世界恐慌という言葉は刺激的な言葉である。なぜなら、人類は1930年代に経験したその世界恐慌で一挙に政治的不安定化に落とし込まれて、最終的にはそれが未曾有の世界第二次大戦という殺戮につながった歴史を知っているからだ。
経済破綻が戦争に直結するというのは、推論ではなくて歴史の一部だ。だから、世界恐慌という言葉はその先の破局的な戦争をイメージさせて経済が終わる以上の恐ろしさとなって迫ってくる。
ところが、その世界恐慌という言葉が、少しずつ新聞の記事にも乗るようになってきた。
世界恐慌が意識されるようになってきた
「このままでは欧州の大手銀行も破綻して世界恐慌を招く可能性もある」という言い方で「世界恐慌」を使っている記事もある。
「世界恐慌の足音が聞こえる」という論調で、タイトルそのものに世界恐慌を使っている記事もあった。「世界恐慌を回避せよ」という言い方をしている新聞もある。
そうやって、少しずつ「世界恐慌」という言葉が使われている。
残された時間はわずか…恐慌崖っぷち 欧州包括策に難題山積
2011.10.16
15日閉幕した20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は、危機対応で後手に回る欧州にどれだけプレッシャーをかけられるかが最大の焦点だった。包括的な解決策をまとめるタイムリミットを10月23日のEU(欧州連合)首脳会議に設定したが、欧州の銀行から資産の厳格査定による資本増強に異論が噴出するなど難題山積だ。実効性を伴う解決策を示せなければ、市場の失望を招き、世界経済全体が恐慌の泥沼に引きずり込まれかねない。
欧州危機:揺れる世界経済 早稲田大政治経済学術院教授・若田部昌澄氏に聞く
ギリシャ国債を多く保有する独仏の金融機関などに危機が飛び火する連鎖反応が起きれば、規模は非常に大きく、リーマン・ショック級になる恐れがある。歴史的に金融危機、通貨危機、債務危機が連鎖的に起きることは珍しくないが、リーマン・ショック級が2回続けば、規模は世界大恐慌以来となる。
世界恐慌という言葉が使われるようになってきているのは、もちろん経済崩壊に至る前触れがずっと続いているからだ。
アメリカの住宅バブルは2008年9月に破裂して、グローバル経済は崩壊する寸前にまで追い込まれたが、実はこの危機を脱出したのは政府が民間の不良債権をすべて引き受けたからである。
今、その政府が不良債権に耐え切れずに倒れていこうとしている。
2011年8月。アメリカは累積債務問題の上限引き上げ問題をこじらせて、危うくアメリカもデフォルトしそうになった。何とかそれを回避したものの米国債は格下げとなって全世界を動揺させた。
そしてヨーロッパではギリシャ危機が何度も何度も執拗に再燃していて、もはやユーロそのものの瓦解まで議論されるようになっている。
「ギリシャ債は事実上100%の確率でデフォルトになる」と言ったのはムーディーズだった。
それを阻止しようとするドイツはすでにあきらめが目立つようになっていて、「ギリシャがデフォルト(債務不履行)に陥った場合の影響を研究している」とドイツの財務相も言うようになった。
これに合わせて、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンが、「これは、まさに第二次世界恐慌の始まり」と発言していたり、ジョージ・ソロスが「このままでは世界恐慌に突入する」と発言したりしている。
クルーグマン氏を筆頭として、それが時間の問題だと言う人も言う人も欧米人を筆頭に増えて来つつある。つまり、要人が「世界恐慌」という言葉を使い出している。
経済学者、投資家だけではない。政府首脳もこのような感じである。
ブラジルは利下げの機会を見逃すことはできない-ルセフ大統領
ルセフ大統領はサンパウロで開かれたイベントで、世界経済がリセッション(景気後退)入りする可能性や恐慌にさえ陥る可能性について政策当局者が考慮に入れないことは「許容できない」と発言。政府の歳出抑制努力によって中銀が「慎重」で「責任の重い」利下げサイクルに着手する余地が生まれていると指摘した。
もちろん、世界恐慌など来ないし、景気も回復していると反論している政治家もいる。たとえば、日本の前首相の菅直人氏は一貫してそのような認識だった。
景気は緩やかに回復しつつある、デフレ対策にも効果=菅首相
菅直人首相は2日午前の衆院予算委員会で「景気は緩やかながら回復しつつある」と述べ、景気対策・デフレ対策は緩やかながら効果をあげているとの認識を示した。
重要法案成立、景気も回復の兆し…首相自賛
(読売新聞 - 06月16日 21:39)
また、「いろいろな政策を打つ中で、景気が回復する兆しが出てきた」と自賛した。首相官邸で記者団の質問に答えた。
振り返ってみれば、2011年1月には日銀もこのように言っていた。
日本経済、早晩緩やかな回復に向かう蓋然性高い=日銀総裁
