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[30058] 現代に転生した陰陽師 (ぬらりひょんの孫×月華の剣士 幕末→現代)
Name: 陽陰師◆ab76e19e ID:c397f12c
Date: 2011/10/10 00:21
この話しは、幕末浪漫 月華の剣士に登場する陰陽師が魑魅魍魎の主の妹に転生したらどうなるかを愚考して創っています。

お見苦しい内容になるかと思いますがよろしくお願いします。



[30058] 第零話
Name: 陽陰師◆ab76e19e ID:c397f12c
Date: 2011/10/10 00:21
「お嬢、諦めるな!まだ、何か手はある筈じゃ!!」

「いや……地獄門を完全に封印するにはお父ちゃんと同じ事をせなあかん。せやから十三……うちの代わりに姉ちゃんの事頼んだで!!」

お嬢!と叫ぶ大男にそう言ってうちは振り返る。眼前には以前封印した筈の地獄門が今にも開こうとしていた。

「あかり殿。わたしもお供します!!」

冷静な水使い---河童の『水月』が声を荒げる。いつもクールな水月のこんな姿が見れるなんてな。

「そうだよ!あかりちゃん一人にそんな事させられない!風浮も一緒に行く!!」

いたずらが大好きな風娘---天狗の『風浮』が叫ぶ。うちのことを姉みたいに慕ってくれてたから殊更うちとは離れたくないんやろな。

「「おいら達も付いてくぞ!!」」

いつも元気な双子---火の玉の『炎』『灼』が同じ声色で話す。元気すぎていつもケンカしてた二人が同じ思いを抱いている。うちなんかの為に……

「勿論、オラもだドン!!」

心優しき大食漢---雷鬼の『雷轟』がその大きいお腹を叩いて皆に同意する。さも当然だと言わんばかりに。

「お主と共に居れば心踊る戦いが楽しめる。止めても無駄だ!」

武を司る闘神『阿修羅』もだ。ただ、付いてくる理由が皆と若干違う気がする。

今まで共に戦った仲間達の声。その全てがうちと運命を共にしたいと云う。うちとしては嬉しいけど……

「……夫妄(むぼう)、お願い……」

「ピィ……≪分かった……≫」

「「「「「なっ!!」」」」」

過去・未来を見通す夫の目を応用して皆の動きを強制的に止める。万物の支配者『夫妄』の力は絶大で、闘神『阿修羅』でさえも束縛できる。

「皆、ごめん……でも、うちがいなくなったら誰がこの世界を守るん?十三だけじゃアカンやろ」

「「「「「「……」」」」」」

皆が押し黙る。うちが言いたいことが伝わったかは分からんけど、伝わったと信じよう。

「じゃぁ、皆……元気でな!!」

「お嬢!!」

「あかり殿!!」

「あかりちゃん!!」

「「あかり!!」」

「あかりドン!!」

「ヌゥ!夫妄!!この戒めを解け!!」

「ピッ!ピキッ!!≪ダメ!あかりとの約束だから!!≫」

印を結びながら駆け出すうちの後姿に叫ぶ皆の声。

(ごめんな皆……)

トンッ

「……ッ!!」

肩に何かが飛び付いてくる。こんな事が出来るのは身体が小さく事ある毎にうちの肩に飛びついていた子狐『弧徹』だけだ。

「あかりちゃんがダメだって言っても僕は意地でも付いて行くからね。寂しがりやなあかりちゃんを一人にさせないためにもね」

「……おおきに」

小さき友にはうちの心情を理解しているようだ。自然と感謝の声が出た。

「行くで!弧徹!!」

「うん!!」

自らの霊力を限界まで引き出しながら地獄門へ駆け出す。弧徹も妖力を放出しているようで肩から妖力が伝わってくる。弧徹の力をその身に感じながら地面を蹴る。既にうちと弧徹の身体を構成する組織は霊力・妖力と化しつつあり、身体の感覚が無くなってきている。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」

うちに残った力を全て引き出し叫ぶ。

「九字封印!!」




お嬢と弧徹が光の玉となって地獄門へ飛んでいき、門が完全に封印された。その証拠に門から溢れて此処に漂っていた妖気が無くなっている。

後ろを振り返ると皆が項垂れている。皆、お嬢の力になりたかったのになれなかったのだ。その心中は計り知れないだろう。まぁ、阿修羅は身体の自由を奪った夫妄に怒りをぶつけているが。

「お嬢……」

神崎十三は空を見上げる。人の魂は輪廻するというから人外である皆はもしかしたら生まれ変わったお嬢と遭えるかも知れないが自分はもう二度と会う事はないだろう。

「だったら、ワシはワシが出来る事をするだけじゃ!!」









---なぁ弧徹……うち等死んだんとちゃうん?

---そうだと思うんだけど……

---じゃぁ、コレはどういう事なん?

---よく分からないや……

---人の魂は輪廻するってお父ちゃんが言ってたけど

---生前の知識を持って生まれ変わるならまだ良いよ……問題は

---なんで陰陽師だったうちが妖怪の孫に輪廻?転生?せなあかんのや……

---しかもあの妖怪って確か……

---『ぬらりひょん』やね

「リンネは大人しいのぉ。リクオとはえらい違いじゃ」

そう呟く妖怪『ぬらりひょん』を見ながら自身がおかれた状況を把握しあぐねる『一条ひかり』と『弧徹』と呼ばれていた二人であった。

【第零話 陰陽師から妖怪の孫へ】



[30058] 第壱話
Name: 陽陰師◆ab76e19e ID:c397f12c
Date: 2011/10/10 00:21
「ごめんくださ~い」

「はいは~い。あら、カナちゃんじゃない。こんにちは」

「あ、リクとリンのお母さん。こんにちは。あの~二人は居ます?」

「えぇ、ちょっと待っててね」

屋敷の門から顔を出した幼なじみの母親に本人達を呼んでもらう。幼なじみというより親友……いや心友と言ったほうがしっくり来るかもしれない。でなければ自分から進んで遊びに来ないだろう。

---妖怪を父に、祖父に持つあの二人の家に---

【第壱話 双子の兄妹と幼なじみ】




「リク、リン。カナちゃんが遊びに来てるわよ」

「あっ、もうこんな時間や。リク兄、カナが待っとるし、落とし穴は今度作ろう」

「そうだね。じゃ、早く手とか顔とか洗いに行こ」

そう言うや厠に駆けていく兄---リクオを見送りつつ"わたし"は母親を見る。

「母さん、カナを玄関まで連れて来てくれない?わたしもすぐに行くから」

「はいはい。分かったわ」

「ありがと」

苦笑いを浮かべつつ了解してくれる母親に笑顔でお礼をいう。

「あとさ……」

「えぇ、この穴の事は黙っておくわ」

「おおきに」

と言って兄の後を追おうと振り返る。

「リンネ」

その背に母親の凛とした声が響いたと思った途端、身体の向きが変わっていた。母親に振り向かされたのだ。

「口調」

「あっ……」

母親が言わんとする事を理解した少女---リンネが口を押さえる。さっきからところどころでエセ関西弁が出ていたのだ。直前で言ったお礼の言葉なんかはモロ関西弁である。

「別に関西弁を使うなとは言わないわ。でも、今の貴女は『一条あかり』ではなく『奴良リンネ』なのよ。それだけは忘れないでね」

「……分かってる。いつまでも過去を引き摺るのはわたしの性に合わないし。心配しないで母さん」

「うん、それを聞いて安心したわ。……ゴメンね、心配性な母親で」

「もぅ。そないな顔せんといてよ!ほら~、うちの口調までおかしゅうなるから」

「あらあら、そうみたいね」

と言って笑い合う二人。

「じゃ、カナの事お願いね」

「えぇ」

リンネは今度こそ兄を追うべく厠へと向かう。その肩に飛びつく小さい影があった。その影を見つつ母は門へと向かう。愛娘のお願いを実行するために。




うち……コホン、わたしの名は奴良リンネ。今年小学校に進級した女の子や。母さんとの会話を見た皆ならわたしの現状が分かると思うけど

わたし、生まれ変わりました。

生前の名は一条あかり。幕末の世にはびこる妖怪を退治する陰陽師だった。妖怪退治と言っても人に害を成す妖怪を退治するのであって、妖怪=悪者と思ってはいない。と言うより害を成す妖怪の方が少ないのだ。その分、箍が外れた妖怪の力は半端じゃない。その妖怪を退治又は抑えるためにわたし自身も妖怪の力を借りていたのだ。

わたしが主に使っていた陰陽術は同意してくれた妖怪の姿を変えて武器として操る力。勿論、それ以外にも式神を操ったりできる。生まれ変わってもその力は持っていたが、今のわたしは妖怪の協力無しで武器を作り出す事が出来る。それはわたしに流れる血の影響だろう。

わたしの祖父は百鬼夜行を率いる魑魅魍魎の主『妖怪 ぬらりひょん』である。勿論、その血を受け継ぐ父親も妖怪なのだが、半分しか受け継いでいないので半妖怪といった方がいいかも。その半分なので、わたしはぬらりひょんの血を四分の一受け継いでいることになる。

話しは脱線するが、わたしには双子の兄、奴良リクオがいる。わたしはリク兄と呼んでいるが、祖父を慕う妖怪達からは『若』と呼ばれている。因みにわたしは『お嬢』である。この呼び方に首を傾げるわたしに母さんが説明してくれたが、この『奴良家』は任侠一家……一言で言えばヤクザ集団だそうだ。その集団の長の子だからそういう呼び方をするんだそうだが、イマイチよく分からない。まぁ、生前も『お嬢』と呼ばれてたから別に気にしていない。

だらだらと長話になったが、要約すると『一条あかり』としての死を迎えたわたしは任侠一家奴良家の長『ぬらりひょん』の血を受け継いだ双子の妹『奴良リンネ』として生まれ変わったのだ。

この事を知るのはリク兄と両親と、わたしとリク兄のお産に立ち会った人達と祖父。そして……

「お待たせカナちゃん」

「ごめんねカナ。待たせちゃって」

「ううん。そこまで待ってないから平気よ」

「それなら良かった、ねぇ弧徹」

「うん」

「ふふ、こんにちは弧徹」

と言って笑うわたしとリク兄の幼なじみ『家長カナ』だけである。以前、野良妖怪がカナに襲い掛かろうと迫ってきた時、偶然その場に居合わせたわたしが力を使って追い払った。その時に質問攻めに遭ったのだ。リク兄以外で気軽に話せる同い年の女の子というカナに自分の事を話すのは躊躇いがあったが、全てを聞いた後カナが話した台詞は今も心に染み付いている。

「前世が誰であろうと、例え妖怪の血が流れていようとも、リンがリンである事に変わりないわよ」

その言葉を聞いたわたしは嬉しくて泣き崩れた。それ以後、カナには素の自分を全てさらけ出している。そのすぐ後、リク兄がカナの質問攻めに遭ったとわたしを睨んでいたのでゴメンと謝ったのは別の話しだ。というより、双子たるわたしとリク兄の片方が妖怪の血を継いでいるのだからもう片方も妖怪の血を継いでいると分かるだろうに。

「さてと、今日は何して遊ぶ?」

「その前にリク、宿題は済んだの?」

「カナちゃん、何で僕だけ名指しなの!?」

「故意は無いわ」

「因みに、わたしはほぼ済んでるわよ」

「うそ!?僕とほぼ一緒に居たのに!?弧徹、それ本当!?」

「弧徹、リンの大切な人に嘘付かない。神に誓って」

と言いつつ右腕を上げる子狐の妖怪弧徹。先程も話したが、両親は除くとして何故お産に立ち会った一般の方々がわたしの事を知っているのかはこの弧徹が原因である。

なんと、生まれたばかりのわたしの身体から光が溢れてでて小さな珠となり、その中から弧徹が現れたのだ。まぁ、死の直前に自分の身体と弧徹の身体を使って封印術を施した訳なのだから弧徹の魂がわたしの中に居ても不思議じゃないか。ただ、肉体を再合成した所を目の当たりにした魑魅魍魎の主たる祖父とその息子たる父親、その父親の正体を知った上で結婚した母親は驚いたと言う。一般人の方々の驚愕さ加減は想像出来るだろう。

