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万感の稲刈り25アール 準備区域解除の福島・川内

万感の思いで収穫直前の田んぼを見詰める秋元さん。作付けできなかった背後の田は背丈以上の草が茂る=2日、福島県川内村

 9月30日に緊急時避難準備区域の指定が解除されたばかりの福島県川内村で2日、25アールの水田1枚だけの稲刈りが行われた。福島第1原発事故により、同区域は国と県がコメの作付け自粛を求めたが、専業農家の秋元美誉(よしたか)さん(68)は「机上の論理では放射能の影響は分からない」と稲作に踏み切った。収穫したコメは一部を検査する以外は県や村の立ち会いの下、全量を廃棄処分する。
 手押しのバインダーが黄金色の稲穂を2条ずつ刈っていく。周囲の田んぼに草が生い茂る中、秋元さんの水田だけが島のように浮かぶ。
 秋元さんはコメを作り続けて50年になる。「何度やっても稲刈りは気持ちがいい。ことしも作って本当に良かった」。自然と笑みがこぼれる。
 コメの出来はいい。9月下旬には台風15号がほぼ真上を通過したが、稲は強風に耐えた。周囲の田んぼが干からびていたせいか、カエルやカモが集まり、やけににぎやかだったという。
 立ち入り禁止の警戒区域も含め村内には約280ヘクタールの田んぼがある。作付けしたのは秋元さん以外は仲間の10アールだけだ。
 村には田植えを止められた。周囲からは「国に逆らうのか」などと批判する声が聞こえてきた。一方で「よくぞ作ってくれた」と励ましてくれる農家もいた。
 「俺のコメを調べて良い結果が出れば、来年からはみんなで作れる。悪い結果でも、どうすればいいのかを考える材料になる。将来に向けて前向きに農業ができ、晴れ晴れしている。ただ、自家消費もできないのは残念だ」と秋元さん。
 この日の稲刈りには、産直や農業体験で交流のある首都圏の知人や村の仲間ら10人近くが集まった。その一人、川内村商工会の井出茂会長は「農家にとってコメを作るのは呼吸するのと同じ。農地は川内村の命だ。秋元さんの取り組みは必ず来年につながる。この状況下でコメを作った勇気を評価する」とたたえた。


2011年10月03日月曜日

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