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日本企業への国際的な信用が失墜しかねない出来事が相次いでいる。精密機器大手のオリンパスでは、過去の企業買収をめぐる不透明な資金の流れが明らかになった。社長を務めていた英[記事全文]
迷走を重ねた欧州の債務問題への包括策づくりが、一応の形を整えた。失敗すれば世界的な混乱を招くところだった。合意は大きな前進だ。ただ、危機克服までには綱渡りが続くことも間違いない。[記事全文]
日本企業への国際的な信用が失墜しかねない出来事が相次いでいる。
精密機器大手のオリンパスでは、過去の企業買収をめぐる不透明な資金の流れが明らかになった。社長を務めていた英国人のマイケル・ウッドフォード氏が、当時の菊川剛会長にこの問題を追及したところ、突然、解任されたという。
問題となっている企業買収は4件。このうち英医療機器メーカーの買収には約2100億円かかったが、その3割にあたる666億円が助言会社に払われた。数%といわれる業界相場をはるかに超えている。
他の3件は国内のベンチャー企業。計734億円を投じながら、企業価値が目減りしたとして557億円もの損失処理をしていた。そもそも何のための買収だったのか、疑念が膨らむ。
菊川氏は買収が適正だったと主張し、「日本の企業文化を理解しない」とウッドフォード氏を切り捨てた。しかし、買収をめぐる謎は深まるばかり。株価が急落し、社長兼務となっていた菊川氏はトップを辞任した。ただ、「不正行為は一切ない」とし、新社長からも買収について納得のいく説明はない。
ウッドフォード氏は日英などの関係当局に調査を要請している。証券取引等監視委員会は厳正に調査すべきだ。
経営トップの不祥事では、大王製紙でも創業一族の会長が子会社から個人的に100億円を超す借金を重ねて辞任し、東京地検特捜部が捜査に動く事態に発展している。
日本ではバブル崩壊後、企業事件が相次ぎ、株主代表訴訟なども相まって経営規律が強く迫られるようになった。
08年度からは、日常業務から不正を除くため、米国の法律にならって、内部統制を強化する日本版SOX法が施行された。社内の不正に声をあげるよう促す内部通報制度の導入も広がっている。
しかし、経営トップを監視する仕組みには、なかなか妙案がない。社員OBが就くことが多い監査役制度は以前から効果に疑問が持たれている。社外取締役の起用も、機能しているとはいえない。
オリンパスは第三者委員会を設けて真相を究明するという。だが、九州電力のやらせ問題でもわかるように、立派な委員会を作っても、経営陣の意識が変わらなければ意味がない。
形だけの取り繕いを続けると、ますます信用を失う。経営陣は株主、従業員、そして社会への責任を自覚してほしい。
迷走を重ねた欧州の債務問題への包括策づくりが、一応の形を整えた。失敗すれば世界的な混乱を招くところだった。合意は大きな前進だ。ただ、危機克服までには綱渡りが続くことも間違いない。
欧州連合(EU)ユーロ圏17カ国の首脳会議などで決まった包括案は三つの柱からなる。
まず、民間金融機関が持つギリシャ国債の扱いだ。経済が収縮するギリシャは借金を大幅に減らさないと再建できない。このためEUの強い要請を受けた金融機関側が、保有するギリシャ国債の元本の50%を削減することを受け入れた。
第2に、欧州の銀行と金融システム全体の安定を図るため、問題銀行の資本増強を約1千億ユーロという規模で進める。
第3の柱は、欧州金融安定化基金(EFSF)の再拡充だ。銀行に公的資金を入れたり、ギリシャ国債の債務不履行(デフォルト)をイタリアやスペインの信用不安に連鎖させたりしないための安全装置である。
独仏の確執が根深かったが、国債を持つ投資家の損失を一部補填(ほてん)する方式と、EFSFが国債を買う子会社をつくり、国際通貨基金(IMF)から資金を受ける方式を併用した。これによってEFSFが支援に使える資金は1兆ユーロ規模になる。
ただ、それぞれ課題はある。ギリシャ国債の元本50%カットは金融機関の自主的な協力で行う形だ。当初計画の21%から大幅に引き上げられ、足並みが乱れかねない。資本増強やEFSFの拡充も、資金規模が十分なのか、懸念がつきまとう。
包括策を実行する過程では、銀行の貸し渋りが広がるのを防がなければならない。
まずは来月のG20首脳会議までに三つの柱をどう進めていくか、具体的な戦略をまとめてほしい。そして、新興国を含め、資金的に余裕のある世界の国々が、IMFなどを通じて、EFSFの拡充に一致して協力する形につなげたい。
1人当たりの域内総生産(GDP)で見れば欧州は裕福だ。それが、まだ豊かとはいえない新興国に救いを求める。欧州は支援に回る世界の国々の立場を理解し、政治的なリーダーシップを発揮して、包括策を着実に実行していかねばならない。
包括策の先には、恒久的な支援制度となる欧州安定化メカニズム(欧州版IMF)の設立や財政の統合など、ユーロ圏の再構築が控える。
欧州には一連の混迷を、政治的求心力に結びつけるしたたかさが求められる。