今日の分には堕ち成分はありません。
できれば明日、堕ち部分載せる予定です。
【6.アネトシテ(双葉)】
ゴト…シュー…
目の前にある山犬の骸が、紫の煙となって消えていく。
「ふぅ…」
「お疲れ様です。双葉殿。」
「ええ、みなさんも。」
「では、依頼人にご報告しに行って参ります。」
「お願いします。」
今回は早く帰れそうね。
私達は依頼主がいる小都に来ていた。
依頼内容は、小都でたびたび現る山犬を退治してほしいというものである。山犬は夜中の山道で転んだ人間を襲う妖怪と言われている。
今回、その山犬が小都の人達を襲っているらしく、私達降魔師が呼ばれたのだ。
魔を使う程じゃなかったけど…
「お疲れ、双葉!」
「彩華もお疲れ様。」
私を大きな声で呼ぶ女性。
彼女は私の相棒の彩華、大事な親友である。
「今回も楽勝だったねー。」
「ええ。でも多くなくて良かった。
依頼文には数は書かれてなかったし、私達がいくら連携が取れれてても数には勝てないもの。」
私達降魔師は普段5人で動き、彼女や他の仲間が霊符を使って相手の動きを止め、そして私が霊力を纏った刀で打ちとるというのが、いつもの戦い方である。もちろん数が多い時や、力の差を感じた時は一度引いて、仲間や妹を呼びに戻る時もあるけど。
「さて、帰って桐様に報告しますか。」
「そうね。」
そうして私達は、小都をあとにした。
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「何よこれ…」
「……………」
家に着いた私達は絶句した…
辺りは血の匂いが充満し、仲間達が血まみれで倒れている。
彩華が近くの倒れている仲間に話しかけるが…
「清次郎おじさん、しっかりしてっ!…………、死んでる…」
「うそ……、お父さん…葵っ!!」
私は2人の名を呼び駆け出した。
「お父さああんっ!葵いいっ!!」
しかし2人の声はしない…
それでも私は2人の名を呼び続け、心当たりのある所に行ってみた。
そして…
「お父さんっ!!」
お父さんが儀式の間にいた。
けど…
「お父さん…」
お父さんの心臓がある場所にはポッカリと大穴が開いており、大量の血が床に流れ出ていた…
それは見ただけで分かるお父さんの死…
「いやぁ…お父さん…」
私達は降魔師。
だからこんなことは、覚悟していたつもりだったけど…
私は涙がでそうになるのを、なんとかこらえる。
それにまだ葵を見つけてない。
「そうだ、葵は…」
私は、お父さんを悲しむ暇もなく葵を探した。
私達の部屋、和室、食堂など考えられる場所を探すが、葵だけはいなかった…
「双葉…」
彩華が私に近づいてくる。
「桐様を見たよ…、他の仲間もみんな…」
「彩華の両親は…?」
「………」
彩華は黙り込み、何かを我慢するかのような顔になっていく。
次第に目には光る雫が溜まっていき…
「彩華…」
目から大粒の涙が零れ落ちた。
「……わ、私の親より…葵ちゃんは…?」
震えた声で、私の妹を心配する彩華。
「どこにもいなかった…」
「そっか…」
タタタッ…
もう3人の仲間も合流するが、
「………」
彩華と同じような反応をし、葵だけは行方が分からなかった。
それから少しの間、沈黙が続いた。
私もこんな時、何を言えばいいか分からない…
3人の仲間にも友人や家族がいて、ここで降魔師として暮らしていたのだから…
「双葉殿、ともかくこのことを本家に…」
3人の内の1人が私に提案する。
そうだった。お父さんが死んだ今、当主は私。
この4人のためにも私がしっかりしないと…
「…そうですね。」
「しかし、何て言いましょう。
我ら以外、分家は全滅したなんて信じてくれるかどうか…
仲間の遺体もこのまま放置しておくのですか?」
「いいえ。私と彩華が今から本家に行きます。
それ以外の方はみなさんのご遺体を丁寧に葬ってあげて下さい。
それが終わり次第、貴方達も本家に来て、本家の方達には私が言いますので…」
これでよかったのかどうか分からない…
でも分家が狙われたとなると、次は本家かもしれないのである。
私と彩華で先に本家に行き、このことを伝えるのが最善だと私は考えた。
「葵ちゃんは…?」
「葵は……、葵も無事なら、きっと本家に行ってると思う…」
「…そ、そうだよね!きっと葵ちゃんなら。」
私だって姉として葵を探したかった。
お父さんや、仲間の遺体も見送ってあげたい。
でも今は分家の当主として、今いる4人を引っ張らないといけないのだ。
「お父さん…何もしてあげられなくてごめんなさい……」
こうして私と彩華は3人の仲間と別れ、本家へ向った。
【7.マダロクサイ(睦月)】
--お…て…
誰かの声がする。
--おきて……
お姉ちゃんの声だ。
--起きて、睦月。
うん、今起きるから。
バッ
…あれ…ここどこ?
