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第1章
1-1 能力消失事件 ―Skill_Lost_Incident―
――超能力。
 かつて、それはあり得ない産物とされていた。その存在を信じた者は誰一人としておらず、仮に、自分は超能力者だと名乗り出た者がいたとしても、人々がそれを嘲笑ってしまうような、その程度の存在だった。
 だが、人間の科学技術が発展していくにつれて、超能力の存在は明らかなものとなっていき、人々は以前と対称的に率先して超能力を取り入れ、研究を進めた。
 その結果、超能力はすべての人間に備わっている先天的な力だということが判明。しかし、その力は微弱なもので、手を加えなければ超能力と呼べるほどの力にならないことも判明した。
 逆を言えば、手を加えることによって超能力は発現可能。その研究結果を生かして人々は超能力の育成を目的とする養成機関を世界各国に設けた。
 そして、月日を重ねていくごとに超能力は当たり前の存在となっていき、核兵器すらねじ伏せる超能力者まで誕生した。
 次第に、超能力者はイレギュラーと呼ばれるようになり、必要価値も高まっていった。
 それに伴って、現在では世界各国で競うように超能力者(イレギュラー)の育成が行われている。


――新未来都市(ネクステージ)
 日本もまた例外ではなく、都心部を開発して新未来都市(ネクステージ)と呼ばれる超能力養成管理都市を創設した。 
 人口はおよそ500万人でその大半が学生。と、言ってもただの学生ではなく、超能力開発を目的とした科学措置を受けている学生達だ。
 ここに住んでいる学生達は皆、世界で必要とされている超能力者(イレギュラー)になるため日々、能力育成プログラムを受けながら生活している。
 しかし、誰もが強大な超能力者(イレギュラー)になれるわけではない。
 核兵器とやり合える様な者もいれば、スプーンを曲げる程度のことしかできない者もいる。
 つまりは、才能と努力によりけりなのだ。
 そんな場所に住まう人々は一体、何を思い、何を望んで生きているのか。
 強大な超能力を使える者が慕われ、使えない者をごみの様に扱う、こんな薄汚れた世界で。


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 ここは新未来都市(ネクステージ)にある学生寮の、とある少年の部屋。
 鍵はしっかりと掛けられており、中は完全な密室状態。当の少年はそんなセキュリティー対策バッチリの部屋でスヤスヤと眠っている。時刻は朝7時になる1分前。学生が本分の彼にとってはそろそろ起きなければならない時間だ。
 しかし、少年にはまったく起きる気配がなく、
「……綺麗な美少女が二人も……ムフッ……」
 と、幸せすぎる夢を見ながら寝言を呟いている。当然、時間はそんな彼を待ってくれるはずがなく、とうとう朝7時となった。
 その直後、虚空から一人の少女が忽然と少年の部屋に現れた。鍵を開けて部屋に入ったわけではなく文字通り、虚空から。
 その少女はベッドの上で熟睡中の少年を見つけるや否やベッドによじ登り、少年の上に馬乗りとなった。そして耳元に顔を当て、ここぞとばかりに大きな声で、
「朝だよ――ッ! 起きて――ッ!」
 絶叫。さすがに耳元で叫ばれては天国にトリップ中の少年も目覚めるしかない。少年は重たい瞼を開けて、ひとまず辺りを見渡す。そして事態を把握したのか、徐に口を開いた。
「あ、あれ? 綺麗な美少女はいずこへ……?」
 残念ながらまだ寝ぼけていた。少女の方はというと、少年がどんな夢を見ていたかなんて知る由もなく、そのセリフが自分への当てつけだと思ったのか、拳を大きくテイクバックさせて少年の腹部辺りを目掛けて痛烈なパンチを解き放っていた。
「ぐふっ……」
「美少女じゃなくて悪かったですねっ!」
 パンチをもろに受けてしまった少年はやっと状況を飲み込んだのか、痛みに堪えながらも少女の顔を見ながら一言。
