ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
放課後のSt.ヒルデ魔法学院

煉はリュウトに呼び出されていた。

「リュウト…何の用だよ?」
「煉……俺、俺、覇王に惚れたみたいなんだ!」
「は?」
『オイオイ、マジかよ、お前』
「煉……俺はどうすれば」

(うわ、此奴リュウト、面倒くさ…つーか…どうでもいい……まあ、良いや……適当に答えとくか)

「そんなもん、お前の自由だろ? 好きなら覇王に気持ちをぶつけろよ」
「そっか……そうだよな、煉サンキュー」

リュウトは駆け出してった。

『相棒、適当に答えただろ?』
「ああ」
『知らねえぞ、後で後悔しても』
「考え過ぎだろ……ダンテ」
第八話 本当の気持ち
古代ベルカ諸王時代。
それは、天地統一を目指した諸国の王による戦いの歴史。

聖王オリヴィエや、覇王イングヴァルトも、そんな時代を生きた王族の人間である。

いずれ優れた王とされる両者の関係は、現代の歴史研究においても明確になっていない。





ノーヴェはオープンカフェで、スバル、ティアナと一緒に、ヴィヴィオ達を待っていた。

「ふたりともせっかくの休暇だろ?別にこっちに付き合わなくてもいーのに」
「アインハルトの事も気になるしね」
「そうそう」

ティアナとスバルは構わないと言う。
だが、実は今、少し問題があった。

「まーそれはありがたくもあるけど、問題はさ…」

そう、問題は…

「なんでお前らまで揃ってんのかってことだ!」

ノーヴェが言うお前らとは、チンク、ウェンディ、ディエチ、オットー、ディードのことである。
ノーヴェが呼んだのはチンクだけであり、あとの四人は呼んでいない。

「えー?別にいいじゃないッスかー」

サンドイッチを頬張るウェンディ。

「時代を超えた聖王と覇王の出逢いなんてロマンチックだよ」

コップを手に取るディエチ。

「陛下の身に危険が及ぶことがあったら困りますし」
「護衛としては当然」

とはディード、オットーの談。

「すまんなノーヴェ、姉も一応止めたのだが…」

謝るチンク。

「うう…まー見学自体はかまわねーけど、余計なチャチャは入れんなよ?ヴィヴィオもアインハルトも、お前らと違っていろいろ繊細なんだからよ」
「「はーーい(!)」」

返事をするウェンディとディエチ。
オットー、ディードの二人は無言で親指を立てた。
そこへ、

「ノーヴェ!みんなー!」

ヴィヴィオの声がかかる。
全員が見てみると、そこにいたのはクリスを連れたヴィヴィオ。
柔らかな笑顔を振りまくコロナ。
活発そうな印象を与えるリオ。と

「「「「「「「フェイトさん?」」」」」」」

黒髪を伸ばした金と銀の虹彩異色の眼のフェイト(小)。

「初めまして高町 煉だ」
『そして、相棒のデバイスのダンテだ、宜しくな……イカしたお嬢さん達』
「ダンテ…一々ナンパするな」
『自分には出来ないからって僻むなよ』
「解体するぞ‼」
『オイオイ、ひでえな』
「えっと?」
「「「ほっといて平気です。」」」

「あぁ」

「こんにちわ」
「こんにちはー!」

気を取り直しコロナとリオは挨拶する。

「あーやかましくて悪ィな」
「ううん、ぜんぜん!」
「まあ、いいんじゃない?」

ヴィヴィオと煉は言った。



ヴィヴィオは尋ねる。

「で、紹介してくれる子って?」
「さっき連絡があったから、もうすぐ来るよ」

スバルが答えた。
ヴィヴィオはさらに尋ねる。

「何歳くらいの子?流派は?」
「お前の学校の中等科の一年生、流派はまぁ……旧ベルカ式の古流武術だな」
「へー!」
「あとアレだ、お前や煉と同じ虹彩異色」
「ほんとー!?」

興奮するヴィヴィオ。
対照的に煉は黙って話を聞いていた。

「まぁヴィヴィオ、座ったら?」
「そうそう」
「あ…そうですね!」

ヴィヴィオはティアナとスバルに言われて座る。

その時、



「失礼します」
「悪りぃ、待たせた」



声がして、全員が見た。

「ノーヴェさん、皆さん、アインハルト・ストラトス、参りました」
「先輩を待ってたんだけど中々来なくて」

そこには、ノーヴェがヴィヴィオに紹介しようとしている相手、アインハルトと何故かリュウトがいた。
ヴィヴィオは、アインハルトの姿に思わず見入ってしまっている。

「すみません、遅くなりました」
「いやいや、遅かねーよ」
「成る程ね」
「納得するのかよ!」

頭を下げるアインハルトと、応対するノーヴェ。
そして何やら二人だけの会話をする煉とリュウト。

「でなアインハルト、こいつが例の…」
「えと…はじめまして!」

ヴィヴィオは急に話を振られて少し慌てるが、自己紹介した。

「ミッド式のストライクアーツをやってます高町ヴィヴィオです!」

(この子が…)
「ベルカ古流武術、アインハルト・ストラトスです」

アインハルトはヴィヴィオと握手し、同時にヴィヴィオを観察する。

(小さな手…脆そうな体…だけどこの紅と翠の鮮やかな瞳は、覇王わたしの記憶に焼き付いた…間違うはずもない聖王女の証…)

