「お嬢、諦めるな!まだ、何か手はある筈じゃ!!」
「いや……地獄門を完全に封印するにはお父ちゃんと同じ事をせなあかん。せやから十三……うちの代わりに姉ちゃんの事頼んだで!!」
お嬢!と叫ぶ大男にそう言ってうちは振り返る。眼前には以前封印した筈の地獄門が今にも開こうとしていた。
「あかり殿。わたしもお供します!!」
冷静な水使い---河童の『水月』が声を荒げる。いつもクールな水月のこんな姿が見れるなんてな。
「そうだよ!あかりちゃん一人にそんな事させられない!風浮も一緒に行く!!」
いたずらが大好きな風娘---天狗の『風浮』が叫ぶ。うちのことを姉みたいに慕ってくれてたから殊更うちとは離れたくないんやろな。
「「おいら達も付いてくぞ!!」」
いつも元気な双子---火の玉の『炎』『灼』が同じ声色で話す。元気すぎていつもケンカしてた二人が同じ思いを抱いている。うちなんかの為に……
「勿論、オラもだドン!!」
心優しき大食漢---雷鬼の『雷轟』がその大きいお腹を叩いて皆に同意する。さも当然だと言わんばかりに。
「お主と共に居れば心踊る戦いが楽しめる。止めても無駄だ!」
武を司る闘神『阿修羅』もだ。ただ、付いてくる理由が皆と若干違う気がする。
今まで共に戦った仲間達の声。その全てがうちと運命を共にしたいと云う。うちとしては嬉しいけど……
「……夫妄(むぼう)、お願い……」
「ピィ……≪分かった……≫」
「「「「「なっ!!」」」」」
過去・未来を見通す夫の目を応用して皆の動きを強制的に止める。万物の支配者『夫妄』の力は絶大で、闘神『阿修羅』でさえも束縛できる。
「皆、ごめん……でも、うちがいなくなったら誰がこの世界を守るん?十三だけじゃアカンやろ」
「「「「「「……」」」」」」
皆が押し黙る。うちが言いたいことが伝わったかは分からんけど、伝わったと信じよう。
「じゃぁ、皆……元気でな!!」
「お嬢!!」
「あかり殿!!」
「あかりちゃん!!」
「「あかり!!」」
「あかりドン!!」
「ヌゥ!夫妄!!この戒めを解け!!」
「ピッ!ピキッ!!≪ダメ!あかりとの約束だから!!≫」
印を結びながら駆け出すうちの後姿に叫ぶ皆の声。
(ごめんな皆……)
トンッ
「……ッ!!」
肩に何かが飛び付いてくる。こんな事が出来るのは身体が小さく事ある毎にうちの肩に飛びついていた子狐『弧徹』だけだ。
「あかりちゃんがダメだって言っても僕は意地でも付いて行くからね。寂しがりやなあかりちゃんを一人にさせないためにもね」
「……おおきに」
小さき友にはうちの心情を理解しているようだ。自然と感謝の声が出た。
「行くで!弧徹!!」
「うん!!」
自らの霊力を限界まで引き出しながら地獄門へ駆け出す。弧徹も妖力を放出しているようで肩から妖力が伝わってくる。弧徹の力をその身に感じながら地面を蹴る。既にうちと弧徹の身体を構成する組織は霊力・妖力と化しつつあり、身体の感覚が無くなってきている。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
うちに残った力を全て引き出し叫ぶ。
「九字封印!!」
お嬢と弧徹が光の玉となって地獄門へ飛んでいき、門が完全に封印された。その証拠に門から溢れて此処に漂っていた妖気が無くなっている。
後ろを振り返ると皆が項垂れている。皆、お嬢の力になりたかったのになれなかったのだ。その心中は計り知れないだろう。まぁ、阿修羅は身体の自由を奪った夫妄に怒りをぶつけているが。
「お嬢……」
神崎十三は空を見上げる。人の魂は輪廻するというから人外である皆はもしかしたら生まれ変わったお嬢と遭えるかも知れないが自分はもう二度と会う事はないだろう。
「だったら、ワシはワシが出来る事をするだけじゃ!!」
---なぁ弧徹……うち等死んだんとちゃうん?
---そうだと思うんだけど……
---じゃぁ、コレはどういう事なん?
---よく分からないや……
---人の魂は輪廻するってお父ちゃんが言ってたけど
---生前の知識を持って生まれ変わるならまだ良いよ……問題は
---なんで陰陽師だったうちが妖怪の孫に輪廻?転生?せなあかんのや……
---しかもあの妖怪って確か……
---『ぬらりひょん』やね
「リンネは大人しいのぉ。リクオとはえらい違いじゃ」
そう呟く妖怪『ぬらりひょん』を見ながら自身がおかれた状況を把握しあぐねる『一条ひかり』と『弧徹』と呼ばれていた二人であった。
【第零話 陰陽師から妖怪の孫へ】