第三話 昔はいろいろありました
むかしむかし
花咲く庭でふたりは出会って
だけど訪れたのは
残酷な現実
ふたりはぶつかって
戦って
伝え合って
抱きしめ合って
『親子』になって
ふたりの時間は静かに優しく
「流れていってるんだって思ってたんだけど…」
フェイトは呆れ気味に呟き、
「それがなんでまたこんな事にッ!?」
今まさにこんな事になっているヴィヴィオと、どう説明しようか頭を悩ませているなのはに言った。
現在ヴィヴィオは大人の姿になっている。
しかし、これはフェイトにとって二度目に見た光景だった。
ヴィヴィオは狂気の科学者、ジェイル・スカリエッティが生み出したベルカの王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトのクローンだ。
聖王のゆりかごという恐るべき兵器の起動キーでもある。
ヴィヴィオはその起動キーとして利用された際、今の大人の姿になったのだ。
「いや、あのねフェイトママ?大人変化自体は別に聖王化とかじゃないんだよ」
心配するフェイトに説明するヴィヴィオ。
「魔法や武術の練習はこっちの姿の方が便利だから、きちんと変身できるように練習もしてたの。なのはママにも見てもらって、もう大丈夫だね、って」
「そうなの!」
なのはも慌てて説明に加わる。
「でも……」
それでもフェイトの心配は収まらない。
「んー…」
ヴィヴィオは考えた後、クリスに命じる。
「クリス、モードリリース!」
クリスは右手を上げて了承し、ヴィヴィオは元に戻った。
「なにより、変身したってヴィヴィオはちゃんとヴィヴィオのまんま!ゆりかごもレリックももうないんだし」
その言葉を聞いてフェイトだけでなく、なのはも表情が曇ったが、
「だから大丈夫、クリスもちゃんとサポートしてくれるって」
「うん……」
フェイトは少し安心した。
「心配してくれてありがとうフェイトママ、でもヴィヴィオは大丈夫です、それにそもそもですね?」
ヴィヴィオは言う。
「ママたちだって、今のヴィヴィオくらいの頃にはかなりやんちゃしてたって聞いてるよ?」
「そ、それは、その…」
「あははー」
痛いところを突かれてしまい、赤面するなのはとフェイト。
人のことは言えない。
「そんなわけで、ヴィヴィオはさっそく魔法の練習に行ってきたいと思います」
「あ、わたしも!」
「いいですか、フェイトママ」
「はい、気をつけて」
フェイトは出かける二人を見送った。
それから数分後、フェイトはヴィヴィオのことについて、現在辺境自然保護隊として活動している彼女の子供達(血は繋がっていない)、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエと連絡をとっていた。
「キャロとエリオは聞いてたりした?」
「大人モードって単語だけはたまに。」
「でも、まさか変身制御の事とまでは」
「やっぱりー?」
予想通りの答えに呆れるフェイト。
それに対して、キャロとエリオは交互に続けた。
「ヴィヴィオ、魔法も戦技も勉強するのが好きですから、できる事はなんでも試してみたいんですよ」
「リュウトもいますし、ヴィヴィオはあれでしっかりしてます、心配ないと思いますよ」
「……うん」
フェイトはようやく納得した。
「ところでフェイトさんの膝の上にいるフェイトさんは誰ですか?」
余程、気になっていたのかキャロが身を乗り出して聞く。
「高町 煉…なのは姉とは叔母と甥にあたる、宜しく、後、フェイトさんに似てるのは偶然だ…フェイトさんも好い加減に離してくれ」
「やだ♪」
「即答…はぁ~」
『俺は相棒のデバイス、ダンテだ宜しく、青少年と青少女』
「あはは、僕はエリオ・モンディアル、宜しく、煉、ダンテ」
「私はキャロ・ル・ルシエ、宜しくね、煉、ダンテ」
何故かフェイト一家の会話に入れられてしまった煉。
「そっちはどう?お仕事の調子は」
「今日もホントに平和でしたよ」
「今やってる希少種観測ももうすぐ一段落ですから、来月にはフェイトさんのところに帰れそうです」
「ほんと?私も休暇の日程調整してみるね」
「はい」
「お買い物に行きたいですー♪ 煉も一緒に行こうよ♪」
「は?」
『イイじゃねえか、可愛い子ちゃんからの誘いは断るもんじゃないぜ』
ヴィヴィオについての話を終えた四人と一機は、次に再び会える時に向けての話を始める…。
