪(シタターン! シタターン!!)』

【~~~~~~♪~~~~~~♪】← アルプスに住む。長ブランコの上でも笑みを絶やさない少女のメロディ。

『――― っなんか来たああああああああっ!!?』
『いやああああああっ!? 怖いっ! なんか怖いいいいいいいっ!?』
『凄い笑顔っ!? なんか凄い笑顔でこっち来る―――――!? いやああああぁぁーっ!?』
『きぃやあああぁぁーっ!? メチャクチャ速くて怖いいいいいいぃぃぃっ!?』
『ひぃぃっ!? お、お母さああああああぁぁぁぁぁーんっ!』


―――― 腰に手をあて、物凄い笑顔で超速のスキップをしながらこちらに向かってくるという不気味な事この上ない弾の姿と。


その弾に怯え全力で退避する生徒達の姿だった。


「「――――っ何をやっているんだ(ですの)!? お前(貴方)はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
「――――ひっ!?」←弾を見てビビる。




――――― その直後、私とオルコットの飛び蹴りが弾に炸裂した。




*   *   *




「全く! 貴方は一体何をしていますの何を!?」
「いや、廊下は走っちゃならんだろうと思ってね? スキップしたら相棒がナイスチョイスなメロディ流すもんだから途中から楽しくなっちゃってさー。」
「楽しむな! 腰に手をあて、もの凄い笑顔張りつかせ、その上走って逃げる生徒を追いぬかす程のスピードでスキップしている男など不気味以外の何物でもないわ!?」


数分後。
弾を迎え、一組のクラスへと戻る私達。

あの後、なんとか場を収拾した私とオルコットは弾を連れ教室に戻ることにしたのだった。
そろそろ昼休みも終わりそうだった為、仕方なく歩きながら会話を続ける。

更識とはPCルームで礼を述べた後そこで別れた為、今は私とオルコット、そして弾の三人だけだ。

・・・・はぁ、それにしても・・・・本当に疲れた・・・・・駄目だ・・・絶対に今日の午後の授業は持たない・・・・。


「・・・・・死にたくないな・・・・・」
「へいどうしたの箒ちゃん! 死ぬなんて言っちゃ駄目だぞ! 話し付けてあげようか? 髭に。」
【相棒。なんか物凄い勢いでメールが来ました。【こないて】の一文字だけですが、焦りまくってるせいか文字が変です。】
「誰ですの髭って・・・・はぁ、全く本当にいつもいつも・・・」
「なんだ二人共元気ないな! 幸せ逃げるぜ!? ほれこれでも食って元気出しなさい。『弾特製悩んだ分だけ具があるのさオニギリ』! 残りもんだけどいるかね?」
「――――――っお・・・おおおおおおおぉぉぉぉぉっ・・・・・・・・!?」
「ん? 箒ちゃん。どったのよ? まるで救世主見るような眼を何故俺に向けるのかね? オニギリ好きなの?」
「・・・・あ・・・篠ノ之さん昼食を摂っていらっしゃらなかったんでしたわ。」
「なんですと!? それはいかん! 昼食摂らなきゃ午後に変調をきたすぞ!? へい箒ちゃん! 全部食っちまえ! そして茶もあげるぜ! 相棒!」
【無論【貯蔵】してあります。へいどうぞ(にゅるり)】
「なんだか妙な出し方しませんでした!?」
「――――――――――っはぐんぐ!!はぐはぐ! ―――っぐ! あむ!」←必死食い。
「おおう・・・見事な食べっぷり。犬耳と尻尾が見えるのは幻覚かね?」
「何ですのそれは・・・・・?」


二人が何か言っているようだったが、今の私にそんなこと気にする余裕などないっ!!
弾の手からひったくる様にオニギリを貰い受け、口の中に詰め込む!

―――う・・・・美味いっ・・・・・美味いぞぉ・・・・・・っ!
オニギリとはこれ程にも美味いものだったのか・・・・!
中の具も、色々詰まっていて良く合っている! 

歓迎に打ち震え、差し出された茶と一緒に胃に流し込む私を、二人が妙に生温かい瞳で見たいたのを、私は終始気付く事は無かった――――――――。

そして私が食べ終えた時には、既に教室の扉の前に到着していた。
そのまま教室内へ入り、手近な席に腰を下ろす。


「へい到着! そんで話って何ですかいお嬢さん方? スリーサイズまでなら答えるよ?」
「もの凄くどうでもいいですわ!!」
「オルコット、落ち着け。一々突っかかっていては話が進まんぞ?」
「うぐ・・・そ、そうですわね。」
「クールダウンだぜセシリーちゃん!」
「貴方は黙っていてくださいまし!」
「だから・・・・・はぁ。」


二人の様子に、また一つ溜息を吐く。
次は実習が待っているのだから、移動も兼ねると時間は残りわずかだと言うのに。

そんな風に呆れた私だったが ――――――・・・


「あれ? 箒にセシリア・・・と、それに弾!? お前何処行ってたんだよ!?」

背後から聞こえてきた一夏の声に、そのまま体ごと振り向く。
むぅ・・・・タイミングの悪い。余計話がややこしくなりそうだ。
一夏と弾。
この二人が揃うと、色々と騒がしい事態になる事が多いからなぁ・・・


「およ? どうした一夏? 何か用か?」
「何か用かって・・・お前この二日何やってたんだよ? 授業以外全然姿見えなかったじゃねぇか。」
「おおう。すまんのー? 寂しかったのか? この甘えん坊め!」
「茶化すなよ。はぁ・・・ちょっと厄介な事が起きてさ。話を聞いて欲しいんだよ。」
「い、一夏さん!? あ、あのちょっと待っていただけませんか? 今は私達が・・・その・・・」
「え? 二人も弾に話があるのか?」
「うむ・・・まぁそうだ。」
「おおう? 俺大人気だな? まぁとりあえず、話が早く済む方から聞くかね?」
「は? 話が早くって・・・そんなの分かるのか?」
「箒ちゃんとセシリーちゃんの話は想像もできんが、一夏の話ってのはあれだろ? クラス対抗戦。一回戦の相手が鈴だって話じゃね?」
「お、お前知ってたのか!?」
「二日前に発表された事だぞ。知ってるに決まってんでしょうに。忙しくてもその辺の情報くらい掴んどるよ。・・・・ま、その点も含めて、俺もお前に話があるんだがね?」
「・・・は?・・・・弾、それって・・・・・」


少し驚いた様子で一夏が弾に視線を向け。
そんな一夏に、弾も視線を返す。

・・・・・む? 何だ? どうしたというのだ二人共。

二人の様子にオルコットも困惑しているようで、二人に交互に視線を向けている。

そして・・・・・


「――――よう一夏。ちょいと【相談】に乗ってくれないか?」
「――――っ・・・! 待ちわびたぞ馬鹿野郎・・・・っ!」


顔を見合せながら、ニヤリと笑い合った。

・・・な、なんだ? 何でそんなに嬉しそうなんだ二人共!?

状況を把握できていない私とオルコットを置いて、男同士だけでトントン拍子に会話をつなげていく一夏と弾。


「とりあえず今は時間も無いし、詳しい話は放課後か?」
「そう言いたい所だがねー? ・・・悪い。時間くれね? 俺も頭整理してる途中なんよ。今日一日でいいんだが。」
「そうなのか? じゃあ明日にするか。時間と場所はどうする?」
「ちょいと人の耳にゃ入れたくないからねー? 寮の部屋がベスト。んでもってじっくり話す必要があるから・・・放課後だな。」
「じゃあ明日の放課後。場所は・・・俺の寮部屋でいいだろ?」
「へいへい。んじゃ明日、放課後お前の部屋で。」
「おう。・・・・で? 俺はそれまで何やってりゃいいんだ?」
「舞台はクラス対抗戦・・・って言えば分かるかね?」
「それに向けて猛特訓・・・・ってか? ったく厳しい事いってくれんじゃねぇかよ弾?」
「でも、ただ待ってるだけなんてしないんだろ?」
「当然だろ?」


そう言って、またどちらからともなく笑う二人。

・・・・・・・・・・なんだこれは。
なんというか・・・・・面白くない。
なんだか・・・・・・・・・・・全く面白くないぞ!?

何だお前達は!? 二人だけで分かり合って! 
ちゃんと分かるように私にも説明せんか!

そんな想いを込めて、二人を睨みつけ無言の非難を放つ私。
オルコットも、妙にブスっとしているから私と似たような心境なのだろう。

そしてそんな私に一夏がようやく気付く。


「な、なんだよ箒? なんで睨んでるんだ? ってセシリアもかよ!?」
「・・・・・ふん! 別に何でもない! この朴念仁が!」
「・・・なんですの? なんですのそれ? 何二人だけで分かり合っちゃってるんですの?とても不愉快ですので止めてもらえません!?」
「何言ってんだ?」
「あっはっはっは! まぁまぁお二人さん。紳士にゃこういったやり取りが結構あるもんなのよ。気にしなさんな!」
「「むぅっ・・・・」」
「そんな訳で、こっちはこれでOK。そんで淑女お二人の話は・・・放課後に時間作るからそん時でいいかね? そろそろ次の授業が始まっちまうから移動せんと不味くね?」
「――――なっ!? もうそんな時間か!?」
「うわぁ!? マズい! お、おい弾! 更衣室に急ぐぞ!」


弾の言葉に慌てて時間を確認し、バタバタと動き出す私達四人。
し、しまった! のんびりとし過ぎてしまった!

せっかく空腹のまま授業を受けると言う危機を回避したというのに、遅刻しようものなら・・・考えただけで恐ろしい!

そのまま教室を出て行こうとする一夏と弾。
その背中にオルコットが声を上げる。


「五反田さん! 放課後ですわよっ!? 忘れないでください!」
「淑女との約束を忘れる事など、紳士な俺がする訳なかろう!! 一夏じゃあるまいし?」
「――― ぐっ!? う、うるせぇ! 余計な事言うな! 俺なりに思い出そうと頑張ってんだよ!」
「ほんじゃね~?」


そう言って、バタバタと教室を出て行く二人を尻目に。
私達も大急ぎで次の授業の実習に向け、ISスーツに着替え始めたのだった。



ちなみに。
実習の時に姿を見せたのは、織斑先生ではなく他の教職員の先生だった。山田先生の姿も見えない。
理由は――――・・・・。


『・・・・・・昼休みに・・・・五反田くんが幸せそうにスキップする姿見てね? ・・・・なんかもう・・・ほら・・・・・察してあげて・・・・。』


とのことだそうだ。
・・・・・・・不憫な。



【弾 SIDE】

千冬さんマヤたん不在の実習からしばらく時間が過ぎて。
只今、放課後の時間帯へ突入しております。

しかし、千冬さんもマヤたんも一体どうしたのかね~?
昼休みの時、スキップ移動で職員室通りかかった時見たが割と元気そうだったのに妙だな?

『・・・・なにを幸せそうな顔しているんだ貴様ああああああああっ!?』

てな感じで。
ふむ? 急に調子が悪くなったのかね。よし後で見舞いに行ってあげよう。(←トドメ)

まぁそれも重要なんだが。
只今俺こと弾は、昼休みの約束通り箒ちゃんとセシリーちゃんの話を聞く為学園の屋上へとやってきています。

そして俺の視線上の先には、日本淑女に英国淑女の夢の競演が広がっている!!
最高ですね!

そんな二人に感涙している俺をよそに、二人は同時に動き―――・・・・


「弾。」
「五反田さん。」
「へい、日本紳士の五反田 弾ですが何か?」
「―――――― すまんっ!」
「―――――― ごめんなさいっ!」


と、いきなり頭を下げられた。
・・・・・・・え・・・なんぞこれ? どういう事よ?

あれ? ちょい待って。これってもしかしてアレか?
俺に頭を下げる二人に視線を向けながら、俺のマイドレインはある一つのを事態を導き出した。


「・・・相棒。淑女二人に何故か突然フられてしまう珍しい事態に遭遇した時。一体どうしたらいいだろうか・・・・? はは・・・おかしいな・・・今日はやけに・・・風が目に沁みやがる・・・・・・!(ボタボタ)」
【相棒・・・・辛いなら・・・いつだって自分に甘えても・・・・いいんだよ・・・?】
「――――――――っ!? 相棒っ!(ガバッ)」←前掛けを外し、顔を寄せ付け抱きしめる。
【自分はいつも相棒と一緒だ・・・今は何も考えず泣けばいいさ・・・・・!】
「――― 何を突然くだらん事やっておるのだお前達は!?」
「え? 俺フられたんじゃないの?」
「そう言った意味の『ごめんなさい』ではありませんわっ!?」
「なんだよ!? 紛らわしいなっ!?」
「「その考えに行き着くお前(貴方)の、思考がおかしいんだ(です)っ!」」


ふー、何だフられた訳じゃないのか・・・あービックリしたぜ。

・・・ん? じゃあなんでいきなり謝って来たんだ?

別に二人に謝られる様な事をされた記憶はないんだが?
腕を組んで首をかしげる俺は、疑問の視線を二人に向ける。


「ふむ? じゃあ何で謝って来たのか分からんね? 何か俺に謝らなきゃならん事ってあったの? 特に覚えはないんだがねー。」
「あ・・・いや・・・それはその・・・」


俺の質問に、箒ちゃんが言い淀む。
んー? はっきり物事を言う箒ちゃんにしては珍しいな・・・・・一体何事?

箒ちゃんの様子に、また首をかしげる俺だったが。
その時、箒ちゃんの隣に居るセシリーちゃんが、一歩踏みだして口を開いた。


「私達が謝った理由は・・・その・・・三日前の食堂での一件の事ですわ。」
「ふむ?・・・・・三日前?」
「実は・・・その・・・私達、聞いてしまったんですの。」
「聞いたって何を聞いたのかね?」
「三日前、一夏さんとの特訓が終わった後に・・・実は私達、一夏さんのいるピットまで足を運んでいましたの。」
「・・・・・・ピット・・・・・・あー・・・・・・・なーるほど。・・・・聞いちゃったわけか? 鈴の言葉。」
「ぬ、盗み聞きをするつもりはなかったのだぞ!? ただ・・・その・・・」
「ああ、その辺は大丈夫よ? あれだけ大声出してりゃ聞きたくなくても聞こえるだろうし。その辺は疑ってないから安心しておくれやす。」
「す、すまん。」
「ですから・・・その・・・・・ごめんなさい! 気付かなかったとは言え、五反田さんを軽んじる様な事をしてしまい・・・なんて謝ったらいいか・・・・!」
「・・・・私もだ。本当にすまなかった! 弾!」
「・・・・・おあ~・・・参ったねこりゃ・・・?」 


もう一度、俺に向かって深く頭を下げ謝罪する淑女二人の姿に。
俺は居心地悪い事この上ない気持ちになってしまった。

あー・・・・こういうのは慣れとらんのだよね~・・・・。
まさか、此処まで思い悩んでいたとは。こりゃ俺のフォロー不足だな・・・。

とりあえず、俺はこの場を治める為に口を開くことにした。


「そんな気にせんでもよかよ~? 俺は全然気にしとらんからさ?」
「――― っだが!?」
「二人にそんな意図は無かったってのは、今のお二人さんの姿見りゃ痛いほど分かるよ。大丈夫だって、二人の気持ちも分かってるつもりやし?」
「私達の・・・?」
「・・・・・・気持ち・・・?」
「二人共、焦っちゃっただけだろ? 突然現れた、一夏に近しい淑女の登場にさ? 鈴は付き合いで言えば俺以上に一夏と付き合いが長いし。箒ちゃんは長年のブランク、セシリーちゃんは出会ってまだ一カ月に満たないって事が、二人に危機感を煽ったんじゃない?」
「「--―― なっ・・!?」」
「そうなると、なりふり構ってなんてられないと思うぜ? 恋は戦争だ。二人の行動は仕方ない事だと思う。だから気にしなくても全然構わんのよ俺の事は? 恋は盲目。恋せよ乙女ってな?」
「・・・・・・弾・・・・。」
「・・・・・・・・・っ・・・・!」


俺の言葉に、呆けたように呟く箒ちゃん。
セシリーちゃんは、顔を少しだけ伏せ唇を轢き結んでいる。

・・・・ふむ?
少々、セシリーちゃんの様子が気になるが、とりあえずこの場を治めちまおう。


「そんな訳で! この話はこれにて終幕! 俺の事を気にするより、あの鈍感要塞を落城させる手段を考えた方が、よっぽど良いと思うぜ? お二人さん?」
「・・・・弾・・・・。・・・・本当にすまなかった・・・・!」
「だーから気にしとらんてば。今日はやけに素直じゃないのよ箒ちゃん?どったのよ?」
「―――なっ!? それはどういう意味だ!?」
「おおう!? やべ、ついのほほんちゃんがポロっと。」
「のほほん・・・?」
「布仏姉妹の妹と掛けまして、人の心の声と解きます。」
【その心は?】
「どちらも本音というでしょう♪」
「誰が上手い事言えと言ったぁ!? 全く! お前は何故いつもそうなのだっ!? 人が素直な気持ちで真面目に謝罪をだなっ!?」


ギャーギャーと騒ぎ出す俺と箒ちゃん。

ふはははっ! いつまでもシリアスな空気なんて、俺はご免被るっ!!
みんなで愉快に楽しく騒がしく! 人生明るく行こうじゃない♪

ついには、どこから持ち出したのか木刀を抜いた箒ちゃんが俺を追いかけ回し始めるまでに事態は発展。
ちなみにその中で、何気に木刀に『京都にて 1000円』と書かれているのを発見する。

・・・・え? 実は結構、気に入ってたりするの箒ちゃん? ・・・ナイス趣味だ!!


――― とその時だった。
どうやら・・・・シリアスの女神さまは、いたく俺と戯れたいらしい。



「―――――― っ! 何故、人の事ばかり気に掛ける様な事しか言わないんですのっ!?」



突如、まるで悲鳴のような叫びが屋上に響いた。

突然の大音声に、俺と箒ちゃんが追いかけっこを中断し、声の発信源であるセシリーちゃんに視線を向ける。

その先では、セシリーちゃんが射抜くような瞳で俺を睨みつけており、両手をきつく握りしめ何かを堪えるよう震えていた。


「・・・オ・・・オルコット・・・?」


箒ちゃんの戸惑った言葉も無視し、セシリーちゃんが言葉をまくし立てる。
まるで、溜めこんでいたものを吐き出すかのように。


「言い返せばいいじゃないですかっ!? 怒ればいいじゃないですかっ!? 蔑めばいいじゃないですかっ!? 責め立ててればいいじゃないですかっ!? どうして私達を気遣う様な事を言うのですかっ!? 何故貴方はそうやって笑っていられるんですのっ!?」
「・・・・・ふむ?」


セシリーちゃんの様子に、俺は少し怪訝な呟きを洩らす。
・・・・何かセシリーちゃんの、心の底に触れるような事があったのだろうか?

特に思い当たる節がない為、どう返したらいいのか分からん。

此処は慎重に行こう。
こんなにも激情に呑まれたセシリーちゃんは初めてだし・・・それにきっと、これはセシリーちゃんにとって大きな分岐点になると、俺の紳士の勘が告げている。


「うーん? 責めるも、蔑むも・・・特にそんなことする必要なんてないと思うんだがね?」
「だからそれが理解できないと言っているんです!! 五反田さんは、ご自分のことをそこらの石と同じような扱いをされたのですよ!? どうして笑って許せるのですか!?」
「うーん・・・そう言われても。当の本人である俺がそう言っているんだしどうしようもないなぁ。」
「悔しくないのですか!? 私・・・女である私にそのように扱われて!?」
「俺は紳士だからねー? 女性にならそんな扱いされても、特に気にせんな!」
「―――っまたそうやって濁さないでください!! 男なのでしたらもっと堂々と構えてはどうですの!?」
「おおう? こいつは手厳しいねぇー・・・あっはっはっは。」
「――――っ何がおかしいんですか!? 男らしくない言って言われてるのに気付いてらっしゃらないんですか!? 笑ってないでちゃんと答えてください!!」
「うーん・・・・セシリーちゃん。 何か変だぞ? どうしたんだ一体?」
「私の事は今はどうでもいいでしょう!! 話を反らさないでください!!」
「そう言われてもな・・・?」
「―――っいいから気にしないでください!!」
「いやでもね?」
「いいと言っているじゃないですかっ!!」


けほけほと、そのまませき込むセシリーちゃん。
呼吸を整えようと肩で息をする様子に、俺は内心頭を捻る。

・・・うむん? セシリーちゃんて・・・たしか女尊男卑の傾向が高い娘じゃなかったっけか?
けど・・・今の言動を聞くに・・・実はそれほど男って存在を否定していない気がする。

ってことはだ・・・・。
セシリーちゃんの男に対する偏見は・・・何かしら理由がある。もしくはトラウマ。

その点を踏まえて頭を整理する俺。


――― もしかして・・・セシリーちゃん。俺と誰かを重ね合わせてるのか?


それもセシリーちゃんの男嫌いを構築する極めて重要な存在と。

誰かは知らんが、その人物と俺の行動、もしくは性質が似ているせいでセシリーちゃんの奥底の感情を荒立てちまったってことか。

おおう・・・・これまた、厄介な問題発生か。


さてさて・・・・・どうするかねー?


困惑する箒ちゃん。
俺を誰かと重ね合わせ、感情に呑まれているセシリーちゃん。


そんな俺達三人のいる屋上に、五月の風が吹き抜けていった――――――――――。



【楯無 SIDE】


「・・・・あらら、ダーリン探してたら・・・まさかこんな事態に遭遇しちゃうなんて。これは予想外ね。」
「・・・会長・・・? 流石に此処に居るのは少々不味いかと・・・盗み聞きですこれは。」
「あわわ・・・だ・・・だんだん~・・・大丈夫かな~・・・?」


屋上の入り口付近の壁の死角から頭だけ覗かせ、ダーリン達の様子を窺う私と虚ちゃんに本音ちゃん。

本音ちゃんに、ダーリンが二人の女子生徒に連れられ屋上に行ったという情報を得た私は。二人を連れやって来たんだけど・・・・

まさかこんな事態になるなんてね。
本当、ダーリンってば所々で騒動を起こす子ね。


「ん~・・・私としては、もしかして愛の告白っ!? て事態を期待してたんだけどなー?」
「・・・・期待通りではなく残念でしたね・・・会長。」
「あら? さっきまで不安そうに成り行き見てた生徒会会計さんのお言葉とは思えない発言ね~?」
「な、何を言っているのか分かりかねますね・・・?」
「あら? ダーリンって結構優良物件よ? ん~♪ いらないなら私が貰っちゃおっかなー?」
「―― っな・・・!? ほ・・・本気・・・ですか・・・?」
「うっそ★」
「・・・・・・・・・・・・・お嬢様・・・・・・?」
「やーん♪ 虚ちゃんがこわ~~い。 本音ちゃん助けて~~~~。」
「・・・・・む~~~・・・・・」
「あ・・・あら? もしかして私ピンチ? ふ、二人共眼が怖いよ?」
「・・・・・・・・・・(ポキポキ)」
「・・・・む~~~~~~~っ・・・・」
「ほっほら! 今はダーリンの様子を見守る事が先決よ!? ダーリン大丈夫かしらね~? あ、あははは。」


・・・ちょ、ちょっとからかい過ぎたみたい・・・危ない危ない。

今だ怖い視線を向ける幼馴染二人から強引に意識を外して、向かい合う三人の姿を視界に収める。


―――― さて? ダーリンはどうこの場を治めるのかしら?


内に湧きあがった一つの興味に、私は口元に小さな笑み浮かべ成り行きを見守る事に専念する。
今一度、見極めさせてもらうわ。五反田 弾くん?


