“窓際”松井を完全再生!ア軍指揮官の「人心掌握術」とは?

2011.06.28


ゲレン前監督には半ば干されたが、メルビン監督代行のもと、守備機会を与えられるなど再生した松井(共同)。サラリーマンの上司と部下の関係と相通じるものがある【拡大】

 もし、今月アスレチックスが監督交代を決断していなかったら、松井秀喜外野手(37)は、寂しい窓際族のベテラン選手として今季を終えていたことだろう。ボブ・ゲレン前監督(49)に代わってチームを預かったボブ・メルビン監督代行(49)は、不振にあえぐ松井を主軸に据えたばかりか、1年ぶりの守備機会を与えることで完全に再生させた。“マッド・サイエンティスト(狂った科学者)”の異名を取るメルビン流窓際社員の復活術とは−。

 【調和、対話至上主義】

 同じ実力なら給与の安い若手を使う。大リーグで最も経営効率化を進めているアスレチックスで、ゲレン前監督の信頼を失った松井が、次第に出場機会を失っていったのは当然の流れだった。

 チームも連敗を続けて開幕2カ月で崩壊したが、人間万事塞翁が馬。松井にとっては願ってもない展開となった。メルビン監督代行は、マリナーズ監督時代に対戦相手だった松井が進塁打や四球を選ぶセンスを持っていることに感動していたという。

 ゲレン前監督は選手たちとの会話がないタイプで、主力投手との軋轢がたえなかったが、メルビン監督代行は正反対の個性の持ち主。選手との会話が最も大事だと考えている。社員と対話しない管理職はすぐにクビになる。

 【窓際社員をつくらない全員戦力主義】

 メルビン監督代行は、ダイヤモンドバックス監督時代に地区優勝を果たしているが、その手法は独特だった。ベンチ入り選手すべてを日替わりオーダーで先発させ、誰にも冷や飯を食わせずに戦った。あまりにも連日先発オーダーが変更される技巧に走った采配だったため、「狂った科学者」と呼ばれたのはこのころのことだ。

 【安易なリストラを行わないベテラン社員博愛主義】

 ダイヤモンドバックスでも、斜陽に入ったベテランの長距離砲トニー・クラーク内野手(09年引退)を再生させることでチーム力を向上させた。「チームが一丸となって戦うには柱となる選手が絶対必要だ。柱になれるのは、尊敬される人格で実績のあるベテラン選手しかいない」とクラークを重用した。

 不振だった松井の成績にも目をつぶり、「松井は代えない」と全幅の信頼を寄せていることを意図的にアピールした。松井が調子を取り戻したのは、メルビン監督代行の言葉を意気に感じ、気持ちよくプレーできる環境を設定してもらったからだ。働き盛りの選手ばかりで固めた組織は意外にもろい。

 【祝福表現至上主義】

 2004年、部下だったマリナーズのイチロー外野手が大リーグ年間最多安打記録を更新した。ジョージ・シスラー(257安打)を超える258安打目を放った際、メルビン監督は、ベンチ内の選手の背中を押し、一塁上のイチローの下へ駆け寄って全選手で祝福した。

 チーム内で絶対的な地位を固め、孤立することが多くなったイチローと他選手とのつなぎ役を務めた。この試合では9回2死の守備でイチローをベンチに下げ、もう一度観客がイチローに拍手を送る機会を演出するという心遣いもあった。

 【傷つけるくらいなら傷つく主義】

 ダイヤモンドバックス監督時代の部下だったエリック・バーンズ外野手(10年末引退)が言う。「たぶんメルビンは誰にも悪口をいわれない珍しい監督だ。いろんな個性のある選手を平等にうまく扱う能力がある」

 ダイヤモンドバックスを解雇されたとき、メルビン監督はショックのあまりふさぎこんだ。その後、メッツのスカウト業務に携わったが、「ダイヤモンドバックスの試合だけは見ることができない」と言って全然見なかったという。

 【矛盾する会社方針への適応主義】

 独自の評価基準で安価な選手を集め、徹底的な経営効率化を身上としているアスレチックスの“マネーボール理論”と、メルビン監督代行は必ずしも合っていない。

 「マネーボールに記されたビーンGMの理論では、監督の采配はあまり勝敗に関係がない。個人的に親しいゲレン監督が就任した際には、『誰でもいいんだから一番仲のいい人を監督に選んだ』とも言われた。しかし、ビーンGMは成績不振でその親友のクビを切り、結局、人情派のメルビンを起用した」(米地元紙)

 ビーンGMがメルビン監督代行を起用した理由は「コミュニケーション能力が高く、選手に信頼されるから」と語っている。メルビン監督代行が、このアスレチックスで松井を再生させたのは皮肉なストーリーではある。

 ■ボブ・メルビン 1961年10月28日、米カリフォルニア州出身。カリフォルニア大学卒。81年タイガースにドラフト1巡目入団。控え捕手として10年、8球団でプレーし、現役通算打率・233、35本塁打。2003−04年マリナーズ監督。05−09年ダイヤモンドバックス監督。07年にチームを地区優勝に導き、ナ・リーグの最優秀監督。11年6月10日、アスレチックス監督代行に就任した。娘が若年性糖尿病であることからボランティア活動にも積極的に取り組んでいる。

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