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二子玉川ライズ問題
世田谷区政
世田谷区が実施計画・行政経営改革計画にパブコメ募集
世田谷区は21日、「世田谷区実施計画」及び「世田谷区行政経営改革計画」の素案に対する、区民意見提出手続き(パブリックコメント、パブコメ)の募集を開始した。パブコメは政策決定への住民参加の手法として定着しているが、区政全般に渡る計画に対する募集は珍しい。
実施計画は世田谷区が平成24-25年度に実施する計画、行政経営改革計画は財政状況を踏まえ、必要とされる施策に財源や人員を集中していくための予算削減の計画になる。パブコメは特定のイシューを対象とすることが基本である。たとえば世田谷区では「第3期世田谷区障害福祉計画」「都市計画法の規定に基づく開発行為の許可等に関する条例」「一般廃棄物処理基本計画」などの素案に対するパブコメが実施されている。
区政全般に渡るパブコメは「住民参加」を掲げて当選した保坂展人区長のカラーを示すものとして注目される。一方で、あまりに広汎な内容へのパブコメ実施には不安もある。世田谷区は2010年1月に「街づくり条例改正の考え方」へのパブコメを実施したが、素案にすらなっていない抽象的な「考え方」へのパブコメで済ませたことが批判された(林田力「街づくり条例について考え、語る会開催=東京・世田谷(上)」PJニュース2010年9月13日)。
http://www.pjnews.net/news/794/20100912_16
素案の内容にも議論が生じる。保坂区長は「大型開発の見直し」を掲げて当選したが、実施計画素案0701番「街のにぎわいの核づくり」では、「人が憩い集う、にぎわいと魅力ある街づくりのため、都市基盤整備と核となる都市空間の創出により、拠点整備を推進する。」と述べ、二子玉川東地区再開発への支援や下北沢の道路整備に取り組むとする。
この拠点整備は1003番「都市景観の形成」の「区民等と協働して世田谷らしい風景を創出」「良好な景観形成を進めていく」や1004番「地区街づくりの推進」の「地区特性に応じた良好でやすらぎのあるまちづくりを推進」とも衝突するが、その調整は明記されていない。保坂区長の公約「大型開発の見直し」を支持した住民からは反対意見が予想されるが、どこまで真摯に区が応えるか注目される。
もともとパブコメ自体に「意見を募集するだけの形式的手続きで、結論は最初から決まっている」との不満がある。区政全般に渡る根本的な計画に区民の意見が反映されれば画期的である。住民参加の実を上げられるか、保坂区政の手腕が試されることになる。
パプコメは区民だけでなく、区内への在勤・在学者や区内に事務所や事業所を有する個人・法人・団体、素案に利害関係を有する個人・団体も可能である。募集期間は11月11日までで、提出方法は政策経営部政策企画課への持ち込み、郵送、ファックス、ウェブサイトからの投稿がある。提出された意見と区の考え方の公表は2012年2月頃、両計画の策定は3月を予定する。
保坂展人・世田谷区長と語る車座集会が等々力で開催
保坂展人・世田谷区長と語る車座集会が24日、世田谷区等々力の玉川区民会館で開催された。区長が区内各地で開催すると約束した車座集会の一つである。
車座集会は事前に応募した40人程度の住民と区長が話し合う集会である。区民の一度の発言時間は3分という制約があるものの、テーマは限定しない。意見や提案を一緒に考える場との位置づけである。
集会では東日本大震災を反映して、防災上の話題が集中した。東日本大震災での実体験から防災対策上の不備が指摘された。その一つが帰宅困難者の問題である。ある区民は「様々な防災訓練をしてきたが、帰宅困難者に対応した訓練はしてこなかった」と述べた。
