鈴木むつお


 オピニオン
意見広告:許されないあづま会の変容 (平成22年12月19日)
 米沢市李山に社会福祉法人あづま会の介護老人福祉施設と診療所が運営されている。 大方の市民には余り関心の高い事ではないのかもしれない。 だが、現今の高齢化社会の真っ只中で起こしたこのあづま会の混乱が、拠るべき社会福祉事業者自身である社会福祉法人としての公正性、公益性を大きく毀損した運営、組織体制に変容したことへの正義を問うものである。
 問題の萌芽はこの法人が発足間もない時期から前理事長の独善的判断のもとに、本来組織体として重んじなければならない設立発起人役員の同族性、同志的結合としての組織体を正に換骨奪胎の如く繰り返されてきた役員入れ替えにより、信頼感にかけた運営が続けられてきた事での当然の帰結と言えるものである。
 功利的な意思で集めた組織者仲間での当会の運営は必然的に功利的な意思の衝突によって離合集散、下克上が起こるのは自明の理である。 あづま会での事件は当にシナリオ通りの地で行くものであった。 役員の一人は、まるで赤子の手をひねるが如くのような前理事長の解任、追放であったと述懐する。 事件の核心は何であったのか、公益団体でもある社会福祉法人あづま会の社会的責任、説明責任は免れない。 端緒になったのはやはり、前理事長と一部役員との個人的或いは自分の主体的に属する法人との功利的意思による衝突である。 米沢信用金庫本店に隣接する土地及び平和通り駐車場の土地取引に絡むそれぞれの思惑に始まる。 この両者の確執は更に米沢市当局を巻き込んでの中心市街地活性化計画の民有地取得経過にも及んでいる。 互いの私怨としての行為であり、功名と実利に長けた茶坊主的脇役が揃っての放逐劇となった。
 この様な前理事長の与えられた職務、職権を超えた行為を諌め、未然に収めるのが監査役の役目であり、職務権限である。 あづま会では、その当然にして果たすべき当時の監査役にその意思はあらず、彼もまた功利的意思をもって監査役としての職務責任を履行せず看過したのである。 否、敢えて前理事長の犯意を助長する立場に置いたのである。 事の本質はここにある。 この意見広告の主張すべき論点は当にこれをおいて外にない。
 そもそも、本会の設立は法音寺住職故高梨宥興氏、米沢信用金庫元理事長故青木厚一氏との知遇を得て小生が創設したものである。 故にお二人が鬼籍に入られた今、この法人の許されざる変容を正すべく術を得ず、この思いに至ったものである。 確かにあづま会創設理事長の法の抵触は許されないものの、更に適格性を欠く組織体制での運営は避けるべきものと考える。 創設時理念と、故人となられたお二人の御遺志にそぐわぬことは残された創設役員は許すべきでもなく、看過すべきではない。 あづま会のCG(企業統治力)の甘さをつき、巧みな換骨奪胎を踏襲し反社会的組織顔負けの乗っ取りとなる現在のあづま会の組織体制の変容はCSR(企業の社会的責任)及び説明責任を持ち得ていないことは玄を待たない。 それぞれの社会、組織の中で名を成した銀行家や経済団体の長たる者の所業とは思えない。 恥を知り、晩成を重んずべしである。 あづま会の執行役員たる公益、公正としての正義も成し得ない。 ここにあづま会の人心の一新を求めるものである。

 相生町 鈴木睦夫
平成二十二年十二月十九日

読者の声:孕む新重商主義の地方浸透 (米沢新聞 平成21年6月9日)
 迷走する民主党政権の経済政策は人気取り、選挙対策と言われるものが多く、果たして菅新総理の誕生で、その実行が担保されるのであろうか。 経済の停滞が続くなか、国、地方共に"新しい公共"の名のもとに財政規律を無視するような新重商主義と呼ぶ景気刺激策が目立って来ている。 米沢市も採択を受けたこの地方での新重商主義の浸透は新たな地域内格差を拡げる事にはならないのだろうか。
