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スポーツ報知>コラム>城田憲子の「フィギュアの世界」

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日本のメダリストのコーチたち~長光歌子編(4)

トリノの世界選手権で優勝し観客に笑顔で手を挙げる高橋と長光コーチ(写真提供・今永百合子)

 数多の苦難を越えて、高橋大輔がたどりついた五輪メダリスト、世界チャンピオンの栄光。しかし、本人はもとより長光コーチも次の課題、次の目標に目を向けている。ソチ五輪まで現役続行を宣言した大輔と長光コーチは、何を思い、進んでいくのか。

 ◆長光歌子氏・城田対談

 長光「でもね、今思えばあのケガ(右膝前十字じん帯と半月板損傷)をしたことだって、本当に無駄じゃなかった」

 城田「京都にいいお医者様がいた、それが幸いしたそうだけれど」

 長光「もう、膝の権威といっていい先生でね。たまたまトレーナーさんたちがそのお医者さんを良くご存じで、紹介して下さったんです。その出会いも大きかったですしね」

 城田「バンクーバー五輪(2010年2月)に、見事に間に合ったものねえ」

 長光「うれしいことに、あの年はプログラムも良かったでしょう? 私はオリンピックでのプログラム、両方大好きなんですよ。賢ちゃん(宮本賢二氏)が作ってくれた『eye』もすごく好きだし、『道』も好きでした」

 城田「あのプログラムで、バンクーバーのあの演技! またトリノの世界選手権(10年3月)では、さらにいい演技を見せてくれたのよね」

 長光「しかも、最終滑走でね(笑)。最初のオリンピックと同じ場所で、同じく最終滑走…。そこでもまた、4年前の経験が生きてるんですよ。五輪の時は自分の番を待ちながら、客席の大き過ぎる歓声を聞いて、『みんな、ジャンプ全部成功してるのか』って思ったんですって。でも実はあの会場、音がすごく響くでしょう? そんなこともよく分かっていたし、同じ場所で同じ滑走順を経験してるから世界選手権では、待ち時間も全然動揺しなかったと言ってましたよ」

 城田「そうなのね…」

 長光「だから城田さん、無駄な経験ってないんですね。本当に、一つもないんだと思う。あの最初のオリンピックを通ったから、この間のトリノの金もあった。5年前のあそこから、彼は本当に始まったんだと思います」

 城田「無駄な経験はない。そうすると、去年1年のことも、無駄ではないかしら?」

 長光「そう思います。今年4月のモスクワ(世界選手権)で、またあそこまで落ちて(総合5位)良かった。あの後の大輔、またさらに、気持ちが変わったんですよ。今シーズンに向け一度落ち込んでたけれど、最近やっと、その気になってきたみたい(笑)。でもまあ、『大丈夫。今からでも遅いことは無いわ』って話をしたところで」

 城田「去年はやっぱり、1回チャンピオンになったことで、迷いが出ちゃったのかしら」

 長光「そう。トリノで勝って、まだ続けるとは言ったものの、どうしたものだろう? ってしょっちゅうガタガタ言ってましたもの。なんだかやっぱり、迷ってましたね」

 城田「プログラムも去年は、両方ラテン系というのがね…。一つは雰囲気を変えて全然別物をやった方が、さらに大ちゃんの良さを見せられたかもしれないわね。色々見せておいて、それで次のオリンピックシーズンになったら、挑戦したもの全部の中から一番合っていたものをチョイスして、十分評価されるだろうもので勝負をかける、と」

 長光「特にマンボはね。プログラムが出来上がった時は、良かったんですよ。それがなぜだか、どんどんうまく滑れなくなってしまって、最後の方は辛かったですね」

 城田「マンボ、ショーナンバーとしては素晴らしかったのにね」

 長光「やっぱり去年は、本人の気持ちとマンボが合わなかったんですね。若手がどんどん4回転を跳んでいる、そんななかで自分も何とかした勝負したいのに、出来ない。どんどん気分が後ろ向きになっていく。そうなると朝の練習から、マンボなんてかけられませんから(笑)。あの気持ちの状態で、『ウッ!』とかやってられない」

 城田「そんなシーズンを経て、大ちゃんもソチまでやる気だと」

 長光「やる気らしいですねえ。大丈夫なんでしょうか(笑)」

 城田「新潟(9月、ファンタジーオンアイス)を見た限りでは、大ちゃん大丈夫? と心配もしたけれどけれど」

 長光「あの時点ではまだ、きちんとした練習出来てないですからね」

 城田「でも大ちゃんといえど、うかうかはしてられない。これからは男子の方が世界に出ていくのも大変? と思うほどの状況よね。日本にまず女子の時代があって、今は男子の時代が来て」