これに対して、保坂区長は「帰宅困難者の問題は各地から寄せられている」とし、「休日の日中に大地震が起きたら、(大勢の買い物客などが集まる)二子玉川や下北沢では多数の帰宅困難者が発生する。現状では困ることになる」と現状の不備を認めた。「学校などの避難所に誘導するとしても、学校が路地を入った分かりにくい場所にあることもある。標識なども課題」とした。
また、保坂区長の公約「大型開発の見直し」の具体的適用として二子玉川再開発(街の名称:二子玉川ライズ)のビル風や東急大井町線の地下化の問題が話題になった。ビル風の問題は一向に解決していないことへの不満が表明された。
「二子玉川ライズのビル風は高層ビルの建設中から問題になっていたが、一向に解決していない。対策をやると言いながら引き延ばしている。土木部門だけでは解決できず、部門の垣根を越え、さらに行政と民間の垣根を越えて情報共有し、解決の知恵を絞るべき。4月に年配の女性がビル風にあおられて転倒し、骨折した。風害は二子玉川に、あれだけの高層ビルを建設したことに起因する問題である。東急は未だに見舞いに行っていない。赤い血が流れていない。」
これに対して、保坂区長は「風対策をスピーディーにすること」が課題であると認めた。また、「他所から訪れる人に比べると、現に居住している住民にとっての風害の深刻さは異なる」とした上で、「大場啓二区長時代から始まる再開発計画に対して、いかに住民の声を活かしていけるのか努力したい」とまとめた。
東急大井町線等々力駅の地下化については賛否両論が噴出した。等々力駅の地下化は等々力渓谷などの理由で強固な住民反対運動が起きている問題である。賛成派は踏切の危険性から地下化の推進を求めた。これに対して反対派は、そもそも東急電鉄の進める地下化は急行追い抜きの待避線が目的であり、踏切の解消にならないと反論した。
さらに別の区民からは「東日本大震災や福島第一原発事故を踏まえ、二子玉川再開発や大井町線地下化の問題は、大きなビジョンで考えるべきではないか」との発言がなされた。
車座集会では区長の政治姿勢も質問された。区長の職員向け発言「行政は継続性が重要。95パーセントを継続」の趣旨が問われた。これについて、区長は「5パーセント変われば全体が大きく変わる。区長が変わったからと言って、たとえば住民票の色を変えるようなことはしない」と答えた。
区長交代による変化のための変化を否定する区長の回答は正論である。しかし、これは二子玉川ライズや下北沢の開発に反対する住民とはギャップがある。開発反対の住民運動は「開発政策が間違っている」「開発の進め方が間違っていた」と主張する。過去の開発政策を前提とした上で欠点を改善することよりも、開発政策が正しいものか、継続に値するかどうかを検証することを期待する。
世田谷区では熊本哲之前区長時代にもタウンミーティングを実施していた。タウンミーティングと比べると、車座集会は人数を絞ったために参加者から発言できないことの不満はなく、荒れることはなかった。それでも発言時間は制限されており、十分に話せない不満は残った。
「意見や提案を一緒に考える場」との位置づけであったが、発言と回答で終わってしまい、問題意識を深められたとは言い難い。土手の草刈りや公園の鍵管理など普段から支所や出張所レベルで住民の意見を聞いていれば対応可能な問題も多く、区政の根本的な問題を論じる時間的余裕はなかった。住民参加の実を上げるには一工夫が必要である。
【追記】保坂展人区長は上記記事に対し、9月28日に自身のtwitterで「課題として書かれていることはその通りと思う。」とコメントした。
シモキタ裁判第22回口頭弁論
東京都世田谷区の下北沢の住民が都市計画道路の事業認可の差し止めを求めた裁判の第22回口頭弁論が2011年9月22日15時30分から東京地方裁判所103号大法廷で開催される。終了後に住民側では報告集会を予定している。
「まもれシモキタ!行政訴訟の会」では以下のように記載する。