日本経済の先行きについて「早晩、景気改善テンポの鈍化した状況から脱し、緩やかに回復する蓋然性が高い」と語った。
この日銀発言の後に日本は東日本大震災に巻き込まれているので、その「緩やかな回復」はどうなったのか知らない。
日本の政府首脳だけが世界の認識とは違っているが、世界が恐慌のドミノ倒しになっていけば、日本だけが「景気が回復している」と言っても、恐慌に巻き込まれていくような気もしなくはない。
次の時代の覇者とされている中国はどうなのか。中国は今、不動産バブル崩壊の危機にある。
景気回復どころか、中国発の恐慌が起きるのではないかと中国要人は非常な危機感を持っており、日本ほど楽観的ではない。
中国不動産市場にバブル崩壊の足音?在庫増加も政策転換望めず
中国の不動産市場でバブル崩壊の足音が聞こえ始めた。当局による過熱抑制策の効果が現れているようだが、中長期的に見れば、現在の価格調整はまだ序章に過ぎず、在庫の増加を引き金にバブルが崩壊するとの見方も出ている。24日付中国証券報が伝えた。
ソブリン・リスクの究極の最期が世界恐慌
世界恐慌が来る「可能性」があって、日本を除く世界の政治家がその状況に戦々恐々としている。世界恐慌が来れば、雇用の中心となる民間企業がほとんど破綻していく。
だから、これに対して一番の危機感を持っているのは、実は勤め人よりも企業のほうである。
企業は自ら生き残るため、来るべき衝撃に備えてコスト削減に邁進していく。コストの大部分は人件費が占めるのだが、それならば企業は生き残るために、早めに人件費を削ろうとする。
今、世界的に起きている雇用の減少は、まさに世界恐慌に向けた企業のサバイバルの一貫なのである。
企業は利益に合わせて「人件費の削減」を行うのだが、多くの企業がいっせいにそれをやると消費がとまる。
景気が停滞し、ますます物が売れなくなる。すると企業は、さらに「人件費の削減」に走るようになる。
しかし、そうやって企業は小さくなりながらも実は大部分が不況を生き延びるが、人間のほうは路頭に迷う。それが、今起きている事態である。
景気が戻らないのであれば、さらにこの動きが加速していく。
米雇用深刻…政治空転が拍車 1年以上失業450万人 9月の人員削減2倍超
各国に波及した反格差社会デモの震源地となった米国で雇用の停滞が深刻さを増している。9月の企業人員削減数は前月の2倍以上となり、1年以上職に就けない失業者は3割を超えた。政争に明け暮れるオバマ政権と議会の雇用対策の出遅れも拍車をかけ、デモを勢いづかせる要因となっている。
外資系金融機関 リストラ急加速
米国でもバンク・オブ・アメリカが数年間で全従業員の約1割に相当する3万人規模のリストラを発表。日本でもリーマン・ブラザーズ買収で世界戦略を進める野村ホールディングスが、欧州地域を中心に5%程度の人員カットを決めた。
あなたが路頭に迷う寸前
企業が放り出した人間が増えれば増えるほど、これらの人たちを保護し、消費を拡大させるために政府は手を打たなければならない。
ほとんどの国は国債を発行して景気のテコ入れを計るが、それがズルズルと続いていったり、大規模な国債発行が行われると、今度は国自体に危機が転移する。
そしてある日突然、「あの国は大丈夫なのか?」と国外から思われるようになると、国債や通貨が疑いの眼で見られるようになって、それがソブリン・リスクへと発展していく。
皮肉なことに、ソブリン・リスクの究極の最期が世界恐慌だ。いったん負のスパイラルに落ちると、破滅を避けようとしてもよけいに破滅が引き寄せられる図式がここにある。
世界恐慌という言葉を見ると、何か金融用語で普段の私たちの生活にはまったく縁のない世界の出来事のように見えるが、実はそうではなくて、金融が破綻すれば、まっさきに犠牲になるは、普通の暮らしをしている国民なのである。
悪いことが一気に襲いかかってくるのが世界恐慌だ。具体的にどうなるのかと言えば、このようになる。
・仕事を解雇される
・仕事が見つからない
・物が売れない
・物が買えない
・給料が減る
・インフレになる
・預金していた銀行がつぶれる
・資産価値が減少する
・ホームレスが増え、治安が悪化する
・どこに逃れても同じ状況で進退窮まる
このような時代が、すぐそこに来ていると、世界中の経済学者・政治家(日本をのぞく)・投資家が述べており、その危機感でユーロ危機やアメリカの累積債務危機やウォール街占拠運動を見ているのである。
今、まさに、あなたが路頭に迷う寸前にまで世界が追い込まれつつある。ぼんやりと新聞を読んで日常生活を送っている余裕があるのなら、少しでも準備をしておいたほうがいい。
もちろん、世界恐慌が来るのか来ないのか誰にも分からない。菅直人前首相の言うように、本当は緩やかに景気回復しているのかもしれない。
世界が助かればそれはいいことだし、ダメであれば生き残りにかけた準備が役に立つ。大地震と同じだ。備えあれば憂いなし。
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