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FC 第四節「スーパーソレノイド機関」
第三十四話 アスカ、母への想い
<ツァイス地方 カルデア隧道>

クローゼ達に別れを告げて、ツァイスの街へ向かってエステル達は歩いていた。
まだ見ぬ未知の地方への旅に心を弾ませ飛び跳ねながら歩くエステルとは対照的に、シンジは何度も後ろを振り返りため息をついている。
そんな浮かないシンジの様子を見てアスカが少し不安そうな顔で尋ねる。

「シンジ、やっぱりクローゼの事が気になってるのなら、今から引き返せば間に合うかもしれないわよ?」

アスカに言われたシンジはあわてて首を振って否定する。

「違うんだ、なんだか学校生活が懐かしく感じられてさ。僕達は毎日学校に通ってたわけだし」
「へえシンジとアスカはそんなに勉強してたんだ、もしかして学者さんにでもなるつもりだったの?」
「別にそう言うわけじゃないけど、受験勉強のためかな」
「受験勉強?」
「中学を卒業して高校に入るためには試験を受けて合格しなくちゃいけないのよ、そのために勉強するのよ」
「高校に入ったら何をするつもりなの?」
「それは大学に入るためにまた受験勉強するのよ」
「じゃあ大学の次はどうするの?」
「……何も考えて無かったよ」

不思議そうに尋ねるエステルに、シンジは戸惑い気味に答えた。
シンジの言葉を聞いたエステルはあきれたようにつぶやく。

「それじゃあ別に勉強なんかする必要ないじゃない」
「エステル、遊撃士だって仕事の合間に勉強しなくちゃいけないことはあるよ」

ヨシュアがため息をつきながらエステルにツッコミを入れた。

「確かに勉強は学校に限らずにどこでも出来るよね。流されるままに学校に通っていた僕は無気力に生きていたのかもしれない」
「アタシもプライドだけのためにドイツの大学で工学博士号を取ったけど、ほとんど役に立ってないわね」

シンジが寂しそうに言うと、アスカも少し落胆したようにつぶやいた。

「いいじゃないか、その経験が思わぬ所で役に立つかもしれないし」
「そうだよ、そんな過ぎた事を振り返ってイジイジするよりも前を見つめて歩いて行こうよ!」

ヨシュアに慰められて、エステルに励まされたアスカとシンジは明るい表情になった。
元気を取り戻してしばらく進むと、地面がズタズタに荒れているのに気が付いてエステル達は息を飲む。

「何かが派手に暴れた跡みたいだけど……」
「魔獣でも出たのかな?」
「いいえ、これは自動車のタイヤの跡だわ」

シンジの疑問に答えたエステルの言葉をアスカはそう断言した。
エステルは不思議そうに首をかしげてつぶやく。

「自動車ってナニ?」
「地面を高速で走る鉄製の乗り物だよ。確かクロスベル自治州で多く走っていると思うけど、リベール王国ではほとんど見かけないね」
「面白そう、あたしも乗ってみたいな!」
「エステルが運転したらきっとひどい事になるわよ」

ヨシュアの答えを聞いてエステルが目を輝かせてそう言うと、アスカは冷汗を浮かべながらそうツッコミを入れた。
先に進んでタイヤの跡を追いかけて行くと、自動車は高速で壁に体当たりしながら蛇行している様子が見られた。
それは自動車が何者かを激しく追い回し、体当たりをしようとしていた事を物語っている。
こんな狭い坑道で暴走車に遭遇してしまっては逃げ場が無い。
自動車が身近にあるシンジとアスカは交通事故の恐ろしさを知っている。
シンジはアスカと手を繋いで慎重に進んで行く。
自動車をよく知らないエステルとヨシュアもシンジ達の雰囲気にのまれたのか口数は減り厳しい顔つきになった。

「大きな物音が聞こえたらすぐに横穴に飛び込む、良いわね?」

実際に車が猛スピードで突っ込んできたらそれで間に合うのか疑問だったが、アスカの言葉にエステル達はうなずいた。
エステル達はビクビクした足取りで街道をゆっくり進む、そして終点が見えた所で車が見当たらないとホッと胸をなで下ろして深く息を吐き出した。
しかし破壊の爪跡が残るツァイスの街の入口を見てエステル達は息を飲む。
階段付近の壁が大きく凹んで重くて固い塊が衝突した跡が残っているのを見て、シンジは青い顔でつぶやく。