「裁判も5年目に入り、重要な時期に入っております。前回裁判で石本弁護士の質問に返答を窮した東京都が裁判長に念押しされ、今回、補助54号線で不要なはずの40Mサークルにつき、その存続した理由を回答をするはずです。どのような理屈をもちだしてくるのでしょうか。
裁判の法廷傍聴はどなたでも出来ます。是非、原告サポーターの出席をお願いします。更には友人の方々をお誘い頂き、ぜひとも傍聴席を満杯にしこの問題に対する、住民の関心の高さを、法廷で示そうではありませんか。」
口頭主義を活かしたシモキタ裁判第21回口頭弁論
東京都世田谷区の下北沢の住民が都市計画道路の事業認可の差し止めを求めた裁判の第21回口頭弁論が2011年6月28日、東京地方裁判所103号大法廷で開催された。
シモキタの愛称で知られる下北沢は迷路のような路地や庶民的や劇場、個性的な店舗で知られた街である。この下北沢に道路(補助54号線)や駅前ロータリーなどの開発計画があるが、住民や商店主らは無駄な公共事業の典型であり、下北沢の街並みを破壊すると反対する。住民らは2006年8月に市民団体「まもれシモキタ!行政訴訟の会」を結成し、同年9月に東京地裁に提訴した。被告は国と東京都であるが、世田谷区が参加人になっている。
口頭弁論の冒頭では国が提出した証拠「東京都市高速鉄道網図」(乙第5号証の2)の原本提出が議論された。この証拠は写しとして提出されたが、そこには紙片を貼り付けて記載された形跡があった。この形跡があることは国も認めている(国準備書面(10)4頁)。この点について住民側は乙第5号証の2が改ざん・捏造された可能性があるとして、原本の提出を要求した(原告準備書面(35)6頁)。この要求に対して口頭弁論では以下のやり取りがなされた、
国側代理人「次回期日に証拠の原本を持ってくる」
住民側代理人「証拠を確認するために時間をいただく」
国側代理人「役所に設置しなければならないものなので、その期日の確認はいいが、持ち帰りはできない」
住民側代理人「まず見せてくださいよ」
この会話の後で川神裕裁判長が「次回期日に確認のための時間をとる」とまとめた。
それから住民側代理人が住民側の主張を論述した。住民側代理人の斉藤驍弁護士は以下のように述べた。
「統一地方選挙後半戦で大型開発の見直しを掲げる保坂展人氏が世田谷区長に当選するという画期的な選挙結果が出た。保坂区長は徹底した情報公開を掲げている。世田谷区は下北沢の都市計画決定などについて様々な資料を持っており、進んで情報公開すべきである。世田谷区が姿勢を変えることが保坂区長の願いでもある」
同じく住民側代理人の石本伸晃弁護士は駅前ロータリーの面積算定の不合理性を論証した。世田谷区は「バス軌跡検討図」(丁第46号証)に基づいて駅前ロータリーの計画を立てたと主張する。そこではバスは全長12m、幅2.5m、前輪軸と後輪軸の距離6.5mとされている。
ところが、「実際に下北沢を通る路線バスは全長8.99m、幅2.3m、前輪軸と後輪軸の距離4.4mで、はるかに小さい」と石本弁護士は指摘する。つまり、「世田谷区は実際には走行していないバスの仕様を基準にして、過大な軌跡図を作成し、交通広場の面積を水増しした」と批判した。
口頭弁論は口頭主義(主張立証は当事者が口頭で陳述する)を建前とするが、日本では形骸化が著しい。当事者が事前に送付した準備書面を「陳述します」と言って終わりにしてしまうことが大半である。その結果、5分程度で終わってしまう口頭弁論が大半である。意味のある会話は次回期日を決めることだけという口頭弁論も少なくない。
これに対し、シモキタ裁判の口頭弁論は住民側の代理人が1時間以上も陳述する迫力のあるものであった。ここには口頭主義の理念が脈打っている。
下北沢の現在と未来を考えるシンポジウム
下北沢の道路計画・再開発計画の問題を訴えるイベントSHIMOKITA VOICEが2009年9月5日と6日の2日間の日程で開催される。「下北沢商業者協議会」「Save the下北沢」「まもれシモキタ!行政訴訟の会」の共同開催で、シンポジウムや音楽を通じて街の問題に迫る。