目が覚めた私の周りは真っ暗闇で、自分がどこにいるのか分からない。
でも、私の下に何枚もの布団が重なっているのは分かった。
そしてこの狭い空間はきっと…
押入れ…
でも何で私押入れなんかに……あっ、お婆ちゃんは!?
私は意識が遠のく前の事を思い出した。
葵とかいう女がいきなり家に現れ、お婆ちゃんを刺したことを。
そして私はそれを見て気絶して……
お婆ちゃん…大丈夫かな…
とりあえずここから出ようと考えた私は、押入れの襖に手をあて横に引いた。
ガラッ
ここは私とお姉ちゃんの部屋だったのか。
私はゆっくりと押入れから降り、周りを調べてみる。
外はまだ夜で、人の声もしない。
不安になった私は、お姉ちゃんを呼んでみるけど…
「お姉ちゃーん。」
お姉ちゃんの声は返って来ない。
もちろん聞こえてない所にいるのかもしれない。
でも大きな声で呼ぶと、あの葵が来そうで私は怖かった…
私は不安になりながらも、お婆ちゃん達がいたあの玄関へと行ってみる事にした。
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うっ…!
私が玄関に着くと目の前の光景と匂いで、咄嗟に口を手で抑える。
「う、うっ…うおええ……」
気持ち悪くなった私は我慢できず嘔吐してしまう。
一緒に住んでた人達の体が……ううっ…ひどい……。
そこから急いで離れる私。
お婆ちゃんも倒れていたけど、もう近づいて見る気も起きない。
とりあえず生きている人に会いたい!ただそれだけを思い、家を探し回った。
「うっ…ここも…」
しかしどこを探しても生きている人はおらず、
玄関で見た、似たような死体ばかりが廊下や部屋に転がっている。
もしかしたら生きている人なんていないのかもしれない…
「うぅ……」
だんだんと恐怖と不安だけが高まっていき、とうとうその気持ちが涙と溢れて来る。それでも私は、生きている人を屋敷中探した。
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私は自分の部屋に戻り、布団で横になる。
結局、生きている人なんていなかった…
でも見つからない人達もいて、その中にお姉ちゃんも入っている。
だからといって私はこれからどうすればいいのか分からない…
私はまだ6才…
お母さん、お姉ちゃん、早く帰って来てよ…
そうだ、朝になったら元通りになってるかも……うん、きっとそう…
今日は疲れちゃった…、おやすみなさい…
私は現実から逃げるように眠りにつく。
きっと明日はいつもの日常が来ると信じて…
【8.ケツイ(睦月・双葉・彩華)】
「お姉ちゃん、待ってー。」
「ほら睦月ぃー、早くしないと日が暮れるよー。」
私はお姉ちゃんの後を追っている。
お姉ちゃんが家までかけっこしようって言うから、かけっこしたけど…
「はぁ、はぁ…」
でも、どんだけ走ってもお姉ちゃんには追い付けない。
そしてどんどん辺りは暗くなって、お姉ちゃんの姿もだんだん遠ざかっていく。
「待ってよー…」
とうとう私はお姉ちゃんを見失い、完全に日が沈むと道も分からなくなった。
「お姉ちゃーんっ、待ってよー。
私、道わかんないよ…」
しかし、お姉ちゃんの声は返ってこない。
そして戻ってくる気配もなかった。
「うぅ…おねえちゃああああん……」
とうとう1人という状況に、私は足を止め泣いてしまう。
泣いた所で状況は変わるとは思ってないけど、それでも私は泣く事しか出来なかった。
「……ちゃん」
遠くで誰かの声が聞こえる。
それはお姉ちゃんでもお母さんでもない。
「睦月ちゃん、起きて。」
今度は私の名を呼ぶ声がはっきり聞こえた。
誰かが呼んでる。はやく起きないと。
夢の世界は消え、私は目を開けた。
私の目に入ったその人は…
「よかった…起きてくれた。」
…あの女だった。
「いやっ!」
私は、横にいた女を反射的に突き飛ばす。
「きゃっ、……睦月ちゃん!?」
女は巫女服であの時見た髪型とは違うけど、その顔は間違いなく葵だった。
「お、お姉ちゃんをどうしたの…?」
「え?睦月ちゃんのお姉さん?