「これってすごい勢いで車が正面から激突した跡だよね?」
「ええ、きっと車は潰れちゃっていると思うわ」

アスカはシンジの言葉に強くうなずいた。
だが周囲に車の残骸は見られない、きっと衝突事故から時間が経って片付けられてしまったのだろう。
エステル達はツァイスの街入口と書かれた看板の側にある階段を登ってツァイス中央工房の地下通路へと足を踏み入れた。



<ツァイスの街 市街地>

中央工房の地下通路に入ったエステル達は案内板に従ってエレベータへ乗り込み、1階へと移動した。
マルガ鉱山のリフトしか見た事の無いエステルは部屋ごと移動するエレベータに驚いた。
エレベータから降りたエステル達はツァイス中央工房の正面玄関へと出た。
受付嬢のヘイゼルに遊撃士協会の場所を教えてもらって外に出ると、街の中央にある長いエスカレータにエステルはまた目を丸くしている。

「エレベータにエスカレータなんて、ネルフの事を思い出しちゃうわね」
「そうだね、ツァイス中央工房の大きさはネルフ本部の建物に比べたら小さいんだろうけど」

アスカに話し掛けられたシンジはそうつぶやいて遠くを見つめる目になった。

「シンジ、ファーストの事を思い出したんでしょう」
「あっ、ご、ごめん……」
「別に謝らなくても良いわよ、アタシだってそうなんだから」

レイはジュースの自動販売機があるリフレッシュコーナーや職員用の食堂、パイロットの控室で休憩している姿は見た事が無い。
だからレイと話す場所は必然的に移動中のエレベータやエスカレータになっていた。

「ねえ、あの影のような使徒の中がこんなに良い世界に通じているんだったら、ファーストの乗る零号機も引っ張り込んで上げたらよかったかもね」
「どうして?」
「アタシ、この世界に来てエヴァの呪縛から解放されて、さらにいろいろな人達に出会ったから、こうして心を開く事が出来たんだと思う」
「そうだね、遊撃士になって生きるって目標も出来たし」
「だからファーストもこっちの世界に来れば、もっと笑ったり生き生きと明るくなれるんじゃないかなって思うのよ」
「うん、僕も綾波の笑顔を見た事があるけど、とっても穏やかで綺麗だったな」
「どうせアタシの笑顔は綺麗じゃないわよ!」

シンジがそう言ってウットリとした表情になると、アスカは不機嫌な顔になって思いっきりシンジのすねを蹴り飛ばした。
エステルとヨシュアはいつものケンカが始まったと生温かい目で見つめている。
そしてエステル達は遊撃士協会へと到着した。
ツァイスの遊撃士協会の受付には着物のような服を着た落ち着いた感じの黒髪の女性が静かに立っている。

「あの、あたし達は……」
「貴方達はエステル、ヨシュア、そしてアスカにシンジね」
「えっ、どうして僕達の事が分かったんですか?」

エステルが声を掛ける前に黒髪の女性が先に言い当てたので、シンジは驚いた。

「ルーアン支部のジャンから詳しく貴方達の特徴を聞いていたからよ」
「なるほど」
「私はツァイス支部の受付を担当するキリカ、お見知り置きをお願いするわ」
「よろしくお願いします」

キリカが折り目正しいあいさつをすると、ヨシュアもお辞儀をした。
そしてキリカはエステル達に書類を差し出して転属手続きをするように勧める。

「貴方達の仕事なんだけど、特に緊急の仕事は入っていないの。だからまず街を回りながら細かい仕事をこなしてもらう事になるわ」
「はい、分かりました」

キリカの言葉にシンジはうなずいた。

「と言ってもこの街の仕事のほとんどは中央工房に関わるものになると思うわ」
「どういう事?」
「だから、この街の市長は中央工房の責任者であるマードック工房長が兼任している特殊な事情があるの。そうだ、まずはマードック工房長に着任のあいさつをしてらっしゃいな」

アスカの質問にキリカは答えると、紹介状を書いてエステルに手渡した。

「その紹介状を渡せば工房長さんは会ってくれるはずよ」
「ありがとうございます!」

紹介状を受け取ったエステル達は善は急げとばかりに中央工房に戻り、マードック工房長との面会を果たす。

「なるほど、君達が今度ツァイス支部へやって来たと言う遊撃士の子達か。人手が増えてくれて助かるよ」
「ツァイスの街の仕事って忙しいんですか?」
「普段から研究に必要な材料を採取してもらったり、運搬車の護衛などはあるんだが、今はあの厄病神のせいで余計な仕事が増えてばかりだよ」

