九州のツキノワグマは絶滅したのか…?
昨年の夏だった。
北陸地方で講演があった際に、愛護団体に所属する聴講者から唐突な質問を受けた。
「九州での熊の絶滅を貴方はどう思いますか?」
「そんなの地元の人がきちんと見届ければいいことではないでしょうか」
ボクは、そう答えた。
質問はそれっきりとなったが、ボクは非常に不愉快な気持ちになった。
それは、北陸地方に生活している人間が、足元にもツキノワグマが生息しているのに、それを観察する術もまったくもたないまま九州地方のことを心配してどうする?、と思ったからだ。
観察する技術もなければ、行動もせずに、あまりにも身勝手な想像だけで野生動物のことを語りすぎる人間ばかりを見てきているから、実際「またかよぅ」とボクは辟易してしまった。
北陸地方から遠い九州のことを心配する前に、白山でも能登半島でもいいからツキノワグマがどのような動きをしているのかをまず知るのが、それぞれの地域に暮らす人のやることではないだろうか。
それができないのなら、九州へ移り住んで、「絶滅」の原因を探るくらいのことをしてもいいのではないか。
その上での質問なら、ボクだって耳も傾けよう。
そういうことなので、九州からツキノワグマが絶滅したというニュースが流れたとき、「ほんとうに調査をしているのだろうか?」と、ボクは多いに疑問を抱いた。
このようなニュースが流れると、まさに大本営発表のようになってしまうから、観察眼や技術のない人間ほど絶滅の二文字だけを信じ調査する気力さえ消えうせていくだろうとも思った。
なので、いつかは自分の目で九州の自然を見届けておきたいとも考えていた。
タイムリーなことについ先日、ちょうど鹿児島まで自分の車で出かける仕事ができた。
このため、ついでに九州地方の山並みだけでも見てみようと思った。
そこで、2週間ほどかけて福岡から鹿児島まで縦断してみたが、九州の山の深さ、大きさ、広さを改めて感じることができた。
これほどの山があるのに、どうしてツキノワグマが「いない」のだろうか、と疑問にも思った。
熊本県と宮崎県境あたりの山並みは非常に急峻で、まだまだ熊の生息地としては充分な環境があるではないか。
このような山容を見てしまうと、もしボクがここに暮らしていたら、あらゆる手段を使ってでもツキノワグマの痕跡を探るであろうと思った。
とくに、照葉樹林帯の熊は信州とは食性もかなり違っているだろうから、いろんな誘引物質を使って尻尾をつかむ努力もするだろう。
なので、九州でのツキノワグマは絶滅宣言を出す前に、まだまだ調査の方法があるのではないかと感じた。
それは、地元に暮らす人たちがきちんとした視線で地域の自然をどう捉えていくかというところにキーワードがあるからだ。
現地でいろんな人とも会話してきたが、
「九州には熊なんていない…」
そのような答えばかりが返ってきた。
「いない」という前に、貴方はどんな調査をしているのかと突っ込みたかった。
イノシシにしても、ニホンジカにしても、九州ではかなり増え続けているのに、将来に対する獣害などを視野にいれれば、地元の人たちの意識レベルは非常に低いと感じた。
いや、これは九州だけに限ったことではなく、日本中どこへいっても自然に対する意識レベルはこんなものだとボクは感じている。
たしかな視線をもって複眼発想をしながら行動を起こせば、黙して語らない自然界も必ず語りはじめる。
ボクはいつもそれを信じて行動を起こしている。
写真上:熊本から宮崎県境の山道は狭く急峻で、紀伊半島や南アルプスの山間地とも共通するものがあった。
写真中:集落の裏山にもいい環境があるが、どれだけ動物相が調べられていることだろうか?
