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第七話 アインハルト・ストラトス
煉との戦いから撤退したイングヴァルトは、コインロッカーの前に来ていた。

(…彼女の一撃も…あの人の一撃も…凄い打撃だった…危なかった…)

ノーヴェの実力は凄まじいものがある。
加えて、その後に煉から受けたダメージも……。
意識を保てたのは、奇跡に近い。

(この体は…間違いなく強いのに…)
「武装形態……解除……」

イングヴァルトはふらつきながらも、騎士甲冑を解除する。

(私の心が弱いから…)

光に包まれるイングヴァルト。
やがて姿を現したのは、小さな少女だった。

(帰って少しだけ休もう、目が覚めたらまた……)

少女はコインロッカーの鍵を出す。

と、ここで受け続けたダメージが限界を迎える。
少女は倒れた。

(だめ…こんな所で倒れたら……)

立ち上がろうとする少女。
しかし、抵抗虚しく、少女は意識を手放した。





リュウトは煉と別れた後、道の真ん中で仰向けに倒れているノーヴェに声をかける。

「ノーヴェ姉、生きてるか!?」

ノーヴェに駆け寄るリュウト。

「リュウトか? ちょっと手ぇ貸してくれ」
「ああ」

リュウトはノーヴェに手を貸し、起き上がらせた。

「本気で助かった、でも、何でお前がいるんだ?」
「ノーヴェ姉が携帯を忘れたから届けに来たんだ」

そう言ってリュウトは携帯を渡す。
ノーヴェはコンソールを出し、スバルの家に連絡を入れる。
モニターが現れ、スバルの姿が映された。

「はいスバルです、ノーヴェどうかした?」
「ああ、悪ィスバル、ちょっと頼まれてくれ、喧嘩で負けて動けねー」
「ええッ!?」

驚くスバル。
ノーヴェは構わず続ける。

「相手は例の襲撃犯、きっちりダメージブチ込んだし、蹴りついでにセンサーもくっつけた、今ならすぐに捕捉できる」
「わ、わかった!とにかく今から行くね!」

ノーヴェとスバルは通信を切った。




朝。
少女は目覚めた。
しかもなぜかベッドの中にいる。

「!?」

飛び起きる少女。
その隣には、

「よう、やっと起きたか」

ノーヴェが横になっていた。

「……あの、ここは……?」

少女は状況が理解できず、ノーヴェに訊いてみる。
と、部屋のドアがノックされた。

「はい」

ノーヴェが返事をすると、一人の女性が入ってくる。
彼女の名はティアナ・ランスター。
スバルの同僚だ。
スバルの家には時々遊びに来る。

「おはようノーヴェ、それから……」

ティアナはノーヴェに朝の挨拶をしてから、少女に目を移した。
ノーヴェは少女の名を言う。

「自称覇王イングヴァルト、本名アインハルト・ストラトス、St.ヒルデ魔法学院中等科一年生」
「ごめんね、コインロッカーの荷物出させてもらったの、ちゃんと全部持ってきてあるから」

ティアナは謝罪の意を述べた。アインハルトと呼ばれた少女がすぐ側にある机の上を見ると、確かに持ってきてある。

「制服と学生証持ち歩いてっとは、ずいぶんとぼけた喧嘩屋だな」

ノーヴェに言われ、アインハルトは目をそらす。

「学校帰りだったんです、それに、あんな所で倒れるなんて…」

そこへ、

「あーみんなおはよー」

料理を乗せたお盆を持つスバルがやって来た。

「おまたせ♪あさごはんでーす」
「おお、ベーコンエッグ!」
「あと、野菜スープね」

ノーヴェは喜ぶ。
アインハルトはそれをあっけに取られて見ていたが、スバルはアインハルトの存在に気付く。

「あ…はじめましてだねアインハルト。スバル・ナカジマです。事情とか色々あると思うんだけど、まずは朝ごはんでも食べながら、お話聞かせてくれたら嬉しいな」





というわけで、一同は朝食を摂ることに。

「んじゃ、一応説明しとくぞ」

ノーヴェは紹介する。

「ここはこいつ……あたしの姉貴、スバルの家」
「うん」

スバルは軽く返事をし、

「で、その姉貴の親友で、本局執務官」
「ティアナ・ランスターです。」

ティアナは名乗った。

「お前を捜して保護してくれたのはこの二人と…………此奴、感謝しろよ」
「うま~い、スバル姉、料理の腕を上げたね」

ノーヴェは野菜スープに夢中のリュウトを指差して言う。

「でもダメだよノーヴェ、いくら同意の上の喧嘩だからって、こんなちっちゃい子にひどい事しちゃ」
「こっちだって思いっきりやられて、まだ全身痛ェんだぞ」
「てか、止めを刺したのは煉だけどな」
「煉?」

スバルは聞き慣れないなまえに首を傾げる。

「あ、あの、えっと」
「ああ、俺はリュウト・ナカジマ、宜しく、先輩」
「あっ、はい、宜しくお願いします、リュウトさん」
「ね~、リュウ、煉って誰?」
「最近転入して来た奴で本名は高町 煉 なのはさんの甥っ子だとさ」
「ふぇ~」
「高町 煉さん」
「先輩……手出しは駄目だからな」