本当に、興味が尽きない子っていうのは面白いなぁ♪



生徒会が見守る中――――― ダーリンはどこかやれやれといった様子で、頭を一つ掻き苦笑を浮かべていた。





後書き


更新を待っていただいた方々、大変お待たせして申し訳ありません。釜の鍋です。本当ならもっと早く更新する筈が・・・二十話目書いてる途中、パソコンの電源が落ち、しかもマメに保存しとらんかったせいで半分以上消えるという不幸に見舞われてしまいました・・・今度からマメに保存する事にします。さて次回、セシリー救済。生徒会本格介入に、凹凸コンビがこちらもようやくエンジンかかります。・・・自分、物語をポンポン進めるのが恐ろしく下手みたいです。次の更新は出来るだけ早くしようと頑張ります。



[27655] 第二十一話 協定一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2011/09/24 08:16
ちわっす、淑女に笑顔を野郎に拳を。五反田 弾です。

さぁ、のっけからシリアス全開でお届けする紳士クオリティ!最近シリアスの女神様に大人気な俺です。

いや~、ははは参ったなー。



“―――――――――・・・チッ・・・!”



・・・・あ・・・すんません・・・・・・・・怖っ!? シリアスの女神様怖っ!?


まっまぁそれはともかく・・・いや実際激しく気になるが、とりあえずは今目の前で発生した問題を片付けることが先決。

俺の目の前には、興奮冷め止まぬ雰囲気絶好調のセシリーちゃん。そして俺の横には、思っても見ない事態発生に固まる箒ちゃん。

・・・・わずかに視線も感じるが、これは今のところ無視しても問題なさそうだから放置。

さてさて・・・どうしよっかね~?

とりあえず場を和まそうと、今現在。俺はセシリーちゃん相手に色々と話を振って見ているのだが・・・効果の程はというと――。


「――っ五反田さん! 聞いていますの!?」
「ああうん。女神様の舌打ちはバッチリ聞いたよ?」
「なんの話をしているんですか!?」
「・・・あー・・・とりあえずは、一端落ち着こうぜセシリーちゃん? お菓子あげるから。」
【すみません、相棒。今切らしてます。】
「なんですと? 結構【貯蔵】しとらんかったっけ? 『こなこともあろうかと~』ってのが、紳士の嗜みだというのに。おいおい頼むぜ相棒?」
【申し訳ありません。相棒の目を盗んで、のほほん嬢がねだるものですから、つい。】
「・・・のほほんちゃん、お菓子の食べ過ぎは良くないとあれ程言ってるのに・・・!?(主夫)しかしこれは参った・・・ごめんねセシリーちゃん。お菓子ないみたい。」
「っですから!! そうやって話を逸らそうとなさらないでださいと言っているじゃありませんの! いい加減にしてくださいっ!」
「い、いやオルコット・・・。 弾は、とにかく一端この場を落ち着かせようと、その・・・なんだ、あのような物言いをだな?」
「俺にそんな思惑があったのか・・・。」
【スゲー。】
「――っ何を客観視した物言いをしているんだお前達はっ!? この馬鹿者共っ!? 火に油を注ぐような事をするなっ!」
「やっぱりふざけているんじゃありませんのっ!」


と、まぁこのように。さっきからこんな調子が続いている。

うーん? ある程度感情煽って心内を吐き出せば落ち着くかと思ったんだが・・・この方法は逆効果だったかね?

さっきから同じ様な押し問答を繰り返すばっかで埒が明ない。やれやれどうしたもんですかねー・・・・?

けど・・・セシリーちゃんが先程から俺に向かって投げかける言葉を反芻してみて一つ気付いた事がある。

それは、問い掛けの言葉が多い事だ。

『何故』、『どうして』など、全部が俺の行動に対する問いが話の大半を占めている。

・・・けどなー・・・このセシリーちゃんの問い掛けに、俺は答えてあげるべきだろうかね?

俺の推測通りであれば、セシリーちゃんは俺に誰かを重ねて見ている可能性が極めて高い。

そして、その誰かさんと俺を重ねているのであれば、さっきから俺に投げかけている問い掛けは、全部その人に向けて話しているということになる。

けど、俺はその誰かさんじゃない。いくら行動や性質が似ているといってもあくまで似ているというだけ、全くの別人。

だからこそ俺の出す答えが、その誰かの答えと一緒である保障など何処にもない。その考えが頭に浮かんじまったから、俺も下手なこと言えんのよ。

・・・・ふむ。

まぁ、色々と思考に没頭した結果・・・とりあえず今の俺にできるのは、セシリーちゃんから情報を聞き出すことぐらいだろう。

そう判断した俺は、視線をセシリーちゃんに向ける。

重ねている誰かさんの正体。そしてその人物の詳細を知る事が出来れば・・・俺なりに力になれるかもしれんし。彼女の望む答えには、彼女が自分で考え、納得し、理解し、認めた上で辿りつくべきだしね?

ほんじゃま、やる事も決まった所でそろそろ行動に移すかね? なんかこれ以上話を受け流すと、セシリーちゃんに武力行使してきそうだし。


「ふむ? 俺は別にふざけている訳じゃないのよセシリーちゃん。」
「何処がですの!? 信じられません!」
「・・・弾。いい加減に真面目に答えてやらんか。このままでは時間を無駄に浪費するだけで埒が明かん。」
「ん? 何言っとるのよ箒ちゃん? これが俺の答えよ?」
「・・・・は? 何を言っておるのだ?」
「――っど、どういうことですの!?」
「俺の態度見て分からんかね? 俺はセシリーちゃんの質問に答える気がないってことよん。」
「「――っな!?」」


思っても見ない俺の言葉に、二人共驚きの声を上げ俺に視線を向ける。

まぁ無理もないか。日本紳士である俺が、淑女の質問に答える気がないなんて信じられる話じゃなかろうて。【世界紳士連合】もビックリだ!

でも、今回ばっかりは仕方ないと思うがね? その質問の対象が俺ではないのだから。

固まるセシリーちゃんに、俺はヘラリと笑みを向け口を開く。


「質問に質問で返すのはマナー違反だが・・・。へいセシリーちゃん! その質問は、俺が答えるべき事かね? セシリーちゃんは、本当に俺に答えて欲しい事なのかね?」
「な、何を言ってますの!? さっきからそう言って―――・・・!」
「ふむ、じゃあ言い方を変えよう。セシリーちゃん? 一体俺に『誰』の代わりに答えて欲しいの?」
「―――っ!?」
「さらに言えば・・・俺に一体『誰』を重ねているのかね? 悪いけど、俺はセシリーちゃんが本当に答えて欲しい相手じゃないよ。俺の持つ答えが、必ずしもその誰かさんと同じ答えだという保証なんて何処にもない。それでもセシリーちゃんは俺に答えて欲しいの? それでもいいなら答えるけど? 日本紳士である『五反田 弾』の答えを。」
「―――っあ・・・あ・・・・!?」
「・・・オルコット・・・・?」


俺の言葉に、セシリーちゃんは両手で顔を覆った。その考えに至った所で、よううやく自分が何を本当に求めているのか理解したらしい。


そして――・・・


「あ――・・・ご、ごめんな・・・さい・・! わ・・・わたく・・・し・・・!? 私――・・・!? また・・・五反田さんを・・・!? あ・・・ああ・・・な、なんてこと・・・!・・私は・・・わ、わたくしは―――っ・・・!?」


そのまま、うわ言の様に俺に謝罪を返してきたセシリーちゃん。その表情は・・・まるで迷路に迷い込んでしまった子供のように不安げで、弱々しいものだった。

・・・まぁ、仕方ないか。今にも手が届きそうだった答えが、眼の前で霞みの様に消えてしまったも同然だろうしね? その胸中は穏やかじゃいられないだろう。

さらに言えば、俺という存在を誰かの代わりにしてしまった。俺を別の誰かとすり替えて見ていたという自分の行いに嫌悪感を感じてもいるように見てとれる。

ふむ・・・まぁ俺の事は別に良いんだがねー。でもまぁ、セシリーちゃんを落ち着かせるなら今しかないな。こういった時こそ紳士の出番さ!

少し不安定なセシリーちゃんに向かって、俺は数歩近づいた。

俺が近づいてきた事に、セシリーちゃんがビクリと体を震わせ、怯えの含んだ瞳を俺に向ける。

ちょっと弱々しい今のセシリーちゃんに萌えつつも、俺は少し体をかがめセシリーちゃんの顔を覗き込む。気分は幼子を愛でる大人の心境デス!

そしてそままヘラリと笑い、セシリーちゃんに話掛ける。


「だーいじょーぶよ。セシリーちゃん? 俺は別に怒ってる訳じゃないからさ。」
「あ・・・で・・・でも・・・! わ・・・私・・・五反田さんを・・・また・・・!?」
「蔑ろにしたって? あっはっは! 俺にとっちゃそれこそどうでもいいことよん。気にせんで良いよ。」
「――っで・・・ですが・・・!」
「ふむん・・・。お? そんじゃこうするか。へいセシリーちゃん!」
「な、なんですの・・・?」
「それじゃ俺にお詫びをって意味で。セシリーちゃんが、一体俺に『誰』を重ねて見ていたのか教えてくれないかね? 駄目?」
「え・・・?」
「いやー実際気になるじゃん? 俺に重ねるってことは、その誰かさんは俺とよく似ているってことでしょ? 俺として是非ともその人が誰か知りたい所だ! 紳士かもしれんしね。」
「え・・・ええ・・・まぁ、男性ですから・・・その、紳士ではあります・・・けど。」
「・・・・何だ野郎かよ・・・。」
「そこで露骨にがっかりするのかお前は・・・女性ならば良かったのか?」
「俺に似た淑女か・・・傍迷惑な。」
【全くですね。】
「自分で言うのかそれをっ!?」


箒ちゃんの突っ込みに、そのままヘラヘラと笑いを返す俺。

ふむ、少し空気が緩んだな。箒ちゃんの怒声にセシリーちゃんもちょっと苦笑いをしているし。うむ、落ち着いたようで何よりだ。

俺と箒ちゃんの様子を見ていたセシリーちゃんは、しばし考える素振りを見せた後、一つ頷いて俺に視線を向ける。

おおう? どうやら話してくれるみたいだ。


「・・・お父様・・・・ですわ。」
「・・・OTOUSAMA・・・?」
「何故疑問形なのだ?」
「ですから・・・その、私が五反田さんに重ねていた人は、私のお父様なんです・・・。」
「・・・あ・・・あ~! お父様ね。親父、父親、パパン、Fatherのことね? 俺には馴染みのない単語だからピンとこなかったぜぃ。」
「・・・弾、もしかしてお前・・・お父上が・・・?」
「昔のことさ・・・ふ・・・もう顔も思い出せねぇ・・・・。(哀愁)」
「そ、そうか・・・すまない。辛い事を思い出させてしまったようだな・・・。(しゅん)」
【・・・・いやいやいやいや】
「いいさ。それにしても、似ているのがまさかセシリーちゃんのお父様とは思いもしなかったぜ。」
「・・・似ている・・・いえ、似ているとは正しい表現ではありませんわね。お父様と五反田さんでは・・・似ているようで、全く似ておりませんから・・・。」


そう言って少し寂しそうな表情を浮かべ、顔を伏せるセシリーちゃん。・・・うむん? どうかしたのだろうか。

良く分からないといった表情を浮かべる、俺と箒ちゃんの顔を見たセシリーちゃんは。自嘲気味に小さな苦笑を返し、呟いた。


「父は・・・お父様は、五反田さんと違って・・・弱い人でしたから。」


そう告白したセシリーちゃんの姿は。何処か寂しげで、瞳も悲しみに揺れているようだった。

セシリーちゃんの姿に、箒ちゃんが戸惑いがちに口を開く。


「弱い・・・? それはどういった意味なのだ・・・?」
「言葉通りの意味ですわ。・・・お父様は、とても弱い人間だったんです。・・・もし、父が五反田さんの気性にもう少し似ていれば・・・もっと違ったのでしょうけど。」
「・・・成程ねー? 全部が全部似ている訳じゃなくて、ふとした仕草が俺と重なる部分があるって意味なのね?」
「・・・はい。そうですわ。」
「ほうほう・・・・ん? 弱い人間・・・だった?」
「・・・まさか・・・!」
「・・・ええ、お察しの通りもうお父様はいらっしゃいません。・・・三年前、事故で帰らぬ人になりましたわ。お母様と共に・・・・。」
「「・・・・・!」」


その言葉に、思わず息を呑んだ。箒ちゃんも、セシリーちゃんが両親を亡くしているという事実に言葉を無くしている。

それと同時の俺は理解した。先程までのセシリーちゃんの剣幕と行動の根本にあるものを。

セシリーちゃんは・・・もう聞く事が出来ないんだ。本人に、お父さんに直接訊ねることが二度と。

だからこそ必死だったんだ。

父親を思い起こさせる仕草をとった俺に、答えを持っているかもしれないという小さな希望を胸に問い掛けた。

もう知る事が叶わない、お父さんの姿を俺に見て・・・長年の想いが爆発した。

・・・やれやれ、こいつは参ったね~?

まさかここまでヘビーな問題とは思わなかった俺は、少し頭を掻き内心小さく息を吐いた。

全く本当に勘弁してほしいぜ。本当に最近問題発生のオンパレード、今日で二件目ですよ?そんな寂しそうな顔でそんな事言われちゃぁ――――・・・


――― 何とかしてやりたくなるじゃねぇかよ。


「・・・へい! セシリーちゃん!」


突然の俺の少し大きめの声に、セシリーちゃんが驚いた顔を向ける。


「! は、はい。なんですの?」
「セシリーちゃんが何を俺に求めてるのかは大体分かった。けど、俺はセシリーちゃんの求める答えを持っている訳じゃない。それはいいかね?」
「え・・・ええ。・・・それは、先程理解しました・・・・。」
「よし、そんじゃその点を踏まえて・・・話してくれないかね? セシリーちゃんのお父さんの事をさ?」
「・・・・え?」
「俺は答えを持っている訳じゃない。けど、セシリーちゃんは俺にお父さんの姿を見たってことは、俺がセシリーちゃんのお父さんに通じる何かを持っていると感じたからだよね?」
「は・・・はい。」
「なら、もしかしたらだけど・・・セシリーちゃんのお父さんの事を、俺がもっと正確に思い浮かべる事が出来たら、お父さんの根本に近づく鍵を見つけられるかもしれない。」
「――――っ!?」


俺の言葉に、セシリーちゃんが弾かれたように眼を見開き、俺を凝視する。その瞳は、僅かな希望と、救いを求める子供のように淡く光っている。

そんな彼女に、俺はヘラリと笑い返し頷く。


「あくまで、俺がセシリーちゃんのお父さんを思い浮かべた上での俺なりのビジョンだけどな? それでも構わないなら話してくれんかね? 俺も今度はおふざけ無しで、ちゃんと返すよん。どうかね?」
「――― は、はいっ! お願いしますわ!」
「わ、私は席を外した方がいいか?」
「いんやー、此処まで来たら一蓮托生だぜ箒ちゃん! 箒ちゃんも協力しておくんなせぇ。いいかねセシリーちゃん。」
「構いませんわ。」
「そ、そうか。・・・うむ、承知した。」


そう言って、表情を引き締める箒ちゃんの姿に微笑ましく思いながら、セシリーちゃんに視線を移し一つ頷く。

その俺の仕草に、セシリーちゃんも小さく頷き・・・ゆっくりと口を開いた。



父親の事・・・母親の事・・・オルコット家の事・・・入り婿であった事・・・母の顔色ばかりうかがっていたこと・・・そんな父を、母が拒んでいた事・・・。



その一つ一つの情報を呑みこみ、俺はセシリーちゃんのお父さんの姿を構築していく。何故そうなのか、どうしてそうなってしまったのか。

それら全てを、俺だったらと、こうだったのではないかと、俺は徐々にセシリーちゃんのお父さんを思い浮かべ―――・・・・。


―――― 一つの答えに行き着いた。


・・・・ああ、そうか。もしかして・・・セシリーちゃんのお父さんは。

俺が一つの姿を幻視した時には、セシリーちゃんは話を終えてた所だった。


「――― 以上が・・・私のお父様の事ですわ・・・。娘の私が言うのも何ですが・・・弱い人でしょう・・・?」
「・・・オルコット・・・・。」


寂しげに呟くセシリーちゃんに、箒ちゃんが気遣わしげな声を漏らす。

どうやら箒ちゃんは、セシリーちゃんと同様の姿しか思い起こせなかったみたいだ。まぁ仕方ないか、女心は難解だけど。男心もまた複雑だかんねー? 意地だらけじゃない分、女心の方が美しいがね!

さて、そんじゃ俺の行き着いたセシリーパパンの姿を語るとしますか。


「・・・ふむ。成程ねー・・・セシリーちゃんや?」
「―――っは、はい。何ですの・・・?」
「セシリーちゃん。俺とお父さんが似てる所があるって言ったけど・・・」
「・・・は、はい。」
「ぶっちゃけ。何処が似てんのかね? 失礼にも程があるぞ?」
「「――――っ!?」」


俺の言葉に、セシリーちゃんは表情を硬くし。箒ちゃんに至っては、怒気を込めた瞳で俺を睨みつける。

いや・・・そんな睨まれても困るんだがね。

そんな俺に、表情から色を無くしていたセシリーちゃんが、乾いたような諦めに近い苦笑を漏らした。


「・・・そう・・・です・・・わね・・・。・・・確かに失礼でしたわ・・・。」
「うむ。全く持って失礼だ。セシリーちゃん、そりゃあんまりってもんだぜ?」
「――っ弾! 貴様何を言っているのか分かっているのか!?」
「勿論だ。何を怒ってるの箒ちゃん? 俺は至極当然の事言ったまでだよ?」
「―――っ見損なったぞ!? まさか貴様が、その様な男だったとは思わなかった! 恥を知れ!」
「・・・いいんです。篠ノ之さん・・・五反田さんは、正直に答えてくださっただけですわ・・・五反田さんの捉えたお父様の姿を。」
「――― っだが! いくらなんでも今のような言い方は!?」
「いいんです・・・。ふふ・・・これで確信を持てましたし・・・・。お父様は・・・私の父は・・・・誰が見ても・・・・」


そう呟き顔を伏せるセシリーちゃん。

そんなセシリリ―ちゃんに、俺はしっかりとした声で告げた。

―――― 俺の捉えたセシリーちゃんのお父さんの姿を。



「――― ああ。俺なんかと比べるなんて恐れ多すぎる程。偉大な人だ。はっきり言って俺なんかと似てる部分なんて見つける事すら難しいぜ。いくら何でも・・・俺と比べるなんて、そんなのお父さんに失礼だぜ? セシリーちゃん。」



「――――― ・・・・・え・・・・・?」
「----っ!? ど、どういうことだ・・・・?」


俺の発言に、戸惑った声を漏らす二人に向かい、俺は沙汰に言葉を紡いでいく。

ああ、本当に・・・・凄ぇ人だぜ。セシリーちゃんのお父さんは。


「うむ。聞けば聞く程、惚れぼれするぐらいに凄い人だぜ。むしろ、そんな人に似てるって言われるとは光栄以外の何物でもないなぁ。」
「――っ先程の言葉はそういった意味だったのか!?」
「勿論よん♪ 箒ちゃん、早とちりしちゃった?」
「ま、紛らわしい言い方をするからだ! この馬鹿者!」


口調は怒っているようだけど、その表情は嬉しげでほっと安堵した色を浮かべている箒ちゃんに、俺もヘラリと笑い返し、続けてセシリーちゃんに向き直る。

呆けたように俺を見据えていたセシリーちゃんだったが、ようやく言葉の意味が頭に回ったようで、次の瞬間には、怒号に勢いで捲し立ててきた。


「――― っそ、それはどうしてですの!? な、何故そう思えるのですかっ!? わ、私の話を聞いて、何故そういった結論に至るのですかっ!? お、お父様が・・・! わ、私のお父様が偉大だなんて、どうしてそう思えたのですかっ!?」


必死に俺に問い詰めるセシリーちゃん。

その瞳には大きな混乱と驚愕に彩られ、そして期待に満ちていた。

・・・うーむ、これは俺の考えであって答えではないからなぁ・・・でも、話を聞くに俺はそうとしか思えなかったんだよね。


「そんなに期待されても困るよ? あくまで俺の捉えた姿だから、その点を忘れちゃならんよ? そこは理解してね。」
「―――っわ、分かっています! けど・・・けど、そのように捉えた人は五反田さんだけなのです・・・! 教えてください! 何故、何故そう思えたのですか? 五反田さんには、お父様は一体どう映ったのです!?」
「俺がその答えに行き着いたのは・・・セシリーちゃんが『家族』としてお父さんを見てるのと違って、まるっきり他人として見たからだよ。」
「・・・他人? しかし・・・私から見ても、お前と同じような意見には至らなかったが?」
「そりゃセシリーちゃんのお父さんを『個人』として見りゃね? けど俺は・・・もっと視野を広げて見たんだよ。お父さんを取り巻く環境を見据えてみたら・・・俺は、セシリーちゃんのお父さんが凄い人じゃねぇかと思えたんだ。」
「そ、それは一体?」


いまいちピンとこないセシリーちゃんと箒ちゃんに苦笑し。俺は言葉を紡ぐ。


―――― さぁ、セシリーちゃん。君に鍵を渡そう。


その鍵を持って、どういった答えに行き着くのかは・・・君次第だ。

お父さんの本当の姿・・・それを本当に知る事が出来るのは・・・・娘である君しかいないんだ。

俺は唯の推測でしかとらえられない。けど、お父さんを間近で見たいた君なら、行きつける筈だ。


それじゃあ語ろう。俺の捉えたセシリーちゃんの父親を。


―――― オルコット家を、奥さんを、そして娘である君を愛して止まなかった男の姿を。


―――― 悲しいまでに不器用な深い愛情を注いだ。 大嘘つきの姿を。





【 虚 SIDE 】


―――― バンッ!


屋上の出入り口のドアが派手な音をたてると同時に、金色の髪をたなびかせた少女が駆け抜けて行った。

その姿を見送る五反田くんの姿に・・・私は小さく心臓の鼓動が跳ねるのを実感した。

突然走り去ってしまった少女の姿に、もう一人の黒髪の女子生徒は困惑した様子だったものの。

その後すぐ、五反田くんと一言、二言交わした後、静かに屋上を後にした。


「・・・・・はー、流石ダーリン。捉え方が違うわねー。」
「だんだんは、いろんな所に目を向けられるからねー? それがだんだんの良い所なんだよねー。」
「ええ、そうですね。後は・・・彼女が自分で解決するでしょう。」
「そうね。これから先は彼女の問題。う~ん♪ ダーリンも引き際を心得てるわね! ますますウチに欲しくなっちゃった♪」


壁越しに、そう密談を交わす生徒会一同・・・・・とてもシュールな光景ですね。まぁ仕方ないですけど。

それにしても・・・これで完全に盗み聞きになってしましましたね。

うう・・・今から話掛けなければならないというのに、なんて言ったら良いんでしょうか・・・・?

盗み聞きをする趣味でも持っているのかと思われでもしたら・・・・ど、どうしましょう? 急に不安がこみ上げてきました・・・!?

一人オロオロし始めたそんな私に、それを敏感に察知したお嬢様が悪戯っぽい頬笑みを向けた来ます。


「・・・な、なんですか・・・?」
「うふふ、そんなに不安に思わなくても大丈夫よ? きっとダーリンことだから、怒りはしないと思うなぁ。それに、私の指示でこうしてこの場に留まっている訳だし、あんまり気に病まないでいいのよ虚ちゃん♪」
「そ、そういう訳にも・・・」
「だんだんの事だから・・・怒りはしないと思うよ~? でも、注意くらいはされちゃうかもー? セッシーの事情を無断で聞いちゃったしねー?」
「あらら・・・うーんそれに関しては、確かに誉められた事じゃないし、潔く謝りましょう。」


本音の言葉に、苦笑を浮かべたお嬢様。その様子に私も一つ頷く。理由はどうあれ、覗き見をしてしまったのは事実。

なら、ちゃんと謝らないといけないですね。

お嬢様の言葉に賛同の意を伝えようと言葉を開こうとした・・・その時でした。


「――― さって? いつまでかくれんぼしてる気かね? そろそろ出てきたらどうだい。」


五反田さんが、屋上の入り口に視線を向けそう口にしたのでした。

――っ! や、やっぱり気付いてたのね。

五反田くんの言葉を聞いて、本音が『に゛ゃ!?』と小さく驚き、お嬢様は五反田くんが私達に気付いている事に察しがついていたようで、扇子で口元を隠しクスクスと嬉しそうに微笑んでいらっしゃいました。

うう・・・正直な所、出て行きたくないです。こんな醜態をさらすなんて・・・。

内心落ち込む私。そんな私にお構いなしに・・・いえ、むしろ気付いていながら楽しんでいるであろうお嬢様は、面白げに忍び笑いを漏らした。

何を笑っていらっしゃるのでしょうかお嬢様は?

