第十三話 少しだけ、一緒に歩けたら
「すいません、ノーヴェさん」
「悪りぃ……ノーヴェ姉」
「ああ、気にすんな……」
「リュウトくーん、アインハルトさんも来てくださーい!」
リュウトとアインハルトに呼び掛けるヴィヴィオ。
「ホレ、呼んでるぞ」
ノーヴェに促されるが、アインハルトはもじもじしている。
「ノーヴェさん、できれば私は練習を……」
「まぁ準備運動だと思って遊んでやれよ、それに、あのチビ達の水遊びは結構ハードだぜ」
ノーヴェの発言の意味を図りかねるアインハルトだったが、とりあえず行ってみることに。
すると、ノーヴェの元にクリスが来た。
「ん?いいぞお前も一緒に行ってきて」
だがクリスは行かず、ジェスチャーで何かを伝えようとする。
ノーヴェはそれを解読した。
「なに、『外装がぬいぐるみなので、濡れると飛べなくなります』?」
どうやら合っていたらしく、ジェスチャーをやめるクリス。
「……大変だなお前も」
ノーヴェはそう言った。
ガサガサ
「ふあー、帰って来れた~」
「煉!」
「ノーヴェさん、リュウト達は帰って来ました?」
「ああ、今さっきな」
「って、あいつ等…遊んでるし、俺も入れろ~」
気を取り直して、一行は川遊びを開始した。
川遊びと言っても、出来ることはそれなりにあって、普通に泳ぐもよし、ボールを持ち出して遊ぶもよし、競争するのもありだ。
だが、水の抵抗力というのは、思った以上に負荷がかかる。プールなどの流れのない場合でも、水中での運動というものは、陸上のそれとはまた違ったものになる。
「じゃあ向こう岸までの往復、みんなで競争ー!!」
コロナの提案で競争する子供達。そして、泳ぎ始めてすぐのこと。
(……あれ)
アインハルトは気付いた。
(みんな…速い…!?)
そう、ヴィヴィオ達はアインハルトが驚くほどの速さで泳いでいるのだ。
(なんというか…)
それでもなんとかついていこうとするアインハルト。
(みなさん本当に)
だが徐々に離されていく。
(元気いっぱい……というか)
途中からノーヴェも混じる。
(その)
とにかくひたすらついていこうと頑張るアインハルト。そして、
(元気……すぎるような……?)
ついにアインハルトは岸に上がって休憩した。
「やっぱり水の中はあんまり経験ないか」
ノーヴェが飲み物を持ってくる。
「体力には少しは自信があったんですが…」
「いや、たいしたもんだと思うぜ……お前は凄く平気そうだな」
「ええ、お父さんとの修行で川も来てましたからね」
煉の返答にノーヴェは顔を引き攣らせながらアインハルトに、なぜ彼女がヴィヴィオ達についていけなかったのかを話す。
「あたしも救助隊の訓練で知ったんだけど、水中で瞬発力出すのは、また違った力の運用がいるんだよな」
「じゃあヴィヴィオさん達は…」
「なんだかんだで週二くらいか?プールで遊びながらトレーニングしてっからな、柔らかくて持久力のある筋肉が自然に出来てんだ」
どうやらそれが理由らしい。
「どーだい、ちょっと面白い経験だろ?何か役に立つ事がありゃさらにいい」
「はい……」
水中での瞬発力、力の運用、筋肉の質の違い。
これだけでも、かなり有益な知識だ。
川遊びなど子供の遊びだと思っていたアインハルトは、認識を改めた。
と、ノーヴェは提案する。
「んじゃ、折角だから面白いもんを見せてやろう、ヴィヴィオ、リオ、コロナ、リュウト!!」
そう言って立ち上がったノーヴェは、ボール遊びをしている四人の名前を呼ぶ。
面白いものとはなんなのか、少し気になったが、どうもヴィヴィオ達が何かしてくれるようだ。
「ちょっと『水斬り』やって見せてくれよ!」
「「「「は~いっ!!!!」」」」
「水斬り?」
「懐かしいな」
「水斬り」という聞きなれない単語に、首を傾げるアインハルトと懐かしがる煉。
ノーヴェは、アインハルトに『水斬り』の簡単な目的を説明する。
「ちょっとしたお遊びさ、おまけで打撃のチェックも出来るんだけどな」
ノーヴェがそう説明する間、まず最初に水斬りをやって見せてくれたのはコロナだ。
ゆったりとしたモーションから、なめらかに上体を捻り……
「えい!!」
シュパァッ!!