ヨシュアの質問に答えたマードック工房長は深々とため息をついた。
その姿はたっぷりと哀愁が漂っている。

「厄病神って?」
「この街の外れに住んでいるラッセル博士の一家だよ。特にアルバード博士とその娘のエリカ博士は周囲の迷惑などをまるで考えていない。完成したばかりの導力自動車をスクラップにしてしまうわ、怪しげな実験で街中のオーブメントを停止させてしまうわ……ブツブツ……」

アスカが尋ねると、マードック工房長は遠い目をしてうわ言のように話し続けた。
マードック工房長の視界には目の前に立っているエステル達の存在などまるで目に入っていない様子だった。
その普通でない感じにエステル達は冷汗を流す。

「じゃあ、あたし達はこれで失礼します」
「待ってくれ、君達にお願いがある!」

立ち去ろうとするエステルの肩を逃がさないとばかりにマードック工房長は強くつかんだ。

「な、なんでしょう?」

エステルはひきつった笑みを浮かべながらマードック工房長に尋ねた。

「ラッセル博士の家へ行って様子を見て来てくれないか? そして危険な実験が行われそうだったら実力行使をしてでも阻止して欲しい」
「は、はい、分かりました」

マードック工房長の不気味な迫力に圧倒されたエステルは青い顔をしながらうなずくのだった。



<ツァイスの街 ラッセル博士の家>

マードック工房長の依頼を引き受けて中央工房を出たエステル達は、遊撃士協会に居るキリカに報告した後にラッセル博士の家に向かう事にした。
町はずれにあるラッセル博士の家は屋根に何個もアンテナがありいかにも奇妙奇天烈きみょうきてれつな外見をしていた。
住人達もきっと普通ではないのだろうと感じたエステル達は冷汗をかいた。

「ここに住んでいる博士って導力自動車を暴走させて壁にぶつけて壊したって人だよね、大丈夫かな?」
「なによシンジ、ビビってるの? まったく情けないわね」
「別にそんなわけじゃ……」
「しっ、静かに」

シンジとアスカの言い争いはヨシュアに止められた。

「どうしたの?」
「家の中から人の声が聞こえて来たような気がする」

エステルが尋ねるとヨシュアはそう答えた。
ヨシュアの言う通りアスカ達が耳を澄ますと機械音に混じって人の叫ぶような声が耳に届く。

「シンジも聞こえた?」
「うん」
「こんにちわー、遊撃士協会の者ですけど、どなたかいらっしゃいませんか!」

エステルが玄関のドアの前に立って呼びかけても返事が無い。

「鍵は掛かっていないみたいだ、開けてみようか?」

ヨシュアの問い掛けにエステル達がうなずくと、ヨシュアは静かに扉を開けた。
すると部屋の中では滝のような汗をかいたアガットが大声を張り上げながら黒いオーブメントに向かって何度も剣を振り下ろしていた。

「アガットさん!?」
「お前ら!?」

顔を合わせたエステルとアガットはお互いに驚きの声を上げた。

「あの、お姉ちゃん達はアガットさんのお知り合いの方ですか?」

固まっているエステル達に側に居たティータが声を掛けた。
シンジは柔和な笑みを浮かべてティータの質問に答える。

「うん、僕達はアガットさんの後輩で準遊撃士なんだ」
「あれ、少し前にマノリア村の近くで会わなかった?」
「あ、もしかしてあの時の遊撃士のお姉ちゃん達ですか?」

アスカに指摘されて、ティータは気が付いたようだった。
その時の事を思い出したティータはアスカ達に頭を下げて謝る。

「あの時はごめんなさい、お姉ちゃん達にお礼も言わないで駆けて行ってしまって」
「アタシも驚いちゃったけど、別に気にしてないわよ」

アスカは笑顔でティータを赦した。

「良かったあ」

アスカの言葉を聞いたティータは安心して胸をなで下ろした。
そして軽くお辞儀をして自己紹介をする。

「私、ツァイスの工房で見習いをしているティータです、よろしくお願いします」

そんなティータの仕草を見たアスカはそっとつぶやく。

「アタシもティータみたいな可愛い妹が欲しいな」
「アスカってばあたしに甘えてばかりだもんね」
「へえ、アスカお姉ちゃんってそうなんですか」
「こらっ、何を言ってるのよエステル!」

