2011/10/5
「時近ければなり その19」
原始キリスト教世界
ギリシア語のエノクの黙示録(2/4)
第11章
11.1.1
そのときこそ、祝福の宝庫、天の財産を開こう、そうしてそれを業に、人間どもの息子たちの労苦の報いに運びくだるために。
11.2.1
そのときこそ、真理と平和がもろともに共有されよう、永遠の日々のすべてにわたって、人間どもの世代のすべてにわたって』。
第12章
12.1.1
これらの言葉に先だって、ヘノークは受け容れられたが、どこに受け容れられたのか、どこにいるのか、彼に何が起こったのか、人間のうちに知る者は誰もいなかった。
12.2.1
そして彼の業は覚醒者たちとともにあり、彼の日々は聖なる者たちとともにあった。
12.3.1
そしてわたしヘノークは、偉大さの主、永遠〔複数〕の王をほめたたえて立っていた。すると、見よ、偉大なる聖なる者の覚醒者たちがわたしを呼んだ。
12.4.1
『ヘノークよ、正義の律法学者よ、行け、そして云ってやってくれ、天の覚醒者たちに――天の至高者、永遠の叛乱の聖所を見捨て、女たちと身をけがし、大地の息子たちのように、そのようにみずからも為し、自分たちの妻を娶った連中に。「おまえたちは大いなる堕落で大地を台無しにした、
12.5.1
だから、おまえたちには平安はもとより、赦罪もないであろう」と。そして彼らが喜ぶ自分たちの息子たちについても、
12.6.1
「彼らの愛する者たちの殺戮を眼にし、自分たちの息子たちの破滅に呻吟し、永遠に縛られるであろう、そして彼らには憐れみや平安を受けることはないであろう」と』。
第13章
13.1.1
そこで、ヘノークはアザエールに云った。
『行け。おまえに永安はあるまい。おまえを縛れという大いなる審判がおまえに対して下された、
13.2.1
寛恕も代願(erotesis)もおまえにはあるまい、おまえが教えた不正事についても、不敬な業のすべて、不正、罪、これらおまえが人間どもに教示したことについても』。
13.3.1
そのとき、わたしは行って彼ら全員に云った、すると彼らはすべて恐怖し、戦慄と恐怖が彼らをとらえた。
13.4.1
そして、自分たちのために代願(erotesis)の覚書を書いてくれるよう〔ヘノークに〕頼んだ、自分たちに赦罪がおこなわれるよう、そしてわたしが、天の「主」の御前で代願(erotesis)の覚書を彼らのために読みあげるよう、
13.5.1
それは、自分たちはもはや話しかけることができず、自分たちの両眼を天に向けて上げることもできないからである、自分たちが罪を犯し有罪宣告された事柄について、恥ずかしさのあまりに。
13.6.1
そのとき、わたしは彼らの代願(erotesis)の覚書と祈願(deesis)を書きあげた、彼らの霊について、また彼らが縛られる事柄について、彼らの赦罪と執行猶予が生じるようにと。
13.7.1
そうして、行って、ヘルモーネイエイムの西南にあるダン地方のダン河のほとりに座っていた。彼らの祈願(deesis)の覚書を読んでいた。
13.8.1
わたしはそのまま眠った、すると見よ、夢がわたしに臨み、幻がわたしにふりかかり、わたしは怒りの幻を見、声が至ってこう言う、
『天の息子たちに云え、彼らを叱責する〔言葉を〕」。
13.9.1
そこで、わたしは夢から覚めると、彼らのところに出かけてゆくと、全員がエベルサタ――リバノンとセニセールの中間にある――に集合して、視力を閉ざされて、座って泣いていた。
13.10.1
彼らの前で、夢に見た幻のすべてをわたしは報告し、正義の言葉を話し始めた。天の覚醒者たちを叱責するために。
第14章
14.1.1
これは、正義と叱責との言葉の書――この幻のなかで、大いなる聖なる方の言いつけにしたがい、永遠から生まれた覚醒者たちに対する。
14.2.1
これはわたしがわたしの夢のなかで見たことである、今わたしが、肉の舌でもって、わたしの口の息〔"pneuma"霊?〕でもって言おうとすることは、それら〔舌と息〕と心臓の思念(noesis)でもって、人間どもに話すことを偉大な方がゆるしてくださったことである。
14.3.1
創造をなさったその方は、天の息子たちである覚醒者たちを叱責することをおゆるしにもなったのである。
14.4.1
わたしは汝ら天使たちの代願(erotesis)を書いた、そしてわたしの幻のなかでは、それは示された。だが、汝らの代願(erotesis)は受け取ってももらえなかった、
14.5.1
そうして、もはやすべての永遠にわたって、汝らは天に登れず、永遠の全世代にわたって汝らを縛るべく大地の牢屋に突き落とされる、
14.6.1
また、これに関しては、汝らの愛する息子たちの破滅を汝らは見、彼ら〔息子たちから得られる〕喜びも汝らにはなく、〔息子たちは〕汝らの前で軍刀に斃れるであろうということ、
14.7.1
そして汝らの代願(erotesis)は、彼ら〔息子たち〕についてはもとより、汝らについてもないだろう。そして汝らは泣き、縛られ、わたしが書いた書面にある片言隻句も話すことはできない。
14.8.1
また幻によってわたしに次のように示された。見よ、群雲が幻のなかで呼び、霧がわたしに声をかけ、星辰の軌道と稲妻がわたしを急き立て、わたしをかき乱す、諸々の風もわたしの幻のなかでわたしを吹き飛ばし
14.9.1
わたしを上へ引き上げ、わたしを天の中に運びこみ、わたしは霰の石〔"lithoi chalazes"=水晶〕で建てられ、そのぐるりを火の舌で囲まれた城壁の近くまで入っていった。そして恐怖の念がわたしにおこってきた。
14.10.1
そうして火の舌をくぐって入り、霰の石で建てられた大きな館に近づくと、その館の壁は石版のよう、〔石版〕全体が雪〔=水晶〕からでき、土台も雪〔=水晶〕づくり、
14.11.1
屋根も星辰の軌道や電光のごとく、その間に火のケルウブたちがおり、彼らの天は水〔のように澄んでいた〕、
14.12.1
そして燃えさかる火が壁のぐるりを取りまき、扉も火で燃えあがっている。
14.13.1
その館にわたしは入っていった、
火のように熱く、雪のように冷たく、生き物の食べ物はそこには全くなかった。 恐怖がわたしをつつみこみ、戦慄がわたしをとらえた。
14.14.1
そのためわたしは震えおののいていた、
そして身をなげだした。わたしの幻のなかでわたしは見つめた、
14.15.1
すると、見よ、別の扉が開いていて、
わたしの向かい側に、これよりもっと大きな館があった、すべてが火の舌で建てられていた、
14.16.1
しかもすべてが栄光の点でも名誉の点でも偉大さの点でも抜きん出ているあまりに、わたしは汝らに、それの栄光についても偉大さについても言い尽くすことができないほどである。
14.17.1
