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ゴージャスな絶望 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-10-24

[]フェミが反貧困に無関心であるという事実誤認について

ここ数週間、国際基督教大学という大学でのミスコン企画についての議論がオンラインで再燃している。中止になった理由は今後ICUのミスコン企画に反対する会が明らかにしてくれるのを楽しみにしているが、確実な情報が少ないなか、ツイッター上では派生した議論がいくつか出てきている。

その中でも非常にバカげており、下らないのが小倉秀夫弁護士兼中央大学法学部&明治大学法学部兼任講師による、フェミニスト批判だ。

とにかくこの小倉さんというひとは、ミスコン反対を表明しているひとたちの主張や立場をゆがめて紹介し、批判しているだけなのだが、あまりにも事実と違う内容ばかりで、辟易してしまう。「ミスコン反対であること」と「フェミニストであること」は同一視するわ、フェミニズムの解釈は一面的で誤解に富むものだわ、フェミニズムを社会学だと言ってみたり、前述の「反対する会」の声明文の内容も理解できていないようだし、とにかくひどい。また、初めに小倉さんは「階級差別や学歴差別には反対し」てないのが問題だという、誤解に基づいた主張をしていたので、てっきり階級差別や学歴差別については真剣に考えているひと(単にジェンダーの問題に疎いだけ)だと思ったら、社会「構造」の分析は「恣意的な結論を導いてどや顔してい」るひととその「信奉者」による「思い込み」であり、「事実認定思いのまま」であると言ってみたりする。このひとは頻繁に男女の賃金格差について言及しているのだけれど、賃金格差だけで差別が読み取れる(逆に言えば賃金格差がなければそこに差別はない)と思っているのならびっくりだ。「階級差別や学歴差別に」「反対」しているひとですら、そんな主張はしないだろう。

しまいには、フェミニズムによって「我々の自由が」「侵される」心配すらし始めた。それは他者の自由を侵害する「ミスコン潰し」「禁止」を目論むものであり、リベラリズムに反する「不当行為」であるとまで言っている。小倉さんによれば、「ミスコンの開催を妨害したり、圧力をかけてヤメさせたりすることは、自由に対する制約となり得」るので「不法行為の成否を巡って、憲法秩序が問題とされ」るらしい。

とりあえず、こういった主張は、前述の「反対する会」のサイトを見てもらえば事実誤認だとわかる。そもそも中止の理由がなんだったのか、今の段階ではいっさいわかっていない。「圧力」の存在もその内容も、矛盾する主張が主催団体・学園祭実行委員会・大学本部から出ており、実際のところはわかっていない。そもそも「反対します」という表明がリベラリズムに反するからダメだというのであれば、ありとあらゆる社会運動はダメということになってしまうのだが、ごりごりのリベラリズムをやってる Martha Nussbaum ですら ”Organized Public Condemnation (of an Individual or Individuals)” はアリだと主張していて、私はどちらかというと小倉さんより Nussbaum のほうが信頼できる(ちょっとだけ知り合いだし)。

わたしが今回ものすげー悪質だなと思ったのは、ミスコン反対を掲げるひとたち(「反対する会」含む)についての事実誤認と、フェミニズムという大きなものに関する事実誤認が、サクっとつながっちゃっていることだ。

とりあえず、「ジェンダー論とやらで男が悪い、男だけが悪いと言い続けると、建設的なものが何か生まれるのだろうか」という発言からも、小倉さんのフェミニズム解釈はとんでもなく狭く、古い。不勉強すぎる。フェミニズムのことをよく知らないことは悪いことではないけれど、知らないのに大口叩きすぎ。

そこに、金明秀さんが突っ込みを入れている。

反貧困はフェミニズムの主要な課題の一つだと思うが、妄想家の目には入らないらしい。 RT @hideo_ogura: 女性内格差が広がっていく中で、フェミニズムが女性内の強者の側に寄っていき、その分、弱者の側の女性に対しては抑圧的になったからでは? @taunya3313
https://twitter.com/han_org/status/128502254645952512


それに対する小倉さんの返事はこれだ。
ミスコン反対なんぞに血道をあげている人たちには関係のない話ですね。RT @han_org: 反貧困はフェミニズムの主要な課題の一つだと思うが、妄想家の目には入らないらしい。
https://twitter.com/hideo_ogura/status/128503181306105856


