中国は猛スピードで発展していったが、多くの社会的矛盾を抱えたままであり、いつ脱線するのか分からないような状態になっている。
中国が抱えている問題とは何か。第一は猛烈な格差である。上海はまるで先進国の都市と変わらないような姿をしているのに、内陸に行けば行くほど後進国さながらの貧しい農村文化が残る。それが激しい対立を生み出している。
特権階級と貧困層が対立し、報道規制されていて実体は分からないものの、年間1,000件以上もの暴動が起きているのだという。
イノベーション(革新)が生まれない国
技術に関しても、取り入れて形にするスピードが重視されたために安全性がおざなりにされ、ついには中国製新幹線も脱線事故を起こしてしまった。(事故記録。中国の高速鉄道追突事故。政府の隠蔽体質に国民が激怒)
にも関わらず、原因追求も死者確認も現場検証も行われないまま隠蔽工作に明け暮れて、事態をよけいに悪化させてしまった。
体面さえ何とかなれば、裏側の細かい齟齬や矛盾や不満はすべて力で押さえ込んでしまおうという姿勢だ。なるほど、共産党独裁国家にふさわしい対処ではある。
中国があの広大な土地を支配するためには、独裁と強制、すなわち「力」で無理やり国民を押さえつけるしかないということだ。
しかし、問題はここにある。独裁で国民を押さえつけるほど、工業的なイノベーション(革新)が生まれなくなってしまうことだ。つまり、新しいものを生み出す環境が整わない。
たとえば、中国の起業家が石油や原子力に取って代わるような素晴らしいエネルギーを発明したとしても、中国政府はそれを徹底的に弾圧して起業家を死刑にしてしまうだろう。
なぜなら、石油や原子力は中国政府のエネルギー政策の根幹だから、新しいものを開発されたら困るのである。
起業家が新しいインターネットのコミュニケーション技術を開発しても、それが中国政府の情報統制を破るものであれば、それは徹底的に弾圧されて運用は禁止されるだろう。
すでに中国ではグーグルが情報統制に協力しないと追い出した実績もある。
また、起業家が新しいクスリを開発しても、それが中国の国営企業を窮地に追いやるようなものであれば、それは徹底的に弾圧されて販売は禁止されるだろう。
国営企業に敵ができたら困るからである。そう言えば中国の国営製薬会社のオフィスが宮殿のようだと話題になったこともあった。宮殿に棲む者は、新しいものが台頭してくることを許さない。
だから、中国の現在の体制では近代工業文明と両立できるのか、いぶかる人も多い。
次の時代が「中国の時代」になるのであれば、恐らくアメリカのアップル社が作り上げたような「新しい技術革新」は生まれてこない。
亡くなったスティーブ・ジョブズ氏の言っていた"Think different"は中国では死刑と同等である。
中国の国営企業(製薬会社)の内部 哈薬集団(Harbin Pharmaceutical Group) |
国営企業にこの豪華さが必要だろうか。 製薬会社のオフィスがなぜ宮殿でなければならないのか。 |
中国内陸部の貧困 |
国営企業の豪華絢爛さとは無縁の生活がまだ残る。 この格差が中国のガンになっている。 |
それが爆発したとき、国家も一緒に破綻
国が産業を支配しようとすると、そこに巨大な利権と金額が集中していくので、それを止めることができなくなる。また、それに変わる新しいものを生み出す動きもつぶされる。
長らく電気自動車が陽の目を見なかったのは、国と結託していた石油企業がずっとロビー活動をして妨害していたからだと言われている。
エネルギー政策は国の根幹に関わるものであり、石油と国家は密接に結びついていた。だからこそ、エネルギー分野は技術の停滞を招いたのである。
原子力もまたそうだ。原子力は平和利用だと言っても、いざとなればそれは原子爆弾に転用できる。だから、エネルギーとしての石油とは別に国家は原子力をも推進してきた。
そして、原子力にも利権が集中していき、それは止めることができないものへと昇格していった。その結果はどうなるのかはウクライナ人と日本人だけが知っている。それが爆発したとき、国家も一緒に破綻していく。
国家が利権をつかんで離さない分野が多ければ多いほど、新しいものは生み出されない。そして、国家が握っているものは効率が悪くても放置されるので、やがては時代遅れになって破綻していく。
日本でも旧原子炉がそのまま使われて危険を指摘されながらも政府は手を打たなかった。政府が産業に手を出すとどうなるのか、良い見本だ。
中国の問題は何か。独裁国家があまりにもたくさんの分野で力を持って産業を押さえていて、国民を押さえつけながら一部の分野だけが突出していく構図から逃れられないことだ。
中国の台頭は、革新の停滞とセット
鄧小平の「先富論」は中国を切り開いた思想だ。この思想通り、中国の沿海部はどんどん豊かになっていった。
しかし、鄧小平の「先富論」は「先に豊かになった者は、落伍した者を助けよ」とも言ったはずだ。これが無視された。
拝金主義がまかり通り、社会から落伍した貧困層は無視されることによって、中国は「発展しているにも関わらず、なぜかいつ自壊するか分からない不安定国家」ですらある。
中国は独裁国家であり、国家を自壊させるような動きがあれば、情報隠蔽から人権蹂躙まで、ありとあらゆる過剰自衛で国民を弾圧して今までやってきた。
だからこそ、最先端の科学技術が生まれないし、定着もしないと多くの人々は考えるのである。他の国の真似はできても、新しいものを生み出す力がない。
そして、すでにある技術も真似やコスト削減ばかりに目に行って劣化していき、やがてその劣化によって自壊していく。
中国は新幹線を中国の独自技術で作ろうとしたが失敗し、日本やドイツから技術を導入して「独自新幹線を作り上げた」「これはパクリではない」と豪語した。
しかし、結局、それを運用・維持していく技術がないために、技術そのものが砂上の楼閣になっていく。
脱線事故を起こして破損したコンクリートの部分を木材で継ぎ接ぎしてごまかしている画像もあったが、メンテナンスがいい加減になってくると、どんどん劣化してしまう。
やがてはそれが維持できなくなって、打ち捨てられていくことになる。最新技術であればあるほど、最後には修復不可能になって危険度が増すのである。
国家体制そのものが独裁である限り、どんなに工業化を促しても中国から新しいイノベーションが生まれて来ることはない。
中国の時代がやってくるかどうかは知らないが、もしやって来るのだとしたら、それは近代工業文明の死につながる可能性がある。
中国の台頭は、革新の停滞とセットになっていると考えれば間違いない。
国家を脅かすものは、何でも弾圧の対象になる。 工業的なイノベーションも例外ではない。 |
〓 この話題について、参考になる書籍・メディア
そうだったのか! 中国
「中国全省を読む」事典
中国は、いま
中国共産党 支配者たちの秘密の世界
異形の大国 中国―\彼らに心を許してはならない
私はなぜ「中国」を捨てたのか
それでも中国で儲けなければならない日本人へ
現代中国「解体」新書
中国危うい超大国
徹底解明!ここまで違う日本と中国
ネット大国中国―\―\言論をめぐる攻防
これから、中国とどう付き合うか