最初に言ったように、僕らの業界は注文があって原稿を書いています。だた注文される時には、大体、原稿料はいくらかって分かんないんですよね。つまり原稿料は誰が決めてるかというと、注文する側が決めてるわけです。
出版社の方が、お金の流れから言うとお客さんですよね。出版社が作家に対してこういうのを書いて下さいって、オーダーするわけですから。お金を払う、つまり消費者ってことです、原理的に言えば。
これはコンビニなんかで考えた場合、「ボッキーが欲しかったのにそれが無いからプリッツでいいや」「じゃあ本当は200円なんだけど100円で良い?」とか、そういう買い方しないですよね(笑)。
つまり資本主義というのは普通は売る側が値段を決める。ある程度の量産体制が整ってくれば定価、プライスがついてくる。それで、定価を決めるのは売る側だ、というのが資本主義の大原則になるわけです。
そう考えると、僕がたまたま属している出版業界は、注文する側がお金を決めるという意味では、ちょっと逆ですよね。
ただし、注文する側が完全に決定権を持ってるかというと、やっぱり相場みたいのがあるわけです。400字でいえば最低5千円くらいで、一番上でも1枚あたり2万円くらい。それは村上春樹さんでも2万円くらいで、それほど有名じゃなくても1万円くらいにはなる。そんなに極端な差はないわけです。
ところがファッションの場合、僕がもし指輪を作ったとしたら千円でも売れないかも知れません。威せば別ですけどね。しかし、カルチェの3連新作だったら50万円でも売れてしまいます。実際に、それを貴女方が作ってたとしても、です。カルチェという名前がついて、それが3連リンクで、カルチェのものだと認知さえされていれば、50万円という値段がつく。
皆さんは年齢的に若いから、カルチェには高級指輪というイメージがあるかも知れません。しかし、もともと装飾品というのは、全部オーダーメイドだったわけです。装飾品を買うなんていう人は、王侯貴族とかおよそお金持ちしかいなかった。そんな時代が西欧では19世紀の終わりまで続きます。
そこへ、カルチェはレディメイドという方法を始める。最初から作っているものを、9号とか10号というように、5段階とか3段階に大きく分けて、ある程度の調整をすれば誰でも身につけられるようにする。その代わり、色んなバラエティのものを、さまざまな店舗へ2個づつ置いて、100店舗だったら200個作ればいいといったことを、カルチェは指輪の世界で初めてやるわけです。だから、まあ、ユニクロみたいな話なんですよね(笑)。