コロナが拳を放つと、川の水面が飛沫と共に少し割れた。
シュザァァァァ!!
コロナに続いて、リオも拳を放つと、走るように川の水面が飛沫を上げつつ割れて行った。
コロナに比べると、格段に威力の高さがあることが分かるが、こればかりは個人の適正だろう。
「いきますっ!!」
ズシャアァァァァァァァァ!!!
ヴィヴィオの水斬りも見事なもので、その勢いたるやリオのそれをも上回っているようにも見えた。
彼女の拳を放つモーションは、見ているだけでも滑らかで綺麗なものだった。
「シャァッ!」
ドシャアァァァァァァァ!!!!
が、リュウトの水斬りはそれよりもさらに凄まじかった。
というか、川の向こう岸に届かんばかりの勢いで川が割れる。
「………すごい……」
「リュウト…惜しいな…」
アインハルトと煉は、四人の水斬りを見て、素直に感想を口にした。
傍目から見ても、ただ馬鹿正直に拳を放ったわけではないことが分かる。
恐らく、先程のノーヴェが言っていた、『水中での力の運用』というものが関係しているのだろう。
「アインハルトも格闘技強いんでしょ? 試しにやってみる?」
「はい」
ヴィヴィオ達の水斬りを見て、ルーテシアがアインハルトにもやってみないかと薦めてくる。
まぁ、彼女としてもやらないわけはなかったので、すぐにタオルを置いて川に入って行く。
アインハルトが水斬りをするということで、ヴィヴィオ達四人はワクワクという顔で注目して、煉も座った状態から立ち上がって、アインハルトの動きの観察に集中していた。
(水中じゃ大きな踏み込みは使えない……)
川の水に体を慣らしながら、普通の状態で放つ拳との違いを見付け出していくアインハルト。
川の水を割るなど、これまでやったこともないので上手く行くかは分からないが、先程のヴィヴィオ達の実演から大方のやり方は理解できているつもりだ。
(抵抗の少ない回転の力で………できるだけ柔らかく……!)
ドッパアァァァァァァ!!!
アインハルトが拳を川面に向かって放つと、大きな音を立てながら水の柱が立ち上った。
上空に打ち上げられた水が、落ちてくる。
少し、ヴィヴィオ達がやっていたのとは違っていたようだ。
「あはは……すごい、天然シャワー!」
「水柱、五メートルくらい上がりましたよ!」
「……あれ?」
降り注ぐ天然シャワーの中、大はしゃぎのリオとヴィヴィオ達。
が、アインハルトは自分の水斬りと、ヴィヴィオ達のそれとの違いに首を傾げてしまっていた。
「アインハルトさんのはちょいと初速が速すぎるな」
それを見た煉が、アインハルトにアドバイスするべく同じく川に入って行く。
ヴィヴィオたちとアインハルトとの水斬りの違いを、煉は一目で理解していた……無論ノーヴェもだが。
「はじめはゆるっと脱力して、途中はゆっくり………、インパクトに向けて鋭く加速、これを素早くパワー入れてやると……」
シュパアァァァァン!!!
「おい、マジか…」
「「すっごい~」」
「恰好良い!」
「ヒュ~、流石は煉だぜ」
煉の水斬りを見ていたノーヴェ、リオ、コロナ、ヴィヴィオ、リュウトが感想を漏らす。
「こうなる」
煉の手刀から放たれた水斬りは、見事に川を真っ二つに割り、川底が見えた。
流石は御神流を継ぐ者というべきか、煉の水斬りは精度もさる事ながら、技を放った彼には余裕が見て取れた。
(―――構えは脱力……途中はゆっくり、インパクトの瞬間にだけ……)
アインハルトは、煉にもらったアドバイスを元に、もう一度構えを取り、先程よりもゆったりした動きで水斬りの体勢に入る。
先程の水斬りは、初速が速すぎた。
意識を向けるべきなのは、拳速ではなく……インパクトの瞬間を見誤らないことだ。
(撃ちぬく!!)
ズバシュッ!!!