この〔館の〕土台は火ででき、それの上方には、電光と星辰の軌道とがあって、その〔館の〕屋根も燃える火でできていた。
14.18.1
さらに、わたしは見つめて、高い王座を見た、その形は水晶のよう、輪郭は光り輝く太陽のそれのよう、ケルウブたちの声(oros)〔???〕もした。
14.19.1
そして、王座の下方へと火の燃えさかる河がいくつも流れ出ており、〔王座そのものを〕わたしは見ることができなかった。
14.20.1
そして大いなる栄光がそこに座していた。その外套は太陽の姿のよう、どんな雪よりも輝かしく白い。
14.21.1
そして、どんな天使もその館に近づくことはできず、名誉と栄光のあまりに、その顔を見ることもできず、どんな肉も、彼の、
14.22.1
ぐるりに燃えさかるその火を見ることもできなかった。大きな火が彼の前に立ちはだかり、彼に近づける者は誰ひとりいない。
彼の御前には、幾万もの〔天使たち〕がぐるりと立っていたが、どんな言葉も彼のもの〔他は言葉もない〕。
14.23.1
そして聖なる天使たち、彼の近くにある者たちは、夜間、引き下がらないのはもちろん、〔昼間も〕彼から離れることはない。
14.24.1
わたしは、そのときまで、わが顔を覆って、ふるえていた、すると主がその口をもってわたしを呼び、わたしに云った、
『こちらへ近く寄れ、ヘノークよ、わが言葉を聞け』。
14.25.1
すると、聖なる者たちのひとりがわたしに近づいてきて、わたしを起ちあがらせ、わたしを立たせた、そうしてわたしを王座のところまで連れて行った。しかしわたしはわが面を伏せてうつむいていた。
第15章
15.1.1
すると〔聖なる者が〕答えてわたしに云った。
『真実なる人間、真理の人、律法学者よ』。
すると、あの方の声をわたしは聞いた。
『怖れるな、ヘノークよ、真実なる人、真理の律法学者よ。ここへ近く寄れ、そしてわしの声を聞け。
15.2.1
行って、おまえを遣わした者どもに云え、「執り成しをしなくてはならぬのは、おまえたちが人間どものためにであって、人間どもがおまえたちのためであってはならぬ。
15.3.1
何ゆえおまえたちは、永遠の聖なる高みである天を捨てて、女たちと同衾し、人間どもの娘たちと身をけがし、自分たちの妻に娶ったのか? おまえたちは大地の息子たちのようにふるまい、自分たちの生子、巨人の息子をもうけた。
15.4.1
おまえたちも聖なる者にして永遠の生きる霊であったのに、女の血によって身をけがし、肉の血によって生み、人間どもの血において欲情した。自分たち自身も肉と血となったかのように、〔彼ら=肉と血は〕死ぬ身であり、滅びる者たちである。
15.5.1
それゆえ、彼らには牝を与えた、それ〔=牝〕に種まき、そういうふうにそれによって生子を出産するため、地上における彼らの業がすべてなくならないためである。
15.6.1
これに反し、おまえたちは、永遠の生きた霊であり、永遠の全世代にわたって死ぬことはない。
15.7.1
それゆえにこそ、わしはおまえたちには牝をつくらなかった。諸々の霊は天に属し、天が彼らの住処である。
15.8.1
ところが今や、巨人たち、霊と肉から生まれた者たちが地上にあって強力な霊となり、彼らの住処は地上にある。
15.9.1
邪悪な霊が彼らの身体から出てきた、その所以は、上方にあるものらから生まれたからである、そうして、彼らの創造の起源と土台の初めは、聖なる覚醒者たちからなっているからである。彼らは邪悪な霊と呼ばれることになろう。
15.10.1
天の霊たちは、天にその住処があり、地上に生まれた霊たちは、地上にその住処があることになろう。
15.11.1
そうして、巨人たちの霊は雲たちに不正し、抹殺し、襲撃し、取っ組み合い、巨人たちの耳障りな霊は、ともに地上に投げ飛ばされ、競走し、何ものも喰わず、絶食し渇き、霊たちは躓く。
15.12.1
そして彼らは人間どもと女たちとの息子たちに反逆する、彼らから出てきたからである。
第16章
16.1.1
殺戮と破滅と死の日から、霊たちは彼らの肉の魂から出て行き、審判なしに堕落するであろう。こうして、最後の日、大いなる永遠が終わる、大いなる審判〔の日〕まで台無しにし続けるだろう。
16.2.1
ところが今や、自分たちのために執り成しをするようそなたを寄こした覚醒者たち、かつて天にあった者たちに〔云うがよい〕。
「おまえたちはかつて天にあった、そしておまえたちに開示された秘義をすべて、神から与えられた秘義をおまえたちは知り、これをおまえたちの心の頑なさゆえに女たちに漏らし、この秘義によって牝たちや人間どもは生子を地上にはびこらせた」。そこで彼らに云うがよい。「平安のあることなし」と』。
第17章
17.1.1
そうして〔天使たちは〕わたしを引き取って、ある場所に連れて行った、そこにいる者たちは火のように燃えさかり、望めば、人間のような姿を現すのだった。
17.2.1
また、彼らはわたしを暗黒の場所に、山――その頭が天にまで届く――に連れて行った。
17.3.1
そしてわたしは見た、光り輝く者たちの場所と、星辰と雷たちとの蔵とを、そして空気の底には、火の弓と矢弾とその矢筒と稲妻とがあった。
17.4.1
さらに彼らはわたしを水まで、日没の地――それはすべての日没をもたらすところでもあった――の火まで連れて行った。
17.5.1
さらにわたしたちは火の河までおもむいた、そこでは火が水のように流れくだり、日没の大海に注ぎこんでいた。
17.6.1
わたしは大きな河川を見た、そして大河まで、大いなる暗黒までたどりつき、どんな肉も歩きまわらぬところにおもむいた。
17.7.1
わたしは見た、暗黒の冬の雲たちと、底なしの深淵にあるすべての水の流出とを。
17.8.1
わたしは見た、大地にあるすべての河川の口と、底なしの深淵の口を。
第18章
18.1.1
わたしは見た、すべての風たちの蔵を、わたしは見た、それら〔風たち〕によってすべての被造物たちと大地の土台とを〔神が〕飾ったことを、そして大地の隅の石をわたしは見た。
18.2.1
わたしは見た、大地を支える4つの風たちと、
18.3.1
天の土台を、そして彼ら〔風たち〕は大地と天との間に立っている。
18.4.1
わたしは見た、諸々の天の風が向きを変え、太陽の回転を合図するのを、そしてあらゆる星辰を〔わたしは見た〕。
18.5.1
わたしは見た、地上の風が雲を運ぶのを。わたしは見た、大地の果てを、天の上方への支えを。
18.6.1
通りすぎて、わたしは見た、夜も昼も燃える場所を、そこには高価な石でできた7つの山々が、3つは日の出の方角に、3つは南に横たわっているのを。
18.7.1
そして、日の出の方角にある〔山々〕は、色つき石からできたのがひとつ。真珠の石からできたのと、石からできたのが連なり、南にあるのは火色の石からできていた。
