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2010年のお正月
作:逃げ馬
また新しい年・・・2010年がやってきた。
元旦の朝の街。
街には振袖を着て、しなやかな手に破魔矢を持った若い女性。
紋付き袴姿の男性。
手に綿飴やおもちゃを手にして喜んでいる子供たち。
神社やお寺には、初詣の参拝者があふれ、境内に立った縁日はお客で賑わっている。
テレビではお正月番組。そして駅伝やサッカー、ラグビーなどのスポーツ中継が流れている。
お正月の喧騒から離れた住宅街の一角。
ある一戸建て住宅の玄関の前に、20歳くらいに見える3人の男が立った。
玄関のチャイムのボタンを押すと、家の中から電子音が聞こえた。家の中で人が動く気配がした。
玄関のドアが開くと、トレーナーとジーンズ姿の青年が顔を出した。
「よう!」
「明けましておめでとう!」
「おめでとう!」
3人が挨拶をすると、
「さあ、入ってよ」
青年が三人を家に招き入れた。
「さあ、座ってよ」
青年が自分の部屋に3人を招き入れた。
「おじゃまします」
3人が思い思いにフローリングの床に座ると、青年は台所からビールとおつまみを持ってきた。
栓を抜くと、持ってきたグラスにビールを注いでく。
「それでは!」
青年がグラスを持った。3人の男もグラスを手にした。
「今年もよろしく!」
乾杯・・・と、4人がグラスを合わせて一気にビールを飲み干した。グラスを下ろすと、
「田畑・・・ご家族はどうしたんだ?」
男の一人が尋ねると、田畑と呼ばれた青年は自分のグラスにビールを注ぎながら、
「うちの親は、親戚と一緒に田舎で正月だよ」
「お前は一緒に行かなくて良かったのか?」
田畑はニヤリと笑った。
「僕はみんなとやりたいことがあったんだ」
「やりたいこと?」
3人がお互い顔を見合せながら首をひねると、
「・・・みんなにも喜んでもらえると思うけどね」
田畑はそう言うと、部屋の隅に置いていた大きな箱を引き寄せた。
「それは?」
「正月と言えば、双六だろう?」
田畑が笑った。
「お前・・・今さら双六って・・・」
そういう三人の前に、古風な双六が広げられた。
「ちょっと怪しげなアンティークショップの隅っこで見つけたんだ」
「それならどこかの子供とやればいいじゃないか・・・」
何で俺たちが・・・という男に、
「このメンバーじゃないと、ダメなんだよ」
さあ、始めよう・・・・という田畑に促されて、三人はため息をつきながら、じゃんけんでサイコロを振る順番を決めた。
「鈴川・・・お前からだな・・・」
田畑に促されて、鈴川がサイコロを振った。
「3だな・・・」
鈴川が駒を三つ進めた。すると田畑が、
「止まったところに書いてある内容を読んでくれよ」
田畑に促されて鈴川は、
『出勤中に、小学一年生の女の子とぶつかって体が入れ替わった』
鈴川が読み終わった途端、
『ボン!』
鈍い音が部屋に響き、鈴川の体が白い煙に包まれた。
「なんだ?」
「テロか?!」
周りの騒ぎをよそに、田畑がニヤニヤと笑っている。
煙が薄れてきた。すると、そこには赤いランドセルを背負った小学校一年生くらいの少女が座っていた。
「・・・?」
驚く二人の男、すると、
「なにをじろじろ見ているんだよ?!」
小学生の女の子が、二人を睨みつけながら言った。
「その言い方・・・お前、鈴川か?」
二人がおずおずと尋ねると、
「当り前だろうって・・・なんだか声が・・・・?」
少女が自分の体を見下ろした。
「なんだよこの格好?」
立ち上がると、
「背が縮んでる?! それにランドセルまで?!!」
「どういうことなんだ? 田畑?」
「石井・・・この双六は、どうやら駒が止まったところに書いてある内容が、プレーヤーに反映されるようなんだ」
「それで鈴川が・・・」
「TSF好きには面白い双六だろう?」
田畑は笑っているが、鈴川はその可愛らしい顔が涙で濡れている。 精神面までこの双六の力が反映されているのだろうか?