異性愛中心主義や民族差別など、「女性内格差」には経済的なもの以外にもあると思うので金さんの突っ込みも不十分に感じるが、小倉さんから特に突っ込みもないので、小倉さんも「女性内格差」は経済的なものだと思ってるのだろう。

フェミニズムが全体として「女性内格差」に関心を持っていないという小倉さんの最初の主張はとりあえずアホだ(これとかこれとかこれとか、フェミニストが関わってるわけだし)。色々資料はあるけれど、ネットで日本語でサクっと読めるのがあったのでどうぞ:

驚くなかれ、これらの記事は、「反対する会」呼びかけ人のひとり、常野さんによって書かれている。

また、女性間の様々な権力関係について、同呼びかけ人の山口さんも、あるフェミニスト運動体における問題について

「女性の連帯」という美名のもとに、女性間の権力差や、運動方向性のおかしさが問われることなく隠蔽され、議論がなりたたなくなってしまったのだ
http://d.hatena.ne.jp/yamtom/20081130/1228060047


と批判している。

また、「シスターフッド」という言葉を「もともと『女性間の差異、権力差』への視点が弱い言葉で」あるとして、女性間の権力関係を隠蔽することに非常に批判的だ。

更に山口さんは、フェミニズム団体WANにおける労働問題について積極的に活動し、「女性の貧困とその背後にある不安定な雇用形態」に真摯に向き合わない同団体を批判し、「雇用者と被雇用者のあいだの権力関係」は隠蔽されてはならないと主張している。ちなみにこのとき山口さんらが立ち上げた「NPO法人WAN労働争議を支援する」には、呼びかけ人としてマサキチトセさんが名を連ねており、これは「ICUのミスコン企画に反対する会」呼びかけ人の松本さんだ。

松本さんもまた、階層や民族、人種の問題に積極的に発言してきたひとだ。移民差別の問題民族差別の問題貧困の問題フェミニズム内の人種差別の問題学歴差別の問題セックスワーカーの権利の問題労働の問題貧困と同性婚と「国民」概念の問題など、松本さんがこれまでに書いたブログだけでも色々見つかる。

階級の問題について常野さんが積極的に活動していることは有名だが、例えば「共産主義、入門中」というコラムもある。自身のブログでも頻繁に学歴差別(あるいは学校問題と言うべきか)について発言している

この他にも、「反対する会」有志声明の呼びかけ人には、社会問題をジェンダーに還元することなく複合的な問題として差別をとらえているひとが多い。公の場で発言をしているひとは前述の3名なので、他の人のツイッターでの個人としての発言などは載せられないが。

いま思い出したが、山口さんは最近「The Kaminoseki Nuclear Power Plant: Community Conflicts and the Future of Japan’s Rural Periphery / 上関原子力発電所−−住民間の葛藤と日本の地方周辺の将来」というペーパーを The Japan Focus に載せている。

「女性内格差が広がっていく中で、フェミニズムが女性内の強者の側に寄っていき、その分、弱者の側の女性に対しては抑圧的になった」という小倉さんの最初の主張は、とりあえず誤りだ。そういう人たちもいる、というだけのことだ。そしてそういう人たちは、他のフェミニストからおおいに批判されてきた。そういう歴史を自分が知らないからと言って、開き直ってはいけないよ小倉さん。

そして金さんに「反貧困はフェミニズムの主要な課題の一つだと思うが、妄想家の目には入らないらしい。」と突っ込まれて、「ミスコン反対なんぞに血道をあげている人たちには関係のない話ですね。」と答えたのは更にまずかった。だって、フェミニズムの内部で女性間の権力関係を告発・問題化し、「女性同士の連帯」を掲げるフェミニストたちを批判しているひとが、「ICUのミスコン企画に反対する会」の呼びかけ人のなかには(少なくとも私の知る限りでは)2人もいるんだもの。そして、反貧困どころか反貧困を含む様々な問題について発言しているひとが(少なくとも私が調べられる限りでは)3人もいるんだもの。

以上、小倉さんが自分の無知をさらけ出し、それを指摘されても開き直ったり誤魔化したりしているのは別に構わないのだけれど、「フェミニズムに関しては無知でも発言できる」と思っているバカがツイッターにはいっぱいいるようなので、小倉さんを見て自分もやっていいと思ったりしないでほしいと思って、書いてみました。

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