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阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」

菊川オリンパス会長兼社長の墓穴

2011年10月19日 [leaks]

4日の唐突な外国人社長解任で、株価が急落しているオリンパスは、18日も続落して一時は1200円台まで下げた。解任発表前のほとんど半値をつけている。14日の会見で解任理由を「前社長の独断専横」とした菊川剛会長兼社長はさぞかし焦っているはずだ。ウッドフォード氏は英SFO(重大不正局)に出頭したようだから、これは国際的なスキャンダルになるだろう。

2010年にアカデミー助演男優賞と助演女優賞をとった映画「ザ・ファイター」を思い出す。力はあるのについていないボクサーの主人公(ミッキー・ウォード)が、天才肌だが身を持ち崩した兄のアドバイスで勝つというスポ根ものだが、相手にぼこぼこに打たれても、ズジンズシンと重いボディーブローで消耗させ、最後にKOするという作戦だった。

7月20日発売でオリンパスのスキャンダルをスクープしたが、当時はどこのメディアも追随しなかった。会社側が取材に応じず、通り一遍の「適切な情報開示をしているので答えることはない」というダンマリ作戦だったからだ。そこでボディーブローを放ち続けた。いつか膝を折る、と信じて。

やはりパンチは効いていたのだ。ウッドフォード前社長は日本語が読めないが、FACTAの最初の記事を耳にして、内容を知るために英訳させ、読んで愕然としたという。何が彼を不安に陥らせたかは、18日正午解禁のFACTAオンライン版(会員限定)の記事「オリンパス窮余の社長解任」(2011年11月号)が明かしている。彼は菊川会長らを問い詰めたあげく、“窮鼠”に噛まれて解任されたのだ。

それを海外有力紙の記者に明かしたため、フィナンシャルタイムズ(FT)やウォールストリート・ジャーナル(WSJ)、ニューヨークタイムズなどで、菊川会長らの嘘が暴かれ始めた。前社長に企業不正を暴かれそうになって、解任の強硬手段に踏み切ったというのが真相だと。自力で調べる気のない日本のメディアまでそれを引用しだしたから、オリンパスの株価は炎上した。

形勢不利とみた菊川氏は、頼みの綱の日経にすがる。18日夕刊の「海外買収の手数料、適正」という菊川氏の反論記事を独占掲載したのがそれだ。虫唾が走るような「御用新聞」根性ではないか。まさか、10月24~25日に開く日経フォーラム世界経営者会議に菊川氏が講師として出席するので、かばおうとしているなんてことがあるとは思いたくない。

だが、この記事で菊川氏は墓穴を掘った。ウッドフォード前社長がジャイラス買収時に正体不明のファイナンシャルアドバイザー(FA)に700億円の手数料を払ったと主張していることに対し、「払ったのは300億円」と白状したことだ。この手数料についてFACTAが送った公開質問状に対し、オリンパスは返答してこなかったが、図らずも白状したのだ。FACTA最新号の記事ではこれを「250億円以上」としているから、われわれの推定に近かったと言っていいだろう。

しかしである。2700億円の買収に手数料300億円? それだけで10%を超す法外な手数料だ。ウッドフォード前社長は、会計法人大手プライスウォーターハウスを使って調べ、ケイマン籍のAXAMという正体不明のFA(3か月後に登記抹消)になぜ支払われたかを問い詰めたのだ。M&Aの常識を超える手数料を「適正額」と強弁する根拠を、日経の記者はなぜ聞かなかったのだろう。アルティスなど売上高数億円の企業3社を700億円もかけて買収しながら、それを「赤字は判断ミス」と菊川氏が言ったところで、もう許してしまっている。ここは何の判断を誤ったかを突っ込むべきところだ。最初から過大な業績予想見積もりをもとに株主価値算定報告書を会計事務所に出させ、それに法外な値をつけた可能性が濃厚なのだから。価格最初にありきだったのに、菊川氏の嘘にまったく突っ込んでいない。

19日朝刊でも日経は「混乱収まらず」というコラム記事を載せている。しかし表を見れば一目瞭然、ウッドフォード側の主張はすべて海外紙の引用である。それで「真相は見えず」と平気で書いてある。取材できていないだけではないか。世界経営者会議への菊川氏出席を許せば、いい笑いものになるだろう。

もうひとつ、オリンパスの社外取締役3人は何をしているのか。会社側の不正を調べる立場なのに唯々諾々。順天堂大学元教授の林田康男氏はオリンパスのお得意先だし、来間紘氏は日経元専務で前テレビ愛知社長、林純一氏は野村証券出身でアングラム代表と、メディアと金融の利害関係者ばかり。ウッドフォード解任は当人以外全員が賛成したので同罪だから、このままだと株主代表訴訟の被告になるでしょう。

追記(10/19 15:00):ウッドフォード氏はFTのビデオインタビューで、「FACTAの記事を読んで恐くなった」「FACTAが報道したのに、メーンストリームのメディアは報じなかった」とはっきり言っている。日本のメディアに対する外国人投資家の不信感は増すばかりだろう。

投稿者 阿部重夫 - 11:00| Permanent link | トラックバック (0)



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発行人 阿部重夫

編集長 阿部重夫

1948年、東京生まれ。東京大学文学部社会学科卒。73年に日本経済新聞社に記者として入社、東京社会部、整理部、金融部、証券部を経て90年から論説委員兼編集委員、95~98年に欧州総局ロンドン駐在編集委員。日経BP社に出向、「日経ベンチャー」編集長を経て退社し、ケンブリッジ大学客員研究員。 99~2003年に月刊誌「選択」編集長、05年11月にファクタ出版株式会社を設立した。

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