2011年8月22日 21時51分 更新:8月22日 22時5分
前週末の海外市場で円相場が1ドル=75円95銭と戦後最高値を付けたことを受け、菅直人首相や主要閣僚からは22日、円売り・ドル買いの為替介入をちらつかせる発言が相次いだ。集中的な口先介入により、同日の東京外為市場では介入警戒感が強まり、円が一時、77円台まで下落する場面もあった。ただ、市場では、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が26日に行う講演の内容次第では一段の円高が進むとの見方が強い。「口先介入」だけで市場をけん制する神経戦には限界があり、政府・日銀はいつ実際の介入に踏み切るか、手腕が試される。
「市場で投機的な動きがないか、これまで以上に注視し、必要な場合は断固として行動する覚悟だ」。菅首相は22日の参院本会議で、歴史的な円高に歯止めをかけるため、今月4日の4兆円を超す大規模な円売り介入に続き、再介入も辞さない意向を示した。野田佳彦財務相も「(急激な円高は)設備投資や雇用の停滞、企業の海外移転などを通じ経済成長の下押し要因となる」と改めて懸念を表明、介入を念頭に「あらゆる措置を排除しない」と強調した。
政府・日銀は、前週末以降、米欧の通貨当局と断続的に電話協議を実施。「現在の円高は経済実体を反映していない」との認識を伝えた模様だ。野田財務相は22日朝、記者団に対し「いろいろ情報交換していきたい」と述べ、再介入へ向けて各国に地ならしをしていることを示唆した。
一時は「民主党代表選など政局優先で円高に鈍感」とさえ見られていた菅首相や主要閣僚が口先介入に動き出したことで、市場の介入警戒感は高まった。しかし、「景気腰折れ懸念を抱える米欧は自らの輸出に有利に働くドル安やユーロ安是正に消極的」(国際金融筋)で、3月の東日本大震災直後の急激な円高局面を押し戻したような日米欧の協調介入は望めない状況だ。政府・日銀の残された手段は「市場の意表を突く形で大規模な円売りの単独介入を再び行うしかない」(同)が、タイミングは難しい。実際、4日の単独介入は1週間ももたずに、円高是正効果がはげ落ちた。
市場が注目するのが今週末のバーナンキFRB議長の講演。米景気の減速や株安を受けて「追加緩和を示唆する」との観測が強く、そうなれば「日米金利差縮小でドル売り・円買いが一気に加速し、円相場は1ドル=70円台前半まで急騰する」との見方もある。
政府の必死の「口先介入」の背景には、欧米との協調介入が困難な中、議長講演を前に単独介入のムダ打ちは避けながら、円高進行の流れに歯止めをかけたい狙いがある。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「議長講演が相場にどんな影響を及ぼすか読みにくく、政府・日銀はできれば実際の介入は講演後まで温存したいのではないか」と分析している。【谷川貴史、小倉祥徳】