「あの、アインハルト…さん?」

ヴィヴィオは心配そうに声をかけた。

「ああ、失礼しました」
「あ、いえ!」

我に返るアインハルト。

「まぁふたりとも格闘技者同士、ごちゃごちゃ話すより手合わせでもした方が早いだろ、場所は押さえてあるから早速行こうぜ」

ノーヴェの提案もあって、一同は移動を始めた。




区民センター内スポーツコート。
着替えたヴィヴィオとアインハルトは、ノーヴェの審判の下、並び立つ。

「じゃあ、あの、アインハルトさん!よろしくおねがいします!」
「…はい」





話は、少し前にさかのぼる。
アインハルトはノーヴェに話した。

諸王戦乱時代、武技において最強を誇った一人の王女、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトのことを。

かつて『覇王イングヴァルト』は、彼女に勝利する事ができなかった。



『それで、時代を超えて再戦……か?』

ノーヴェが尋ねると、アインハルトは答えた。
覇王の血は歴史の中で薄れているが、時折その血が色濃く蘇る事があり、彼女の碧銀の髪や虹彩異色、覇王の身体資質と覇王流、それらと一緒に少しの記憶も受け継いでいると。

『私の記憶にいる『彼』の悲願なんです。天地に覇をもって和を成せる、そんな『王』であること…弱かったせいで…強くなかったせいで…『彼は彼女を救えなかった』……守れなかったから…そんな数百年分の後悔が…私の中にあるんです』

涙ながらに語るアインハルト。そして、

『だけど、この世界にはぶつける相手がもういない…救うべき相手も、守るべき国も、世界も……!』

ついにアインハルトは泣き出してしまった。
しかし、リュウトは言う。


『いるよ、先輩の拳を受け止めてくれる奴が、そいつがダメなら俺がいる』







それが、少し前の話だ。

(本当に?)

アインハルトは目の前の少女を見つめる。

(この子が覇王の拳を…覇王の悲願を受け止めてくれる…?)

臨戦態勢に入るアインハルト。
彼女の足元に出現した魔法陣と、彼女自身の気迫に、ヴィヴィオは何かを感じた。

「んじゃ、スパリーング四分一ラウンド、射砲撃とバインドはナシの格闘オンリーな」

ルールを定めるノーヴェ。
そして、

「レディ、ゴー!」

二人の戦いは始まった。


先に動いたのはヴィヴィオ。
素早く接近し、拳を放つ。
アインハルトはそれを防いだ。
その後もヴィヴィオは攻め続け、アインハルトに反撃を許さない。

「ヴィ…ヴィヴィオって、変身前でもけっこう強い?」

ティアナはヴィヴィオの動きに驚く。

「練習頑張ってるからねぇー」

煉は、アインハルトの動きを、じっと見ている。

(あの動き…大当たりか?)


アインハルトはヴィヴィオの攻撃を防ぎかわしつつ、分析する。

(まっすぐな技…まっすぐな心…だけどこの子は…だからこの子は…)

アインハルトは一瞬の隙を突き、ヴィヴィオの懐へ飛び込み、

(私が戦うべき『王』ではないし)

掌底を食らわせた。
激しく吹っ飛ぶヴィヴィオを、オットーとディードが受け止める。

「す……」
(すごいっ!!!)

アインハルトの強さに目を輝かせるヴィヴィオ。
だが、アインハルトはつらかった。

(…私とは、違う)
「お手合わせ、ありがとうございました」

背を向けて歩き出すアインハルト。

「あの…あのっ!!」

ヴィヴィオは慌てて呼び止めた。

「すみません、わたし、何か失礼を……?」
「いいえ」
「じゃ、じゃあ、あの、わたし……弱すぎました?」
「いえ、【趣味と遊びの範囲内】でしたら、充分すぎるほどに」

かけられた言葉に、ヴィヴィオは黙ってしまう。

「…申し訳ありません、私の身勝手です」

言って再び歩き出すアインハルト。

「あのっ!すみません…いまのスパーが不真面目に感じたなら、謝ります!」

アインハルトは足を止めた。

「今度はもっと真剣にやります、だからもう一度やらせてもらえませんか?今日じゃなくてもいいです!明日でも…来週でも!」

必死に訴えるヴィヴィオ。
アインハルトはチラリとノーヴェを見た。
その視線を感じて、ノーヴェは提案する。

「あー、そんじゃまぁ、来週またやっか?今度はスパーじゃなくて、ちゃんとした練習試合でさ」
「ああ、そりゃいいッスねぇ」
「ふたりの試合、楽しみだ」
「「はいっ!」」

ウェンディ、ディエチ、リオ、コロナは同意した。

「…わかりました、時間と場所はお任せします」
「ありがとうございます!」

今度こそ去ろうとするアインハルトと、頭を下げるヴィヴィオ。
と、

「その前に、俺とやり合う気は?」

煉がアインハルトを呼び止めた。

「…え?」

立ち止まるアインハルト。

「お、おい、煉!?」
「心配すんなよ、リュウト、ちょっとした腕試しさ」

煉はアインハルトに歩み寄っていく。

「下がってくれ、ヴィヴィオ」
「う、うん…」

煉はヴィヴィオを下がらせ、アインハルトの前に立つ。

「さて、いくぞ」
「あの、着替えないのですか?」
「いらないだろ、ちょっと気になることがあって、それを確かめるだけだしな、ノーヴェさん、一分欲しい」
「お、おう…」

そして、煉とアインハルトの戦いが始まった。
煉は圧倒的なまでのパワーとスピードで、簡単にアインハルトを追い詰めてしまう。

(まずっ…!)

