新潟青陵大学大学院(碓井真史) /心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座) /犯罪心理学/家族5人殺傷事件の犯罪心理学:ひきこもり長男による殺人事件




犯罪心理学:心の闇と光

家族5人殺傷事件の犯罪心理学

ひきこもり状態の長男による殺人事件

2010.4.17(4.18加筆)


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豊川市家族5人殺傷事件の概要

 2010.4.17未明、愛知県豊川市で未明に発生した家族5人殺傷事件。
容疑者として容疑者として逮捕されたのは、この家の無職の長男(30)。15年前から自宅に引きこもっていたという。

報道によれば、容疑者男性は、インターネットの契約を解約されたことに腹を立て、家族に次々と切りかかった。父親(58)と、めい(弟の娘(1)の二人が死亡、母親(58)と弟(22)、そのの内縁の妻(27)に傷を負わせたのち、家に火を付けた。

弟家族が同居するようになった1年前から、争いが絶えなかったという。
また、父親のクレジットカードを勝手に使い、300万円ほどの借金も作っていた。


ひきこもり状態だった容疑者男性の心理

子どもたちは、成長するに従って、自立心が芽生え、家を出て独立しようとします。それは、哺乳類として自然な感情でしょう。どの哺乳類にも、子別れがあります。成長した子どもたちは、家の外に新たな居場所と活躍の場所を見つけるのです。
しかし、ひきこもり状態だった容疑者男性にとって、両親の家だけが居場所だったのでしょうか。不自然な形とはいえ、この長男が自宅にいる生活は、それなりの安定したものになっていたでしょう。
しかし1年前、そこに弟家族がやってきます。容疑者男性にとっての唯一の居場所に危機がやってきました。
度重なる衝突の中で、彼の心は次第に追い詰められていったのかもしれません。

インターネット契約を切られて

 人間関係が苦手だったという容疑者男性も、インターネット上では、コミュニケーションがとれていたのでしょうか。ひきこもり状態の人は、インターネットを通して情報を入手し、インターネットというバーチャルなものではあっても、社会に開かれたたった一つの窓であることもあります。(ひきこもりの人がみんなインターネットに浸っているわけではありませんが)
インターネットやゲームは、必ずしも心をむしばむだけのものではありません。その人にとっての癒しになる場合もあるのです。
ただし、今回は借金も作っていましたから、インターネットを切断する行為も理解はできますが。

殺害動機

インターネットの契約が解除されるということは、おそらく、働け、外に出ろと言った口論が行われたことでしょう。社会に出なければいけないことを理解していてもできなかった彼にとっては、どうしたらよいかわからなくなっていたかもしれません。
そして、彼に無断で突然契約が解除されたことで、絶望し、殺害行動に走ったのではないでしょうか。彼は激しく怒っていたと思いますが、単に激高の末の犯罪と言うよりも、自分の人生に絶望した末の犯罪のように感じます。「もうだめだ」と彼は思ったのでしょう。
彼は家屋と仲良くもなれず、ケンカして家を飛び出すこともできず、しかし現状のままの安住の地を失おうとしていました。彼の心は追い詰められていたのでしょう。
30歳にしてひきこもっている彼の自尊心は低下していたでしょう。彼は現実的には家族に養ってもらいながら、家族からの(彼にとっては理不尽な)要求に腹を立てたのでしょう。この二つの心理が、自分自身もこの家も終わりにしてしまおうとする恨みと攻撃心を生んだのかもしれません。

親を殺害し、幼い子どもにまで刃物を向けた理由

親を殺してしまえば、現在のこの生活が続けられなくなるのですが、そんな冷静なことは考えられなくなっていたのでしょう。
どうせ自分の人生が終わりなら、こんな自分を生み、こんな自分に育てた親を殺害することで、「自由」になろうとしたのかもしれません。
また、家族殺しがおこなわれる場合、しばしば直接の怒りの相手だけではなく、家族全体への殺意がわくことがあります。これは、仮に優しい人がいたとしても、結局は「あちら側の人間」と感じてしまうからです。
さらに彼にとっては、この絶望的状況を作ったのは、弟家族だという思いもあったのかもしれません。わずか1歳の子どもにまで、自分の平穏な生活を乱したものとして殺意がわいたのかもしれません。

ひきこもりへの対応

 ひきこもりへの対応としては、あせらないこと、そして同時にきっかけを与えることだと思います。
学校へ行け、働けと、親が言いたくなるのは当然ですが、しかしあせっても問題は解決しません。

しかし、では待っていれば解決するのかと言えば、そう簡単なことでもないでしょう。待っているうちに、5年、10年と、すぐにたってしまいます。
社会に戻れるような、「きっかけ」を与えることは大切です。
そのためには、家族とのコミュニケーションを持ち続けることが必要です。学校へ行け、働け、というのは、一方通行であり、コミュニケーションではありません。相手の心をわかろうとする心の交流が必要なのです。

犯罪防止のために

義務教育段階の不登校であれば、多くの人々が本人のことを心配し、家族を支えます。相談に行けるところも、たくさんあります。
しかし、義務教育を終えてしまえうと、支援が途切れてしまいます。
病気でもなく、犯罪者でもない。しかし家族が困り果てている「ひきこもり」の問題が、何十万件と発生しています。

ひきこもり状態の人々が決して危険な人たちではありませんが、引きこもり男性による両親殺害事件少女誘拐監禁事件など、近年事件が発生していることも事実です。

もしも、このケースでも、ひきこもりとインターネットのことで、親がどこか心理、教育系のところに相談していたら、同じようにインターネットの契約を切るにしても、今回の様なことは起きなかったかもしれません。
国も、ようやく「子ども・若者育成支援推進法」をつくり、切れ目のない支援に向けて動き始めています。新潟県三条市など、いくつかの場所でモデル事業も始まっています。教育、医療、福祉、警察、ハローワークなど、多くの人々が連携をとり、子どもから30代の人々まで、学校へいけるように、働けるように、支援しようとし始めています。
百万人近いひきこもりが発生しているということは、もう家族のせいだけはできません。私たち社会全体の問題として考えていく必要があるのではないでしょうか。
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ふつうの家庭から生まれる犯罪者

2000年

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