CEO兼任からわずか2週間後に解任されたマイケル・ウッドフォード氏。オリンパスの外国人社長としてマスコミの注目を浴びた。だが、就任からわずか数カ月後に、過去の買収案件に「巨額損失がある」と追及して、会長など他の経営陣と対立を深めていった。彼が語る生々しいやりとり。そこに、解任劇の真相があった。「このまま問題を放置すれば、日本経済は悪化の一途をたどる」。
(聞き手は石黒 千賀子=日経ビジネス副編集長)
10月20日午前11時30分。英ロンドン中心街のホテルで、オリンパス前社長のマイケル・ウッドフォード氏の到着を待っていた。2日前、彼から「取材を受ける」というメールが届いた。電話で連絡を取ると、興奮した声でこうまくし立てた。
「身の危険を感じているから、とにかく詳しく話をして真実を世に広めたい。電話より会ってじっくり話したい」
そこで、飛行機に飛び乗って、ホテルの一室で待った。約束の時間から30分が過ぎていた。本当に現れるのか不安がよぎったその時、大柄な英国人が姿を見せた。
「すみません。朝8時からメディアの取材が続いていたので。腹ペコだから、食事を取っていい?」
そう言うと、ステーキサンドイッチを注文し、ついに2時間を超えるインタビューが始まった。
まず、問題として指摘したいのは、英医療機器メーカーのジャイラス買収の件だ。2008年に、オリンパスが20億ドル(当時の為替レートで約2000億円)を投じて買ったことは知っていた。私は当時から、「買収価格が異常に高い」と批判的だった。それは社内の多くの人が知っていることだ。
でも、そのことはまだいい。問題は、買収後に買収価格の3分の1に当たる6億8700万ドル(約520億円)もの手数料を財務アドバイザー(FA)に払っていたことだ。これは全く知らなかった。しかも、支払った相手は、英領ケイマン諸島にあるAXAM(アクザム)という会社などで、実態はいまだに誰も分からないという。そんなことが許されるわけがない。
隠し続けた雑誌記事
すべては、雑誌「ファクタ」8月号に載った記事が始まりだ。あれがなければ、私は今でも何も知らないまま社長を続けていただろう。
その記事には、2006〜08年にかけて買収した国内3社のことが記されていた。医療関連の産業廃棄物処理を手がけるアルティス、電子レンジ用容器を企画・販売するNEWS CHEF、化粧品を通信販売するヒューマラボの3社で、そこに合計700億円ものカネを投じていた。いずれも本業とほとんど関係がないうえ、買収額に見合うような売上高がない。社外の親しい友人が見つけて、わざわざ英訳して「この記事を見ろ。深刻な内容だぞ」と教えてくれたんだ。