うふふふ・・・後で『OHANASHI』の時間を設けるべきでしょうか・・・・?


「・・・あ・・・あわ・・・あわわわわわわわ~・・・・っ!?(ガクガクブルブル)」
「――― あ、あはははは!? さ、流石ダーリン! やっぱり私達に気付いてたのね!? 嬉しいわっ!!」


・・・急に大きな声を張り上げて、壁の死角から踏み出し五反田くんの前に姿を現すお嬢様。・・・逃げても無駄ですよ?

・・・本音も何をそんなに真っ青になって小さく震えてるのかしら? 変な子ね? うふふふ。
・・・何よその涙目で『・・・ひっ!?』って・・・失礼ね・・・。


「おおう? 誰かと思えばハニーじゃないか!・・・って、何そんな震えてるの? どったのよ?」
「・・・・ダーリン助けてっ・・・私、殺されるっ・・・・!(涙目)」 
「登場と共に、いきなり助けを求める美少女との遭遇フラグっ!? へい! 何にがあったのよ!?」
【非殺傷だから死にはしないでしょう。潔く逝ってらっしゃい。】
「七ちゃんっ!? 事情を察しながらも見捨てようとしないでぇっ!?」
【自分の集音率を舐めちゃいけません。前掛け舐めんな。】
「流石だ相棒!」
【自分は、いずれ全ての前掛けの頂点に立つ存在。この程度朝飯前よ。】
「いろいろ突っ込みどころ満載だけど、とりあえず助けてぇっ!?」


ワイワイと騒がしくなった屋上の雰囲気に、私は小さく溜息をつく。

・・・とりあえず、いつまでも隠れている訳にはいかないわね。

そう思った私は、まだちょっと震えてる本音に目線で促し立たせる。・・・そんなに怯えなくてもいいじゃないの。・・・冗談だから、怒ってないから本音には。

あからさまに、ほ~~~っと、息を吐く妹に色々思う所はあるものの、本音と一緒に物陰から踏み出して、お嬢様から一歩下がる位置に並ぶ私達。

私達姉妹の登場に、五反田くんは「おおう、やっぱり美人姉妹のお二人も一緒か! 眼福眼福。」と笑みを零して頷いていました。

・・・そ、そんな煽てには乗りませんよ? もう・・・・(赤面)

『ダーリンGJ!』と、お嬢様が何やら叫んでいますが。・・・? 何を喜んでるんでしょう『OHANASHI』はしますよ?

そしてその後すぐ『・・・神は死んだっ・・・!』と膝をつくお嬢様を尻目に、私は小さな会釈を五反田くんに返したのでした―――。



――――― そして数刻後。


「ええええええええええ~~~~~~っ!? もう悩みは解決しちゃったって! それは本当なのダーリン!?」


屋上にお嬢様の大声が木霊した。

そんなお嬢様の様子に、五反田くんが少々戸惑った表情を浮かべつつも、頷いて言葉をつづける。


「お、おおう。その通りだぜハニー。・・・え? 何か不味かった!?」
「そ、そんな~・・・。折角私達が大活躍する筈だったのに・・・! 酷いわダーリン!?」
【マジKY】
「最近相棒が俺に容赦ない件について。そろそろ議会を開かにゃならんと思う今日この頃です。」
「お嬢様・・・そこは残念がる所ではないと思いますが。・・・悩みが解決したようで何よりです。良かったわね五反田くん。」
「虚さんの優しさが身に沁みるぜ! サンキューです!」
「・・・そんな事言って、虚ちゃんだって内心は残ね「お嬢様?」良かったわね! ダーリン! 私も祝福しちゃうわ、おほほほほっ!(冷汗ダラダラ)」
「ハニーもサンキュー! ・・・といっても、実は小さな妖精ちゃんが力添えをしてくれたおかげなんだがね?」
「・・・小さな・・・?」
「・・・妖精・・・・? え? そ・・・それって他の女の子の力添えがあったって事・・・?」
「おう! 超可愛らしい妖精ちゃんだ! いやマジで助かったなー。感謝感激だぜぃ!」
「・・・・・・・そう。」
「・・・ダーリン・・・! お、お願いだから今は軽はずみな発言しないでぇ・・・!?」


お嬢様が何か弱々しく呟いていますが・・・・そうですか、可愛らしい妖精さんがですか。そうですか・・・・。

いえ、別に良いんです。悩みが解決したのなら喜ばしい事です。ええ、本当に。

そんな事を思う私に、五反田くんが妙な顔を浮かべてきました。・・・・何ですか?


「およ? 虚さん、眉間に皺が寄ってますがどうかしたんですかね?」
「・・・別になんでもありません。(プイッ)」
「おおう? そ、そっすか・・・。いやその表情もお美しいですから別に何でもないならいいですが。」
「・・・口が上手いのね。五反田くんは、そうやって誰に対してもそう言ってるんでしょう?」
「本心ですが?」
「・・・そ、そんな事聞いてません!(真っ赤)」
「・・・・~~~~~~っ・・・・・!!」


五反田くんの言葉に、ちょっとドギマギしつつ返す私でしたが・・・その横で、私以上に機嫌の悪い子がいる事に五反田くんは気付いているのかしら?

私の横で、頬を膨らましながら半眼で五反田くんを睨んで・・・いえ、この子の場合迫力が皆無だから凝視の方がしっくりくるかしら?

そんな様子の本音が、さっきから『ぶっすぅぅぅ』とした擬音が聞こえるぐらいの表情を浮かべ、五反田くんに非難がましい顔を向けていた。


「・・・・そんでさっきからムスッとしてる萌えっ娘ちゃんですが。へい! のほほんちゃん! 一体どうしたのよ!? 俺なんかしたっ!?」
「・・・・むーっ!」
「え? 何にもしてないから怒ってる? どゆこと?」
「むーっむーっ!」
「えー・・・そんな事言われましても。解決した事は事実な訳でしてね?」
「むいぃ~~~~~~っ!?」
「あー・・・いや、妖精ちゃんの事は今この場ではちょっと・・・時期が来たらって事で此処は一つお怒りを鎮めて貰えないでせうか?」
「むぅぅ~~~~~~~~っ!」
「・・・ところでのほほんちゃん。俺が【貯蔵】していたお菓子の一件だが・・・?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・目を反らすんじゃありません! お菓子は一日三つまでと言っているでしょう!? ちょっとそこ座んなさい! 相棒も甘やかすんじゃありませんっ!(主夫)」
「あ、あうぅぅ~っ!? だ、だってぇ~! 物足りなかったんだも~ん!?」
【サーセン】
「・・・・私としては、本音ちゃんとの以心伝心ぶりと、扱いの上手さにビックリなんだけど・・・。」


なんだか話が変な方向に向かいそうだったので、とりあえず話をいったん区切った私達は、お嬢様に言われ水筒に淹れてきた紅茶を取り出し、その場で振る舞うことにしました。

屋上の芝生の上で向かい合って座りながら、少しの間他愛のない話を続ける私達。

ちなみにお嬢様と本音、そして私の下には、五反田くんが『七代目五反田号』から取り出したシーツが敷かれ、その上に腰を下ろしている状態です。・・・用意が良い人ですね本当に。

・・・本当なら、その場で淹れた方がいいのですが。

一応温度によって、その都度味が変わる趣向にしましたが・・・どうやらお嬢様と五反田くん、そして本音の口に合ったようですので良かったです。

そしてまた数分の時間が流れ―――――・・・話はようやく佳境に入りました。


「・・・・ん~? つまり、ハ二ー達美人生徒会のお三方は、俺の手助け・・・もとい協力を申し出てくれてるって事で良いかね?」
「そう♪ 悪くない話しだと思うけど? 私達と仲良くすると色々お得よ~?」
「何・・・? 特典が付くのか・・・!?」
【相棒、オマケ狙いは程々に。】
「そうよ~? オマケで生徒会役員の肩書が付いてくるプレミア特典付きよ? どうかしら?」
「それ勧誘って言わなくね?」
「そうよ?」
「ストレートな君が素敵だハニー!」
「や~ん♪ そんなに褒めないでダーリン♪」


軽口を叩きつつも、お嬢様の眼が真剣なことに気が付いている五反田くんは、小さく「ふむ」と呟くと。紅茶を一口飲んで考える素振りをみせる。

その様子を、私と本音は黙って見守る。

しばらく考えこんでいた五反田くんでしたが・・・。


【相棒。この話お受けしてみてはどうです?】
「おおう? 相棒何故にそう思うのかね?」


そう進言した『七代目五反田号』に視線を向けて、五反田くんは少しだけ眉をひそめる。

私達も、まさか彼のISから援護射撃がくるとは思いもせず少々驚愕する。


【相棒も知っての通り、クラス対抗戦まで時間はあまり残されていません。ならば、彼女達の力を借りて、手札の一つを集めてはどうでしょう。その方がより相棒も色々動き易くなりますし。メリットは大きいです。】
「ふむ・・・・。」
【妖精さんの事もあります。かえって好都合では?】
「・・・・・成程・・・・確かにメリットはでかいな・・・・。」
【ええそうです。・・・・それともう一つ。】
「ん? 何よ?」
【もしこの話を断ったりしたら、のほほん嬢の機嫌が急転直下すること間違いなしです。あれ程、相棒の手伝いをすると言ってくれていたのに、妖精さんの力は借りたのに自分には頼ってくれないのかって。】
「・・・・・・・・・・・・・・(チラっ)」
「・・・・・むぅぅ~~~~~~~っ・・・・・・!」
「――― よろしく頼むぜハニーっ!! 別に後が怖いからって訳じゃないからね!?」
「任せてダーリン! んー・・・でもま、ちょっと強引過ぎるから、初回はお試しって事でいいわ。いくらなんでも急に生徒会に入ってもダーリンも戸惑っちゃうでしょうからね♪」
「なんてサービス精神だ!? 素敵過ぎるぞハニー!!」
「そうでしょう? んふふ♪もっと敬ってくれてもいいのよ。」
「ハニーって結構メンドクサイ人やね!」
「ちょっ!? 敬ってないわダーリン!?」
「すみません。」
「そこは謝らないで欲しいわ虚ちゃん!?」
「それよりもー、だんだんは結局何を今まで調べてたのー?」
「それよりもって本音ちゃんまで!?」
【ちょっと、うるさいんですけど。】
「・・・・・・・・・・。」


ちょっと離れた所で『の』の字を書き始めたお嬢様。そんなお嬢様の姿に、小さく苦笑を浮かべあう私と本音、そして五反田くん。

・・・・少し悪乗りしすぎたかしら・・・・? 

それからしばらくして、いつもの調子に戻ったお嬢様を交えて。私達は、今まで五反田くんが何を調べていたのか、そして何の為に調べていたのか詳しく話を窺うことになったのでした。



―――― 数分後。



五反田くんから、全ての話を聞き終えた私達は・・・先程までとは打って変わった真剣な面持ちで、『七代目五反田号』が表示した情報に目を向けていました。

・・・・まさか、五反田くんはこんな事まで調べていたなんて。驚愕の一言しかありません。

そして同時に理解しました。

五反田くんが、心の底から彼女を・・・『凰鈴音』を救い出したいと思っている事を。どれだけ大切に思っているのかを。

・・・・少しだけ妬けてしまう位に。この『凰鈴音』と言う子は・・・幸せね。

その情報端末を見据えつつ、お嬢さまがにっこりと頬笑みを浮かべ五反田くんに向かって話し掛けました。


「ダーリン。結構凄い事調べてたのね? うんうん♪ さらに高評価しちゃうな~」
「んー・・・。まぁ、これ位しなきゃならん事態だったしね? 仕方ないさ。」
「えへ~♪ りんりんの為だったんだね~? だんだん。」
「・・・しかし・・・これは結構厳しいですね。五反田くん、一体どうするつもりなの?」
「とりあえず・・・切り札は任せられる相方がいるからね。出来る事なら・・・ハニー達にはこれを頼みたいんだ。」
「これって・・・成程。確かに時間が掛かる上に、一番情報が少ないから・・・これは私達が適任ね・・・けど判明した後は?」
「そんときゃ俺に連絡を。後は俺の役目だと思うしね?」
「分かったわ・・・虚ちゃん。」
「承知いたしました。」
「よろしく頼みます・・・・で、のほほんちゃん!」
「なにー?」
「実はのほほんちゃんには別の任務を頼みたい!」
「お~! らじゃ~♪ なになに~?」
「おそらくクラス対抗戦まで俺も忙しい日々になると思うから・・・その間、鈴の様子をちょくちょく見に行ってやってくれないかね? おそらく鈴にとって、この学園で気を許せるのは一夏と俺を抜かしたら、のほほんちゃん位だと思うんだ。一夏とはすれ違いの最中だしね。」
「うぃ! りょーかいです。ぐんそー♪」
「うむ! 貴官の尽力に期待するっ! ・・・ってことで・・・どうかよろしく頼んます! お三方!」
「任されたわ♪ 大船に乗ったつもりでいてね? ダーリン♪」
「私も全力を尽くします。安心してください。」
「がんばるぞ~。」
【心強いですね。相棒?】
「おう。頼もしい淑女さん達だ。」


力強く頷く私達生徒会の面々に、嬉しそうに表情を緩める五反田くん。そんな彼を見て、お嬢様と本音、そして勿論私も満足げに頷く。


―――― さぁ、これから忙しくなるわね。



忙しくなるということは確定だと言うのに・・・・何故か私は、それが待ちどうしくて仕方ない。


―――― そう、小さな子供のように胸を弾ませていたのでした。






【 蘭 SIDE 】


「―――― ふぅっ。こんなもんかな?」


『五反田食堂』の入り口前。

そこの掃除を、終えた私はゆっくりと息を吐いてあたりを見回した。

――― うん。どこも取り残しは無いみたい。上出来上出来。

満足そうに頷いた私は・・・ふと、夕暮れの空を見上げた。


「・・・・お兄がIS学園に行って・・・・もう一カ月かぁ・・・・・」


そう呟いた私。

――― っまったくあの馬鹿兄・・・! 誰のせいでお店の表の掃除を私がするようになったと思ってんのよ・・・!

お兄の事を思い浮かべ・・・私はふつふつと怒りが込み上げてきた。

お兄がIS学園へと強制入学して早一カ月。

『五反田食堂』は灯りが消え・・・ううん。嵐が過ぎ去ったかのような穏やかな時間が毎日のように続いている。

まぁ、そうだよね。

あんな騒がしいだけのお兄がいないだけで、こんなに平穏な毎日がやって来たんだもん! 本当に、あの馬鹿兄の傍迷惑さを実感するわー。

お爺ちゃんだってそう。


『あの馬鹿孫がいないってだけで、随分と気が楽だわっ! がはははっ!』


って豪快に笑い飛ばしてたしね! うんうん。お爺ちゃんだって年なんだもん。あんな馬鹿兄に毎日構ってたら、寿命が心配になっちゃうもんね!

そりゃ食堂の営業中につい癖で『おい弾! 盛り付―――・・・ああ、そういやそうだったな。・・・・チッ・・・!』って時々そんな事もあるけど・・・・。

・・・馬鹿兄いない事に『大将もこれでホッとしたでしょう! 色々と心労も絶えないでしょうからあんなお孫さん持ってると!』って言ったお客さんに『・・・それ食ったら、とっとと出てけ!』って怒ったりもしたけど・・・・お兄の包丁・・・毎日研いでる姿も・・・見たり・・・・。

い、いやいや。別に寂しいとか思ってないもん!

私だってお兄にはずぅっと! 迷惑してたんだから!

お母さんだって―――!・・・・ちょっと・・・・元気ないけど・・・・い、いつも通り笑顔で看板娘してるもん!

だから別にお兄がいなくたって、『五反田食堂』は平穏無事! 全く問題なし! お兄がいなくたって! 

お兄がいなくたって・・・・! ・・・・・いなくたって・・・・・。

・・・・・・・。


「・・・・馬鹿兄・・・・。」


たまに連絡しろって・・・・言ったのに。

そりゃ最後に電話がきて・・・まだ数日しか経ってないけどさ・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。


「――――――――― っああもう! いなかったらいないで本当にムカつく!! あの馬鹿兄が――――っ!!」


どうせあっちで女の子のおしり追っかけ回してばっかりで、家の事なんか忘れてるに決まってるんだ!

何よあの薄情ものっ! お兄なんか、バカやって大怪我でもしちゃえばいいのよっ!!

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・あ・・・・・や、やっぱり・・・・転んで膝を擦り剥く程度で・・・か、勘弁してあげよう・・・・うん。


「・・・・~~~~・・・! はぁ・・・何言ってんだろ私。」


もうお店の中に戻ろう・・・お客さん捌かなきゃならないし。

あーあー。看板娘も大変だな~・・・・・・・。

何処となく重くなった心を引き摺るように、私は店内へ戻ろうとした時―――。


「――― 失礼。そこのお嬢さん? こちらは五反田 弾さんの御宅で間違いないでしょうか?」


そう声を掛けられた。

その言葉に、お兄の名前が挙がっていた事に驚いて。私は思わず、自分でも驚く位な反応で振り向いた。

そこに立っていたのは。どこか裕福そうな出で立ちの男性が一人、私に視線をむけていた。

・・・・誰だろう? お兄の知り合いにしては・・・年上過ぎるような?


「・・・・失礼。こちらは五反田 弾さんのお宅ではなかったでしょうか?」
「―― あ!? す、すみません。あの・・・どちら様でしょうか?」
「おっと、これは失礼を。私はこう言うものです。」


私の言葉に特に気分を害した様子もないその人は、私に名刺を差し出してきた。それを思わず両手で受け取る。

えっと・・・・


「『IS学園 理事会』・・・・って、IS学園の人ですかっ!?」
「ええそうです。それで・・・こちらは五反田 弾さんの御宅で間違いないでしょうか?」
「あ、はっはい! そうです! あの、いつも兄がお世話になっております!」
「ほう? では貴女が、五反田 弾さんの―――?」
「は、はい! 妹の五反田 蘭っていいます!」
「そうですか。これは実に可愛らしい妹さんを持っていらっしゃいますね?」
「そ、そんな事・・・それ程でもないです・・・・(照)」


ストレートに誉められて、少々顔に熱が登って来るのが分って顔を伏せがちにモゴモゴと口ごもっしまう。

うう・・・あたしこれでも生徒会長やってるのに・・・!

そんな私に、男の人は構わず話を続ける。


「成程、こちらで間違いなかったのですか。いや安心しました。何分地理には疎くて不安だったんですよ。本当に良かった。」
「そ、そうなんですか。・・・あ、あのそれで・・・一体どういった御用件で・・・?」
「ああそうですね。実は私がご自宅まで窺ったのは・・・五反田 弾くんの事で少しお話があるからなんですよ。」
「え・・・お兄の事・・・・?」
「はい。」


そう言って微笑むIS学園の人の言葉に・・・私は頭が真っ白になっていくのが分かった。


IS学園の・・・理事会の人が・・・直接家に訪ねてくる・・・。

それって・・・・どういう事?

それって・・・一体どんな事態があったっていうの・・・?

何かあった?・・・・・お兄に・・・・・?

お兄に?

あの・・・お兄に・・・・・?

―― お兄の身に・・・・・・何か・・・・・・・―――っ・・・・!?


持っていた竹箒を放り出し。


―――― 私は気付いたら、IS学園の理事会の人に詰め寄っていた。


「―――っな、何かあったんですか!? お、お兄の身に何かあったんですか!? お兄は!? もしかして怪我をっ!? お兄は!? お兄は無事なんですかっ!?」
「おっとっと! お、落ち着いてください。」
「――― 落ち着いてなんかいられる訳ないでしょ!? お兄は無事なのか聞いてるのっ!! 答えて! 早く答えてっ!!」


私の剣幕に、理事会の人が慄いているけど・・・そんな事など気にしている余裕なんて渡しないは無かった。

だって・・・!! だってお兄がっ! 私のお兄がっ・・・・!!

そりゃ破天荒で、無茶苦茶で、とんでもない性格してるけどっ・・・! わ、私にとっては・・・!! 私にとっては・・・・!! 

目の前が歪んでいく。鼻の奥がツンといなって・・・涙腺が開くのが分かる。

お兄・・・・! お兄・・・・っ!


「――― っ・・・! ふぇ・・・っ!」
「だ、大丈夫です! 落ち着いてください。私が来たのは唯少しばかり、五反田 弾さんのお話を伺いに来ただけですから。五反田くんは今も元気に学園で過ごしていますから、どうか安心してください。」
「・・・・・ふぇ・・・・?」


グスッと鼻を啜る私に、男の人は柔らかい笑みを浮かべ笑いかけてきた。

――― お兄が・・・・元気・・・・?

呆然とする私に、男の人は頷いてハンカチを差し出してきた。


「どうやら勘違いをさせてしまった様ですね? 申し訳ありません。私の配慮が足らなかったばっかりに。」


柔和な笑みを浮かべるその男性の言葉に・・・・私は自分の勘違いにようやく気が付いて顔を真っ赤にして両手で押さえてしまった。

か・・・勘違い!?

そ、それじゃあ・・・・私っ今!?


「―――ごっゴメンなさい! あ、ああああ! わ、私ったら何て失礼な事・・・! うわぁ! わあああああぁぁぁっ!?」
「いえいえ、大変可愛らしかったですよ? リトルレディ。」
「はうっ・・・・!? うう・・・面目ないです・・・・。」


ハンカチを受け取り、それで涙を拭く私を・・・その人は優しく見守っていてくれた。

うう・・・一生の不覚。

涙を拭き終えた私は、ハンカチをオズオズと返そうとするけど『安物ですから、よろしければ貰ってください。ハンカチも私よりも可愛らしいお嬢さんに使われた方が幸せでしょうから』と、言ってくれた。

・・・・うう、凄くいい人だ。そんな人に・・・私ってばなんて事を・・・・。

小さくなる私に向かって。IS学園理事会の男の人は話を続ける。


「それで・・・五反田 弾さんについてお聞きしたい事があるのですが?」
「あ、はっはい。あの、それなら店内へどうぞ! おじ・・・じゃなくて、私の祖父と母も今お店にいますからっ!」
「ああいえ、お仕事中にお邪魔するのは忍びありませんから。簡単な質問ですので妹さんでも構いませんよ。」
「え・・・? わ、私・・・ですか・・・?」
「はい。」


その言葉に、少々面食らう私に向かって。

その男の人は一層笑みを深くして、私に微笑んできた。

・・・・う、う~ん・・・・さっきの事もあるし・・・私で答えられるんなら良いかもしれない。

そう思った私はコクリと頷いて、口を開いた。


「は、はい。私で答えられる事なら喜んで!」
「おお、それは助かります。ありがとう可愛らしいお嬢さん。」


そう言って、人の良い笑みを浮かべるIS学園理事会から来た男の人は、とても嬉しそうに微笑んでくれた。

質問か・・・一体どんな事なんだろう・・・・?

なんとなく、私は手元の名刺にもう一度視線を下ろして見る。

・・・・はー、やっぱりIS学園って・・・日本にあるけど、世界中から沢山の人が集まる所なんだ。

この男の人も、絶対に日本人じゃありえない名前だし。

それにしても・・・この名前からして・・・・一体何処の国の人なのかな?

フランスかな? イギリス・・・・もしかしてドイツ・・・?