その後、まだ話す事が出来ないわたしの代わりに、弧徹がわたし達の身の上を話し両親と祖父に納得してもらった。そんな簡単に納得しても良いのかと思ったわたしだが

「娘の事を信じられない親が居ると思うかい?」

とか

「ワシの血を受け継いどるんじゃ。それくらい許容範囲内じゃ」

とか

「前世の記憶があっても、私の娘に変わりはないわ」

とか言われたもんだからわたしは泣いた。そりゃあもう盛大に。後日談で『奴良家 嵐の夜』と揶揄されるほど酷かったという。

その後、弧徹は常にわたしの傍に居るのだが流石に一般人に弧徹の姿を晒すのは良くないと判断した両親の意思を受けて、家から出る時は弧徹を首に巻くスカーフに変化させて連れている。今までは、弧徹の姿を陰陽術で変化させられるのは戦う際の武器となる刀だけだったが、今のわたしには陰陽師としての力と共に、妖怪の力も備わっている。その影響からなのか弧徹の姿を自身が思うとおりの姿に変えることが出来るようになっていた。




「妖怪が神に誓うってどうなの?」

「いや、僕に聞かれても」

「ヘン?」

少々トリップしていたリンネは二人と一匹の言葉に我に帰る。

「別にええんちゃうん?細かい事は気にした方が負けだし」

「それもそうだね。じゃぁ、何して遊ぼうか?」

リンネの言葉に同意するリクオだが、そうは問屋が卸さない。

「宿題は?」

「……済みました」

笑顔でリクオを見るカナ。しかし、その目は全く笑っていない。

「……本当は?」

「……まだ三分の一残ってます」

「リク……」

リクオの肩を掴み正面から見つめるカナ。対するリクオは視線を出来るだけ逸らそうと目が泳ぎ回っている。

「私は『本当は?』って聞いたのよ。その意味……ワカルワヨネ?」

「ごめんなさい!まだ三分の一しか終わってません!!」

遂に根負け、というより脅しに屈したリクオが地面にめり込むかっていう位の土下座をする。この騒ぎを聞きつけたのか、だんだん周りに家の妖怪達が集まりだしつつあるので、そろそろ引き上げないと騒ぎを聞きつけた側近達が文字通り飛んでくるだろう。

「カナ、リク兄をイジるのはそれくらいにしたら」

「むぅ、リンがそういうなら仕方ないか。じゃ、まずは宿題から済ませよう。皆で協力すればすぐ終わるし」

「分かった。じゃ、部屋に行こう」

「そうだね」

宿題を協力して終わらせるのはどうかと思うが、この三人は結構頭が良い。放っておいても自力で解けるのだが、貴重な遊び時間を潰すのは惜しいので二人の意見に同意するリンネであった。

「うを!?なんでこんな所に穴が!さては若とお嬢のイタズラだな!!」

そんな声が聞こえたような気がした当人達は目線を合わせると苦笑いを浮かべて力なく首を振った。双子である二人にはそれだけで意思疎通は可能だ。

「ん?二人ともどうかしたの」

「「別に」」

その様子を見たカナが質問するが一言だけで押し黙る二人に疑問は募る。ふと、リンネの肩に乗っている弧徹と目が合う。手招きして弧徹を呼んだカナは先程感じた疑問をぶつけた。

「弧徹、あの二人ってば目に見えて疲れたって雰囲気が出てるけどどうかしたの?」

「あの様子だと、仕掛けようとしたイタズラを看破されて落ち込んでるんじゃないかな?」

「あ~成る程ね。二人ともイタズラ好きだからね」

「まぁ、標的になるみんなにとっては死活問題だからね。危ないものには厳重に蓋をするんだ」

「妖怪だってのに苦労するのは人と変わらないのね」

「「「「はぁ……」」」」

三人と一匹のため息が見事にハモった。




----------
あとがきという名の注意書き

この世界のカナちゃんは既に奴良家の面々と少なからず面識があります。また、リンネ・リクオの事も知っているので原作以上に妖怪に関わるようになるでしょう。まぁ、そうでなくても巻き込まれちゃうのですが。



[30058] 第弐話
Name: 陽陰師◆ab76e19e ID:c397f12c
Date: 2011/10/10 00:24
「カナ、これあげる」

「ありがとう。でも何これ?見た目は腕輪みたいだけど」

「せや。うちの力で創ったもんで破邪の腕輪って名づけたんや。力の弱い妖怪なら近づけないし、それ以外の妖怪に対しても効果があるから魔除け代わりに身に付けてたってや」

「本当!大切にするね」

「いいなぁ。リン、僕にも何か創ってよ」

「また今度ね」

「約束だからね」

小学校に入って早三年。月日は何事も無く過ぎていく。今日も今日とて平和な一日が始まろうとしていた。しかし、小学校でのある出来事によって平和な学校生活が一変する。

【第弐話 人の妖怪に対する思い】




「……以上で、私達の研究発表を終わります」

「さすが清継君。しっかり研究されてますね」

という先生の言葉を皮切りに皆が教卓に立つ者へ賛辞を投げかける。

「ありがとうございます先生。どうですか、ボク達の発表は?」

「勿論、満点よ」

(皆の賛辞を浴びつつ、それに酔わず自分を見失わない精神力。ただ、皆が賛辞を送るのはさも当然の事だと思っているなら別か)

少し離れた場所でその状況を静観するリンネ。隣にはカナとリクオが居るがその顔は暗い。生前の事を話した事があるので少なからず悪い妖怪が居るという事を知っている二人だが、奴良家の妖怪達は全て『良い妖怪』といっても過言ではない。まぁ、中には性悪な妖怪も居なくはないが、家族同然の皆が悪く言われているようでリクオは元よりリンネ自身も胸くそ悪い事この上ないのだ。

スカーフに変化している弧徹からも怒りが伝わってくるのが分かる。生前知り合った皆の事を悪く言われたと思っているのかもしれない。

一方のカナはリクオ・リンネの正体を知った上で心友とまで言ってくれている。それに弧徹を含めて家の妖怪達とも結構仲が良い。そんな皆の事を知らないで自分勝手な解釈をするなと顔に書いてある。

「二人とも、言いたい事はあるだろうけど聞いてくれる?」

「「……うん」」

リンネ達の研究発表は既に終えているので、教室の隅で話し合ってても別段怪しまれない。元々、三人で居る事が多いのも怪しまれない原因の一つだろう。

「良い噂と悪い噂。どっちが早く皆に伝わると思うん?」

「え?」

「それってどういう事?」

「そのままの意味や。二人とも、どう思う?」

「う~ん。悪い噂かな?」

「うん。私もそう思う」

「正解。例えば成績優秀なわたしがテストの最中にカンニングして先生に見つかったって噂が立ったらどう思う?」

「リンがそんなことする訳無いじゃないか!」

「せやから例え話やて」

「私はリンの性格を知ってるから先生の見間違いかと思うけど、第三者として聞くともしかしたら今までもカンニングしてたから成績を維持出来てたのかもって思えるわね」

「あっ!そういう事か」

「流石カナ、大正解や。リク兄も感づいたと思うけど、これは妖怪の世界にも当てはまるとうちは思う」

「人間と違って存在するだけで怖がられる妖怪だもん。結構馴れたけど青田坊さんの目って怖いもん」

「それは僕達の友達であるカナに怪我をさせないよう見守ってるんだと思うけど」

「まぁ、カナは例外だから置いとくとして、折角名が挙がったさかい青を例に出すで。普通の一般人が見てくれが怖い青に助けられた場合と、青に襲われた場合。どっちが早く噂になると思うん?」

「「後者」」

「そういう事や。だから、噂が全てじゃないって事やね」

二人の顔から笑顔が見れたのでこれで余計な思いを抱かずに済むとリンネは思ったのだが

「ほう、楽しそうな話をしてるじゃないか」

先程からリンネ達の話しに聞く耳を立てていた者の声で全てを台無しにされた。

(コイツ……天空でその髪の毛を食い散らかしたろか)

返事をする代わりに殺気を孕んだ視線を注ぐ。その迫力に声をかけてきた清継が一歩後ずさる。因みに、リクオとカナもリンネと負けず劣らずの殺気を放ちつつ睨んでいたそうだ。

「コホン、例え話はよく聞こえなかったが良い噂と悪い噂の流行るスピードについてはボクも同意見だ」

(当たり前や!青の事をバラす訳無いやろが!!)

「そうですか。それで、何か御用でも?」

「勿論。例え話は聞こえなかったが、三人が話していた内容は聞き取れたからね。それを確認したかったのさ」

(ったく!このおぼっちゃんは何が言いたいんや!!)

「はて。一体なんでしょう」

清継がリンネ達に話しかけた時点で皆がこっちを見ていた事に気付いたが、リンネは清継から視線を外さずに対峙する。

一方、リンネの怒りを感じ取ったリクオがカナに声をかけていた。

「リンってば結構怒ってるみたい」

「本当!?どうして分かるの?」

「双子のカンってやつかな?それと、悪い印象の人に対しては必要以上に他人行儀になるんだ。反対に僕やカナには関西弁が出てるでしょ」

「成る程ね。でも、リンが怒るのも無理ないと思うわ」

「カナちゃんもそう思う?」

「えぇ、リンって家族思いだからね」

「そして心友思いなんだよ」

「それも知ってるわ」

そう言い合って二人が視線を前に向ける。ちょうど、皆の視線を集めた清継が演説をするかのように話し始める所だった。

「奴良さん。いや、奴良さんはこのクラスに二人いるからリンネさんと呼んでも?」

「構いません」

(ホンマのところ、真っ平ゴメンなんやけどしゃぁないか)

「ではリンネさん、君達は良い噂と悪い噂の流れるスピードを妖怪に例えて話していたね」

「えぇ、それが」

「いや、ボクの聞き間違えでなければ妖怪が居る事を前提で話しているように聞こえたのでね」

「……」

「はっきり言おう。妖怪なんて存在しない!」

「「……ッ!!」」

何か言おうとするリクオ・カナを手で制すリンネ。

「おっと、リンネさんが言わんとするのは分かる。どの科学者も妖怪がいないなんて証明できた者はいないって言いたいんだろう」

どや顔で言い放つ清継に顎をしゃくって先を促す。

「図星みたいだね。確かに、どの科学者も妖怪がいないなんて証明は出来ていない。だが、ボクは今までの人生で妖怪を見たことが無い。多分、他のみんなもそうだろう」

≪私はいつも見てるんだけど≫

≪カナちゃんは僕達の正体を知ってるから例外≫

後ろでヒソヒソと話す二人。リンネの後ろに隠れているので清継には聞こえないし、遠巻きのクラスメートにも聞こえないだろう。

「人は自分で見た事・聞いた事・体験した事以外は信じる事が出来ないと清継君は言いたい訳ですね」

「その通り。故に、ボクは妖怪は存在しないと断言する。しかし、実際に体験してしまえばその考えは変わるかもしれないが」

「そんな事は有り得ないということですね」

「勿論さ。そんな都合よく妖怪が出てくる訳無いじゃないか。そうだろ、皆」

遠巻きのクラスメートに話しかける清継を一瞥するのと同時にチャイムが鳴ったので、先生が授業の終了を告げた。それで一応の決着がついたのだがクラスの皆の視線が突き刺さる。リンネと元々妖怪の血を受け継いでいる事とリンネからの話しを聞いていたリクオの二人にとってはどうってことない視線だが、二人とは違い純粋な人間であるカナが心配になった二人は同時にカナの顔を見た。

