【バンコク】タイの洪水被害の影響は、サプライチェーンの断絶を引き起こし世界的な大手製造業者にも広がっている。
トヨタ自動車に続いて26日には、米自動車メーカー、フォード・モーターと仏タイヤメーカー、ミシュランがタイ工場での一部操業を停止した。フォードは、これまでの生産は計画を1万7000台下回っており、減産規模は3万台に上る可能性があるとしている。
同社は「できるだけ早期に生産を再開し、他の地域への影響を最小限に抑えるために、納入業者と緊密に協力している」と述べた。ミシュランの広報担当者は、リスクの高い地域での一部操業をやめたとし、自動車メーカーへの販売と生産量が打撃を受けるだろうと話した。
両社は他の企業と同様に、タイへ過度に依存してきた痛みを感じている。人口6700万人の中規模の国、タイの世界のサプライチェーンにおける並外れた重要性が今明らかになりつつある。
中国のコンピューターメーカー、レノボ(聯想集団)は26日、米コネティカット州の面積に匹敵する洪水で納入業者が被害を受けているため、ハードディスクドライブ(HDD)の供給は来年第1四半期(1~3月)まで逼迫(ひっぱく)するとの見通しを示した。
テクノロジーコンサルティングのIHSアイサプライは、今年第4四半期のHDDの納入はタイ洪水の影響で最大30%減少する可能性があると警告した。タイ は世界のHDD生産の約40%を占めている。米HDDメーカー、ウェスタン・デジタルのタイ工場は洪水のために閉鎖され、同業のシーゲイト・テクノロジー は間もなく部品不足になるとしている。この7月末以来続く洪水では360人以上が死亡している。
米アップルのクック新最高経営責任者 (CEO)は最近、アナリストに対して、今後数カ月でHDD不足に直面するだろうとの見通しを示した。台湾のコンピューター受託製造業者、コンパル・エレ クトロニクス(仁宝電脳)は26日、11月までの部品は十分にあるが、その後は不透明だと述べた。
タイの工場への依存が、多くの企業のコスト削減と利益押し上げ戦略の弱点であることが浮き彫りになった。つまり、サプライチェーンを絞りすぎたた め、予想外の断絶に持ちこたえられないということだ。今年3月の日本の大震災で重要な電子機器部品や特殊化学品の供給が途絶したことから、世界の国々の経 済成長率は第2四半期に減速した。昨年はアイスランドの火山噴火で大西洋の空の貨物便や旅客便が混乱した。
悪化を続けるタイの災害を受けて、一部の企業は長期的な安全性を犠牲にして目先の効率を得ようとして、限定的なサプライチェーンを過度に推し進めたのではないか、という議論が起きている。
アジアのサプライチェーン専門家は匿名を条件に、「日本の大震災とタイ洪水で見たように、壊滅的なサプライチェーンの崩壊とその広範囲な影響は『ブラックスワン的』珍しいことではなく、『新しい典型』となりつつある」との見方を示した。
タイの9工場での操業停止に追い込まれた東芝は26日、フィリピンで25日からHDDの生産を始めたことを明らかにし、マツダは先に、タイ工場での操業再開を目指して中国と日本から部品を輸入することを検討すると述べた。