う~ん? 一体何処の国の人なんだろう。

この名前だけじゃ、ちょっと分からないなぁ・・・・




















―――― ドーベル なんて。







後書き

どうも、釜の鍋です・・・・更新頑張ると言ったのにこの体たらく・・・!! 返す言葉もございませんっ! しかも内容全く進んどらんし! 何やってんの自分・・・!? 本当にすみません。言い訳言わさせてもらうと・・・書いてる量が膨大なモンになっちまいまして・・・こりゃ二話に分けんと長すぎるっ! と思った次第であります。・・・ですので・・・次話ですが。早けりゃ今日の夜中。遅くても明日には更新しますっ! 絶対します! ですので・・・どうかご勘弁を・・・! ・・・・最近本気で転職考え始めた釜の鍋でした。



[27655] 第二十二話 氷解一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2011/10/30 15:06
【 蘭 SIDE 】


こんにちは。五反田食堂の看板娘、五反田 蘭です。いつも馬鹿兄がお世話になっています。


ドーベルさんと名乗る『IS学園理事会』の人が、家を訪ねてきて数分が経ちました。

一応私でも答えられる内容ばかりのものだから、今でも答えれているけど・・・うーん? これって何の必要性があるのかな?


「――― では、五反田くんは。特殊な訓練を受けていたり、何か他とは違う事を学んでいたりした事は無いということでしょうか?」
「あ、はい。お兄って結構面倒臭がりでして。何か部活やったり、習い事したりとかそういうのは今までないんです。唯一興味を向けたのが調理でして。」
「何か隠れて特訓をしていた可能性はありませんか? もしくは何か特殊な施設に出入りしていたとか。」
「・・・う~ん・・・毎日のように調理の修行ばっかりだったから・・・それ以外の時間となると、一夏さんや他の友達と遊んだり、近所の子供と大人気なく本気になって遊んであげたり、近くのお年寄り相手にゲートボールで白熱の対決したり・・・まぁお兄らしいといえばお兄らしい毎日をすごしてましたけど。」
「・・・・・・うむむ・・・・・・!」


私の言葉に、ドーベルさんは眉を寄せて考え込むように、顎に手をあてて唸る。

・・・どうかしたのかな?

別に私変な事言ってないと思うんだけど・・・いや、お兄の行動は変だけど。というかお兄が習い事をしてる、してないがそんなに重要な事なのかな?


『・・・・解せん・・・あの年齢であれ程の洞察力と、窮地に落ち居た際の冷静さと機転・・・高い身体能力に・・・何よりも、あの神業と言っても過言ではない紳士技の数々・・・それを訓練も無しに・・・・!? まさか・・・あの噂は・・・いやいや馬鹿な・・・! ・・・生まれながらにして・・・紳士技の全てを持って生まれるてくるなど・・・!? だが・・・待てよ?・・・もしやこの娘・・・・?』


・・・な、何かブツブツ呟いてるけど・・・どうしたんだろう? 

・・・・そう言えばこの人・・・IS学園理事会から来たって言ってたけど・・・本当なのかな?

なんだか・・・さっきまでと雰囲気が違うんだけど。

急に怪しくなって来た空気に、私は少しづつだけど距離をとる。

するとドーベルさんは、ブツブツと呟くのを止めると、おもむろに私をジーッと凝視し始めた。

・・・・・な、何? 何なの?

そして―――――――――っ。





「―――(ババッ!)― ああぁっ!? あんな所にペリカンがぁっ!?」





――――――― 突然明後日の方向を指さして大声で叫び出した。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


――― カサカサと、風に吹かれて落ち葉が舞い上がる。



・・・うん確信した。



――― 絶対に関わっちゃいけない人だああああああああああああああああっ!?



心の中で悲鳴を上げた私だったけど。そんな私を見て、ドーベルさんは不的にな笑顔を向ける。

いやいや、何得意げな顔してるのっ!?


「―――クククッ! やはりそうか、危うく騙される所でしたよ。流石はあの『DANSHAKU』の妹と言うべきですか。然も自然な口調で偽情報を私に信じ込ませようとするとは・・・! その可憐な容姿と年齢とは裏腹になんと狡猾なのでしょう。末恐ろしいですね。」
「いやいやいやいやっ!? な、何言ってるんですか!? 大丈夫ですか!? 主に頭とかっ!? それから・・・頭とかっ!?」
「ですが残念でしたねぇ? 私は新しき【紳士と淑女の世界】の一端を担う紳士。見破れないと思ったら大間違いですよ? フフフフフ・・・」
「ああああ・・・・! 駄目だ、ものすっごいお兄と何か関係ある人だ・・・・!」


紳士って言ってるし! また紳士か!? やっぱりそれ関連なの!?

そんな私の心内など気付いてもいないだろうドーベルさん・・・いや変な人は。突然私の腕を掴んだ。

ちょっ!? 


「――― さぁ! 観念して、『DANSHAKU』 の、あの強さの秘密を洗いざらい吐いていただきましょうか? 奴の強さの秘密を解き明かせさえすれば、今度こそ奴を葬る事が出来るはずっ!」
「い、意味分かんない事言わないで! 離してっ!」
「ククク! 抵抗しても無駄ですよ? 私の服の下には改良を施したパワードスーツが装着されています。貴女の様な小娘程度にどうにか出来る訳がない。・・・さぁ! 吐け! 『DANSHAKU』の力の秘密を!」
「――――――っ痛! 痛い! 嫌、離し――――――っ!!」


手を捻りあげられ、腕に痛みが走った―――――・・・その時だった。


――――――――――ァァァァァアアッ!!


遠くから何かがやって来る音が聞こえて―――――・・・・


「・・・・ん? 何だこのお【ドギャギャギャギャアアアアアア―――!!】ごああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああー―――――――――っ!?」



――― 突如現れた黒い影が、もの凄いスピードで変態に突撃するようにと突っ込んで来た。

その衝撃で、私の腕を掴んでいた変態の手が離れ、私は後ろにバランスを崩して尻もちをついた。


「――― キャッ!? ・・あいたたた・・・! こ、今度は何!?」

 
何が起きたのか分からず、変態が吹っ飛んでいった方向に目を向けると・・・


『ぐわああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――・・・・・・・・・・・・』


―――― そのまま・・・・変態は、黒い影に地面にギャリギャリと引き飛ばされながら・・・・黒い影と共に遠くへ消えて行き。



――― ついに完全に姿を消した。


・・・・・・・・・。


後に残されたのは、いつも通りの静かな時間と。

何が起こったのか訳も分からず尻もちをついて、呆然とする私だけだった。


「・・・・な、なんなのよ? 一体・・・・?」


とりあえず立ちあがり、お尻についた砂を軽く手で払う。

さっきまで掴まれていた腕の調子を確かめてみたけど・・・良かった。特に痣にもなってないみたい。うー・・・痛かったぁ。

ううう・・・! あの変態っ! 乙女の肌を何だと思ってるのよ!? 何が紳士よ! 『友愛や親愛の表れ程度なら許容できる! だが! それ以外の理由で、女性に手をあげる奴は生きる価値もないクズだ!』ってお兄が言ってたもん!

そしてハッと気付いて、ポケットの中から、あの変態から貰ったハンカチを取り出し。う~! 良い人かと思ってたのに・・・こんな物ー!


「―――てやっ!」


ぺいっ! と、近くの排水溝に投げ捨てた。

あんな変態がくれた物なんて、気色悪くて持ってられないもん! ふんだ!

ちょっとスッキリした私は、満足げにうんうんと頷いて・・・・
 
――― もう一度変態と、黒い影が消えて行った方向に目を向ける。


・・・・・それにしても・・・うーん?


「・・・もしかして、あの黒い影・・・私を助けてくれたのかな?」


うーん・・・・変な事ばっかり起こり過ぎたせいか、何故かそう思えてしまう。・・・なんでだろう?


『――― おお―――いっ!! 蘭っ! 掃除にいつまでかかってんだぁ!?』


その時、『五反田食堂』の中から、お爺ちゃんが私を呼ぶ声が聞こえた。


「――― っはぁいっ! 今戻るから―――っ!」


その声に、とりあえずそう返して。私はもう一度、黒い影と変態が消えて行った方向に目を向ける。


――― もしかして・・・あの黒い影って・・・・お兄の・・・・?


「――― あはは。まさかね! ないないそれはない!」


あーもー・・・何だか変な事が起きたせいで私まで馬鹿な事考えちゃう。

忘れよう。うん、覚えていても良い事なさそうだし。

はぁぁ・・・・全く! それもこれもあの馬鹿兄のせいよっ! あんまり変な人とかかわらないで欲しいわ! 


また心の中で、お兄への怒りが再燃し。

私は、ちょっと不機嫌になりながらも『五反田食堂』の入り口を開けて、店内へ戻ったのでした。



たまに変な事もあるけれど。

五反田食堂は、今日も元気に営業中。お客様のご来店を看板娘共々、お待ち申しあげております! 一度お越しに来てください♪



【 ??? SIDE 】

『が・・・がはあああぁぁっ・・・・!?』
『ドーベル様!? ドーベル様! しっかりしてください!?』
『そんな馬鹿な!? 改良型パワードスーツがボロ雑巾のように無残な姿に!?』
『2tトラックの衝撃にさえ耐える耐久力だと言うのに!?』
『一体何があったというのだ!?』
『――― おおいっ! 来てくれ! ようやく捕獲したぞ!?』
『だ、だがその前に医療班を呼べ! 急げ!』
『なっ・・・・!? そ、そんな・・・!? ・・・我が同胞の精鋭部隊が・・・捕獲する為だけだと言うのに・・・壊滅寸前まで追い込まれるとは・・・・・!!』
『こ、こんな馬鹿な・・・!? こんな化け物を・・・『DANSHAKU』は従えていたと言うのかっ・・・!?』
『む、無理だ! 勝てない・・・勝てるわけがない!!』
『お、落ち着け・・・! 同胞達よ・・・!』
『『『『――― ドーベル様!?』』』』
『こ、これは我らが迎えた好機だ・・・! く、くくくくっ! ま、まさかアレの捕獲に成功するとは何たる行幸よ・・・!』
『そ、それは一体・・・!?』
『分かりませんか・・・? こ、これを使って、今度こそ奴を仕留めるのですよ・・・!』
『こ、この化け物をですか!? き、危険すぎます!』
『危険を冒さねば奴に・・・!! 『DANSHAKU』を葬る事など出来はしないっ!! さぁ! ラボへ運べ!!』
『『『『――――ハッ!』』』』
『―――ッククク! クハハハッ!! やったぞ! これを利用すれば今度こそ! 今度こそ・・・クハハハ!! 奴の嘆き苦しむ姿が目に浮かぶようですっ!! フハハハハハ【ポキッ】――― はうっ!?・・・・ぐふ・・・・・【ドサッ】』
『『『『ドーベル様――――――――――――ッ!?』』』』











――――――――― マスター。



【 弾 SIDE 】



―――― ピキィィィィーンッ・・・・・!



「―――――――――― っ!?【ガバッ!】」
「キャ!? どうしたのダーリン?」
「・・・五反田くん?」
「だんだん~・・・・どうしたのー?」
【・・・・・相棒?】







「―――・・・・・・・・っ『六代目』・・・・?」








【―――― テメェいきなり何ほざいてんじゃあああああああっ!?】
「ぎゃああああああああああああああっ!?【ボキバキボキャメキィ!!】」 
「「「ダーリン(五反田くん)(だんだんー)!?」」」





【 セシリア SIDE 】



―――― 見つけてきなセシリーちゃん・・・お父さんを。



五反田さんの話を聞き終えた私は、そう最後に五反田さんに背中を押され・・・その瞬間走りだしていました。

今の私の心を閉める思いは一つ。

ただ、確かめたいという一心のみでした。

自分の寮部屋へと向かって全速力で廊下を駆け抜ける私に、すれ違う生徒が何事かと驚きの表情で私を見送っていくのを肌で感じますが。そんな事にさえ気にする余裕は、今の私にはありません。


――― お父様・・・・!


渦巻く感情のまま、私は心の中でお父様を呼ぶ。


―――― そうだったのですか?


―――― お父様、そういう事だったのですか?


心の中で、何度もお父様に呼び掛ける。これ程、お父様を呼んだ事は未だかつてあったでしょうか?

それ程、五反田さんの話は私の心を揺さぶり・・・そして同時に、私の中のお父様の見方を変えさせる程のものでした。




『セシリーちゃん? 話を聞くと・・・セシリーちゃんのお母さんは、とっても凄い人だったんだね?』


その言葉に、私は頷きました。

勿論ですわ。お母様は強く、厳しく、美しく・・・・私が目標とする憧れの人ですわ。

私の返した言葉に、五反田さんは頷き言葉を繋げる。


『女尊男卑社会以前からいくつもの会社を経営して。それらを成功へと導き、そして同時にオルコット家を率いた女性か・・・成程、確かに凄い人だ。流石セシリーちゃんのお母さんだね。』


そう微笑む五反田さんでしたが・・・それは純粋な賛辞だけではなく、私に対する確認の意味も兼ねているのだと理解できました。

ですがそれは、私のお母様の事です。お父様の事ではありません。一体それが、お父様とどう関係がありますの?

怪訝な表情を浮かべる私に、五反田さんは話を続ける。


『それ程凄い人ってだったてことは、きっと人望も厚かったんだろうねー? 沢山の人に憧れられて。セシリーちゃんのお母さんの力になりたいって人も沢山いたんだろう。そしてお母さんもその信頼や羨望応えられるだけのカリスマ持って、道を切り開いていったんだな。強く、厳しく、美しい人か・・・うん、話を聞いてみれば俺もそう思うね。』


そうお母様を賞賛する五反田さん。そう思ってくれている事に、私もうれしく思います。ですが、今はお母様の事でなく――・・・そう言いかけた時だった。


『・・・けど、それはセシリーちゃんのお母さんを好意的に受け止めてくれる人の意見だ。そうじゃない人だったら・・・一体どう思うのかな?』


―――― え・・・・?

私を見据えて、そう漏らした五反田さんの言葉に――― 私は息を呑んだ。

・・・お母様を・・・好意的に思ってくれない・・・人・・・?


『数々の成功を収め、それを為せるだけの能力を兼ね揃えているセシリーちゃんのお母さんの事を・・・好意的に思わない人達だったら、全く違うんじゃないかな?』


・・・そんな人・・・・いる訳・・・・。


『お母さんの才能に嫉妬して、その手腕に苦渋を舐めさせられ、その存在を妬む人間。・・・そんな人が本当に存在しないとセシリーちゃんは思ってる? お母さん個人じゃなくても構わない。セシリーちゃん達の家『オルコット家』に対して反感の意を持っている存在がいないと本気で考える事が出来る?』


五反田さんのその言葉に・・・・私は反発の言葉を返す事が出来なかった。

――― そんな事・・・ない筈がなかったから・・・・。

私は知っている。

知っていながら・・・私はその事から目を背けていました。

知っている筈だったのに・・・・あの日から。

お母様とお父様を亡くした私の元へ、欲を張り付けた金の亡者が押し寄せ・・・あの手この手で私に残された莫大な遺産をかすめ取ろうとした人間を目の当たりにした・・・あの日から。


『・・・酷な事を言うかもしれないけど、お母さんに否定的な感情を持つ人はいる筈だ。お母さんの成功の裏で、苦渋な思いをさせられたり、会社同士の競争に敗れたり、『オルコット家』の権威に歯噛みしたり・・・お母さんの立場を考えれば、それは当然でてくる事で、仕方のない事だと思う。』


・・・その通りです。

お母様の成功の裏では・・・起きていても仕方のない事。

少しだけ暗い気持ちになった私に・・・五反田さんは苦笑を浮かべつつも言葉を続ける。


『そして、そう言った人達は・・・なんとかして意趣返しをしてやりたい。自分の味わった苦渋を味あわせてやりたい。今いる場所から失脚させてやろうと、いろんな手段を駆使して動きだすのは自然な事だと思えない?・・・人ってのは、そういった醜さと狡猾さを持っているからね? 残念な事だけど、それは否定しようがない人間の一つの姿だ。』


・・・・・・・・。

小さく頷くことしか出来ない。・・・それは生きていれば、当然起こりえる事なのですから。

そんな私を見て――― 不意に、五反田さんはヘラリと表情を崩した。

まるで、ここからが本題だと言わんばかりの・・・・そんな表情。五反田さんの雰囲気の変化に少々戸惑いながらも、私は彼の言葉に耳を傾け続けました。


『――― さて、ネガティブ極まりない事ばっか話したけど・・・・へい! セシリーちゃん質問だ。そう言った考えを持つ人間が、まず最初に取ろうとする事は一体何だと思う?』


――― お母様の・・・失脚を望む人達の・・・最初に取る行動・・・?

・・・・・それは・・・・。


『俺だったらまず―― セシリーちゃんのお母さんの弱点・・・っていうよりは弱味を探すね。もしくは、それに成りえる材料。別にそれは、お母さんの個人的な事でも、『オルコット家』全体を踏まえた事でも構わない。お母さんや『オルコット家』が成り立つ上で。その立場が危うくなるに足る【穴】を探し出す。例えばそうだな―――・・・・?』


そこで一つ言葉を区切り、その瞳に悪戯を思いついたような子供の様な色を含んで、五反田さんは告げた――。


『―――― セシリーちゃんのお母さんに最も近い場所に居て、『オルコット家』の中核に居ながら・・・立場の弱い人間を見つけて近づいて、お母さんを貶める為の足掛かりの駒として利用する――とかね?』



―――― その言葉に、心臓が音もなく跳ねた。

・・・『オルコット家』に名を連ねながらも―― 立場の弱い・・・存在・・・?

そんなの・・・そんな人・・・。


『その人に近付いて、甘言で囁いて駒にしてもいい。持ち上げるだけ持ち上げて、何かのプロジェクトを持ちかけても良い。成功すれば自分の功績にして、失敗したらそれでもいい、その人に責任を全部押し付けてやれば『オルコット家』やお母さんに何かしらの打撃を与えられる。成功しようと失敗しようと、お母さんや『オルコット家』に痛烈な被害を与え、貶める事が出来る程の、立場が弱く、それでいて中核の中に位置し、最も扱い易い、自分達にとって都合のいい駒となりえる人物・・・そんな『弱くて、自分の意思も考えも口に出来ず、セシリーちゃんのお母さんの顔色ばかり窺う情けない存在』。――― そんな人物がいたら・・・俺は迷いなくその人に近付いて利用してやろうと目論むね。』


口から出る五反田さんの言葉は、どれも私の家にとってみれば軽視できない程のものばかり。

だと言うのに、五反田さんはヘラっとした表情を崩さず続ける。


『――― そんな考えを持つ人達にとって、それ程『都合のいい存在』に成りえる人って・・・セシリーちゃん。心当たりある?』


―――― そんな人・・・・一人しかいません。

私の表情をみて、五反田さんは察したように一つ頷く。そして――― 告げた。


『――― けど・・・そんなに話しが上手すぎるくらいに『都合のいい存在』ってのが本当にいるとしたら・・・その人こそ警戒するべきだね。だってそうでしょ? そんな人が中核に居るなんてこと事態がおかしいって言うのに。『情けなくて弱い存在』だと言うのに――― そんな人が中核に居続けている事を『強く、厳しく、美しい』お母さんが許しているんだからね? ・・・その事に疑問を持たずに近づく人がいたら・・・それ程の愚かモノか、欲に目のくらんだ亡者か・・・ま、碌な考えを持つ人間じゃないのは確かだね。』


――― 五反田さんの言葉が、私の胸を突く。

――― その言葉が、私の中に構築された『あの人』の姿に亀裂を生んでいく。


『――― もしかしたらその人は・・・『情けなく、弱い存在』という自分に向けられる評価を、己の持つ『最高の武器』へと変えて。邪な考えを持つ人にとって『都合のいい存在』を演じる事で、そんな輩を自分の元に集めているんじゃないか・・・? そしてそれら全てを撥ねのけ、押し込み、叩きつぶせるだけの才能と知略、力を持って、自ら囮を担い『罠』を張り巡らせているんじゃないか・・・? もしそれが事実だとしたら――― その人はとんでもない偉人だ。』


――― 砕けて行く・・・私の中の『あの人』の姿が。

――― そして次々と溢れてくる・・・『あの人』の温かい笑顔が、声が、大きな手の温もりが。


『―― なぁ? セシリーちゃん。そんな人に心当たりないかな? もしそんな人がいたとしたら・・・俺はその人を心の底から讃えたい。自分が周りから何と言われようと、どう蔑まれようと、自分の成すべき事を貫いた『強い心』を持ったその人を。』


―――― そんな私に、優しい光を宿した瞳を向け・・・五反田さんは言ってくれた。


『――― 愛する人を。大切な『家』を・・・そして何より掛け替えのない家族を守る為に戦い続けた――――― 『大嘘つき』なその人を。』


その言葉に、私はただ呆然と立ち続ける事しか出来ませんでした――。

・・・さ・・ま・・・?


『――― もっとも、これは俺の考え。都合よく捉えた俺の思い込みでしかない。けど・・・俺にはそうとしか思えなかったんだ。お母さんが・・・セシリーちゃんのお母さんが、その人に唯、家の為、権力の為だけに・・・側に置きたいと考えるなんてどうしても思えなかったからね?』


・・・・う・・・・さま・・・?


『俺には確かめる術なんてない。確認する事もできやしない。俺は会った事もなければ、その人と過ごした事もないから・・・その人を想像でしか捉えられない。―――けど・・・。』


・・・と・・・・さま・・・・。


『セシリーちゃんなら・・・確かめられるんじゃないかな? その人と過ごして、話して、共に歩んだセシリーちゃんなら・・・その人に辿りつけるんじゃないかな?』


・・・お・・・・とう・・・・さま・・・・・っ。


『他の誰でもない――― その人が心の底から愛し、守り続けた存在である君なら。』


――― お、とう・・・さまっ・・・・!


『―――― お父さんの愛情を一身に受け育った。最愛の娘である『セシリア・オルコット』である君なら―― きっと辿りつける。』



―――― っお父様っ!


『―――― 見つけてきなセシリーちゃん・・・お父さんを。』




*   *   *




―――― バンっ!

自室へと戻った私は、息を切らせつつも、すぐに自分の私物をしまっている棚に飛びつくように近づきました。

棚を開け、中から今の私には必要のない物を次々と放り出し、目的のものを探し出そうと躍起になる。

レディとして、それは如何な事かと思いになられるかと思いますが―― そんな事でさえ、今の私にはどうでもいい事でした。

――― そして・・・


「――――――― ・・・あった・・・!」


中から取り出したのは―――― 小さな写真立て。

それを胸に抱きかかえるようにして、私は自分のベットへと移動し腰を下ろしました。

そしてゆっくりと息を吐いて・・・胸の中の写真立てを覗き込みました。そこに写っていたのは・・・・。

まだ幼い私が、満面の笑みを浮かべていて・・・その私を、優しい微笑みを浮かべ胸に抱いているお母様の姿。

――― そして、そんな私達を愛おしげに眺め、母の肩を抱き寄せ笑う・・・お父様の姿が写っていました。

私達家族三人が写っている唯一の写真・・・それをなぞりながら・・・私はお父様に問い掛ける。

そうだったのですか・・・? お父様は・・・本当に・・・守ってくださっていたのですか?

