【地球漫録】すり込まれた恐怖…放射線は恐ろしいモノなのか?

2011.10.26

 東京都世田谷区の住宅街で通常よりも高い放射線が検出され、大騒ぎになった。福島原発事故の影響がいよいよ東京の住宅街にまで手を伸ばし始めた。そう誰もが恐れたからだ。ところが、世田谷区から通報を受けた文部科学省の専門家らが調べたところ、近くの古い民家の床下にあったラジウム226が原因だったことがわかった。

 ラジウムは戦前から戦後にかけて、がん治療などに使われており、なぜか床下に保管されていたらしい。もし、今回、市民団体が検査をしていなければ、放射能物質はいまも床下にあった。

 そうすると、“異常に高い放射線”が何十年も放出されていたのに体調異変を訴えた周辺住民がまったくいなかったことに疑問を持つ人が少なからずいるはずだ。

 こんな疑問に答える本が出版された。「放射能と理性」(ウェード・アリソン著、徳間書店)というのがそれで、著者はオックスフォード大名誉教授。英国では2009年に刊行されたのだが、福島原発事故後に加筆して翻訳された。

 内容は放射線を恐れるわれわれには衝撃的なものばかりなのだが、中でも特に興味を引くものを紹介してみたい。

 まず「放射線とは何か」。それは日光や音、水面の波と同じ「動くエネルギー」で、たいがいは人体に害はなく、生命にとって有益な場合がある。大音響だと難聴を引き起こすように放射線も一定の量を超えると被害を及ぼすが、それ以下ならば健康被害の実例がほとんどない。日光の場合も浴びすぎは肌に悪いが、適度な量は健康維持に必要だ。

 ところが、放射線は広島、長崎への原爆投下以来、危険な響きが強くなり、その結果、いわれなき恐怖が理性を曇らせてしまった、と教授はみている。とりわけ放射線は目に見えず、聞こえもしないので一層、恐怖をかき立てた、という。

 しかし、いまや放射能化学者らの実験データや被曝者の膨大な医療記録を分析することができるようになり、放射線がどの程度危険かがわかってきたそうだ。

 例えば放射線作業員の85歳までのがん死亡率は一般人よりも15%から20%も低いなど、ある値さえ超えなければ、低レベル放射線による健康被害はゼロ。むしろ健康増進の効果さえ見込めることが実証されつつある。

 そこで教授はこれら最新情報を元に問題の一定値を急性被曝なら100ミリシーベルト、複数回浴びる慢性被曝ならば月100ミリシーベルトにすべきと提言している。

 この数値は福島原発周辺に設けられた避難区域の設定値(年20ミリシーベルト)のなんと200倍近い。もし教授が正しければ、大勢の人が意味なく原発難民を余儀なくされたことになり、あちこちで始まった除染騒ぎも単なる空騒ぎになる心配がある。

 放射能の危険度についての科学的検証が早急に必要なのではないか。

 ■前田徹(まえだ・とおる) 1949年生まれ、61歳。元産経新聞外信部長。1986年から88年まで英国留学。中東支局長(89〜91年)を皮切りに、ベルリン支局長(91〜96年)、ワシントン支局長(98〜2002年)、上海支局長(06〜09)を歴任。

 

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