「うう……、あのー、(かえで)さん? 俺はちゃんと鍵を掛けて眠ったのですが、あなたはどうして俺の部屋に入室しているのでしょうか?」
「え? 能力を使って入ったんだよ?」
「…………」
 少年はわずかな沈黙の後、彼女――如月(きさらぎ) (かえで)の突拍子もないセリフで完全に覚醒した。
「なるほどね」
「うん。わかってくれた?」
「『うん。わかってくれた?』、じゃねぇよ!? 勝手に人の部屋に入って来んなって前から言ってるだろ! お前の能力の前じゃ、天下の電子ロック様も真っ青だな!?」
「(笑)」
「笑ってごまかすなっ!」
 そう。楓は『空間移動(テレポート)』の能力を操る、この街でも屈指の超能力者(イレギュラー)なのだ。
新未来都市(ネクステージ)に住む超能力者(イレギュラー)達の序列を決めるランク認定では最高位(LANK7)。そして10人いる最高位(LANK7)の中では第8位に君臨している。彼女にしてみれば精密な電子ロックなんて空気同然。
「で、なんか用があって来たんだろ?」
 楓は少年の兄妹でもなければ彼女でもない。つまり、楓が少年の部屋に来るのは決まってなにか用事がある時だ。
「あ、そうだった。手紙を届けに来たんだよ」
 手紙、と言ってもただ紙に字を書いた様なものではない。科学技術が発展している現在では、送り主の声と立体ホログラムを組み込むことが出来る電子機器を手紙の手段として扱っている。
「誰からなんだ?」
 少年は、そんな電子機器を受け取りながら楓に質問する。
「アレストの本部からだよ」
 対能力者用警察部隊、通称―アレストは新未来都市(ネクステージ)の治安を守る組織団体のことだ。従来の警察の様に銃などは必要とせず、超能力を扱える者だけで構成されている。ここ、新未来都市(ネクステージ)では銃などを物ともしない輩が多数存在しているため目には目を、ということで超能力者(イレギュラー)が街の治安を守る任に当たっているのだ。
 なぜ、楓がアレストからの手紙を持っているのかと言うと、彼女自身、アレストの構成員だからだ。アレストに年齢制限は存在しない。超能力を持っていることが大前提でアレストが行う採用試験に合格すれば誰だってなることが可能だ。現に楓はまだ16歳である。
「あのアレストがどうして俺なんかに手紙を?」
 アレストはより強力な超能力者(イレギュラー)を好んで採用する。話によれば、楓は自身の超能力の強大さが認められ、推薦によってアレストの構成員になったらしい。だが、逆を言えば虚弱な超能力者(イレギュラー)などに用はないのだ。少年はこの街のランク認定で最低位(LANK1)。アレストはそんな自分に何の用があるのか。そう少年は思ったのだ。
「うーん。内容は聞いてないんだよね。見てみればわかるんじゃない?」
「おう」
 そう言って少年は送り主の声を聞くため、電子機器のボタンを押す。すると、電子機器は静かな機械音とともに送り主と思わしき立体ホログラムを映し出した。二人はその光景に慣れているのか驚いた様子はなく沈黙を守っている。数秒の間があった後、電子機器が映し出している、送り主を形どった立体ホログラムが徐に内容を話し始めた。

『こんにちは、楠木(くすのき)(りょう)()君。私はアレスト本部に所属している天羽(あもう)(わたる)という者だ。よろしく。早速、本題に入るが、データを調べる限り君は極めて珍しい能力を持っているみたいだね。そこで、是非とも君に協力してもらいたい事件があるんだ。興味があるのなら本日の18時に本部まで来て欲しい。君に会えることを楽しみにしているよ。では』

「……これって、本部直々のオファーってことか?」
「そう……みたいだね」
 少年――楠木涼矢は役目を終えた電子機器を近くにある机の上に置いて、なにやら思案顔で楓に質問する。
「この、協力してほしい事件ってなんのことかわかるか?」
「たぶん、能力消失(スキルロスト)事件のことじゃないかな」
――能力消失(スキルロスト)事件。
 近頃、新未来都市(ネクステージ)で多発している事件のことだ。何人もの超能力者(イレギュラー)能力消失(スキルロスト)を起こして意識不明の状態に陥っており、原因は不明。能力消失(スキルロスト)は前例がないため、超能力者(イレギュラー)の犯行なのか、科学者の犯行なのか、詳細は未だに掴めていない。