お母様を・・・『オルコット家』を・・・私を・・・・。

今までは・・・どうしても、眼に映る場所に飾る事が出来なかった、私達家族の写真。亡くなった両親を思い出すからなのか・・・それとも過去の幸せな時間を思い出すのが辛かったのか・・・父の姿を思い出すのが嫌だったのか・・・どれが理由だったかは思い出せません。

けど・・・今は唯、見ていたい。そんな思いだけが今の私の胸を占めていました。


――― しばらくそのままの状態でいた私ですが、制服のポケットから一つの携帯端末を取り出すと・・・おもむろに電話をかけました。


プライベート用、オルコット家の業務用と、用途別にいくつもの携帯端末を持っている私ですが・・・プライベートでも、オルコット家の業務でも、携帯の端末にその名前を連ねている人物に、私は電話を掛けた。

――― そして、コール音が二回程鳴った後、電話ごしに、いつも通りの声が聞こえてきた。


『――― はいチェルシーでございます。お嬢様、どういった御用件でしょう?』


落ち着いた声で、チェルシーが・・・長年連れ添った幼馴染の声が、電話の向こうから心地よく響いてくる。

その声を聞いて、私は少しだけホッとした心境になる。そして―――・・・。


「――――― ・・・チェルシー・・・?」
『――― っ!? お嬢様! どうかなさいましたか!? 何かあったのですかっ!?』


私の呟きに、それを聞いたチェルシーの焦った様な慌ただしい声が耳に響いた。・・・昔からチェルシーは、私の心内に関する事には鋭いですわね・・・。

そのことに妙に嬉しくなりながらも、私は一つ小さく笑い・・・言葉を続ける。


「・・・大丈夫ですわ。何もありません・・・いえ・・・あったとうのは間違いでも無いですけど・・・・。」
『お嬢様・・・? それは一体・・・?』
「・・・・ねぇ、チェルシー? 聞いて欲しい事があるんですの・・・。」
『・・・・お嬢様?』


私の言葉に、チェルシーが訝しげな声を漏らす。その声を聞きながら―――― 私は告げた。


「―――― お父様のことですの。」
『――――― っ・・・旦那様の事・・・でございますか?』
「ええ・・・聞いて欲しいんですの・・・チェルシーにも。・・・お父様の事知っている・・・貴女にも。」
『・・・・。』
「――― ねぇ・・・チェルシー・・・? お父様は・・・・私のお父様は・・・・もしかして・・・・」


―――― そして告げた。

今まで側に居てくれた、大切な幼馴染に。

今現在・・・私以外に、お父様を知る存在に。

先程聞いた、五反田さんの捉えたお父様の姿を・・・それを通して、私が知る・・・今までのお父様の行いを・・・。

それら全てを―――― 隠すことなく私は言葉に乗せて、幼馴染に告げた。



――― しばらくして、全てを話し終えた私は。唯静かに、チェルシーからの言葉を待ち続ける。

それはほんの数秒の事だと思うのに・・・今の私には・・・とても長く感じられました。

全てを聞き終えたチェルシーは、唯静かに沈黙を守り続けている。

・・・どう思ったのかしら・・・? 

チェルシーは・・・一体どう捉えたのかしら・・・? 

今までは、お父様がどういった人なのか、私はチェルシーに問い掛けた事などなかった。きっと私と同じように思っているに違いないと。私はそう思っていたのですから。

でも・・・もしチェルシーがそう思っていなかったとしたら・・・チェルシーの眼には、一体どのようにお父様は写っていたのかしら?

その考えが頭をよぎり・・・私はチェルシーに訊ねてしまいました。

お父様を知る・・・彼女に。


『―――― お嬢様。』


電話越しに・・・チェルシーの柔らかい声が聞こえてきた。

それは何処か優しく・・・妹に話し掛けるような姉の様な声音で。


『――― 私が、お嬢様に対し。旦那様の事で申し上げる事はなにもありません。』


そう呟くチェルシーの言葉に、私は思わず息を呑みかけ――――・・・。


『――― 私が申し上げる必要なんてないのです。だって・・・もうお嬢様は『答え』を持っていらっしゃるのですから。・・・違いますか?』


少し嬉しそうに呟くチェルシーの声に・・・私は口を噤むしかありませんでした。

・・・だって・・・その言い方だと・・・それは・・・それじゃあ・・・お父様は・・・?


『もし・・・私が、今お嬢様に申し上げる事があるとしたら・・・それは一つだけです。』


呆然とする私の耳に届いたのは―――――――・・・。


『――― 旦那様は・・・奥様が『オルコット家』の婿に望まれ、そして同時に心から愛した唯一の男性であり。そして旦那様も、奥様を心から愛し・・・奥様との間に授かったお嬢様の事もまた深く愛していらっしゃったという事。――― それだけが、今私がお嬢様に言える・・・否定しようもない真実でございます。』


――― 私の中の『答え』を、確証付けるには十分な・・・一つの真実でした。


『・・・お嬢様。今宵は・・・ゆっくりと御休みくださいませ。』


そう一言告げたチェルシーは、そのまま電話を切り――― 後は小さな電子音だけが耳に響いていた。

・・・・・・。

ゆっくりとした仕草で、私は携帯端末をベットに放る。

そして・・・また胸の中に抱きしめたままの写真に目を向ける。そこには・・・幸せな一つの家族の姿が変わらず写っていました。


「・・・そう・・・だったんですの・・・・? お父様・・・・?」


辿りついた一つの答え。

今まで、その上っ面に遮られ見つける事が出来なかった・・・父の本当の姿。

そこにあったのは――――。


一つの信念を貫き、己の成すべき事に全てを注ぎこみ・・・母と『オルコット家』を護り続けた―――― 優しくも強い、父の姿。


どれだけ蔑まれようとも、それすらも己の糧として、大切なモノを見失う事のなかった―――― 哀しくも誇り高い『大嘘つき』の姿。


のろのろとした仕草で・・・私は写真に写る父の顔をなぞった。

優しい微笑みを浮かべる父の姿に・・・私は・・・・・。


「・・・・ようやく・・・・見つけられましたわ・・・・お父様・・・。」


唯呆然と・・・そう呟くしかなかった。

――― ああ、そう言う事だったんですのね・・・?

今までの事を思い浮かべても・・・本当のお父様を見つけた私になら――― 理解できる。


『・・・ははは・・・そ、それを言われると・・・手厳しいな・・・。』


母の叱責に、情けない表情で返すお父様。そんなお父様を・・・失笑と共に侮蔑の眼を向ける周囲の人間。

――― 違いますわよね。お父様は・・・『情けない婿』である事を周囲に見せつけているんですわよね? でなければ・・・こんなに人がいる場所でお母様に近づいて、話し掛けませんもの。本当に情けない人なら・・・近づかずに、離れた場所に避難するか、隠れてしまうかのどちらかですもの。


『け・・・喧嘩だって・・・? あ、あはは。違うよセシリア。僕がお母さんに怒られてるんだよ・・・その・・・恥ずかしい事に・・・』


そう言って、私に困ったように苦笑するお父様。


――― それ嘘ですわね。本当は・・・喧嘩をしてしまったんじゃないですの? けど・・・それを私に悟られたくなかったんじゃありませんの? 自分がお母様に怒られているって、私に思わせれば・・・私が、両親が喧嘩したという事に不安を抱かない。そう思ったんじゃありませんの?


『――――― どうして貴方はそうなのっ!? どうしてっ!?』


その父に浴びせられる母の叱責。

―――― けど、お母様が本当に怒っていたのは・・・娘の私の前でさえ、『情けない男』を演じるお父様の姿を・・・見ていられなかったから。だってそうでしょう・・・? 私の父を見る眼が・・・そんな色を持っていた事に、きっと母は気付いていたんです。

一度お母様に訊ねた事がありますわ。『どうしてお父様みたいな人と結婚したのですか?』と・・・

その時のお母様は――――。


『――――・・・お願いセシリア・・・お願いだからそんな事言わないで・・・・・っ!』


そう私を抱きしめ声を漏らす母の声。抱きしめられた私はお母様の表情を見る事が叶わなかったけれど・・・きっとあの時お母様は、とても辛そうな顔をしていたのではないでしょうか・・・?

あの時は、自分の過ちに悔いているのではと・・・そう思ってしまったけれど・・・そうではなかったんですね。

お母様は・・・娘である私が、お父様をそういった目で見ている事が――― 身を切られるように辛くて、同時に・・・それでも前へ進むお父様の事を、嘆き悲しんでいたのではないですか? それ程・・・お父様の事を愛していらっしゃったのではないですか?

だから・・・お母様は、お父様との会話を拒んでらっしゃったのですね。私の前でも『情けない男』であり続けてしまう。そんなお父様の姿を・・・見ている事が何よりも辛かったのではないですか?

・・・何故ですか?

何故お父様は・・・娘である私の前でも、『情けない男』であり続けたのですか?

――― それもまた。答えはすぐに浮かんだ。


「・・・っ・・・反面・・・教師・・・そう言う事ですか・・・? お父様・・・・。」


情けない自分の姿を見せる事で―――― 私に・・・!

『将来お父様のような、情けない男とは結婚しない』

自分が情けない男であり続ける事で・・・・私にそう思わせる為に・・・・・!


「―――― 反面教師で・・・あり続けたのではないですかっ・・・・・!?」


胸の中の写真をギュウッと抱きしめ・・・私は唇を噛みしめる。


・・・・嘘つきです・・・お父様は・・・・大嘘つきです。


自分がどう思われようと関係ない。自分の幸せなど二の次。自分の評価が落ちようが、蔑まれようが。

自分の大切なモノを護る為なら――― ご自身のことなんてどうでもいい・・・!

それが―――・・・・っ・・・!


お父様が・・・五反田さんに重なった・・・・最大の理由・・・・!


「―――― ・・・・やっぱり・・・・嫌いです。」


そんな生き方しかできなかったお父様なんて・・・嫌いです。


――― はは・・・参ったなぁ・・・許してくれないかな? セシリア。


駄目です。許してなんかあげません。


――― ぼ、僕は・・・その・・・雑用しかできないから・・・お母さんとは・・・全然違うね・・・ははは・・・。


嘘吐かないでください。本当は・・・お母様や家を護る為に、多忙だったのでしょう。嘘つき。


―――  僕に出来る事なんて、タカが知れているからね。


・・・お父様の様な生き方が出来る人なんて、そういる筈ないじゃないですか。嘘つき。


嘘つき。

嘘つき、嘘つき。

嘘つき、嘘つき、嘘つきっ・・・!

―――― お父様の・・・大嘘つきっ・・・!!

心から、まるで破れた紙袋の様に溢れ出てくる想い。

気付けなかった、自分への苛立ち。

何も話してくださらなかった、両親への怒り。

―――― 自分に向けられていた。こぼれ落ちんばかりの・・・お父様の哀しくも、不器用な愛情。

嫌いです・・・・嫌いです・・・・っ!

お父様なんかっ・・・・! お父様なんかっ―――――― っ!


――― セシリア。僕はいつも、お前の傍にいるからね。


――――っお父様なんか・・・・大っ嫌いですっ!!

もういらっしゃらないじゃありませんか。嘘つき。

傍にいるって言ったくせに、いないじゃないですか。嘘つき。

何も言わずに・・・いなくなってしまったじゃないですかっ・・・! 嘘つき・・・!


私を置きざりにして・・・お母様と共に、逝ってしまわれたじゃないですか・・・っ!!


「―--も・・・! ・・・ない・・・です・・・・っかぁ・・・!?」


嘘つき・・・・!! お父様の大嘘つき・・・・・っ!! 傍にいてくれなきゃ・・・・・そこにいてくれなきゃ・・・・・っ! 困るじゃないですか・・・・・・。

もう・・・二度と・・・・。


「――っじゃない・・・・です・・・か・・・ぁぁ・・・っ!!」


もう二度と・・・あの笑顔を見る事も、あの大きな手で撫でられる事も、抱きしめられる事も・・・・ないじゃないですか。

そして何よりも・・・・

――― 言えないじゃないですか・・・・・。

お父様に・・・・もう言えないじゃないですか・・・・・・!

もう二度と・・・その機会がくることが・・・叶わないじゃないですか・・・・っ!

どうして逝ってしまわれたんですか? 何故、私を置いて逝ってしまわれたのですか? どうして・・・なにも言わずにいなくなってしまったのですか?

過去に戻れるならば、今すぐにでも戻りたい。

そして伝えたい。お父様に。

今の気持ちを、お父様に向かって・・・・私の今の気持ちを。・・・・けれど、そんな事は不可能です。もう二度と、私がお父様に会う事は・・・二度とありません。

二度と・・・・っ・・・もう二度とっ・・・・!!

私が・・・・! 私はっ・・・・・・・!! もう―――――――― っ!!









「――――――――っもう、ゴメンなさいってっ!! 言えないじゃありませんかああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ―――――――――――――っ!!」









胸の中の写真を掻き抱き・・・・私は悲鳴のように声を上げ・・・・そう叫んだ。


「―――― ふぁぐっ・・・! ふ・・・! ふぅぅっ・・・・!! う・・・う゛う゛うぅぅぅぅ・・・っ!!」


溢れ出た感情は、留まる事を知らずに私の瞳から涙となって流れ出す。

酷いですっ・・・・あんまりです・・・・!

気付けたというのに、ようやく知る事が出来たというのに――――――――― ・・・

お父様はもう・・・手の届かない場所に逝ってしまわれた。

神様・・・これは罰なのですか? 愚かな娘である。私への罰なのですか・・・・?

二度と会えないなんて・・・二度と伝えられないなんて・・・これはいくら何でも酷すぎますわ。

私から――― お父様に謝る機会を・・・永遠に奪ってしまわれるなんて――。

これはいくら何でも、あんまりじゃありませんか・・・・っ!?


「――― ごっ・・! ごめんな・・・さい・・っ! ごぇ・・・な・・・さいっ! お父ざま゛ぁっ・・・! ごめんな゛ざいっ・・・・! ご、ごめ・・・ふっ・・・! う・・・あ・・あぁぁ・・・っ! ・・ひっ・・・・ふぇぇぇ・・・・っ!!」



涙は留まる事を知らず流れ落ち、私は写真を抱きしめながら泣き続けた。子供のころに戻ったように。

泣いていたら・・・優しかったお父様が、慰めに来てくれるのではないか。 そんなありえない事を頭の片隅に浮かべながら―――私は泣き続けた。


両親の葬儀の時でも、決して流れなかった涙が。時を経て――― 今私の元へやって来たかのように。


私は唯―――― 泣き続けた。



大嫌いだった。――― 大嘘つきなお父様が。

許せなかった。――― 何も言わずに、いなくなってしまったお父様が。

悲しかった。――― もう二度と会えない事が。

嬉しかった。――― 私を護ってくれていた事が。



そして何より・・・・。



そんなお父様や、お母様の娘として生まれてきた事が―――――――― 何よりも誇らしかった。




*   *   *




―――――― サアアアアァァァァ――――ッ。

それから随分と時間が経ち。日も落ちて既に夜も遅い時間。

あのまま、泣き疲れてしまったのか。そのままの体勢で眠ってしまた私は、眼を覚ましてすぐ、浴室へと足を動かし頭からシャワーを浴びています。

起きた時、私の体には毛布が掛けられていた所を見ると・・・どうやら同室の方が戻って来て、私に掛けてくださったようです。

そして、眼を覚まし、真っ赤な眼をして少々腫れぼったくなっている私の姿を見ても、何も聞かずに「シャワーでも浴びてきたら?」と、優しく微笑んでくださいました。

・・・感謝の言葉もありません。

促されるままに、シャワーを頭から浴びる。まるで、何かを洗い流すように―――。唯一心に浴び続ける。

しばらくして蛇口を捻り、シャワーを浴びるのをやめた私は、ゆっくりと鏡の中に映る自分の顔へと視線を移しました。


「・・・・・酷い顔・・・していますわね・・・。」


眼元は真っ赤に腫れていて、とても人様にお見せできるようなモノではありません。・・・あとでキチンとケアをしないと・・・明日に響きそうですわ。

そんな醜態だというのに・・・鏡の中の私は妙にスッキリとした表情をしていて・・・口元が僅かに緩んでいました。


「・・・・・ふふっ・・・・何を笑っているんですの・・・?」


鏡の中の私にそう呟き、そっと鏡をなぞる。

ただ泣くだけ泣いてスッキリしたのか、お父様の姿を知り得た事で満足したのか・・・それは分かりません。

けれど・・・今の私は、それとは違う晴れやかな心境でした。それは何故?

そんな事・・・決まっていますわ。


「・・・・私も・・・自分の成すべき事が・・・・分かった気がしますわ。」


全てを知り得た私。

お母様が、心の底からお父様を愛していらっしゃった事。お父様が、とても強く、優しく、誇らしい方であった事。そんなお二人に・・・溢れんばかりの愛情を注ぎこまれていた事。

そんな私の胸の内に浮かび上がった、一つの大きな思い。


それは―――― 戦う意思。


「―――― 護ります。『オルコット家』を。」


そう口にする。そうするだけで、私の中に生まれた思いをより一層強固なものへと持ちあげてい行く気がしました。

今までの私は、両親の残してくれた遺産を金の亡者になどに渡したくはない――― ただそれだけの思いだけで、『オルコット家』を継いだ。

自分でも呆れてしまう程幼稚な、覚悟も思いもない考えだけだったと・・・今ではそう思えてならない。

――― けれど今は違う。


「――― 護ってみせます。私が・・・『オルコット家』を。」


お母様が築き上げてきた『オルコット家』を、お父様が護り続けた『オルコット家』を。

両親が愛した『オルコット家』を―――。

私達家族の思い出が詰まった・・・愛すべき『オルコット家』を―――。


「私が・・・必ず護って見せますわ・・・!」


他の誰でもない、この私が。お母様とお父様の愛情を一身に受け育った私が。

――― お二人の娘である。この『セシリア・オルコット』が・・・!


「お二人の遺志を継いで・・・必ず護って見せますわ・・・・!」


目を瞑り、心の中で愛しい両親へと語りかける。

――― どうか・・・見守っていてください。お母様・・・お父様。

必ずやり遂げて見せますわ・・・お二人の娘である私が・・・絶対に。ですから・・・どうか天国で私を見守っていてください。

これからの私を―――。

失敗もあるかもしれない。困難や挫折が待っているかもしれない。けれど・・・私は誓います。それでも歩みは止めないと、強い心を持って――― 歩んでいきます。

心配せずとも大丈夫ですわ。私の心はそんなに軟ではありません、だってそうでしょう?

だって私は―――・・・!


「――― お父様とお母様、強い心を持ったお二人の・・・娘なのですから!」


眼を見開き、鏡の中の私を見つめる。

そこには、さっきまでの子供の様な私は既に無く。


『オルコット家当主』である。私『セシリア・オルコット』の力強い笑顔があった。


シャワーを浴び終え、バスローブに身を包んだ私は、髪をとかしながら浴室を出る。

同室の方はというと・・・仕切りをして、既に御休みになっていました。机を見ると、そこにはコップとミネラルウォータ―が置いてあるのが見えます。

・・・小さな気遣いに頭が下がる思いです。

仕切り越しに頭を下げ・・・ベットに腰を下ろした私は、これからの事に考えを走らせる。

何をするにしても・・・まずは私がすべき事・・・それは。


「・・・・何れにしろ、明日にならなければ何も出来ないですわね。」


小さく苦笑し、用意していただいたミネラルウォーターを、一杯だけ淹れ飲み干した後。

私はベットに横になり、まだ灯っている小さな備え付けランプの灯りを消し、就寝することにしたのでした。


お休みなさい。・・・・お父様、お母様・・・・。




―――その夜、私は・・・久しぶりに両親の夢を見ました・・・・。




――― それは哀しくも優しい・・・・とても幸せな夢でした。




*   *   *




翌日―――。

いつもより早くに目を覚ました私は。登校の準備を素早く整えると、すぐさま教室へと向かおうと足を動かしました。


「――っいけない。大事な事をしていませんでしたわ。」


寮の部屋のドアノブを回す前に、私は自分の机へと足を動かし。それに目を向け微笑む。

そこに飾られているのは、あの写真立て。私達家族が幸せそうに写っている・・・世界で一つだけの、私の宝物。

その写真立てが、今は私の机の中央を独占するように――― 堂々と飾られています。


「――― 行ってまいりますわ。お母様、お父様。」


そう両親に告げ――、私は今度こそ寮の部屋を後にしたのでした。




――― 行ってらっしゃい。




そんな両親の声を・・・頭の片隅で聞いた――― そんな気持ちになりながら。



【 一夏 SIDE 】


「・・・妙に嬉しそうだな? 一夏。」
「ん? そう見えるか?」
「・・・朝も早くから、そわそわとしていれば嫌でも気付く。遠足前の子供かお前は。」
「あー・・・その例えは、あながち間違っちゃいなかもな?」
「・・・・はぁ。」


箒と並んで、食堂へと足を向けながら。そんな会話を交わす俺と箒。

そう言われても・・・だってようやくこの日がやって来たんだぜ? 嬉しいに決まってるだろうが。

弾から『相談』の合図を受けた翌日。

ようやく、俺達が行動に移る時が来た事に、俺は逸る気持ちを抑えきれず。いつもよりも早起きして部屋を出た。

箒は、そんな俺の様子に何処か憮然としているが・・・なんでそんな顔をするのかが分らない。

もしかして低血圧で朝が弱い――― 訳ないよな。いつもピシッとしてるし。駄目だ原因が分らん。

箒の様子に首をかしげながらも、そのまま歩き続けて食堂へとやって来た俺達は、いつものように食券を選んで列に並ぶ。

ちなみに二人揃って日替わり定食だ。うん、栄養バランスが整っているから朝食にはもってこいだな。

食券と日替わり定食を交換した俺達は、朝の食堂内を少しだけうろつく。


えーと・・・何処か適当に空いている席はっと・・・・・?


キョロキョロと周囲を見回していた俺だったが――・・・


「――― おう? やっと来たか・・・おーい! 一夏ぁ!」
「―――っお! この声はだ「こっち向けやゴラァ!?」っ何でいきなり喧嘩腰なんだよお前はっ!?」
「相変わらず早朝でも騒がしい奴だな・・・。」


いつもの如く騒々しい呼び声に振り向くと、そこにはテーブルに座って朝食をとっている弾と、その隣でヘロヘロと袖を振っていつものようにのほほんとしているのほほんさんの姿があった。・・・紛らわしいな。

スペースも十分空いていたから、箒と共に連れだって弾達の元へと移動し腰を下ろす。

弾は・・・・朝っぱらから蕎麦か、いつ見ても蕎麦しか食ってないなこいつ。お前蕎麦しか食わないのかよ。


「二人とも、おはよー。」
「おはよう。のほほんさん、二人共早いな。」
「おりむー達を待ってたんだよー?」
「そうなのか?」
「達・・・ということは私もか?」
「そー。」
「野郎のくせにタラタラしやがって・・・このカスがっ!?」
【女々しいですね。あーやだやだ。】
「お前等、俺のこと実は嫌いだろうっ!?」
「好きだぞ? ゴキ○リよりは。」
【愛らしいですよ? ハイエナよりは。】
「比較する基準が最悪すぎるわっ!?」


俺の怒声に弾はいつものようにヘラヘラと笑い。そんな俺達にやり取りに箒が小さく溜息をつき。のほほんさんは相変わらず、ほにゃっと笑う。

そんないつも通りの一幕を過ごしていた時。


「――― あら。みなさんお揃いですわね?」


すぐ横から、俺達にそう声を掛けてくる声が聞こえてきた。

お、この声は・・・・・?

いつも良く聞いて馴染みのある声に反応した俺は、声の主へと視線を向ける。するとそこには、思った通り―――。


「よう。セシリアも今日は早いじゃないか、おはよう。」
「おはようございます一夏さん。・・・ええその、なんというか・・・目が覚めてしまいまして。」
「おはよーセッシー。」
「セ、セッシー・・・? え、ええまぁ呼び方は特に気にしませんが・・・おはようございます。布仏さん。」
「・・・オルコット。」
「あ・・・篠ノ之さん・・・。」
「・・・ん?」


なんだ? 箒とセシリアが、眼を合わせた瞬間・・・なんだか二人共様子が・・・これは戸惑ってるのか?

訳が分らず、俺はただなんとなく弾に視線を向けると。弾はそんな俺に苦笑し、肩をすくめてみせる。

・・・んー。俺が気にしなくても大丈夫って・・・そう言う事か?