 長光「本当…思えばスケートも、メジャーになりましたよね。日本からも羽生君とか、たくさん伸びてきて」

 城田「世界を見てもどうなるのかしら? この間、ガチンスキーを見たけれど、まだまだ彼も先輩たちに混じるとショーのおまけ、という感じ。羽生君もガチンスキーも、まだまだあと一歩、二歩でしょう? 若手は色々学ばなきゃいけない。一方でライサチェクやプルシェンコのような、一世代前のスケーターたちがどうなるか」

 長光「彼らも少し休んで、もう一度いちからジャャンプを作り直して、チャレンジャーとして出てくる。面白いでしょうね」

 城田「また以前とは違う、新鮮なものを見せてくれるかもしれないわね。やっぱり若い選手もいいけれど、プルシェンコや大ちゃんのプログラムを早くみたいな、と思ってしまう」

 長光「それがね、城田さん。今年の大輔のプログラム、すごいですよ。私、鳥肌が立ったもの」

 城田「SPの方?」

 長光「もう、両方です!」

 城田「SPはディビッド・ウィルソンでしょ? フリーは?」

 長光「フリーは今年もパスカーレです。何といっても大輔のスケートが変わりましたから。もう本当に良く伸びるようになりましたよ。毎日、大輔のスケートを『もっと見ていたい、もっと見ていたい』って思っちゃうんです」

 城田「それは楽しみじゃないの!」

 長光「先日、賢二君がね、今年のエキシビションナンバーを作りに来てくれたんですけど、彼も『すごいですね…』って。私も調子に乗って、『あの滑り、ステップだけでも感動するわよね』なんて言い合って(笑)」

 城田「先生がそこまで言うのなら、早く見たいわね!」

 長光「そんなに褒めていたらいけないんだけれど(笑)。むしろ大輔の方が『まだまだエッジワークが甘いです』って言うんですよ」

 城田「でも大ちゃんは、元からスケートのうまさがある人。うまいというか、人と違う魅力のある滑りをする人だからね。そこに今年は、フランスのミリュエル先生(ブシェ・ザズイー)の所に行ったんでしょう?」

 長光「そうなんです。やっぱり今年、世界選手権で惨敗して、私と大輔、違う頭で同じことを考えたみたい。以前から彼は、自分のスケーティングがいまいち気持ちが悪い、しっくりこない、ってずっと思ってた。じゃあ今こそ、まずは滑りを何とかしなきゃいけないな、って。さてどこに習いに行くか? デトロイトもいいけれど、ダンサーがたくさんいるリンクだから、練習の邪魔になってもいけない。そういえば以前、城田さんも『大ちゃんはヨーロッパが向いてるんじゃないの?』って言って下さって」

 城田「ミリュエルのところに行ったら? とね」

 長光「ちょうど、うちの平井絵己ちゃん(アイスダンス、全日本選手権2位)もリヨンのミリュエル先生の所で習っているし、あそこにはオリビエ(ショーンフェルダー、08年アイスダンス世界チャンピオン)もいる。まだ現役同様滑れる人が、先生として教えてくれることも、魅力だったんですよ」

 城田「ミリュエル先生もいい先生でしょう? ハートがあって」

 長光「もう、びっくりするくらい温かくて、いい先生でした。『いつでも練習に来てくれていいからね』っておっしゃって下さって、大輔のこと愛して下さって。おかげで本当に今年は、良く滑るようになったんですよ! 大輔のことは、なんだかどこに行っても、その場所その場所の先生が愛して下さって、ありがたいな、と思います。今までもそうだったけれど、今年もまたリヨンで教えていただいたことを、原動力に出来そうで」

 城田「だって大ちゃん、吸収力が他の選手とは違うものね。今年はさらにステップも伸びやかに滑るのかしらね。そうしたら演技のスケールも、もうちょと大きくなるわね」

 長光「そうなんです。だからそんな意味でも、『やめなくて良かったね!』って、言ったんですよ。あの時、トリノの世界選手権でやめても良かった。それがこうして続けることに決めて、本人は苦しいかもしれない。でも、少なくともこの滑りを身につけられたんだから、続けてみた価値はあったよね、って」(続く)

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(2011年10月20日16時01分  スポーツ報知)

著者略歴 城田 憲子(しろた・のりこ)

 1946年7月4日、東京都生まれ。立大卒。選手時代はシングルとアイスダンスで活躍し、全日本選手権ダンス部門2連覇。現役引退後は日本スケート連盟で選手強化を手掛け、長野五輪からトリノ五輪までフィギュア強化部長を歴任。また、国際審判員とレフェリー資格を持ち、五輪をはじめ多くの国際試合でレフェリー&ジャッジも務める。

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