アインハルトも本気で反撃する。
だが、追い詰められる速度が少し緩んだだけだ。

(強い!でもこの動き、やはり…あの人…)
(…やっぱりな、実際に戦ってみるとわかるもんだな)

戦いの中で、二人の疑問は確信に変わる。

(間違いない…)
(大当たり…)
(この人は…)
(こいつは…)

そして、


煉の拳はアインハルトの顔面に直撃する寸前で止まり、アインハルトの拳もまた、煉の顔面に直撃する寸前で止まった。


(あの時の人!!)
(覇王!!)

煉とアインハルトの試合が終わり、帰宅する一同。
ノーヴェはごめんなさいのポーズをしながら、念話でヴィヴィオに謝る。

(悪ィヴィヴィオ、気ぃ悪くしないでやってくれ)

ヴィヴィオは手を振りながら、念話で返す。

(全然!わたしの方が【ごめんなさい】だから!)

しかし、彼女の内心は暗かった。





高町家ヴィヴィオの部屋。
ヴィヴィオはベッドの上で落ち込んでいた。

(…あの人からしたら、わたしはレベル低いのに不真面目で、がっかりさせちゃったんだ……わたしが弱すぎて…)

アインハルトのことを考えて、次に煉のことを考える。

(…煉くんがうらやましいな…わたしと同い年なのに、あんなに強くて…)

ヴィヴィオは、今日のアインハルトと打ち合っていた煉を思い出していた。
リュウト曰く、煉は本気を出してないし、遊んでいる。
その証拠にアインハルトが汗だくで呼吸を乱しているのに対し汗一つかかずに、帰ってくるなり、ダンテと口論していた。
その光景を見たアインハルトは落ち込み、他のみんなは顔を引きつらせた。

(わたしだって、ストライクアーツは【趣味と遊び】だけじゃないけど…)

思って枕を抱きしめるヴィヴィオ。
と、

「晩御飯だよ、ヴィヴィオ」

なのはから連絡が入った。





「ヴィヴィオ、なんか今日は元気ないね?」
「え」

夕食の席。
なのはに言われ、

「そそ、そんなことないよ?元気元気!ねークリス!」

ヴィヴィオは慌てて取り繕う。
クリスも合わせてくれた。

「そお?」
「うん、へいき!」

そして、思い直す。

(そうだよ)

「えと……実はね?」

ヴィヴィオはアインハルトのことを話した。

「新しく知り合った人と、来週練習試合をするんだ、その事と考えてて、ちょっとね」

(落ち込んでちゃダメ)

「じゃあ、しっかり食べて、練習して、うんと頑張らないとね」
「ご馳走さま」

なのはとヴィヴィオが話をしていると煉が食べ終わった。

「ヴィヴィオ、アインハルトさんと友達になりたいなら、来週の試合は拳に自分の気持ちを乗せろ」
「気持ちを乗せる?」
「ヴィヴィオにとってストライクアーツは【趣味と遊び】だけじゃないんだろう?」
「ふぇ!?」
「そんなに驚くなよ……今日のスパーを見ればわかるさ」
『ヘイ、相棒スパーを見てわかるのはお前だけだと思うぜ』
「ほっとけ、ボケ! ヴィヴィオ頑張れよ」

煉はヴィヴィオそう言って、自分の部屋にいった。

「うん!」

ヴィヴィオは食べながら、またアインハルトのことを考える。

(あの人の…アインハルトさんが求めてるものはわからないけど、精一杯伝えてみよう)

ヴィヴィオの頭の中は、アインハルトのことでいっぱいだった。



(高町ヴィヴィオの、本気の気持ちを)






「今日はありがとうございました」

アインハルトはスバル、ティアナ、ノーヴェにお礼を言った。

「また明日連絡すっから」
「何か困った事があったらいつでもあたし達にね」
「マッハで飛んできますよ、先輩」
「じゃあ、車で送ってくるから」

ティアナはアインハルトを送っていく。
スバルはノーヴェに尋ねる。

「ねー、ノーヴェ、アインハルトの事も心配だけどさ、ヴィヴィオ、今日の事ショック受けたりしてないかな?」
「そりゃまあ多少はしてんだろうけど、さっきメールが来てたよ、あたしの修行仲間は、やっぱりそんなにヤワじゃねー」

ノーヴェはメールの内容を伝えた。


「今から来週目指して特訓してるってよ」


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。