放射線量が局地的に高い福島市渡利(わたり)地区の住民の要請を受け、神戸大大学院海事科学研究科の山内知也教授(放射線計測学)が9月、地区内の放射線量を測定したところ、雨や地形の影響で放射性物質の「天然濃縮」が進み、線量が3カ月前の5倍に上昇している地点があることが分かった。また高圧水で除染した地域では、道路のアスファルトなどに固着した放射性セシウムが十分に除去できていないことも判明。山内教授は「除染の効果は限定的。安易に期待させることで、住民をさらなる被ばくに導く」と警鐘を鳴らしている。
調査は9月14日に実施。渡利地区内の約100地点で空間線量と土壌汚染を測定した。
周囲を山林に囲まれた同地区は雨で流されたセシウムがたまりやすい地形という。数値が上昇していたのは通学路そばの溝で、1キログラム当たり約30万ベクレルのセシウムを検出。政府がコンクリートでの遮蔽(しゃへい)保管を求める10万ベクレルを上回り、6月の測定値の5倍以上だった。別の溝でも地表面の線量が毎時20マイクロシーベルト超を示し、3カ月前の2倍を超えた。
また、屋根や壁を高圧水で洗浄した学童保育の建物では、地面に近い1階より2階の方が線量が高かった。屋根や天井下を測定したところ、瓦に固着したセシウムが除染できていないことが判明した。
福島市が8月に除染モデル事業をした渡利小学校区では、泥出しをした側溝で毎時5・5マイクロシーベルトを計測した。除染によって線量が一時的に下がったものの、雨のたびに周辺の山林から汚染された土が流れ込む上、コンクリートに固着したセシウムが大量に残っている可能性があるという。
市のモデル事業では、側溝の泥出しや草刈り、道路の高圧水洗浄で通学路や民家を平均32%除染した。だが、子どもが日常的に歩く場所で毎時1〜2マイクロシーベルトの高止まり傾向が見られ、福島県南相馬市が子どもと妊婦の避難の基準とする「地上50センチで毎時2マイクロシーベルト」を超えた場所も5カ所あった。
山内教授は「従来の除染方法では不十分。コンクリートをはがして街をつくり直すぐらいの対策をしなければ、子どもたちは安心して暮らせない」と指摘している。
(木村信行)
▼環境省土壌環境課の話 現段階では、除染モデル事業で効果が実証された土壌のはぎ取りや洗浄を優先し、それでも線量が下がらない地区は個別に効果的な対策を考えたい。現時点ではアスファルトやコンクリートのはぎ取りなどは想定していない。
【国の除染対策】国は11月、福島第1原発事故で飛散した放射性物質の汚染地区について(1)国が除染する特別地域(年間被ばく線量20ミリシーベルト超)(2)自治体が除染し、国が費用負担する重点調査地域(同1〜20ミリシーベルト)‐に指定する予定。(1)は目標線量を明示せず、2014年3月末までの完了を目指す。(2)は13年8月末までに半減させ、長期的に年間1ミリシーベルト以下を目指す。
(2011/10/24 10:01)
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