夜の街の月明かりの下。
覇王は、ノーヴェに拳を叩き込んで倒した。

「…次」

覇王はノーヴェをそのままにして、立ち去ろうとする。

「待ちな………覇王（クラウス）」

突然かかった声。
イングヴァルトが振り向くと、そこには右に金色、左に銀色の虹彩異色をもつ、長髪の中性的男性がいた。
男性は続ける。

「覇王（クラウス）を名乗ってる割りに、やってることはチンピラ狩りか？ 困ったお嬢（レディ）ちゃんだ」
「…何ですかあなたは？」

いきなり現れて失礼な挑発をする男性に対する嫌悪感を抑えながら、イングヴァルトは尋ねた。

「ヘイヘイ、表情が険しいぜ？ せったくの美人なのに、そんなキツイ目つきじゃ男が逃げちまう、笑顔（スマイル）と泣き落（クライ）としは美人の最高の武器だぜ」
「言いたい事はそれだけですか？」
「オイオイ、そう急かすなって、この辺りに覇王を名乗る強いやつがいるって聞いたから、本物か確かめに来たのさ」
「そうですか、ならばお尋ねします、あなたは強いのですか？」
「さあな？試してみるか？」
「…そうさせてもらいます」

イングヴァルトは構えを取った。
男性は、デバイスの名を叫ぶ。

「起きな、夜魔刀」
「ぬかるなよ、バージル」
「オイオイ誰にものを言ってんだよ？ 俺が青二才（リトルガール）に遅れを取るもんかよ」

バージルの下にベルカ式の魔方陣が現れセットアップされる。

「…武器ですか」

バージルの刀が、イングヴァルトの目に止まる。

「オイオイ、お嬢ちゃんにこんなもの使う訳ないぜ？」

バージルは刀を背中に差して構えを取る。

「来いよ、覇王（クラウス）！」
「…そうですね、では、始めましょう」

二人の戦いは始まった。



先に動いたのはイングヴァルト。
ステップを利用して離れた距離から一瞬で接近し、左右の拳で連撃を繰り出す。
バージルは一撃目をかわして二撃目を否して、蹴りを打ち込む。

「!?」

イングヴァルトはうまく防いだが、その一撃の威力に驚いて距離を取った。
相手は見た感じただ拳を、自分に打ち込んだだけ。
だが、威力があまりにも大きすぎる。

（あのタイミングであそこまで威力を上げられるほど、魔力を込める時間はなかったはず…）

どんな魔導師でも、あれだけ短い時間に威力強化として込められる魔力は、ごく少量でしかない。

（まさか!?）

イングヴァルトにとって考えられる事は、一つしかなかった。

「もしやあなたは、【断空】を!?」
「へぇ、断空を知ってるのか？」

言ってイングヴァルトとの距離を詰めて、バージルは拳を浴びせる。
イングヴァルトはそれに耐えながら、再び距離を取る。

（拳、一発一発に断空⁉……まさかこれ程とは…長期戦になれば、確実に負ける…!!）

自分が勝つには、短期決戦で決めるしかない。
そう思い至ったイングヴァルトは、一か八か、起死回生の一撃を実行すべく、バージルに接近した。

「さあ、派手にイこうぜ!!」
『ほう、小娘がバージルに着いて来るか」

夜魔刀はバージルに付いてくるイングヴァルトを見て驚嘆する。
バージルは速度上げて拳と蹴りの応酬でイングヴァルトに打ち込んで行く。
バージルの攻撃は直撃こそしていないが、相当な威力があるらしく、かすっただけでイングヴァルトの騎士甲冑を削ぎ落としていく。

（力も速さも私より上…しかもまだ本気じゃ無い…私が遊ばれてる…）

バージルの実力に戦慄するイングヴァルト。

（でも技なら…!!）

イングヴァルトはバージルが見せた一瞬の隙を突き、バージルの懐に潜り込んだ。

「覇王…」

そのまま足先から力を練り上げ、

「断空拳!!」

バージルの鳩尾に拳を、練り上げた力を打ち込む。

「オイオイ、こんなもんか？」
「そんな!?」

バージルは左手でいとも簡単に断空拳を止める。

「ヘイ、本物はこうやるんだせ？ 覇王断空拳‼」

イングヴァルトはバージルの断空拳を避けられず、直撃を受けて背後の壁に叩きつけられた。

「がっ!!」
（今の技は!?）

突然の事に混乱するイングヴァルト。
何が起きたのか。
自分と同じ断空拳を使われた？
あり得ない事が多過ぎてイングヴァルトは混乱した。

「ヘイヘイ、弱すぎだぜ？」
「くっ…」

イングヴァルトはよろめきながら立ち上がる。
その時、

「そこまでにしろ！」

今度は青い瞳でポニーテールの男性が現れる。

「んだよ、邪魔するなよ、お前（ボーイ）、覇王（ガール）が逃げちまったぜ」
「それでいいんだよ、煉（・）、後は任せてくれないか？」
「好きにしろよ、次に何かあったら地獄（ヘル）行きにしてやるぜ」
「面倒をかける、煉」
「はっ！ 気にすんなよ、リュウト」