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コメ、がれき不安…花火中止も 原発事故風評被害 合理的に安全判断を

(2011年9月25日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

過剰な「ゼロ」追求は不毛

画像福島県産の打ち上げ花火は、名古屋市内の検査会社で放射性物質の測定が行われている

 福島第1原発事故は、人や物への直接被害にとどまらず、農水産物や観光業など幅広い風評被害をもたらしている。愛知県日進市では18日、市民の抗議を理由に、福島県産の花火の打ち上げを取りやめる事態が起きた。1954年の「第五福竜丸」事件から現れたとされる風評被害。どう受け止めればいいか。(社会部・豊田雄二郎、中崎裕、日進通信部・坪井千隼)

■迷い

 「あの段階で中止した判断が正しかったのか否か、いまだ分からない」。22日、謝罪のため福島県を訪れた日進市の萩野幸三市長は、報道陣にそう漏らした。花火打ち上げを中止した対応の非は認めた。しかし、花火に放射性物質が含まれていたのか、安全性は確かめられていない。市長自身、迷いが吹っ切れないでいる。

 順序は逆になったが、市は21日、検査会社に花火の容器や火薬について放射性セシウム、ヨウ素の測定を依頼。今週中に出る結果次第で、来年の大会で福島産花火の打ち上げを検討する。

 「問題は放射性物質の有無ではなく、多いか少ないか」。国際放射線防護委員会(ICRP)の委員を務める甲斐倫明・大分県立看護科学大教授(放射線リスク)は指摘する。「花火から何らかの数値が出たとしても、打ち上げて拡散するのはごく微量。健康被害は考えられない。イメージだけで取りやめたのでは、風評被害につながる」と話す。

■根拠

 風評被害の問題に詳しい関谷直也・東洋大准教授(社会心理学)は、54年にビキニ環礁で米軍の水爆実験に遭った第五福竜丸事件が風評被害の始まりと指摘する。放射能パニックが起き、マグロを中心に魚が売れなくなった。

 その後に起きた原子力船「むつ」や、敦賀原発の放射能漏れ事故でも、放射性物質による大きな汚染はないとされたが、ホタテガイなどの売れ行きに影響が出た。

 「過去の事故は、調べれば汚染の有無が明確だった。風評被害は科学的な根拠があるかないかに尽きる。安全ではない根拠があれば風評被害ではない」と指摘する。

■限界

 福島第1原発の事故後、政府は食品などに暫定規制値を設けた。コメや野菜は1キログラム当たり500ベクレル。事故直後、各地でホウレンソウなどの出荷自粛が相次いだが「現在は価格も安定し、野菜の風評被害は感じられない」(JA全農みやぎ)という。一方、23日に初めて福島県二本松市産から規制値並みの放射性セシウムが検出されたコメの今後は不透明だ。

 さらに被災地に山積するがれき。環境省のガイドラインでは、焼却処分後、灰が1キログラム当たり8000ベクレル以下なら埋め立て可能。しかし、「いくら低くても数値が出れば、市民感情に配慮し受け入れられない」という自治体は多く、処分は進んでいない。

 基準を設け、いくらクリアしていても、残る不安感。今回の花火には、その基準もない。だからといって「ありとあらゆるものに基準を作るのは困難」(甲斐教授)だ。

 風評被害は今後も広がるのか。関谷准教授は、放射性物質が広範囲に広がった事実を挙げ「これからの現実社会を生きるには、過剰に『ゼロ』を追求するのではなく、科学的な根拠を背景に、合理的な折り合いを付けることが必要」と話す。

 福島産花火の打ち上げ中止問題 愛知県日進市や地元商工会の実行委が18日夜開いた花火大会で、計2000発中、復興祈願のため打ち上げる予定だった福島産の80発を、直前に愛知産に切り替えた。大会前に「放射能で汚染された花火を持ち込むな」「安全と言い切れるのか」など20件の苦情が寄せられたため。19日以降は「福島の人を傷つけた」「風評被害を広げた」など3500件の意見が殺到。ほぼすべてが中止への抗議だった。

主な風評被害と補償額など

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