18.8.1
また、それらの真ん中の〔山〕は天に達し、神の王座のごとく からでき、王座の頂はサファイア石からできていた。
18.9.1
また燃える火を見た。これらの山の向こうに、
18.10.1
大地の果ての場所がある。諸々の天はここに尽きるのであろう。
18.11.1
さらに、火の柱が幾本もくだってくる大きな裂け目を見た、深さも高さも計り知れなかった。
18.12.1
そして、この裂け目の向こうに、上に天の天蓋もない場所を見た、その〔天の〕下に土台をなす大地もなく、その〔裂け目の〕下には水もなく、鳥も飛ばず、荒涼たる怖ろしい場所であった。
18.13.1
そこに7つの星が、大きな山のように燃えているのをわたしは見た、これについて聞くわたしに
18.14.1
天使が云った、
『これは天と地の終わるところ。これは星たちと天の権能者たちとの牢獄である。
18.15.1
この火の中を転がっている星たちも、この連中は自分たちの上昇の初めに、主の命令に背いた者たち――天の外の場所はむなしいから――自分たちの適時に出現しなかったからである。
18.16.1
そこで〔神が〕彼らに怒られ、これを縛られたのである、彼らの罪の完了の時まで、その期間は、1万年間である』。
第19章
19.1.1
さらにウウリエールがわたしに云った。
「女たちと交わった天使たちはここに立たされるであろう、そして、彼らの霊たちはさまざまな形をとって人間どもをけがし、精霊たちに供儀するようこれを惑わすであろうが、それも大いなる審判〔の日〕までのこと、その日に裁かれて終わるであろう。
19.2.1
また彼らの女たちも、天使たちが途を踏み外したのだから、セイレーンたちとなるだろう」。
19.3.1
これらの光景を、万事の果てを見たのは、わたしヘノークだけである、人間たちのうちひとりとして、わたしが見たように見たものは決していない。
第20章
20.1.1
軍団の天使たち〔は以下のとおり〕。
20.2.1
ウウリエール、聖なる天使たちのひとり、世界と奈落に〔配置されているもの〕。
20.3.1
ラパエール、聖なる天使たちのひとり、人間どもの霊たちに〔配置されているもの〕。
20.4.1
ラグウエール、聖なる天使たちのひとり、光輝くもの(phoster)たちの世界に復讐するもの。
20.5.1
ミカエール、聖なる天使たちのひとり、民人の善きものらに配置されている、また混沌を〔つかさどるもの?〕。
20.6.1
サリエール、聖なる天使たちのひとり、霊に対して罪を犯すような霊たちに〔配置されているもの〕。
20.7.1
ガブリエール、聖なる天使たちのひとり、楽園と竜たちとケルウブたちとに〔配置されているもの〕。〔以上が〕天使長たち7人の名前である。
〔ここには6名の名前しかないが、別の写本には、「レメイエール、聖なる天使たちのひとりで、神はこれを反抗者たちに向けて配置した」とある。〕
ギリシア語のエノクの黙示録(3/4)
第21章
21.1.1
さらに道を進んで、形の整わぬ〔混沌の地〕にまでいたった。
21.2.1
そして、そこでも、怖ろしい業をわたしは眼にした。わたしは上界の天を見たのでもなく、わたしが眼にしたのは、土台として据えられた大地でもなくて、形の整わぬ怖ろしい場所であった。
21.3.1
そして、そこでもわたしは眼にした、天の7つの星たちが縛られ、そこ〔天〕にいっしょにうち捨てられているのを、山々と同じくらい大きく、そして火に包まれて燃えているのを。
21.4.1
そのときわたしは云った、
「いかなる理由で、捕縛されているのですか、いったいいかなる理由でこういうふうにうち捨てられたのですか?」。
21.5.1
そのときウウリエールがわたしに云った、〔ウウリエールは〕聖なる天使たちのひとり、わたしに同行していた――みずからも彼ら〔聖なる天使たち〕を指揮していた――そしてわたしに云った。
『ヘノークよ、誰のことを尋ねているのか、それとも、誰について真理を熱愛しているのか?
21.6.1
これは天の星たちに属するものらにして、主の命令(epitage)を踏み外したものら、それでかく縛られている、1万年が充たされるまで、自分たちの犯した罪の期間』。
21.7.1
さらにそこから道を進んで、この〔場所〕よりも怖ろしい別の場所にたどりついた、そしてもっと怖ろしい業をわたしは眼にした、そこには大きな火が燃えあがり、燃えさかり、その場所は、底なき深淵に達する裂け目を有し、〔その裂け目は〕下向きに燃えあがる大きな火柱に満ち満ちていた。その規模も幅も、わたしは見ることはもとより、想像することさえできなかった。
21.8.1
そのとき、わたしは云った、「ここは何と怖ろしいところか、何と眼にも恐ろしいことか」。
21.9.1
そのとき聖なる天使たちのひとり――わたしの同行者だった――がわたしに答えて、わたしに云った。
『ヘノークよ、何ゆえ怖れるのか? それほどまでに怖じ恐れるのはいったい〔どうしたこと〕か?』。
そこでわたしは答えた。
「この場所が怖ろしくて、この外見が恐ろしくて」。
21.10.1
すると彼が云った。「この場所は天使たちの牢屋である。永遠に至るまで永遠の間、こうやっていっしょに抑留されるであろう」。
第22章
22.1.1
そこからさらに道を進んで、別の場所にたどりつき、日没の方角に、大きくて高い、硬い岩からできた別の山をわたしに示した。
22.2.1
その〔場所〕には、4つの窪地があり、深さを有し、ひどくすべすべしていた、そのうち3つは暗黒で、ひとつは光り輝き、これの真ん中には水の源があった。そこでわたしは云った、
「これらの窪地がすべすべしていて、非常に深く、見た目に暗黒なのはどうしてですか?」。
22.3.1
そのとき答えてくれたのがラパエール、聖なる天使たちの一人で、わたしの同行者であったが、わたしに云った、
『これらの窪地は、死者たちの魂たちの霊たちがここに集合させられるためのもの。人間どもの魂たちすべてがここに集合するよう、まさにそのように定められているのだ』。
22.4.1
そしてこれらの場所は、彼らの受付をなすのだ、彼らの審判の日まで、つまり、大いなる審判が彼らに対して行われるその定めの時、定められた時まで』。
22.5.1
わたしは死んだ人間どもが訴えるのを眼にしたが、彼の声が天まで達し、訴えていた。
22.6.1
そこでわたしはラパエール、わたしに同行していた天使に尋ねて、これに云った、
「訴えているこの霊は誰のですか、彼の声がこのように天にまで達し、訴えているのはなぜですか?」。
22.7.1
するとわたしに答えて言った、
『この霊は、兄弟カインが殺したアベルから出たものです、アベルは彼〔カイン〕を訴えているのです、その種が大地の表から破滅するまで、人間どもの種からその種が消滅するまで』。
22.8.1