「その・・・何だ・・・昨日は、大丈夫だったか?」
「・・・ええ、御蔭さまでもう大丈夫ですわ。ご心配をお掛けしたようですわね。」
「そ、そうか。もう平気なら良い。うむ。」
「はい・・・気にしていただいたようで、ありがとうございます。」
「べ、別に・・・大したことではない。あの場に居た者なら至極当然のことだ。」
「それでもです。・・・ありがとうございます。篠ノ之さん。」
「・・・・・む・・・。」
「・・・・? どうかなさいましたか?」
「・・・・箒だ。」
「あら・・・では、私の事もセシリアで結構ですわ。」
「そ、そうか。ではこれからはそう呼ぼう、セシリア。」
「はい、構いませんわ。箒さん?」


そう言って、セシリアが微笑むと。箒は「・・・ふん。」と小さく呟いて、照れくさそうにそっぽ向いた。

・・・な、なんだ? なんだか・・・セシリアの雰囲気がいつもと違う。

なんだかこう、若干大人びているみたいな・・・落ち着きがある涼やかな雰囲気がある。以前までの様なちょっと押しの強すぎるような所がなりを潜めて・・・それでいて、存在感は増した。そんなオーラみたいなのを感じる。

すると、箒から視線を外したセシリアは、今度はテーブルに座って『ズゾゾゾゾゾーッ!』と、豪快に蕎麦を啜っている弾に視線を向ける。

・・・・お前な。

セシリアの視線に気付いた弾は。『ゴキュッ!』っと蕎麦を呑みこんで。ヘラっと表情を崩し、セシリアに話しかける。


「―― へい! おはようセシリーちゃん! 今日も綺麗だね!」
「はい、おはようございます。五反田さん。ふふ・・・社交辞令として受け取っておきますわ。」
「おおう? いつもと違った返し・・・ふむ?」


セシリアの表情を、少しの間しげしげと見つめていた弾だったが――・・すぐにヘラっと表情を崩して笑い掛ける。


「――― その様子だと。ちゃんと見つけられたようだね? 『探しモノ』をさ。」
「――― っ・・・はい。五反田さんのくれた『鍵』の御蔭で・・・私はやっと・・・見つける事が出来ました。――― 本当に、何とお礼を言ったらいいのか・・・!」
「俺はそんな大層な事なんてしとらんよ? 俺は自分の想像、一つの可能性を話しただけだかんねー? その可能性を踏まえた上で『真実』に辿りつけたのは、セシリーちゃんの力だよ。そんなに感謝されると俺が困っちまうぜ! お釣り足りるかね? 一夏、小銭。」
「俺が出すのかよ!? というか何の話だよ!?」
「三円玉も無いのか貴様っ!?」
「存在が無いわっ!?」
「・・・・・やっぱり、貴方も・・・お父様と同じ・・・・・。」


いつもの如く、騒ぎ出す俺達に向かって、そう小さく呟いたセシリア。

・・・ん? どうしたんだ。

するとセシリアは、少し考えた込んだ後。少し表情を引き締めたかと思うと、一歩だけ弾に近づいた。

セシリアの行動に、少し驚いた様子の弾だったが、それにも構わずセシリアは言葉を発した。


「――― 五反田さん。」
「お、おおう? どうしたのよセシリーちゃん。」
「五反田さんにとっては、それは本当に些細な手助けだったのかも知れません・・・ですが。五反田さんが私になさってくださった事は、私にとって何よりも必要な事であって、また何を置いても大切な事だったんです。」


―――そう、真剣な瞳で弾に話しかけるセシリアの姿は・・・いつも俺達が見ていた彼女とはほど遠く。


「――― ですから、ちゃんと言わせてください。そして・・・どうか受け取ってください。」


――― 今この場の誰よりも気高く、そして輝いていて・・・・。


「――― まずは、謝罪を。・・・今までの、私の貴方に対する非礼な行いの数々・・・心よりお詫び申し上げますわ。・・・・本当に申し訳ありませんでした。―――― そして・・・。」


――――― とても綺麗だった。


「―――― 貴方に心からの感謝を。・・・・本当に・・・・本当にありがとうございました。―――――――― 弾さん。」


ふわりと、今まで見た事も無いような魅力的で・・・それでいて綺麗な笑顔を浮かべたセシリアは。

――― 初めて弾の名前を呼んで、そう微笑んだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・ほあ~・・・。」
「・・・・・・・―――――――― はっ!?」


その笑顔を、俺はただ呆けたように見つめ続けることしか出来なくて。


―――― 右足に、とんでもない激痛が走ると同時に、正気に戻る事になった。


って!?


「―――― いってええええええええええええええええッ!? な、何するんだよ箒っ!?」
「――― ふんっ! だらしなく鼻の下を伸ばしているからだ! この軟弱者めっ!」
「い、いやそれは・・・!? っだからって思いっきり右足を踏みつけることないだろうが!?」
「うわわわ~~~♪ セッシー今、すっごく綺麗な笑顔だったよ~♪」
「――― え? え? わ、私は別に何もしておりませんわよ? ただ。弾さんにお礼の言葉を述べただけでして・・・。」
「――― はっはっは! いや、まいったね~? あんな魅力的な笑顔でそんな事言われちゃ受け取る以外にないじゃ無いのよ? ありがたく受け取るぜセシリーちゃん! どういたしましてだっ!」
「――― は、はい!」
【おお、相棒に感謝の言葉を受け取らせるとは・・・一皮剥けたようですね。セシリア嬢。】


その後は、まぁいつもの通りワイワイギャンギャンと騒がしい、いつもの光景が繰り広げられ。

そして、セシリアが朝食を持ってきて。テーブルに座ったと同時に、また会話に戻る。

・・・うーん。セシリア・・・なんか凄く良い顔してるな。

ちょっとセシリアの様子を窺うけど・・・その度に、箒から殺気の様なものが飛んでくる。なんでそんなに不機嫌なんだよお前・・・。

――― と、そうだった。忘れる所だった。


「――― そういや弾? 俺達を待っていたって言ってなかったか?」
「ん?・・・おおう! そうだった、そうだった。いやすっかり忘れたぜ。それ程セシリーちゃんあの素敵スマイルの威力が凄まじかったって事かね?」
「キラキラってしてたもんねー。」
「――― で、ですから! 私は別に意識した訳ではなく! その・・・っ!」
「いやいや、スゲェ綺麗な笑顔だったぜ? セシリア。」
「-----っ! そ、そうなんですの・・・?・・・そ、そうですか・・・(真っ赤)」
「――――・・・一夏・・・・!」
「な、なんだよ? 箒だってそう思っただろう?」
「――― そ、それは・・・! そうだが・・・だ、だからと言って、人様の顔をジロジロと物珍しく見るモノではないぞっ!」
「うぐ・・・それは・・・。」
「まぁまぁ、とりあえず話を進めさせてもらうとするけどな? 二人を待っていたのは、今日の放課後の『相談』についてなんだよ。一夏。」
「―――っ! 何かあるのか? 弾。」


途端に、俺は表情を引き締め弾に視線を向ける。もしかして、何か問題でも発生したんじゃないのか・・・?

そう思っていたのだが、弾の奴は特に緊迫した様子も無く。ヘラっと笑い返してきた。


「なーに、そんなたいした問題じゃねぇよ。実は『七代目五反田号』と話してみたんだが。俺達の『相談』の席に、箒ちゃんも加えられないかね?」
「え? 箒を?」
「わ、私か?」


弾の突然の提案に、俺の隣に座る箒が戸惑いがちな声を上げる。

箒を加えたいって・・・一体どういう事だ?


「どういう事なんだ? 弾。」
「いや実際の話。クラス対抗戦までの残された時間だが・・・はっきりいって、お前の特訓には箒ちゃんの近接戦闘による特訓が極めて重要になるんだ。ならここは・・・箒ちゃんにも協力を仰ぐ為にも。ちゃんと話しておいた方が良いんじゃないかと思ってさ?」
「・・・成程そう言う事か・・・俺としては反対する理由は無いから構わないけど。箒? 今日の放課後の時間って空いてるか?」
「き、今日の放課後か?」
「あ、何か用事があるんなら構わないよ? 箒ちゃんの都合を優先してほしいからね?」
「い、いや! 問題ない! ちょうど今日の放課後は空いている。わ、私は別に構わんぞ?」
「おおう! そいつはラッキー! それじゃ放課後寮の部屋で一夏と待っててくれんかね?」
「悪いな箒、助かるよ。」
「ふ、ふん。仕方のない奴等め。」


そう言って、朝食の味噌汁を啜る箒。

・・・なんだか嬉しそうに見えるのは気のせいか? まぁ機嫌が良いのは良い事だけど。

よし、これで後は放課後の時間が来るのを待つだけだな。そのためにも、しっかり喰って体力を付けないとなっ!

そう思って、朝食に箸を伸ばした俺の耳に。俺達の会話を聞いて、何か考え込むようにしていたセシリアが口を開いた。


「――― あの! 一夏さん、弾さん。よろしいでしょうか?」
「――― ん? どうかしたのか? セシリア。」
「どぼじゅじゃじょ? じぇじゅじーじゃん? 【ゾゾゾゾゾー】」
「蕎麦啜りながら喋るな。行儀が悪すぎるわ。」
「【ゴックン!】 うむ美味し! そんでセシリーちゃん? どったのよ?」
「はい。・・・あの、もしよろしければ私も、その『相談』の席に加えては貰えないでしょうか?」
「え?」
「セシリーちゃんを?」


セシリアの突然提案に、俺と弾は思わず顔を見合わせる。

そしてすぐさまセシリアへと視線を戻し俺は口を開く。


「一体どうしたんだ? セシリア。」
「ええ、お二人の『相談』とやらが一体何の事なのかは存じ上げませんが・・・私にもどうかお二人に力添えさせて頂けないでしょうか?」
「おおう。そりゃ嬉しい申し出だけど・・・セシリーちゃん? もし、俺に対するお詫びって意味なら、それはもう十分だからね? 本当にそんな気にせんでもいいんだぜ?」
「そうではありませんわ。・・・あ、いえ少しはその思いがあるのは事実です。ですが、それだけではありません。私が唯純粋に、お二人のお力になりたいとそう思った上での申し出ですわ。」
「・・・うーん。俺としてはOKだけど。弾? お前はどうだ?」
「・・・・ふむ?」
「――― あら? 弾さんが断る理由はありませんわよね?」
「は? どういう事だ?」
「うむん?」
「うふふ、だってそうでしょう?」


セシリアの言葉に、怪訝そうな表情を浮かべる俺と弾。

そんな俺達の表情を見て、悪戯っぽい・・・それでいて綺麗な微笑みを向けたセシリアは、心の底から楽しそうに。




「――― 淑女のせっかくの厚意を無碍にするなんて、紳士のする事ではありませんわ♪」




――― 少し弾んだ声音で、そう弾に告げたのだった。

その言い様に、俺と箒、そしてのほほんさんも驚愕に固まってしまい。唯呆然と鳴り行きを見続ける事しか出来なくなってしまった。

その言葉を聞いた弾はと言うと。

驚いたように目を見開いてセシリアを凝視し、パチパチと数回瞬きした後に・・・・・

二ヘラっと表情を崩して・・・・突然笑いだした。


「――― あっはっはっはっはっはっは!! なーる程ね!? そりゃ確かに紳士のする事じゃないわっ! あっはっはっはっは!」
【これはこれは・・・一本取られましたね。相棒?】
「うふふ。それで返答はいかがですの? 弾さん?」
「それは勿論っ!!」


セシリアの言葉に、弾はというと。

妙に芝居がかった仕草で、手をセシリアの方向へ差し出したかと思うと・・・片眼をつぶっておどけた表情を浮かべる。

そんな弾にセシリアも微笑みを浮かべ手を差し出し―――。


――― まるで、道化師が姫君の手を引くように。



「――― どうかこの私に、お力をお貸しくださいませんか? レディ?」
「――― ええ勿論。しっかりエスコートをお願いしますわ。ジェントルマン?」



そう楽しげに言葉を交わし合ったのだった。


・・・・・・・・・あ・・・・あの弾を言いくるめた・・・・だと・・・!?


「お・・・おい? どうしたんだよセシリアの奴!? なんか・・・! 何か凄いぞ!?」
「わ・・・私に言われても分からん! わ、私とて信じられん思いなのだぞ!? ・・・むむぅ・・・! い、一体昨日あの後何があったのだ・・・!?」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・う・・・うん? どうかしたのか? のほほんさん?」
「・・・・・・・・・むぅー・・・・・。」
「え!? なんで膨れてるんだ?」
「・・・・む・・・? もしや・・・布仏お前・・・!?」
「むーっ!」
「何で怒ってるんだのほほんさん!?」
「一夏、放っておいて大丈夫だ。これは弾と布仏の問題だ。・・・そうか、そうなのか。私は応援するぞ、布仏。」
「は?」
「・・・・・・・・む~~~~っ!」


何故か不機嫌で、頬を膨らませ。笑い合う弾とセシリア二人を凝視するのほほんさん。そしてそんなのほほんさんを、微笑ましげに眺める箒。


え? 状況把握できてないの俺だけ!?


そんな俺の心の呟きと、セシリアの『相談』への参加が決定すると共に、朝食時間は過ぎて行ったのだったー――――――――。





―――― そして放課後。

俺達は知ることになるのだった。

鈴の抱えている闇を、

鈴を取り囲む大きな問題と、その厄介さを。




けど――――― そんな事関係ねぇ。




―――― 待ってろよ鈴! 必ずその場所から俺達が救い出してやるからなっ!!








それは暗く深い森の中。

何も見えず、ただ手元の小さなランプを頼りに、迷子は進む。

頼れるのは自分だけ。頼れるのはこのランプだけ。

今にも消えてしまいそうな小さな光。

それだけが、迷子が縋る唯一の希望。

深い深い森の中。

暗い暗い森の中。

出口も分からず、迷子は進む。

けれどその時遠くから、自分を名を呼ぶ声がする。

足を止めて振り返る。

けれどそこに続くのは、何も見えない暗い闇。

空耳だと思い込み。

そして迷子は再び歩き出す。

頼れるのは自分のだけ。 頼れるのはこのランプだけ。

そう自分に言い聞かせ。 迷子はひたすら進んで行く。

そして迷子がその場を後にして、しばらくし時間が経った後。

その場に佇む二つの影。


――― 白い騎士は闇を払い。碧の道化は注意深く地面を見つめる。


そして小さな足跡を確認し。騎士と道化は顔を見合わせ頷いて呟いた。


――――――― 見つけた! ――――――。


辿り着くまで―――――――― 後少し。




後書き

なんとか今日中に更新しました。釜の鍋です。ついに安否が判明した六代目! いや無事かどうかはともかく・・・・いや難関でした。マジで今までで一番長くなりました。あー・・・ようやく此処まで来た。さて次回・・・・クラス対抗戦一歩前! ・・・まで行けたらいいなぁと思うしだいです。どうなるかな・・・? 話しの構成は出来てるのになぁ・・・マジで休み欲しい。それでは次の更新でお会いしましょう。釜の鍋でした。



[27655] 第二十三話 思惑一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2011/10/29 15:54
【 鈴 SIDE 】


・・・・へ? 何? 挨拶しなきゃならないの? ・・・しょうがないわねー。

私が中国の代表候補生にして二組のクラス代表でもある、凰鈴令よ。よっく覚えておきなさいよね! よろしく。



・・・一夏の馬鹿の愚痴を垂れまくったあの夜から、もう早くも一週間が経った。



私の周りはというと、来週に行われるクラス対抗戦に対する準備と、その話題で持ち切りな日々が続いている。

あの日から・・・まぁ、一夏とは休み時間とかにすれ違ったりするんだけど・・・はぁ・・・。

はっきり言って。私と一夏の間に流れる空気は・・・険悪とはいかないまでにしても、微妙な上にちょっとぎこちない空気が流れているのが現状なのよね。

一夏があたしとの約束をちゃんと覚えて無かった事に関しては、女としてはまだ許す気になれないけど・・・友達としては大目に見てやってもいいとも思ってるし・・・ね。

友達かぁ・・・・はぁぁ・・・・。

深い溜息をついて、あたしは机の上に顎を乗せるようにして脱力した。

う~~~っ! なんであそこまで言ったってのに、あんな斜め上な解釈をしちゃうのよぅっ!? 一夏の馬鹿! 鈍感! 

机に突っ伏したあたしは「う~~~~っ!」と唸りながら、一夏を心の中で非難する。

・・・・・・・・・・。

・・うー・・・・で、でも・・・すれ違う度に思うんだけど・・・一夏の奴なんだか元気なかったわよね・・・? なんか・・・言いたい事があるのに、言えないみたいな・・・・・。

ここ最近の一夏は・・・なんだか妙に忙しそうに動いてるせいか、よく廊下ですれ違うんだけど・・・その度に見る横顔が・・・なんか元気ないというか、余裕がないというか・・・目が合っても、なんだか気まずそうだし。

まぁ・・・クラス対抗戦も近いし忙しいのは分かるけど。今思い出したけど、あいつ一組のクラス代表だったもんね。・・・でも、それだけじゃない気がする。

・・・もしかして、あたしとのあの一件を・・・あいつなりに考えてくれてるのかな・・・?

そんな考えが浮かんだけど、すぐにあたしは一夏の性格を思い出し。『でもなぁ・・・』と、また溜息をついた。

・・・あの鈍感で、『まぁ、過ぎたこと気にしても仕方ないな。何とか何だろう』って結構淡泊な面が強いあの一夏が・・・・いつまでも一つの事に執着・・・特に女の子関連に関して深く考えないあの二ブチンが、そこまで考え込むとは思えな―――



『一夏の心の中、それも結構深い場所にお前はちゃんと存在してるよ。自信を持て鈴。俺が太鼓判押して断言してやるぜ。』



―――――・・・・・っ!

瞬間、弾があたしに言ってくれた言葉が心の中でリプレイされ。パッとあたしは突っ伏していた机から頭を上げた。

・・・・も、もしかしてそう言う事?

あたしとの事だから? あたしに関する事だから・・・一夏の奴・・・・真剣に考えてくれてる・・・・・・?

その考えが私の頭の中に浮かんだ瞬間――― ポッと顔を赤らめる。


う・・・・


う、ううぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!


赤くなった顔を隠すようにして、あたしはまた机に突っ伏して悶える。心の中はさっきとは違い。気恥ずかしさと、嬉しさやらで悶々としている。


『・・・・ねぇ? 何かしらあの可愛い生き物』『仕草が猫っぽいのがまたいい味出し得るわね。』『ハグさせて! 今すぐあの子ハグさせて!?』『駄目よっ! 見て愛でるだけって決めたでしょ!』『流石は代表候補生ね。ああ・・・かぁいいなぁ~・・・』『代表候補生関係あるの?』『持って帰っていい?』『誰か先生呼んで。こいつクロロ○ルム沁み込ませたハンカチ持ってるわ。』


なんだか周りが騒がしいけど、今のあたしには良く聞こえなかったから特に気にせず、あたしは自分の思考に没頭する。

・・・うー・・・ど・・・どうしよっかな? は、反省してるみたいだし・・・そろそろ許してあげようかな・・・?

・・・い、いや! 駄目よ! そこはちゃんとしないと! 間違えて覚えてる一夏が悪いんだからっ! ここで甘やかしちゃったら、一夏の奴また同じこと繰り返すに決まってるんだから!

・・・で、でも・・・あんまり放置しといても・・・ま、不味いわよね? 仲直りの切っ掛けを逃すことにならない? ここは大人の余裕を見せつけて、あたしの寛容さをアピールするチャンスじゃない・・・?

い、いやいや・・・あんまり簡単に許しても駄目よ。安い女って思われる可能性だってある訳だし。それに、一夏ひっぱたいちゃったからなぁ・・・なのに簡単に許しちゃったら、あたしとの約束が軽いものだと思われるし・・・。なにより逆に一夏が怒りそう。『簡単に許せる程度の事で、俺は叩かれたのかっ!?』て・・・・。

う~~~~! でもでもっ! あたしと一夏がこのままだと・・・それに託けて、他の娘達に付け入る隙を与えちゃうし~~~っ! ・・・特にあの馬鹿女二人。そ、それだけはなんとしても阻止しないと・・・!

机に突っ伏したまま、あたしは両手で頭を抱え『う゛ぅ~~~~っ! う~~~~っ!』と唸りながら考え込む。


『離してっ! 今、あの子猫ちゃんには私の抱擁が必要なのよっ!』『誰が離すかぁ! 抜け駆けは禁止っつったでしょうが!?』『これで理性失ったの何人目だっけ?』『鈴たん・・・はぁ・・・はぁ・・・!』『次々と堕天していってない!? 既にヤバいわよこの娘!?』『―― ヒャッハァ―――ッ【バチバチバチィッ!】アババババババッ!? あふ・・・っ(がくり)』『はぁ・・・これ護身用なのになぁ。【バチバチ】』『なんでそんなモン持ってんの!?』『え・・・購買部に普通に・・・。』『おい学園っ!?』『というか女の子がヒャッハー! って何よ。』


なんだかやたら周りが騒がしくなった上に、ちょっと焦げ臭いにおいもするけど放置する。気に掛けている暇なんかない。

うー・・・どうしたら・・・・どうしたら・・・・・。

―― そうだっ! 弾に相談してみたらいいんじゃない!? 弾ならきっと協力してくれる筈よ!

破天荒で色々ブッ飛んでる奴だけど。ここ一番って時にはいつも頼りになる親友の存在に、あたしはパッと表情を輝かせる――― けど。

途端にがっくりと脱力した。

・・・って駄目かぁ・・・何でか知らないけど、弾の奴とは一夏以上に顔を合わせてないしなぁ・・・。

溜息をついて、あたしは項垂れるようにして机にヘタれる。

あの日以来、弾は何でか知らないけど姿を見かけなくなった。何をしているのかは全く知らない。本音にそれとなく訊ねてみたりしたけど・・・本音も詳しくは知らないみたい。

まぁ・・・本音とあたしに毎日『弾特製愛込めまくってます弁当』を用意してくれるのは感謝してるし嬉しいんだけど・・・・なんだかなぁ・・・・。しかもあたしと本音で、弁当の中身が全く違う上に、それぞれ好物ばっか。栄養バランスも考えてる凝り具合。主夫かあいつは。おかげでオカズ交換が絶えないじゃないのよぅ・・・あの馬鹿。

昼食時間のささやかな時間を思い出したあたしは。知らず知らずのうちに顔が緩みそうになっている事に気付いて、慌てて表情を引き締める。

・・・あ、危ない危ない。変な子だと思われる所だったわ。

全く・・・何してるんだか。本音だって寂しがってるってのに・・・っていうか本音って弾に気があるわよね絶対。

・・・まぁ・・・本音なら・・・あたしも応援してあげてもいいんだけど。でもあたしとは違った意味で苦労するわねぇ~。あの弾が相手だもん。

あー・・・また思考が別の方にいっちゃってる。

机に頬杖をついて、あたしはまた溜息をはいた。・・・最近溜息の数が増えたなぁあたし。


――― っと、そんな事を考えていた時だった。


―――― ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・!


「・・・・・・・ん? 何よこの音?」


突然響き渡って来た音に、あたしは眉をひそめる。

うるさいわね一体何の音よ? 考えに集中出来ないじゃないの全く。

地鳴りのような騒音の方角に、あたしは顔ごと視線を向けた。音は―――― 廊下の方から聞えて来る。

音の大きさは次第に大きくなってきてる所をみると、どうやらこっちに近づいてきてるみたい。一体何よ? 騒がしい。

まるで何かがこっちに向かって突進してきているような――――って待って? 

そこまで考えて、あたしはピンと頭に閃きが走った。

―――― もしかして・・・いやもしかしなくともっ! IS学園でこんな地鳴りのような音響かせて移動する奴なんて一人しか思い浮かばないというかっ! 一人しかいないじゃないの!

そのまま二組の扉に目を向けたその瞬間―――――――― っ!


「【スッパァァーンッ!】―――ったぁのもおおおおおおぉぉぉぉぉぉ―――――――うっ!!」
「「「「「自動ドアなのに、手動で開けたっ!?」」」」」


強引に二組のドアを手で開けた、ついさっきまで思い浮かべていたあたしの親友であり・・・この学園始まって以来の問題児。

ここ最近姿を見せなかった弾が、いつもの如く騒音と騒動を引っ提げて現れた。

―――ってやっぱりあんたか!? 姿を見せないかと思ったらこれよ! 本当にまた突然に現れる奴ねあんたって!


「だ、弾!? あんた一体今まで何処に―――っ!?」


思わず声をを上げたあたしだったけど、その瞬間。弾があたしに視線を向け『クワッ!!』っと目を見開いて凝視してきた。


―― な、なに!? 何でそんなに目を見開いてあたしを―――っ!?


