閑章 夏だ! 任務だ! サッカーだ!
第109弾 星伽巫女その2
第109弾 星伽巫女その2
静奈とキンジの単位不足、という重大な問題を抱えながらも、レインは今現在一人で任務についていた。
「……お前には案内の必要は無くないかな、アレックス?」
「連れねぇこと言うなよ、相棒。
お前とキンジしか頼れるやつが居ねぇんだっつうの」
赤い髪をかきむしりながら、漆黒の和服(!?)に身を包んだアレックスがそんな事を言うものだから、レインはため息をついた。
アレックスはニューヨーク出身の武偵であるため、案外と、日本文化が大好きなのだ。
実は、3/4日本人であるはずのレインも外国暮らしが長かったからか、転入当初は靴で部屋に上がってしまいキンジに怒られたのは懐かしい話だ。
「日本に来たからにはサムライとニンジャとミコサンを見ずには帰れねえ。あとスシとイタマエ」
「ああ、そう言う事なら、俺の知り合いの白雪って奴が巫女さんだよ」
「本当か!
良し、シラユキに会いに行くぜ!」
設備紹介をほったらかして、アレックスは顔も分からない白雪を探し始めた。
それに苦笑しながらついていくレインも、そう言えば巫女さんらしい姿を見ていないな、と(格好だけならジャンヌの時見ているが、作法やら何やらをあまり見たことが無かったのだ)僅かに期待に胸を膨らませるのだった。
「! いたぞレイ、ミコサン……シラユキだ!」
全力でダッシュするアレックスは、前方に明らかに巫女の服装をした少女を見つけた。
そこはレインとキンジの部屋の前であり、表札をじっと見つめ、何やら確認している様子だ。
時代劇でしか見ないような唐傘に、巫女装束を着た少女。
確かに、黒い長髪なのも白雪と似ていた。
が、この少女は白雪ではない、とレインは確信していた。
まず、背が幾らか小さい。
元々身長はそれほど高くは無かったが、目の前にいる少女はそれより一回り程低かった。
次に、目だ。
白雪はなんと言うか、おっとりした目をしているが、この少女の目は少し鋭い感じがする。
例えるなら、何かを警戒する仔犬のような……そんな感じだ。
と、その少女はこちらに気がついたようで、その鋭い視線をこちらに向けてきた。
「貴方方は?」
「いや、この部屋に住んでいる者なんだけど……」
とレインがたじろぎ気味に答えると、少女はまあっ! というように、目を丸くした。
「しっ、しばらく会わない内に、髪の毛を染めて不良になってしまわれるなんて……そんな身なりで普段からお姉様と一緒にいるなんて、見損ないました! 遠山様!」
……………………
「へ?」
しばしの沈黙の後、ようやくレインが発したのはそんな間の抜けた声だった。
「へっ、じゃありません!
大体、そちらの方も髪の毛が真っ赤です!
不良です!」
「あぁ? おいレイ、ミコサンってのはもっと淑やかなもんじゃねえのか?」
少女の言葉に苛立ったらしいアレックスが凶暴な面をちらつかせ始めた。
レインが深々とため息を吐く中、少女は懐に手を入れていた。
――短刀だな。
少女の腕の入れ方・筋肉の動き等から見てそう判断すると、レインは頭をかきながら幾つか少女に忠告してやる事にした。
「お嬢ちゃん、俺たちみたいなの相手に刃物を出すのは寧ろ危険だから、止めた方がいい。
後、俺は遠山 キンジじゃない。そこの表札の成瀬 レインハートだ」
レインの言葉を聞いた少女は、あわ、あわと、短刀を見破られた驚き、それを制された焦り、人違いだった羞恥から頭がパニックになっているようで、口から言葉が出てこないようだった。
隣でアレックスが「成る程、それで『懐刀』か」などと日本語の勉強に勤しんでいるのを放っておきながら、レインは目の前の少女に深呼吸を促し、落ち着かせる。
「大丈夫かい?」
「すー、はー、すー、はー……も、もう大丈夫です。
そちらの方も、先ほどは失礼しました。
私の名前は、ほと――」
「粉雪!?」
少女が落ち着いたところで、自身の名前を言おうとした時、背後から声が掛かった。
聞き覚えのある声。
振り返れば、そこには本来アレックスに紹介するはずだった『武装』巫女さん、星伽 白雪とレインが間違えられたもう一人のこの部屋の主、遠山 キンジの姿があった。