「まあ、そうだな」
二人も笑う。
この4人はインターネットのTSFサイトで出会った。
それからオフ会などで話をしているうちに意気投合し、今では頻繁に会うようになっていた。
「次は末永だな」
田畑に促されて、末永がサイコロを振った。
「6・・・か・・・・」
駒を6個進めると、
「中学校に入学、水泳大会に出場する」
『ボン!』
また爆発音がして煙に包まれる。
煙が晴れると、そこにはまだ未発達の体をスクール水着に包んだ美少女がいた。
「この寒いさなかに、よりによって水着かよ!」
その可愛らしい顔に似合わない言葉遣いで美少女言うと、
「今度はもっと、ましなところに止まれよ」
田畑が笑う。
「今度は石井だな」
石井がサイコロを振った。
「5か…」
駒を5個進めると、
「バレエ教室に入る」
言い終わると同時に、石井の体は練習用のレオタードに身を包んだ少女になっていた。
「今度は僕か・・・」
田畑がサイコロを手にした。
3人の視線がサイコロに注がれる。
『僕は…何になるんだろう?』
ドキドキしながらサイコロを振る田畑。サイコロが転がり、出た目は・・・・。
「4か・・・」
駒を4つ進めると、
「いきなり一回休みかよ?!」
悔しそうな田畑を見て笑いだす3人の“少女たち”。
「変身もしないしな!」
「運が悪いよな」
双六が進んでいくにつれて、4人は小学生や中学生から、高校生に進み、それにつれて部屋にはセーラー服やブレザーの制服を着た少女や、テニスウエアに身を包んだ健康的な美少女。
さらには“バイト先”のファミレスやバーガーショップの制服を着た少女も現れた。
「そろそろ、誰かが上がるな・・・」
“正月らしく“振袖を着た田畑が、目の前に座る3人に言った。
「そうだな・・・」
鮮やかな色のビキニに身を包んだ鈴川が答えた。 今の鈴川は、『高校通学中にスカウトされてグラビアデビュー』したそうだ。
「楽しんでいると、時間がたつのが早いな」
リクルートスーツを着た『就職活動中の女子大生』の石井が口に手をあてながら笑った。
「でも、なかなか上がれないものだよ」
『航空会社のキャビンアテンダント』になった末永が言った。
「よし、じゃあ僕が上がってやる!」
田畑が言うと、
「無理だよ無理・・・」
まだ楽しんでいたいからだろうか? 3人が笑った。
田畑がサイコロを転がした。
「3・・・」
振袖の袖を抑えながら、駒を動かすと・・・。
「・・・あがり・・・」
田畑の体が煙に包まれると、田畑は元の姿に戻っていた。
「あれ?!」
それと同時に、双六も煙に包まれて消えていく。
「どうなっているんだ?」
「戻らないぞ?!」
田畑の目の前には、“3人の美少女”が、“元の姿のまま”・・・すなわち、グラビアアイドルと、女子大学生、キャビンアテンダントのまま座っていた。
「どうなっているって言われても・・・」
困惑する田畑の前に、一枚のメモが天井から落ちてきた。 手にするとその文面を見て、手が震えだした。
『この双六は、上がったプレーヤーは元の姿に戻れますが、負けたプレーヤーはその時点の姿のまま“固定”されます。
他のプレーヤーが元の姿に戻るには、新たにこの双六を購入し、“ゲームに勝つ”必要があります。
尚、終わった時点で“社会生活に影響を及ぼさない”ため、当社の方でその姿にふさわしい“社会生活の準備”はサービスさせていただきます。』
メモを読む4人。
複雑な表情を浮かべる田畑。 バツが悪そうに三人の“美女”を見つめている。
そう、TSFの結末は“元に戻れない事が多い”・・・それを思い知らされた4人。
石井、鈴川、末永の三人は、今の自分の体を見下ろし、これからの生活を考え、大きなため息をついていた。
2010年のお正月
(おわり)
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みなさん、明けましておめでとうございます。
Books Nigeuma店主兼、書き手の逃げ馬です。
2009年は、本当に久しぶりに? 作品を出した年になりました。
当店にお越しいただいた皆さん、そして掲示板で応援を頂いたみなさん、山口提督、ラングラー難民さん、しろいるかさん、佐樹さん、you'さん、うつのみやの人さん、思案の六ぽさん、どうもありがとうございました。
また、作品世界にまで飛び込んできてくれて、時々飲みながら作品談義をしてくれるNDF(日本防衛艦隊)のみなさん、いつもありがとうございます。
2010年も、昨年に引き続いていろいろと書いていきます。
また、ホームページの方も運営方針などもいろいろと考えてみようかとも思っています。
よろしければ、今年も逃げ馬作品にお付き合いください。
本年も、よろしくお願いいたします。
そして、2010年が、みなさんにとって良い一年になりますように・・・・☆
2010年1月1日
逃げ馬
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