そしてそのまま大きく息を吸い込んだ弾は――――――。


「――― っバストオオオオオオオオオオオォォォォォォッ―――――――――――ッ!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ?(ビキっ)


叫び声と共に身を屈め――――。


「―――――― チッパアアアアアアアアアアァァ―――――――イィィィィ!!」


――― ドンッ!! と空気を弾く音と共にあたしに突進してきた。


「・・・・・・・。」


あたしに向かって突撃してくる馬鹿を見つめ続けながら、あたしはそれを笑顔で迎え―――――。



ガラッ!(窓を開ける)


『イイイイイイイイイィィィィ――――!?』(馬鹿が横を素通りしていく声)


――――――― ガッ!(足を掛ける)


『イ?』(キョトン)


――――――― にこっ♪(花のような笑顔)


ヒュー―――――・・・・・(馬鹿が窓から落ちて行く音)


―――――― ピシャッ!!(窓を閉める)


――――――――― ドグシャアッ!! ボキボキャッ!!(何かが潰れる音)


『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
『五反田くんが、転落してきたあああああああっ!?』
『メディ―――クッ!? 誰か来て―――!! あたり一面が血の海にいいいいいいいいいっ!!』
『・・・・・うぼぉあああああ・・・・!!(ズリズリ)』
『嫌あああああぁぁぁっ!? 血塗れで動きだしたぁ!?』
『何で生きてるのっ!?』
『(ごそごそ)・・・促進・・・成分配合・・・パイビタンD・・・・!【シャキーン!】』
『何かビン取り出して、宣伝してるっ!? 動ちゃ駄目だってば!』
『せ・・・【世界紳士連合】の・・・【シルクハットマーク】が・・・めじ・・・る・・・し・・・・(バタッ!)』
『ち、力尽きた・・・!』
『でも何だか、最後までやりきった漢の顔を浮かべて満足そうだよ!?』
『あ・・・あれ? なんか指先に文字が書いてある?』
『ダ、ダイイングメッセージ・・・? なんて書いてあるの?』
『え、えーと・・・・・“モップ持ってきて”』
『『『掃除する気でいるの!?』』』


騒がしくなった外の喧騒を無視して、あたしは乱暴に自分の席に腰を下ろして腕を組む。

ったく! あの馬鹿は毎度毎度あたしが気にしている事をズバズバと・・・!!

――― と、その時。二組の教室のドアが開く音が耳に届き・・・・・。


「し・・・失礼しまーす。」
「失礼する。」
「失礼いたしますわ。」
「しつれーしまーす。」


二組の教室に、入室の断りの声と共に入って来た四人の姿が目に写って。あたしはギョッと目を剥いた。


「――― い、一夏っ!? それに本音も!?」
「よ、よぉ鈴。」
「やっほーりんりんー。」


突然二組の教室を訪ねてきた一夏達の姿に、あたしは思わずそう声を洩らしてしまった。そんなあたしに向かって、一夏は片腕を上げてぎこちない笑みを浮かべる。

本音はといえば、一夏とは対照的に、いつものようにほにゃっとした表情を浮かべたまま、ぽてぽてとやたら遅い足取りで近づいて来た。

そしてあたし達の様子を、一夏から一歩下がった場所から眺めている馬鹿女二人・・・なんでこいつらまで居んのよ・・・。

顔を顰めたあたしは、そのまま馬鹿女達に睨む様な視線を向ける。けどそんなあたしに、本音がいつものように話しかけてきた。


「あれー? りんりん。だんだんがここに来なかったかな~?」
「・・・へ? 弾?」
「うん。私達よりも先に、こっちに向かったと思うんだけどー。」
「・・・・あー、あの馬鹿なら、なにを血迷ったのかそこの窓から飛び降りて行ったわよ。」
「えー?」
「・・・・何があった?」
「・・・・あたしに聞かないでよ。」


一夏の呟きに、あたしは疲れたように息を吐き出して机に突っ伏した。そんなあたしを本音が慰めるように頭を撫でて来る。

・・・どうしよう。なんかすごく癒されてるあたしがいる・・・


『―― う~む・・・流石俺の血、頑固でしつこいな。モップ掛けじゃだけじゃビクともせん!! ・・・誰かー。アレ持ってきてアレ。多分それで落ちるから。(ゴッシゴシ)』
『なんで普通に起きて掃除してるの!? しかも、なんか腰入ってて様になってる!?』
『あ、アレって何? 石鹸?』
『油汚れに~♪』
『『『『ジ○イ!?』』』』


――― そして、いつもの様に復活したらしい弾の声が窓の外から聞こえ、あたしはまた項垂れるのだった。

っていうか、案外ノリが良いわね学園の生徒って・・・・。





*   *   *




「――――― 賭け?」
「おうそうだ! 普通にやったんじゃつまらねぇ。だから今度のクラス対抗戦で、俺達と賭けをしねぇか? どうだ乗らないか微【パァンッ!!】・・・・・・・お・・・おぼぉぉ・・・っ!?(鼻血ブクブク)」
((今、右腕が見えなかった・・・!?))


弾がようやく戻って来て、あたし達は今向かい合うようにして話をしている。

突然やってきた弾達の用件を聞いたあたしは、その内容に少しだけ怪訝な表情を浮かべる。

話しの内容は、今度のクラス対抗戦で自分達と賭けをしないかという話しだった。詳細は至ってシンプル、負けた方が勝った方の言う事を何でも一つ聞くという物。

・・・また突然に、妙な事をもちかけてくるわね? 今度は何を企んでるんだか・・・

ちょっと警戒するような視線を向けるけど、弾はふがふがとティッシュを鼻に詰めながらも、ヘラヘラとした顔を向けて来ている。

一夏に視線を向けても、若干強張った顔をしているだけでその真意までは読み取れそうにない。・・・一体なんだってのよ?


「・・・また突然ね。何企んでんのよあんた?」
「えーいいじゃんやろうぜ賭けー? 普通にやったんじゃつまんねーじゃん。減るもんじゃな・・・まさか減るのか!? 馬鹿っ何でそんな悲惨な事になるまでやったんだ!?」
「―――――――――――― 殺すっ!!」
「りんりんビークルだよー。落ち着いてー? 良い子良い子ー♪(なでなで)」
「や・・・!? ちょ! 本音やめ・・・ああもう! 分かったわよ! さっさと話を進めなさいよっ!(赤面)」
「あ! ずりぃっ!? 俺もなでなでしてもらいたいっ!」
「弾さん。良い子ですから話しを進めましょうね?(なでなで)」
「お・・・おおう・・・!? ・・・さぁ、話を続けようか。(キリッ!)」
「・・・・最近、マジで凄いよなセシリア・・・。」
「う、うむ・・・ああも手際よく弾を抑え込むとはな・・・。」


金髪に頭を撫でられた弾が、俄然やる気を出した所で会話が続行される。

・・・なんか随分と仲良くなってるみたいだけど・・・何があったってのよ? 撫でられて大人しくなった弾を見て。本音が「・・・・むぅ・・・」と唇を尖らしてるじゃい。

その様子に気付いた金髪が、困ったように「あら」と声を洩らして、弾の頭から手をどかし、ニッコリと笑顔を本音に返す。それに本音が「う、う~~~っ!」と唸り、拗ねた顔を隠すようにあたしに抱きついてきた。

・・・・やっぱり雰囲気が違くない? 金髪。


「何でも一つって言ったけど、それって何でもいいの? 本当に?」
「おう、出来る範囲での事ならなんでもOKだぞ? 一夏に『俺は神だ!』って叫ばせながら町内を走り回せるといった、多少無茶なモノでも全然構わないさっ!!」
「おいコラ待て、色々待てコラ!」
「大丈夫だ一夏、人としての尊厳を捨て去れば君にもきっと出来る。」
「出来るけどな!? 出来るけど絶対にしたくないぞっ!! どこが多少だ、無茶すぎるわ!?」
「うわ男らしくねー。」
「男らしい関係ないだろっ! 本当にやれって言われたらどうすんだっ! 俺に社会的に死ねってか!?」
「カモン! こっち側へ!」
「自分がそっち側の住人と認めてるお前の潔い姿勢に脱帽を禁じえないが絶対に嫌だからなっ!?」


目の前で馬鹿騒ぎする一夏と弾を尻目に、あたしはしばし思考に没頭する。

あたし達でも出来る範囲の事であれば、多少無茶な命令でも可。

そしてその対象は一夏に限らず、弾や本音。そして後ろの馬鹿女達でも構わない・・・ね。つまりこれはあたし一人に対し一夏達五人が勝負を申し込んでるって事よね?


「もしアンタ達が勝った場合はどうするの? まさかとは思うけど・・・あたしにあんた達五人それぞれの言う事を聞けってんじゃないでしょうね?」
「いや、その点は安心しろ。俺達が勝ったら、お前に命令権を持てるのは一夏って事で話はついてる。つまりお前が勝ったら、お前は俺達の内の一人に好きに命令できて、俺達が勝っても、お前に命令出来るのは一夏一人って内容だ。どうだ? 悪くない内容だと思うがね?」
「成程ね・・・それじゃぁつまり―――・・・・。」


そこであたしは言葉を区切って、挑発的な視線を一夏と弾の後ろに突っ立っている。馬鹿女の黒髪の方へ向けた。

あたしが突然投げかけた視線に、黒髪は一瞬驚いた様子だったけど―――。


「――― あたしがそこの女に、『一夏の部屋から今すぐ出ていけ』って命令しても、全然構わないって事よね?」
「―――――――― なっ!? なんだと!?」
「・・・あら。」
「・・・・ふむ?」


あたしの言葉に、黒髪は血相を変えた表情になり、横の金髪は少し意外そうに眼を瞬かせ頬に手を添え、弾は少し考え込む様に手を顎の下に持ってきながら、あたしに視線を向け続ける。

黒髪の表情を見て、あたしは挑発するような笑みを浮かべた。

はは、焦ってる焦ってる・・・その事に頭が回らないなんて、本当にオメデタイ女ねぇ?


「――― 何驚いてんのよ? 別に難しい事でも、それ程無茶な事を言ってないでしょあたしは? 十分『あたし達でも出来る範囲』を守っている命令だと思うんだけどなぁ。」
「・・・・っ!? い、いや・・・それは・・・そうだが・・・!」
「はぁ? まさかその覚悟も度胸も無く、あたしに賭けを持ちこんだっていう訳? 何それ? ふざけてんのアンタ。」
「・・・・・ぐぬっ・・・・!」


言葉に詰まる黒髪に、あたしは心底見下している表情を浮かべてやる。

そんなあたしの表情を見ても、黒髪が何か言い返そうとするも言い返せないでいるようで悔しそうに表情を歪める。

それを見て少し気分が良くなったあたしは、さらに追撃を行おうと口を開こうとした――― その時だった。


「――― あら、別によろしいじゃありませんの箒さん? その程度の事であれば、それ程思い悩む必要なんてありませんもの。」
「――― な・・・!? セ、セシリア・・・?」


不意に、黒髪の横にいた金髪が微笑みながらそう呟いた。

突然の言葉に、黒髪は驚いたように金髪に目をむけるけど、その視線に金髪は余裕を持った眼差しを向け。そして黒髪の体を支えるかのようにその両肩に手を添えると、優しく微笑んでみせたのだった。

その微笑みに、黒髪は少し戸惑った感じだったけど――― その体からゆっくりと強張りが抜けていくのが傍目からでも明らかに分かった。

そして次に、金髪はあたしに視線を向けて―――― あたしは息を呑む。

睨んでもいる訳でもなく、敵意を含んでいる訳でもない視線だというのに、

――― 力強い光を持つ視線に不覚にも気押されてしまったからだ。

慌ててあたしも、すぐに負けじとグッと眼に力を込めるけど・・・そんなあたしの視線を受けても、金髪は微笑んで見せた。

な、何なのよ・・・!? 一体何だってのよこいつ!? 以前とは別人じゃないの!?

そんなあたしの心情を知ってか知らずか、金髪が口を開く。


「『一夏さんの部屋から出て行け』ですか・・・。凰さんは随分と小さな事を御望みになるのですね?」
「ち、小さい!? ど、どういう事よ! ―― っあ、分かった! アンタにしたってあたしのこの命令は自分にも都合が良いからそう言ってんでしょ? わざと挑発して、あたしこの命令を実行させようって魂胆? はっ! 意地汚い奴ね。 素直にそう言えば良いじゃないっ!」
「いえ全然? むしろこの際、何方が一夏さんと同室になっても構いませんわ。」
「な、何ですって・・・!?」
「セ、セシリア・・・一体どういう事だ?」
「箒さんも、そんなに思い悩む必要はありませんわ。ほんの少し我慢をするだけでいいのですから。」
「が、我慢・・・? 何を我慢するというのだ?」
「それは勿論『別の部屋に移る日が少しだけ早まる事』を、ですわ。」
「「「・・・・は?」」」
「おおう。成程そう言う事か・・・セシリーちゃんクールだねー。」
「・・・・あ・・・・・そ、そっかー・・・・・。」


金髪の言葉に、あたしと黒髪、ついでに一夏も揃って首を傾げるけど、弾は納得のいったような声を上げる。本音は・・・・なんだか寂しそう? ど、どうしたってのよ。

部屋から移るのが少しだけ早まる事を我慢する・・・ですって?

困惑するあたし達に向かって、金髪は視線を向けると、再び口を開いて話を続けた。


「一夏さんお忘れですか? 一夏さんも弾さんも、『別の部屋の準備できるまでの間だけ』という条件で、箒さんや布仏さんと同室になっている事を。」
「――― はっ!? そ、そうだった・・・わ、私とした事が忘れていた・・・。」 
「あ・・・そういや最初にそんな事言われたな。」
「――― はぁ!? な、何よそれ!? あたし聞いてないんだけど!?」
「ついでに言うと、部屋は一カ月位で準備できるって言ってたぜマヤたんは。」
「な、なんですって・・・!?」
「ええ、つまりはそう言う事ですわ。今の部屋割りが行われたのが先月の始め頃ですから・・・そろそろ一カ月が経ちますわね。」
「う、嘘っ!?」
「いやホント。あー・・・のほほんちゃんと一緒に過ごせんのも後少しかぁ・・・寂しくなるな。」
「うー・・・。」
「今はクラス対抗戦の事もありますし、もし部屋を移るとしたらその後になると思いますわ。その事を踏まえると・・・凰さんが箒さんに提示した内容は、とても小さい事だと思うのですが? もし凰さんが賭けに勝ったとしても、その内容が有効になるのはクラス対抗戦の後ですもの。数日か一日か・・・もしくは数時間か・・・恐らくそれ程長くは無いと思われます。凰さんがそれでも構わないなら、箒さんも特に悩む必要がないと思うのですが・・・どうでしょう?」
「う・・うぎぎ・・・!?」
「た・・・確かにそうだな。・・・というより寧ろこっちがそれで良いのかと聞きたくなる内容になってしまうな・・・?」
「さらに言えば、その後は先生方の介入がありますから。これ以上は『私達の出来る範囲』の事ではなくなりますので、どうしようもありません。それでもよろしいのですか? 凰さん。」
「く、くぬぅぅぅ~~~~~~っ!?」
「りんりんー。どーどー♪」


本音がまたあたしの頭を撫でるけど、今度はそれでもあたしは落ち着けるようになかった。

は、腹立つ・・・! 至極もっともな事を指摘された事もそうだけど、それ以上にあの金髪の諭すようなあの態度が心底腹立つ・・・!!

そんなあたしの様子に、弾はニヤニヤした表情を向ける。


「――― で? どうすんだ鈴。それで良いのか?」
「い、いい訳ないでしょうが! な、なし! 今のはなしよ!」
「ええ、それがよろしいと思いますわ。」
「う、うっさい! アンタは黙ってなさいよ金髪っ!」
「あら・・・ふふっ、余計な事でしたわね。申し訳ありません。」
「ぐぎぎぎ・・・!!」
「・・・・余裕だなセシリア。」
「・・・・むぅ。」
「へい! そこの言い負かされて膨れっ面のチャイナッ娘。」
「ま、負けてないわよっ!」
「へいへい。まぁとにかくだ、ちょいと密談があるから耳を貸せ。」
「は・・・? な、何よ密談って・・。」
「いいからいいから、ちょっとこっち来い。一夏、悪いけど席外すがいいかね?」
「へ・・・? あ、ああ。」


そう一夏に言葉を投げかけた弾。

そまま席から立ち上がり、あたしに手招きをして教室の隅まで移動する。・・・一体なんだってのよ?

多少訝しみながらも、あたしは渋々といった感じで教室の隅まで移動すると。弾と一緒にしゃがみ込んでボソボソと会話する。


(・・・一体何よ? 一夏達には聞かれたくない事なの?)
(んー・・・・実はだな鈴。)
(何?)
(最近俺どうかしてるみたいでな?)
(んなのしょっちゅうでしょうがっ!?)
(だろうな。まぁそれはいいとして、実は今回お前にこの賭けを持ち込んだのには深い理由があんだよねー。)
(・・・はぁ? 理由って何よ?)
(・・・お前。一夏と仲直りする切っ掛けを掴めてないだろ。)
(――― ぐっ! ・・・・そ、それは・・!)
(やっぱり。・・・まぁ俺も最近忙しかったから、偉そうなこと言えんが・・・いつまでもこのまんまってのは不味い事に鈴も気付いてんだろ? いい加減、何か行動を起こさんと、このままズルズルと引き摺る事んなるぜ?)
(う・・・うぅ・・・そ、それはそうなんだけど・・・どうして良いのかわかんないのよぅ・・・・。)
(―――― で、だ。そんなお前等親友の為に、俺が考え出した策ってのが今回の賭けって訳なんだよ。驚いた?)
(ど、どういう事っ!?)
(どうもこうもない。今回の賭けの本当の狙いは、お前等の仲違いを修復するのが目的って事だ。だからお前にこの賭けに乗ってもらわねぇと困るんだよ。)
(ホ、ホント!? それ本当なの!!)


驚きすぎて、思わず念を押すように弾に聞き返してしまったあたしに。弾はゆっくりと頷く。その顔は相変わらずヘラっとしているが、その瞳に冗談は一切見られなかった。

パァっと笑顔になった私だったけど、次の瞬間には表情を引き締めもう少しだけ弾に近づく。


(く、詳しく聞かせて・・・!)
(この案を用いた理由は一つ・・・お前等二人添って、結構頑固な所があるからなぁ。下手に小細工すると返って反発し合って逆効果になりかねん。だからこそこの賭けを用いた作戦は有効なんだ。)
(ど、どういう事?)
(だって分かりやすいだろ? ぐだぐだ口で言い合うより思いっきりぶつかった方がお前等の性に合ってる。負けたら相手の言う通りにする。シンプルかつ明快だ。)
(んー・・・た、確かに。)
(此処だけの話、一夏の奴もし賭けに勝ったら・・・お前に謝罪を受け取らせる気だ。)
(・・・・へっ!? な、何それ!?)
(一夏の奴・・・あの日以来、真剣にお前との約束を思い出そうとあいつなりに頑張ったらしいんだが・・・結局駄目みたいでさ? これじゃあ何時まで経っても、お前と仲直りできないって悩んでるんだよ。)
(・・・そ、そう・・・なんだ。)
(約束は思い出せない。けどお前とは仲直りしたい・・・そこで今回の賭けだ。賭けに勝って、お前に謝罪を受け取らせる事。『約束の内容はまだ思い出せてない。けど、お前にはちゃんと謝りたい。だから俺に謝らせてくれっ!』てな? もちろん、お前に謝罪を受け取らせた後も、約束の事は放置せず必ず思い出す事も誓う筈だ。・・・つまり、あいつは今現在の鈴との関係を修復したいだけなんだよ。だからこそこの賭けに乗ったんだ。)
(・・・ば、馬鹿じゃないの・・・あいつ・・・。)
(おう馬鹿だ。けど馬鹿なりに・・・ちゃんとお前の事考えてるんだよ。言ったろ?『一夏の心の深い部分に、鈴はちゃんと存在してる』って。)
(・・・・・うん。)


弾の言葉が、じんわりと心に沁みて・・・あたしは胸の内が温かくなっていく。顔の表情が緩んでいくのも分かったけど、それすらも気にならないぐらいあたしは喜びに震えていた。

あの馬鹿・・・・本当に・・・何処までも馬鹿正直に真っ直ぐなんだから。

一夏の気持ちが嬉しくて、弾のあたし達を想っての行動がくすぐったくて・・・・その幸せを噛みしめるように、ギュッと胸に手を押しつけた。

そんなあたしの仕草に苦笑を浮かべて眺めていた弾が、再びあたしに向かって口を開く。


(つー訳で鈴。この賭けに乗ってくれないかね?)
(・・・ふ、ふん! しょうがないわね。の、乗ってあげるわよ!)
(やーん♪ 照れちゃってきゃーわイイー♪)
(う、うっさい馬鹿! ・・・で? あたしはどうしたらいいの? クラス対抗戦で一夏に勝ちを譲れっての? 流石にクラス代表として・・・というか代表候補生としてそれはちょっと不味いんだけど。)
(アホか。んな事したら全部台無しじゃい。むしろ全力で迎え討て、というか勝っても構わん。)
(へっ?)
(あのな、一夏は今日までの間お前に勝つ為に特訓をしまくってるんだぞ? 体力作りから、接近戦での立ちまわり、そしてお前のIS対策も練りに練ってる。お前の過去の戦闘データも掻き集めるなんて慣れない事をしてでもな。)
(い、一夏が!?)
(だからお前が少しでも手を抜いたりしたら、速攻で一夏にバレるぞ? そしたら不完全燃焼な試合になって色々とオジャンだ。)
(そ、そっか・・・でも本当に勝ちに行っちゃっていいの?)
(勿論だ。お前が賭けに勝っても、関係修復はちゃんとできんだから安心しろ。)
(・・・・・へ? ど、どうやって?)
(んなもん簡単だ。お前が勝ったら一夏に『次の休日、一日あたしに付き合いなさい! もちろんお金は全部あんた持ちだからね!』って言えば良いんだよ。)
(・・・・・はへ?)
(つまり、丸一日一夏とラブラブデートに行けって事。金は全部一夏持ちで。一日中一夏を振り回してやれ。それで万事全て上手くいく)
(デ、デデデッデートっ!? あ、あああたしと一夏がっ!?)
(おーそうだ。ショッピングにカラオケにレストランで食事と思いつく限りの事を、一日中一夏に求めろよ。時に小悪魔に、時に子猫のように。わがままに甘えまくっちまえ!)
(あ、甘えろって! な、なななにゃにを言ってんのよ!?)
(そんでもって散々一夏を振り回した後に、デートの締めくくりにこう言えば良い『今日は楽しかった。仕方ないからこの位で勘弁してあげるわよ。』ってな。)
(・・・・へ?)
(つまり、そのデートの一件で一夏を許してやるって言えば良いんだよ。そうすりゃ一夏も、まぁ色々と思う事もあるだろうが納得するだろ。)
(・・・・・・・・・。)
(んで、肝心の約束内容に関しては。最後の最後に『それはあんたの宿題よ。ちゃーんと思い出しなさいよね!』って可愛らしさ全面に押し出して言ってやれば、一夏も約束の事をしっかりと意識するだろし、かつ鈴とも仲直りができた上にいい思い出の一ページとし一夏の心に刻み込まれることだろう。もしかしらそれ以上にお前を意識し始める可能性もなくはないな。)
(・・・・・・・・・。)
(一夏とごく自然な流れでデート出来る上に、仲直りも出来て、かつ約束の事も忘れさせない。・・・・・むしろ一夏との賭けに勝った方がお前のメリットはめちゃデカイと思うんだが? 無論、デート中は邪魔が入らないように俺が全力でバックアップする。)
(・・・・・・・・・弾。)
(ん?)
(あんた天才よ。)
(ふっ・・・・それ程でもねぇよ【キラン!】)
(―――――― 全力で一夏を叩きつぶしてやるわっ!!)
(おう! その意気だ!)


右手をきつく握りしめ、思わず立ちあがったあたしは、猛然と心に誓った。

ふ、ふふ、ふふふふふふっ! 勝つわ! 来週のクラス対抗戦! 何が何でも一夏に勝ってやるわっ!