 自民党政権下よりも恣意的(しいてき)で、唐突な形での予算内示を受けて復活した米沢市中心市街地活性化基本計画(整備事業費総額44億円)に見る内容の行方である。 懸念はこの事業に含まれている民有地の取得にあると言われている。 一つは請託、もう一方は地財法に抵触する目的寄附との疑いである。 5月19日の市政協議会にも報告され、用地の取得が着々と進められていると聞く。 果たして如何なる方策が巡らされているのか、地域経済振興と市総合整備計画推進の名において、新重商主義の浸潤が、地方財政規律の破壊と、偏った民間事業者の救済になることには心して避けなければなるまい。 国共に財政逼迫のなか、民有地が大きく関わるものであれば積極的にPFI(民間資金による公共施設の建設、維持、運営)や多様なPPP(官民連携)によるべきである。  確かに中央市街地での市民ギャラリーは適切ではあっても図書館はどうか。 当節の歴女ブームやデザイン、ファッション誌が花盛りの若者文化で歴史漫画本などの利用はあるだろうが、清閑で思索をめぐらせるには不適である。 前市政で、図書館建設に関わる委員会での方向付けもあったはず。 事業区域内にある税務署とか米織会館等に移転を迫ってはどうか。
 先人顕彰館も兼ねての図書館であれば納得の市民も多いだろう。

米沢市 鈴木睦夫(65)元市議会議員

提言:「介護の社会化」本質問う (山形新聞 平成19年9月19日)
 安部晋三首相が、臨時国会が開会されたばかりの時期に突然の辞意を表明した。まさに有為転変の世相に人々の暮らしや心がすさみ、社会が病んできている。 治安がますます陰湿険悪化し、いのちと生活の安全を担う医療機関や警察など、市民生活に直結する組織が機能不全に陥っているとしか思えない事件も毎日のように続いている。
 昨年四月に改正介護保険法が施行されたが、そこで何が起こったか。 介護保険給付費の抑制のため、各自治体に策定業務を負わせた「地域介護福祉計画」の準則を盾に、保険者(自治体)による介護保険サービスの切捨てと、事業供給者側への保険事業指定規制が行われた。
 このため、業者の数に対して被保険者(利用者)の数、利用度の少ない自治体では、介護保険サービス事業が一般に言われる「自由市場」や「準市場」ではなく、市場性が全く否定された、行政主導による不平等な「官制市場」となっている。
 コムスン問題にしても、厚生省のお墨付きで、最大手の全国事業者が譲渡の受け皿となった。 在宅介護サービスも地域密着型と言いながら、現実には以前と変わらず、大手事業者による寡占状態が続くことになる。
 被保険者の少ない地方自治体の多くでは、一中学校学区に一事業者とか、「○○地区は○○事業者」というふうに、官による指定権の乱用ともいえる事業規制が公然と行われているのが現状だ。
 国は介護保険制度の導入にあたり、当初から積極的に民間事業者の参入を促してきた。 介護保険給付の抑制のため、今になって事業者の選別規制に至ることは、指定権の乱用を超えて、法にも触れる恐れがあるのではないだろうか。
 医療制度と同様、介護保険サービスの供給側の事業性判断は事業者の自己責任に委ね、行政はあくまで被保険者(ユーザーサイド)の最小限の需要制限にとどめることが、介護サービスを「健全な自由競争市場」に導くのではないかと考える。
 NPO事業者は、地域に根差した事業者というとりえだけで経営資本的には非常に脆弱な組織である。 今、経営状態を問われれば、民間営利法人や租税特例にある社会福祉法人と同じ土俵で競合し、事業を存続することに意欲、体力が減退するばかりである。
 医療と介護の「業際」が重なる中、大手民間法人をはじめとする病院系、福祉法人系事業者の在宅介護サービス分野への進出に対し、NPOなどの零細事業者が生き残る可能性があるとすれば、スケールメリットによる経営安定のための事業拡大を図る必要がある。