ヴィヴィオは大人モードに変身して、なのはと夜道を歩いていた。二人の側には、クリスとレイジングハートが浮いている。
「やっぱりいいなー大人モード♪ねークリス♪」
右手を上げて同意するクリス。
「だよね~♪」
楽しむヴィヴィオに、なのはは言う。
「ね、ヴィヴィオ?」
「はい?」
「大人モードはヴィヴィオの魔法で、自分の魔法をどう使うかは、自分で決めることなんだけど、いくつか約束してほしいんだ」
「…うん」
「大人モードは、魔法と武術の練習や実践のためにだけ使うこと、いたずらや遊びで変身したりは、絶対しないこと、ママと約束」
そこまで言ったなのはは、指切りの指を出す。
「うん、遊びで使ったりは絶対しません」
ヴィヴィオはなのはの指に自分の指を絡ませ、指切りする。
「天に誓って?」
「天と星に誓って」
二人は約束した。
「それに、魔法で身長がママよりおっきくなったって、心まで大人になるわけじゃないもん」
言ってヴィヴィオが見せた笑顔は、子供そのものだ。
「ヴィヴィオはまだまだ子供だから、ちゃんと順番追って大人になってくよ、普通に成長してこの姿になった時、恥ずかしくないように、自分の生まれとなのはママの娘だって事に、えへんと胸を張れるように…」
ヴィヴィオは胸を張ってみせた。
そんな彼女を、
「…ちょっと生意気!」
「にゃっ!」
なのはは力いっぱい抱きしめた。
「にゃー!せっかくイイ事言ったのにー!」
「あはは♪」
戯れ合う親子を、クリスはレイジングハートとともに見つめていた。
やがて、市民公園の公共魔法練習場にたどり着いた二人。
「じゃ、基本の身体強化系からね、それから放出制御!」
ヴィヴィオがクリスに命じ、クリスが右手を上げて返答する。
「クリスの慣らしもあるんだから、いきなり全開にはしないんだ。」
「だーいじょーぶ!」
ヴィヴィオは構えを取った。
(帰ったみんなにメールを送って…)
思いながら、足元に魔法陣を展開。
(ノーヴェにも、明日から一杯、一緒に練習しようねって伝えて…)
やることが山積みのヴィヴィオは、ふと、思い出す。
(ああそれから、またあの子に会いに行こう)
思い出したのは、一人の少女。
(わたしの故郷に咲いてた花と、綺麗な世界の写真を持って…)
思い出して、ヴィヴィオは腕を振った。
ナカジマ家。
「へー、ついにヴィヴィオもデバイス持ちっスか」
「よかったね、今度見せてもらおう」
ウェンディ・ナカジマとディエチ・ナカジマは言った。
「そっか……クレア、ヴィヴィオにおめでとうって、メールを頼む」
『うん』
リュウトはクレアでヴィヴィオにメールを送る。
一家の当主、ゲンヤ・ナカジマが尋ねる。
「高町嬢ちゃんの一人娘か、今いくつだっけ?」
「リュウと同じ10歳ですね、4年生ですよ、クラスも確か一緒ですよ」
答えたのはギンガ・ナカジマ。
「もうそんなか、前に見た時は幼稚園児くらいだったと思ったがなぁ…」
「それ、六課時代じゃない」
「もうだいぶ前っスよ」
すかさずツッコミを入れるディエチとウェンディ。
チンク・ナカジマはノーヴェ・ナカジマに尋ねた。
「ヴィヴィオの武術師範としては、やはり嬉しいか」
「え」
突然のことに詰まるノーヴェは、
「別に師匠とかじゃないよ、一緒に練習してるだけ、まだまだ修行中同士、練習ペースが合うからさ…」
と、赤くなって返す。
そこでノーヴェは思い出した。
「あ、おとーさん、ギンガ、あたし明日、教会の方に行ってくるから」
「そう」
「いつものお見舞いか?」
「ん、そんなとこ」
「じゃ、あたしも行くッス!セイン姉と双子をからかいに!」
「姉も行きたいな、久し振りに」
続々と同行を希望するウェンディとチンク。
「えー!?」
「だめよーあんまり大勢で押しかけちゃ」
ノーヴェは反応し、ギンガは笑いながら言った。
聖王教会本部にて。
シスターセインはとある部屋の中にいた。
「今日もお日様一杯のいい天気だよ」
花瓶の水を取り換え、カーテンを開ける。
「そうそう、午後にはヴィヴィオとノーヴェ達が会いに来てくれるってさ」
セインは話しかける。
「楽しみだね、イクス」
この部屋のベッドの上で眠り続ける、一人の少女へと…。
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