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評判と夢と

 そろそろ時間も終わりなので、まとめの話をします。
 スキャンダルと噂話とは、どう違うのか? 
 噂話は、2?3人でそこに居ない人の悪口を言ってストレスを発散する、きっと人間の本能みたいなものだと思います。
 一方、スキャンダルは、それを聞く人の側がスキャンダルだと思わなければ、成立しない。これは、ブランドも全く同じことです。いくら発信する側が、これはスーパーブランドに育てるだけの価値はあるんだと思っても、買う側がそれをブランドとしてキャッチしなければ、絶対にブランドとして成立しない。
 スキャンダルとブランドは全く無関係のように思われてきましたが、実は対の概念だといっていいと思います。ブランドは、その成立以前には挫折の連続がむしろ物語化のために必要なことなのですが、一旦ブランドとして成立した以上は最後まで成功し続けないと維持できません。スキャンダルは全くその逆で、それまで成功していたという事を前提に、秘密の暴露がスキャンダルになるわけです。全然有名でない人、成功していない人たちの場合、スキャンダルというのは起こりえません。それは、ただの犯罪か、それとも恥じさらしです(笑)。
 「ブランド」を日本に昔からある言葉で表わせば、「評判」ということでしょう。個人のお付き合いレベルではなく、生産者としての「評判」を自覚的に得る方法がブランド戦略です。評判を失墜させてしまう(犯罪ではない)事件をスキャンダルというのです。

 
 そしてブランドの本質は、人に小さな夢を抱かせるということにある。その商品を身に着けることによって、自分が良い気持ちになれるというのが、ファッション系ブランドの一番大きな付加価値だろうと思います。
 ブランドも時代によって、中身は変わっていきます。とにかく百貨店で売らなければブランドとして成立しないという、日本的、戦後的な状況も確かにありました。しかし、ヨーロッパではもう18世紀からブランドが直営店を持っていた。日本でもようやく15年位前から、ブランドショップやアンテナショップという直営店が生まれます。もともと、百貨店に預けてしまえば、自分のブランドがどういう売れ方をするのか分からない。ところが、直営店ではどんなお客さんがどういう買い方をするかを、すべて把握できるわけです。できるならば、デザイナー自身が自分で売る空間を持ち、そこでときどき自分が接客するということが、非常に理想的な姿だと思います。ブランドを作っていく上で、そのことを経過しないで成功した例は1つもありません。


 いま、銀座や青山では何が起きているか? この春にはエルメスが大きなお店を銀座に作りました。ルイ・ヴィトンの直営店が来年にはできるし、グッチは再来年にできる。世界的にみて、高級ブランドがもっと巨大な高級ブランドとして、日本にも直営店をどんどんどんどん出店してきています。そして、そこで売れ残った商品は郊外で、例えば軽井沢や札幌で半額で売り切ってしまう。不況になればなるほど、そういうブランドは独り勝ちしていく感じがします。しかし巨大ブランドの最大の弱点は、作り手(デザイナー)が見えないということです。
 そんな中で、これからきっちりと良い物を作ってゆく人は、買ってくれる人とダイレクトでやりとりができるチャネルを用意しておくということが命綱なんだと言えます。
 日本でも経済が落ち込んでいますが、なぜ銀座のエルメスに長い列ができるのか? これはもう、安売りスーパーとかユニクロに飽き足らない人たちが、むしろ夢を取り戻したいという気持ちの表れなのではないでしょうか。しかし、それをフランス人やイタリア人に任せておく手はないと思います(笑)。


 日本にも高い技術や伝統というのはそれなりにあるわけです。でも、日本でいま世界中に通じている服飾ブランドは、残念ながらワコールだけですよね。
 これからは日本の有能なデザイナーがたくさん、東京とか地方にかかわらず、小さくても直営店を持ったり、ショーをやったり、自分の個展を持って、そこで直接販売するということをしていってほしい。
 スキャンダルや争いごとが人々の中心的な関心事であるのは、日本にとっての不幸だと思います。ですから私は夢を紡ぐ仕事に、ぜひ皆さんにも関わっていってほしいと心からそう願っています。工業高校を出て技術者になれない、農業高校を出ても大半が農業を営めない、ファッションスクールを出て服飾の仕事に就けない。それはシステムの金属疲労ですが、しかし制度のせいにしていては自分の人生がもったいない。夢を捨てるか捨てないかは、制度の問題ではなく、一人一人の問題です。
 ではまた、お会いしましょう(拍手)。しゅわっち。

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