 しかし、現状は総量規制という「不平等な官制市場」への誘導が、絶望的なまでの障壁となっている。 介護事業者の賃金報酬は全産業中、最低となっている。 少しでも事業収入を上げようとしても規制が先に立つ。 「介護の社会化」の本質を問いたい。
私の視点:地域の介護は地域の担い手に (朝日新聞 平成19年7月5日)
 コムスンの事業譲渡が事業者の大手から大手へと利用者不在の中で行われようとしている。大手事業者が正義であるかのようなこの動きを、果たして国民の多くが看過するだろうか。
 利用者の意思を反映せず、利用者を囲い込んだままのコムスンの事業譲渡は許されるものではない。 今日まで違法な事業運営を行った者に厳しく対処してきた厚生労働省の方針から、コムスンを介護市場から撤退させずに法と正義は守れない。
 介護保険法施行と同時に、政府は何らの歯止めもなく、野放図に民間参入促進という号令の下、福祉であるべき介護事業を「介護というビジネスチャンス」として市場競争原理導入を推し進めてきた。 その結果として、今日の事態を派生させたのは当然の帰結と思える。
 私たちNPO事業者は、それまで無償に近いボランティア福祉活動として地域の介護、介助を必要とする人々を支えてきた。介護保険適用により有償ボランティアや有給スタッフ化への移行で金銭的には少しの心のゆとりを享受できた。 それでも奉仕というボランティアの心で、風俗、飲食、建設事業者などの「市場参入者」と一線を画してきたつもりである。
 その端的な例が移動困難者に対する移送サービス事業の取り組みである。 しかし、移送サービスボランティアたちは、多くの事業者が参入する中で過当競争やタクシー料金の半額以下にする制限などを強いられ、せっかくの事業が廃止に追い込まれている状況もある。 これは利用者の不便、負担を増長させただけでなく、今回のコムスンの不正請求の一つでもあった。
 介護保険事業が始まって以来、NPO事業者は在宅介護の主要な担い手として2階の介護市場に上げられ、不慣れな市場競争にさらされている。 何らの支援もなく、あげくに「自己責任」といわれて行政からはしごをはずされた状態に置かれている。 介護現場からやむなく退場を余儀なくされた者も多い。 街角から商店が消え、郊外の大手スーパーだけが残るような介護事業であってよいのか。
 コムスンの事業譲渡では、採算があわないとして選別、拒否されている「訪問介護サービス」こそが、NPO事業者の福祉サービスの原点である。地域や要介護者との間に乖離がある全国展開の大手事業者だけが「事業譲渡」を受けることは、今後の介護福祉の行方を誤らせることになる。 現利用者との利用契約を継承、温存したままで「事業譲渡」を債権化するような行為は許されるべきではない。 利用者の自由意志で、多様な利用機会の選択権を奪うことは人権侵害の恐れもある。
 まずは違反事業者に、利用者に対して事業者の不都合による利用契約の解除の申し出を行うよう迫るべきである。 同時に、利用者および保護者が、代替のサービス事業者を確保することが困難なら、保険者である市町村自治体がそれぞれに設置している「地域包括ケアセンター」で速やかに適切な情報提供や事業者を紹介する義務と責任がある。 これによって利用者、保護者の不安は解消するはずだ。
 地域にしか生きられない全国多くのNPO事業者は、参院選を前に政府のあり方と厚労省の采配を見定めようとしている。 景気のいい声ひとつも聞かれず、地域格差にあえぎ、サービスの1割の自己負担もままならない要介護者の多い地方から、声を大にして「地域のNPOを侮るなかれ」と言いたい。
提言:「予防介護」を促す時期 (山形新聞 平成11年9月30日)