 この事件は能力消失(スキルロスト)も関わっているわけあってか、超能力者(イレギュラー)の間では激しく話題になっていて、かくいう涼矢も例外ではなく、能力消失(スキルロスト)事件の概要くらいは知っている。
「最近、問題になっている事件のことか。そんな重要な案件を俺みたいなやつが協力してもいいのか?」
「アレストはこの事件のせいで連日連夜、頭を抱えてるからね。猫の手も借りたいぐらいの状況だよ。目ぼしい超能力者(イレギュラー)をリストアップして色々な人に協力を要請しているんだと思う」
「なるほどな。楓もこの事件を当たっているのか?」
「うん。でも、結構手詰まり中なんだよね。被害者の超能力者(イレギュラー)達は皆、意識不明の状態で事情聴取も出来ないし、目撃者もいないの。だから街の警備を強くしてるだけで犯人のしっぽはまるで掴めてないよ。正直言って、これは稀に見る難事件かもね」
 ここまでの話を聞いた涼矢は心底、興味を持ったのか寝起きなのにも関わらず、顔はキラキラしている。涼矢は我ながら現金なやつだと思いつつ、質問を続けた。
「アレスト本部って確かエリア17にあるんだったよな?」
 新未来都市(ネクステージ)は18のエリアに区分けされていて、各エリアに数々の施設が建設されている。涼矢達が今いるのは、学校や学生寮の集まるエリア10。アレスト本部などの行政機関があるのはエリア17だ。
「そうだけど涼矢、これ引き受けるの?」
「今のところはな。興味深い事件だし、前々から調べてみたいとは思ってたんだよ」
「ふーん。でも、いくら涼矢が珍しい能力を持ってるからってよく、最低位(LANK1)なんかに手を出したよね。アレスト本部はもはや末期かもだよ」
「あのな、お前が最高位(LANK7)超能力者(イレギュラー)なのはわかってるけどよ、最低位(LANK1)の奴を馬鹿にする言い方はやめた方がいいぞ、ホント。最低位(LANk1)最低位(LANK1)なりに頑張ってるんだから」
「それはわかってるけどさ。でも、この街はいわば上意下達、弱肉強食の世界。科学者達が開発した超能力育成プログラムを受けても、超能力が発現、成長しない人なんて、才能がないとしか言いようがないよ?」
「うぐっ――」
 確かにそうだ。強力な超能力者(イレギュラー)は慕われ、虚弱な超能力者(イレギュラー)は無下にされる。ここはそういう街だ。この街の学生は科すべき授業に加え、脳に直接干渉する科学機器を使用して無理矢理に超能力を発現させる超能力育成プログラムを受講している。それでもなお、能力が発現しない人や、強力な超能力に成長しない人は、才能がないと言われてしまえばそこまでだ。
「とは言っても、本当に涼矢の能力は珍しいよね。なにせ、人の能力をコピー出来ちゃうんだから。そんな超能力者(イレギュラー)、街中を探しても涼矢だけだと思うよ?」
――楠木涼矢の能力名、『能力模倣(トレースハンド)』。
 涼矢は右手で触れた超能力者(イレギュラー)の能力をコピーして使うことが出来る。逆に左手でコピーした能力を持つ超能力者(イレギュラー)に触れると能力は元に戻る。簡単に言ってしまえばこういう能力だ。
 一見、便利に見える能力だが、発動条件が至って複雑で本人自身わかってない点も多々あり、デメリットも幾つかある。その上、この能力は前例者がいないため未解明。その関係でこの街のランク認定に使用される能力計測器(ステータス・チェック)が反応せず、いつまで経っても最低位(LANK1)の烙印を押されてしまうという不憫を招いてしまっている。
「悲しいことにこの能力のせいで俺は永遠に最低位だけどな。まぁ、今回はこの変な能力のお陰でこういったオファーが来たんだから感謝かもな」
「だね。以上、楓さんの伝達事項でしたー。そいじゃ、私は124支部に少し用があるからもう行くね。学校遅れないようにしてよ? せっかく私が起こしてあげたんだからさ」