「どうしたの、二人して」

そこにあったカナの顔はケロッとしていた。

「いや、その……」

「カナちゃんが僕達のせいで嫌な気分にさせちゃったかなって思ったから……」

「何だ、そんな事」

「そんな事って」

「別に誰がどう思おうと勝手よ。悪い妖怪は怖いけどそれ以上に良い妖怪が目の前に居るんだし」

と言って笑顔を浮かべるカナ。一瞬面食らったリクオとリンネがお互いの顔を見合わせて吹き出す。

「ちょっと、何よ」

「いや、カナちゃんは強いな~ってしみじみ思ったんだ」

「せやな、精神的にとっても強いな。うち等もまだまだやね」

「も~、肉体的には絶対敵わないんだからこれくらい譲ってよ」

誰からとも無く笑い出す三人。他のクラスメートはいきなり笑い出した三人に冷たい視線を浴びせるが当の三人が全く堪えてないので徒労に終わっていた。

「あっ、せや!」

「リン?」

「どうしたの、いきなり」

「いや、ちょっと野暮用」

と言ってある人物の所まで歩いていくリンネ。その人物とは清継である。

「ねぇ、清継君。妖怪がいるいないは置いといて、知識として知りたい妖怪が居るんだけど聞いてもいいかな?」

「?まぁ、構わないが……」

「妖怪の総大将と聞いて思いつく妖怪は誰?」

「総大将……ぬらりひょんの事かな」

「どんな妖怪なの?」

「確か……人の家に上がりこんで勝手にご飯を食べたり、わざと人の嫌がることをやって困らせたりする小悪党な妖怪だってボクの呼んだ本には載ってたな。なんでそんな小悪党が妖怪の総大将と言われているのかは疑問だが。それが何か?」

「ううん。よく分かった。ありがとうね」

「???」

頭の上に?が出ている清継を無視しリクオとカナの所へ戻るリンネ。

「ねぇリン。どうしてあんな事聞いたの」

「別に。強いてあげるならさっきアイツが言った言葉の中に答えがあるわよ」

「……あっ!」

「え?カナちゃん分かったの!?」

「リク……一応アンタも総大将の孫でしょ?」

「総大将……ぬらりひょん……あっ!」

「そういう事♪」

「リン……いい性格してるわね」

「まあね♪」

ぬらりひょんとは、無銭飲食をするだけではなくイタズラで人を困らせる妖怪。その言葉通り清継を意味不明な質問をし疑問を持たせるというイタズラで困らせたのだ。

「生前のうちならこんな事しなかったと思うけど、今は総大将の孫やしええやろ」

軽く舌を出しておどけるリンネを見た二人が笑い、リンネも笑う。




この日を皮切りにクラスメートの三人を見る目が変わる。しかし、当の三人は何事も無かったかのように振舞うので、クラスメートの三人を見る目が元に戻るのも早かった。

これが『平和な学校生活が一変するような出来事?』と思う方もいるだろう。

しかし、水面下では三人の平和な生活を脅かさんという魔の手が近づきつつあった。









「いくら総大将の血を受け継いでいるとはいえまだ子供にその地位を譲ろうとは思っておりませんよね」

「いや、あやつ等のどちらかが同意してくれればすぐにでも渡すぞ。まぁ、ワシとしてはリクオに継いで貰って、リンネにその補佐になって欲しいがね」

「……そうですか」

「話しは終わりか?じゃ、ワシは用事があるんで失礼するぞ」

「急に呼び止めて済みませんでした」

「構わんよ……ガゴゼ」




----------
あとがきという名の次回予告

次回はガゴゼの反乱です。

表現が難しい戦闘場面……不安です。



[30058] 第参話
Name: 陽陰師◆ab76e19e ID:c397f12c
Date: 2011/10/12 15:53
「ガゴゼ様、おやりになるのですね」

「我々もお供します」

「相手は総大将の血を継いでいるとはいえまだ子供。我等の力を持ってすればすぐに事終わるでしょう」

「だが、念には念を押さねば……」

「あの方々の血は侮れないのだから」

【第参話 畏を纏いし兄妹】




先の授業で清継との対立があったばかりだが、そんな事など全然気にしない三人がいつも通りバスに乗って下校途中だった。

「……でさ、青ったら顔を真っ赤にして追いかけてきたの」

「あの時は本当に怖かったな~。黒が止めてくれなきゃ拳骨だけじゃ済まなかったかもね」

「それって笑い話なの?」

「「え?笑えない?」」

「ねぇ、この破邪の腕輪で実験しない?」

「いやいやいや、笑えないなら」

「ごめんなさい。悪乗りしてました」

「分かれば宜しい」

「一体あの三人は何を話してるんだ?」

「さぁ?」

「ねぇ、巻ならなんか知ってない?」

「全然。そういう鳥居は?」

「知ってたら聞かないわよ」

「そうだよね」

「ねぇ清継~、聞いてきてよ」

「何故ボクが!?」

話しが弾むバスの中。その気配に初めに気付いたのは純粋な妖怪である弧徹だった。

≪リン。何かがこのバスに近づいてくる≫

「なんやて?ホンマか?」

「リン?」

「どうかしたの?」

「弧徹がこのバスに何かが近づいてくるって」

「何かって……」

ドゴオオオォォン

「「「「キャー」」」」

「皆!伏せて!!」

「カナちゃん!危ない!!」




-奴良家-

「おい黒。若とお嬢の帰りがえらく遅くないか?」

「青もそう思うか?私もそう思っていたところだ。その証拠に、つららが癇癪を起こす寸前だ」

「あぁ、若も姫も遅いわ。ハッ!もしかして二人の身に何かあったんじゃ!!」

因みに、若はリクオ・姫はリンネの事だ。皆がリンネの事を『お嬢』と呼ぶがつららだけは『姫』と呼んでいた。

「つららちゃん、あの二人なら大丈夫よ。そんなに心配しないで」

「でも、奥方様。私、なんだか嫌な胸騒ぎが収まらないんです。取り越し苦労ならいいんですが……」

「ところで、おじいちゃんを見かけませんでしたか?夕食前なのに見当たらないんですよ」




-トンネル内-

「清継君、皆は大丈夫?」

「あぁ、だが運転手さんが気絶してる。これじゃ、バスを動かせる人がいない」

「下校時間やったさかいこのバスに乗ってたんが学生だけなんか」

「そうみたいだ。ってゆうかリンネさんって関西人なの?」

「いや、この浮世絵町出身やで」

「そうなのか」

「変か?」

「いや、人の話し方なんて色々だろう。十人十色と言う四字熟語もあるし」

「ちょっと話しが脱線したな」

「そうだな、変な事を聞いて済まなかった」

「別に構へんよ。んじゃ、バスの中は危ないから皆を外に出そう。トンネルの損傷は酷くないみたいやし」

「あぁ、ガソリンは漏れていないがいつ漏れて爆発してもおかしくは無いからな」

そう言ってテキパキと指示を出す清継を見るリンネ。元々人望が厚く判断力も低くない清継の邪魔にならないようその場を離れ、カナを任せたリクオの所へ向かう。

「あっ、リン。皆は大丈夫だった」

カナはリクオが咄嗟に庇ったため大きな外傷は無く、打ち身程度。リクオとリンネは元々身体が頑丈なのが功を奏し、小さい擦り傷程度しか負っておらずほぼ無傷だった。

「運転手さんが気いうしのうておったけど、それ以外の皆のことは清継に任せばええやろ。問題は……」

「この事故を引き起こした奴か」

「あぁ、今ならハッキリ分かる。近くに妖気が漂ってるし、十中八九妖怪の仕業や。弧徹」

そう言うや今までリンネに巻きついていたスカーフが子狐の姿に変化する。

「どや、何か感じるか?」

「こっちの様子を伺ってるみたい。此処のトンネルが思った以上に頑丈だったからそこまで崩落してないのに苛立ってるみたいだ」

「と言うことは……」

「リク兄の予想通りやろね。今度は自分達自身で仕掛けてくる」

「リン!それって妖怪が襲ってくるって事!?」

「せや。野良妖怪ならまだええんやけど、もしアイツ等なら」

「標的は僕達って事だね」

「それってどういう事?」

「うち等の家の事情は知っとるやろ?」

「権力を握りたい馬鹿な連中が事故を装って僕達を亡き者にしたいって事だよ」

「こないな場所で崩落事故を起こしたのが証拠や。野良妖怪なら走っとるバスなんかを襲うより歩いとる人を襲った方が簡単やしな」

「そ……そんな……」

リクオ・リンネの言葉を受けたカナが俯く。その様子を見た兄妹がお互いを見やった後に俯くカナの肩に手を添える。

「カナちゃん。これから先、こんな事がいつ起こってもおかしくない」

「それに、う……わたし達のために無関係な人が怪我をするのを黙って見てるなんて事は出来ない。カナが怪我をするのはもっと耐えられない」

「「だから……」」

その先を繋ごうと口を開いた兄妹に顔をあげたカナ。その顔を見た兄妹が押し黙る。

「その先を言ったら絶交よ!!」

その表情を怒りに染めているカナの声が響く。

「確かに、私は何の役にも立たない只の人間かもしれない。でも、二人を支える事ぐらいなら出来る!」

「カ……カナちゃん!?」

「せやけど……」

「何でもかんでも自分達で背負い込まないでよ!私達心友でしょ!!」

「「……ッ!!」」

「頼りないかも知れない!自分勝手な我侭かも知れない!!だけど!!」

「「……」」

「だけど、二人の身体が心が傷つくのを黙って見てられるほど私も人間出来てないんだよ。何か手伝わせてよ!!」

涙を流して叫ぶカナの心の声を聞いた二人の血が騒ぎ出す。カナの熱き想いに応えるかのように。

「……カナちゃん、"俺"が悪かった」

「え?」

「いや、正確には"俺達"が……だな?」

「せやな、リク兄。ホンマに自分の馬鹿さ加減にウンザリするわ」

「リク?リン?その格好は何?」

立ち上がったリクオとリンネの姿が変わっている事に気付いたカナが二人に問いかける。

リクオは童顔だった可愛らしい表情から一変、キリッとした好青年の表情となり、ショートカットだった髪も背中に付くぐらいにまで伸びていた。それに一人称が僕から俺になっている。

一方のリンネは双子の兄であるリクオより若干大人びている表情だったが、今は面妖かつ艶やかな表情を讃えており、同姓であるカナでさえドキッとするような表情で笑っていた。元々長かった髪も地面に付くギリギリの所まで伸びており、リクオ同様に白と黒のコントラストが絶妙な姿となっていた。

ただ、口調は普段とあまり変わらないように見受けられたのだが、これはリンネが双子であるリクオ以外でカナに対してのみ素の自分を曝け出している為である。

「どうやら、俺達に流れる妖怪の血が目覚めたみてぇだな。体中の血があつく感じるぜ」

「今まで、血が目覚める事は無かったさかい、うち等の力を目覚めさせたんはカナのお陰って事やね」

「へ?私のお陰?」

「そうさ、カナちゃんの熱い想いが俺達の血に伝染しちまったみてぇだ」

「ッ!?リク!その顔で笑わないで!!」

「思わず見とれてまうからか?」

「そうそうってリン!なんて事言うのよ!!」

「事実を言ったまでやで」

「う~。こんなからかわれ方された事無いよ~。妖怪のリンって絶対Sでしょ?」

「さぁ、どう思う?リク兄、弧徹」

「俺に聞くな」

「自覚が無い分、カナの言う通りじゃないかな?それよりも、奴等が動き出したみたいだよ」

「そうか。じゃ、行くか」

今まで周りの気配を感じていた弧徹の言葉を受けてリクオが歩き出そうとする。

「その前にリク兄、これを」

「何だこの紙切れは」

「今の服装じゃうち等だって事がバレルで。それでもいいんか?」

「それは困るな。って事はこれは服か?」

「自分の着たい服装を思い浮かべれば、今着とる服を思い浮かべた服装へ変化してくれる式神や」

「リン、式神って陰陽師の力を元にしてるんでしょ?リクが使えるの?」

「心配無用や。この式神はうちの妖力を基に創った物やから、今のリク兄の妖力に反応してくれる筈やで。ただ、今着とる服を変化させるさかい元の服に戻った時は傷もそのままなんや」

「成程な。ようは傷つかなきゃ問題ないって事だ。んじゃ遠慮なく使わせてもらうか」

途端に白い煙に包まれた二人。ものの数秒後、リンネが言った通り白い煙から現れた二人の服装が変わっていた。

リクオは漆黒の着物を白い帯で巻きつけており、その背には青紫色の羽織りを身に着けていた。一方のリンネはリクオとは正反対で純白の着物を黒い帯で締め付けており、その背には赤紫色の羽織を身に着けていた。

「色は違えどほぼ一緒の服装。やっぱり双子の兄妹だからかな?」

「そうかもな」

「別段悪い気はせえへんし、構へんやろ。それとリク兄」

「今度は何だ?」

「得物が無いのに戦うん?」

「あ゛っ!」

(ぶっ!!その顔でこの表情は反則だよリク!!)