 県内各自治体では六十五歳以上の一号被保険者となる人たちの介護保険料が出そろい始め、八月二十三日には各種介護サービスの報酬基準仮単価が厚生省から発表されました。 また取り組みの早い市町村では要介護認定申請受け付けも始まり、いよいよ十月からは各市町村の介護保険適用申請者の認定通知が出てきます。 そこで重度の介護が必要と判断された場合は、訪問介護サービスを本年度内から前倒しで実施することになるとも言われております。
 高齢者の介護需要に対するサプライ側であるサービス提供事業者の指定申請も七月一日から県へおこなわれておりますが、報酬基準仮単価が示されたことで、施設介護などを行ってきた既存の社会福祉法人や民間大手福祉事業者に肩を並べ、私どもNPO法人やボランティアグループも一挙に事業化計画が進められるようになり、来年四月からの介護保険施行体制の需給関係は一応整ってきたと言えます。
 国も一層の民間参入を促すということで、私どもNPO事業者やボランティア団体のサービス提供に、利用者の方々から相当の期待感をお寄せいただけるものと思っております。
 NPO法人「あすなろの会」は地域相互扶助、主婦高齢者雇用を中心の介護サービスをモットーとして現在、米沢市矢来地区で「ケアホームあすなろ」を運営しております。 平成九年一月に、公的な施設利用も手続きが難しかったり、制限があるなど緊急時すぐに対応してもらえないという声が多い中、いくらかでも家庭の雰囲気をつくりながら地域住民の相互扶助とそれぞれの持っている介護技術を生かせる場所として二十四時間対応の民間託老所を開設したのです。
 しかし、実際運営してみますと社会福祉法人などの公的補助のある施設と全く私的民間施設とでは運営の基礎となる利用者の料金格差は否めず、結局福祉施設の設備運営における制度上の官民格差が直接利用料金の負担増となることから、公益の機会均等の見地からも公的補助対象となるよう法人化などを模索しておりました。 一方、国においても在宅介護支援事業における民間参入の方策が図られていたことから、当施設を米沢市デイサービス事業E(痴ほう)型弾力基準対象施設として認めていただき、平成十年十月一日より米沢市デイサービス六番目の委託先として「あすなろデイサービスセンター」を運営しております。 現在は来年四月からの介護保険制度による居宅サービス事業者の指定を受けるべく申請準備に入っております。
 介護保険制度の導入で、介護福祉の在り方が一変して国での財源論も政党間に差異があるようですが、介護の現場は時間的猶予のないところにあり、スムーズな介護保険の運営を望みます。 また私どもNPO事業者や民間福祉事業者は介護サービス事業参入にあたって、既存の社会福祉法人営などの施設と異なり施設の設置や設備整備は原則自前で行われなければならず、施設の必要な介護サービス事業運営のコストに当初から明らかなハンディキャップがあることから、国では民間参入促進の声とともに現行老人福祉法の改正とNPO法人などの民間事業者への支援対応を今後の施設整備計画の中でぜひとも検討実現されるよう強く要望いたします。
 一方視点を変えて論じれば、世界に先例のないわが国の超高齢化社会に対する国の施策は介護保険制度によって要介護要支援者への対応は評価されるものの、全高齢者人口の七五%を占める要介護、要支援の状態にない「元気老人」維持への取り組みこそが本来の高齢者対策と言えるのではないでしょうか。
 米沢市の高齢化率は現在20.6%ですが、もう一つの指数である年少人口と対比した老年化指数を見ると昭和三十年代は14.6だったのが平成七年国勢調査時では115.2となり、実に八倍の開きがあり、少子高齢化の高まりは確実です。 その意味で「要介護」から「予防介護」への取り組みに予防医療対策の停滞の轍を踏むことのないよう国や地方自治体、議会を問わず真剣でさまざまな提案がなされるべき時機に来ていると思われます。