 124支部というのはアレストが各エリアに設けている場所の一つだ。エリアごとの監視を行き届けさせるための手配らしい。
「わかってるよ。お勤めご苦労様です」
「はいよ。あ、そうだ。私の能力、コピーしとく? 楽だよー?」
「わかってて言ってんだろ、お前。『空間移動(テレポート)』は扱いが難しくてコピー出来たとしても上手く扱えないんだよ! どこかの誰かさんみたいな能力なら扱いやすいんだけどな」
 そう。これが涼矢の持つ『能力模倣(トレースハンド)』のデメリットの一つ。
 能力をコピー出来たとしても、上手く扱えるものと扱えないものがあるのだ。『空間移動(テレポート)』は移動先の座標の位置と空間把握のための複雑な計算が必要なため、『空間移動(テレポート)』についての知識がない涼矢は使うことが不可能なのだ。コピー出来ても使えなければ意味がない。
「ごめんごめん、からかっちゃった。で、どこかの誰かさん、って?」
「あー気にすんな。俺と会うたびに絡んでくるやつのことだ。それより時間大丈夫なのか?」
「あ、いけない。そろそろ行かなくちゃ。じゃ、また学校で」
「おう。あ、それとさ」
「なに?」
「お前は充分に美少女だから安心しろ。朝言ったのは夢に出てきた美少女のことだから」
 涼矢が朝の誤解を解くためにそう言うと、楓は瞬時に頬を赤く染め上げ、
「―――ッ! うっさい!」
 という言葉と共に大きく拳をテイクバックさせる。
「ちょ、待っ……デ、デジャヴなのか!?」
 案の定、楓の鉄拳は涼矢の腹部辺りを捉えていた。
「じゃあねっ!」
 声が上ずりながらもそう言い放ち、自慢の空間移動(テレポート)能力を発動させて楓は虚空へと消えた。
「な、なんでだよ……、うぅっ……」
 涼矢は理不尽だ、と思いつつ学校に行く準備を始めるのだった。


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「では授業始めますよぉー。今日は超能力の原点、第六感について話したいと思いまーす」
 この学校は今年で二年目。そして、このクラスになってからは早一ヶ月。ここ、新未来都市(ネクステージ)に住む学生達は皆、国語や数学などの通常授業に加えて、超能力についての勉強もしている。今、行われている六時限目はまさにその授業だ。
 しかし、涼矢はそんな授業など集中できるわけがなかった。理由は簡単。超能力学の担当の先生が素晴らしすぎるボディーを垣間見せているからだ。健全な男子高校生としてはどうしても視線があらゆるところに飛び交ってしまうため、授業に耳を傾けることができない。
「なぁー楠木? やっぱ水上先生の胸、デカすぎるよな?」
 と、隣に座っていた悪友、(たちばな) (けい)(すけ)が声を掛けて来る。
「だ、だよな。俺も切に思うよ」
「あれ、なんかの能力なのか? 『乳房増幅(バストアップ)』的な?」
「もしそんな能力があったら全国の貧乳が大喜びだな。ちなみに水上先生は無能力者(レギュラー)だぞ」
「へぇ……。でも、あれは反則だよな。集中できねえよ」
 こんなこと言ってるから俺達は永遠に最低位(LANK1)なのかもな、と涼矢が叫ぼうとしたところで、
「そこの二人ー。授業聞いてくださいー。次、喋ったらー、この第六感についてのレポートをまとめてもらいますよー?」
「「はい、すいませんでした」」
 涼矢と慶介の言葉が一瞬でシンクロする。
 第六感、というのは人間の脳が無意識に働かせている超感覚のことで、これを最新の科学技術によっていじくり回すことで超能力の発現を可能にしている。しかし、この第六感は学生達にとって究極に難しい項目でそのレポートをまとめる、なんていうのは「あなた、死んでください」と言っているようなもの。そのため、涼矢と慶介はそんなデスゲームを避けるため秒速で謝ったのだ。
「よろしいー。じゃあ、授業の続きを始めまーす」
 謝ったのはいいものの、涼矢には授業を聞く気なんてまったくないわけで、机に突っ伏して瞼の上と下を合わせるだけだった。ちなみに涼矢は校長先生の話とかも聞けないタイプである。