カナの忍び笑いが聞こえるが聞こえないフリをするリクオと、口元を歪めているリンネであった。どんな表情かは夜のリクオが絶対しないような顔を想像してもらう事で割愛する。

「せやから今回はうちが貸したる。弧徹」

「分かった」

リンネが印を結ぶと子狐の姿だった弧徹がその身を鞘付きの刀へと変化させ、リクオに飛んでいく。それを受け取ったリクオが弧徹を鞘から引き抜き軽く振るった。

「へぇ、軽いな」

「妖刀弧徹。刀の強度は持ち主の力に比例するさかい、今のリク兄なら牛鬼と遣り合っても刃こぼれを気にせず戦えるで」

「ほぅ、すげぇな。ただ、俺の実力が牛鬼に敵わねぇからまともに遣り合えねぇよ」

「自己分析も出来とるな。流石リク兄や」

「嫌味か?」

「どうやろか?」

弧徹を鞘に収めたリクオと、どこから取り出したのか扇のような物を持っているリンネの視線が絡み合う。カナには二人の背に龍と虎の背後霊が見えた気がしたが気にしない。気にした方が負けだと本能が叫んでいた。

ふと、二人の背後霊の気配が消えたと同時に二人がカナを見る。

「カナちゃん、急いで皆の所へ戻ってくれないか」

「え?どういう事?」

「事故を起こした奴等の一部がバスに向かってるんや。カナが持っとる破邪の腕輪で十分対応できる奴等やさかい、そっちは頼むで」

「……ッ!!うん、分かった。二人も気をつけてね」

「心配無用だ。何せ俺達は」

「妖怪の総大将、ぬらりひょんの孫やからな」

思わず見とれてしまうような笑顔を置き土産に歩き去る二人を見つめるカナ。

(しまった……携帯で写真を取っとけば良かったな)

「ハッ!いけない、リクとリンの役に立つって決めたんだから見とれてる場合じゃないわよ!!」

すぐに現実へ戻ってきたカナがバスがある方向へ走り出す。その腕に身に着けている破邪の腕輪がカナの想いを表すかのように輝いていた。




「ん?鳥居、奴良兄妹と家長さん達はどこ行ったの?」

「確か、ちょっとそこまで歩いて外に出れそうな所がないか見てくるって言ってたよ」

「ハァ!?事故が起きたらその場から離れたら危ないって知らないの?」

「巻さん、あの三人なら大丈夫だろう」

「清継君?どういう事」

「確証が得られた訳じゃないが、あの三人ならどこで遭難しても次の日にはケロッとした表情で学校に登校して来そうだからかな?」

「ようは清継君もよく分からないって事?」

「鳥居さん、いくらボクでも情報が少ない中で結論を出せるほど天才じゃないんだよ。ただ」

「「ただ?」」

「このボクが言うのも変なんだが、カンという奴かな?」

「へ~」

「清継君がカンっていうほどなんだ~」

「そう。それ程あの三人は気になる人物だって事だ」

「あっ家長さんだ」

「島君?キミには他の皆と運転手さんを見ていてくれと頼んでいた筈だが」

「えぇ、でも運転手さんが気が付いたんでそれを報せにこっちに来たんです」

「ゴメンみんな。それと運転手さんが気付いたって本当?」

「どうやらそうみたいだ。ところで、あの二人は何処に?」

「リクとリンはもう少し先まで見てくるって言ってました。暗くても結構先まで見えるらしくて」

「そうか。だが、運転手さんが気付いたんだ。呼び戻さないと……」

ガラッ

「「「!!」」」

怖いのを紛らわせるために話しを続けていた皆が息を呑む。勿論、音を発生させた者の正体を知るカナもである。

皆を照らしていた携帯の光を音がした方へ向けるのは清継。率先して事に当たる姿は称賛に値するとカナは思っていた。

「誰かそこに居るのか?」

照らされた先には瓦礫と化したトンネルの残骸だけだった。

「どうやら気のせいだったようだ……」

「ちっ、結構生き残ってるじゃねぇか……面倒くせぇ」

「「「!!?」」」

明らかに好感を抱けない言葉が聞こえ皆が震えた。それでも手にしている携帯の光を声がした方へ向ける清継。気のせいだと思いたい一身で照らした先には……何者かが佇んでいた。

「ど、どちら様!?」

流石の清継も明らかに人外の生き物を目の当たりにし、声が裏返っている。

「思った以上にトンネルが壊れなかったみたいだ」

「だが、関係ないな」

「その通り」

「なぜなら」

「ここで皆死ぬからな」

「若、お嬢もろともな!!」

「「「ヒッ!?」」」

人外の者からの叫び声を聞き、清継・島・鳥居が悲鳴を上げる。巻は鳥居を守ろうと抱きしめていた。人外の者にとって目の前の人間なぞ赤子を捻るがごとく簡単に殺す事が出来る。その現実を突きつけられ発狂寸前の四人。

だが、その四人の前に立つ少女がいた。

「ん?なんだこの女ぁ」

「一番先に殺して欲しいってか」

「え!?」

「な!?」

「ちょっ!?」

「家長さん、何をやっているんだ!早く逃げ……」

「望みどおり殺してやるよ!!」

四人の叫びも虚しく、一匹の人外の魔の手が少女の幼い命を散らせようと近づく。

「ギャァァァ!!」

断末魔の声がトンネル内に響く。四人は目の前の惨劇を見たくない一身で目を背ける。

「な!?」

「どういう事だ!?」

「何故あの女は無傷なんだよ!!」

「「へ?」」

人外の者達の叫びを聞き視線を向ける。そこには五体満足で立つクラスメートがいた。その先には先程襲い掛かった者がうずくまっていた。

「い、家長さん?何故、無事なんだい」

あまりにも失礼な発言だが驚きの連続で感覚が麻痺している清継に気を利かせた言葉を話す余裕はない。

「……さない……」

「え?」

普段温厚で、どんな事にも笑顔で応じる筈のクラスメート。それが家長カナである。しかし、小さかったが明らかに怒気を孕んだ声を聞いた清継は思わず聞き返していた。

因みに、清継の金魚のフンと揶揄される島はカナが襲われると思った時に気絶、同じく鳥居も気絶していたがその鳥居を守るように庇っていた巻は何とか正気を保っていた。ただ、現状を把握しきれず満足に声を出す事は出来ないでいた。

そんな中、瞬時に現状を理解し必要以上に取り乱さず、声をかける事ができる清継は豪胆だといっても過言ではないだろう。

「許さない!!」

しかし、流石の清継もトンネル内に木霊するかのごとく叫んだカナにかける言葉を失ってしまう。それだけ、カナが怒っているという事が分かったからだ。

「私は絶対に許さない!!」

途端に発生した光が地面に転がる人外の者を襲うのと二人の影が躍り出るのはほぼ同時だった。




-side カナ-

「どうやら気のせいだったようだ……」

「ちっ、結構生き残ってるじゃねぇか……面倒くせぇ」

「「「!!?」」」

この声、どこかで聞いたことがある。自分達以外の声がして震える皆を見ながら私は思っていた。清継君が震える手で声をした方へ携帯の光を向けるとそこには人外の者---妖怪が佇んでいた。

「ど、どちら様!?」

流石の清継君も明らかに人外の生き物を目の当たりにし、声が裏返っていた。無理もない……今日妖怪はいないと断言したにも拘らず、そうとしか言えないような生物が目の前にいるのだ。

「思った以上にトンネルが壊れなかったみたいだ」

「だが、関係ないな」

「その通り」

「なぜなら」

「ここで皆死ぬからな」

「若、お嬢もろともな!!」

「「「ヒッ!?」」」

若・お嬢という言葉を聞いた途端、私の頭の中は真っ白になっていた。いや、何も見えなくなったのではない。妙にクリアになっていたのだ。


この感情は知っている---これは怒りだ!


何も出来ず、ただ死を待つ事しか出来ずに震える四人の前に立つ。

「ん?なんだこの女ぁ」

「一番先に殺して欲しいってか」

「え!?」

「な!?」

「ちょっ!?」

「家長さん、何をやっているんだ!早く逃げ……」

「望みどおり殺してやるよ!!」

こいつは知っている。家に遊びに行った時、リクとリンに憎しみを帯びた視線を浴びせていた奴だ。私の命を刈り取ろうと振り上げる腕が私の目に映るが、私は動じない。ただ、腕輪を嵌めた右腕をかざすだけだ。

「ギャァァァ!!」

断末魔の声がトンネル内に響く。勿論、私ではなく襲ってきた奴の悲鳴だ。

「な!?」

「どういう事だ!?」

「何故あの女は無傷なんだよ!!」

「「へ?」」

二人分の声が背中から聞こえた。残りの二人は多分気絶したんだろう。後で謝らないと。でも、その前に……

「い、家長さん?何故、無事なんだい」

「……さない……」

「え?」

自分でもこんな声だ出せるんだと思う反面、怒りの感情を表に曝け出した自分に戸惑う。でも、後悔はない。なぜなら……

「許さない!!」

そう。無関係な人が傷つくのを見たくないといい、自分達が傷つくのを省みず全てを背負い込もうとした心友の想いを汚す奴等を……

「私は絶対に許さない!!」

右腕から発生した光が地面に転がる妖怪を消し炭にするのと同時に、私の両隣に心友が降り立ったのを感じた。




「遅くなって済まない、カナちゃん」

「トンネル内に仰山おったさかい、掃除にえらい時間がかかったわ」

「その割には服が汚れてないわよ」

「あいつ等程度に後れを取るようなら魑魅魍魎の主を名乗る資格なんてないさ」

「ほぅ、リク兄も言うようになったな」

「普段は猫被ってるかな」

「やっぱり!二人ともうつけのフリするのはいいけど皆を巻き込まないでよね」

「それに対しては反省してるさ」

「アヤツ等がこうも向こう見ずだったのは計算外やったし」

「あのぉ~、家長さん。この方々は知り合いですか?」

不意に現れた二人の雰囲気に飲まれた妖怪達が身動きできないのに対し、恐る恐るながらも声をかけてきた清継。カナが親しく話しているので自分達にとって無害であると判断したから出来た芸当だが、現状でそういう風に判断できる清継の思考回路はどうなっているのだろう。

