今年3月の最高裁判決で「違憲状態」と認定された衆院小選挙区の「1票の格差」(最大2・30倍)を改善しようとする動きが、与野党間で本格化してきた。民主、自民両党は現行制度を維持したまま、選挙区割り見直しで格差是正を図ろうとしているが、公明党は制度の抜本改革を主張している。各種見直し案の内容を点検する。【編集委員・鬼木浩文、大場伸也】
09年8月衆院選での小選挙区議員1人当たりの有権者数は、最も少ない高知3区と、最も多い千葉4区との間で2・30倍の開きがあった。衆院選挙区画定審議会設置法は、1票の格差が「2倍以上とならないことを基本とする」と定めている。
最高裁は従来、小選挙区制導入後に行われた格差2・17~2・47倍の衆院選について「合憲」との判断を下してきた。ところが、今年3月23日の判決では、格差の主な要因が「1人別枠方式」と呼ばれる議席配分方式にあると認定。中選挙区制から移行する際の激変緩和措置だった同方式について「新制度初の衆院選から10年が経過しており、合理性は失われた」として、現行の区割りを「違憲状態」と判断した。
判決は同時に、1人別枠方式を廃止し、格差を2倍未満に抑えるなどの立法措置を講じるよう国会に求めた。 政府の衆院選挙区画定審議会(区割り審)は、国勢調査の結果公表から1年以内に、区割り改定案を作成し、首相に勧告するよう求められている。
10年の国勢調査結果を受けた勧告の期限は本来、来年2月だが、1人別枠方式を巡る国会の対応を見守るため、区割り審の作業は中断したままだ。国会が現状の格差を放置したまま次期衆院選が実施された場合、最高裁が選挙無効の判決を出す可能性もある。
1票の格差を是正するには、現行の「小選挙区比例代表並立制」と呼ばれる仕組みを維持したまま小選挙区の区割りを見直す方法と、制度自体を見直す方法がある。
民主、自民両党案は、並立制を変えずに1人別枠方式を廃止し、各都道府県に配分する小選挙区の議席数を見直す内容。いずれも、人口最少県である鳥取の2議席を維持し、激変緩和に配慮している。
民主党は「5増9減」と「6増6減」の2案を示している。「5増9減」案は、鳥取の議員1人当たり人口29万4209人を最少とし、最大格差が1・75倍以下に収まるよう調整した。小選挙区の定数は296になり、東京、長野、岐阜、静岡、京都は各1増、北海道、埼玉、福井、山梨、大阪、兵庫、徳島、高知、佐賀は各1減とする。この場合、議員1人当たり人口が最も多いのは、埼玉の51万3926人になる。
「6増6減」案は小選挙区の定数300を維持し、最大格差を1・63倍に抑えた。東京は3増、埼玉、神奈川、愛知は各1増、福井、山梨、徳島、高知、佐賀、鹿児島は各1減となる。
この場合、議員1人当たり人口が最も少ないのは鳥取、最も多いのは千葉の47万8240人になる。民主は比例代表の定数を80削減して100にすることも主張している。
自民党は小選挙区の定数を295にする「0増5減」案を検討している。議員1人当たり人口の少ない方の5県(高知、徳島、福井、佐賀、山梨)で1議席ずつ減らす内容だ。最大格差は1・79倍になる。区割り見直しの影響が及ぶ範囲を最小限に抑えたうえ、定数削減にも前向きに取り組む姿勢をアピールしている。
自民は比例定数を30減らして150にすることも訴えている。
現行の小選挙区比例代表並立制は、96年10月の衆院選から導入された。小選挙区(定数300)と全国11ブロックの比例代表(定数180)があり、小選挙区では候補者の個人名を、比例では政党名を書く「2票制」だ。小選挙区は最多得票者1人が当選し、比例は各党の得票に応じてドント式で議席が配分される。
10年の国勢調査(速報値)に基づき、各都道府県の人口を小選挙区の配分議席数で均等に割ると、最大は東京の52万6470人、最少は高知の25万4865人になる。
これでも両者の格差は2・07倍になり、2倍未満にとどめるには、各都道府県への小選挙区の配分議席数を見直す必要がある。
そこで、1人別枠方式を廃止し、単純に人口比例で各都道府県に議席を配分すると、最大格差は1・64倍に縮まるものの、「21増21減」という大規模な見直しが必要になる。
現行制度維持の民主、自民案に対して、公明党は「小選挙区比例代表連用制」「小選挙区比例代表併用制」「定数4~5の中選挙区制」の3案を手に協議に臨む。いずれも選挙制度の抜本的な見直しを伴う内容だ。
連用制と併用制は、現行の「小選挙区比例代表並立制」と同様に、有権者が2票を持ち、小選挙区は候補者個人に、比例は政党に投票する。異なるのは、議席の配分方法だ。
連用制は、各党の比例得票数に応じてドント式で議席を配分する際に、「小選挙区の当選者数プラス1、2、3…」の整数で割った商の大きな順から割り振る。小選挙区の当選者が多い政党ほど比例では不利になる計算式だ。逆に小選挙区でなかなか当選できない中小政党には有利になる。