そのときわたしは取りまいているものすべてについて尋ねた、何ゆえひとつはひとつから隔たっているのかを。
22.9.1
するとわたしに答えて言った、
「これらの3つ〔の窪地〕は、死者たちの霊たちが隔てられるために作られた。そしてこういうふうに隔てられているのは、義しい人たちの霊たちのためである、ここにある水の源は、光り輝いているのです。
22.10.1
そして、こういうふうに設営されているのは、罪人たちが死んで地中に埋められるとき、彼らの〔霊たちのために〕である、そして審判も、彼らの存命中は、彼らに行われない。
22.11.1
彼らの霊はここに隔てられ、この大いなる責め苦を受けるのです、審判、つまりは、鞭と永遠に至るまでの呪われた責め苦を受ける大いなる日まで。報いはいつも霊たちの受けるものだ。ここで永遠に至るまで〔神は〕彼らを縛られるであろう。
22.12.1
またこういうふうに、訴える者たちの霊たちのためにも隔てられている、破滅について告発する者たちが、罪人たちの日々に殺された場合には。
22.13.1
またこういうふうに、人間どもの霊たちのためにも設営されているのです、敬虔でなく、罪人である者たち、そして無法者たちの共犯者となった者たちは。しかしこれらの霊たちは、彼ら〔無法者たち〕ほどには懲罰を受けることなく、審判の日に罰せられることなく、ここで甦らせなおされることもない」。
22.14.1
そのとき、わたしは栄光の主を祝福し、そして云った、
「祝福すべきかな、正義の主、永遠の主なる方は」。
第23章
23.1.1
そこからさらに道を進んで、日没の方角に、大地の果ての別の場所にたどりついた。
23.2.1
そうしてわたしは眼にした、駈けぬける火――休みなく、走路に欠けることもなく、昼も夜もわかたず〔走り〕続ける火を。
23.3.1
そこでわたしは尋ねて言った。「休息を持たざるこれは何ですか?」。
23.4.1
そのとき、ラパエール――聖なる天使たちの一人で、わたしに同行していた――がわたしに答えた。
「これは火の走路、日没の方にある火は、天の光り輝くものたちを追いかけるもの」。
第24章
24.1.1
さらに彼は、夜の間燃える火の山々をわたしに示した。
24.2.1
さらに、それらの向こう側にわたしは前進していって、7つの山をわたしは眼にした、〔その山々は〕いずれもが輝かしく、それぞれがそれぞれと相違せず、それらの〔山々の〕石は美しさの点で貴く、いずれもが高貴で輝かしく姿よく、3つは日の出の方角に一所に鎮座し、3つは南に一所に〔鎮座していた〕、そうして谷(pharanx)は深く険阻で、ひとつはひとつに接していない、
24.3.1
さらに山についていえば、第7の山が、それら〔6つの山々〕の真ん中にあって、王座の座席に似て、高く聳え立ち、姿よき樹木がこれを取りまいていた。
24.4.1
さらに、それら〔の樹木〕のなかには、わたしがいまだかつて匂いを嗅いだこともなく、これを享楽した者もほかに誰もなく、これに似た樹はほかに何もないような樹があった。どんな香料よりもよい匂いのする香りを有し、その葉、花、木〔幹〕は永遠に衰えることがない。果実の房はナツメヤシのそれのよう。
24.5.1
そのときわたしは云った、この樹はなんと美しく、よい匂いがし、葉はうるわしく、その花も見た目にうるわしい、と。
24.6.1
そのとき、ミカエールがわたしに答えた、〔ミカエールは〕聖なる天使たちの一人で、わたしに同行していた――彼もまた彼ら〔天使たち〕を指導していた――
第25章
25.1.1
そして〔その彼が〕わたしに云った、
「ヘノークよ、何を尋ねているのか、いかなる点でこの樹の香りに驚いているのか、いったい何ゆえに真理を学び知りたいのか?」。
25.2.1
そのとき、彼に答えた、
「すべてについて知りたいのです、とりわけこの樹については格別に」。
25.3.1.
すると答えて言った、
『この高い山、その頂が神の座に似ているこの山は、偉大なる主、永遠の王である栄光の聖なる方が、大地を善の方に監督するために降りてこられるときに座る座席である。
25.4.1
そしてこの、よい匂いのする樹は、大いなる審判〔日〕まで、肉はひとつとしてこれに触れることはできない、〔この日に〕永遠に至るまで、あらゆるものの復讐と終末とがある。そのとき、義なる人たち神法にかなった人たちに与えられるであろう
25.5.1
この〔樹の〕果実が、北の方に、選びぬかれた人たちの生命のために〔与えられるであろう〕、そして聖なる場所、永遠の王である神の家のそばに植えかえられるであろう。
25.6.1
そのとき、彼ら〔義人たち〕は享楽に享楽をかさね、喜び、聖なるところに入ってゆくであろう。この〔樹の〕香りは彼らの骨にしみ、〔彼らは〕汝の父祖たちが求めた長命を地上に求めるであろう、そして彼らの〔人生の〕日々に、責め苦も打撃も鞭も彼らに触れることはあるまい』。
25.7.1
このときわたしは栄光の神、永遠の王を祝福した、義しい人間どもにこのようなことを用意し、これを創造し、彼らに与えると云った方を。
第26章
26.1.1
そこからさらに道を進んで、大地の真ん中に至り、祝福された場所を見た、そこには、切り倒された樹の、生き残って芽を吹いた挿し木を有する樹々があった。
26.2.1
ここでも聖なる山〔シオン山〕を眼にした。その山の麓に水〔シロアムの流れ〕が日の出の方角から南西に〔流れていた〕。〔???〕
26.3.1
また、日の出の方角に、これよりも高い別の山〔オリブ山〕があり、そしてそれの真ん中に深い谷〔キデロン谷〕があり、〔この谷は〕幅はなかったが、この〔谷〕には水が山の麓を流れていた。
26.4.1
さらにこの日没の方角に、これよりも低い別の山〔とがの山〕があり、高さはなかったが、それらの〔山々の〕真ん中に、深い、涸れた谷〔ヒンノムの谷〕があり、3つの山々の端の方に、別の深い涸れた谷があった。
26.5.1
そしてすべての谷は深く、硬い岩から成り、そこには樹木が生えていなかった。
26.6.1
そこでわたしはこの谷を眼にして、ひどく驚いた。
第27章
27.1.1
そこでわたしは云った、
「何ゆえこの土地は祝福され、すべて樹々に満ちているのに、この谷だけは呪われているのですか?」。
27.2.1
『この地が呪われているのは、永遠に呪われている者たちのせいである。呪われた者たちは全員がここに集結させられるであろう、〔呪われた者たちとは〕自分たちの口で、主に対してみっともない声で言い立てる者、その栄光に関して耳障りなことを話す者たちである。彼らはここに集結させられ、ここが住処となろう。
27.3.1
究極の永遠の間、真なる審判の日々に、義しい者たちの前で、栄光の主に不敬を働いた者たちは、ここで祝福するのです、永遠の王を。
27.4.1