アスカは顔を真っ赤にして反論した。
和やかな雰囲気になりかけた所に、白衣の金髪鬼――エリカ・ラッセル博士が帰って来てしまった!
エリカ博士はエステル達に囲まれているティータを見ると、目を怒らせて叫ぶ。

「あんた達、寄ってたかってティータに何をしているの!」

いきなり怒り最大値の形相で現れたエリカ博士にエステル達は目をむいて驚いた。

「さてはティータがあまりにも可愛いからって誘拐しに来た悪の手先ね!」
「違うんです、僕達はマードック工房長さんに言われて様子を見に来ただけなんです」

青い顔をしたシンジはあわててエリカ博士に向かって言い訳をした。

「何ですって、私の実験の邪魔をしに来たのね!」

シンジの言葉を聞いたエリカ博士はますます激昂した。

「バカ、火に油を注いでどうするのよ」
「ご、ごめん」

アスカはそう言ってシンジの口をつねった。

「お母さん、お姉ちゃん達に乱暴しないで!」

ティータが思い切り叫ぶと、エリカ博士はあわてた表情になってティータをなだめる。

「別にあたしは暴力を振るおうってワケじゃないのよ、ただティータがいじめられたんじゃないかと心配で……」
「お姉ちゃん達は遊撃士なんだよ、悪い人達じゃないよ」
「ごめんなさいティータ、機嫌を直して」
「お母さんが分かってくれればいいんだよ」
「ありがとう、ティータってば本当に可愛い子ね」

さっきとは打って変わり穏やかな笑顔になってティータを抱き締めるエリカ博士の姿にエステル達は開いた口が塞がらなかった。
シンジは羨ましそうにエリカ博士とティータの親娘を見つめるアスカの様子に気が付いたがそのアスカの瞳はとても悲しげで、声を掛ける事は出来なかった。
すっかりエリカ博士の怒りのオーラが無くなった所で、ヨシュアが尋ねる。

「それで、アガットさんはずいぶんと疲れているようですけど、何をしているんですか?」
「この黒いオーブメントを切断して中を調べようと思って、特殊合金製の剣を振らせているのよ」

ヨシュアの質問に対してエリカ博士が答えて指差したのは、エステル達が謎の銀髪の少年から受け取り、ラッセル博士に届けるためにアガットに預けていた黒いオーブメントだった。
床に置かれた黒いオーブメントの表面には大きな傷が付いている。

「ほら休憩はもう十分でしょう? 無駄話していないでさっさと続きをやりなさい!」
「あーっ、分かったよコンチクショウ!」

エリカ博士に急かされたアガットは苛立った様子で大剣を黒いオーブメントに向かって振り始めた。
部屋の中には何本も刃こぼれしたり曲ったりしてダメになった大剣が転がっている。

「最初は導力器分析機に掛けたんですけど、いきなり黒いオーブメントが鈍い光を放って周囲のオーブメントを停止させてしまったんです。その範囲はかなりの広さに及んでしまいました」
「なるほど、マードック工房長が言っていた導力停止現象ってその事だったのね」

ティータの説明にエステルは納得したようにうなずいた。
エリカ博士は面白くなさそうにアヒル口にしてつぶやく。

「直ぐに元に戻ったんだから気にする事無いじゃない」
「でも突然コンピュータの電源が落ちちゃったから徹夜でデータを打ち直しだって中央工房のみんなは泣いてたよ?」
「うわあ、それは大変そうね」

ティータの言葉を聞いて、エステルは同情するように大きく息をついた。

「それでオーブメントを切断して中を見てみようって事になったんですけど、導力ノコギリは使えないからアガットさんに頼んで斬ってもらおうとしたんです」
「グズグズしているから1ヶ月程経ってもあの程度しか傷を付けられてないのよ」
「1ヶ月も!?」

エリカ博士のぼやきを聞いたエステルは驚いて目を丸くした。

「でもアガットさんは遊撃士の仕事が空いた時に来てくれるので、続けてと言うわけじゃないんですけど……」
「アガットさん、僕達のせいですいません」
「これは俺が引き受けた仕事だからな、構わないさ」

謝るヨシュアに対してアガットはそう答えた。

「ふん、あんたが壊した導力車の分までキリキリと働いてもらうわよ!」
「ああ、そうかい」

今まで何度言い返しても無視されてアガットの方が諦めたのだろう、アガットはウンザリとした顔でため息をついた。

「さあ、もう工房長の用事は済んだんでしょう? 私は新しいオーブメントの試作で忙しいの!」

エリカ博士はエステル達を邪魔者だとばかりに追い払おうとした。
しかし、今まで黙っていたアスカがエリカ博士の前にそっと歩み出て声を掛ける。

「あの、もしよろしかったら、オーブメントを見せて下さいませんか?」
「あんた、私のオーブメントに興味があるわけ?」
「はい、とても興味がありますけどやっぱりダメでしょうか……?」

