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いま言いたい――TPPは医療崩壊に拍車

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さかい・まなぶ 1937年福島県生まれ。日本歯科大学卒後、北里研究所付属病院などをへて72年、実家の歯科医院を継ぐ。07年から福島県保険医協会理事長。

福島県保険医協会理事長 酒井学さん

 環太平洋連携協定(TPP)に参加すれば、農業を崩壊させ、地域経済に打撃を与えるのは、はっきりしています。同時に、危機に直面している医療の崩壊に拍車をかけることになるのではないかと、とても危惧しています。

混合診療解禁に

 日本の医療は、この間、「医療構造改革」の名の下で市場原理主義を導入することが求められてきました。その一つが保険診療と自由診療を併用する混合診療の全面解禁です。

 混合診療が全面解禁されると、今の保険診療報酬によらない、「自由価格の医療市場」が拡大します。公的医療保険では医療スタッフの給与や高額医療機器などの診療経費を支払えないためです。TPPへ参加した場合、混合診療の全面解禁を強く求められます。

 これには、問題がたくさんあります。公的医療保険を使える範囲の縮小。営利企業が参入した場合の医療の質の低下や不採算部門からの撤退。患者負担の増加と低所得者の医療締め出し。そして、医師や看護師、あるいは介護士などの労働市場の開放で給与引き下げになり、「医師不足・医師偏在」の加速などです。

 TPPへの参加は、日本の医療・介護にいっそうの市場化ともうけ主義をもたらすものではないか。日本で国民皆保険制度ができて50年。国民の命と安全を守る同制度の崩壊が懸念されます。

 福島県保険医協会として先月、TPP参加に危惧し、国民皆保険制度を崩壊させないよう強く求める声明を発表しました。私個人としては、参加することに絶対反対です。

強く声をあげる

 私もそうですが、地域で開業している医師や歯科医師は、地域のことに敏感です。農業の比重は小さくない。私は長く小学校の校医をつとめ、いま複数担当していますが、毎年4月に歯科検診をやるたび少子化による児童の減少を痛感します。

 医師の経営も今、大変です。まだ年齢的に診療できるのに、廃業する例も目立つようになりました。歯科医の場合は、週刊誌で「ワーキングプア」と書かれたほど。歯科大受験者は今、私立大学だと軒並み定員割れです。

 医師不足や偏在などによる医療崩壊が始まっています。TPPへの参加はこれに拍車をかけるものであり、黙って見過ごすわけにはいきません。同時に私たちは、患者、国民と力をあわせ、医療・社会保障を拡充する政治への転換の声を、強くあげていきます。

 (聞き手・写真 福島県・野崎勇雄/「しんぶん赤旗」2011年2月9日付)



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