写真下:シカ防護ネットの奥には、深く険しく雄大な山並みが続いていた。この防護ネットを撮影していたら、中にシカが入り込んでいて、ネットをひとっ跳びで飛び超えて奥の山林に消えた。関係者はまだまだ、野生動物の能力を甘くみているフシがある。
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ご無沙汰しております。
実を言うと私、出身が九州でありまして宮崎さんの指摘している
あたりは良くバイクで探索に出掛けてました、ガキの頃ですが‥。
それで思うのですが、最近本州の奥地で狩猟を始めてツクヅク感じる
のは、エリアは狭くても九州の方が山が濃いのですよね、特に九州の
神話の里あたりは険しい上に濃いのでまさに秘境と言った感じがして
いたのを思い出します。
前置きが長くなってしましましたが九州のクマの件、そう言う事で多
分数は少ないでしょうけど居ると思います。
もっとも本州のと違って人馴れしてないので姿を見せるミスは犯さ
ないでしょうけど、猟期中のクマと同じですね、違うのは通年警戒
モード、地元の人はたまに会ってると思いますが‥。
ただ地元の人は騒ぎになるのをいやがるので公にしないと思います。
それで思い出したのですが、私の知り合いが九州のとある山奥に伝わ
る伝統芸能が好きで、それを習う為そこに通っている内に地元の猟師
達と親しくなり、とんでもない秘密を教えて貰ったと言ってました、
だいぶ昔の話ですが。
ある生物の事だったらしいのですが、その時もぜったい口外するなと
言われて、その理由は世間に騒がれて自分達の生活がマスコミ等に乱
されるのを嫌がってとの事でした。
だから九州のクマの件も地元の人は知ってても黙ってると思います。
それからそのある生物ですが、その時は結局教えて貰えなかったので
すが、今から10年位前、どこかの校長先生が写真を撮ったと騒ぎにな
った時、自分では謎が解決したと思ってます。
以上長々すみませんでした。
コメント by いち猟師 — 2009/4/20 月曜日 @ 23:51:00
九州に熊はいないよ、とよく話して聞かされるのを「人前には出ないよ」と修正する必要があるかもしれませんが、3年間住んでみて、山中を車で走り回って見ていて感じることは、山奥まで立派に舗装された林道が縦横無尽に張り巡らされ、それに作業用林道が枝道になっていてどこでも車で走れます。そのような道に紛れ込むと、不思議なたたずまいの山奥の隠れ里があちこちにあって、平家の落人の子孫がまだ頑張っているのか、などと空想を楽しんでいます。
大分と宮崎の県境付近の山を巡ると、カワウソが絶滅したという話がウッソーではないかと思ったりしました。しかし、カワウソがまだ残っていてもおかしくないような秘境に誰でも簡単にアクセスできる、という重大な矛盾に悩まされています。私が億万長者だったら、カワウソ発見のための探検隊を組織して探しまくりたいところです。
コメント by beachmollusc — 2009/4/21 火曜日 @ 18:35:14
■いち猟師 さん
コメントが遅くなりました。
そうでしたか、九州出身でしたか。
九州では、ガキでもバイクに乗れるのですね!!