楓夏さんはどこにもいなかったわ。」
ガラッ
「あっ、睦月ちゃん起きたんだ。」
今度は、私の知らない巫女服の女性が部屋に入ってきた。
「何で私の名前…」
「そっか、初めて会うから分かんないよね。私は彩華。
で、こっちが親友の双葉。私達は分家の人間だよ。」
「彩華さんに双葉さん…分家の人…?」
「はい。睦月ちゃんは誰かと間違えて怯えていたようだけど。」
「葵…じゃないんだ。」
「「えっ!?」」
葵という言葉を聞いた途端、2人が真剣な顔になる。
「睦月ちゃん、あなた葵を知ってるの!?」
「うん…」
忘れるわけない…
お婆ちゃんを殺し、お母さんやお姉ちゃんをどこかにやった人を…
「葵はどこに行ったか分かる?」
「…分かんない。でもあの女は私のお婆ちゃんを殺して…みんなも……う、ううぅ……」
「そんなまさか……」
それから私は、葵がやって来てみんなが殺された事、
お母さんやお姉ちゃん、まだ行方の分からない何人かの人達の事を2人に説明した。代わりに葵が双葉さんの妹だという事、分家の人達が殺されその事を報告しに来た事を聞かされた。
「そう…、やっぱり葵が…」
「…?、双葉は葵ちゃんがこれをやった事を知ってたの?」
「なんとなくね…。
儀式の間にいた父を考えたら、もしかしたら葵が…って思ったけど、予想が外れてほしかった…」
「どうしてそんな…」
「近々、魔を入れるって聞いたから、まさか葵は魔に飲まれて…」
「そっか…、でもこれからどうしよう…」
「私は…葵を追おうと思う。」
「それって1人で?もし見つけたとしてそれからどうするの?」
「私がケジメをつける…」
「そんな…、葵ちゃんを殺すっていうの?
それに本家の人達も殺されて、いくら双葉が魔を使えるからって…」
「でもそれしか…」
2人の会話を聞いてる内に、私はある事を決意する。
私が…葵を倒す…
「あの…」
「…どうしたの?」
「私を…一人前の降魔師にしてくれませんか?」
「「え?」」
「昨日の事がなかったら、私はお姉ちゃんのように降魔師になってたと思います。でも、お婆ちゃんやみんながいなくなった今、頼れるのはお姉ちゃん達だけなんです。修行でもなんでもします!
どうか私を降魔師にして下さい!」
いきなりの私の頼み事に、2人は唖然とする。
どんな言葉が返ってきても、私は2人に着いて行こうと本気だった。
すると双葉お姉ちゃんが、
「復讐のため?」
…えっ
「違うよ…。私はお姉ちゃんとお母さんを見つけたいだけ。
でもそれにはきっと力がいると思うし…」
「本当は葵に復讐したいんでしょ?」
「そ、そんなこと…みんなを殺した人だよ…。
憎んじゃだめなんて…できないよ…」
これが私の本心…これで完全に断られると思ったけど、
双葉お姉ちゃんからは意外な言葉が返ってきた。
「…そうね。私も葵のしたことは許せない。
いくら私の妹でもね…。
もし降魔師になるなら、睦月ちゃんにはまだ辛い運命が待ってるかもしれない。言いたくないけど、お姉ちゃんやお母さんが敵となって出てくるかもしれないのよ?それでもなるというのなら、この刀を受け取りなさい。」
双葉お姉ちゃんが、服に隠していた小刀を私に差し出す。
そして私は小刀を受け取った。
「それは睦月ちゃんの命。
いつも肌身離さず持ってね。」
「はいっ!」
「明日から、私が知ってる全てを貴女に教えます。
それでも葵を倒せるかどうか分かりません…彼女の強さもまだ分かりませんしね。後から来る3人には私が説得します。彩華もいいよね?」
「うーん、睦月ちゃんも私達と同じ気持ちだって事は分かったよ。
でも双葉、葵ちゃんのこと諦めちゃダメだよ…」
「うん…」
明日から、私は変わるだろう。いや変わってみせる。
どんな厳しい修行か分からないけど、私は2人に着いて行く。
葵さんを見つけ、お姉ちゃんとお母さんの場所を聞きだすために。