彼らの審判の日々、自分たちに分け与えたように、憐れみを祝福するであろう』。
27.5.1
そのとき、わたしは栄光の主を祝福し、その栄光を明らかにし、偉大な方にふさわしく讃美した。
第28章
28.1.1
さらにそこから道を進んでマンドバラの中央にいたり、その砂漠をわたしは見た。じっさいに一面の砂漠なのに
28.2.1
樹々に満ち、種蒔き時には上から水がほとばしりくだり、
28.3.1
豊かな水流のごとく、北の方と同じく日没の方にも、至る所から水と露を吹き上げている。
第29章
29.1.1
なおもそこから道を進んで、バブデーラにある別の場所にたどりついた、するとこの山の日の出の方角に行き着き、
29.2.1
そしてわたしは裁きの樹を見た、〔その樹は〕乳香やスミュルナの香料〔の匂い〕を発散し、それらの樹々はカリュアに似ていた。
第30章
30.1.1
さらにそれら〔樹々〕の向こうに、遠く日の出の方に行き着き、別の大きな場所を、水のある谷を見た、
30.2.1
そこにも、スキノスに似た香料の色をした樹々があり、
30.3.1
そしてこれらの谷の岸にある樹々も香料の肉桂なのを見た。さらにその向こう側、日の出の方角に行き着いた。
ギリシア語のエノクの黙示録(4/4)
第31章
31.1.1
そして別の山々を見た、その〔山々〕も樹木が生い茂り、その〔樹々〕からは、サッランとかカルバネーとか呼ばれる神酒(nektar)が流れ出ていた。
31.2.1
さらにこれらの山々の向こう、日の出の方、大地の果ての別の山を見た、ありとあらゆる樹々がアーモンドに似た〔果実に〕満ち、
31.3.1
潰すとたちまち〔香りが立ちこめた〕。だから、どんな香料よりもよい香りがした。*****
第32章
32.1.1
北東の方に、有用な甘松やスキノスや肉桂や胡椒に満ちた7つの山を眼にした。
32.2.1
そこからさらに、これらの山々のすべての初めの方に道を進み、大地の日の出の方角に遠く離れ、エリュトラ海の上を渡り、端に着き、さらにそこからゾーティエールの上を渡った。
32.3.1
かくして、正義の楽園にたどり着き、遠くから、これらの樹々よりも数も多く大きな樹々を見た、そこには2本の、すこぶる大きな、美しく光り輝き偉大な樹があり、これは聖なる者たちがこれの実を食べ、大いなる分別を知った、あの分別の樹であった。
32.4.1
その樹は高さが樅の木(strobikea)に等しかったが、その葉はイナゴマメの木に似ており、その実はブドウの房のようにすこぶるつやつやして、その匂いは樹から遠くまで行き渡っていた。
32.5.1
そのときわたしは云った、この樹はなんと美しく、見た目になんと優美なことかと。
32.6.1
そのとき、ラパエールが答えた、〔彼は〕聖なる天使で、わたしに同行していた、
「これは分別の樹、汝の父祖がこれをとって喰べた」。
第89章
89.42.1
そうして、イヌたちがヒツジたちをむさぼり食い始め、イノシシたちやキツネたちもそれ〔ヒツジたち〕をむさぼり食った、そこでついに、ヒツジたちの主は、ヒツジたちの中から、1匹の雄羊を起ちあがらせた。
89.43.1
そしてこの雄羊〔サウル〕が、角によって突き、追いかけまわし始め、キツネたちに飛びかかり、これとともにイノシシたちにも〔飛びかかった〕。そうして、多くのイノシシたちを破滅させ、これとともにイヌたちをも痛めつけた。
89.44.1
こうして、その両眼が開いたヒツジたちは、ヒツジたちの中にいる雄羊を眼にした、〔他方、第1の雄羊は〕ついにおのれの道を捨てて、道なき道を進み始めるようになった。
89.45.1
そこでヒツジたちの主は、この牡を別の牡〔ダビデ〕のところに遣わし、これを、おのれの道を見捨てた雄羊に変えて、ヒツジたちを支配する雄羊に任じることにした。
89.46.1
そこで〔第1の雄羊は〕彼〔第2の雄羊〕のところに行き、自分たちだけで、静かにこれに話しかけ、これ〔第2の雄羊〕を雄羊に、支配者に、ヒツジたちの指導者に立たせた。しかしイヌたちも、この間ずっと、ヒツジたちを悩ましつづけた。
89.47.1
しかも、第1の雄羊が第2の雄羊を追いかけまわし、自分の前から追放した。その後で、第1の雄羊が、イヌたち〔ペリシテ人〕の前で斃れたところまでわたしは目撃した。
89.48.1
こうして第2の雄羊が立ち上がり、ヒツジたちを導いた。
89.49.1
こうしてヒツジたちは生長し、繁殖した。そうして、イヌたちもキツネたちもすべて彼のところから逃げ出し、彼を怖れた。
第90章
90.1.1
******90.6.1
そうして、汝らの無法の言葉がすべて、大いなる聖なるかたの御前で、汝らに面と向かって、読みあげられるであろう。その後で、無法にかかわった業はすべて却下されることがない。
90.7.1
わざわいなるかな、汝ら、海のさなかにある罪人たち、陸上にある罪人たちよ。汝らの悪は記憶される。
90.8.1
わざわいなるかな、汝ら、正義によらぬ金や銀を所有する者らよ、汝らはいう、富はたっぷり手に入れた、持ち物は手に入れた、所有した、
90.9.1
それでは、何でもしたいことをしよう、銀子はわれわれの金庫に、多くの善きものらはわれわれの家の中に貯めこんだから。
90.10.1
そうして水のように注ぎこむ。汝らは惑っているのだ、汝らの富がとどまることは決してなく、
91.1.1
汝らからたちまち飛び去るであろうから、万事を不正に所有したのだから。そして汝らは大いなる呪いの中に引き渡されるであろう。
第91章
91.1.1
今こそ汝ら賢者たち、愚者ならざる者たちに誓っていう、汝らは地上に数多の無法を眼にすることであろうことを。
91.2.1
男たちが、女のように、美しさを身にまとわせ、乙女たちにもましてうるわしい色を〔身にまとわせるであろう〕ことを、王権や偉大さによって、また権力によって。さらに、自分たちの手持ちの銀や金を食物のために使い、自分たちの家に水のように注ぎこむであろう。
91.3.1
彼らは知識はもとより、分別のひとつも持っていないからである。このようにして、汝らの手持ちのものすべてと、汝らの栄光と名誉のすべてとともに、もろともに破滅し、不名誉と荒廃と大いなる殺戮によって、汝らの霊は火の炉の中に投げこまれるであろう。
〔4行欠落〕
……地上に遣わしたのではなく、人間どもがそれ〔=罪〕を自分から創造し、それ〔=罪〕を作った者たちが大いなる呪いの中にたどりついたのだ。
91.5.1
また、女奴隷〔の身分〕も、女たちに与えられたのではなく、両手の業によって〔生じたのだ〕。女奴隷が女奴隷であるのは定められたことではないのだから。上から与えられたのではなく、圧制によって生じたのである。
同様に、無法も上から与えられたのではなく、違法によって。同様に、不妊の女も創造されたのではなく、自分の不正から子なしに定められ、子なきまま死ぬのである。