私は9月5日にCLUB 251(世田谷区代沢)で行われたオープニング・シンポジウム「あらためて考える、下北沢の現在と未来」に参加した。都市計画道路事業認可の差し止めを求めるシモキタ訴訟弁護団の石本伸晃・弁護士が司会となり、小川たまか「下北沢経済新聞」編集長、上原公子・前国立市長、下平憲治「Save the 下北沢」代表がパネリストとなった。
シンポジウムは下北沢の現状分析から始まった。下北沢の特徴は迷路のような細長い道であり、自動車を気にせずに歩いて楽しめる低層の街並みにある。パネリストは各々の下北沢のイメージを披露した。
小川氏:個人の商店が多い。
上原氏:若者の町というイメージがあるが、幅広い世代の人が楽しめる。劇場やライブハウスなど小さな文化拠点が散らばっており、ほっとする空間が多い。
下平氏:昔からの住人と上京して街の魅力に取り付かれた人が共生している。この街には何かあるのではないかという期待を持たせてくれる。一人でもどこかのコミュニティに入れてくれる開放性がある。
石本氏:中心街に自動車は入れないヨーロッパの町に近い印象がある。
一方で好ましくない最近の変化も指摘された。
小川氏:個人経営の店が次々に店を閉じ、2009年5月30日にオープンしたPOLA THE BEAUTY下北沢店などチェーン店が増えている。
下平氏:再開発で金銭の匂いに敏感になり、ギスギスした雰囲気となった。共生しにくくなっている。
続いてシンポジウムの話題は再開発に移った。店舗経営者に接している小川氏は、ゴチャゴチャした感じが再開発で失われることへの反対意見が多数を占めると指摘した。印象的な意見には「小田急線の下北沢の西側は、どの駅前も同じ外観をしている。そうなるのは嫌だ」というものがあった。しかし大勢は漠然とした反対であり、どうなるのか具体的に想像できている人は少ないという。
これを受けて下平氏は運動を広める工夫を説明した。団体名は「反対する会」「守る会」が一般的だが、それでは広まりにくいために「Save the 下北沢」とした。再開発の問題をわかりやすく伝えるために現在の下北沢の地図に道路の完成予想図を当てはめた図を作成した。それでも、そのような道路ができる筈がないという固定観念が根強い。地域住民だけでなく、アーティストの賛同を集めて全国的な話題にした点は成功である。
上原氏は市長の経験から行政の動かし方を伝授した。ポイントは大勢で繰り返し訴えることである。役所は同じ問題について6人くらいから電話を受けるとドキッとする。繰り返し攻め続ければ、言い訳ができず、嘘もつけなくなるという。
シンポジウムは今後の運動の展望で幕を閉じた。
小川氏:個人経営の店の元気がないことが気になる。個人商店を応援することが運動の盛り上がりにもつながるのではないか。
上原氏:目の前に落ちる金銭につられた街はボロボロになって、誰も寄り付かなくなる。少子化により人口は確実に減少し、道路もビルもガラガラになる。目先の開発資金につられることなく、賢明な選択をしなければならない。道は人の暮らしを豊かにするためのもので、道路で分断された下北沢はあり得ない。政権交代は大きなチャンスである。民主党に積極的に注文することで、全国のモデルケースにできる。
下平氏:これまでは自民党・公明党の影響が強く、店舗経営者が内心は反対でも商店街などのしがらみで表立って反対運動に賛同できないことがあった。政権交代で変わっていくと期待できる。再開発が問題であること、税金の無題遣いであることを伝え、運動を広げていきたい。
今回のシンポジウムは17時からのライブハウスでの開催という点で街づくりのシンポジウムとしては異色である。参加者に若い世代が多い点も特徴である。政権交代という大きなチャンスを街づくりに活かそうという勢いのあったシンポジウムであった。
保坂展人・世田谷区長は世田谷電力で脱原発!?