ボクも、最近バイクばかりに乗ってます。楽しい、デス。
■beachmollusc さん
ほんと、九州の奥地にはいい川がたくさんありますね。
カワウソがいてもおかしくないような、川。
億万長者は日本にもいるのでしょうが、自然界の調査にはなかなか金出してくれません。
コメント by gaku — 2009/5/2 土曜日 @ 21:55:47
はぁるかぶりです。ご無沙汰ですみません。
今はトラックの仕事をしておりまして、時々ですが九州にも行きます。
運転手がハンドル越しに見た感想をひとつ、、、
九州となると主に高速道路を走る事になるのですが、
八代辺りから都城辺りまでの景色は、伊那山地、特に遠山谷にそっくりですね。
初めて走った時は意味も無く感動してしまいました。
少し違うのは、植林された山がよく手入れされている事でしょうか。
4トン以下のトラックが日中に原木を運んでいるのも見かけますし、
小さな製材所も見かけます。小さな業者を含めて、林業が今でもいきているのでしょう。
熊がいないと言われるのは、余程の熊退治をしてきたからだと思っていました。
山へのアクセスが楽な事と、危険な動物がいない事、
林業行政と猟師の連携で山作業を安全にして来たのだろうと。
もし「熊がいるらしい、」となると制約を受ける業者が増えたり、
観光への影響を気にしているのかも知れないとも思いました、が、
最近は、もっと根深い理由があるのかと、思うようになりました。
(話しが飛びますが、、、
以前の植林政策盛んな頃、よく植樹祭なるものが行われていました。
小中学生や家族連れ、町の名士から政治家さんなども参加していた記憶があります。
そんなとき主催者は参加者にケガの無いように気を使うのでは無いでしょうか。
足場の確認、蜂の巣の退治、など、、、
一時期動物を見かけなくなったのは、木を植えたからではなくて、
木を植えるからだったのかもしれないと妄想してしまいました、、、)
とりとめも無くすみません。
コメント by m爺 — 2009/5/18 月曜日 @ 10:21:31
さっそく宮崎日々新聞に二件檻に入ったとの記事が出ていました。
さすがですね!
コメント by くまがい — 2009/5/27 水曜日 @ 12:24:34
追伸です・・・記事を読んですぐにコメントしてしまったのですが・・・。
後追いをして行たら・・・ややマユツバな感じもしています。
忘れてください。
コメント by くまがい — 2009/5/27 水曜日 @ 12:29:04
宮崎県高千穂町でクマを探して10年になります。
5月中旬に流れたクマ(?)情報は私が聞き取り調査を行った上で公表したものです。
私はもともと生物学者ですので推測でものを言うのは好みません。ですので、見た事も無いのに九州にクマがいるとは断言しません。目撃談の中には見間違いの疑いが濃厚な事例も多々あります。ただ、クマがいないとすると一体何なのか説明のつかない目撃談なども多くあるのも事実です。
先頃の情報については、クマだと言い切るには決め手に欠けましたが、地元ベテラン猟師らが「見た事の無い黒い獣」と証言している点を重視し、公表しました。
ご参考までに。
コメント by 栗原@高千穂 — 2009/5/28 木曜日 @ 20:58:56
ひさびさにクマ?情報2つ
少し前にクマ探し活動に復帰したばかりなのだが、不思議なもので直後にクマと疑われる
トラックバック by 高千穂日記(ブログ版) — 2009/5/28 木曜日 @ 21:09:02
■m爺さん
お久しぶりです、全国飛び回ってるようですが、充分お気をつけください。
九州、ほんとうに伊那谷とよく似たところがありますよね。
ボクも、思わず嬉しくなってしまいました。
先日は、ボクのフィールド(鍵のあるところ)まで来てくださったんですね?
おヒマなときに、ラーメンでも食べましょう。
■くまがいさん
さっそくにありがとうございます。
ガセなんでしょう、ね。たぶん。
■栗原@高千穂さん
10年も九州で熊を追っておられるのですか?
そして、いまだに「尻尾」がつかめないということは、熊は九州にいないのかもしれませんね。
それか、
「私はもともと生物学者ですので…」
だとすれば、よほど自然と対話する技術がないのか、どちらかだと思います。
ボクが、10年も九州にいれば完璧に答えをだしている、と思います。
夏には、また、そちらに出向きますので、少し山野を探ってみようと思っています。
コメント by gaku — 2009/5/30 土曜日 @ 11:37:21
28日の書込みに誤りがある事に気づきました。「10年」とありますが、「9年」の間違いでした。単純な勘違い・数え間違いでした。お詫びして訂正いたします。
本当にクマがいないのか、あるいは私にクマを見つける能がないのか、のどちらかだとするならば、後者であってほしいです。
実際、今の私にできることなどたかが知れています。写真家であれ研究者であれ、実績のある方が九州産クマ問題に関心を持っていただけるのなら大歓迎です。
コメント by 栗原@高千穂 — 2009/6/1 月曜日 @ 9:09:32