2011年5月10日11時23分
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柳の下にいつも泥鰌(ドジョウ)は居(お)らぬ――過去の成功体験を追っても無駄とのことわざだが、エンターテインメント業界の通説は「柳の下にはドジョウ48匹!?」。巨大な成功モデルに追随するアイドル業界に、その神髄を探った。
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■AKB商法徹底 「ももクロ」急上昇
東京・中野サンプラザで先月、アイドルグループ、ももいろクローバー(ももクロ)のコンサートがあった。2階席まで約4400人のファンが埋め尽くした。3年前のデビュー時、彼女たちの主戦場はショッピングセンターなどの店舗。客も200〜300人のことが多かった。
音楽性もキャラクターも違うが、ももクロは、ビジネス戦略では国民的アイドルとなったAKB48に強く影響されている。ときに「AKB商法」と揶揄(やゆ)される特典商法を進化させ、人気急上昇しているのだ。
AKB商法の最大の特徴は、CD購入でメンバーと握手できるといった「特典」。握手券を目当てにCDを大量買い→ヒットチャートで順位を押し上げ→メディアに露出→さらに人気過熱、という“インフレスパイラル”になるという。
ももクロはAKB商法をさらに徹底した。昨年発表のシングル「ピンキージョーンズ」の場合、3種類の初回限定盤CDと、通常のCDの計4種を発売。限定盤のどれか1種を買えば、メンバー6人の誰かと握手できる。限定盤と通常CDの2種買えば、メンバーの誰かと近況報告会。限定盤3種なら、メンバー誰かと一緒にインスタントカメラ撮影。計4種全部買えば、お気に入りメンバーを指名し一緒に撮影できる。
インディーズ時代は、1枚千円のシングルを50枚買うと、その購入者に向けて特別に制作したオリジナルDVDを付けた。また、秋葉原のUDXシアターで連続公演もした。すぐ近くにはAKB48劇場がある。ももクロの所属事務所はこう話す。
「AKBの公演日にわざとぶつけた。AKBはすでに異常人気で、劇場に入れる抽選倍率が50〜100倍。キャンセル待ちで入れなかったファンがこちらに流れてくるのを狙った。ありていに言えば、おこぼれをちょうだいしたかった。批判があるなら甘んじて受けますよ」
すがすがしいまでの露骨さで、AKBを激しく追い上げる。
■「すごさ」耐えられない
早稲田大学の若林幹夫教授(社会学)は著書『社会学入門一歩前』でスター、カリスマ、独裁者論を展開。ブランドやアイドルへの熱狂の本質を喝破した。
ブランドやアイドルそのものが「すごい」のではない。みながすごいと言うからすごい。「すごさ」は世間が「すごいと思うこと」の後から現れる。「よくわからないけどありがたい」という、すごいものによる世界理解は、「わからないことに耐えられない人」に絶大な力を発揮する。それはファシズムや全体主義への熱狂、陶酔と無縁ではない――そんな内容だ。
しかし、「会いに行けるアイドル」を標榜(ひょうぼう)するAKB48や個人向けDVDまで作ってくれちゃうももクロは、ファンとの近さを競い合うようでもある。「すごさ」とほど遠い新種アイドルが現れたのか?
「偉大さ、崇高さなどの過去のスターやカリスマにあった『すごさ』は、江戸時代から明治、昭和と時代を経るごとに、どんどんフレンドリーなすごさとでもいうものに変調している。それは、我々の方が『あんなに偉い人はたまらない、耐えられない、目指したくもない』と変わってきたから」(若林さん)
すごさの「物神化」で熱狂することに変わりはない。またそこに危機感も持っていないと言う。「宗教や政治を始め、元来人間は『すごさ』を求める存在。そういうワナがあることを、クールに、知識として持っていればいいんだと思う」(近藤康太郎)