東日本大震災の影響で、被災地からの子供の転校が止まらない。発生から約半年の9月1日時点でも増えており、被災3県では福島県からの転出数が突出している。安心を求めて引っ越す子供たち。生徒数減で再建への不安を抱える学校。震災は、学校の構図を一変させている。【塚本恒、小林多美子、遠藤拓】
■母子だけで避難
「放射能にはワカメが効く、いや、うがい薬を飲めばいい……一体、何が本当なのか、不安だった」
福島県伊達市の主婦、菅野(かんの)由香さん(35)は9月上旬、小学3年の長女珠甫(みなみ)ちゃん(8)、次女真莉ちゃん(5)、長男峻士(たかと)君(3)の3人を連れて新潟市に避難した。伊達市内の会社に勤める夫を残し、母子だけでの避難。珠甫ちゃんは新潟市内の市立小に転校した。住民票は移さないままの「区域外就学」だ。
伊達市では東京電力福島第1原発事故の影響で、5月上旬から高い放射線量が検出された。菅野さんは避難を考え、市役所に相談に行ったが「私たちはタッチしていない」。自主避難への支援はなかった。
7月下旬、震災直後に伊達市から避難した友人の佐藤朱美さん(34)に会いに、新潟市を訪れた。公園に遊びに行くと、子供たちは「外で遊んでいいの?」。久しぶりに大はしゃぎで芝生を走り回る姿に、新潟への避難を決意した。頼みの綱は佐藤さんの存在。借り上げ仮設住宅の申請方法を教えてもらったほか、転校の影響による勉強の遅れの懸念も「小学校同士で進度についても情報交換している」と聞き安心した。珠甫ちゃんが通う小学校には今夏以降、3年生だけで他にも福島からの転校生が2人いるという。
夫と離れた生活は困難や不安もつきまとう。子供を病院に連れて行こうにも、ほかの子を預ける親類は近くにいない。新潟と福島の往復費用など経済的負担も増す。だが、帰郷には踏み切れない。福島県では公園や運動場の除染が進むが「子供への影響がないと確実に納得できるまでは、戻る気になれない」と話す。
毎日新聞 2011年10月24日 東京朝刊