あたしへの対策を練っているようだけど・・・ふふ! 甘い! 甘いわよ一夏っ! 過去の戦闘データなんて見ても無駄よ! あたしは常に成長するんだからっ! 

悪いけど来週のクラス対抗戦・・・もといあんたとの賭けはあたしが勝たせてもらうっ!

そして・・・そして・・・! い、一夏と・・・・! デ、デートに・・・・!! ふ、ふふふふふ・・・!!


―――― 滾ってきたあああああああああああああああああああああっ!!


闘志に燃え上げる乙女心を滾らせ。あたしはクラス対抗戦への意気込みを最大限に引き上げる。

色々と燃え上がっているあたしだったけど、しばらくしてすぐ、あたしに向かってなんだか生温かい視線を向けていた弾と一緒に一夏達の元へと戻って行った。

戻ってきたあたし達に、一夏が言葉を投げかける。


「ん、終わったのか? 一体何を悪だくみしてたんだ。」
「おう、どんな命令がお前にとって一番苦痛なのかを話し合ってきた!」
「本当に悪だくみだったのかよ!? 何話しあってんだお前等!」
「一番有力なのは、一夏に千冬さんの部屋で下着を物色させて、千冬さんに『千冬姉!  家から予備の下着持って来たよ!』と、職員室に飛び込ませるって案なんだが・・・。」
「待て、本気で待て。それ洒落になってねぇ・・・!!(顔面蒼白)」
「――― ふふん♪ 一夏っ! あたしに賭けを持ち掛けるなんていい度胸してるじゃない? いいわよ。受けて立つわっ!! 後悔するんじゃないわよっ!!」
「俺は今物凄く後悔してるんだが!? 弾の話は嘘だよなっ!? なぁっ!?」
「さて、鈴が承諾してくれた事だし。これで決まりだな! 来週のクラス対抗戦、負けた方が何でも言う事を聞く事! 異論は無いな!?」
「ふふん♪ 覚悟しなさいよ一夏っ!」
「ヤバい・・・クラス対抗戦絶対に負けられなくなった・・・! 絶対に負けねぇぞ鈴! そっちこそ覚悟しとけよ!」

「・・・・賭けの対象に私達も入っているのを忘れてないか?」
「うふふ。どうやら鈴さんの眼に、私達の姿は既に入っていないようですわね。」
「おー。二人共燃えてるねー。」


本音達が何か喋っていたようだけど。弾を挟んで正面から睨みあうあたしと一夏には聞こえておらず。お互いに闘争心を剥きだしにして相対する。

勝っても負けても、仲直りは出来るけど――― あたしに負ける気なんかこれっぽちも無い! 絶対に・・・ぜーったいに一夏に勝って! デ、デートに行くんだからっ!!



恋する乙女心を熱く燃やし、あたしは来週のクラス対抗戦に向けて全力で取り組む事を決意したのだった。




―――― そこに色々な思惑があった事に、まだ気付かないままで。





【 弾と愉快な仲間達 SIDE 】


『・・・・なんか妙な呼称で呼ばれた気がすんな?』
『おりむーどうかしたのー?』
『ああいや、なんでもない。・・・それよりも弾、上手くいったか?』
『おう、勿論だ。・・・来週のクラス対抗戦、鈴は本気でお前に向かってくるぜ? 気合い入れろよ一夏。後はお前にかかってるんだからな?』
『ああ分かってる。・・・箒にセシリア、これからも俺の特訓に付き合ってくれるか? クラス対抗戦まで時間は無駄に出来ない。』
『うむ、分かった。アリーナが使用できない場合は、剣道場で私が鍛えてやる。まだまだ太刀筋が甘いからな。』
『アリーナが使える時は、私がISでお相手致します。一夏さんも大分ISに慣れてきたご様子ですが・・・射撃武器に対しての間合いの詰め方が少し強引すぎる節がありますから、まずはそこを課題として取り組みましょう。』
『ああ。ありがとう二人共、助かるよ。』
『『一夏が鈴に勝つために、この二人に特訓をお願いしている。』・・・これで一夏の傍に箒ちゃんとセシリーちゃんがいても、鈴が不快に思わない納得のいく理由ができたな。・・・やれやれ、最近色々とナイーブなチャイナっ娘には気を使う事が多くて困るぜー。』
『・・・仕方ありんませんわ。私も箒さんも、凰さんに快く思われておりませんから・・・』
『・・・その通りだな。』
『大丈夫だよー。二人ともちゃんとりんりんとお話すれば、きっとすぐに仲良くなれるよー。』
『・・・そうだといいのだがな。』
『なーに大丈夫だって、鈴の奴だって【ピリr―――ピッ!】へいお待ち! いつでも何処でも淑女の為にワンコール対応! 五反田 弾です!』
『・・・・なんで電話の相手が女子って分かるんだ?』
『気にした所で意味は無いぞ一夏・・・。』
『――― おおう! 虚さんじゃないですか! どうしたんですかね一体? ・・・・・・・ふむ。ほほー・・・・・・』
『電話はお姉ちゃんからみたいー。』
『お姉ちゃんて・・・え!? のほほんさんのお姉さん!? お姉さんいたのかのほほんさん。』
『いるのだよこれがー。えへへ驚いた~?』
『――――・・・・・了解っす。どうもありがとございました。そんじゃまた後で・・・【ピッ】』
『だんだんー? お姉ちゃんは何てー?』
『んー・・・・・手札の一つが手に入りそうって連絡よ? ちょっとこれから会って来るわ虚さんに。』
『なっ!? それ本当かよ弾!? というかお前他の人にも協力を頼んでたのか?』
『まぁ時間も無いしな、しょうがないさ・・・・あー、それからセシリーちゃん。ちなみにそっちはどんな感じかね?』
『そうですわね・・・・集まるにはもう少々時間が必要だと思います。何分、調べ上げる事が多いので・・・ですが、必ず間に合わせますわ。ご安心ください。』
『ん、ありがとねセシリーちゃん。・・・・悪いね、こんなことまで頼んで?』
『構いませんわ。どうかお気になさらないでください。』
『だんだん~、私も一緒に行っていいー?』
『勿論だ! そんじゃここいらで別行動といくかね?』
『だな。剣道場に行こうぜ箒。』
『うむ、分かった。では行くとしよう。』
『私は・・・部屋でチェルシーに連絡を入れてみますわ。経過を確認したいので。』
『あんまり無茶やって、当日に動けなくなるなんて事になんなよ一夏?』
『分かってるよ。お前こそあんまり派手な事しでかすなよな!』
『箒ちゃんも、一夏をよろしくね?』
『大丈夫だ。私がしっかりと見ておく。心配は無用だ。』
『セシリーちゃんもチェリー・・・じゃなかった。チェルシーさんによろしく言っといてね!?』
『・・・・ですからそのチェリーって何ですの? というかチェルシーが電話で『ま、まさかその声は・・・バロン!? バロンなのっ!?』って叫んでましたけど、一体どういった関係ですのっ!?』
『『・・・また変な名称がでた。』』
『・・・・色々あったのさ(遠い目)。――― そんじゃ行くぜのほほんちゃん! 背中へカモン!』
『ぱいるだーおーん♪(ガバっ)』
『ほんじゃねー?』


シュタタタタタタタタ――――――――――――ッ!!(風になる)


『あっ・・・! はぁ・・・本当に謎な人ですわね。』
『まぁ今に始まった事じゃないだろう? ・・・それじゃセシリア、俺達も行くよ。』
『そうですわね・・・はい。どうかくれぐれもお体には気を付けてください。一夏さん。』
『・・・・セシリア、お前は来ないのか?』
『ええ、私もしなければならない事がありますので・・・一夏さんをお願いしますわ。箒さん。』
『そ、そうか・・・承知した。』
『それじゃあなセシリア。』
『はい。・・・・一夏さん?』
『ん? どうかしたのか?』
『・・・・ふふっ。貴方が一刻も早く、立派なナイトになる事を楽しみにしていますわ♪』
『へ・・・? な、何だよ急に。』
『何でもありませんわ。・・・・では。』


コッコッコッ・・・・・・・・・・。


『・・・・・・・何なんだよ一体?』
『――― むぅ・・・セシリアめ・・・。』
『ん? どかしたのか箒?』
『――― ええい何でもない! さっさと移動するぞ一夏! 早くしろ!』
『な、何だよ急に? 言われなくても行くって。』







様々な思いを乗せ―――――――――。


クラス対抗戦の日はやって来る―――――――――。













【 おまけ 】


「・・・・・・・・なぁ。」
【・・・・・・・。】
「・・・・いい加減に機嫌直してくれよ相棒~」
【・・・・・・・。】
「ごたんだごーごりっぷくだねー?」
「しょうがないだろ~~~! 『六代目』の魂を感じ取っちまったのは事実なんだからさー!」
【・・・・・・・そんなにあっちが良いなら、あっちに行けばいいじゃん・・・・。】
「ようやく口をきいたかと思ったらこれだよ・・・。あーもー悪かったってー。」
「ごたんだごー、許してあげよー? ねー?」
【・・・・のほほん嬢】
「ん? なにー?」
【・・・・昨日の夜。相棒が寝言で『ぬふふふ・・・虚さーん♪』って言ってましたよ。】
「何? 俺そんな事寝言で言ったのか? そんな素敵な夢を見た記憶はないんだがねー?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・う、うん? どったののほほんちゃん? め、眼がなんか怖いな~と思う今日この頃ですよ・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。】
「あれ!? なんだか俺メッチャ責められる!? 何だこの状況!?」







後書き

・・・・・超お久しぶりです。釜の鍋です・・・・・・。いやー・・・・その・・・更新遅くなりまくって申し訳ないですっ! 日付見て見たら一カ月もほったらかしでした・・・。言い訳は・・・はい特にないです。なんですかねー・・・パソコン向かっても書く気になれないというか気が乗らないというか・・・もしやこれが俗に言うスランプか!? まぁ、それは置いといて、さて次回。ようやくクラス対抗戦が始まります。弾が、一夏が、箒が、セシリアが、鈴が、生徒会に簪が大活躍しますっ! さーてどうなることやら。それではまた次の更新で・・・・・が、頑張ります。



[27655] 短編集一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706
Date: 2011/10/30 15:50
どうもこんにちは、釜の鍋です。

常日頃のみなさまへ感謝の気持ちと、作者自身の息抜き及びリハビリ目的で始めた『へいお待ち!五反田食堂です!』の短編集です。日常の中のほんの些細な出来事などにスポットを当てたストーリーになっていますので、ちょっとした寄り道程度のものとお考えください。

これからも少しづつ増やしていこうと思いますので、お楽しみいただけたら幸いです。


*   *   *



~ 短編その一 【 五反田号の秘密  】 ~


「・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・店長。またあの子ですよ。一体何してんでしょうか?」
「ああ・・・あの子か、良いから放っておきな。邪魔だけはすんじゃないぞ。」
「は? ・・・・はぁ、分かりました。」

「・・・・・・・・・・駄目か。次行くか。」



*   *   *



「・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・ママー? 弾お兄ちゃんゴミ捨て場で何してるのー?」
「しっ! いいからこっち来なさい! お兄ちゃんの集中の邪魔しちゃ駄目よ!」
「んー・・・はーい。」


「【キュピーン!!】――― あった・・・! ・・・こいつだっ!!」



*   *   *



「ふんふふーん♪(ガチャガチャ)」

「―――― おーい弾! どっか遊びに・・・って何やってんだ?」
「ん? 何だ一夏か。悪いけど今手が離せんから後にしてくれ。」
「手が離せないって・・・あー、成程・・・これ何代目だ?」
「五代目。いやーようやく俺とフィーリングが合うチェーンとホイールを見つけてな? 後はサドルを見つけりゃ完成だっ! 早く一緒に街を駆けまわりたいぜ! 次は隣町の自転車屋にでも探し行くかね?」
「・・・なんで自転車を買うんじゃなくて、一から創作なんて回りくどい事するんだよお前は。」
「馬鹿野郎。自分と相性の悪い部品だらけのモンなんざ乗れるか! 愛情込めて制作してこそ真の相棒だぞ。」
「・・・あーそー。物好きな奴。」


―――――――― あ・・・・に・・・・き・・・。


「・・・・・。」
「・・・・どうした?」
「・・・いやなんでも。・・・・『五代目五反田号』早く一緒に出前に行こうなっ!」





*   *   *




~ 短編その二 【 蘭のア・レ 】 ~


「―――― ないっ!? ないないないないっ!」

ドタバタガサゴソ!!

「どうして!? 何でないの!? 出かける前はちゃんとあったのに!! ・・・まさか!!」

ダンダンダンダンッ!



*   *   *


「だから音じゃなくて、口で呼びなさい。なんぞ用か我が妹よ?」
「――― お、お兄!? 私の部屋に勝手に入ったりしてないでしょうね!?」
「三日前は入ったが、今日はまだ入ってないぞ?」
「そ、そう。なら良い・・・・訳ないじゃない!? 勝手に入るなって言ってるでしょうが馬鹿兄っ!(ゴシャッ!)」
「べふぉっ!?」
「おう蘭、食堂で騒ぐんじゃねぇぞ。客がいんだから。」
「あ、ご、ゴメンなさい・・・・。」
「分かればいいんだよ。・・・で? 何を慌ててんだ?」
「爺ちゃん蘭に甘すぎじゃね? そんな爺ちゃんが超好きだ!! で? 一体どうした蘭? なんか問題発生か?」
「い、いや別に何でもないよ? お、お兄は気にしなくていいからっ!!」
「ふむ?」
「あ、あの・・・お爺ちゃん? 私に部屋に勝手に入ったりなんて事は・・・・。」
「可愛い孫娘が嫌がる事を、この俺がする訳ねぇだろう。」
「だ、だよね。・・・・そ、それじゃ・・・。」

タンタン・・・。

「あら? 一体どうしたのみんな揃って。」
「俺は気にしなくていい事態発生らしいようはははははー妹に除け者にされたよ母さん慰めてっ!!(ヒシッ!)」
「あらあら、何時まで経っても弾は甘えん坊さんねぇ。(ポンポン)」
「子供だからね?」
「お、お母さん! お母さん私の部屋に入ったり・・・。」
「蘭の? さっきお掃除する為に入ったけど。あっそうそう、蘭のベットの上に置いてあった―――」
「わぁ―――――――――っ!?  わーっわ―――――――っ!?」

『あー? 何だよ煩ぇな、静かに飯も食え・・・』

「「・・・・・・・あ゛ん? 家の可愛い(妹 / 孫娘)の声が煩ぇだぁ・・・・?」」

『・・・てめぇ何処のもんだ? あぁん?』
『蘭ちゃんの可愛い美声が煩ぇとは、てめぇ何処のモグリだコラ?』
『五反田食堂の常連である俺らを前に、いい度胸してんなぁ?』

『・・・・・・・・・・・・・・い、いえ・・・・何でもないっす・・・はい。』

「お、おおおお母さん! そ、そそそそれは今何処に・・・!?」
「クスクス♪ 解れてたから、お母さんが直しておいたわよ。今はお母さんの部屋に・・・」
「―――――――――(シュバッ!!)」
「あああああああああああああああああっ!? ば、馬鹿兄!? コラ待て――――――――――――――――っ!(ダダダダダっ!)」
「ったく騒々しい孫達だ。」
「うふふふ♪」



*   *   *



「(シュタッ!)到着! ふふふ! 此処に蘭の秘密が・・・いざっ! オープ―――・・・!!」
「―――― み、見たら泣くよっ!? 泣くもんっ!! ほ、本気で泣ぐがら゛っ!! じぇっじぇっだいに゛ゆるじゃな゛っ・・・・!!」
「―――― ま、待て蘭! 落ちつくんだ、早まった真似をするんじゃないっ!? 深呼吸して冷静になって話をしよう・・・!! な、何が望みだ? 要求は何だっ!?(汗水ダラダラ)」



*   *   *



【 夜 】

「・・・・・はぁぁ~~~あ、焦ったぁ・・・・う~・・・さ、裁縫セット・・・これからは、ちゃんと用意しとかないと」

ぽふぽふ・・・・。

「・・・・流石お母さん。綺麗に直してある・・・うー、それにしてもあの馬鹿兄っ! 人の知られたくない事に普通に首突っ込もうとするんだから・・・こ、これだけは絶対にお兄に知られたくないもん・・・!」

むぎゅ・・・・。

「・・・・う~~~・・・・こ、この年になっても・・・これがなきゃ・・・安心して寝られないなんて・・・・ち、違うもん。私は・・・ブラコンじゃないもん~~~・・・!!」

むぎゅ~~~~~~~~・・・・。





私の腕の中には【弾特製 それ行け弾人形】。




幼稚園の頃に、寂しがる私にお兄が作ってプレゼントしてくれた。




ヘンテコで、間抜けな作りをしてるけど・・・・どうしても手離せない――――――― 私の小さな大きい宝物。





*   *   *



~ 短編 その三【 御手洗 数馬 幸運な日常 】 ~



「・・・・あ~~~~暇だ・・・。何か面白いこと無いかな~~~・・・・こういう時、彼女のいない独り身の寂しさが身に沁みるぜ。」

ゴクゴク・・・・ポイ。・・・・ガチャン。(ゴミ箱へホールインワン)

「ナイッシュー。・・・・はぁ、一夏も弾も、IS学園に行っちまったからな~・・・っていうか俺の男友達二人が、IS起動できるなんて何処のマンガだよ。あー・・・畜生羨まし~~~~! 今頃女の子に囲まれて楽しい思いしてんだろうな~~~。・・・あいつら何気に女子にモテるからな・・・一夏は言わずもながら・・・弾は、一部の娘に人気あったし・・・なんだこの疎外感!? 俺にも何かあっていいだろう!? 理不尽だーっ!」

「・・・ママー、あのお兄ちゃんどうしたのー?」
「しっ・・・! そっとして置きなさい。色々と辛い事があるのよ・・・・。」
「んー・・・・はーい、」


・・・・・・・・・・。


「・・・・・・・・・帰って寝よ・・・・・あれ、おかしいなははは・・・何か視界が滲むなぁ・・・・。」

「・・・あれ? そこいるのって御手洗君じゃん。何してんの?」
「あ、本当だ。おーい御手洗ー。」
「え・・・あ、み、御手洗君?」

「んー?・・・・・って、中入江さんに灯下さん? それから人里さんも。奇遇だね。三人ともこれからどっか遊びに行くの?」
「んーまぁね。ちょっと買い物に。御手洗君は何してんの? こんな所で一人で。」
「寂しい奴よの~。」
「う、うるさいな。一夏も弾もIS学園に行っちまって、遊びに誘う奴がいないんだよ。他の奴は・・・・大抵彼女いるし・・・はは、言ってて空しくなってきた畜生!」
「そうなの?」
「そうなの。もう今日は帰って休日をダラダラ過ごす事にするよ・・・あー・・・空しい。」
「そうなんだ・・・・文、枝理? ちょっといい?」
「ん? どうしたの花梨?」
「なになに?」

ボソボソ・・・・・

「ん・・・・? 何してんだろ・・・・?」

で・・・・から・・・・よ。

ん・・・・った・・・・別に・・・。

わた・・・それで・・・・・・だね。

「???」

「――― よし決まり! おーい御手洗くーん。」
「んー? どうかしたの中入江さん?」
「そんなに暇ならさー? あたし達の買い物付き合わない?」
「―――― What?」
「だからー、暇なら一緒に街に買い物に行こうって言ってんの。」
「――― マ、マジで!? いいのっ!?」
「ぬっふっふ。といっても荷物持ちという仕事が付いて来るけど、それでもいいのかにゃー?」
「も、勿論だ灯下さんっ! 女の子達と一緒に遊びに行けるなら荷物持ちでも何でも喜んでするよっ! 本当に一緒に行っていいの!?」
「うん。御手洗君が良ければ、私達は構わないよ。ね、文、枝理?」
「うんうん。それに御手洗君と一緒なのはこれが初めてじゃないしねー。」
「そだね。中学の頃もこんな感じだったし? 今更今更♪」
「―――って二人も言ってる事だし。遠慮しないで良いよ? 私も・・・その、御手洗君が一緒なのは・・・う、嬉しい・・・かな。」
「ひ、人里さん・・・! ――――― いぃやったああああああああっ!! 神様は俺を見捨ててなんていなかったんだ!! サンキュー神様! 世の中捨てたもんじゃないぜー!!」
「うはーさっきまで落ち込んでたくせに、現金な奴ー♪」
「ねー、それよりも私お腹すいちゃったー! まずは何処かでお昼にしようよ。腹が減っては良い買い物は出来ぬだよ?」
「うん、そうだね。それじゃあ何処かでお昼にしてからにしようか。」
「さんせー! ってことで、おーい御手洗くーん。いつまでも喜んでないでこっち来なよー! 置いてっちゃうぞー!」
「空腹じゃぁ荷物持ちはきっついよ?」
「御手洗君。二人も待ってるから・・・行こう?」
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ三人とも!? 今行くってーっ!!」


タッタッタッタッタ・・・・!!



*   *   *



「―――― ん? なんか数馬に幸運が舞い降りた気配が。」
「カズマって誰ー?」
「ふむ、俺が認めた数少ない野郎の一人でな? 俺と一夏の親友で、御手洗 数馬っていうジェントルマンだ。これが中々気さくな奴でいい奴だぞ? 俺、一夏、数馬。三人合わせて『三友士』と呼ばれていた位だ。」
「おー。だんだんが男の子を誉めるなんて珍しーねー?」
「あいつは他と違って、色眼鏡なしで一夏と鈴に接してたからなー。あの裏表のない性格はあいつの美点だ。中学時代は良く一緒に馬鹿やったなー。」
「ふーん。」
「けどまぁ、中学時代仲良しメンバー勢ぞろいで遊びに行く時は、俺と一夏と鈴で行動する事が多かったんだがね?」
「えー? なんでー? 親友じゃないのー? むー、仲間外れは駄目だぞだんだん~!」
「いやそうじゃなくてね? 他にも中学時代仲良しメンバーには、鈴の他に人里ちゃん、中入江ちゃん、灯下ちゃんっていう三人娘がいるんだが・・・。」
「んー?」



「・・・この三人娘。どうやら全員数馬に気があるようでね?」
「・・・・・おー♪」



「俺としては三人娘の応援もしたいし、親友の恋愛事情を見守ってやりたいしねー。まぁそんな訳で、よくこの四人で行動させようと目論んだ訳ですよ。・・・しっかし数馬の奴、中学時代仲良しメンバーの中じゃ、一番モテてるくせに。本人全然気付いてねぇんだよなぁ・・・彼女出来ねーとかどの口がほざいてんだか・・・三人娘の女の子達、中学校美少女ランキングベスト5に入ってる娘ばっかだぞあのドアホ。モゲロ!」
「だんだんも大変だね~」
「というか中学時代メンバーの中じゃ俺だけ寂しいじゃねぇかよ・・・結構きついもんですよこれって?」
「・・・ん~・・・・・・私は全然良いと思うけどな~・・・・」
「ん? 独り身の何が良いのよ?」
「な、なんでもないよー?」
「ふむ・・・? まぁ、そんな訳で。中学時代仲良しメンバーで行動する時は、数馬と三人娘の四人にさせる事が多かったって事よん。理解できたかな?」
「できた~♪」
「はてさて・・・・数馬は一体誰とくっ付くのかね~?」
「楽しみだね~」
「・・・・・・・・・・いやむしろ不安だ。」
「なんでー?」



「・・・・・一夏よりも先に・・・・先にハーレム作るかもしれん。あいつの場合。」
「・・・・・・・・・お、おー。」




*   *   *



「―― ま、待ってくれよ!? 人里さん! 中入江さんっ! 灯下さん!? いくら何でも荷物多すぎないっ!?」
「あっはっは! ほら早くー御手洗君!」
「走れ走れー、女の子の買い物を甘く見た御手洗の失敗じゃー。」
「ふ、二人とも・・・御手洗君。よければ少し手伝うよ?」
「――― い、いや大丈夫! な、なんのこれしき・・・!」
「じゃこれも♪(ドサ)」
「ほいさっ♪(ドス)」
「あ! こら文! 枝理!」
「ふむおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」






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