2011年8月26日 17時52分
カダフィ政権の体制転換を導いた多国籍軍による対リビア軍事介入は、地殻変動が進む国際秩序の現状を照らし出してみせた。「欧州の裏庭」での紛争介入で仏英が主導的な役割を果たしたことは、超大国・米国が同盟国に「責任の分担」を求める“オバマ・ドクトリン”に沿うもので、新たな軍事介入のモデルを示したと言える。
「リビア介入は国際社会が団結すれば何ができるかを示した」。オバマ大統領は22日の声明でこう述べ、自らの戦略の有効性を訴えた。米国は今回、北大西洋条約機構(NATO)に軍事作戦の指揮権を握らせることで、仏英などの後ろ盾に徹した。米国の「リーダーシップ不在」に当初は強い懸念も出たが、結果的にその戦略は機能した形になった。
新たな介入モデルの背景には、欧米双方が抱えるお家事情がある。「世界の警察官」を続ける財政的余力を失い、より選択的な安保政策へ傾斜する米国は、中国にらみで重心を太平洋へシフトしている。一方、欧州側は国際的な影響力の低下を食い止めるのに懸命で、キャメロン英首相とサルコジ仏大統領は昨年、軍事協力強化で一致したばかりだ。
リビア介入の成否は、欧州の安保政策をけん引する「英仏協商」の将来性を測る試金石であり、最初のハードルは越えたと言えそうだ。仏英はともにエジプト、チュニジアの「アラブの春」への対応で後手に回って厳しい批判を浴びただけに、リビア軍事介入の結果は「欧州外交」の信頼回復にも一定の効果をもたらすだろう。
しかし、仏英米に体制転換を果たした安堵(あんど)感は漂っても、祝勝ムードは薄い。各国の思いを要約すれば、「『カダフィ後』に何が起きるのか」という政権移行期への懸念だ。それは、国連武力容認決議が軍事介入の目的を「市民の保護」に限定したことの必然的な結果である。リビア介入は、地上軍派遣を排除し、平和維持活動を伴わない「中途半端な軍事介入」であり、リビアの進路に影響力を行使するのは難しいと予想されるからだ。
リビア軍事介入は、弾圧から市民を「保護する責任」という国際社会の使命を果たした点において評価される。一方で、軍事侵攻による勝利の後で情勢が泥沼化したイラク、アフガニスタンでの苦い経験から、欧米諸国が民主化など「戦後復興」への関与に極めて慎重になっている実情も同時に浮かび上がらせている。【ロンドン笠原敏彦】