こんなしおらしい態度で他人に頼み事をするアスカは珍しい。
エリカ博士は上目遣いで自分を見つめて来るアスカをしばらく凝視すると、グッと親指を上げる。

「合格!」
「へっ?」

アスカはワケが分からず、目を丸くした。

「私の助手をしてくれるなら、見せてあげても良いわよ」
「ありがとうございます」

エリカ博士の言葉を聞いたアスカはぱあっと明るい笑顔になって頭を下げた。
エステルはアスカに近づいて耳打ちをする。

「ちょっと、いきなり助手をするなんてどういう事?」
「マードック工房長さんに言われたじゃないの、危険な実験をしようとしたら止めてって」
「なるほど、アスカって頭良いわね」

エステルはアスカの言葉に感心したようにうなずいた。
どうやらエリカ博士は旧型の生体探知器に反応されなくなる機械を使っても反応する新型の生体探知器を開発中のようだ。
この種類の機械は結局いたちごっこになってしまうが、セキュリティの問題もあるので放って置くわけにもいかない。
導力オーブメントの事はほとんど分からないエステルとシンジは雑用に回されたが、相応の知識があるアスカとヨシュアはサポートを果たしていた。

「アスカちゃんてば、本当に飲み込みが早いわね。正式な助手になってみない? 私の娘にしたいぐらいだわ」
「そんなに褒めないで下さいよ」

エリカ博士に頭を撫でられたアスカは顔を赤くして照れ臭そうにしていた。
夕方を迎えるとシンジが作った料理で夕食となり、夕食の席でもアスカはエリカ博士と楽しく話していた。
そして夜も更けたのでエステル達はマードック工房長への報告は明日に回す事にして遊撃士協会へと帰る。

「……随分と長い仕事だったのね」
「すいません、つい長居をしてしまいました」

帰りを待っていた受付のキリカにそう言われたヨシュアは謝った。

「それが依頼主の希望だったのなら構わないけど、他の細かい仕事もある事も意識しておいてね」
「はい」

今日の所はおとがめ無しと言う事で、エステル達は2階に上がった。

「あはは、明日もエリカ博士の見張りをしていたら、キリカさんに怒られちゃうわね」

アスカがおどけた感じでそう言って笑い飛ばすと、エステルが真剣な表情になってアスカに告げる。

「アスカ、自分のやりたい事がみつかったんなら正直に言ってもいいんだよ」
「そうだよ、遊撃士になるだけが人生ってわけじゃないだろうし」
「ヨシュアまで何を言い出すのよ!?」

アスカは心の底から驚いた様子で聞き返した。

「アスカがエリカ博士の助手をしている時、とても楽しそうに見えたからだよ」
「あたしはオーブメントの事はからっきしだけど、アスカならオーブメント技師になれるんじゃないかな」

ヨシュアとエステルがそう言うと、アスカは首を強く横に振って否定する。

「アタシとシンジは遊撃士になるって誓いを立てたのよ、だから途中下車する様な事なんてしたくないわ!」
「そうだったのかい?」
「うん、カシウスさんの家に来た日の夜にね」

ヨシュアに尋ねられて、シンジは少し顔を赤くして答えた。
あの時シンジがアスカの前で大泣きしてしまったのは、アスカとシンジだけの秘密だった。
アスカは寂しそうに目を細めてそっと話し始める。

「アタシのママもね、エリカさんと同じ博士だったの」
「そうなんだ」

アスカの言葉を聞いてエステルは納得したようにうなずいた。

「だからアタシが大きくなるまでママが生きていたらこんな感じだったのかなって、憧れちゃったのよ。心配させてごめんね」
「良かった、僕はアスカとまだずっと一緒に居られるんだって安心したよ」
「ジ、シンジってば、鈍感なくせして、人をドキドキさせるような事を言うのね!」

シンジの発言を聞いたアスカは顔を真っ赤にして言い返すと、シンジも言葉のニュアンスに気が付いたのか顔を赤くした。

「じゃあ明日も遊撃士の仕事を頑張ろう!」

エステルの言葉にアスカ達はうなずき、清々しい気持ちで眠りに就いた。
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