「水上先生ー。楠木君が机に突っ伏して天国にトリップしようとしてまーす」
 今から美少女と会うんだ、というところで隣の悪友が告発したため、涼矢はハッとして顔を瞬時に上げ、水上先生に顔を向ける。当の先生は、
「……うぅ、私も授業頑張るから聞いてよぉー」
 と、見ただけで抱擁したくなる小動物みたいな顔をしながら涙を滲ませていた。
 くそ、美少女との再会が、とか思っていると、クラスメイト達の「先生、いじめんなよ」みたいな鋭い視線が涼矢に向けられていた。

 結局、本日最後の授業はフルで起きていたのだが、授業はまったく頭に入らず、損しかしなかったという感じで終わった。
「あぁ、眠みぃ」
 学校の玄関口にある下駄箱のロッカーに手を掛けながら涼矢は一人ごちた。
 と、革靴に履き替えようとしたところで、涼矢の前に一人の少女が現れた。
「いたいた。涼矢、探したんだよー?」
「わっ、びっくりした。楓か」
 驚くのも当然である。楓は自慢の能力で虚空から涼矢の前に姿を現したのだから。
「ハハハ、ごめん。てか、また学校で、とか言っておきながら放課後に会うことになるとはね」
 涼矢と楓は同じ学校に通ってはいるがクラスも校舎も違う。
 新未来都市(ネクステージ)にある学校は『能力のランク別』でクラス分けをするため、涼矢と楓が同じクラスになることは間違ってもないのだ。エンカウント率が少ないのは致し方ない。
「で、なんか用か?」
「アレスト本部のこと、忘れてると思ってさ」
「あ……わ、忘れてねえよ」
「いや、絶対忘れてたでしょ」
「今日18時にエリア17にあるアレスト本部に行く、だろ? うん、大丈夫だ」
「ふーん。ならいいんだけどさ」
 実際、涼矢は忘れていた。ただ単に、楓のセリフで朝の一コマを思い出しただけだ。アレスト本部に出向き、能力消失(スキルロスト)事件の捜査協力をするということを。 
「あ、そうだ。一緒に行こうぜ。いまいち、本部がどこにあるんかわからねえんだよ」
 勘付かれる前に涼矢は必死に話をそらす。
「そのつもりだったんだけどさ。やることがまだ残っててどうにも行けそうにないんだよね」
「アレストの仕事か?」
「まあ、そんなとこ。能力消失(スキルロスト)事件に少し進展があったからさ。その調査」
「ならしょうがねえな。一人で行くことにするよ。仕事、疲れない程度に頑張れよ」
「うん、ありがと。用はそれだけだから。じゃ、またね」
 そう言うと、楓は自身の能力によって一瞬にして虚空へと消え去った。ホントに嵐みたいなやつだな、と涼矢は思いつつ、エリア17に向かうため、外に繰り出したのだった。


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 エリア17に行くためには、エリア間を縦横している自律バスに乗らなければならない。自律バス、というのは進んだ科学技術が生み出した産物の一つで、従来の様に人が運転しているのではなく、プログラミングされたシステムが操作している乗り物だ。
 エリア17に用がある涼矢はこのバスに乗るため、各エリア内に配置されているバス停を目指して歩いていた。
「どんな感じなんだろう。アレストの本部って」
 と、今まで一度も行ったことのない場所に最大限の想像を膨らませながら。
 しかし、そんな幸せな想像は後ろからする聞き覚えのある声によって中断された。
「あんた、クズの木ね!? 今日こそ決着をつけてあげるわっ!」
 涼矢はこの声を聞いた瞬間、背中に絶対零度でも訪れたかのような寒さを感じた。寒さと言っても悪寒の方。彼女が現れると自分がひどい目に遭うことを知っているからだ。
 声のした方に振り返ってみると、5メートル程先に少女が立っているのを確認できた。周りに人がいないせいか、少女が際立って見える。紺色の短いプリーツスカート、白いワイシャツに赤色のリボン、そして、その上に白いセーターという格好。どこにでもいそうな普通の女子高生。が、涼矢にはその少女に見覚えがあった。
 涼矢はやっぱりあいつか、と全力でため息をつきながら、まず自分への汚名に訂正を入れる。