「詳しい話は後だ。まずはこの場を収める」

「皆と共に下がってや。この子がおればアヤツ等は襲ってこれんし」

有無を言わさぬ物言いだが、どこか優しい声色に納得し後方へ下がる清継とカナ。その気配が危険区域外に出たのを確認した二人が改めて正面にいる妖怪達を見る。

「き、貴様達は誰だ!!」

声を出すのはこの事件の主犯である。

「おいおい。いつも遠くから俺達を見てただろう」

「せや。アンタ等のねちっこい視線を無視するの結構大変やったんやで、特にガゴゼ!」

「「「!!!」」」

「妖怪 ガゴゼ---生前悪さを働いた男が埋葬された寺で死してなお夜に妖しとなって子供を攫い喰うという妖怪」

「清継君。妖怪の知識凄いのね」

「妖怪がいないと証明するにはまず情報を入手しないといけないからね。だが、こういう形で役に立つとは思わなかったよ」

「子供を攫って喰うたぁ、ちぃせえ妖怪だぜ」

「ホンマやで。性悪やと思っとったが大概やったな」

「てめぇ!さっきから聞いてりゃ言いたい放題言いやがって!!死に晒せ!!」

「ったく、沸点が低い奴だな」

リクオの倍はある背をもつ妖怪がその身体を生かして叩きつけるように腕を振り上げた。そして一気に振り下ろされる。

ドゴオォォン

「ふん。口ほどにもない」

「そりゃおめぇだ」

「な!?ギィィアア!腕が!!」

振り下ろされた腕と身体がいつの間にか離れていた。それに気付いた妖怪が悲鳴をあげる。

「うるせぇ。消えな」

白い光が煌いたと思った瞬間、悲鳴を上げていた妖怪が肉の破片となっていた。何度切り刻んだのか分からないくらい早い剣速を目の当たりにし、怯むガゴゼ達。

「面倒やね。うちが殺っても構へん?」

「あぁ、キツイのをぶち込んでやりな」

「了解や♪」

リクオがやや後方へ下がる。それを何体かの妖怪が追うが当のリクオによって全て切り捨てられていた。

「さて、リク兄から許可も下りたし、うちの力見せたるで。光栄におもい」

手にした扇に妖力を込め始めるリンネ。それに気付いた妖怪達がリンネに襲い掛かるが、いつの間にかリンネの前に現れていたリクオによって阻まれる。

「あの扇、よく見たらイラストでよく天狗が持っているように描かれている扇に似ているな」

「そうなの?」

「あぁ、天狗はその扇を使って風を起こせるんだ」

「ッ!!もしかして!?」

「もしかするかも知れない」

「清継君。私の後ろに!!」

カナが右腕をかざすと目の前に光の壁が現れた。

「これが、さっき家長さんを守った光かい。どうやら人には無害のようだね」

光の壁に触りつつ情報を収集する清継を見て、本当に凄い人だと感心するカナであった。

「リク兄、準備完了や。いくで」

「あいよ」

リクオが後方へ飛んだのを確認したリンネが妖力を解放する。

「決めるで!奥義!浮幻扇風(ふげんせんぷう)!!」

手にした扇から舞い上がった風をガゴゼ目掛け振り下ろす。ガゴゼ自身は何とか回避したが、近くにいた妖怪達はその風に巻き込まれる形で吹き飛ぶ。それだけならまだ助かったかもしれないが風に巻き込まれた妖怪達はその風が発生させたカマイタチによって切り刻まれていた。

「ちょっとやり過ぎたかな」

「構やしねぇよ。カナちゃん達に被害が無けりゃな」

「それは織り込み済みや。カナも腕輪で守っとったし」

そう言いつつこの事件の主犯格を見据える二人。その当人は驚愕していた。

「わ、私の組がたった二人相手に壊滅だと!?」

ガゴゼが言うとおり、その場に立っている妖怪は本人だけとなっていたからだ。

「い、いったい何者なのだ!?なぜこんなにも力を持つ妖怪がいる!?」

「ガゴゼ……てめぇにゃ耳は付いてないのか?」

「さっきからうちが言っとるやろ、リク兄って」

「なっ!?まさか、若とお嬢!?」

「やっと分かったようだな、ガゴゼ」

「カナに手をかけようとした罪、万死に値するで!!」

「だからどうだというのだ!私はガゴゼ!!子供を攫い喰らう妖怪!!自分の性分を全うするのがそんなに悪いのか!!」

「別に悪いとは言ってないぜ」

「何!?」

「ただ、その標的が悪いと言いたいんや」

一歩一歩歩みを進めるリクオとリンネ。その圧倒的な圧力に抗えないガゴゼが身動き一つ取れずに唸っていた。

「妖怪の性分を全うするのは結構」

「でも、うち等の"畏"を背負う価値があるかといえば」

「「答えはNOだ!!」

「……ッ!!」

一瞬で間合いを詰めたリクオがガゴゼを切り刻む。

「人様に仇なすてめぇみてぇな妖怪は俺の組にはいらねぇ」

あまりに早い剣速と鋭すぎる刀により原型を留めていたガゴゼだったもの。それ目掛け突風が突き抜ける。

「冥土まで飛ばしたるさかい、安心して逝きな!!」

元々切り刻まれていたガゴゼだったものがリンネの風に吹き飛ばされ粉微塵になる。

「す、凄い」

「あぁ、カッコ良過ぎる」

妖怪としての力を目の当たりにするカナは二人の実力に対して、清継は初めて目の当たりにした人外の者の凛とした立ち振る舞いに感動を通り越して敬意……いや畏敬の念をそれぞれ口にしていた。その声に反応した二人の妖怪が振り返る。

「怪我は無いか?」

「え、えぇ。ありがとうございます」

「礼はせんといて。元はといえば、うち等の闘争に巻き込まれた形なんやから」

「……二、三質問してもいいでしょうか?」

清継が意を決したように質問する。

「「……」」

「無言ということは肯定と受け取らせて貰います」

そういって周りを見渡す清継。島・鳥居は気絶したままだし唯一気絶していなかった巻もいつの間にか気絶していた。

「もし違っていたら謝ります。リクオ君とリンネさんで間違いないですね」

「「……」」

「そして、家長さんはこの二人の正体を知った上で行動を共にしている」

「……」

「そして、三人は切っても切れない大きな絆で結ばれている」

「……ほぅ、流石だな」

「ホンマや。それに、さっきのうち等の実力を見た上で尚且つ一歩間違えたら口封じで消されるやもしれんのに全く動じとらん」

「それは無いでしょ」

「何故そう思う?」

「先程二人が言ったじゃないですか。『人様に仇なす者は俺の組にはいらない』と。それは自分が人に危害を加えない事を前提に話している事になる。よって、ボクを口封じで殺すという方法は取らない」

「フッ……全く凄いな」

「まぁ、記憶を消されるという考えも無くはないので内心はドキドキしてますが」

「それを感じさせない物言いは称賛に値するな」

「自分でも驚いてるよ。ボクはこうも冷静に物事を考える事が出来る人間だったなんてね」

「あれ?清継君口調が元に戻ってるよ」

「いやカナちゃん、俺はこっちの方がいい。同い年に敬語使われてもむず痒いだけだ」

「うちもや」

「そう言って貰えると嬉しいよ。あと、家長さん」

「へ?私?」

「あぁ、キミはこの先この二人と共に歩んでいくと決めたんだね」

「……うん。何も出来ないかもしれないけど、どんな事があっても二人を支えるって決めたから」

「そうか……」

と言って何か考えるように押し黙る清継。何を考えているのかハッキリと分かったカナが問いかける。

「もしかして清継君も?」

「あぁ、ただボクは家長さんみたいに幼なじみでも何でもないからね。秘密を共有できる人は少ないに越した事はないだろう」

幼なじみであるカナは必ずと言ってもいいほどリクオ・リンネのどちらかと行動を共にしている。もし今回のような妖怪に襲われても危険は少ないだろう。しかし、清継はほぼ赤の他人。人質にされてリクオ・リンネの足かせとなる可能性を否定できないという考えに至ったために、その先の言葉を躊躇してしまっていた。

「……自分の気持ちに素直になったら?」

「え、家長さん?」

口を挟む事無くカナと清継の会話を見守るリクオとリンネ。二人の視線を受けつつカナが続ける。

「但し、自分で決めた事なんだから後からこうすれば良かったと悔いが残らないようにしないとダメだよ」

「ッ!そうか……そうだよ!!」

清継の心の中の不安が消えた。と同時にその目には決意の火が灯ってた。

「リクオ君、リンネさん。ボクに君達の事を教えてくれないか」

「どうする、リン」

「ええんちゃう。まずはうち等の話しを聞いてからやないと決めようもないやろ」

「だが、今日はもう遅いから明日……な」

そう言ったリクオの身体が傾く。

「おっと!?あぶない!!」

「リク!?どうしたの」

「怪我は負ってない筈やけど」

清継がリクオを支える形で何とか踏ん張る。対するリクオは身体に力が入らないようで、ほぼ清継にもたれる形で身体を支えていた。

「どうやらこの姿は時間の制約があるみたいだ」

「そうなん?うちはこの姿でも辛うないけど」

「それってリンの生前の力が働いてるからじゃない?」

「だろうな。"僕"と違ってリンは……陰陽師の力も……持ってる……し……」

「ちょ!?リク!!」

「大丈夫だよ家長さん、気を失っただけだよ」

「良かった」

「詳しい話は明日聞くから今日はこれ以上聞かないよ」

「そうしてくれると助かるわ」

と言いつつリンネの姿が元の姿へと戻る。因みに、気を失ったリクオは既に元の姿に戻っている。

「どうやら、うちは時間の制約無しで尚且つ自分の意思で妖怪化の切り替えが出来る見たいや」

「リクも?」

「時間の制約はあるやろうけど、多分自分の意思で妖怪化の切り替えは可能やと思うで」

「す、済まない二人とも。リオク君を支えるのを手伝ってくれないか」

リンネとカナが声をした方を見ると、変な体勢でリクオを支える清継が見えた。

「ご、ごめん清継君!」

「全く、根性無しやね」

「リンネさん、それは酷いぞ!!」




その後、すぐに気付いたリクオとリンネが手分けして探した穴を通って無事に崩落したトンネルから脱出した皆は何事も無く帰宅した。

気絶していた島・鳥居・巻の三人はカナを問い詰めようと躍起になっていたが、清継が取り成したため事なきを得たのは余談だ。




「はぁ、今日は散々な目にあったわ」

「よく言うわ。うち等が駆けつけた時には啖呵きって妖怪を一匹焼き尽くしたやないか」

「だって、あいつ等リクとリンを殺すって言ったんだもん」

「いや、カナちゃん。自分が普通の人だって事もうちょっと自覚してよ」

「せや。うちがあげたその腕輪があったとはいえもうちょっと気いつけてな。うち等のためにカナが傷ついたら意味ないんやから」

「う……ごめんなさい。でも、この腕輪って凄いのね」

「本当だよ。妖怪を一匹丸ごと消し炭にしちゃうんだから」

「アンタ等、誰が創ったと思っとるん?」

「「リンネ様です」」

「ふふん。もっと褒め称えや」

「ヒューヒュー」

「流石リンネ様」

「心がこもっとらんぞ!!」

命の取り合いをしたというのに何も変わらない三人。とりわけ普通の人である筈のカナの心の強さに驚くが、その強さの秘密は自分達を想う心だと理解しているリクオとリンネはこの心友の存在に感謝していた。それと同時に、この心友が居ればどんなつらい局面も乗り越えられるという確信も得ていた。

「よぉ、御三方。遅かったな」

その声に反応した三人が振り返るとそこには一人の妖怪が居た。

「おじいちゃん!」

「あっこんばんわ」

「どないしたん?こないなとこで」

三者三様の返事を返す相手は、リクオとリンネの祖父ぬらりひょんであった。

「ガゴゼの奴が思いつめた表情をしとったんでもしかしたらと思ったんじゃが……」

「あぁ、そのこと?」

「そいつなら」

「リクとリンがやっつけちゃいましたよ」

「ほぅ、遂にその血が目覚めたか」

ニヤリと笑う祖父。それに釣られてニヤける双子。傍から見ていたカナは頭を抱える。

「妙な時間にけしかけてしまったから心配しとったんじゃが、杞憂に終わって良かったわい」

「おじいちゃん。その事に気付いてやったでしょ?」

「ありゃ。バレとったか」

「伊達にぬらりひょんの孫を八年もしてへんで」

「こりゃ一本取られたわい」

「本当に相変わらずですね、おじいさんって」

「ワシとしてはこの話しについてこれる嬢ちゃんの方がおかしいとおもうんじゃが」

「それは言わない約束でしょ?おじいちゃん」

「そうじゃったな。しかし、二人の実力をアイツ等に見せんで良かったのか?」

不意に雰囲気が険しくなったため、これ以上口を挟まないようにするカナ。仲間ハズレにしている様だったので心の中でカナに謝るリクオとリンネであった。

「うん。もうしばらくはうつけを演じて、尻尾を出した奴等を潰す。妖怪化しても意識が飛ぶ事もなかったしね」

「それが一番の懸念材料やったからな。妖怪化した時の内容を覚えてへんと矛盾が生じやすいし。ただ、あんまし隠すと皆を信用してないと見られるかもしれんから青や黒、つらら達には話した方がええのとちゃうか?」

