2011年8月23日 21時5分
東京電力福島第1原発事故で避難を求められている区域の中小企業経営者の間に、廃業の懸念が広がっている。避難先での事業再開のために融資を受けると、震災前の借金と合わせた「二重ローン」に陥る恐れがあり、無利子融資にも二の足を踏んでいる。国や県は被災者の債務免除に乗り出したが、原発事故の賠償範囲や避難区域の解除が確定しない福島県では対策が難航している。
福島県浪江町で父の代から約50年間生花店を経営してきた男性(60)は、町の大部分が警戒区域(第1原発から20キロ圏内)に指定され、郡山市に避難した。今は家族3人でアパートを借り、東電の仮払金などで暮らす。
01年にローンを組んで店舗を改装し自宅も新築、約3500万円の借金が残る。男性は「花屋を続けたいが、新たにローンを組む余裕はない。浪江に戻れたとしても、お客さんがどれくらい帰ってくるのか分からない」とため息をつく。
警戒区域内の富岡町など3町1村を管轄する南双葉地区商工会には6月以降、避難の長期化を見越した中小企業から移転の相談が相次いだ。二重ローンを組んで事業を再開する企業もあったが、多くが建設、運送業で、小売店や飲食業はほとんどない。同商工会の大和田清司主幹は「原発事故の収束作業で建設、運送業は特需状態だが、他の業種は高齢の経営者も多く、借金をしてまで再開するケースは少ない」と話す。
政府や福島県は6月、避難対象の区域内にある中小企業に、移転費用を無担保無利子で最大3000万円融資する「特定地域中小企業特別資金」を始めた。県産業振興センターによると、当初は融資枠を2000件計421億円と予測。しかし、8月17日現在、内定した融資は202件計約48億円と1割強にとどまる。同センターは「避難先で事業を再開しようと考えても、『経営が成り立つのか』とためらう経営者が多い」と分析する。
政府は二重ローン対策として、被災者と金融機関が債務免除を話し合う私的整理を個人にも認め、第三者機関「個人版私的整理ガイドライン運営委員会」が22日に受け付けを始めた。被災者が策定した弁済計画案を基に、同機関が資産や返済能力を査定。金融機関が同意すれば債務が免除される。だが、同委の斎藤進・福島支部長は「東電の賠償額が確定しないと被災者は弁済計画を立てられない」と指摘する。
また、震災前の債権を買い取る「再生ファンド」の新設について、岩手県は7日に経済産業省と基本合意したが、福島県では設立のめどが立たない。県の担当者は「津波による被害規模が明確な岩手や宮城と異なり、(原発事故の影響が続く)福島では企業の再生可能性が分からない」と悩む。【島田信幸】