併用制は、小選挙区と比例を合わせた全議席を比例の得票に応じて各政党にドント式で配分する。各政党内では、配分された議席枠のうち、まず小選挙区の当選者に優先的に議席を割り当て、残りの議席を比例名簿登載者に割り振る。小選挙区の当選者数が配分議席枠を超えた場合も小選挙区の当選は有効で、「超過議席」として総定数に加える。併用制は、ドイツ連邦議会などが採用している。
中選挙区制は93年7月の衆院選まで適用されていた制度。当時は1選挙区当たりの定数がおおむね3~5程度に設定されており、中小政党も当選できる可能性が大きかった。
大政党に有利とされる現行の並立制。これを、連用制や併用制に置き換えるとどうなるか。09年8月の衆院選データを基に、毎日新聞で試算してみた。
09年衆院選で、民主党は308議席と圧勝し、政権交代を果たした。しかし、連用制で試算すると、比例代表の獲得議席は87から11に激減、併用制で13議席にとどまる。小選挙区の221議席を足しても、連用制で232議席、併用制で234議席となり、いずれも単独過半数(連用制は241議席、併用制は超過議席があるため254議席)に達しない。
同じ09年衆院選で119議席と大惨敗を喫した自民党は、比例の55議席が連用制では62議席に、併用制では73議席に、少し増える。
一方、小選挙区で全敗した公明党は、比例の21議席が連用制で49議席、併用制で55議席と大幅に増える。共産党や社民党、みんなの党なども比例で大幅に議席を伸ばす計算だ。
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■ことば
衆院300小選挙区について、各都道府県への議席配分を決める際、まず各都道府県に1議席ずつ割り振ったうえで、残り253議席を人口比で配分する方式。計算の基準は直近の国勢調査人口を用いる。衆院選挙区画定審議会設置法に明記されており、見直しには同法の改正が必要になる。
比例代表における議席配分方式の一つ。各党の得票をそれぞれ1、2、3…と順に整数で割り算し商の大きい順に定数に達するまで議席を配分していく仕組み。参院の比例代表でも採用されている。ベルギーの法学者、ビクトル・ドントが考案した。
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◆都道府県ごとの衆院小選挙区議員1人当たり人口◆
10年国勢調査人口 小選挙区議席数 議員1人当たり人口
(速報値、人) (現行) (人)
東京 13161751 25 526470
神奈川 9049500 18 502750
愛知 7408499 15 493900
埼玉 7194957 15 479664
千葉 6217119 13 478240
静岡 3765044 8 470631
大阪 8862896 19 466468
兵庫 5589177 12 465765
福岡 5072804 11 461164
北海道 5507456 12 458955
京都 2636704 6 439451
長野 2152736 5 430547
茨城 2968865 7 424124
岐阜 2081147 5 416229
広島 2860769 7 408681
福島 2028752 5 405750
群馬 2008170 5 401634
栃木 2007014 5 401403
大分 1196409 3 398803
新潟 2374922 6 395820
宮城 2347975 6 391329
石川 1170040 3 390013
山形 1168789 3 389596
岡山 1944986 5 388997
宮崎 1135120 3 378373
三重 1854742 5 370948
富山 1093365 3 364455
熊本 1817410 5 363482
山口 1451372 4 362843
秋田 1085878 3 361959
島根 716354 2 358177
愛媛 1430957 4 357739
長崎 1426594 4 356649
滋賀 1410272 4 352568
奈良 1399978 4 349995
沖縄 1392503 4 348126
青森 1373164 4 343291
鹿児島 1706428 5 341286
和歌山 1001261 3 333754
岩手 1330530 4 332633
香川 995779 3 331926
鳥取 588418 2 294209
山梨 862772 3 287591
佐賀 849709 3 283236
福井 806470 3 268823
徳島 785873 3 261958
高知 764596 3 254865
計 128056026 300 426853
毎日新聞 2011年10月20日 東京朝刊