第一話 プロローグ
昭和16年8月、大日本帝国は満州事変以来泥沼化した中国との事変を収拾する糸口が見つから無いまま、今度は中国の利権をめぐってアメリカ、イギリスと新たなる戦争に突入しようとしていた。
既に帝国海軍はハワイ真珠湾への攻撃作戦や台湾からフィリピンへの航空爆撃を行う準備を着々と行っており、帝国陸軍はマレー半島を始めとする蘭領インドネシア、英領シンガポール等の南方資源地帯攻略のための準備が行われていた。
そんな中、伊豆の下田にある実験艦隊司令部に海軍軍令部から出撃準備命令書が届けられていた。
帝国海軍実験艦隊とは伊豆の下田を母港として、航空母艦『輝龍』を旗艦とする艦艇で編成された艦隊である。
元々は新兵器の実験やワシントン、ロンドン海軍軍縮条約の隠れ蓑として民間にスクラップと称して売却し、民間に籍を置いた艦隊として整備されていたのだが、軍縮条約が失効すると、艦隊の存在意義が無くなり解隊するはずだったが日中戦争による軍事費の増大によって何とか命脈が保たれている状態であり、今もなお新兵器等のテストが行われていた。
この艦隊を動かす乗員は主に二等級の兵士から成り立っている。例えば兵士志願時に乙種、丙種と判断された者、前科持ちや何らかの問題行動を起こした兵士達である。
士官も海軍兵学校を落第寸前で卒業した者や新兵育成の名目で再収集された退役軍人ばかりである。
また、使用している艦艇や航空機は少数生産された実験品、または捕獲品ばかりでとても上から期待されていなかった。
そしてこの艦隊を率いるのは僅か25歳にして海軍少将の階級を持つ天崎俊介である。なぜ彼がこの若さで海軍少将になれたのかと言うと彼が持つ天性的な能力の持ち主であるからで例を上げると連合艦隊上層部に珍しい航空主兵主義者で、さらに今、建造している大和型戦艦の武装変更(主に対空兵装)や機動艦隊の増強、零式艦上戦闘機『零戦』の弱点である防弾装甲の無さや急降下速度の制限等を指摘し、その改良箇所を纏めた提案書を上層部に提出したのだが、当時の上層部に君臨する大艦巨砲主義者や古い頭しか持たない無知な者たちによって彼が提出した提案書を一蹴、そして彼自身を出世コースから外させ、期待等されていない実験艦隊の司令長官に左遷したのだ。
そんな問題だらけの実験艦隊だが、アメリカ、イギリス等に詳細どころか存在自体が全く漏れてないのだから驚きである。
これは市内の憲兵隊や特高警察による緘口令もあるのだが、艦隊司令長官である天崎が将兵に対して極力市民との融和を図るように協力していたからである。
なぜなら、二等級の実験艦隊に対する予算が最小限のため、出来る限り食糧等は自分達で確保しなければならない状態だから、市民の寄付もとい協力が実験艦隊にとっては生きるための生命線であり、それを確保するために天崎は将兵達に市民との融和を図ったのであった。
とにかくそんな実験艦隊司令部に珍しく艦隊軍令部から使いが命令書と共にやって来たのだった。
「こちらが海軍軍令部からの命令書です。ご確認ください」
佐藤と名乗った海軍中佐は天崎に命令書を手渡した。その動きに乱れは無くいかのもエリートと言う感じである。
「分かった。確認する」
そう言うと命令書を開封し、簡単に内容を確認する。
数分後、取り敢えず内容を把握し、命令書を閉じる。
「内容は確認したが、こちらに与えられる燃料は与えられるのか?それでなくともこちらは錬度不足が深刻だからな。そこら辺はどうなるのか?」
すると、佐藤中佐は顔色一つ変えずにこう言った。
「私はただ命令書を手渡す様に言われただけなので、質問については東京の海軍軍令部か、呉の連合艦隊司令部に出向いてください。では、私はこれで失礼します」
そう言って敬礼すると、まるでこの場から早く立ち去りたいと言わんばかりにそくさくと出て行ってしまった。
「チッ、海軍の役人どもがよ!何が海軍軍令部か連合艦隊司令部に出向いてだ!ふざけているだろ!」
佐藤中佐が帰った後、天崎は思わず怒鳴り散らしてしまった。
事実、稀にこの司令部にやってくる連中は必ずと言ってもいい程、天崎率いる実験艦隊を見下している様な感じを醸し出しているのだ。
「で、どうしますか司令殿?」
隣で話を聞いていた艦隊参謀長を務めている酒見優斗大佐が聞いてくる。
「どうするもこうするもこちらでは何もできない。出来る事と言えばこの命令書の内容を幹部に伝えるだけだ」
そう言うと腕時計を見て、立ちあがった。
「そろそろ『輝龍』行きのランチが出る時間だな。お前も行くであろう?」
「もちろんです司令」
二人は司令部を出て桟橋に向かう。すると桟橋には彼の言った通りに一隻のランチに水兵などが鮨詰めにして出港しようとしていた。
「あっ!し、司令官殿に敬礼ッ!」
ランチに乗っている将兵達は司令長官と参謀長を見て、一斉に敬礼する。そして立ちあがって席を譲ろうとする将兵もいた。
「いや、いい。俺はここの方がいいから」
将兵の気遣いを丁寧に断ると、二人は艦首に立ったと同時にランチは出港し、艦隊旗艦である『輝龍』へと向かった。
数分立つと、最初は小さくしか見えなかった航空母艦『輝龍』の姿が大きく見えてきた。
「フッ、何度見ても異様だな。あの航空母艦はな」
現旗艦である『輝龍』は確かに異様な艦容をしていた。例を上げれば艦橋と煙突が一体化したアイランド式艦橋、そして最大の特徴である左舷側に大きく張り出した飛行甲板と四基の艦上促進装置、所謂カタパルトの存在と、とても帝国海軍の艦艇とは思えない物であった。
事実、この艦艇はつい最近まで帝国海軍の艦艇では無かったのだから当たり前である。
この小説は『独立愚連艦隊』の影響を受けて投稿した小説です。多少内容が被りますがご了承ください。ではこれからも応援よろしくお願いします。
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