保坂展人・世田谷区長の就任2か月目の6月25日に開催された集会「たがやそう、世田谷〜保坂のぶと区長就任報告会」で、「世田谷電力」構想が打ち上げられた。脱原発を訴えて区長選挙を制した保坂氏であったが、原発立地自治体でない世田谷区長に何ができるのかというシニカルな見方も少なくなかった。石原慎太郎・東京都知事からは「できっこない」と酷評された脱原発であるが、具体的なイメージが見えてきた。
集会は「保坂展人と元気印の会」及び「たがやせ世田谷区民の会」の主催で、会場は世田谷区成城の砧区民会館・成城ホールである。収容キャパシティ400人の会場で立ち見が出るほどの参加者が集まった。
「被災者に手を差し伸べる自治体に」保坂展人世田谷区長が抱負を語る
保坂区長からは区長就任2か月間の報告と新しい世田谷区政への抱負が語られた。就任2か月間の報告はスライドを交えての報告である。就任後二ヶ月はあっという間に過ぎた。区長選挙は有力な支持団体など後ろ盾がない中でのゼロからの出発であったが、それが逆に世田谷区政の地殻変動を起こす原動力になった。熊本哲之前区長からは「前例に拘らず、大胆にやっていただきたい」と言われた。
福島第一原発事故は自治体が住民を守る最後の砦であることを再確認した。その最終責任を負う立場が首長である。これを言うと叱られるかもしれないが、原発事故の避難マニュアルは存在しない。重大事故は起こる筈がないという前提であった。
世田谷区は区独自の放射線量測定を早期に打ち出したものの、測定器の到着が遅れていると説明した。大気の測定だけでなく、プールの測定や学校給食の産地表示も検討中とする。区立小中学校の学校給食は太子堂調理場で調理する学校と、自校で調理する学校に分かれる。そのための産地表示も複雑になるが、給食便りへの記載を考えている。牛乳については区内の学校は一括で購入しているため、検査する予定とした。
東京電力に対しては節電に対応するために区内の電力使用量のデータ開示を要請中である。東京電力は23区全体の前日分のデータ開示は可能と回答したが、当日のデータ公開を引き続き求める。リアルタイムのデータ開示により、過度の自粛を避けられる上、区民に警報を流して需要を抑制する効果も期待できるとする。
浜岡原発は停止したが、それで終わりにすべきではない。老朽化した原発から停止して欲しい。しかも、原発は運転停止すれば安全ではなく、使用済み核燃料の問題が残る。もう一回考え直そうと発言していきたい。想像力が大事である。福島第一原発事故は国難であると共に民難である。国民が苦しんでいる。体を動かし、被災者に手をさしのべる自治体にしたいと述べた。
区長選時の推薦人であった早稲田大学建築学科教授の石山修武氏、国際医療福祉大学大学院教授氏の大熊由紀子氏、社会学者の宮台真司氏が登壇し、保坂区政に提言した。大熊氏は高齢者を寝たきりにしてしまいがちな日本の医療・福祉制度の問題点を指摘した。半身不随になっても、残った右半身で社会的な活動が可能である。年をとっても、障害をもっても、温もりのある世田谷区政の先頭に立っていただきたいと述べた。
会場からの質問では二子玉川再開発や下北沢の道路建設、京王線の高架化、外環道など大型開発の見直しを求める声が目立った。保坂区長は住民参加の街づくりになるような方策を考えていると応じた。ユニークな質問として「電気の購入先を他の電力会社に変更できないか」というものがあった。
この問題意識には保坂区長の立候補時の推薦人である社会学者の宮台氏が応じた。遅れて到着した宮台氏はエネルギー政策の転換について本質的な指摘をした。統一地方選挙は脱原発を前面に出して当選した首長や議員は少なく、保坂氏はレアケースである。これはヨーロッパとは全く異なる。ドイツでは反原発を掲げる緑の党が選挙で躍進し、イタリアは国民投票で原発反対が圧倒した。