91.6.1
汝らに誓っていう、大いなる聖なる方に対する罪人たちよ、汝らの邪悪な業は天においてさらけだされていると。汝らの不正の業にして隠されているものははない。
91.7.1
汝らの魂に思い描くのはもとより、汝らの心に思い描いてはならぬ、〔彼らは〕知らず、見もせず、汝らの不正事が目撃されることもなく、それが至高者の御前で書き上げられることもないなどと。今より心得よ、汝らの不正事はすべて、日々、汝らの審判〔の日〕まで、書き上げられるであろうということを。
91.9.1
わざわいなるかな、汝ら、無分別な者らよ、汝らの愚かさのゆえに汝らは破滅し、汝らは賢者たちのいうことを決して聞かず、善きものらは汝らに出会わず、逆に悪しきものらが汝らを取りまくとは。
91.10.1
今こそ知れ、汝らには破滅の日が用意されるであろうことを。救済を望むな、罪人たちよ。立ち去って、死ね、知るがよい、大いなる審判とより大きな艱難の日が汝らの霊に用意されることを。
91.11.1
わざわいなるかな、汝ら、心の強情な者たち、悪をなし、血を食う者たちよ、汝らが喰うための善きものらは、汝らにとってどこにあるのか……
〔4行欠落〕
91.12.1
不正の業。どうして汝らに美しき希望があろうか? 今、汝らの知るべきことは、汝らは義しい人たちの手に引き渡され、彼ら〔義しき人たち〕は汝らを殺し、汝らを容赦することは決してないということである。
91.13.1
わざわいなるかな、汝ら、義しき人たちの言葉を無効にすることを望む者たちよ。汝らに救済の希望は決してない。
91.15.1
わざわいなるかな、汝ら、虚偽の言葉、迷妄の言葉を書き記す者たちよ。彼らは書き記し、その虚偽によって、多くの人たちを惑わすであろう。
91.16.1
汝ら自身が惑い、汝らに喜びはなく、汝らはたちまちに破滅するであろう。
第92章
92.1.1
わざわいなるかな、汝ら、迷妄を作る者たち、そして、虚偽の業によって名誉と栄光を手に入れる者たちよ。破滅するがよい、汝らに善きものに至る救済はない。
92.2.1
わざわいなるかな、汝ら、真実の言葉を改変し、永遠の契約を歪め、みずからは罪なきものと思量する者らよ。彼らは大地の中に呑みこまれるであろう。
92.3.1
そのとき、義しき者らよ、汝らは用意せられるであろう、汝らの代願(erotesis)を記憶されるよう差し出し、証言によって天使たちの前にこれを与えよ、不正者たちの罪を記憶せられるよう、彼ら〔天使たち〕が神である至高者の御前に差し出すように。
92.4.1
そのときこそ、不正の破滅の日に当たって、彼ら〔罪人たち〕は周章狼狽するであろう。
92."5-6".1
まさしくその時(kairos)に、産婦たちは分娩し、引きずり出し、幼ない嬰児を見捨てるであろう、そして胎の中に孕んだ女たちは堕胎し、授乳する女たちはおのが生子を投げ捨て、おのが幼児に、乳を飲む子らの世話さえすることはなく、大切にもしない……
92.7.1
そうして、銀や金、木や石や粘土の似像を彫るものたち、幻想や精霊たちや忌まわしいものらや邪悪な霊たちやありとあらゆる迷妄に、知識によらずに仕える者たちよ、汝らはそれらから何の助けも得られないであろう。
92."8-9".1
そして彼らはおのれの心の愚かさゆえに惑い、夢の中の光景が汝らを惑わし、汝らと、汝らがなし汝らが仕えてきた汝らの偽りの業とは、一瞬のうちに破滅するであろう。
92."10-12".1
そのときこそ、賢者たちの言葉に耳を傾けてきた者たちは浄福にして、至高者の言いつけを実行すべしとのそれらの〔言葉〕を学び、おのれの正義の道を進み、迷妄によって惑わされることなく、救われるであろう。
92.13.1
わざわいなるかな、自分の労苦によらずして、おのれの家を建てる者たちよ、石により煉瓦によってあらゆる家をこしらえるが、汝らに喜びはない。
92.14.1
わざわいなるかな、永遠の昔からの、おのが父祖の土台と遺産をあなどる者たちは、迷妄の霊たちが汝らをせきたてるとは。汝らに休息はない。
92.15.1
わざわいなるかな、汝ら、無法をなし、不正の援助をなし、おのが隣人を殺し、ついに大いなる裁きの日にいたる者たちよ。
92.16.1
そのとき、〔神は〕汝らの栄光を破壊し、汝らに対するその怒りをかきたて、大剣でもって汝らをことごとく破滅させ、義しい者らもみな汝らの不正を思い起こすであろうから。
第93章
93."1-2".1
そのときこそ、ひとつところに……彼らの血が流れる。そして人はその手をその息子から放さず、自分の善きものからさえ〔放さ〕ずしてこれを殺し、罪人も敬愛する者から、自分の兄弟からさえ〔手を放さずしてこれを殺す〕。夜明けから、日の沈むまで、同じ目的で殺し合う。
93.3.1
かくして、馬はおのれの胸まで罪人たちの血につかって進み、血は車軸まで没するであろう。
93.4.1
そしてあの日には、天使たちが隠されたところに降りたってひそむ。不正を援助した者たちはひとつ所に集められ、至高者は審判の日に、万物から大いなる審判をするようかきたてられるであろう、
93.5.1
そうして、すべての義人たち聖者たちのために聖なる天使たちの見張りを配置し、諸悪と罪がなくなるときまで、〔彼ら天使たちは〕眼の瞳のように守護するであろう。そうしてそのときから敬虔な者たちは快い眠りにつき、彼らを怖れさせるもはもはやないであろう。
93.6.1
そのとき、賢明なる人間どもは眼にし、大地の息子たちはこの書簡のこの言葉をとくと考え、知るであろう、自分たちの富は、不正の倒壊するとき、自分たちを助けることはできないということを。
93.7.1
わざわいなるかな、汝ら、心頑なな者たち、悪をたくらむ不眠の者たちよ。恐怖が汝らをとらえ、汝らに手をさしのべる者はいない。
93.9.1
わざわいなるかな、汝ら、汝らの口の業によるすべての罪人たちは。わざわいなるかな、汝ら、汝らの口の言葉による、また、汝らの両手の業による、すべての罪人たちは。聖なる業から惑い出て……するとは。
93.11.1
……すべての雲と桐と露と雨が、汝らの諸々の罪の上に……。
93.12.1
されば、雨に贈り物を与えよ、汝らに雨降ることを妨げぬために、また露にも雲にも霧にも〔贈り物を与えよ〕。雨降るために金貨の無効を宣言せよ。
93.13.1
雪や霜やその寒さが汝らの上にふりかかり、また風やその氷、またそれらのありとあらゆる鞭が〔汝らの上にふりかか〕れば、寒さとその鞭の前に汝らは堪えることはできないであろうから。
第94章
94.1.1
されば、とくと考えよ、人間どもの息子たちよ、至高者の業を、彼の御前で邪悪をなすことを怖れよ。
94.2.1
〔彼=至高者が〕天の窓を閉ざされたら、汝らのために露と雨が降るのを妨げられたら、どうするのか?