「それと、首無とカラス天狗もだよ」

「いや、カラス天狗はダメ」

「どうしてさ」

「リクの実力を知った途端、涙を流して言いふらすのが目に見えるで」

「確かに、アヤツは絶対言いふらすぞ」

「んじゃ、後回しで」

「それが懸命じゃろうて。さてと、陰気くさい話しはこれぐらいにして」

ぬらりひょんの目がカナを捉える。その目を見た途端その場を離れたい衝動に駆られたカナ。

「初めて二人の妖怪の姿を見た印象はどうじゃった?」

「……正直に話さなきゃダメですか?」

「勿論じゃ」

「う……」

有無を言わさぬ物言いにたじろぐカナ。リクオとリンネは自分達がカナの目にどう映ったのか知りたくて目を光らせている。その目を見たカナに更なるプレッシャーがかかる。

「じ、じゃぁ正直に言いますね」

「「「……」」」

「まず、リンから。雰囲気は毛倡妓さんみたいに面妖かつ艶やかさがありました。同性の私でさえドキッとするような笑顔が印象的でした」

「「ほぅ」」

「以外に恥ずかしいな」

「次に、リクね。クールな所は黒田坊さんに似てるけど、どちらかといえば首無さんみたいな性格かな。そして……」

「「???」」

「ククッ」

僅かに言いよどむカナに疑問を投げかける男二人と、言いよどむ理由を知る女一人。

「笑顔がとっても素敵な殿方でした……(ポ)」

「ブフゥ」

「なんじゃ、リクオ。もう手篭めにしたのか」

「おじいちゃん!手篭めって何さ!!」

「手を出したのかって事や。知らんはずないやろ」

「出してないから!?後、カナちゃん!身体をくねらせないで!!」

「酷いわリク。私の心を鷲掴みにしておいていらなくなったら丸めてポイだなんて」

「そんな事、一言も言ってないから!?」

「ねぇねぇ、御隣のぬらりひょんさん。リク君がとんでもない事をしたみたいですよ」

「そうなのじゃよ。ワシもホトホト困っておるんじゃよ」

「おいそこ!何ご近所相談の真似事やってんだ!!」

「おぉ怖!リク君って不良なんですか」

「そのように育てたつもりはないんじゃがなぁ」

「いい加減止めろ!!」

「リク!私を捨てないで!!」

「カナちゃんも元に戻ってよ!僕一人じゃ皆を突っ込みきれないよ!!」




リクオにとっての惨劇は家に帰るまで続いたのだが、家に帰ってからが大変だった。

「若!お嬢!いったい何処をほっつき歩いてたんですか!!」

「そうですぞ!私と青がどれだけ探し回ったか!!」

「若~姫~、ご無事で何よりでした~」

「リクオ様、女の子を泣かせるのは関心しませんね」

「勿論、女の子の夜歩きもですよリンネ様」

「リクもリンも遅くなるならなるって連絡ぐらいしなさい。おじいちゃんからも言ってやって下さいな」

「……済まん二人とも……」

「どうしておじいちゃんが謝るんですか」

「リン」

「リク」

「「僕(私)達って世界一不幸な孫だ(や)~」」

何のことはない。先程の悪乗りのおかげで帰宅時間が十九時を回っただけだ。ただそれだけの事。

因みに、上から青田坊・黒田坊・つらら・首無・毛倡妓・若菜(二人の母親)・ぬらりひょん・リクオ・リンネ・リクオ&リンネである。




翌日、約束通り清継に自分達の事を話したリクオとリンネ。その後の清継の反応は、カナの予想通り『二人の役に立ちたい』だった。これにより、リクオとリンネは清継という情報屋兼クラスのまとめ役という心強い味方を得た。

ただ、普段清継は三人とは距離を置いている。その理由は、『真正面からけなした相手と一日で和解するのは流石に有り得ない』からで、有事の際は力を貸すという事で話が決まったからだ。

勿論、同じクラスメートで三人の話し声は聞こえるため、仲間はずれに感じる事は無いとの本人談あり。




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あとがきという名の懺悔とお願い

申し訳ありません。賛否両論あるかと思いますが、今後もかなり砕けた内容となりえますので無理と判断された方はここらで回れ右をお願いします。



[30058] 第参・伍話
Name: 陽陰師◆ab76e19e ID:c397f12c
Date: 2011/10/12 23:36
「リク、リン。どうやらお前達の護衛はつららと青田坊になるみたいじゃぞ」

