著者:竹内 洋
販売元:中央公論新社
★★★☆☆
日本の政治を今のようなひどい状態にした主犯はもちろん自民党だが、それに劣らず罪深いのは、戦後60年以上も実質的に政権交代を実現できなかった「革新陣営」である。この一つの原因は本書も指摘するように、丸山眞男が「悔恨共同体」と名づけた知識人の自責の念だろう。
戦争がおかしいと思いながらも止めることができなかったという悔恨が、戦後の知識人の出発点だった。それは戦前から一貫して戦争に反対し続けた共産党への尊敬の念となり、講座派の「日本は天皇制という封建遺制を残す絶対主義だ」という32年テーゼが、丸山や大塚久雄などの「近代主義者」にも強い影響を与えた。
60年代までの日本の知識人は、マルクス主義の圧倒的な影響下にあった。当時も大部分の学生はマルクスなんか読んでいなかったが、左翼は「かっこいい」風俗であり、「インテリ」の印だったのだ。それは世界的にみても珍しい現象ではなく、欧州ではいまだに社会主義の影響が強い。日本に特異なのは「論壇」が左翼の独占状態になり、自由主義を擁護する論客がほとんど育たなかったことだ。
しかも奇妙なことに、暴力革命をとなえる共産党や社会主義協会が「平和憲法」を擁護する立場に立ち、これに異を唱えたのは、福田恆存や三島由紀夫などの文学者だけだった。「武力なしで平和は守れない」とか「すべての悪を資本主義のせいにするのはおかしい」など、いま読めば常識的な福田の議論は、「論壇時評」では保守反動と酷評された。
このような「左翼的気分」は、いまだに日本の知識人の主流だ。原発事故は、そういう「隠れ左翼」をあぶり出した点では興味深い。「政府と大資本が結託して『原子力村』が利権をむさぼっている」という図式も、それに対して「原発をすべて廃止しろ」とか「自然エネルギー」とかいう空想的な対案しかないのも、60年代の「非武装中立」からまったく進歩していない。
日本の左翼は、論壇では主流でも、現実の政治には何の影響も与えなかった「負け組」であり、反原発派はその最後の末裔である。しかし右翼がそれをしのぐ思想をもっているわけでもない。マルクス主義があまりにも長く日本の知識人を毒してきたため、まともな社会科学が育っていないのだ。この毒が抜けるには、団塊の世代が退場するのを待つしかないだろう。
本書は『世界』や『中央公論』などの論壇誌の評論から戦後の「革新幻想」の歴史をたどったものだが、論壇のゴシップのような話が多く、論旨が深まっていない。
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