1話
朝……それは新しい自分に光を注ぐ時間。春……一年の中で色鮮やかな温もりのある季節。始学期……あくまでも始まりであってけして貧血等で注目されるイベントではない。
ボクこと吉井アキはそんなことを考えながら文月学園まで歩いていた。途中の公園では桜の花が咲き誇り、風はどこか温もりを感じさせる。風が吹いたせいか腰まで届く髪がなびき、髪本来の香りが辺りに撒かれると共にスカートもなびく。これも季節の風流と思い、足のスペースを少し速める。すると風景が変わり、壁際もコンクリートからレンガの造りに変わる。レンガの壁に変わってから数分後には文月学園の看板が掲げられた門に着き、その後にはとても立派な学校がそびえ立つ。
この文月学園は他の学校とは違い、変わったシステムを採用しているためか、二年生に成ってから学習能力ごとに分かれていたりする。 ……ちなみにボクはこの春から二年生に成り、この変わったシステムを使う事ができる。そう思うと胸がとてもわくわくしてくる。その為かボクの表情が変るのが判り、玄関まで走る。と、
「吉井、遅刻だぞ」
後から声がかかり、振向くと門番をしていたのか先生の一人がそこに立っていた
「あ、てつじ......じゃなかった、西村先生おはようございます」
慌てて訂正するも西村先生は聞き逃してくれなかった。
「吉井、今鉄人と言おうとしたろ?」
「あ、アハハハハハハ、......すいません」
「......まあいい、ほら受け取れ、振り分け試験の結果表だ」
そう言って西村先生は懐から一通の封筒を出し、ボクに渡してくれる。
「あ、ありがとうございます。それにしてもどうして面倒なことでクラス編成を発表するんですか? 掲示板とかなら混雑があっても紙の節約になるし、一通一通渡す手間と時間が短縮出来ると思うんですけど」
「普通はそうするが、ウチの学校は最先端システムを導入された試験校だからな。この変ったやり方も一環だ」
なるほどと思い、渡された封筒を開けようとする。
「......吉井、今だから言うが俺はこの一年、お前を見てきて後悔していた」
え? と思い封筒から西村先生に顔を向ける
「一年前のお前はこの学校一の馬鹿だったが、ある日を境にお前は別人かと思う程に変った時、俺は真面目に生徒の悩みを聞くべきだった」
そー言う西村先生の顔は、どこか傍観した様な悔いる様な、なんとも形容し難いような表情を浮べている。
「......ボク自身はこれでいいと思っています。変に片意地張ってしまっては夢が遠のきますし、なにより勉強した方が今後のためにもなりますから」
そう言ってボクはまた封筒に目をけて、再び開けようとする。
「......そうだな、当時のお前はなにを迷っていたのかは俺は知らん。だからと言って過去ばかり見て反省しずきるのは間違いだったな」
封筒に気がいっていたせいか、少しうるさく感じながらも封筒を開けて中の結果表を出す。遅いとは思うがそれでも勉強に勤しんでいたのだから、当然Aクラスは確実だろうと思う。
「俺も決めたぞ吉井、ただ生徒の悩みを聞くだけじゃなく悩みを抱える生徒にしっかりアドバイスし、かつその悩みが解消できたのか確認して解消出来るような生活指導を目指そう」
もはや雑音しかならない声を無視して、ワクワクしながら結果表を見る。なにせAからFクラスの中でFクラスの整備が最悪なのは、今年3年生になった人から聞かされたのでそれは無いだろうと思い、紙を開く。
≪吉井明久...Fクラス≫
……もう一度結果表を見直すも、文字が変るはずも無い。予想もしなかった結果に泣きそうな思いが積もる。
「吉井」
そう思っていると、西村先生が夢を語るのを止めて此方を向いた。さすが腐っても生活指導の鬼だけあって、生徒に対しては俊敏な態度をとる。なかなか聞けない西村先生の励ましでも聞いて......
・・・・
「名前の記入漏れは0点扱いだ。だからちゃんと本名を書け吉井明久」
・・・・
......ボクこと吉井アキは本日はじめての涙を流した。
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