3月11日の巨大地震とその余震の際、宮城県と福島県の大手スーパーの店舗で、エスカレーターが下の階まで落ちる事故が3件起きていたことが、NHKの取材で分かりました。けが人はいなかったということですが、業界が定めるエスカレーターの耐震基準が十分でなかった可能性も指摘されていて、この大手スーパーでは、全国にあるおよそ2000台のエスカレーターについて、ワイヤーで固定するなどの補修工事を決めました。
エスカレーターが落下する事故があったのは、宮城県仙台市と福島県にある大手スーパー「イオン」の3つの店舗です。このうち仙台市の店舗では、2階の売り場と屋上の駐車場とをつなぐ重さ8トンほどのエスカレーター2基がおよそ6メートル落下し、それぞれ下の階のエスカレーターを押し潰すように折り重なりました。地震が起きたのは利用客が少ない平日の午後だったため、けが人はいなかったということです。エスカレーターは、両方の端に「アングル」と呼ばれるL字型の金属製の板があり、それぞれを各フロアの床下にある鉄骨にかけて設置しています。メーカーで作る業界団体などでは、地震でエスカレーターが落下するのを防ぐため、アングルのうち、鉄骨にかかる「かかり代(しろ)」と呼ばれる部分の長さを一定以上にするよう、指針で基準を定めていますが、今回の地震では、この基準を超えて建物が水平方向に揺れたため、かかり代が鉄骨から外れ、落下した可能性があるということです。このため、イオンでは、かかり代が鉄骨から外れても直ちに落下しないよう、エスカレーター本体と鉄骨とを頑丈なワイヤーで結ぶなどの補修工事を行うことを決め、首都直下地震や東海地震、それに東南海・南海地震などで強い揺れが予想される地域にあるおよそ2000台について、優先的に工事を進めることにしています。今回の対策についてイオンでは、「落下事故が起きた以上、お客様の安全を考えて、二度と同じことが起きないように、独自の対策に踏み切ることにした」と話しています。今回の落下事故について、国土交通省は、東日本大震災の被災地を中心に、ほかにも同じような事故が起きていないか確認を進めるとともに、現在の基準に問題がないかどうかも含め、エスカレーターの落下防止対策の在り方について検討を始めたいとしています。耐震設計を専門とする、東京理科大学理工学部建築学科の北村春幸教授は、今回の落下事故について、「最近の建物は、指針が想定している傾きを超えても大きく壊れないように、耐震性の改善が図られてきている。建築の分野、特に構造設計の分野の新しい知見を、エスカレーターのように、落下すると人命にかかわる設備の耐震設計に生かしていく必要がある」と話しています。