「あ! さっきよりちょっと前に進みました!」
「すごいっ!」
二度目のトライで、先程よりも川面に生まれた割れ目は、水柱を上げるだけではなく、前方に進んだ。
ヴィヴィオ達は、アインハルトの飲み込みの速さに嬉々とした様子だ。
「も…もう少しやってみていいですか?」
「はいッ!」
「どんどんどうぞー!」
いつしか、アインハルトは夢中になっていた。
その頃の大人組。
なのははスバルに訊く。
「アインハルトちゃん、楽しんでくれてるかな?」
「ヴィヴィオ達が一緒ですし、きっと大丈夫です」
「ノーヴェ師匠もついててくれるしね」
「ありがとうございます」
スバルとしては、やはり身内を褒められるのは嬉しい。
「ところでみんなは大丈夫ー?」
なのはは声を掛けた。
「休憩時間伸ばそうかー?」
「だ……だいじょーぶでーすッ!」
「バ…バテてなんか……いないよ…?」
言ったティアナとフェイトは、もうバテバテだった。
「さーお昼ですよー!みんな集合ー♪」
みんなに呼び掛けるメガーヌ。
やがて全員が集合し、昼食の席についた。
と、メガーヌはプルプルしているヴィヴィオとアインハルトに気付いた。
「あらあら、ヴィヴィオちゃんアインハルトちゃん大丈夫?」
「いえ…あの」
「だ、だいじょうぶ…です」
ノーヴェは二人がこうなった理由を話す。
「ふたりで水斬り練習ずーっとやってたんですよ」
「あらー」
「この位で」
「情けないな」
『まてまて、お前等は規格外だろ?』
ヴィヴィオ達と同じく水斬りをしまくっていた筈の煉とリュウトは息一つ乱してなかった。
ヴィヴィオとアインハルトは二人の体力を思い知らされたのであった。
「はい、おまたせー!」
「「わーー!」」
スバルに料理を並べられて喜ぶリオとコロナ。
リオは目を輝かせている。
「じゃあ、今日の良き日に感謝をこめて」
『いただきます!!』
メガーヌの指揮のもと、一同は合掌した。
一同が昼食を楽しんでいる間、ガリューはフリード、白雪、シャル、ジンに木の実を与えていた。
『ごちそうさまでしたー!』
昼食を終えた一同。
「片付け終えて一休みしたら、大人チームは陸戦場ねー」
「煉も一緒だからね、みんな」
「「「「「はいっ!」」」」」
なのはとフェイトに言われて返事をするスバル、ティアナ、エリオ、キャロ、煉。
ヴィヴィオとアインハルトは、皿洗いをしていた。
アインハルトはヴィヴィオに訊く。
「ヴィヴィオさんは、いつもあんな風にノーヴェさんからご教授を?」
「あ、そんなに『いつも』でもないんですが…わたしは最初、スバルさんに格闘の基礎だけ教わったんです、それから独学で頑張ってたらノーヴェが声をかけてくれて、その時から、時間作っては色々教えてくれて、なんだかんだでコロナとリオの事も見てくれるようになって、優しいんです、ノーヴェって」
「…わかります」
ノーヴェの優しさに触れているだけに、ヴィヴィオの言うことはアインハルトにも理解できた。
「少し、うらやましいです、私はずっと、独学でしたから」
ヴィヴィオには、そう言ったアインハルトの顔が、少し、悲しそうに見えた。
「でもこれからはもう、ひとりじゃないですよね?」
ヴィヴィオの言葉。
沈黙が流れる。
「あ……その、流派とかはあくまで別にしてですよ!?」
「いえ、あの、大丈夫ですわかります」
二人は照れ隠しに、慌て皿を洗い出す。
古流武術と近代格闘技では、同じ道は辿れない。
だが二人は思っていた。
だけど、時々こんな風に、
少しだけ一緒に歩けたら、と。
ルーテシア、リオ、コロナ、リュウトは、ルーテシアの部屋に来ていた。
ルーテシアは本棚から、一冊の本を出す。
「あ、ルーちゃん、もしかしてその本…」
コロナはルーテシアの出した本が何なのか気付く。
「うん、アインハルトに見せてあげようと思って」
ルーテシアが出したのは、
「歴史に名を刻んだ『覇王』クラウス・イングヴァルト自身の回顧録」
だった。
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