「おじいちゃん、それ本当!?」

「あぁ、カラスの仕切りで決まったようじゃ」

「それじゃ、リク兄」

「そうだね。おじいちゃん、ありがとう」

「いや。この前の罪滅ぼしみたいなもんじゃ。気にするな」

「三人で床の間囲んで悪だくみですか?」

「「「ま~ね~」」」

【第参・伍話 裏工作と旧友との再会】





「あっ、黒。ちょうど良かった」

「む。若とお嬢じゃないですか。いったいどうしたんです」

「うん。ちょっと聞きたい事があるんだけど……」

「なんでしょう」

「黒って人に化けれるん?」

「化けれなくはありませんが……それが?」

「ちょっと手伝って欲しい事があるんだ」

「な!?若とお嬢が直々に!私の力を貸して欲しいと!!」

「ちょっ黒、声がデカイ」

「青にバレちゃうよ」

「ハッ!私とした事が、申し訳ありません。しかし、このような大役青なんぞに渡してなるものか!!」

「だ~か~ら~!声を抑えてよ」

「リクも抑えてぇな。んじゃ、膳は急げや。さっさと行くで」

「はっ」





-二時間後 奴良家-

「ん?おい、黒。今までどこに行ってたんだ」

「ちょっとそこまでな」

「!?おい、黒。何をそんなにニヤついてやがる。気色わりぃ」

「如何とでも言え。若とお嬢の護衛に選ばれたお前達……いや、何でもない」

「……いったいなんだってんだ?」


リクオとリンネは黒田坊を完全に味方につけた。





-一週間後 奴良家門前-

「首無さん、毛倡妓さん、すみません」

「あら、カナちゃんじゃない。どうしたの?」

「あの……リクとリンの事で相談があるんですが付き合って貰えませんか?」

「リクオ様とリンネ様の事で?」

「いったいどんな事でしょう?」

「此処ではなんなので、出来れば外で……」

「何やら深い事情があるみたいだね」

「分かったわ。お兄さんとお姉さんに何でも聞いて頂戴」

「ありがとうございます」

「「ニヤリ」」





-三時間後 奴良家玄関前-

「リクオ様もリンネ様も水臭い。カナさんを使わなくても普通に誘って貰えばどこへだって付いて行きますよ」

「そう言わないの。つららと青にバレないように気を付けてるんだから」

「すみません、嘘付いちゃって」

「カナちゃんが謝る事ないよ」

「せや。頼んだんはうち等なんやし。二人ともゴメンな」

「いえ、お二人の力、しかとこの心に刻みました」

「リクオ様とリンネ様の護衛に選ばれたあの二人が憎かったけど、今じゃ可哀想に思えてくるわ」

「あれ、皆さんお揃いでどうしたんです?」

そこへ現れる兄妹の護衛を仰せつかった雪女が駆けつけてくる。

「「「別に」」」

「三人にちょっと相談事を持ちかけられてね」

「丁度私と首無が暇だったから聞いていたのよ」

「え~。若に姫も何で私に聞いてくれないんですか!?」

「だってつらら忙しそうだったもん」

「お二人から声をかけてもらえば何もかも放り出して馳せ参じますよ!」

一人無視されたカナが毒を吐く。

「それってマズくない?」

「カナちゃんの言うとおり」

「うちもカナに一票」

「私も一票」

「済まないつらら。今回ばかりは庇えないな」

「ガーン」


リクオとリンネとカナは首無・毛倡妓を完全に味方につけた。





-更に一週間後 奴良家-

「ねぇ、河童。確か人に化けられたよね?」

「リクオ様?えぇ、水かきは隠せませんがそれ以外は人に化けられますよ」

「じゃぁさ、ちょっとこの地図の場所まで行って来てくれない?リンが水の中に物を落したみたいなんだ」

「リンネ様が?分かりました。ちょっと行ってきます」

「お願いね~」





-一時間後 奴良家近くの川-

「いやぁ驚きましたよ。まさかリンネ様が祖父から聞いていた陰陽師だったなんて」

「それはうちかて同じや。河童が水月の孫やなんてびっくりやで。弧徹かてそう思うやろ」

「うん。ところで水月は……」

「元気に余生を過ごしてますよ。まだまだ現役だって」

「なんだか目に浮かぶな、弧徹」

「そうだね」

「ただ、全盛期じゃないんで陸の上を歩き回る事が出来ないって嘆いてましたよ。そうだ、今度里帰りする時について来ますか?」

「ええの!?」

「勿論。祖父も喜びます」

「楽しみやね、弧徹♪」

「そうだね"あかりちゃん"♪」

「弧徹、今はリンネやで……せや!!」

「リンネ様、どうかされましたか?」

「河童つながりで水月に会えたんなら……」

「そうか。風浮も!!」

「???」


何はともあれ、リンネと弧徹は河童を完全に味方につけた。

後日、河童の里帰りについて行ったリンネと弧徹、その二人についていったリクオとカナが『冷静なる水使い 河童の水月』と会うのは別の話しである。





-三十分後 家長家-

「え!?生前の仲間が?」

「せや、リク兄。ただ、ちょっと問題が……」

「何?」

「その……ゴニョゴニョって事なんやけど」

「あ~バレたら大変だね」

「そうなんや。せやから……チョメチョメって手はどうやろか」

「良いんじゃない?三人とも口は堅いし」

「よっしゃ!」

「……なんでだろう。内緒話なのに卑猥さが否定できない」

「カナちゃん。僕もそう思うから大丈夫だよ」

「ごめんな、カナ。いきなり押しかけて卑猥な言葉聞かせてもうて」

「昔から内緒話は私の家でしてたし、話の内容は全然卑猥じゃないから構わないわよ」

「ありがとな」

「どういたしまして。で、話しは変わるけどその子ってどんな子なの」





-翌日 小学校裏の高台-

「あかりちゃ~ん!会いたかったよ~!!」

「うちもや!」

「風浮!!」

「弧徹ちゃんも元気みたいだね!!」

「この女性が例の?」

「せや。リク兄、カナ。こっちがカラス谷の風浮、風の妖怪や。風浮、こっちがうちのお兄ちゃんで奴良リクオ、心友の家長カナ」

「「「はじめまして」」」

「それと、風浮。今のうちは"一条あかり"やない。"奴良リンネ"や」

「あっ……そうだったね。夫妄も同じ事言ってたし」

「夫妄が?」

「うん。過去と未来を見れる夫の目で生まれ変わったあ……じゃないリンネちゃんを見つけたって」

「そやったんか……」

生前、一緒に旅をした皆の顔がよぎったのか、リンネと風浮の周りに陰気な雰囲気が漂う。

「ほら、リン!湿っぽい話しはそれくらいにしない?」

だが、カナがその雰囲気を吹き飛ばす。流石心友、リンネの心情を理解するのが早い。

「……そやね」

「黒羽丸、トサカ丸、ささ美、変な事頼んでゴメンね」

リクオは三羽烏の三人に労いの言葉をかける。

「いえ。若とお嬢の願いは出来るだけ叶えるよう父から申し付かってますから」

「ってのは建前ですよ。黒羽丸がお嬢のお願いを断る訳無いですし」

「それに、風浮様からリンネ様みたいな生前の記憶を持った人物を見つけたら報告するよう言われてましたので」

「へ?風浮様?」

「あっ、そうだった。風浮、今はカラス谷の長なんだ」

「へ~。あのイタズラ娘がねぇ……えええぇぇぇ!!」

「ちょっと!そんな偉い人が仕事放り出してこんなところまで来てもいいの!?」

「いいの、いいの!実際の仕事は娘達にやらせてるから風浮がするのは決済印を押すだけだよ」

驚愕するリンネとカナの声にあっけらかんと爆弾を放つ風浮。

「風浮に子供!?」

「弧徹ちゃん、その言葉結構傷つく。それに風浮もそれなりに年を取ったんだから子供くらい居てもおかしくないでしょ」

「ゴメン。でも、想像できなくて……」

「ぷぅ~」

「まぁまぁ風浮、抑えて抑えて」

「んふふ。冗談だよ!」

「……なんか凄い人ってゆうか妖怪と知り合っちゃったね」

「本当だね」


リクオとリンネと弧徹とカナは風浮と知り合い、三羽烏(黒羽丸・トサカ丸・ささ美)の信頼を得た。





-同時刻 奴良家-

「ねぇ、青。最近若と姫が隠れて何かやってない?」

「つららもそう思うか?流石にイタズラじゃないとは思うんだがなぁ。黒に相談しても『気のせいじゃないか』って取り合ってくれないし」

「そうそう、首無さんや毛倡妓さんに相談しても曖昧な返事しか返ってこないのよ」

「おっ、河童!最近若とお嬢になんか無かったか?」

「ん~。そういや最近水に落し物をしたから探すのを手伝ってて言われた事はあるけど、それ以外は何も分からないな~」

「そうか……引き止めて済まなかったな」

「別に構わないよ」

「今日も部屋に篭って何やってんだろ」

「流石に部屋の中までは入りづらいしな」

「「はぁ……」」

二人の声を聞きながらある場所へ向かう河童。その場所とはリクオとリンネの部屋である。

「やっほ~。あの二人だいぶ参ってるね」

中には部屋の主であるリクオとリンネ、そして黒田坊と首無、毛倡妓が居た。

「つららは可哀想だが青はいい気味だな」

「そうね。つららちゃんは純粋にリクオ様とリンネ様をお守りしたい一身で護衛になったみたいだし」

「それじゃ、青の立つ瀬が無いだろ」

「あの体つきで同級生に紛れる方がどうかしてると思うけど」

「それは否定できんな」

青に対して毒を吐きまくる面々。それだけ納得していない部分もあるのだろう。

「皆さん、そろそろ主が戻るとの事です」

その声の主はリンネ。だが、部下とも言えなくない四人に対して敬語を使っている。理由は簡単、ここにいるリンネ及びリクオは本人ではなくリンネが召喚した式神だからだ。

「ふむ。では、手筈どおりに」

と言ってリクオとリンネの式神についていく形で黒田坊が、後始末兼時間稼ぎを行うために首無・毛倡妓・河童が部屋を後にする。その後、買い物について行くという体裁で黒田坊がリクオとリンネの式神を護衛し、途中で合流したリクオ・リンネ(+弧徹)・カナ・三羽烏と共に帰宅する。

因みに、風浮とは何かあれば飛んでくるからという約束を交わして別れた。カラス谷の長で実際の業務は娘達に任せているとはいえ『あまり留守にする訳にもいかない』という言葉を聞き、イタズラばっかりしていたおてんば娘が立派に成長した姿を目の当たりにしたリンネと弧徹が心の中で泣いていたのは秘密だ。




僅か一月で黒田坊・首無・毛倡妓・河童の絶対の信頼を得たリクオとリンネ。一方、つららと青田坊はリクオとリンネの護衛を行っているのだが、リンネの式神の事を知らないため偶に本人達ではなく式神を護衛する事がしばしば。その度、事情を知る上記四人に影で笑われていた。その笑われる対象は勿論、青田坊である。




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あとがき

このまま話しを続けてもいいかなと思ったんですが、それだと皆が夜リクオの実力を知るのがかなり後になりそうだったので、兄妹が信頼できる妖怪に実力を教えて回って貰いました。

あと、つららと青田坊には申し訳ないのですが、弄られキャラになって貰っています。



[30058] 第肆話
Name: 陽陰師◆ab76e19e ID:c397f12c
Date: 2011/10/19 21:41
「今日から中学生やね、リク兄」

「そうだね、リン。また皆と同じクラスだと良いんだけど」

「大丈夫でしょ。今までの腐れ縁はそう簡単に切れない筈よ」

「腐れ縁って」

「カナ……せめて絆って言ってぇな」

「言葉のあやよ」

「しかし、ボクは小三からの縁だけど三人は幼稚園から同じクラスだそうじゃないか」

「そうなんだよね。って唐突に話しに入って来たね清継君」

「だが、中学校では分かれる可能性がある」

「無視!?」

「まぁまぁ、落ち着いてリク。それで清継君、なんで別れる可能性があるの?」

「リク君とリンさんは双子の兄妹だからね。そこを考慮して同じクラスにしない可能性があるんだ」

「誰がそんな事決めたん」

「さぁ。流石にそこまでは調べられなかったが、一つ言える事がある」

「「「何?」」」

「この話しはフィクションだ。作者が皆を離れ離れにする事を嫌っている限り同じクラスで居られる筈さ」

「「成る程」」

「チョイ待て!ええんか、そないな理由で!!」

【第肆話 とある妖怪の災難と驚愕】




「ホンマに同じクラスや」

清継の言った事が現実となって少々げんなりしているリンネ。リクオとカナは普通に嬉しがっているし、清継はさも当然だと言わんばかりにふんぞり返っている。後ろから島が支えているのが痛ましい。

「まぁ、仲間はずれになるんは嫌やからええけど」

「そうそう、何事も前向きにならなきゃ」

「カナは前向きすぎや」

「前向きにならなきゃ二人に置いていかれるもん」

「言うようになったやないか」

「伊達に幼なじみと心友合わせて十二年もやってないわよ」

心友の二人が話の花を咲かせているのを見つめるは親友の二人。

「リク君、カナさんとリンさんは似たもの同士なのかな」

「清継君もそう見える?」

「勿論、リク君を含めての三人漫才は傑作だからね」

「清継君も言うようになったね~」

「カナさんのように実績が少ないからね。取れる点数は稼がないと」

そう言いながらホームルームが終わり、先生が居なくなった教卓へ向かう清継。

「皆、ちょっといいかい」

人の気を引く事に天性の才能を持つ清継の声に引き寄せられるクラスメート。因みに、この力に耐性を持つのはリクオ・リンネ・カナの三人のみである。

≪リク、ドアの所≫

≪分かってる。ツララだね≫

≪どうしたの?二人して小さい声で話すなんて≫

≪カナちゃん僕越しに後ろのドアの方を見てみて≫

≪……あっ、つららさん?≫

学生服を身に着けている見知った人物をすぐさま見つけたカナ。リンネは呆れつつ話を続ける。

≪……一応、人に化けてんのに一目で分かるやなんて≫

≪ほぼ毎日見てれば見分けぐらいつくわよ≫

≪話しが脱線してるよ≫

≪せやった。なんでつららが此処に居るかやったね≫

≪ってゆうかつららさんが私達の後をつけてるのって小三の事件以降よね≫

≪カラス天狗が護衛をつけるっておじいちゃんから聞いた事はカナちゃん知ってるよね≫

≪護衛に選ばれたせいでうち等の力をハッキリと見たことが無いんや≫

≪うゎ~、可哀想。あの素敵なリクに会った事が無いなんて≫

≪もしも~し、カナちゃ~ん?≫

≪無駄やリク兄。完全に逝っとる≫

「御三方。ボクの話しを聞いてたかい?」

「「「へ?」」」

いつの間にか目の前に突っ立っていた清継が話しかけてきた。その後ろにオプションとして島がいる。

「ゴメン、聞いてなかった」

「はぁ~、だと思ったよ」

「すまへん。悪気は無いんやで」

「それくらい分かってるから」

「で、何の話しだったの?」

「この学校の裏にある旧校舎を探検しようと言ったのさ」

「参加者は?」

「皆無」

肩を竦めて首を振る清継。しかし、その表情に暗さは無い。

「へ?清継君の話術でついて来ない人は居ないでしょ?」

「カナさん。ボクを評価してくれるのは嬉しいが現実さ。相槌を打っていたのは例の二人だったしね」

「あ~、鳥居さんと巻さんやね。ホンマあの二人は人を持ち上げるだけ持ち上げて居なくなるんが得意やね」

「そうなんだよ。妖怪が居るなら証拠を見せてみろって言われて、じゃぁ旧校舎へ行こうと言ったらいつの間にか居なくなってたよ」

「で、僕らを連れて行こうと思い立った訳だ」

「その通り。ダメかい?」

「いや、ええよ」

「あそこは僕らも気になる場所でもあったからね」

「カナはどうするん?」

「聞く必要ある?」

「それもそうやね」

「では、今日の放課後に学校のグラウンドへ集合だ。一応他のクラスにも参加しそうな人が居ないか聞きに行きたいが構わないかい?」

「うん。どうしてもついて来たい人がいるだろうし」

そう言ってリクオがドアの方を見ると慌てた様子で誰かが隠れる気配があった。その様子を見た清継が納得する。

「成る程。では、派手に宣伝するとしよう」

「頼むで」

「任せたまえ。これくらいは朝飯前だ。いくぞ島君」

「了解です」

意気揚々とクラスを後にする清継と島。その二人の背を追いかける形で三人が続く。

「で、この後どないする?」

「学校見学しない?」

「賛成!!」

清継について行く気は無いようだ。




-放課後 学校近くのガードレール付近-

放課後、集合場所に現れた面々が簡単な自己紹介を行っていた。と言っても、清継・島のペアとリクオ・リンネ・カナのトリオは見知った中なので省略。

「私『及川氷麗』って言います。こういうイベントに興味があったんで参加させて貰います。よろしくお願いします」

「及川さんか……」

「ん?島君どうかしたの?顔が赤いけど」

「リクオ!?べ、別にどうもしてないよ」

「ホンマか?えらく動揺してるように見えるで」

「リンネさんまで!?き、気のせいだよ」

「まぁ、そういう事にしておきましょう」

「カ、カナさんまで……酷いや」

「こらこら三人とも。島君をイジるのはそれぐらいにしておいてくれよ」

堪らず清継が助け舟を出す。でなければ延々とイジっていただろう三人が渋々引き下がる。そこへ、体格に似合った大笑いをする者がいた。

「楽しそうじゃねぇか。俺は『倉田』ってんだ。肝試しに行くなら混ぜてくれよ」

「勿論大歓迎さ、人数は多いに越したことはないからね。ただ、肝試しではなく妖怪探しだからね。そこは間違えないでくれよ、倉田君」

「そうゆう事やからよろしゅうな、倉田君」

「おう」

「えっと、及川さんだっけ。よろしくね」

「こちらこそ」

笑顔で話しかける四人。なのだが、四人の周りにはダークな雰囲気が漂っている。

「……なんでだろう。黒いオーラが見える……」

「カナさん、気にする事はないさ。何故かボクにも見えてるからね」

「……実は俺も……」




-side 及川-

やっと……やっと若と姫の真正面から向かい合えました!今までは影から見守っていましたが中学校へ入学したら正体を明かしても良いとカラス天狗からのお墨付きを頂きましたし、これからは私が若と姫をお守りします!!