日欧の落差を説明するキーワードはスローフード運動である。スローフードの定着がヨーロッパで脱原発が進行した要因である。日本ではスローフードにオーガニックなどのイメージがあるが、本質は全く異なる。
スローフードは顔の見える範囲で食料品を販売し、購入する運動である。顔の見える相手との取引だからこそ、生産者は安全性に気を付け、消費者は高くても買う。その結果、自立的な経済圏が保たれる。ところが日本ではスローフードが大企業のマーケティング戦略に悪用され、ロハスと混同されている。ここに日本人の勘違いがある。
エネルギー政策の転換も同じである。エネルギー政策の転換は共同体自治の問題であって、電源の種類の問題ではない。官僚も太陽光発電など自然エネルギーを供給する独占企業や天下り法人を作ることを考えているだろう。それでは、これまでの電力供給独占体制と変わらない。上からの統制ではなく、消費者が電力会社や発電所、発電方式を選択できるようにすることが必要である。世田谷で電力会社を立ち上げるようなことがあっていい。
日本人の政治意識は統制と依存である。これに対して世界は自治と参加の方向で動いている。統制と依存の社会でも便利さや快適さは享受できるが、自分で自分をコントロールできず、絆も生じない。自治と参加には、ぬくもりや幸福、尊厳がある。
世田谷には可能性がある。世田谷区では他の区に比べて3月に子どもを疎開させた家庭が目立った。子どもを疎開させたということは、預け先があることを意味する。金持ちであっても、人的なつながりがなければ疎開させられない。つまり世田谷区民は人的資本が豊かであることを意味する。最後に宮台氏は保坂区長に「来期も務めて、成功モデルを作ってほしい」とエールを送った。
世田谷区で電力会社を立ち上げるとの提言に保坂区長は「世田谷電力ができると面白い」と応じた。新しい仕組みを待っているのではなく、区民各々が様々な形で行動することを期待した。また、人口80万人の世田谷区は電力の消費地であるが、ソーラーパネルを乗せられる屋根の数は多いとして、発電地帯としての可能性をアピールした。
最後に主催者挨拶として、「たがやせ世田谷区民の会」副代表の金子秀人氏が保坂区政誕生による変化を紹介した。成城では緑豊かな邸宅「山縣邸」で開発問題が起きている。緑地の保全を求める運動の住民が区長室にアポイントを取ったところ、保坂区長との区長室での面会と現地視察が実現した。これまでの世田谷区の行政では考えられなかった動きである。
区長のレスポンスに発奮した住民運動は成城学園前の駅頭で署名運動を開始した。その署名を受けて今度は区長が開発業者と面会する予定である。このように区民と区長が互いに影響し合う変化が出てきていると述べた。(林田力)
新しいせたがやをめざす会で保坂展人区長が挨拶=東京・世田谷
市民団体「新しいせたがやをめざす会」が2011年6月23日に拡大幹事会「新しい区政への胎動」を東京都世田谷区上馬の東京土建世田谷会館で開催した。冒頭では保坂展人区長が挨拶し、世田谷区政について意見交換も行った。
保坂区長は2011年4月の世田谷区長選挙で劇的な当選を果たしたが、区議会の基盤は脆弱である。世田谷区議会の定数は50名であるが、区長の与党会派は生活者ネットワーク4名、社会民主党2名、無党派市民1名の計7名の圧倒的少数である。この現実を踏まえ、保坂区政は全方位外交で開始したと保坂区長は説明する。具体的には被災地支援と災害対策の総点検という区議会議員全員が賛成する案件を優先させた。