94.3.1
汝らのせいで、すなわち、汝らの業のせいで、〔彼=至高者が〕その怒りを発せられたら、汝らは彼に懇願することはできまい。何ゆえ汝らは汝らの口で、彼の偉大さについて、大きな曲がったことを話すのか?
94.4.1
海を航行する船主たちを見よ、彼らの舟は大波や嵐に揺られているのを。
94.5.1
そして嵐にあえばみなが恐怖する、善きものらや自分たちの持ち物をすべて船外に、海の中に投げこむ、そうして、海は自分たちを呑みこむのか、その中で破滅させるのかと、自分たちの心の中で危惧する。
94.6.1
海はすべて、またその水もすべて、至高者の業ではないか、そして彼はそれらの境界を立て、これ〔=海〕を結わえつけ、これを砂で囲いこまれたのではないか?
94.7.1
そして彼の叱責によって、恐怖し、干上がり、魚たちも……
94.8.1
……大地と、彼らの中にあるものらすべてとを……か? 海の中を動くものらすべてに知識を与えたのは、いったい誰か? 船主たちは海を怖れるだろう。
第95章
95.1.1
いったい、汝らを焼く火の大波を、〔神が〕汝らの上に浴びせかけられるとき、逃げ去って助かるところがあろうか? いったい、汝らの上にその声を〔浴びせかけられる〕とき、
95.2.1
揺すぶられ、大いなる響きに恐怖することになろう、大地もどこもかしこも揺すぶられ、おののき、大混乱におちいる。
95.3.1
そして天使たちは自分たちに命じられたことを成し遂げ、天と、光り輝く者(phoster)たちとは、揺すぶられ、おののく。大地の息子たちすべてと、汝ら罪人たちとは、永遠に呪われた者となる。汝らに喜びはない。
95.4.1
元気を出せ、死んだ義人たち、義人にして敬虔な者たちの魂よ、
95.5.1
そして、悲しむな、汝らの魂が、悲しみのうちに冥府に降るからとて、そして、汝らの肉の身体には、汝らの生前に、汝らの聖潔さに応じて、出会わぬからとて、汝らがあった日々は、地上における罪人たちの、呪われた者たちの日々であったからである。
95.6.1
汝らが死んだとき、そのときこそ罪人たちはいうであろう、『敬虔な者たちは定めのとおりに死んでしまった、やつらの業に、いったいどんな得があったのか?
95.7.1
やつらだって、われわれと同じく死んでしまった。だから見よ、悲しみと暗黒をともなって死ぬざまを、いったい、やつらにどんな余得があったのか?』。
95.8.1
〔義人たちは〕蘇り、救われた、そして今からは、わたしたちが永遠に喰いかつ飲むのを眼にすることであろう。
95.9.1
そういうわけだから、〔罪人たちは〕略奪し、罪を犯し、着物剥ぎをし、善き日々を見ているがいい。
95.10.1
〔ところが罪人たちは云う〕
『ところが、おまえたち、みずからに義を行う者たちよ、見るがいい、自分たちの破局(katastrophe)がどのようなものであるかを、いかなる正義も、自分たちが死に、自分たちが破滅するまで、自分たちのうちには見いだされなかった95.11.1
そして、彼らの魂たちは、〔初めから〕いなかったもののごとくになり、苦悩のうちに冥府にくだっていった……』。
第96章
96.1.1
わたしは汝らに誓っていう……〔3行、欠落〕……
96.2.1
この秘義をわたしは知っている。というのは、天の石版を読みあげ、必然の書き物を見たからである。そこに書かれていたことを、汝らについて刻まれていたことをわたしは知っているからだ、
96.3.1
死人たちのうち敬虔なる者たちの魂たちには、善きものらと恩寵と名誉が用意され、書き記されているということを。
96.4.1
そして彼らは喜び、彼らの霊が滅びることは決してなく、大いなる方の面前から永遠の全世代にわたって記憶されないこともない。だから、彼らの罵詈雑言を怖れるな。
96.5.1
そして汝らは、罪人たちの死体よ、死んだときに、汝らについていうであろう、浄福なるかな、罪人たちは、自分たちの〔人生の〕日々はすべて、生前に知っているかぎりの日々だった〔=天寿をまっとうした〕、しかも、栄光につつまれて
96.6.1
死んだ、自分たちの存命中に審判はなかった、と。
96.7.1
汝らはみずから知っている、〔彼らが〕汝らの魂を冥府に連れ降るということを、
96.8.1
しかも、そこには大いなる責め苦の中に、暗黒の中に、罠の中に、燃える炎の中に置かれ、永遠の全世代にわたって、汝らの魂たちは大いなる審判にかけられるだろうということを。わざわいなるかな、汝ら、汝らに喜びはない。
96.9.1
だから、口にしてはならぬ、義しい人たち、存命中、敬虔な者たちよ、『われわれは苦悩の日々の労苦に疲労困憊した、破滅し、少数となった、われわれは助っ人を見なかった。
96.10.1
すっかり打ち砕かれ破滅し、そして、日々もはや救済を知らず、絶望した。
96.11.1
頭になることを望んだのに、尻尾となってしまった〔申命記28_13, 44〕。働いたけれど疲労困憊し、報酬も手にしなかった。罪人たちの餌食となり、無法者たちはわれわれの軛を重くした。
96.12.1
支配者たち、われわれの敵たちは、われわれを〔家畜を刺し棒で刺すように〕刺し、われわれを囲いに入れた。一息つくために、彼らから逃げこむところも見つけられなかった……〔3行、欠落〕……
96.14.1
われわれを倒し迫害する者たちのことを訴えたが、われわれの諸々の願い(enteuxis)は受け容れられなかった、われわれの声に彼ら〔支配者たち〕は耳を傾けようともしなかった。
96.15.1
われわれに手をさしのべてくれなかった、われわれを迫害し食い物にする者たちに対する者はなく、むしろ、われわれに対して彼らを強くする。彼らはわれわれを殺し、数少なくさせた。殺されたわれわれについて彼ら〔支配者たち〕は明らかにすることなく、彼らの罪について彼らの罪を思い起こさない』。
第97章
97.1.1
汝らに誓っていう、天にある天使たちは、偉大なる栄光の御前で、汝らの善を思い起こしてくれるということを。
97.2.1
だから、元気をだせ、汝らは〔かつては〕諸々の悪に、諸々の患難にぼろぼろになった。〔しかし〕天の光り輝くものたちのように汝らは輝き、明らかとなり、天の窓は汝らのために開かれるであろう。
97."3-4".1
そして汝らの叫び、汝らが叫ぶ汝らの審判は聞き届けられ、汝らの患難に関して、どれほどのことで汝らに手出ししたか、また、あらゆることで、汝らを迫害し食い物にした連中に手を貸したのが誰か、明らかにされるであろう。
97.5.1