-side 倉田-

野良妖怪が居る筈の場所に若とお嬢、その友達だけで行かせる訳にはいかねぇからやや無理やり付いて来たはいいが、どうも嫌な予感がするぜ。アイツの話しじゃ若とお嬢は進んでこの妖怪探しに参加したらしいし、気を引き締めねぇとな。




しかし、悲しい事にその気合は無残にも粉々に砕かれることとなる。かくゆう当人達によって……




「此処が入口だ」

「へ~。見た目はボロボロだけど造りはしっかりしてるみたい」

「そうやね。んじゃ、探検を始めるで」

バタンッ---グチャ

「おいおい、リンネさん。そんなに勢いよくドアを開けないでくれ。校舎として使っていた分頑丈に造ってあると思うけど、十年以上も放置されていたんだ。何かの拍子で崩れたら大変だよ」

「そやね。ゴメンゴメン」

「……」

「ん?及川さん、どうかした?」

「いま何かが潰れる音しなかった?」

「気のせいじゃない」

「そうかな……」


-とある教室-

「よし、まずは此処を見てみよう」

「了解や」

「リン、さっきみたいに物を乱暴に扱わないでよ」

「余計なお世話や、リク兄!」

ドンッ---バタンッ---プチッ

「痛いな、急に押さないでよ。あ~あ、ロッカー倒しちゃったじゃないか」

「リク兄が焚きつけたんやろが」

「……」

「及川さん、どうしたの?」

「いや、また何かが潰れる音がした気が……」

「そうかい?ボクには何も聞こえなかったが。島君はどうだい」

「俺も何も聞こえなかったです。及川さんの気のせいじゃないでしょうか」

「そうなのかな……」


-理化準備室-

「次はここを見てみよう。但し、理科の授業で使う資料もあるから見間違えないように気をつけてくれよ」

「それって、この人体模型とか?」

「カナさん、こんな暗いところでそんな物を見つけたら普通は驚かないか?」

「カナは図太い神経をしてるんや。これくらいで驚かんよ」

「それって褒めてる?貶してる?」

「勿論、け……」

「言わせないわ!!」

ヒュン---ヒョイ---ドガッ---ドサ

「ふふん。うちに当てようなんぞ一年早いわ」

「リン、結構短くない?」

「やかましい!!」

ヒュン---ヒョイ---ドガッ---ドサ

「ちっ、上手く避けよったな」

「僕の動体視力、舐めないでよね」

「……」

「倉田君、腕組みして何を考えてるんだい」

「いや……物が床に落ちる音が変な気がしてな」

「何かにぶつかって変な音になってるんじゃないかな」

「その何かがよく分かんねぇから気になってんだよ」

「清継君、倉田君。此処には何もいないみたいだし、次行こう」

「そうだな。倉田君、行こう」

「あ、あぁ……」


そんなやり合いが何度か続いた時、流石に怪しいと気づいた倉田が近くにいた及川を肘で突つく。

≪何、どうかした?≫

≪なぁ、さっきから若達がしてる事があやしくねぇか?≫

≪そう?まぁ、変な音とかする気が……≫

≪もしかしたらだが、若達の行動は何か理由があるんじゃねぇか?≫

≪何かって何?≫

「それが分かんねぇから気になんだよ!」

「ちょっ、声が大きい!」

慌てて前方の五人を見る二人。皆が気付いていないのでホッとしてる二人だが、勿論バレバレだ。

≪そろそろエンディングに行こうか≫

リクオの呟きに親指を立てる四人。その表情に全員小悪魔のような笑みを浮かべていた。


-調理室-

「此処が最後かな?」

「そうみたいやね」

清継の言葉に同意するリンネ。それ以外の面々も頷いている。

「では、最後の探検だ!」

清継は勢いよく扉を開ける。そこには散乱した調理器具・ボロボロになった食器・何かを食べる妖怪達がいた。

「フム、何も無いみたいだね」

「そうですね」

「そうだね」

「そうやね」

「そうみたい」

「「「「「ちょっと待て!!」」」」」

清継の言葉に同意する島・リクオ・リンネ・カナ。最後の突っ込みは及川・倉田と何かを食べる妖怪達からだった。

「あそこに何かいるでしょ!?」

「そうだぜ。あれが妖怪じゃねぇのか!?」

「「「そうです。俺等が妖怪です!!」」」

等と叫ぶ及川と倉田。意外とノリがよい野良妖怪達の叫びも木霊するが、清継は首を振る。

「ボク等が見つけたいのはそいつ等みたいな野良妖怪ではなく、名のある妖怪なんだよ」

「「「「うんうん」」」」

「「は!?」」

清継の言葉に同意する四人と目を点にする二人。その様子に何かを喰っていた妖怪達がブチ切れた。

「んだとコラ!」

「野良妖怪舐めんじゃねぇぞ!!」

「人間如きがエッラそうにしてんじゃねぇぞ!!」

「では、人間じゃなければ偉そうにしても良いのかい」

「ア゛!!」

「妖怪の揚げ足取るんじゃねぇぞ」

「ボクは聞いているんだよ。人間じゃなくて妖怪だったら偉そうにしても良いのかい、とね」

「へ、妖怪で俺達より強かったらな」

清継の言葉を受けて更に激高する野良妖怪達。人外の者に凄まれているのに一歩も引かない清継に驚愕の目を向ける及川と倉田。しかし、更に続ける清継の言葉で開いた口が塞がらなくなる。

「だそうだ、リク君、リンさん」

「「!!?」」

その言葉を受けて一歩前に出るリクオとリンネ。因みに、島は下がってきた清継と共にカメラを構えており、カナはその瞳を潤ませている。この先、起こる何かに期待をしているかのように。

「おい、ガキ共。何のつもりだ」

「人間のガキが俺等と遣り合おうってか」

その声にようやく正気に戻る及川と倉田。しかし、二人が行動に移る事は無かった。否……移れなかった。

「リン、この人達誰に口聞いてんだろう」

「人間のうち等にやろ、リク兄」

「そうか……んじゃ、人間の時間は終わりだな」

「せやな。此処からは」

「「妖怪の時間だ」」

その瞬間、二人の姿が消えた。否、白い煙に包まれて二人の姿が見えなくなった。その煙が晴れた時、その場に居たのは---人間のリクオとリンネではなかった。

「誰!?」

「に、二代目!?」

及川と倉田の異なる声が響く。そして、その姿を目の当たりにした野良妖怪達が動きを止める。

「もう一度、聞いてもええか?」

その凛とした声は面妖且つ艶やかな女性から。その声に身体を震わす野良妖怪達。

「確か、てめぇらはこう言ったな」

その冷徹なる声は鋭い視線の男性から。冷たいが明らかに怒気を孕んでいるその声に心が折れかかる野良妖怪達。

「自分達より強い妖怪なら偉そうにしても良いって」

「「「ヒッ!!」」」

殺される。抵抗するまでも無く嬲り殺しに遭うと直感した野良妖怪達が腰を抜かす。先程の勢いは見る影も無い。

「リク兄、虐め過ぎやで」

「っと、そうだったぜ」

リンネの声に反応したリクオが自らが発する妖気を抑える。その瞬間、重苦しい雰囲気が一気に柔らかくなるのが分かる。

「いいか、てめぇら」

「「「は、はい!!」」」

「ここに住むのは勝手だ。だが、人様に迷惑をかけたら……その先は分かるな?」

「「「コクコク」」」

「じゃ、行ってもええで」

「「「し、失礼しました!!!」」」

我先に部屋から飛び出す野良妖怪達。

「アレだけ脅せば人間を襲う事はねぇな」

「リク、やっぱりカッコいい!!」

「カナ~、妖怪化する度にリク兄に飛びつくのええ加減やめや」

「リク~♪」

「完全に目が逝ってるな。暫くは戻ってこないぞ、コリャ」

「いやぁ、モテる男は苦労するね」

「そりゃ嫌味か、清継?」

「まさか。ボクの率直な意見だよ」

「それを嫌味って言いませんか、清継さん。あと、リクオにリンネさん、一枚いいですか?」

先程と何も変わらずに痴話話をする面々と、その様子を呆然と見る及川と倉田。その二人の事に気付いたリクオが近づく。片腕をカナに絡め取られているが無視を決め込んだようだ。

「おめぇら、つららに青だな?」

「え!?」

「き、気付いてたんですかい!?」

「お前らが俺とリンの護衛をし始めてからずっとな」

「うそ!?」

「本当よ、つららさん」

驚く及川に追い討ちをかけたのはカナだった。

「カナちゃん、正気に戻ったんなら腕を放してくれ」

「嫌よ。それと、私はいつも正気です」

「リク兄、カナ。話しが進まんで」

痴話話に発展しかけた二人を止めるリンネ。

「済まん、リン。二人とも話しを続けるぞ」

「その前に若、姫。お聞きしても宜しいですか?」

「なんだ」

「その、カナさんは置いておくとして後ろのお二方は若と姫の事はご存知なんですか」

「勿論。妖怪化も含めて知っているさ」

「なんたって俺達親友だもんな」

「と言う訳だ。他に何かあるか?」

「では、僭越ながら俺からも。その姿に変われるようになったのはいつからですかい」

「小学三年生の時やね。ほら、おそう帰った時があったやろ?」

「えぇ。確か学校の先生方の手伝いをした後、バスに乗り遅れたんで歩いて帰ってきたって」

「ホンマはガゴゼの馬鹿に襲われたんや」

「な!?」

「マジですかい!?お怪我は!?」

「無いさ。カナも気張ってくれたしな」

「別に私は何もしてないわよ。殆どリクとリンが倒したじゃない」

「妖怪一匹消し炭にしたやないか」

「それはリンから貰ったこの腕輪のおかげ」

「腕輪の力を使ったのはカナちゃんさ。その事に変わりはねぇよ」

「……ねぇ、青……」

「言うな。俺だって頭がいてぇ」

頭を抱える及川と倉田。その様子を見た清継が近づく。

「積もる話しもあるだろうが、こんな所でする事ではないんじゃないかな?」

「それもそうやね」

言外にそろそろ帰ろうと伝える清継。その意思を汲み取ったリンネが返事をし、この場はお開きになった。




リクオとリンネが妖怪化を解いた後、帰る方向が違う清継・島と分かれた面々は現在リクオとリンネの部屋にいた。護衛として今まで見守ってくれていた及川-つらら・倉田-青田坊に今まで黙っていた妖怪化の件を謝るためである。信頼されていないと拗ねたつららと青だが、リクオ・リンネ・カナから悪ふざけが過ぎたと真正面から謝られた事もあり和解した。

また、和解したタイミングに合わせて毛倡妓がお茶を、首無と黒田坊と河童がそれぞれ茶菓子を持参してそのまま親睦会に発展していった。

「ところで、一番聞きたい事を聞いても宜しいですか?」

つららがリクオ・リンネに向かって話す。いつの間にか現れて茶菓子を摘んでいるぬらりひょん以外がつららを見る。

「何?」

「もう隠すつもりは無いから何でも聞いたってや」

「では、お言葉に甘えて」

そう言って姿勢を正すつらら。その様子を見た面々が自然と緊張する。

「私がこんな事を聞くのもなんなんですが、お二人には総大将の血が四分の一流れています。しかし、残り四分の三は人間の血です」

「おいおい、それがなんだと……」

「青!」

「つらら、続けてくれ」

話しの腰を折ろうとした青田坊を黒田坊が諌め、首無がつららに話しの先を促す。

「無礼を承知で伺います。四分の一しか妖怪の血が流れていないお二人がこれからの人生を妖怪として生きていかれるのですか?」

その言葉の意味を理解した皆が気付く。総大将『ぬらりひょん』の血を受け継ぐリクオとリンネだが、半分以上は人間の血である。人として生活したいと思わない筈が無い。だが、自らの意思で妖怪化出来る二人を見た面々は二人が妖怪として生きていくだろうと勝手に思い込み、疑問を抱かなかったのだ。

「確かに、僕等が妖怪の力を受け入れてこの先の人生を歩むことを悩まなかったと言えば嘘になるね」

声がする方を向いた面々の目にリクオが首を竦めているのが映った。

「いい機会だし、おじいちゃん話してもいいかな?」

何でもない事を話すかのような口調で祖父であるぬらりひょんヘ問いかけるリクオ。

「それを決めるのはお前達だ。ワシが口を出すことじゃない」

「分かった」

お茶を啜りつつ返事を返すぬらりひょん。その言葉を受けてリクオはリンネの方を向く。

「リン、話してもいい?」

「さっき『隠すつもりは無いから何でも聞いて』って言ったから……いいよ」

「んじゃ、つららの疑問に答えるね」

兄弟の受け答えに若干の疑問が残った面々だが、リクオが皆の方に振り向いたのでその疑問を意識から遠ざける。

≪リン≫

≪ごめん、カナ……ありがとう≫

リンネの様子の変化を感じ取ったカナがそっと手を握る。その姿を隠すかのようにリクオが皆の前に出て話しを始める。




あの忌々しい事件の事を……




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あとがきという名の次回予告

次回、少々早いあの方の登場です。内容としては次の話しのみ単行本16巻へ飛びます。


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