「毎回言っているように俺はクズの木じゃねえ。くすのきだ! いい加減覚えやがれ」
「うっさい! 今日こそはあんたを炭にしてあげるわ! 私と同等の発火系能力者(パイロキネシスト)なんてありえない。燃え尽きなさい!」
 そう言うと、少女は右手を前に突き出して炎を射出した。チャッカマンとかライターとかの炎ではない。彼女自身が出した能力によっての炎だ。色は青白く、見ただけでも超高温度だとわかるくらいの炎。実際には約四〇〇〇度。彼女が言った『あんたを炭にしてあげるわ!』は比喩表現とかではなく本当に出来てしまうのだから笑えない。
「ちょ、おま、やめ……」
 こちらに向かってくる炎に気付いた涼矢は、瞬時に腰をかがめて少女(歩く厄災)が射出した炎を回避し、頭上をかすめるだけ、という結果に留めた。
「あ、あぶねー、一瞬で髪の毛がフライアウェイするとこだった……」
「チッ、外したか」
「俺を路上でバーベキューにするつもりか!? そしてお前は壮大な勘違いをしてる! 頼む。冷静になれ!」
 涼矢は案の定、身に起きたひどい目に泣きそうになりながらも立ちあがって、一生懸命に弁明する。
「勘違い? そんなことはどうでもいいわ。早くあんたも炎を出しなさい! 勝負よ、勝負」
「だから、それが勘違いなんだ。俺はお前に触らなきゃ炎を出せないし、発火系能力者(パイロキネシスト)でもない!」
 勘違い――少女が涼矢のことを発火系能力者だと思っているということ。
「わ、私に触らなくちゃって、こんな路上でななな、なに変態染みたこと言ってんのよ、公然わいせつ罪で訴えるわよ?」
 そんな反論をしながら少女は涼矢に向かってまた炎を射出した。しかし、今度は避ける必要がないくらいに軌道が反れていた。涼矢の発言に気が動転しているのだ。
「お、落ち着け。話そう、話せばわかる。これまで何度か言おうと思ってたんだけど、今日は言う。だからやめてくれ。俺は焼死なんかで一生を終えたくない」
「そうやって私を言い包める作戦ね。騙されないわよ? さぁ、今日こそ決着をつけようじゃないの。新未来都市(ネクステージ)第8位の、この私がそう何度も引き分けると思ったら大間違いよ」
「大間違いなのはお前だ! くそ……埒が明かねえ……」
 何度言っても落ち着きを取り戻さない彼女を見て涼矢は少々あきれ始めていた。何か彼女を冷静にさせる手段はないのか思案していると、ふと彼女の持っている鞄に目が付いた。そこには可愛い物系が好きなのかピンク色のストラップが何個も付いていた。
 涼矢はまさかな、と思いつつ、
「あっ、あそこに可愛いピンクのウサギちゃんが!」
 と、指を差しながら、小学一年生ぐらいにしか通用しないような嘘を言う。
 が、その言葉を聞いた彼女は
「えっ!? どこどこ」
 と、涼矢の指差す方向に向いていた。
(扱いやすいな、コイツ)
 そう思わずにはいられなかった。
「ごめん、嘘だ」
「嘘かい!」
「よし、話を聞いてくれ。俺は発火系能力者(パイロキネシスト)ではなく、お前の能力を模倣(トレース)しただけなんだ。だからお前と同等の能力を使えるなんて当たり前、というわけだ。嘘じゃない。ホントだ。信じてくれ」
 少女がいるはずもないピンク色のウサギちゃんで気が抜けているうちに、流れるように誤解をとくためのセリフを述べる。これで話を聞く気になってくれ、と涼矢は必死に願った。
「そんな能力、聞いたことないんだけど?」
 ピンク色のウサギちゃんのせいで闘志が失せたのか、少女はやっと涼矢の言うことに興味を持ったらしい。
「だけど、ホントのことなんだ。それが俺の能力。試しにやってみるか?」
「た、試しにって、私に触るんでしょ?」
「まあ、そうなるけど、一瞬だ、一瞬。これで誤解もとけるだろ」
超能力モノです。オワコンじゃないかな……、とか不安ではありつつもがんばっていきたいと思います。稚出な文章ですが、一度でも面白い、と思っていただければ幸いです。
次回も足を運んでくださると、嬉しいです。

ではでは。
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