東京電力福島第1原発の事故後、小出裕章さんが書いた「原発のウソ」(扶桑社新書)を読んだ。京大原子炉実験所の助教で、反原発の立場を貫いてきた人だ。一読してからも、折に触れては読み返している
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うなずかされる内容が詰まっている。地球を温め続ける原発―のくだりもその一つだ。原子核工学科で学んだ学生時代、小出さんは恩師から、原発のことを「海温め装置」と呼びなさい、と言われる。当時、東大原子核研究所の助教授だった水戸巌さんだ
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標準的な原発の発電量は100万キロワットだけれど、原子炉の中では300万キロワットの熱が生み出される。その3分の1を電気に変え、残りの3分の2は海に捨てている。原発の中に引き込んだ海水で原子炉の熱を冷やし、温まった水を海へ戻しているのだから、「海温め装置」なのだという
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1基の原発が海を温める力はどれくらいか。1秒間に70トンの海水を引き込み、その温度を7度上げ、戻している。日本の原発54基全てなら、1年間に1千億トンの海水を7度温めて海へ。海に注ぐ国内の川の総流量は4千億トンだから、大変な量の温水である
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温暖化が地球環境に悪いというなら、この「海温め装置」をまず廃止に―。小出さんの言い分だ。福島の事故から7カ月余り。放射性物質による汚染の広がりもつかめない中、ほかの原発の再稼働がささやかれだした。安易に過ぎないか。