琢己(以下、琢)
「ただの映画好きではないと?」
高橋優(以下、優)
「一応そういう風に自負してますけど。」
琢「例えば、その要素は?」
優「大学卒業後、フリーターの2年間を映画館で、
マネージャーのアルバイトをしてました。
50人ぐらいいるアルバイトの人のシフトを作ったり、
新しい映画のチラシが着たら、
それをどう展開したらお客さんが観てくれるんだろうとか、考えたり。」
琢「ちなみに、その映画館は、スクリーンの数はいくつぐらいあった?」
優「12個ありましたね。」
琢「え、デカ!!そこでマネージャー…
そのまま就職しないか?って言われなかった?」
優「言われました。
映画が好きすぎて、仕事に情熱を注いでしまったんですよね。
例えば、たまにポップコーンとかこぼされるお客さんとかいるじゃないですか。
普通は”あ、大丈夫ですよ〜”みたいな感じでいくんですけど、
僕なんか走って行ってましたからね。
”大丈夫です!大丈夫です!全部僕がやりますから!
お客さんは映画楽しんで下さい!”って。笑」
琢「でも、映画館でバイトしても、映画が見られるわけじゃないんでしょ?」
優「まぁ、これは映画館によって違うと思うんですけど、
僕がバイトしてた映画館は、お客さんに”この映画どんな感じの映画ですか?”って
聴かれた時にちゃんと答えられるように、
スタッフ用の上映室があって、そこでだったら見て良かったですね。」
琢「それこそ誰よりも近くで映画に接していた優くんですけど、
色々人間模様お仕事中見られたりしてますよね?」
優「映画館ってそういうの良いですよね。
映画の本編も楽しいけど、そこに入るまでの匂いだったり、
自分の前とか隣に座った人の感じとか、
その場の空気感ってあるじゃないですか。
自分は面白くないけど、周りで笑ってる人いっぱいいたりとか。
なんかそういうのとかも。」
琢「ミュージシャンとして映画を見ると、
また切り口が違うんじゃないかと思って、
しかも映画大好きで実際に働いたりもしていた優くんと、
こんなテーマでお届けしたい!という…タイトルを発表します!じゃじゃん!」
『映画と音楽の微妙な関係』
琢「優くん、なんでございましょうか!?」
優「”ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ”という映画でございます!」
琢「これ知ってる方?」
優「わー、ちょっとしかいない!!」
琢「こちらは、もともとはニューヨーク、
オフ・ブロードウェイのミュージカルからスタート。
それが映画化されたもので、2011年。
監督・脚本・主演がジョン・キャメロン・ミッチェル。」
優「そう、この人、このジャケの人が監督も主演もやってます。」
琢「ざっくり言うと、
愛を求める無名のロック・シンガー、ヘドウィグが数奇な半生を送る…。
そして、『栄光を掴むのか!?』
みたいなところで映画は進み、終わっていくのですが、
設定がちょっとまた複雑なんですよね。
ヘドウィグは、ドイツが東西に分かれていた時代に、東ベルリンで育って、
ロックン・ロール・ミュージックが溢れている環境じゃなかったのを、
ラジオを通して、そういう音楽を聴いて知っていくんですよね。
少年の頃、悶々としながら西側の音楽に触れて、
音楽に目覚めていくんですけど…。」
優「そう、で、ヘドウィグは男性だったんだけど、
性転換手術をして、女性になって彼氏ができるんですよ。
で、その彼氏は音楽に興味があるわけではなかったけど、
ヘドウィグに影響を受けて、バンド活動を始めるんですね。
で、その彼氏が、ヘドウィグが作った曲を、
全部盗作してメジャーデビューしちゃっていく、みたいな。
すごい、彼だけが有名になっていくんですよ。
ヘドウィグはそれを許せなくて、
彼が全米ツアーなどで大きなハコでライブをやる時は、
ヘドウィグもその近くにある小さなカフェとかで、
追いかけてライブをして、ツアーを一緒にまわっていく、みたいな。
そういう話しなんですよね。」
琢「”光と影”みたいなのが、すごく描写されていて、
その彼をロックに目覚めさせたのも実はヘドウィグなのに、
冷たくマスコミに虐げられたり、色んな要素が実は詰められていて、
色々考えさせられるシーンがあるんですけど、歌が美しいんですよね。」
優「そうなんです。
普通だったら、落ち込んで立ち直れないんじゃないかって思うぐらい
辛い経験をたくさん、ヘドウィグはするんですけど、
歌で乗り切ったり、その時一緒にいるバンドメンバーに救われたりとか、
愛の形は歪んでるように見えるけど、
”あの曲は自分の曲だ!”みたいな情熱とかも持って、
強く生き抜いていくんですよね。
それがすごいかっこいいのと、あとその途中で流れてる曲が前向き、
やっぱりちょっと捻くれてはいるけど、前向きな歌詞が多くて、
独自の世界観で歌ってるし、それがすごく魅力的なんですよ。」
琢「”愛の形を追い求めて行く”みたいなテーマが裏にあって、
それが1番のメインテーマの曲になってたりとかして。」
優「そう、オリジン・オブ・ラブ。
”愛の起源”っていう歌なんですけど。
これは、映画の中でたまにアニメーションが出てくるんですよ。
曲の世界をよりわかりやすくするために、
そこのところだけ、アニメみたいなのが出てくるんですけど、
それが分かりやすく表現されてて、
歌と一緒に入ってくるから、すごい感動するんですよ。
で、僕が個人的にこの映画で1番好きな曲が
”ウィグ・イン・ア・ボックス”って曲なんですけど、
性転換手術や、国や、彼氏の問題だったりとか、
ほんとに色んなことが辛すぎて、ヘドウィグが落ち込むシーンがあるんですよ。
”いいことないわ〜。”
“だけど今日も化粧して、ヅラかぶって頑張っていくんだ!”って、
これが本当に泣けるぐらい…
ま、僕ヅラかぶんないですけど、こう「行くんだ!」っていうスイッチ?
この頑張っていこうとする感じにすごい励まされたんですよね。
僕これ、大学の時によく観てたんですけど、
それこそ路上ライブを僕がよくやっていた時に、観てて、
彼氏がドーム級のハコで大歓声を湧かせている時に、
ヘドウィグは求められずに歌ってるんですよね。
カフェとかで勝手に飛び入りで歌ってるから。
静かにメシ食いたい人とかに、「うるせーな!」みたいな目で見られながら。
でも、それって僕もそうだったことがあって。
求められずに歌っていた期間がすごい長いときだったので。
今日も辛いことあったけど、化粧して、鏡見て、
"ホラ!自分はこんなに美しい!"みたいなことを思う歌で、
テンポもアッパーになっていって、最後はすっげーロックンロールになるんですよね。
曲調がだんだん気持ちまでもあげてくれるから、
1日良いことがなかったな〜ってちょっと落ち込んでる夕方とかに聴いてもいいんですよ。」