区長選で訴えた脱原発については、選挙から2か月経過した現在では選挙当時以上に脱原発への支持が増加していると手応えを語った。世田谷区議会でも太陽光発電に注力すべきと指摘された。太陽光発電など自然エネルギーのシンポジウムや産業展を検討している。世田谷区は電力の消費地であるが、ソーラーパネルを乗せられる屋根の数では一大発電地帯となる可能性がある。
世田谷区は二子玉川東地区再開発(二子玉川ライズ)、下北沢、京王線高架化、外環道(東京外環自動車道)という大きな開発問題を抱えている。これらは住民不在で進められおり、住民参加を実現させたい。決まったことを説明するだけという状況を変えていきたい。区長と住民が語る車座集会を年内に区内の27の出張所で開催する予定である。「まちづくりセンター」を本当の意味で住民参加の拠点にするように考えていきたい。
区議会議員から日本共産党の中里光夫議員と社民党の唐沢としみ議員が参加し、挨拶した。中里議員は、保坂区長は共産党の提案も取り入れており、区政の変化を実感したと語る。開発問題では力を合わせて取り組んでいきたいとする。唐沢議員は一人一人が区長を支えれば元気印の区政になると述べ、区政への関心を訴えた。また、世田谷区長選挙で保坂区長と争った慶野靖幸も出席し、「御活躍を期待します」とエールを送った。
出席者からの区長への意見では、二子玉川再開発など様々な問題が指摘された。主な意見は以下の通りである。
二子玉川ライズは誰のための何のための再開発なのか。広域生活拠点を作ることが建前だが、生活拠点は身近にあるもので、電車や車で出かけるものではない。単なる商業主義ではないか。地元の小売店ら地域経済にも打撃である。
二子玉川の南地区では多摩川堤防建設で貴重な緑が伐採されている。緑を残してほしい。
二子玉川公園の造成で住民が立ち退きを迫られることがないようにして欲しい。
震災でブロック塀の倒壊で亡くなる人が出ている。少なくとも通学路はブロック塀をなくすなど対策を採って欲しい。
日本軍の侵略を美化する教科書を採択しないで欲しい。教育の右傾化とどのように戦うべきか。
放射能汚染の測定は大気だけでなく、給食の食材や区内の農作物も対象にして欲しい。
これに対して保坂区長は以下のように述べた。
開発問題に対しては、どうしても行政は開発を進める側と会う機会が多くなるとし、住民の意見を聞いていきたいと述べた。役所が決めたことは曲がっていても真っ直ぐと強弁する体質があり、これを打破しなければならない。二子玉川の再開発ビルに公益性がどれだけあるのか再検討したい。
二子玉川公園については盛り土が雨水を堰き止めて丸子川の水害が激化する不安があると聞いている。盛り土を内側に引っ込めることを検討している。また、工事で住民の居住権が脅かされることがないようにしたい。
教育問題に関しては、児童虐待など保坂区長が携わってきた実績を説明した。国会議員時代には超党派のチャイルドライン設立推進議員連盟を作り、チャイルドラインの普及に寄与した。日本文化の無条件の賛美を強制すると批判されている世田谷区独特の「教科日本語」については、音読の繰り返しの効用を認めつつも、インプットだけの教育では子どもの創造性を伸ばせないと語った。
放射能の測定については、機械の入手に時間がかかり、遅れているとした。牛乳が心配という声が出ており、検査する予定である。また、給食便りに産地を記載できないか検討している。この問題では連日動いているが、スピーディーに進んでいない点は申し訳ないと述べた。
保坂氏の発言を受け、「めざす会」の堀江照彦・共同代表は「少しずつ良いニュースが聞けることを楽しみにしている」と応じた。
「めざす会」事務局の中村重美氏は保坂区政の動向を整理した上で、会としては今後も区政をウォッチし、問題提起していきたいと述べた。「めざす会」では区政の調査・研究や学習会などの活動を行っていく予定である。