一連の買収案件について、オリンパスに質問したところ、「適切な手続き・プロセスを経たうえで(の買収で)、会計上も適切に処理している」「評価額はDCF(収益還元)法による企業価値評価により算定されており、外部会計事務所による適正な評価を受けている」という内容の回答があった。だがファクタ誌は、アルティスの企業価値を算出した公認会計士は将来のキャッシュフローを過大に見積もっていると指摘。3年で売上高が20倍になるとの計算だが、その根拠が薄いとしている。
ウッドフォード氏は、こうした事実の深刻さを徐々に知っていき、当時の経営判断の真相を追及していくことになる。
2週間ぶりに帰国し、8月1日、新宿の本社に出社した。この記事のことを誰かが話しに来ると思っていた。ところが、誰も報告に来ない。不思議に思い、信頼できる社内の人に尋ねると、菊川剛会長が「記事の存在をウッドフォード社長に話すな」と指示していたことが分かった。
「社長は忙しすぎるから、記事を見せなかった」
翌朝、私と菊川会長はビックカメラに行くことになっていた。「ここで、記事について話したいのだろう」と思っていたが、それは単なる視察に終わった。そこで、菊川会長と、その右腕である森久志副社長と会議を開いた。「なぜ、私に記事のことを隠すのか」と問いただすと、菊川会長は自分が社内に指示したことを認めて、こう言った。
「あなたは社長で、忙しすぎるからだ。くだらない記事だ。全く気にすることはない」
この瞬間、裏に何か大きな嘘が隠されていると感じた。
この会議の後、どうしても納得がいかず、再び森副社長をつかまえて聞いた。だが、曖昧な返答を繰り返す。私は業を煮やして、「あなたの上司は誰か」と問い詰めた。すると、思わぬ返答が戻ってきた。「菊川会長だ」と。
苛立ちと不安を抱えたまま、私は海外出張と夏季休暇のために日本を離れた。だが、9月下旬にファクタ誌が続報を掲載した。もはや看過できない。私は9月23日から4日間続けて、菊川会長や森副社長宛に、「当社のM&A(合併・買収)活動に関する深刻なガバナンスの問題」と題した手紙を4通、電子メールへの添付と、クーリエ(国際宅配便)で送った。本気であることを伝えるためだ。
決算報告書などに署名するのは私だ。従って、企業リスクを伴う取引は、その経緯も含め十分な報告を受ける必要がある。そう書いたうえで、ジャイラス買収で莫大な金額をFAに支払った経緯や、国内3社の買収に関わる詳細な報告を求めた。こうしたやり取りは痕跡を残しておかないとまずいと思い、すべての手紙にCC(カーボンコピー)をつけ、ほかの取締役や監査役、社外取締役にも同時に電子メールで送ることにした。