リュウトがアインハルトに釘を刺す。
そして、ティアナはアインハルトに尋ねる。

「格闘家相手の連続襲撃犯があなたって言うのは……本当?」
「…はい」
「理由聞いてもいい?」

しかし、ティアナの質問には、ノーヴェが答えた。

「大昔のベルカの戦争が、こいつの中ではまだ終わってないんだとよ、んで自分の強さを知りたくて、あとはなんだ…聖王と冥王をブッ飛ばしたいんだったか?」
「最後のは……少し違います、古きベルカのどの王よりも、この覇王の身が強くあること、それを証明できればいいだけで…」

それを聞いたティアナは、さらに尋ねる。

「聖王家や冥王家に恨みがあるわけではない?」
「はい」
「そう、なら良かった」

スバルは安堵の表情を見せ、アインハルトはそれを見た。
ティアナが言う。

「スバルはね、そのふたりと仲良しだから」
「そうなの」

スバルは優しく笑った。
アインハルトは、スバルをじっと見ている。

「ああ、冷めちゃうからよかったら食べて」
「……はい……」

アインハルトはスバルに言われて、手を進めた。
ティアナはアインハルトに言う。

「あとで近くの署に一緒に行きましょ、被害届は出てないって話だし、もう路上で喧嘩とかしないって約束してくれたら、すぐに帰れるはずだから」
「あの…ティアナ」

そこで、ノーヴェが割り込んだ。

「今回の事については、先に手ェ出したの、あたしなんだ」
「あら」
「だから、あたしも一緒に行く、喧嘩両成敗ってやつにしてもらおう」

それからアインハルトに訊く。

「お前もそれでいいな?」
「はい……ありがとうございます」





湾岸第六警防署。

ノーヴェ、アインハルトとともにここを訪れたリュウト、スバル、ティアナ。
スバルはティアナに謝る。

「ごめんねティア、折角の非番なのに」
「それはあんたも一緒でしょ、しかしあんたってば、ベルカの王様とよく知り合うわよねぇ」
「ねー」

ヴィヴィオにイクスにアインハルト。
スバルは三人もの王と対面したのだ。

「でもあの子…アインハルトも色々抱え込んじゃってるみたいだし、このまま放ってはおけないかも」
「そうね、でもその前に、あんたの可愛い妹がひと肌脱いでくれそうじゃない?」

ティアナは手続きをしているノーヴェとアインハルトを見ながら言った。





手続きを終え、結果を待つアインハルトは、一人思っていた。

(私は何をやってるんだろう…やらなきゃならない事、沢山あるのに…あの人にも…もう一度会いたいのに……)

あの人、金と銀の虹彩異色の男、煉である。
彼女は煉が何故、覇王流を使えるのかが知りたかった。
と、

「よう」

ノーヴェが缶ジュースをアインハルトの頬に当てる。

「ひゃっ!!」

アインハルトは驚いた。

「スキだらけだぜ、覇王様」

してやったりという顔のノーヴェ。
アインハルトは顔を赤くしながら、あわあわするしかなかった。
それを見ていたリュウトは

(可愛いな……)

などと思っていた。




ノーヴェはアインハルトにもジュースを渡し、自分のジュースを飲みながら訊く。

「もうすぐ解放だと思うけど、学校はどーする、今日は休むか?」
「行けるのなら行きます」
「真面目で結構、で…あのよ、うちの姉貴やティアナは、局員の中でも結構凄い連中なんだ、古代ベルカ系に詳しい専門家も沢山知ってる、お前の言う『戦争』がなんなのかはわかんねーけど、協力できる事があんならあたしたちが手伝っってやる、だから……」
「聖王達には手を出すな……ですか?」
「違ェよ、あ、違わなくはねーけど」

ノーヴェはうまく説明できなくて、頭をかいた。

「ガチで立ち合ったからなんとなくわかるんだ、おまえさ…」

ようやくそれっぽい言葉を見つけたノーヴェは言った。

「ストライクアーツが好きだろう?」

アインハルトはノーヴェを見つめる。

「あたしもまだ修行中だけど、コーチの真似事もしてっからよ、才能や気持ちを見る目だけはあるつもりなんだ。」
「…」
「……違うか?好きじゃねーか?」
「…好きとか嫌いとか、そういう気持ちで考えた事がありません、覇王流カイザーアーツは、私の存在理由の全てですから…」

どこか悲しそうな顔をするアインハルト。
ノーヴェは尋ねた。

「聞かせてくんねーかな?覇王流のこと……おまえの国の事……おまえがこだわってる戦争の事……」
「……私は……」





St.ヒルデ魔法学院初等科校舎図書室。

「あったあった!これがオススメ!」

コロナは本を持ってきた。
「『覇王イングヴァルト伝』と『雄王列記』、あとは当初の歴史書!」
「ありがとコロナ」

ヴィヴィオはお礼を言って本を受け取る。

「前にルーちゃんにおすすめしてもらったんだ」

と、リオと煉が訊いた。

「でもどーしたの?急にシュトゥラの昔話なんて」
「歴史の勉強でもするのか?」
「うん、ノーヴェからのメールでね、この辺の歴史について一緒に勉強したいって」
「なるほど、俺も手伝うよ、何か資料を集めてみるぜ」
「ありがとうね煉くん、あ、それから今日の放課後ね!ノーヴェが新しく格闘技やってる子と知り合ったから、一緒に練習してみないかって」

煉はヴィヴィオを手伝いながら思った。

(シュトゥラか、奴は捕まったのか?)


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