きょうの社説 2011年10月25日

◎重伝建集積地 無電柱化の最重点区域に
 国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に決まった金沢市の「卯辰山麓」で先 週末、「石川県に世界遺産を」推進会議の視察セミナーがあり、参加者から「藩政期以来の風情が歩いて実感できた」との感嘆の声が相次いだ。金沢城や兼六園には何度も足を運んでも、卯辰山麓の寺院群をじっくり歩いて回る人は金沢市民でも意外と少ないのだろう。

 「東山ひがし」「主計町」と合わせ、浅野川沿いは全国屈指の重伝建の集積地となった 。本紙で「ぶらり旅」を連載する嵐山光三郎さんはこの一帯で、泉鏡花作品にちなんだユニークな文学散歩を紹介していたが、確かに文学、寺社、坂道、句碑、橋など、歩きを楽しむ素材には事欠かない。金沢市は都市政策として「歩けるまちづくり」を掲げているが、浅野川沿いは「歩きたいまち」を全国に発信するシンボルとなろう。

 「卯辰山麓」の重伝建選定により、兼六園・金沢城公園を中心とする大名文化ゾーンと は趣の異なる広域的な歴史文化ゾーンが鮮明になってきた。浅野川沿いは金沢独特の風情や情緒が味わえる貴重な空間であり、県や市が取り組む優先課題は、景観価値を損ねる電柱、電線類の撤去・整理である。

 県は無電柱化を中心とした街並み整備事業で県内7地域をモデル指定し、東山地区もそ の一つになっているが、県、市は重伝建の集積地を最重点区域と明確に位置づけ、予算を重点投入する必要がある。金沢においては歴史景観の保全と無電柱化が一体の取り組みであるとの認識を共有してほしい。

 東山地区では、県が来年度から浅野川大橋に続く国道359号線の無電柱化に着手する 。この通りには観光バス駐車場があり、三つの重伝建地区の入り口機能を担っている。重伝建の魅力を引き出すには、周辺地域を含めた面的な整備は極めて重要である。

 主計町では軒下配線による無電柱化が行われ、隣接する下新町では道路脇の流雪溝を配 線管スペースに活用する調査も始まった。予算に限りがあるだけに、優先順位をはっきりさせ、地域の実情に応じて工法やコスト縮減策に知恵を絞る必要がある。

◎行政刷新会議 「政治主導」発揮できるか
 政府の行政刷新会議が進める独立行政法人(独法)の改革が難航している。統廃合や民 営化に多くの独法、つまり所管省庁が難色を示しているからという。行政刷新会議は独法改革だけでなく、「政策仕分け」や規制・制度改革にも取り組んでおり、今後、大いに政治の主導力を発揮しなければならないところだが、官僚との「融和」姿勢を見せる野田佳彦首相にそれがどこまで可能なのか気掛かりである。

 民主党は「政治主導・脱官僚依存」を掲げて政権の座についた。しかし、鳩山、菅両政 権下の取り組みは「官僚排除」の傾向が否めず、内閣と省庁の関係はぎくしゃくした。政治主導の行き過ぎは明らかであり、野田首相はその反省から官僚との関係改善を図っている。「政治主導は必要だが、空回りしてはいけない」という首相の考え方はもっともである。

 ただ、政策実現のために官僚の協力を取り付けるうちに、また官僚依存・官僚主導に陥 る恐れも付きまとう。行政刷新会議は「政治主導」の真価が試される場であると認識してもらいたい。

 行政刷新会議は全103の独法を対象に見直しを行っている。官僚の天下り先でもある 独法には、国から年間約3兆円が支出されており、統廃合や民営化でその削減を図る狙いである。これまでの聞き取り調査では、統廃合などに前向きの回答をしたのは1割強にとどまり、88法人は「ゼロ回答」という状況である。

 聞き取り調査では、例えば、類似業務を行う研究機関などについて、刷新会議が統合に よる経費節減を求めたところ、省庁側は「それぞれの研究をきめ細かく管理できなくなり、反対に効率性が落ちる」「業務監督に支障が出る」などと回答したという。独法改革には、こうした縦割りの官の論理を排する必要がある。

 政策仕分けや規制改革も進める行政刷新会議と、近く正式発足する国家戦略会議は民主 党政権がめざす政治主導のエンジンとなるべきもので、いずれも野田首相が議長を務める。両会議で指導者としての力量を見せてほしい。