大いなる審判の日にある諸々の悪を怖れるな、汝らが罪人としてみられることは決してないが、汝らが罪人なら、汝らは引き裂かれ、汝らに起因する永遠の審判が、永遠の全世代にわたってあることになろう。
97.6.1
汝らは怖れるな、義人たちよ、罪人たちが威勢を張り、首尾よくやっているのを見ても、彼らに手を貸してはならない、いやむしろ、彼らのすべての不正事から遠く離れているがよい。
97.7.1
すなわち、口にしてはならない、罪人たちよ、われわれの日々の諸々の罪が追及されることは決してないなどと。
97.8.1
今こそ汝らに明示しよう、光と暗黒、昼と夜は、汝らの罪のすべてを見届けるのだと。
97.9.1
汝らの心に惑うな、虚言もするな、真実の言葉を改変してもならぬ、聖なるものの言葉を虚言といってもならぬ、そして、汝らの似像たちに称讃を与えるな。なぜなら、あらゆる虚言とあらゆる迷妄が導くのは、義しいことにではなく……〔2行欠落〕……
97.10.1
真実の……を彼ら罪人たちは改変し、反論し、多数の人たちを変節させ、虚言し、大きなこしらえ話をこしらえ、自分たちの名前で書物を書きあげる。
97.11.1
じっさい、彼らは書けばいいのに、彼らの名前で、わたしの言葉をすべて、真実ありのまま、削りもせず、これらの言葉を改変もせず、わたしが彼らに証言した事柄を真実ありのままに書けばいいのに。
97.12.1
そうしたら、今度はわたしは第2の秘義を知っている、
すなわち、義しい人々、神法にかなった人々、賢者たちには、真実の喜びにいたるわたしの書物が与えられるだろう、
97.13.1
そして彼らは、これら〔の書物〕を信じ、これらを喜び、義しい人たち全員が、真理の道をすべてこれら〔の書物〕から学ぶことに歓喜雀躍するだろうということを。
第106章
106.1.1
さて、しばらくして後、〔神は?〕わたしの息子マトゥウサレクに妻を娶り、〔女は〕息子を生み、その名前をラメクと呼んだ。正義はあの日まで低くされた。そこで、年頃になったとき、これに女を娶り、これに子どもをもうけた、
106.2.1
そしてその子が生まれたとき、身体は雪よりも白く、バラよりも赤く、髪は真っ白で、羊毛のように白く、縮れ毛で、光輝に満ちていた。しかも、眼を開けると、家は太陽のように輝いた。
106.3.1
そして、産婆の手を離れると、口を開いて、主を祝福した。
106.4.1
そこでラメクはこれに怖れをなし、逃げだし、自分の父マトゥウサレクのもとに赴き、これに云った、
106.5.1
『わたしに変わった子が生まれました、人間どもに似ず、天の天使たちの子に〔似ているの〕です、形は相当変わっていて、わたしたちに似ておりません。眼は太陽の光線のようで、顔は輝いています。
106.6.1
じっさいわたしは想像しております、わたしの子ではなく、天使の子ではと、だから、これに危惧をいだいているのです、これの〔人生の〕日々に、地上に何か起こるのではないかと。
106.7.1
だから、どうか、お父さん、お願いです、わたしたちの父祖ヘノークのところに行ってください、そして尋ねてください……〔2行欠落〕……』。
106.8.1
〔マトゥウサレクは〕わたしのところに、大地の極にやってきた、そのときそこにわたしがいると知ったのだ、そしてわたしに云った、
『わが父よ、わたしの声に耳を貸してください、そしてわたしのところに来てください』。
そこで、わたしは彼の声を聞き、彼のところに赴いて、云った。
「見よ、わたしはここにいる、子よ。何ゆえわたしのところにやってきたのか、子よ」。
106.9.1
すると彼が答えて言った、
『大いなる必要性からここにやってきました、父よ。
106.10.1
つまり、今、わたしの息子ラメクに子が生まれました、ところがその姿とその似像は人間どもに似ず、その色も雪より白く、バラより火色で、その頭の毛は白い羊毛よりも白いのです、またその眼も、太陽の光線に似ているのです、
106.11.1
そして産婆の手を離れるや、口を開いて、永遠の主を祝福したのです。
106.12.1
ですから、わたしの息子ラメクが怖れをなして、わたしのところに逃げこんできて、自分の子だとは信じず、天使たちの子……〔1行ない2行欠落〕……あなたが持っておられる(?)精確さと真理を……』。
106.13.1
そのときわたしは答えて言った、
「主は地上の配置(prostagma)を改新されるのであろう、その同じ仕方をわたしは生子に見たし、そなたに示した。というのは、わたしの父のイアレドの世代に、〔人々は〕主の言葉を、天の契約を踏み外した。
106.14.1
そして、見よ、〔人々は〕罪を犯し、習慣を踏み外し、女たちと交わり、これとともに罪を犯し、彼女たちから子をなし、
106.14."17a"
そして、霊にではなく、肉的なものに似たものらを産む。
106.15.1
かくして大いなる怒りと、大洪水が地上に起こるであろう、そして大いなる破滅は1年間、続くであろう。
106.16.1
しかし生まれたこの子は生き残るであろう、また彼の3人の生子も、地上の死ぬものらのうちで救われるであろう。
106."17b".1
こうして、そこ〔地上〕における堕落から大地を〔神は〕やわらげられるであろう。
106.18.1
今こそラメクに言え、義しく、神法にかなった汝の子である、その名をノーエ〔=ノア〕と呼べ。なぜなら、汝らのうち、汝らが休息するときに、彼のみが生き残り、彼の息子たちが大地の堕落から、また、罪人たち全員から、また、地上の最期を遂げるものたち全員から……〔4行欠落〕……
106.19.1.
わたしに教示し、漏らしてくださった、そしてわたしは天の石版にそれらのことを読んだのだ。
第107章
107.1.1
そのとき、その上に書かれていたことを眼にした、世代の世代は諸悪のもの、正義の世代が立ち上がり、悪が滅び、罪が大地から一掃され、善きものらが地上に、彼らの上に至ろう。
107.2.1
今こそ、引き返せ、子よ、そして、そなたの息子ラメクに徴を見せよ、生まれたその子は彼の生子である、それは義しく、神法にかない、偽りではない、と」。
107.3.1
かくして、マトゥウサレクは自分の父ヘノークの言葉を聞いたとき――というのは、〔ヘノークは〕秘義として彼に明らかにしたので――、引き返し、彼〔ラメク〕に明らかにし、かくしてその子の名前はノーエ〔=ノア〕と呼ばれた、破滅から大地を喜ばせるからである。
5
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