「へえ……妹さんだったのか」
白雪に聞いた話では、あの少女の名前は粉雪。
青森にあるという星伽神社からやって来た巫女さんで、武偵高を見学に来たらしい。
その元々の理由が、『武偵なんて職業をお姉様にさせ続ける訳にはいかない』とかなんとからしく、白雪は武偵高から離されるのを恐れ、キンジの単位が足りてないこともあって彼に案内の任務を頼んだとのことだ。
単位は0.3、つまりこれが終われば晴れてキンジの単位は残り0.7となる訳だ。
「へっ、大変だねぇ、東京武偵高は」
「お前もこれからここに通うんだぞ?」
「そりゃそうだっての。
まあ、今の内にコネ作っとくか」
コネ、という言葉で、レインはふと今朝あったメールを思い出す。
そう言えば用事があったんだなぁ、と朧気に考えながら、目の前でSSRの鳥居を興味深気に見詰めるアレックスの肩を、チョイチョイ、と叩いた。
「んだよ?」
「着いてこい。いいコネ、紹介してやるよ」
「どんな?」
「金次第で違法改造発明修理、ほぼ何でもしてくれる」
「乗った!」
簡単に落ちたアレックスだった。
装備科棟、地下。
その一室、B201作業室前に、二人は立っていた。
「んだぁ? このジメジメしたとこは?」
「お前も聞いた事ない?
アメリカから青田買いでスカウトが来た天才少女だよ」
「……この『ひらがあや』って奴か……名前だけなら、な」
アレックスが見詰める先には、平仮名で『ひらがあや』と書かれた看板があった。
小学生、否、幼稚園児か、とため息をつきながら、レインはそのドアを軽くノックした。
「開いてますのだー!」という声を確認し、レインはドアを開ける。
色々なものがごちゃごちゃしている中を進んでいくと、色素の薄い茶色、というかオレンジに近いボブカットの髪をした少女が、熱心に銃を弄っていた。
「おー! レイレイ君来ましたのだ! 後ろの方も外国人ですのだー!」
「アレックスだ。
二学期から転入予定だ」
「よろしくですのだー!
あ、レイレイ君、頼まれていたもの出来ますのだ」
言いながら彼女、平賀 文が取り出したのは……黒い靴だ。
端から見たらただの靴だが、かの平賀 源内の末裔である天才少女に、ただの靴を頼んだりはしない。
余談だが、彼女の仕事の報酬はぼったくりな値段なのだ。
だからSランククラスの実力があるのに、Aランクに格付けされてしまっている。
話が逸れたが、この靴、実は戦闘用で、様々な装備が取り付けられている。
例えば、足裏に鉄板が仕込んであったりとかだ。
もちろん、中には衝撃吸収素材なんかを使用しているから怪我の心配はない。
「レイレイ君、今でもビックリするくらい強いのに、どこまで強くなるつもりですのだー?」
とは平賀の言。
だが、レインは先日の海神との戦闘の件を思い出していた。
あの戦闘で、実は足にかなりのダメージを負っていたレインは、一週間松葉杖で歩いていた。
加えて、海神との戦闘では必殺の一撃となる攻撃が無く(といっても超能力が使えれば瞬殺だったが)、やはり超能力以外の必殺兵器も必要だ、と判断したのだ。
「名称は『影』ですのだ。
カッコいいですのだー!」
言われるがまま、レインはシャドウを履いた。
ズン……と、普段履いている靴よりかなり重い感触がする。
当然、そういう設計でありそう頼んだのは彼自身であるから、ある程度予想はついていたが。
「サンキュー、平賀さん。
アレックスも、金はちゃんと積むやつだから頼むよ」
「あいあいさーなのだ!
アレ君、武装関連で困った事があったら文ちゃんに任せるのだー」
「あ、アレ君?
ま、まぁいい……こっちこそ、頼むぜ」
平賀との挨拶も終わったらしいアレックスを連れて、レインは装備科棟を後にした。
静「109話にしてようやく平賀さん登場か」
ミ「新装備もかっくいいね〜」
綾「それにしても……二人ってやっぱし外人ぽいとこあるのね」
悠「アレックス先輩は純粋にアメリカ人ですよ、綾瀬先輩……」
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